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『保険屋』 作者:樂大和 / 未分類 未分類
全角2159文字
容量4318 bytes
原稿用紙約6.85枚
男は行きつけの飲み屋で今日も飲んでいた。
しかし、いつもよりも幾分か真剣な表情で。
男は黒いコートの営業マンの話を、胡散臭さと何処かしらの期待とを織り交ぜて聞いていた。
「じゃぁ、何かい?アンタは悪魔で不幸や幸せの保険を売ってるってのかい?」
男は鼻で笑いながら聞いた。しかし、目は笑ってない。
「ええ、そのとおりです。私はあなた方ニンゲンの幸福や不幸を取り扱わせて頂いております」
黒いコートの自称「悪魔」は、なるほど悪魔的な笑みを浮かべ続けた。
「あなた方、ニンゲンは昔から幸福や不幸の配分が下手な生き物でして、同じ一生の内に幸福を一瞬で使い切る人も居れば、死ぬまで使わない人もいます。」
「なるほど、確かにいろんなヤツがいるわな」
男は相槌を打った。
「ですが、この不幸と幸福には法則性がございまして、ニンゲンは不幸に見舞われた分、幸福が貯蓄されるのです。その溜まった幸福の使い方を多くのニンゲンは知らないんですよねぇ…」
悪魔は間髪いれずに続けた。
「しかしですね、私達悪魔や天使と言った連中は幸福や不幸の管理をしてるんです。もちろん私達悪魔はニンゲンを不幸にすることで利益を得てます」
「ほほぅ…で?」
「つまり簡単にいいますと、私たちはニンゲンの皆様に安い保険料、つまり小さな不幸を何年間かの間月一で見舞って頂いて、満期を迎えましたら幸福と言う形の保険金をお支払いするわけです」
馬鹿馬鹿しい…と思いながらも男は聞き入ってた。
「小さな不幸ってのはどの位なもんだ?」
悪魔はニヤリと笑い答えた。
「不幸と申しましても、大したものではございまさん。今、うちの保険に入っていただいてるニンゲンの方はほとんどがお客様と同じ年齢層ですから…え〜と…」
悪魔は何やら機械を取り出し操作しはじめた。
「えっとですね、お客様の年齢の場合ですね、月一で犬の糞を踏むくらいですね。年齢が上がりますと不幸の度合いも上がりますけど…若いうちはこんな物ですかね」
「犬の糞だぁ〜?」
男はこらえきれなくなったように笑い始めた。そして…
「おもしれぇ…契約しようじゃねぇか。月一で犬の糞踏んでやるよ」
と笑いながら答えた。
「ありがとうございます…」
悪魔は終止、下卑た笑顔を絶やさず頭を下げた。

契約した次の月に男のアパートに一通の文書が届けられた。その文書には…
保険証券:満24歳契約
  保険料は「毎月犬の糞を踏む不幸」
  保険満期は「20年後」
  保険金は「犬の糞を20年間踏み続けた分の幸福×1.25」
と書いてあった。
証券なるものが届いて男は本当に犬の糞を踏むようになった。最初のうち、男は驚いた、気味悪がりさえした。あの黒いコートは本当に「悪魔」だったのか?俺は悪魔と契約したのか?しかも…保険?20年間犬の糞を踏み続ければその後に幸福があるのか?
……おもしろい。男の顔にはいつしかあの悪魔と同じ笑みがあった。
男は、毎月一回犬の糞を踏んだ。雨の日も、風の日も、風邪を引いて寝込んでる時さえいつの間にか男の靴の裏には糞がついていた。男は着実に月日をこなしていた。そしてついに満期の日を迎えた。
男の普段の生活はこの20年間順調なものだった。平社員だった男はいつしか部長まで昇進していた。
ある日、部長室に一人の男が通された。あの悪魔だった。悪魔の外見は20年前と全く変わらず、あの下卑た笑いもそのままだった。悪魔は男に言った
「見事に満期を迎えられましたね。契約通り、幸福を支払いに参りました。幸福は貴方が今一番望んでおられるものです。…そう、この会社のトップになることですね?今日、この会社の現社長が貴方を後任に指名されました。貴方がここのトップです。」
悪魔の言うとおり、男は今日の朝付けで次期社長を約束されていた。
「20年間の不幸、耐えた甲斐がございましたね。おめでとうございます。…では」
悪魔がそういって立ち去ろうとした時、男は呼び止めた
「まて、まだ、保険に入れるのか?」
悪魔は背中を見せたまま答えた
「ええ、入れますよ」
「たのむ、もう一度入らせてくれ!!私はもっと昇りつめたいんだ」
男は懇願した。悪魔はため息をつくと
「わかりました。ですが、見積もりの準備を取りに魔界に帰らねば…」
「いつごろになる?」
「次の月食の日ですから、30年後です」
男は焦った。そして噛み付きそうな顔で言い放った
「それじゃ、意味がない!!見積もりなんかいいから、今、頼む!!20年前と同じ保険でいいんだよ」
悪魔は背中を向けたまま、右手を挙げると
「分かりました。魔界で手続きさせていただきます。契約は来月から有効です」
と残し消えていった。
悪魔が去り一人になった男は部長室の椅子にすわり、タバコを吸い、息を落ち着かせた。そして、腹の底から湧き上がる高笑いを噛み潰した。
「あと20年…20年だ…20年我慢すれば…」
男は20年前と同じ笑みをこぼした。

次の月、男は事業拡大の為、ある発展途上国を査察に出かけた。次の幸福が来るまでに少しでも上に行きたいと思っての事だった。
男が日本を発って2日後、社長宛にある文書が届いた

  保険証券:満44歳契約
  保険料は「毎月地雷を踏む不幸」
  保険満期は「20年後」
  保険金は「地雷を20年間踏み続けた分の幸福×1.25」

2004/10/07(Thu)13:10:20 公開 / 樂大和
■この作品の著作権は樂大和さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最初のイメージは良かったんですけど、あとがなかなか、収集つかなくなってる感じになってしまいました。
酷評、感想ありましたらおねがいします。
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