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『LADY 』 作者:夢幻花 彩 / 未分類 未分類
全角5173文字
容量10346 bytes
原稿用紙約17.05枚


 主よ、我を守りつがえ給え……






1 神父様と少女の話


−−この世界は神の御加護によって存在しています。皆さん、神を讃え敬いましょう。神はいつでも私たちを見ておられます。そして必ず私たちをお守りくださいます……
 男はいつもとさして代わり映えのしない台詞を情緒たっぷりに熱弁した。目の前には手を顔の前であわせ目をつむり自分の話に聞き入る人間たちが大勢いる。その事実は男に彼自身が“神”であるかのような錯覚に陥らせた。男は悦にいって含み笑いをもらした。
 
 男は“神父様”だった。

 男は説く。神は私たちをお守りくださる、神の教えを守れば救われる。いや、違う。男は思う。この輩は神に救われたのではない、自分に救われたのだと。決して口には出さない。男は説く、それでも男は説くのだ。その人間という獣の顔に、精一杯の偽善者の微笑を浮かべて。
 
 


 少女は、黒かった。
 これは日焼けしているとかそういう人種だとか、そういった事ではない。少女は鴉のように黒いぼろに身を包み、そのわりには艶やかでまるで手入れの行き届いた良家の娘のような髪。そして光を通さぬのではと不安になるようなやはり黒い瞳。
 少女は教会の階段に腰を下ろしていた。男は瞬時迷う。このまま立ち去ってしまおうか、優しく声をかけてやろうか。男は後者を選ぶより他なかった、なぜなら彼は心優しき“神父様”なのだから。
「そこの少女、どうしたのですか」
 男は尋ね、少女は顔を上げた。遠くから見ると単なる乞食に見えないこともなかったが、その少女の醸し出す空気は明らかにそんな低級なものではなかった。
「ご両親はいらっしゃらないのですか」
「私に親などいないわ」
 少女は口を開く。男はその馬鹿にするような物言いに面食らうが、気を取り直す。そう、この少女は自分が神父である事など知らない。だからこそこんな口が利けるのであって、もしここで自分が恩を売ってやったのなら他の人間のように自分を敬うようになるのは火を見るより明らかだ、
「おお、それでは一緒に暮らす人はいないのですね? −−ならば私のところへ来るがいい。遠慮はいりません。こうしてあなたと出遭った事も、すべては神の思召しなのですから」
 芝居がかった声で男は言い、少女は、
「構わないわ。あなたの好きなようにすればいい」
 素っ気無く、男は軽い憤りを感じないこともないが堪えた。俺は、神父なのだ。


-----------------------------------------------------------------


「神父様」
 男は顔を上げた。メイドの一人がそこに立っている。美人ではないが、割合に整った顔立ちをしている。そばかすがあるのが気になるが、肌の色は白いな。
「白い服が、黒く染まってしまいました」
 馬鹿なことを考えていて、ちゃんと聞いていなかった。なんだって?白い服が、
……黒くなっただと?
「白い服が、黒く染まってしまいました」
彼女は繰り返した。
「何かをこぼしたのですね?」
「いえ、」
妙なことを言った。

「一瞬目を離した隙に、色が変わっていたんです」
「……冗談はよしてください。何をこぼしたのですか」
しかし、それだけではなかった。

「夜な夜なあの少女の部屋から呪詛のようなものが聞こえるんですが、部屋を覗くと明かりは消えてちゃんと眠っているんです。確かに明かりが漏れていたのに」
「髪を切りそろえても一瞬目をそらすともうもとの長さに戻っているんです。確かに切ったのですが、それなのに切った分の髪までなくて……」
「食事に手をつけている様子がないんです。それなのに別段具合が悪い様でもありませんし」
「大した事じゃないのかもしれないのですが……笑ったところをついぞ見たことがありません。いつも無表情で……怖いくらいに」

 数日が過ぎると、口々にそう訴えるメイドたちに流石の男も少女に若干の不信感を覚え始めた。それは、男自身奇妙に思っていることがあるからだ。
 少女が初めて男の家に来た日、彼は少女の名前を尋ねた。
「ディス」
 少女は素っ気無く答えた。
「……もう一度尋ねます。あなたの名前はなんですか?」
「ディス」
 先ほどと同じ事をさらりと言ってのけ、男は狼狽する。ディス――死神だと?俺をからかってるのか?
「そんな名前をつける親などありません。本当の名前を教えて下さい」
「じゃあ、ゴット」
 少女はやはりどこか淡々としていた。
「私の名前は、『ゴット』」


 日増しに少女はその薄気味悪さを増していった。男はできるだけ気にしないように努める。が、男は耐えても実際問題として辞めていくメイドたちが後を絶たなくなった。男はそのうちに“魔女を匿う神父”とすら呼ばれ始め、誰も男の教えをまともに聞かなくなった。男は悩む。少女を追い出そうか?いや、無理だ。いっそ、殺してしまえば……そこまで思って男は頭を大きく振った。俺は何を考えている?俺は神父だ。そんなことは許されない。ああ、こんなことになるならどうしてあの時少女を拾ってしまったのだろう……




 耐えられなかった。限界、その言葉以外それを形容する言葉は見つからない。少女はそれほどまでに奇妙でしかなかった。物を食べず、笑わず、少女に与えた服、持ち物までも――ほんの一瞬目を離すと漆黒に染まっていた。……部屋さえも。少女に与えた白を基調とした内装の部屋は、いつの間にか黒い闇へと変化していた。
 その晩。
 男は歩いていた。暗い階段を上り、ランプの明かりだけでそこにたどり着く。部屋から薄明かりが漏れていて焦ったが、扉の隙間から部屋を覗くと明かりなどついていなかった。男はそれを訝しがる事すら忘れて、そのまま部屋へ入った。
 鍵は掛かっていなかった。
「……」
 少女は眠っていた。男は右手に握り締めていたものをじっと見つめる。ランプの仄かな光に鋭利な刃を持つそれは、きらきらと輝いて見えた。男は若干の躊躇いを感じることなくそれを一気にベットに突き立てた。
ぐさり。
 鈍い音がして、羽毛が舞う。赤い鮮血が飛び散った。その赤さは漆黒の闇を塗りつぶし、黒い部屋は赤い部屋と化した。
「な……」
 唖然として男は部屋を見渡した。そんな馬鹿な。部屋が、赤く染まっている。完全に赤く。ありえない。
 唐突に嫌な予感がした。本能が告げた。だめだ、見てはいけない。ミルナ。
――ミルナ。
 理性は対抗できなかった。男はゆっくりと首を動かして、少女を見た。

 赤い目と赤い髪を持つ赤い服を着た少女は、にっこりと微笑んだ。それはもう、神々しいほどに。初めて笑みを見せた。

 赤い少女は、詠った。

 世界が揺らぎ、幻に溶け込んでいく。男は、そのまま飲み込まれた。





「私の名前だっけ?本当のこと教えてあげる。私の名前は、“LADY”」
 “LADY”は詠うのをやめると、それに向かって呟いた。彼女の新しい宝物だった。


 黒真珠色のビー玉。黒い少女はそれをポケットにしまう。さて、次はどんな色の宝物を創ろうか。









 神よ、我に愛を……


2 高名な貴婦人と少女の話・前編


 女は振り向いた。

 そこに、少女が一人立っていた。

 女は内心いつもの事ながら驚きつつも表面ではいたって冷静に尋ねた。今日は何を持ってきたの。
 少女が相変わらず表情も変えずに懐から出したものは質素だが重厚な雰囲気を醸し出す宝石箱だった。女に渡すと自分はそっぽを向きへつらったりなどは決してない。
……まぁ、これもいつもの事なのだが。
 その質素な宝石箱を開けると、目を見はるような美しいルビーの輝きで女は目がくらみそうになる。その宝石箱の中にはルビーのネックレス、指輪、ブレスレット、ピアス……とさまざまな種類のルビーをあしらった物だけが入っていた。女は感嘆のあまりため息をつき、一つに通常ならつく値段の見積もりを出してみたいと思う。しかし彼女のあまり使われたことのない頭では叶うことはなく、ただその品々に見惚れながら、来週の慈善活動の寄付金集めの為の舞踏会でこの燃えるような赤の宝石を身につけ、同じく燃えるように赤いドレスを着た自分の姿を思い浮かべることしか出来なかった。
「このネックレスと指輪をいただくわ」
 少女は振り向き無造作に二つを取り出すと、宝石箱はまたその懐にしまわれた。そして少女は女が用意していた漆黒の服を二枚受け取る。女は何か言おうとして、それでも一瞬自分がたった今手に入れたばかりの宝石に目をやり、また少女の方を見た。
「……」
 そこには誰もいなかった。

 女はそのまま倒れこむようにしてソファーに腰をおろした。


 初めて少女が女の前に現れたのは、半年ほど前、この辺で人気のあった神父が失踪して間もない頃だった。その神父は魔女を匿っているというくだらない噂もあったが、仕事をやめたメイドたちの言うことなどやはり戯言に過ぎなかった。しかし神父が失踪したことで女は生きがいを失った。
 女には夫がいる。とは言え夫との関係は冷え切ったもので愛されている実感などない。昔は違った。夫は確かに自分を愛していて、私も夫を愛していた。しかし貴族同士の結婚などそのほとんどが政略結婚だ。それでも愛し合っているふりをしようとすれば、本当に愛し合って結婚したような気になれた。けれどそれは若かったからであって、今ではそれすらも疲れてしまっていたのだ。本当には愛していない。その事実は辛かったが、どうしようもなかった。
 そんな女にとって、唯一の生き甲斐があの神父の存在だった。女はあの神父がずっと好きだった。子供の頃から、ずっと。神父の存在を知ったのでさえ偶然、女が幼い頃身分を隠しこっそりと御付きの者を従えて街へ出掛けた時に乞食の死体を誰に頼まれること無く一人で埋葬している彼を見ただけというそれだけであって、しかし身分が低い者など人だとも思っていないような貴族たちの中にいた女にはひどく輝いて見えたのだった。けれど当時神学生だった彼と生まれた時から婚約者が決められている彼女では身分が違いすぎた。女は懸命にそれまで興味も抱かなかった教会へ通い神父になった彼の教えを聞くことしか出来なかったが、それでも幸せだった。私は孤独じゃない、他の貴族みたいに愛する対象もなく空虚な日々を過ごしてなんかいない。決してかなうことの無い恋でも、それは私を満たしてくれている。
 やがて女は信心深い女性として有名になった。女はその事を心から嬉しく思った。彼は私の存在に気づいてくれるかもしれない、私が一生懸命自分の教えを聞いているのだと気づいてくれるかもしれない、そして事によると私に話しかけてくれるかもしれない。実際には何も無くとも充実した日々が続いた。
 しかし突然神父は女の前から姿を消した。

 目の前が真っ暗になって、迷路の中に一人取り残されたかのようだった。たった一つの光を失い、どうすることも出来なくなった。
 そんな時に現れた少女だったからこそ、受け入れられたのかもしれない。



-------------------------------------------------------



「宝石」

 泣いていた女の耳に、高くて澄んだ、しかし独特な響きを持った少女のような声が響いた。顔を上げる。
「宝石、あげても良いわ」
「……あなた一体何処から……」
「私は宝石をあげても良いといっているの。それについての返答がほしいわ」
 漆黒の髪、そしてそれに同色の服。どこかあどけなさの残る顔立ちをしているのにもかかわらず氷のように凍てついた表情。そして光を通さないような瞳。雪のように白い肌の中、それらは恐ろしいくらいに美しくて、恐ろしかった。そんな少女が、女の前に確かに存在した。
「元はといえば私の責任でもあるわ。けれど私はあれを気に入っているの。だからその代用よ。宝石では駄目なの」
 理解できない台詞を淡々とした口調でただ事務的に言うと少女は女を見据えた。女は視線を逸らす。自分よりもずっと年下の少女なんかに威圧されているというのは理不尽な気がしたが、この少女は別格だった。身なりは質素だが、気品に満ちていた。そしてとにかく美しかった。
「……なにがあるの」
「今日の所はこれしかないわ。また持ってくるから」
「……え」
 少女の差し出した宝石箱の中には、見事なダイヤモンドが沢山煌めいていた。
「……いくらなの」
「これは一応お詫びのつもりなのよ。代償など考えなくていいわ」

 
 少女はそれから何度も現れて女に宝石を好きなだけ与えてくれた。




 


 これだけは、私を置いていかない……

 この宝石たちだけは……

 この宝石だけ、私を独りにしないの……



 女は宝石で埋め尽くされたテーブルを愛おしげに見つめ、にっこりと微笑んだ。
 
続く




2004/12/31(Fri)18:48:20 公開 / 夢幻花 彩
■この作品の著作権は夢幻花 彩さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
2話が思いのほか長くなってしまい前編と後編に分けるなどというとんでもないことをしでかしてしまいました(汗
苦労して書いてみたのですが、支離滅裂です(大汗
レスをいただければ嬉しいです☆
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