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『ある雪の日の話(短編集)』 作者:ささら / 未分類 未分類
全角6485文字
容量12970 bytes
原稿用紙約20.35枚
ある雪の日の話(短編集)





1 都会と呼ばれるまっすぐな果てしない線路の上で


 ある雪の日の事だ。
 雪が本降りになる前に、と仕事を早く降りた私は、家に帰る途中、道端でさめざめと泣いている子供を見かけた。それは、多分迷子なのだと思う。側を通る人たちは、子供の脇を通り過ぎる瞬間には、申し訳ないような、困ったような表情は浮かべるものの、それでも、一向に声をかける様子はない。
 その様子をじれったい気持ちで見つめながら、どうしてなんだろう、と僕はとても悲しくなる。
 都会の人は冷たいと言われる。何か、見えない重く冷たい物に追われているからだと。そして、それからはけして逃れることなどできはしないのに、それでも、それを振り払おうともがき続けている。
 何をそんなに焦っているんだろう。
 僕が子供の頃住んでいた福島県の田舎では、子供が無邪気な顔で走り寄ってくるだけで、みんな笑顔になり、嬉しそうに子供達にお菓子なんかを与えたりしていたものだ。そこでは、時間はゆっくりと流れ、鶏の高声と共に朝が始まり、空が低く感じられるほどに巨大な入道雲の下で温かい日を感じて、心踊るおいしそうな匂いと共に夕方がやってきて、そして喧騒や騒音にまみれない静かで穏やかな夜が訪れる。
 だけど、この町ではそれが既に失われてしまっている。
 毎日決められた時刻に決められたスケジュールをこなし、この狭くて暗い空の下で機械的に自分という役割を演じている。多くの人が不満を抱えながら、それでも、分かれ道のないまっすぐな線路から脱線しないように、それだけしか考えないで、線路を走り続けている。
 僕は、そんな生き方は嫌いだ。だから、好きなときに食べ、好きなときに寝て、好きなときに遊ぶ。僕は行き先が決まった電車になんか乗らない。大きくて広大な大海原を馳せる、でっかい船に乗っている。行き先は自由だ。宝物を探しに行くのもいい。時々、港に立ち寄って、仲間を増やしながら、でっかい夢に向かって走るのだ。それが、僕の誇りであり、信念でもある。
確かに、働かなければ生きてはいけない。だけど、そんなに急ぎ足になることはないと思う。だって、貴方たちは、たった一歩であんなにも遠くまで進んでいける足を持っているのだから。
 そんな事を考えながら、僕は静かに子供のそばに歩み寄った。
 周囲からは僕に対して何か期待するような視線が飛んでくる。
 それは、子供の事は気になるが、それでもそれ以上は踏み込まないという意思表示。
 我思う、故に我ありと有名な言葉があるが、この人達にとっては、我関せず、故に我ありなのだろう。自分達の理不尽は声を大にして主張するが、だからといって、他人の理不尽な事に関係する必然はないのだと言いたいのだ。
 それは、この人たちの責任ではない。
 彼らは、抗う事の出来ない大きな存在に、都会と呼ばれる何とも交わる事のない果てしないまっすぐな線路の上で、いまだに見えない終点を夢見ながら、そして、いつか自分の電車が脱線するかもしれないという事に怯えながら、走り続ける事を強制されてしまっているのだから。
 だけど、僕はそんな貴方たちは嫌いだ。
「あの、ぼく、どうかしたのかな?」
 僕が恐る恐る尋ねると、子供は、しゃくり上げながら、それでも顔をあげて僕を見た。その顔は透き通るように白い。
 子供は消え入るような小さな声で、
「お母さんとはぐれちゃったの」
 とつぶやいた。
「君のお母さんの名前は?」
「……タマ」
 そう言って、子供は、またニャー、ニャーと泣いた。


              



2 聖なる日の霞がかった月の輝く夜の下で


 ある雪の日の事だ。
 雪が本降りになる前に、と仕事を早く降りた私は、家に帰る途中、道端でさめざめと泣いている少年を見かけた。まだひどく幼い。
 今日はクリスマスイブである。本来、今頃の時刻になれば、どこの家も家族みんなでクリスマスパーティーなどをやっているはずなのに、少年が都会の真ん中で、一人ひどく悲しそうに打ちひしがれている様子は、独身で家に帰っても待ち人のいない独り身の僕の心を強く打つものがあった。
 僕は、恐る恐る少年に近づき、そして声をかけてみた。
「どうしたの? 迷子にでもなったのかい?」
 一旦、泣き声が止まった。
 少年は注意してみなければ気づかないほど小さく首を振り、
「……お父さんを待っているの」
 とこれまた、小さな声で呟いた。
「お父さん?」
「でも、ずっと帰ってこないの。多分、今日は帰れないかもしれないって。今日は急な仕事が入ったからって。風邪で人手がたりなくなったから、自分も行かなくちゃならないって……。一緒にクリスマスパーティをやろうって約束したのに……」
 そう言って、また大きな声で泣き始める。
 仕事が入ってしまったから。何だか胸に刺さる言葉である。自分の身にも覚えがある。あれは、小学校の運動会の日の事だ。僕がリレーの選抜選手に選ばれたからって、だから、絶対応援に来てねって、そう父さんと約束した。なのに、運動会当日になって、父さんは急な大事な接待が入ったからって、でも、リレーには間に合うようにするからって、言っていた。でも、リレーが始まっても、僕が途中で転んでバトンを落としてしまっても、そのせいで僕のクラスが優勝を逃してしまっても、最後まで、結局運動会には来なかった。それは、僕の中に父さんに対する深い傷跡を残した。昔から、多分、今でも。
「僕は、絶対にあんなふうにならないぞって誓ったんだけどな」
 泣いている少年の横で、僕は天を見上げながら小さな声でつぶやいた。
 思えば、妻と離婚したのも、子供が僕の事を大嫌いといって僕の下を去っていったのも、僕があいつの運動会に、急な仕事で行けなくなってしまったのが始まりだったような気がする。そして、そのことに対して確かに言い訳してしまった自分がいた。こどもの日の僕は、あの時抱いた、どうしようもないぐらいの大きな悲しみは、ちっぽけな虚栄心と、飾り立てられた勘違いなプライドの中に溶けていってしまっていた。この、空から降り注ぐ雪が、積もることなく都会というもの悲しい熱気に溶けてしまうように。
 聖なる日の霞がかった月の輝く夜の下で、
「僕も同じだ。僕も、お父さんを待っている」
 僕は少年に向かってつぶやいた。
「一緒にお父さん待とうか?」
 少年に問いかけると、少年は少し迷って、そして小さく頷いた。
 舞い落ちる雪の中、二つの影法師が並んでいる。
「ところで、君のお父さんって何の仕事しているの?」
「……サンタクロース」
 少年は、空を見上げて空気よりも大分白い息を吐き出しながらつぶやいた。






3 もしも、空から雪が降ってきたら


 ある雪の日の事だ。
 雪が降ること自体、この地方では珍しく、そしてそれが本降りであるならなおさらである。そのせいで、足元はおぼつかなく、もう既に何回も転んだ。僕は、空に向かって愚痴をこぼしながら、友達の家に遊びに行った帰り道、見たいテレビに間に合わなくなるからと、いつもより近道を通ることにした。それは、もう使われなくなった古い廃工場を通過する道である。
 辺りは既に暗くなっていて、月の光の当たらない廃工場の中に入ってしまうと、一寸先もほとんど何も見えない。だけど、別段、恐怖は感じない。何故ならば、ここは僕が今よりもずっと、幼かった時に良く遊んだ場所である。大きくなった今でこそ、テレビゲームなどに夢中になって、冬に家の外になど出て遊ぶなんて事はほとんど無くなってしまったが、それでも、見慣れた廃工場の中は懐かしい匂いがあった。
 僕が、しばらく歩いていると、闇の置く深くに一筋の光が差し込んでいることに気づいた。僕は、時間は気になるが、それでも不審に思ってその光の方へ近づいてみた。
「誰かいるのか?」
 僕は光っている空間に向かって呼びかけてみた。返事は何も返らない。
 僕は、好奇心半分。嫌な予感が半分で、さらに光に近づいてみる。
 一瞬光で目がつぶれるかと思った。それくらいに光は強烈に瞬いた。
 やがて視界が開けると、
「やあ、君も秘密基地に来たんだね」
 そこには、少年が笑顔で佇んでいた。何だか知った顔だ、と僕は思う。近所に住んでいる子供だろうか、でも喉にとげが刺さったように、あと少しのところで名前が思い出せない。
「君は誰だ? こんなところで何をしている?」
 僕は、何かにまくし立てられるように、奇妙な既視感を感じながら少年に問いかける。
 少年は、何故だか分からないがくすくす笑った後、
「雪だるまを作ってるんだよ」
 と楽しそうにつぶやく。
「雪だるま? 建物の中で?」
 僕は怪訝そうな顔をした。
「建物の中だって、雪だるまは作れるだろ? 雪がこんなにあるんだから」
 そう言って向けられた少年の視界の先には確かに雪がこんもりと積みあがっている。
「お前が持ってきたのか?」
「僕一人じゃないよ。みんなが手伝ってくれたんだ」
 そう少年が言った後、いつの間に現れたのだろうか、少年隣に少年よりもさらに少し幼い少年が立っている。
「僕達は、これを完成させなければならないんだ」
 少し幼い少年は、何だか寂しそうな顔でつぶやいた。そして、
「それが約束だからね」
「約束?」
 僕は尋ねる。
「そう、約束。僕たちはね、ここに、雪だるまの国を作るんだ」
「雪だるまの国?」
 僕は問い返す。
「そう。近所のみっちゃんと約束したんだ。この廃工場を埋め尽くすぐらいにたくさんの雪だるまを作ったら、僕と恋人になってくれるって」
 あれ、と僕は思う。何だか、その言葉に、僕はまた妙な既視感を覚えた。
「だから、君も手伝ってくれないか? 人手は多いほうがいいし。それに、君もこれからやることがなくて暇なんだろう?」
「僕が暇? どういう事だ?」
 僕は少し不快な表情で問いかける。
「あれ? 違うのかい? 君は、これからやる事がないんだろう? だから、そんなものを背中に背負っているんだろう?」
「君は、何を言ってるんだ?」
 そう言い放った刹那、僕は背中に、どすり、と重い物がのしかかった。
 なんだ!?
 僕は首を曲げて背中を見ると、そこには大きな雪かき用のスコップがある。いつの間に、こんなものを背中に背負ったのか、僕の背筋に冷たいものが走った。
「お前らは何者なんだ!! 僕をどうする気だ!!」
 急に怖くなって、僕は少年に向かって叫んだ。少年は僕が何を言っているのか分からないような表情で、
「ねえ、手伝ってくれるんでしょう? だったら、そのスコップで早く雪をかき集めてよ。君にはもうやることはないんだよ? それならせめて雪だるまを作ってよ」
 とあくまで楽しそうに笑う。
「違う!! 僕は……」
 何故か、その次の言葉が出てこなくなった。
 僕にはやることがある、と言えるのか?
 その様子を見ていた少年が、僕の方に向かって小さく息を吹きかけるような仕草をすると、
 何故か、その瞬間、空から雹が降ってきたかのように僕の気持ちは悲しみで覆われた。
 眼を閉じて、振り返ってみると今まで胸を張って生きてきたとは言いがたい自分の人生。家に帰っても誰もいない。そして、これからもずっと。何も変わらない毎日。そこには達成感は生まれず、ただ喪失していくだけの日々。ただ終わりを待つだけの日々。それならば、いっそ、何か一つでもやり遂げるべきではないのか? そう、例えば雪だるまを完成させるような……。
 僕がスコップに手を伸ばして、その柄に指先が触れようかと言う瞬間、急に僕の背中が軽くなった気がした。
 驚いて振り返ると、
「君は……」
 そこには、静寂をたたえるように穏やかに佇んでいる少女がいた。その顔には穏やかな笑みを浮かべながら、懐かしい丸いくりくりとした瞳で、それでも責めるように僕を見つめている。
 そして、少女は僕の手をつかんだまま僕の方を見て無言のまま小さく首を振った。
 僕はそのすごく懐かしい少しぽっちゃりとした顔を見つめながら、
「君は、誰だ? とても懐かしいんだけど、思い出せないんだ!! だけど、君の顔を見ていると、心臓をえぐられるような痛みが僕の心に走る!! 切なくて、そして悲しいんだ!!」
 と感情のままに叫ぶ。
 少女は答える代わりに、静かに僕のしわくちゃの手を自分の手で包み込んだ。
 その指先から、何か温かくてやわらかいものが流れ込んでくる気がした。
 そのぬくもりに少しの戸惑いを感じながら、
「これは……、そうか…君は……」
 僕は静かに、眼を閉じた。
 瞼の裏に流れ込んでくるどこか心地よい情景に身を任せながら、そして、僕の心は遠い記憶の旅へと馳せて行った。
 それは、確かに僕の中に残っていたもの。お世辞にも綺麗とは呼べないけれど、確かに光り輝いているもの。
 再び目を開けて、その少女の顔を見て、何か、大切なものを取り戻したような気がして、自然と涙が溢れた。嬉しくて、そして切ない。
「ねえ。手伝ってよぉ」
 僕の背中かから、少年のなおも楽しそうな顔のまま猫なで声が聞こえた。
 僕はその声の方へ向き直って、
「君は頑張ってる。約束を守ろうと、必死になって、あの一週間頑張ったんだ」
 記憶を探るように、気持ちが溢れそうになるのを抑えながら、言葉をつなげた、
「でもね。僕には分かってるんだ。みっちゃんは、あの時、交通事故で死んじゃったんだよ。もうここにはいない。それでね、僕は、雪だるまを作るのを止めて、春になって、その雪だるまは解けてしまうんだ。どうして僕は忘れていたのかな。僕は、あんなに一生懸命だったのに……」
 少年は、僕のいっていることが聞こえていないのか、無表情のまま僕の方をじっと見つめている。
「で、どうなの? 君は雪だるまを作るのを手伝ってくれるの? くれないの?」
 その声は、何重にもダブっていた。ふと気がついて、周りを見ると、僕の周囲を輪になって囲むように何十人もの人影が覆いかぶさっている。
 その顔を一人一人見ながら、僕は思った。
 あれは、幼稚園の頃の僕だ。
 そして、
 小学生の僕。
 中学生の僕。
 高校生の僕。
 大学生の僕。
 そして、就職したての新人の僕。
 係長になった僕。
 部長になった僕。
 定年で退職した僕。
 今の僕。
 ああ、今分かった。僕が見ているのは……。
「……僕はまだ、手伝えない」
 そう一言つぶやいた瞬間、僕の視界を再びカメラのフラッシュのような閃光が包んだ。


「じいさん、大丈夫か?」
 僕は青年に手をつかまれ、引っ張りあげられた。
 動悸が落ち着いて来るのを感じながら、ぼやける視界を周囲に向けると、どうやら、僕は道を歩いている途中、貧血か何かで倒れてしまったらしい。
 目の前にはかつては廃工場があった場所の七階建てのテナントビルが聳え立っている。
 狐に化かされたような気持ちで、そのビルを見上げていると、
「じいさん、年なんだから気をつけなくちゃ駄目だよ」
 青年が、呆れた表情で、苦笑交じりに僕に向かってつぶやいた。
 ああ、そうか。と僕は気づく。何となく、納得した。僕のバックには、大量の睡眠薬が入っている。自分が何をしようとしたのかを思い出した。そして、何となく可笑しくなった。僕は、選択を迫られたのだ、と。
 僕は、視線を空に向ける。曇った灰色の空は、今にでも雨を呼んできそうだ。
 雪ではなくて、雨。
 地球温暖化の影響で、もうこの地には多分永遠に雪は降らないという。
 でも、と僕は思う、それでも、もしも、奇跡が起こって空から雪が降ってきたら、大きな雪だるまを作りたい。何個も作るのはもう無理だけど、たった一つ、僕の思いを空に向けて。あの、懐かしい記憶から途切れることなく続いているあの空に向けて。
 七十四歳の冬。この年になって、テレビゲームが趣味なやくざな僕だけど、僕はこれからも生きていきます。




2004/12/05(Sun)15:21:27 公開 / ささら
■この作品の著作権はささらさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読み下さりありがとうございました。前回のリベンジを兼ねて、冬の作品を、新たに投稿させていただきました。三話連続の短編集であります。相変わらず、稚拙ですが、お読みいただき感想をいただけたら嬉しいです。それでは。
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