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『女神の転所為1−3話(続き物)』 作者:水守 泉 / 未分類 未分類
全角14248.5文字
容量28497 bytes
原稿用紙約46枚
『女神の転所為−OH!MY  GODDESS!−』

私の特徴を言うなら
別段何かの取り柄があるわけでもなく。
スポーツが好きだとか、本が好きだとか、ゲームが好きだとか
 そういった趣味のようなものも特に無く。
 運が良くもなく、悪くもなくと。平凡と言えば平凡な人間で。
 多分、ずっとこんなもので高校生活も終わらせて、大学行った後は女だし一応子供産んで年をとっていくんだろうなと思っていた。
・・・昨日まで

 朝起きると、何故か机の上に飼育箱が置かれていた。
 親が置いたのだろうかと中を覗いてみると、中にはネズミがいた。
 しかも、ハムスターとかハツカネズミとかスナネズミといった、鑑賞にも適したタイプではなく。ドブネズミと呼ばれるネズミである。
「・・・何これ?」
別にネズミ程度で驚く程、小心者でもないけどあまり直視したくないのも確かである。
ネズミ取りってわけでもないし、ひょっとすると誰かの嫌がらせだろうかとも考えるが、泥棒なら物くらい取るだろう。
「・・・・・・」
 じーっと見つめながら尻尾が毛なくて気持ち悪いなと考えていると、ふとネズミと目があった。
 視線を合わせる事、3秒
「初めまして♪」
喋った
「・・・ふう、夢だったのね。さ、起きよう」
 どうやら眠りながら見ている夢のようだ、その割に視覚は随分はっきりしているがこんなものかなと結論づけて布団へ戻る。
「ちょ、ちょっと。現実にそぐわないからって逃避しないでよっ!」
「うっさい、ネズミが喋る時点で私の世界から否定されてるのよ」
「昨今のネズミは喋るように進化したの、えへ♪」
「・・・確か今日は燃えるゴミの火だったかな」
「きゃー!やめてー!捨てられるー!殺されるー!犯されるー!食べられるー!」
「うっるさぁぁぁぁい!しかも一部違うから!」
 とりあえず、これは現実らしい。
 こいつは喋るネズミで私はすでに起きているようだ。
「まぁ、話だけでも聞いてよ。損はさせませんぜゲヘヘヘ」
「どこの悪徳商人の台詞なのよ、それ」
「え?最近、流行ってるんじゃないの?よく下がれ、下がれ。この印籠がーってものでやってるじゃない」
どうやら最近のネズミは小生意気にテレビを見るらしい、限定されているみたいだけど。
「あぁ、何でネズミなのに喋ってしかも私の部屋にいるんだろう?とか思ってる?」
「そうね、その前にどうやって処理しようかしら?とか考えてるわ」
「まぁまぁ落ち着いて話を聞いてよ。実は私はねネズミの姿してるんだけど・・・」
「ネズミでしょ?」
「だからー、私はネズミじゃないのよ」
「へー」
「うわ、某ボタンがあったら押しそうな勢いの適当さ」
「ネズミじゃないの、しかも可愛くないし。永眠させて上げるから次は可愛く生まれ変わりなさい」
「そこで昆虫採集セットとか出しちゃいやーん」
「ネズミが可愛く言っても通じないから安心してね」
 にっこりと微笑みながら注射器に麻酔を入れていく、とりあえず異物は排除するのが基本である。
「でも、私を殺すと。あなた不幸になるよ?」
 は?一体、何を言ってるのかこのネズミは。なんで私が不幸になると言うのだろう。
「どういうこと?」
「実は私はあなたを担当してる運命の神様なのっ!」
「・・・とりあえず、現実味離れた現状から見ても更におかしいよ、この馬鹿信じれるか呆けネズミ。って言っていいかな?」
「うわ、自己矛盾。喋りながら進行系で頭おかしくなってる」
「喋る精神破滅系のネズミに言われたくないわよ」
「大丈夫よ、貴女も大差ないから。だって私が受け持ってるんだもん」
「へー・・・じゃあ今すぐ担当変えてきなさい。それだけでこっから帰っていいから」
「えへへ、実はね。偉い方の神様から昨日までの貴女は私の影響少なくて、仕事してないんじゃないかって疑われたもんだから。私が身を挺して人間の意識では薄汚い厄介者のドブネズミに転生して来たってわけなのよ」
「じゃあ、その調子でサボって変わって頂戴。平凡な人生で十分よ、私は」
「ええぇぇぇー!そしたら私がクビじゃん!あぁお家にはお腹を空かせた弟と妹が、よよよ」
 どっから取り出したのか器用に両手で小さなハンカチを取り出して泣き始めた・・・しかし、よく見るとチラチラとこちらを伺っている。
 しかし、確かに私のせいで(?)クビになるというのも可哀想な話である。
 とりあえず、事情だけでも聞いてみよう。
「結局、クビにならないために何をするのよ?」
 途端に顔を輝かせて(多分)こちらに振り向いたネズミ(?)が勢いよく喋り始めた。
「ようはねー私が受け持っている事を偉い方の神様がわかればいいのよ」
「なに?演技でもすればいいの?」
「甘い甘い。そんな事したって運命を見るんだから変化がなかったらバレバレなのよ」
 じゃあ、何をすれば良いのだろうか?運命を見られるのでは現時点でもダメなのでは?
「だからね、貴女が私の影響を受けて運命を変えれば、万事解決ってわけ」
「具体的にどういうことなの?」
「んー・・・とりあえず、貴女の運命を見ると。高校卒業後に大学入って、成績が中の上くらい。そこで知り合った男性と付き合って。その後就職、交際して5 年目に結婚して女の子が一人産まれるので会社を一度やめるでしょ。面倒だから省くけどようはふつーの運命よふつーの」
「何の問題も無いと思うんだけど・・・」
「ふっふっふ、そこが素人さんの甘い所なのよ」
・・・素人というか、何も知らないんだから素人以前な気もするけどね。
「私が受け持つ運命は波瀾万丈なのよっ!」
「帰れ(0.1秒)」
「うっわ、即答。ちょっとー酷くなーい?」
「うっさい。何よ波瀾万丈って。そんな失敗したらどん底で成功したら金持ちみたいなギャンブラー精神なんて私はいらないわよ」
「えー楽しいのに」
「楽しくないわよっ!」
 何て、冗談だ。平凡な人生で十分だと言うのに、こんな阿呆女神が私の担当だったなんて。さっさと帰ってもらって担当でも何でも良いから別の運命に変えてもらいたい。
「でもー、次の運命はどうなるかわからないのよ?だったらわかってる私の方がいいじゃない♪」
「次の運命の方が多分私には上等と思うので却下」
「いやいや、それがね。今、他の人の運命を受け持ってない女神は『どん底』『強盗』『麻薬中毒』『アル中』『毒殺』『保険金詐欺』なのよ」
「ちょっと待ちなさい、何?そのどれを選んでも平凡じゃないどころかマイナス修正される運命は」
「だって同じ運命の人はダメなんだもん」
「どう足掻いても、私の運命は波瀾万丈なのね・・・」
 こうなったら、方法は一つだ。今まで影響されてないのならこれからも影響されなければいいんだ。それしかない、うん。
「あ、そうだ。忘れてたけど」
「何?」
「私の影響出なくて、私がクビになったらさっき言った女神のどれかが担当するよ?」
・・・どうやら、逃げ道は皆無らしい。さようなら、昨日までの私。こんにちわ、波瀾万丈な私。
「なんで、こんな事に・・・」
「まぁまぁ、万事任せておきなさいって♪」
「任せれるわけないーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
 こうやって、私の第二の人生は始まった。
・・・
・・

「なんでこうなるのよ・・・」



-----------------------------------------------------------------------
『女神の災来〜Are  you kidding?〜』

 時間ってのはホント酷いと思う。ここで大地震が起きたって他の場所じゃ至って普通に生活してる人達はいるし、朝が来て夜も来る、お腹も空くし眠くもなる。
 どう足掻いても起きた状況は変えれないし、何だかんだで時間が経てば変化を求められる。
 そう、例えば自分の運命が阿呆みたいな女神に変えられたとしても、だ。
・・・
・・

 とりあえず、今日の予定としては。
 この朝っぱらから起こった次元のずれた出来事で鬱々とした気持ちを整える為に、軽い気持ちでウィンドウショッピングでもしながら気分転換でも図ろうと思っていたわけで。
 まぁ、カバンの隙間から顔を出してる自称女神とかいうネズミがいなければもっと良かったけれど、この際妥協も必要だと今日知った。
「ねぇ」
「うん?」
「実はこれ夢で。起きると至って普通の休日が来るとかない?」
「ないよ」
 絶望的だ、何で普通に人生送るだけで満足してた私がこんな状況に巻き込まれるのかこの場で偉い方の神様とやらに問いつめたい、それが出来るなら魂売れるよ。で、結局何が起きてるのかって言えば簡単な話で。
「お、おいっ! 何をブツブツ言ってるんだ! は、早く鞄に金を入れろ!」
 何で、お金をおろしに来ただけなのに銀行強盗までセットでお得みたいに来るのか尋ねたい。むしろ波瀾万丈ってコレなわけ?
 とりあえず、この事態が阿呆ネズミのせいなのは確定。
「ちょっと〜そんな事ないわよ。これはきっと貴女の日頃の行いを改めるようにって神様からの試練ね!」
「勝手に人の心を先読みして妄想してんじゃないわよっ!というか何で一番遠くにいた私なわけ?もっと近い人いるんだからそっちにやらせればいいのよ」
「いや〜運命って恐いね」
「・・・あんたが私の担当でしょうが」
 えへ♪とか言ってるのでこれ以上頭がおかしくなる前に話を切ろう。さっさとお金を詰めて渡せば私の仕事は終わりなんだから。
「あぁ・・・ついに悪事に手を染めるのね」
 誰の所為でこんな運命になったと思ってるのか言いたいのを堪えて、とりあえず自分で持てる分を鞄に入れて机の上にドンッと置いた。
 これで、強盗が逃げれば後は私の知ったことじゃない。警察に捕まろうと逃げ切ろうとどうでもいい話なんだから。この非日常から抜け出せるならやり方なんて気にしない。
「よ、よし。じゃあそ、それを持ってくるんだっ!」
何か音がしたような気がしたが、頭で考えるよりも先に体は勝手に動いて行動していた。
机の上にある鞄を無造作に掴み放り投げると、強盗から5m程度の場所にドスンと落ちた。
「・・・拾え」
途端に周りの空気が固まった、地面に伏せてこちらを見ていた人達全員がゴクリと唾を飲み込むような表情で瞬きもせずに強盗とこちらを見ている。
「な、何いって」
「黙れ、さっさと拾え。そしたら帰れ」
「顔恐いよ・・・大丈夫?」
「何のこと?私、今とっても良い気分なのよ。笑って自分を押さえないとやってらんないってくらいに」
「は、はははやまらずに行こうか。人生長いんだからここで無茶しちゃダメだよ?ほら、よくあるじゃないPTプレイは『命を大事に』ね?ね?」
何を言ってるのか、私は至って冷静なのに。
「お、お前これがみ、見えないのか持ってくるんだよ! さっさとしろ!」
さっきから手に持っている物なら最初から見てて最早珍しくも何ともない。他人事のように冷えた自分が表情一つ変えずに見ている今の自分には子供が玩具を出して威張っているようにしか見えない。
「・・・で?拳銃がどうかしたわけ?」
「どうかしたって・・・死ぬんだぞ! 撃たれたら死んじまうぞっ!」
「ふうん? それで? 撃って私を殺してどうするの? 晴れて殺人犯にでもランクアップ? お金も盗れずに刑務所行き確定? なっさけない、人殺すだけの度胸があるんなら強盗なんてせずに働けばいいじゃない、馬鹿じゃないの?」
ネズミのいる方からうわっ、言っちゃった。とか聞こえたが無視して強盗を見る。何故か伏せている人達が私を見た途端に目を逸らしたが気のせいに違いない。だって、こんなに落ち着いてるのに目を逸らす理由はないはず。
 なんて考えていたら呆然としていた強盗が途端に勢いよく喋りだした。
「お、オレだってなぁ! こんな事したいわけじゃないんだ! 大人になると責任ってのが出るんだよ! まだ子供のお前にその辛さがわかるのかよぉ!」
 鬱屈していたものが出たのか。随分と感情的に喋り始めた強盗を見ながら唾が飛ぶとやだなと思い、少しだけ横にずれたがそれも気づかない程に興奮してるらしい。構わず喋っている。
「借金で住んでいた家も何もかも無くなって、悩んで悩んだ末にこうなったんだ! そんなつらさがわかるか!」
「黙れ、そんなのわかるつもりもわかりたくもない。さっさとここから出て怯えながら暮らしなさい」
は?と間の抜けた声で強盗が勢いを無くしたのか先ほどと変わって気の抜けた表情になった。
「何?お金欲しいんでしょ?そこにあるじゃない、人がせっかく詰めたんだから持ってけば?」
「あ、あ・・・止めないのか?」
「はぁ?何で私が止めなきゃいけないのよ。止めるのは警察、わかる?けーさつなの」
「その警察だけど・・・」
 何かくすぐったいと思ったら背中の方からネズミが顔を出して服についてるフードに隠れながら耳打ちしてきた。一応、出る前に洗ったから気にはならないけど後で尻尾を天井にでも結んでおこう。
「外にいるよ?」
 途端に拡声器の声が周りに響いた。
『あー、犯人に告ぐー。お前は包囲されてるー。大人しく出るならいいが、出ないなら強行突破も考えているー。むしろ出なくていいぞー、最近事件少なくて血の気多い奴いるからなー』
なんかとんでもないこと言ってるが現実はドラマと違うと聞くし、多分こんなものだろう。
「違うんじゃないかなぁ・・・」
「いいのよ、さっさと終わらせてくれるならどうだって」
「なんか人間性が崩れてない?」
「成長っていいなさい」
 とか話をしていたらいきなり横から袖を捕まれて引っ張られた。何事かと思って周りを見ようとすると首の方に手が回っており、頭に冷たい感触がゴツリと突きつけられている。
「く、くそ! こうなったのも全部お前のせいだ! こうなったらお前を人質に逃げてやる!」
「無駄なんじゃないの?強行突破する気満々みたいよ?」
 窓から外を見るとすでに屈伸運動や筋を伸ばしている警官らしき人達がいる。体格がなぜかアメフト選手のような人達ばかりで隅の方には生肉を囓りながら作戦でも練っているのか何か紙らしき物を指さしながら三人くらいが相談している。
「うるせぇ!さっさと鞄を持ちやがれ!」
「はいはい」
 よっこいしょと鞄を持ち上げて下の方に左手を添えて両手で抱えるように持つ。しゃがんだ際にフードで落ちそーとか聞こえたが落ちてないので気にしないでおこう。
「とりあえず、驚いてみない?」
 誰に言うでもなく、そう呟く。不信に思ったのか強盗が何の話だと聞いてきた。が、言う必要は無い。とりあえず、準備として左手も鞄の持ち手を右手と一緒に掴んだ。
「なんか外で張り切ってる人達来たら怪我しそうなのよね。手軽に終わらせるに越したことはないんだから、少し手伝いなさい」
「だから、何のこと言ってんだ!」
「こゆこと」
 強盗の声に重なるようにフードから飛び出したネズミが強盗の顔に飛びついて返事をする。途端に強盗が声にならない叫び声をあげながら慌てながら数歩後ろに下がった。
「じゃ、飛び降りないと怪我するわよ」
 そう言って体を捻りながら一歩だけ後ろに踏み込んで勢いをつけたまま鞄を振る。グエッと蛙か何かが潰れたような声と一緒に強盗を見ると腹部に当たったらしくお腹を押さえてうずくまっていた。そのまま、体勢を整えて死なないように、と祈りながら思いっきり背中を鞄で打ちつけた。


 その後の展開は単純に終わった。やけに鼻息荒く飛び込んできた警察が正面玄関に体当たりボンバーを喰らわせて叩き割った後、割れたガラスで怪我をした警察を踏み越えて第二波が飛び込み犯人確保ー!とか叫びながら何故か犯人を胴上げしていた。
 事情聴取の時に聞いてみたら、皆色々あってね・・・と遠い目をされてしまいそれで納得する事になった。その内、お手柄として表彰されるかもしれないと言われたがその時は断っておこう・・・断れたら、だけど。
「これで晴れて貴女も私の仲間入りね!」
・・・
・・

「・・・あ!?」


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『女神の運迷〜Fall  Down me?〜(上)』 

何だかんだで銀行強盗に会った日(初めてネズミが来た日からとも言える)から一ヶ月が過ぎた。
その間は平穏でネズミが喋るとかって非日常も徐々に慣れてきた(ネズミは最初から気にしてなかったじゃないなんて言ってたが)。とりあえず三日前から夏休みに突入しておりゴロゴロと自室で寝そべりながら過ごしていたりするのだが。だらけてるなー、なんて思いつつも何かしようとか思わないので惰眠を貪りつつ何をするわけでもなくのんびりと過ごしていた、のだが。
「外いこーよーぉー」
そんな一言から朝が始まった。
「ねぇ、いこうよ〜」
・・・む、ネズミが何か言ってる。
何て言うか。せっかくの休みに何でネズミを連れて外にいかないといけないのかってのもあるし。第一、ネズミが外行って何をするのかが疑問である。
「・・・一人でいけばいいじゃない」
「えー、ネズミがどうやって遊ぶのよー」
なら、私が行けば遊べるのかと問いたいが言えば会話続行となるのでネズミと反対側に寝返りをうって読みかけの本に手を伸ばす。
パラパラとページを捲って読んでない辺りを見つけ半分以上怪しい感じに読んでみるも後ろからの抗議の声はやまない。
「ちょっとー、せっかくなんだから外いこうよー。どうせ両親も旅行じゃないの」
「それと何の関係あるのよ」
「だって家にいるばかりだと暇じゃない?」
「暇じゃないから家にいるのよ」
「うぅぅぅ〜」
ちなみに両親は夏休みが始まる五日ほど前に母が「今年はアフリカね!」なんて言いながらお茶を飲んでいた父の目の前に往復の飛行機代、滞在費、見る場所をピックアップした地図を出して相談を始めたのだ。
私は計算外らしく両親二人だけの旅行になっていたが、何故アフリカなのかと尋ねたら「ペットにライオンって楽しそうじゃない?」と返答されたのでそれ以上は何も言わなかった。ちなみに去年は恐山のイタコに学ぶ108の人生ツアーとか銘打って一週間不在だった。
いっそ、今回戻ってこないでくれるとかなり嬉しい。いや、マジで。
子供は親を選べないってのがヒシヒシと感じれる家庭ってどうなんだろう、放任とかで裁判に持っていったら生活保障とかされないだろうかと少し真面目に考えてみる。
「・・・ねー」
そんな事を考えてたら横からネズミの声で現実に引き戻された。
「ズバッと言って良い?」
「は?何を?」
「多分、9割方外に行こうと思える言葉」
「へー、面白いじゃない。それで動こうと思えなかったら次回以降、外行くときもあなたは自宅謹慎ね」
「うん、いいよ」
大した自信みたいなのでちょっと不安になるが行きたくなっても出なければいいのだ。そうすればネズミを家に置くこともできるし。
「三日前のお風呂上がり」
ん?・・・何の話だろう出ることがお風呂上がりに関係するのだろうか?
「五分くらい体重計乗るなら最初から考えた方がいいんじゃないかなぁ〜?」
!?
「・・・あ、あっ、あなた!」
「確か新聞のチラシに隣町のプールが新しく出来たとかで今日までは無料だったんだよね〜」
「うっ・・・く!こ、このいつのまにっ」
「いくなら今日がいいと思うにゃ〜♪」
くーーーーーーッ!勝ち誇ってわざとらしく変な口調にしてるし、いつのまに見られたのよ!最近、ちょっとまずいかなーなんて思ってたけどさ!実際1kgくらい増えてたし、けどまさかネズミに見られてるなんて思わなかったわ!
「いかにゃいのかなぁ〜?」
「・・・い、いくわよ!私だってそろそろ出ようかなって思ってたんだからっ!」
「はいはい、そう言う事にしとこうね」
ムカツクーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!



で、結局約束というか。行く気になったら連れていくという事だったので薄めの長袖に紺のジーパンを履いて腰につけたポシェットの中にネズミと財布入れてショルダーバックに水着とタオルを入れて来てみたわけだけど。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・何この人だかりは」
「シーズンだから」
「・・・歩く隙間なさそうなんだけど」
「無料だもんねぇ」
「・・・帰る!」
「えぇぇぇー、せっかくここまできたのに〜」
「うっさい!何よこの人の山は!目の前にいるだけで100人はいるんじゃないのこれ!」
「それは言えてるねぇ・・・泳げるのかな?この人数収容して」
「知らない、それにどっかのビーチみたいに泳ごうとして人にぶつかるなんて環境は嫌よ私は」
「まぁそれもそだね。でも、そうなるとどこで遊ぼうか?」
問題はそこである。せっかく水着まで持ってきたのに泳げないと言うのも癪なのは確かにあるし。
というか何があるからこんなに人がいるのだろう。今時ウォータースライダーや波のあるプールじゃ珍しくないのに、やっぱり無料だからだろうか。
「そうそう、プールのチラシこっそりカバンに入れておいたよ」
いつのまに・・・と思いつつカバンを開けて中を見てみる。
「あ、これね。ふむ?・・・・・・・・・・・・・・・・いや本気?」
「・・・・・・・・・どうなんだろう」
赤と黒という何て言うか見た目にも痛そうなチラシには中央に大きな字でこう書いてあった。
『歓迎!飛び降りダイブ!高さ50mから紐無しであなたも墜ちてみませんか!』
そしてその下には見えるか微妙な大きさで
『*プールの深さは10mありますので泳ぎに自信の無い方、心臓の弱い方、人生これからな人達はやめておくようにして下さい。万が一が起きても責任は負いません』
「・・・さっきから聞こえる叫び声はそれなのね。墜ちるって誤字じゃないみたいだし」
「でも、これってプールの注意で落ちる事は除外されてんね」
耳をすませなくても聞こえてくるのはただの喧噪かと思ったが実際はプールへと墜ちてる人達のようだ。目を凝らすと赤中心の水着を着た、ヒゲの生えているオジサンが「マンマミーヤー」とか叫びながら墜ちてるのが辛うじて見えた。そんな、オジサンを見ながらポシェットから顔を出したネズミがボソリと。
「きっとコインが欲しいのね」
「100枚集めたらキノコ一個と交換、って何の話よ!」
「知ってるくせに〜」
無視しよう。
「とりあえず無理そうだし別の所探すわよ」
「えぇーーーーーーーーーーーーおーもーしーろーそーなのにー」
「入るのは私よ、足も私なんだから悔しかったらネズミの身を後悔しなさい激しく擬音を付けて」
「ショボーン!!!!!!」
「却下」
「ショボーン・・・」
拗ねたようにポシェットに退散するネズミを放って置いて目の前の光景をもう一度見てみる。
相変わらず行列は続いており最後尾を示すプラカードを持った従業員は目の前である、プラカードはめくれるようになってるらしく先ほど60分待ちだったのが75分待ちになっていて人の多さを物語っている、そもそも入場するだけなのに何でこんな時間かかってるのか疑問になるわけだけど、聞けばわかるかな。
「すいません、ちょっといいですか?」
目の前の従業員に声をかけてみると振り向いた相手は軽そうな男性で帽子の下から覗く髪は茶色に染まっていた。従業員は暑さを堪えながら営業スマイルでこちらを見ると丁寧な口調で尋ねてきた、のだが疲れが端々に見えるのは気のせいではあるまい。
「はい?なんでしょうか」
「この行列ってチケット買う以外に何かあるからなんですか?」
すると相手は何も言わずに一枚の紙を出してきた。
「言うより早いですから」
嫌な予感がビシバシするけどまぁ予感は予感だし・・・・・・は?
『飛び込みバンジー契約書』
『死んでも自己責任、以上』
「・・・ってなによこれ!」
バシィと地面に叩き付けると風に煽られてヒラヒラと競馬場の万馬券みたいに哀愁を漂わせながら人混みの中へと契約書が消えていった。それを見て、少し落ち着いてから従業員に聞いてみる。
「あれって、なに?」
「何って死んでも自己責任っていう約束のための契約書。皆、ここまでは来るけど迷うらしくてサインに時間かかってるんですよ」
「・・・あ、そう。ありがと」
頭を押さえながら片手をヒラヒラと振って会話をうち切ると、会話中に並んでいたらしく従業員は私の後ろ10人目くらいの所まで歩いて再びプラカードを掲げ始めた。
「どっちにしろ動けない感じ」
ポシェットから顔を出したネズミの呟きに応じて周りを見ると確かに身動きがとれない程に人がいてここから出るだけで体力を使いそうだ。
「はぁ・・・まぁ入ってもやらなければいいだけね」
「それじゃ決まり〜♪」
やけに楽しそうなネズミの声が聞こえたが入って何をするんだろうかという疑問は日差しの暑さに消えていった。
・・・というかこれから一時間も待つわけ?なんて事を考えるだけでもの凄く帰りたくなってくるわね・・・。



そんなわけで一時間後



「よっし、それじゃおよごー!早く着替えてよ!」
「ちょっと待ちなさいよ!何かもの凄い手抜きされてない!?」
「表現の自由なのよ♪」
なんだろう・・・もの凄く納得いかないようないくような・・・でも、まぁ・・・いいのかなぁ?
「というかちょっとそこのネズミ」
「ん?なにかな?」
「あんたどーやって泳ぐのよ。プールにネズミが泳いでたらそれだけで捨てられるわよ」
「あっはっは」
「・・・何がおかしいのかな?」
尻尾をつまんで空中でブラブラとしながらヒゲを引っ張ってみたりしてストレートに感情を表現すると察してくれたのか
「きゃーセクハラよ!そんなにマジマジと見ちゃいやーん」
「・・・@トイレに流す Aとりあえず全力投球 B飛び込み台から直下。好きなの選んでいいわよ?」
「ぜ、全部死ぬかもしれないじゃない!」
何を今更言ってるのやら。
心の中で呟きながらも周りの目を多少気にしてロッカーの中に放り込んで財布から100円を出して準備をする。
「こらこら、私を置いてどこにいくのさ」
「プールなんだから泳ぎに行くに決まってるじゃない」
「え----------------わーたーしーはー?」
「常識的に考えてネズミ連れてプールに入る様な馬鹿はいないってわかってる?」
「じゃ、あの人達は何さー」
あの人達?直感で不安がこみ上げてくるもののネズミの指してる方向を見てみる。
「ワンワン」
「それじゃペティちゃん一緒に行きましょうね」
座敷犬サイズの犬を抱いた中年に差し掛かったくらいの年齢の女性がそんな事を言ってプールに向かっていくのが見えてしまった。
「・・・」
「・・・」
「何よアレ」
「犬連れたおばさん」
「えぇ、そうね。私の言いたい事は。なんで 犬を連れた おばさんが プールに いるのか って事よ」
「ペットプールってのがあるからに決まってるじゃない」
「あるの?」
「あるの」
「なんで?」
「世界初目指してるんだって」
「どこの暇人なのよ・・・」
「きっとビ○ゲ○ツって人に間違いないね!」
何やらやばそうな人物名を出してるがいよいよをもって置いていく事は不可のようだ。このネズミ実はこの辺まで計算に入れてたんではないだろうか・・・怪しすぎる・・・。
「ふう・・・仕方ないわね。せっかくだし入れて上げるわよ」
「じゃあせっかくだから50mバンジーもしようよっ!」
「いいわよ」
「え?ホント?」
にこやかに微笑んだ表情を崩さずに二秒ほど黙ってると何やらネズミが後ずさりしながら焦り始めてきた。
「あの〜・・・何を考えてるのかな?」
おそるおそるといった具合で聞いてくるものだからついつい正直に
「落とすに決まってるじゃない」
「何を?」
「ネズミを」
「どこから?」
「50mの飛び込み台から」
「あなたは?」
「このパンフ、キャンセルOKって書いてるのよね」
だらだらと汗(?)を流しながらネズミが首を左右に振って嫌々といった感じにしてるのを無視して右手で掴み飛び込み台へと向かう。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!まだ死にたくないー!助けてぇぇぇぇぇーーーー!」
女神様とやらも死ぬ事あるんだろうか、と素朴な疑問を思い浮かべながら気分が高揚してるな、と考えつつ順番が回ってくるのをネズミの口を押さえながら待つことにした。



「それでは次の方どうぞー」
100人ほど並んでいたように見えたが待ち時間は思ったよりも短く30分くらいで自分の前の人が出番になった。
階段を登っている最中に暴れているネズミを押さえながら下を見ると、時折白衣を着た人たちが落ちた人(墜ちた?)を連れて行ったのはきっと係員か何かだろう。
「20秒以内に挑戦しない場合はリタイヤと見なしますのでご了承下さいー」
そう言われて焦ったのか、前にいた人が思いきって飛び込み台から前へと飛んだ。
一瞬だけ体が宙に浮いたかと思うとそこからは慣性の法則に従って下へと落下していく。
少しの静寂の後、ザバーンなどといった緩い音ではなく、ドッパァァァァァン!!と滝が落ちたような爆音がこちらまで響き、音を聞く度にネズミがガタガタと震えている。
「それでは次の方ー」
自分の番がついに来て(ネズミの番とも言えるが)飛び込み台へと進む・・・が、その前に
「すいません、ちょっと物落としますけど良いですか?」
と聞いてみる。
「水の上ならいいですよ」
そんな馬鹿なーッ!と手の中でネズミが藻掻いてるがありがとう、とお礼を言って飛び込み台へ進んだ。
試しに下を覗き込むと軽くフラッときた・・・確かにこれは怖いかもしれない。
しかし、ここまで来たのだやらねば時間が無駄になる。気合を入れていざ!と決めたがその前に
「覚悟はいいわね?」
先に小声でぼそりとネズミに向かって呟く。
「いいいいいわけないないないない!」
本気で怖いようだがそんな台詞は
「却下」
オーバースロー気味にネズミを持っている右手を振り上げて!
「ま、待って!心の準備がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
腕を下ろしながら!
「それじゃ逝ってきなさい!」
何か言おうとしてるネズミを無視して下へと思いっきり投げつけた。
「ぎゃぁぁぁぁ!けんこんいってきぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
叫びながら落ちていくネズミを見ながら。
「チッ・・・ボケる余裕があったとは」
軽く舌打ちしつつ前に進むと、後ろの方で「あと10秒でーす」と聞こえたのでこちらも再び気合を入れて飛び込んだ。
遊園地のフリーフォールのような体が浮く感覚を感じつつ、どうせなら足からではなく体を回転させてプロっぽく落ちてみようと思いつき。
体の勢いだけで「180度回ッ転!」
グルリと捻り格好良く水に飛び込
ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
・・・もうとしてる時に落ちた。
何か腕の方から叩き付けられてしまい何だか感覚がほぼ皆無である。
「ガボッ!ブボボガボモモオヲバ!(痛い!これは感覚戻ると絶対痛い!)」
ボゴボゴと昇る泡で上下を確認して足だけで何とか水面へと上がる。
「こ、これは人生賭ける遊びだわね・・・」
荒く呼吸しながらプールの縁へ向かう途中で最早、見慣れた毛玉が浮いていたのでとりあえず回収。
縁に昇ると「大丈夫そうでも気分が悪かったりする方はこちらの医療所と休憩所で様子を見てくださーい」と呼びかける作業員(白衣)がいたのでお言葉に甘えて休憩所へと向かう。
何だか隣の医療所でもそうだが休憩所で休んでいる・・・・・・というより何か死体置き場みたいに倒れて並んでいる紐無しバンジー挑戦者が大勢いた。
通路を歩きながら場所を探すと、丁度一人分空いていたのでそこに腰掛ける。
どうやら飲み物はセルフサービスらしくとりあえずはと席を立ち、麦茶を入れて再び戻った。
「押入〜・・・押入には入れないで〜・・・・・・押入にはお婆ちゃんがいる〜」
押入にでもトラウマがあるのかネズミがうなされていたのでストローで軽く麦茶を含み
ドバッ
と、落としてみた。
「ブワァ!こ、ここは・・・って。さ、さっきのは私も勘弁ならんよ!ごめんなさい!」
「何、混乱してるのよ」
フゥ・・・とため息をついてお茶を一気に飲み干すと腕が痺れている事に気がついた。
「うわ・・・やっぱり変になってる」
帰りがけに湿布でも買おうと思いながら時計を見るとまだ午後2時頃である。
「結構経ってるかと思ったけどまだまだ時間はあるのね」
なんか落ち着いたらお腹が空いてきたので売店にでも向かおうかとネズミを捕まえて立ち上がる。
「とりあえず何か食べるわよ。何かリクエストある?」
「え!?好きなのでいいの?」
期待に目を潤ませながら意外そうな反応を見せられた。
「いいわよ。その隣で美味しそうに食べてあげるから」
「うわ、鬼だー!」
アハハハハと笑いながら売店に着いたものの食べれる物と言えば。
「お好み焼きとかき氷のみね・・・」
「具とシロップが凄いよ。蜂の子、イナゴ、キムチ、プリン、生卵、プロテイン、玉露、きなこ練乳・・・」
「最後の方にある店員お勧めラストオーダーって凄い気になるんだけど」
「名前の通りだと凄そうだよねぇ・・・でもそれより気になるのは『どれがお好み焼き』で『どれがかき氷』かわからない辺りかな?」
グルリと店内を見渡すと何やら悶えてる客が大勢いるんですけど・・・ここはネバーランド(死者の国)でしょうか。
「食べるの?」
「いや・・・無理でしょ。とりあえず入ってるしコカコーラでも頼んで帰るわよ」
席に座り店員に注文すると1分ほどで目の前にコカコーラが届いた。
例によって氷がたくさんなのはこういう場所での暗黙の了解だろう。
「私にも飲ませて〜」
「いいわよ、私さっき麦茶飲んだし」
二本目のストローにコーラを含み零れないように置いてネズミにあげると。わぁーい、と喜びながらチューチュー吸い始めた。
「あひゃはら〜美味しい〜ね〜」
・・・何か言葉使いが変になってるのは気のせいでしょうか?
何かもの凄く嫌な予感がしつつもメニューをよーーーーーーーーーーく見てみる。
『コカ(ィン)コーラ *トリップできる素敵な味』
「って・・・コカ(イン)コーラって何よ!」
ガァー!と叫びながらネズミを掴んで立ち上がる。
店員にお金を投げつけるように渡してお釣りも受け取らずに脱衣室へとズカズカと歩いて帰り支度する事にした。


そんなわけで、なんか先が見えそうなプールを後にしながらポシェットの中にネズミを入れてスタコラとバス停へと向かう。
「あぶぅ〜・・・ぎもぢわどぅい・・・・・・」
「日本語喋りなさい。に・ほ・ん・ご」
顔だけ出してぐでぇ〜んとなってるネズミにコンビニで買った水をキャップに入れて飲ませながら帰路へとついた。
「新しく出来たプールすっげぇらしいぜ」
なんて、中学生くらいの男子2,3名が言いながら通り過ぎて行ったが
「止めるべき・・・なのかしらね」
「見たらやめ・・・うぇぇぇきぼじわるい」
ま、それもそうか。と結論づけて気にせずバスへと乗り込んだ。
さすがに疲れたらしく、うつらうつらと心地よい揺れに身をまかせて眠りにつこうとした矢先
「動くな!このバスを俺の言うとおりに動かせ!」
と、包丁と小型のガスボンベ、ライターを持った男が出てきて・・・
・・・
・・

「またこのパターンなわけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
2004/11/19(Fri)20:50:41 公開 / 水守 泉
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■作者からのメッセージ
下を追加〜・・・終わってませんね_no
とりあえず「それでは次の方どうぞー」から下になってます。
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