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『〜鳥かご〜女編・第一回』 作者:石田壮介 / 未分類 未分類
全角3053文字
容量6106 bytes
原稿用紙約9.6枚
(このタイトルをくださった白雪苺さん、ありがとうございました!)


  この籠の二人を…

  笑う事なかれ…

  哀れむ事なかれ…

  私達もまた…

  「生きる」という籠の住人なのだから…



   一、女


「宮子、準備はできたか?」
「はい」
 あたしはお父様の呼び声に適当な返事をすると、階下へ続く段々を一つ一つ噛みしめるようにゆっくりと降りた。気が進まなかった。これからお父様は、またあたしに婚約者を紹介して、その後どうかとしつこく聞いてきて、終いには早く結婚しろと叱りつけるに決まっているのだ。
 近頃のお父様はいやにあたしを誰かとくっつけたがる。何かと理由をつけては、どこかの企業へ連れていかれる。その理由がまた無理矢理で、天気が悪いからとか、春だからとか、池の掃除をするからとか、訳の解らない事ばかりで、今日は東京電力が来るからだとか言う。別に電気のチェック位、勝手にやらせておけば良いじゃん!…と言いたいところなのだけれど、お父様が恐い顔をするので、黙っておく。
 一階へ降りると、玄関の全身鏡でお父様が白色交じりの髪を左右に撫でつけていた。
「準備できた?」
「はい」
「じゃあ、さっさと行こう!東京電力が来てしまう」
 お父様がそう言って、せかせかとドアを開けると、目の前に作業服の男が立っていて唐突な鉢合わせに仰天して、二人とも仰向けに倒れこんだ。
「な、なんだ!人の家の前に立って。吃驚するじゃないか!」
 お父様が一喝した。作業服の男はその迫力にすっかりたじろいで、腰が抜けたように手足をバタバタさせて、引っくり返った虫みたいにもがいていた。
「一体、何の用だ!」
 お父様が立ち上がって再び怒鳴りつけると、男は、ひっ!すいませんと悲鳴みたいな声で謝って、一散に走り去った。
「…何なんだ。あいつは!」
 あたしはドアの前に佇んで何をしていたのだろうと、男がとても薄気味悪く思えたけれど、後で落ち着いて考えたら、作業服と言えば東京電力が来るんじゃないかと気付いて、気の毒な事をしたと思った。

 お父様のベンツは長い街道を東へ東へと走って、電車のガードとか、高い建物が増えてきたなと思ったら、もう都心だった。ごちゃごちゃした道を右折左折している内に、恵比寿の駅から細い横道を少し進んだ辺りで車は止まった。気が付いて窓外を見上げると、古めかしい雑居ビルがあって、お父様が呼び鈴代わりにプップッとクラクションを鳴らした。
 入り口脇のエレベーターが下りてくるのが、ガラス戸越しに窺えた。チンと音がしそうな感じで(もしかすると鳴ったかも知れないけど)扉が開くと、お洒落に七三分けにした凛々しい顔立ちの青年が出てきて、あの人が今度のお見合い相手かしらと、意外な相手に胸がドキンとしたけれど、その彼はすっと横へ動いてエレベーターの縁を押さえて、中から収穫期を終えたばかりの畑のような頭がぬっと飛び出た。その男は決して爽やかとは言えない笑顔をこちらへ向けて、立派過ぎる巨体をのしのしと車の前まで持ってきて、いや!どうもどうも!とやかましい声で挨拶して、その仕草がまるでトドみたいだなと思っていたら、ごめんね、トドみたいでと見通していたみたいに言われて、ちょっと困った。
「この方は、ビニールの製造をしている金丸さんだ」
「どうもどうも!金丸武です。金城武じゃなくて、ごめんね!」
 お父様の紹介を受けて、その金丸という男は奇をてらってか、元々図々しい性格だからか、頭をぴしゃぴしゃ叩きながら、およそ礼儀とは程遠い挨拶をして、まあ乗りなさいとお父様に言われて、後部座席のあたしの隣に座った。頭を撫でていて、気持ち悪い。
「じゃ、後頼むわ!」
「はい」
 金丸は車の前のあの素敵な青年に言い渡すと、車はとっぷり暮れたネオンの町を走り出した。
「今日はどちらへ?」
「行きつけのフランス料理店だよ」
 金丸の質問にお父様が運転しながら答えた。行きつけのフランス料理店はいつもお見合いに使われる場所で、あたしは思わず苦い顔をしてしまった。
「フランス料理ですか!? ごめんなさい。僕あんまり行った事がないんですよ」
「それは良かった」
「いやいや。作法とかあまり知りませんから!」
「構わんよ。好きなように食べてくれ。今日はお見合いなんだから」
 お見合いこそ、作法とか大事なんじゃないかしらと、あたしは思ったのだけれど、お父様が恐い顔するだろうから、黙った。そんな事より、どうにか早く終わらせられないかと考えた。
「それにしても、随分可愛らしいお嬢さんですね!」
「気に入ったか?」
「ええ! そりゃもう!」
「そうかそうか」
「お名前は?」
「………」
 あたしは答えなかった。名付けて無視作戦!…いや、それより、さり気ないフリして腿を触らないでほしい。
「宮子だよ」
 あたしに代わって、お父様が言った。
「宮子さんですか! 良い名前ですね!」
「…別れた女房がつけたんだがね」
「あ…そうですか」
 金丸は思わぬ失言におろおろして、ハハっと乾いた笑い声をあげて、てかてかの頭を撫で回した。ざまを見ろ。
「失礼ですが、おいくつで?」
 ちょこっと気まずくなった空気を挽回しなければと、縋るような視線を送りつつ、あたしに尋ねてきたけれど、無視した。助けてやりたい気にならなかった。気持ち悪いし、気に入らないし、気に障る。また、さり気ないフリをして腿に触れている。と言うより、頭を触った手で触れないでほしい。
 あたしは腿に置かれた手をはたいて不快を訴えると、金丸は鳥みたいな顔をして怖気づいた。どうだ!思い知ったかと勝利の気分に浸った。けれども、金丸という男は人の気持ちに無頓着なのか、それとも大変な自信家なのか、懲りずに愛想笑いを作り直して、
「変態でごめんね。でも、怒った君も素敵だよ」
 と、あたしの耳元で囁いたので、あたしはそれきり心を閉ざした。後はあたしが全く無言なので、ユウシとかシジョウとか、そんな話をお父様としていた。お父様は今までにもそんなあたしの態度を経験していたから、ただの一瞥をくれただけで、仕事の話に夢中になっていた。
 フランス料理店でお開きになって家へ帰ると、
「宮子、ここへ座りなさい!」
 と、案の定の言葉をもらって、あたしはソファーにかけた。お父様は向かいのソファーに座ると、ため息を一つつき、咳払いをし、ソファーに座り直して、
「…おまえは、どうしてそうなんだ?」
 と言った。
「…はい」
 あたしは俯いて、とりあえず反省のポーズをしてみせる。
「何人紹介したと思ってるんだ!」
「…はい」
「好きな人がいるのか?」
「…いえ」
「なら、何が不満なんだ!」
「………」
 不満なら腐る程ある。今日のハゲの腿なんか生易しいもので、胸を揉まれるのは勿論、この間の四十代の社長は、襟元から手を差し込もうとしたし、そのまたちょっと前の男は、スカートをたくしあげようとした。最も酷い時なんか、二人きりになった途端に押し倒されて、両腿の間に割り込もうとしたのさえいる。そんな不満を言った事だって何度もあった。しかし、お父様は、大変忙しい方なのだし、それは仕方の無い事なのだと言うばかりで、全く考えてはくれない。これが不満でなくて、他に何が不満になるだろう。
「いいかい?お父さんは別におまえが憎くて何度も何度もお見合いに連れていっている訳じゃない。おまえにはおまえに相応しい相手がいる。それはおまえの幸せの為なん………etc.etc.



  
2004/08/25(Wed)21:27:42 公開 / 石田壮介
■この作品の著作権は石田壮介さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
大変お待たせしました。とりあえず少しアップしてみました。書いてみると、存外長編になりそうです。まだはっきりした完成図がないので、どうなるか解りませんが、よろしくお願いします。
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