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『生きるということ 【読み切り】』 作者:ねやふみ / 未分類 未分類
全角1907文字
容量3814 bytes
原稿用紙約5.9枚

「全軍、突撃! にっくき隣国の連中を食い散らせ!」
 総大将の声と共に、兵隊が突撃を開始した。兵隊は次々と隣国に侵入し、手近な勤務中の連中を片っ端から殺戮し始めた。
「逃げろ! 隣国が攻めてきたぞ!」
 そのうちに攻められていた方からも兵隊が繰り出され、ものの十分もしない内に凄まじい白兵戦に突入した。
 そして、その渦中に私がいた。
 私はただ、敵に襲われないように逃げ回るだけだった。
「なぜだ?」
 私は自問した。
「なぜ、隣国を攻撃して奪わなければならないのか?」
 簡単なことだった。すでに私の国では過密すぎて、もはや他が住むことができないのだ。しかし聖なる母により、次々に新しい子供は生まれてくる。そうした危機を脱するためには食料が必要でそのために隣国の土地が必要なのだった。
 「腐った奴らを叩きのめすのだ!」
 私の友人が狂ったように声を上げながら側を行き過ぎた。腐っている? 奴らが? 腐っているのは隣国を奪おうとしている我々ではないのか?
 そしてすぐ向こうでは敵方の兵隊が喚いていた。
「薄汚い侵略者どもをブチ殺してやれ!」
 違う! 我々はもう住むところがないんだ! 新しく生まれてくる子供を養うにはこれしか方法がないんだ!
 そんな私を取り残して、周りの連中は敵味方関係なく死んでいき、数が少なくなってきた。
「おい、お前さっきから戦闘に参加してないじゃないか」
 側に知らない少尉がいた。左手が血だらけで重傷を負っているらしかった。
「私は、どうして戦わなければならないのかわからないのです」
「何をバカなことを言っている。貴様は聖なる母が兵隊になるようにと腹を痛めて産んでくださったことを忘れたのか? 俺たちは聖なる母が決めた職を全うしなければならない。貴様は兵隊になったらそう生きなければならない。そこに迷う必要性はないんだ。わかったか」
 そういって少尉は足を引きずりながら残っている敵の一味に食いかかっていった。
 私はどうしてよいかわからず、数少なくなってきた敵から逃げるように努めた。

 そして夜を迎えた。私は洞穴に身を隠した。隣国との戦闘は夕暮れに一端、休止された。洞穴の外はいたって静かで虫の鳴き声しか聞こえなかった。
 私は洞穴の中でうとうとしていると目の前に眩しく輝く一人の女性が現れた。
「母上!」
 私は突然現れた聖なる母の前に跪いた。
「この愚かな私に道を説いてください。私は何のために生まれ、何をなさねばならないのでしょうか」
 聖なる母は優しい口調で言った。
「あなたは私が与えた兵役をこなさなくてはならないわ」
 私は絶句した。あの優しき母の言葉が氷の様に冷たいとは思いもしなかった。
「でもね、それはあなたの体が他の私の子供より頑丈にできているからよ」
 私は息をのんだ。
「本当のことをいうとあなたが何のために生まれ、何をすべきなのかなんて誰にもわからないのよ。それはあなたが決めていいことだから。重要なのは生まれついて帯びた使命を果たす事じゃない、自分が今何をすべきか知ること。そうすれば、迷う必要はないわ」
 私は暫くうつむいていたが、静かに口を開いた。
「私は迷っています。我々は新しい食料が必要なために隣国を侵略しようとし、隣国はそうされまいと必死に抵抗を試みます。一体正しいのはどちらなのでしょう」
「どちらも正しくてどちらも正しくないわ。私たちは生きなければならないの。生きてその子供がまた生きて子供を産む。その子供がまた生きる。その繰り返し。その途中には他の種と戦わなければならないこともあるわ。そういう状況に陥ってしまったのは悲しいことだけど、そうすることでより強い種が残れるようになっているのよ。私たちを産んだ大地はそれを望んでるから。さぁもう質問は終わり。後は自分で考えて答えを出してみてね」
 そういって聖なる母は姿を消した。後には薄ぼんやりとした霧が残った。
 私は考えた。聖なる母の言葉は結局ただの言い訳でしかないような気がする。もしかしたら戦う者同士がどちらが正しいなんて誰にもわからないのかも知れない。
 でも私は今、生きている。聖なる母から何も受け付けない鋼鉄の体を授かっている。そして、新たに生まれてくる子供は食料がなくお腹を空かしているのだ。
 何をすべきか私はもう迷わなかった。私は洞穴の外から真夜中の荒野を見下ろした。風が草をなでて通りすぎていく。
 戦おう。この体をもって。我々の未来を救うのだ。一匹のオオグロアリとして。



Fin
2004/11/02(Tue)02:25:14 公開 / ねやふみ
■この作品の著作権はねやふみさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
みなさん、お久しぶりです。
とは言っても殆どの方は見覚えないでしょうが。(笑)
他の方々の作品に触発されて一発書いてみました。
読みにくく、堅苦しいショートショートは相変わらずです(笑)
では作品の指摘、批評をお願いします。
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