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『木に風が吹き楓が揺れる 了』 作者:髪の間に間に / 未分類 未分類
全角3089文字
容量6178 bytes
原稿用紙約10.45枚
まだ意識のあるうちに。

何でだろう。 なぜ、私はこんな事をしているのだろう。 私は今まで目立たぬよう生きてきたのに。





   no.1     木に風が吹き楓が揺れる






 私の名前は楓だ。 小説や漫画にありがちな名前で、正直余り好きじゃない。 でも、他に候補に上がっていたのは健太と孝也だったらしい。 それを聞いたときホッとすると同時にうちの親は何を考えてくれてやがるんだと思った。 最初から女と分かっていたと言うのだが、だったら女らしい名前にしろ。
 いや、全くもって今そんな事は重要じゃない。 重要なのは私が死んだという事実だ。
 そしてビックリなのだが、死んだら凄い冷静になってしまった。 自分が死んだという事が良く認識出来ていないのかもしれない。
 青信号で歩道を渡るとき軽トラに撥ねられたチックだ、撥ねられたのは別にいいのだが撥ねられるのなら四トントラックとかの方がよかった。 だって軽トラに撥ねられて死亡だなんて、スケールが小さ過ぎる。
 痴呆にならずに寿命で死ぬという私の夢は車のブレーキ音と鈍い音と共に崩れ落ちたわけだ。
 ちなみに私は今どこに居るかさえ分からない。 周りは暗闇、一寸先も闇、何をすることも出来ない。
 何か死ぬのってのもあっさりしたものだ、そんな事を思っていたら上の方から光の筋が私に向かって伸びてきた。 いかにも天使様の降臨って感じだ。
 私の目の前で伸びる事を止めた光の筋は段々と厚みを増し、人間の姿になっていった。
 その天使は具志堅用高を少しガラ悪くしたような人物だった、きっと声とかもガラ悪いぞ。 着ているものも白いローブじゃない、少し大きめの黒いスーツだ。 具志堅が思い出したような目を私に向け、口を開いた。

「えぇと、一瞬で覚えろよ」
「は?」
「18739367408276の46781892764の802人の8」
「え? いきなり18739367408276の46781892764の802人の8なんて言われても一体何の事やら」
「お前阿呆なのか頭良いのか?」

 具志堅は真面目な顔でそう聞いてきた、予想したとおりガラの悪い声、そしてその声が告げた番号、恐らくそれは私を識別する番号なのだろう。

「ほら、突っ立ってねぇでさっさと行くぞ」
「行くか」
「おめぇ、どこ行くかぐらい聞けよ」
「どこ行くの」
「愛想の無い声やなぁ、まぁいい。 閻魔廷だ、閻魔様がお前を審査する」
「美少女コンテストの?」
「口の減らない小娘だやなぁ」

 私がこう口煩くなるのは緊張した時や不安な時、そうでもしないと間がもたないのだ。
 具志堅は呆れた顔で首を巡らせる。
 世界が開けた。
 私は巨大な扉、恐らく10メートル以上あるだろう扉の前に立っていた。 隣には具志堅が神妙な顔をして立っている。 そういえばさっき真っ暗だったのになぜ具志堅の顔や行動が見えたのだろう?
 いや、いいや。 別にどうでも、ここは私の知らない所なのだ。 何が起きても、例えビックリカメラの看板を持った人と司会者が突然出てきても不自然ではないのだ。

「何やってんだ、あけろや」
「開くの? このでっかいの」
「開かなきゃ扉じゃないだろが」

 そうだ、ここは私が生きていた場所ではないのだ。 恐る恐る扉を押した。
 バン!
 という音をたて、扉は勢い良く開いた。


 私の目に白い光景が飛び込んできた。





   no.2   黒い犬が吼える時、静寂は訪れる





 そこは、病室のようだった。
 白く輝く蛍光灯、部屋の真ん中の事務用の机に並ぶ資料、そして椅子に座る、死神。 
 それは間違いなく死神のように思えた、机とセットだろう椅子に腰掛け黙々と姿勢悪く書類の処理をしている。
 黒い髪、青白い肌、美形と言って良いと思う。 しかし、身に纏った雰囲気は死神のそれなのだ。
 せめて楽に死なせてもらえないかな。 などと思っていると、死神の顎が開いた。

「ご苦労、君は、何番か?」

 突き刺さる怜悧な声、私は咄嗟にさっき具志堅が一瞬で覚えろよ、と言った言葉を思い出した。

「18739367408276の46781892764の802人の8」

 死神が胡乱気に具志堅を見やる、具志堅は何やら固い表情だ。
 死神が唇だけを動かして具志堅に何か伝える、具志堅は何やら堅い表情だ。
 死神が私を見る、私は一体どんな表情をしているのだろう。
 死神が口を開く、私の喉は渇き脳が水分を欲しがる信号を出している。

「私が、閻魔だ」

 お前、下がって良いぞと具志堅を部屋から退出させる。
 私は、何も反応できなかった。 何故なら全くもって驚かなかったのだ。
 閻魔が責めるような口調で私に質問をする。

「なぜお前は驚かない。 他の者はほとんど皆驚いたというに、なぜ驚かない」
「私はさっき 『もう何があっても不自然な事ではないのだ』 と自分に催眠をかけました。 だから、驚けません」
「催眠?」
「はい」

 よし、私の声は案外しっかりとしている。 

「お前、職業は何だった」
「催眠術師です。 父がそうだったので後を継ぐため勉強中です」
「本当か? 嘘だろう」
「本当です。 調べてみたらどうですか、閻魔なのでしょう」
「正直に言ってしまうとそんな事は無理だ」

 私は絶句した。 これには言い返す言葉もない、それを見てか閻魔はにやにや楽しそうに笑いながら言葉を続ける。

「無理だ。 それは生きている者の先入観だ、あんな大勢のファイルなんて作れるわけないだろう」
「では、私の言葉を信じてもらうには、貴方を催眠にかけるしか方法がありませんね。 どうです、やらせて頂けますか?」
「……何をする気か」
「言ったとおり催眠術です。 そっちの人にやっても良いですが、閻魔様が、地獄の閻魔、最強の閻魔がそれを恐れるでしょうか」

 閻魔は悩んでいた。 う〜ん、と喉を鳴らすように低い声を出して考えている。

「乗った。 しかし、これだけは言わせてくれ。 私は君をこの『門』の従業員になってもらいたいと思っている。 自己催眠、記憶力、どれも役に立つものではないか」
「あの番号は記憶力を測るためのものですか」
「その通りだ」

 なるほど、優れた人物は引っこ抜こうと。

「さて、どうぞ催眠術にかけてもらえるかな。 ほら、やれよ」
「…目をつむってその場に腰を下ろしてください」

 私の催眠が始まった。


 さすがは閻魔、深い状態になるには時間がかかった。 催眠は成功だ、私は無性にちょっちゅねーちょっちゅねーと言いたくなるという催眠をかけた。
 閻魔は泣きそうな目で止めてくれと言った。

「負けたよ、君を採用しよう。 楽な仕事を回すよ、週3で仕事だ。 悪くないだろう? 外に居る具志堅に案内をしてもらうといい」

 本当に具志堅って名前だったんだ。
 私は軽い感動を覚えながら部屋を後にする。 具志堅がおめでとう、と言った時白い部屋に赤い液体が飛び散った。
 閻魔にかけた催眠はまだあった、カッターナイフを見たら頚動脈を切りたくなるという催眠だ。 私は閻魔の机のペン立てにあるカッターナイフを利用したのだ。 まんまと、かかった。
 具志堅が私に拳を送るが持ち前の自己催眠で華麗に避けその場を走り逃げる。



 白いベットの中、まだ意識のあるうちに自分にかけた催眠を思い出した。

『私は交通事故で死んだ』『私は死の世界で活躍をしている』

 私は馬鹿だった、助かる見込みもあったのだ。 この催眠期間は設定していなかったのだ、私はもう二度と意識が戻らないだろう。 だんだんと死の世界に引きずり込まれていく。



 でも

 だけど

 こんな世界も良いかもしれない







2004/05/23(Sun)00:46:31 公開 / 髪の間に間に
■この作品の著作権は髪の間に間にさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 えぇと、先日私の良き友であるパソ子さんが電撃倉庫に入院しました。
 その際に過去の小説のデータ全消失(笑)、連作物を完結させることが出来なくて本当に申し訳なく思っています。
 そして今日オンライン復帰でここに来てみたらこんなことに。 管理人さん、頑張ってください。 熱烈に応援します。

 心機一転、新たな小説と共によろしくお願いします。 

 感想復活おめでとー!

※ちなみになぜ主人公がベットに横たわっているかは想像にお任せします。
※ミス訂正
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