オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『始まり』 作者:あき / 未分類 未分類
全角4889文字
容量9778 bytes
原稿用紙約17.65枚
「……私。付き合えないから……」
 とても好きだった男からの告白を、私は断った。
 ちゃんと、普通に言えたのか。自信はないれど。
 ただ、優しく笑って「そっか」と告げた、そんな彼の笑顔を見たとき。
 私はちょっとだけ、泣いてしまった。
 彼は、困った顔をして。
「……忘れてもいいから。困らせてごめん」
 と、いつものテンポと口調で言った。
 忘れられるわけがない。
 私の胸は熱くなる。
「ごめん……」
「だーから!! 泣き顔なんて、由美には似合わんぞぃ!」
 ぼそっと呟いた私の両頬をつかみ、和人は言った。
 いつもと同じフザケタ和人。
 いつもと同じじゃれ合いが、嬉しくて。
 余計、涙は止まらなかった。
 和人は、私が泣き止むまで、ずっと側に居てくれたんだ。
 凄く、すっごい和人が好きだ。
 最初に出会ったときから、ずっと。
 最初は見てるだけでよかった。
 だけど、それじゃ足りないくらい。そばに居たいと思った。
 理由は、すっごく単純で、高校に入学した時の初めての席。
 前に座った彼は、すっごく元気で面白くて。
 はっきり言って。うるさい奴だった。
 だけれど、凄くやさしいやつで。
 ……速攻で、和人に惹かれていった。
 本当に、本気で好きだから。
 和人に哀しい思いはさせたくない。
 だから、私は。
 和人とは付き合わない。
 別れが見えているのに、付き合うなんて出来ない。

「……佐宗さん。本当にそれでいいの?」
「なにが?」
 セクシーなスーツに白衣を着て。
 でも、全然いやらしさなんて感じさせないこの人は、保健医のミナトちゃん。
 眼鏡が似合う知的っぷりが、男女問わずに大人気。
「なにが? ……じゃないわよ!! 和人くんのコト!!」
 毎日のコトながら、保健室登校の私は、ミナトちゃんをお姉のように、慕っている。
 ミナトちゃんには、何でも話した。
 ミナトちゃんは私のこと、なんでも知っている。
「……」
 答えられずに黙っていると、ミナトちゃんは、走らせていたペンを置き、私の方に向き合った。
「だって、佐宗さんは、普通の生活したくて、この学校にいるんでしょう?」
 真剣なミナトちゃん。
「別に、病気のコトがあっても、先生は、恋してもいいと思うわ……」
 親でさえも、あまり触れない病気のコト。
 私はもう、長く生きられない。
 ミナトちゃんは、全身で私にぶつかってくれる。
「ミナトちゃん……私。私ね……」
 そんな真剣なミナトちゃんには、私はどうも嘘が吐けない。
 大好きな和人にも吐けた嘘が、ミナトちゃんには無理なのだ。
「私。和人のコト、本当に大好きなの」
「だったら……」
「だから……幸せになって欲しいの」
 ミナトちゃんの声を遮るように、私は続けた。
「私。和人といると、忘れちゃうんだ……」
 別れはすぐそこってコト。
 それの辛さも、哀しさも。
「幸せすぎで、大切すぎで……ちょっと、はしゃぎすぎちゃうから……」
 心臓の故障でさえも。
「佐宗さん……」
 エヘへと笑う私。
「だから……いいんだ! 今は、見てるだけで……話せるだけで幸せだよ」
 ため息を吐くミナトちゃん。
「……わかった! 先生は、もう何も言わないわ……でも、わがままぐらいはいいなさいよ?」
 優しくてキレイで可愛いミナトちゃん。
「はいはい! わかってますよーだ!」
 ミナトちゃんは、ペンを取り。素敵な横顔で仕事を再開した。

 本当は、わかってる。今のままでいい。なんて、思っているのは、今だけなんだ。
 これからは、どうなるかなんて、わからない。
 最初は、後ろから見てるだけで良かった。
 次は、名前を覚えて欲しい。
 次は、少しでもしゃべりたい。
 ちょっと、仲良くなったら、次は、友達になりたい。
 こうしてどんどん貪欲になる。
 友達の次は?
 ……答えは知ってる。わかってる。
 実は、もう戻れない所まで来てる。
 でも、和人は? 
 和人の気持ちは分からない。
 哀しい気持ちにさせたくない。
 和人が私を好きだと言った。
 本当に、幸せ。
 だから……。それで充分なのだ。

 私は、読書が好きだ。
 私自身は、ドコへも行ってもなければ、変わってもない。
 ただ椅子の上に居るだけなのに……。
 どんな悪い女にもなれる。
 どんな健康な体も手に入れるコトができる。
 ドコへでも行ける。
 もう、過ぎ去ってしまった時間へも戻れる。
 まだ、来ていない未来へもいける。
 本は自由だ。
 悲劇も喜劇も思いのままだ。
 なによりも、本は、永遠に残る。
 いや、正確に言えば、永遠ではないのだけれど。
 いつまでも、時を経て、人の記憶の。思いの媒体として。
 人から人へと繋がっていく。
 私は、本になりたいのかもしれない。
 限りない命を生きたいのかもしれない。
 でも、それは不可能だ。
 私が死んだら、何人の人が「私」を覚えておいてくれるのだろう。
 記憶は形として残らないから、いつか、大切な人の思いのなかで、私が私じゃなくなるかもしれない。
 変に美化されていたり、顔もあやふやなそんな記憶。
 人の中から消えるのは恐い。
 それこそ、人の本当の死だ。
 だから、私は大切な人をつくらない。
 だから、私は本が好きなのだ。

 私の学校の図書室は、なぜか窓に「図書館」と貼ってある。
 だから、私はそこを図書館と呼ぶ。
「図書館じゃなくて、図書室でしょ?」
 友達にはこう言って笑われるけれど。
 学校内にある。限られた空間。
 決して広くないその中を、「図書館」といいきる、その表示。
 威風堂々としている気がして、かなりお気に入りなのだ。
 私の放課後は、いつも図書館で終わる。

 今日は何読もうかな。なんて考えながら、大体は背表紙で決める。
 でも、今日は、なかなか決まらなくてついに到着。入り口から一番奥の棚。
 ここに人は全然いない。きっと皆、ここへ辿り着くまでに読みたい本を見つけてしまうんだ。
 私は、未知の世界にたどり着いたみたいで、ちょっと嬉しくなった。
 下から順に棚を追う。一番上まで目が行って、青い表紙の本に目が留まった。
 青というより、紺が正しいのかもしれないその本になんだか惹かれて手を伸ばす。
 だけれどやっぱり届かない。
 踏み台にしては少し低めの台に乗った。
 あと、手、一つ分ぐらいが届かない。
 すると、突然に、視界が暗くなった。暗くなった視界に手が伸びてくる。
 その手は、紺色の表紙の本を手にとった。
「あ」
 私の口からマヌケな声。びっくりして裏にさがると、背中にぬくもりを感じる。
「おっ」
 その手の主の声がすぐ後にして。
 私はおもいっきり台から落ちた。
 台から落ちたのに、転がらなかったのは、本をとった手が私を支えたからだ。
「っぶねー」
 しばらく呆然としていたけれど、その一言で我に返る。
「……あ、ありがと」
 手の主は、和人だった。
「……平気?」
 和人は、手にとった紺色の本を私に手渡しながら笑って言った。
「う、うん。平気!! 和人は?」
「問題無し!」
 しばらくの沈黙。
「あ、じゃあ、私これで……」
 立ち去ろうとする私の腕を、和人が掴んだ。
「……和…人?」
「由美……」
 私の名前を呼ぶ和人は、熱に浮かされたように潤んだ瞳。
 その瞳に捕らえられてからは、なんだか世界がスローモーションみたいになった。
「由美。俺、やっぱ駄目だわ……。忘れてくれなんて。言えねー……」
 掴まれた所から、和人の熱がうつるみたい。
「……たとえ、由美に泣かれても……俺の気持ち…忘れないで欲しい」
 和人が、私の腕を引いた。
「由美が好きだ」
 その言葉を聞いたのは、和人の腕の中だった。
「…ちょっ! っか…和人?……人が……」
 私たちがいる棚の向い側に、人が通るのが見えた。
「……」
 和人はなにも答えなかった。
 ただ、私を抱きしめる腕に少しだけ力がこもる。
 私は、自分と和人の熱で、なんだかだんだんボーっとしてきた。
 故障してるはずの心臓も、故障なんて忘れたみたいに早くて、私はもうついていけない。
 和人と私の間に突っ張っていた手を、私は和人の背中に回した。
 一瞬、和人がビクっとするのがわかる。
「……和人、私……」
 どうしても黙って居たかった一言を、今は、どうしても言わなくちゃならない。
「私ね…」
「……?」
 和人の腕が少し緩んだ。
「私……」
「由美……?」
 和人の顔をしっかりと見据える。なんだか、困ったような顔してる和人。
 なんだか……笑っちゃう。
「死ぬんだよ」

 笑えて言えたのがせめてもの救いだった。
 私は、薄れゆく意識の中。「え」という、和人のマヌケな声を聞いた。

 目が覚めた。
 そこはいつもの保健室の天井があった。
 どうやら、あのまま倒れたらしい。
 和人にかけた迷惑に、なんだかとっても恥ずかしくなる。
 ベットから起き上がろうとしたその時。声が聞こえた。
「……和人くん。ここまで運んでくれてありがとう」
 ミナトちゃんの声だ。
「いえ、あいつ……すげー軽かったっスから……」
 次に、和人の声。
 今、起きていくのは勇気が居るな。
 そう、思ってまだベットに戻った。
「そう……じゃあ、もう戻ってもいいわよ?」
 そうだ、今は和人に会いたくはない。
 私の秘密を知っている和人が、今までどおり接してくれる保障はないのだから。
「いえ……あの、先生……あいつ……すんげー本気で軽かったんです…」
 私は、寝たふりを決め込みながらも、会話へは耳を傾けていた。
「あいつ……あの、由美は…」
 和人が続ける。
「……そんなに悪い病気なんスか?」
 一瞬、時間が止まった気がした。
「だって、あいつ……倒れる前に、…笑いながら……」
「和人くん……」
「っ死ぬって……」
 和人の悲痛な言葉。
「和人くん……。それは先生が答えることじゃないわ」
 冷たく、言い放つミナトちゃん。
「……スミマセン…」
 しばらく沈黙が続く。まるでそれが永遠のような錯覚。
 その沈黙を破ったのはミナトちゃんだった。
「…佐宗さん本人から聞いたほうがいい」
「……はい」
 さてっと、とミナトちゃんが席を立つのが分かる。
「先生これから、職員会議だから! 落ち着いたら帰りなさいね」
 そう言って、ミナトちゃんは出て行った。

 ミナトちゃんが出て行ってすぐ、カーテンが開いた。
 私のベットのすぐ横に和人が座った。
 目なんか開けられない。これは逃げだとわかっていても。
 和人の本心を知るのが怖かった。
「由美……」
 和人が呟いた。
「俺、何にも知らなかったよ、由美のコト」
 当たり前だよ。言ってないもん。
「でもさ……」
 何?
「でも……」
 うん……。
「……好きなんだ…」
 和人の振り絞るような声。
 大好きな和人のこんな声。一番欲しかった言葉。
 だけど、一番聞きたくなかった言葉。
「……か…ず、と?」
 堪らなくなって名前を呼んだ。
 目を開けて、和人の方を向く。
「……由美が、好きだ」
 和人は言った。
 笑いながら、私の目を見て。言ってくれた。
「私……本当に、死んじゃうんだよ…?」
 和人の手をにぎる。
「うん……」
 和人が私の頬を撫でた。
「……それでも?」
 好き?
「うん。もう、無理だよ。離れらんない。俺……」
 和人が私の手を握り返す。
「……私も…」
 和人は私のおでこに、自分のおでこをぶつけた。
 私は目をつぶった。
「もう、ずっと…前から……和人と離れらんなく、なってた……」
「うん……」
 私は和人の首に、腕を伸ばした。
 そしてクスって笑ってこういった。
「和人……なんで泣いてるの?」
 和人は一瞬目をそらし、そして言った。
「由美こそ……」
 いつもと変わらない、優しい笑顔。
「……好き…」
 そう言って、唇を重ねた後。
 なんだか可笑しくて二人で笑ってしまった。

 甘く、切ない感覚は、きっと私の生きてる証拠。
 こうして私の、生涯最後の恋が始まる。


                       END

2004/08/20(Fri)21:45:05 公開 / あき
■この作品の著作権はあきさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて投稿させていただきます。
初めての投稿なので「始まり」で書きました。
厳しい感想やご指摘をいただければ幸いです。
よろしくおねがいいたします。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除