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『さよなら列車に乗って(前編〜後編)』 作者:律 / 未分類 未分類
全角14422文字
容量28844 bytes
原稿用紙約48.45枚
 下り列車の4人掛けの席で僕の向かいに座った向田 日名子は、ずっと本に視線を落としたままだ。
 僕は死ぬためにこの列車に乗っている。そして彼女はそれを見届けるために。

 ことの発端は3日前、
 予備校の講師だった僕は、その日も自分の受け持ったクラスへと向かうため、階段を登っていた。
「行きたくない……」
 情けない話だけれど、僕は生徒からいじめを受けていた。
 最初は「彼女いますか?」とか「どんな子がタイプですか?」とか
 そうゆう質問程度の軽い授業妨害だったんだけれど、
 次第に物を投げられたり、
 あるときはホワイトボードの黒ペンを隠されて授業が出来なくなったこともあった。
 そして、一昨日はホワイトボードに僕の悪口が思いつくだけ書かれていた。
 そんないじめられっこ講師の授業を聞く生徒なんかはもちろんいるわけなく、
 僕は毎回生徒に笑われるために授業へ向かっているようなものだった。

 そして3日前のあの日を迎えた。

「今日は何されるんだろう……」
 僕は階段の手すりに頼りながら重い足を進めた。
 1階から3階に移動するだけなのに、富士山やエベレストより高い山を登っているようだった。

 教室の前へ着き、僕は扉の前で大きく息を吸って吐いた。
「今日はダイジョブ、今日はダイジョブ」
 そうやって自分に暗示をかけて、冷たそうな扉のL字型の取手を、下にずらしてから押す。
「あれ?」
 教室には電気がついてなくて、灯りといえば窓から零れる夜8時の都会の光だけ。
 すぐに気づいた。
 生徒が1人だけしかいないこと。
 僕は電気をつけながら、その一人の生徒に声をかけた。
「向田さん?」
 すると彼女の人差し指がすっと何かを指差した。
 僕はゆっくりと視線をずらし、その方向へと目をやる。
 ホワイトボードに大きく「ボイコットレボリューション!!そして島本 瑞樹は死ね!」と
 大きく乱雑に書かれていた。
「みんな帰っちゃったよ」
「そうみたいだね」
 教室はガランとしていて、暖房はついているけれど寒い気がする。
「向田さんも今日は帰っていいよ、これじゃぁ授業になんないや」
 そう言って僕がホワイトボード用のスポンジのような黒板消しでその文字を消していると
 彼女は机に置いたノートや筆箱を自分のバッグに入れて、椅子をガタッっと鳴らし
「さようなら」と長い髪をふわりと浮かして教室を出て行った。
 うんざりだった。
 ははは……と笑っているつもりだったのに、意識とは別に涙がこぼれた。
「なんなんだよ」
 自分の太ももを何回も拳で叩いた。
「なんなんだよ、この人生は!」

 気がつくと僕は屋上にいた。
 空からちらちらと灰色の雪が舞ってきて、夜の闇にぼんやりと光っていた。
「もう死のう」
 生きていても無駄だ。この世界で、僕は傷ついてばっかりだ。
 生と死を隔てる柵に足をかけたとき、駆けつけたのは帰ったはずの向田 日名子だった。
「飛び降りるの?」
 ヒナは息を切らし、そう言った。
 彼女の口からいくつもの白い息が出ては消えて、出ては消えて、を繰り返している。
 僕がいる屋上からは、このビルの向かいの歩道が見える。
 ということはそこを歩いている人に僕も丸見えなわけで
 偶然、僕を見てしまったヒナは、
 きっと階段とか2段飛ばして走ってきてくれたのかな?と思うと少し嬉しかった。
「たぶん、痛いですよ?」
「平気だよ、飛び降り自殺ってね、地面に堕ちる前に気絶しちゃうらしいから」
 冷たい冬の風が僕とヒナの髪を揺らす。
「そこから見える景色は綺麗?」というヒナの問いに、
「クリスマス前だからキラキラしているけれど、無理矢理に着飾ってる感じかな」
 そして僕は「汚いや」と呟いた。
「先生は先生のいちばん嫌いな場所で死ぬんですか?」
 ヒナが言った。「どうせ死ぬならもっと見晴らしのいいところから飛びなよ」
 それは突き放した言い方とか挑発とかじゃなくて、
 僕の死にたいという気持ちを肯定してくれた言い方だった。
「私が先生の死を見届けてあげる」

 そして僕とヒナはこうして列車に揺られ、死ぬための旅に出た。
 窓の外を見慣れた街の景色が次々とスライドしていく。
 二度と見ないだろう景色も「これで最後」と思うと少し愛しかった。

                
「ヒ、ヒナ。ちょっと聞きたいんだけどさ」
 膝に開いた駅弁のレンコンの煮物を口に運びながら、僕はヒナに聞いた。
「なんですか?」
「なんで君は僕の死を見届けてくれるって言ったの?」
 ヒナは黙っている。
「だってほら、犯罪なんだよ、自殺の手助けって」
「手助けなんかじゃありません」
「じゃぁ、なんで?」
「コロッケ半分くれたら教えます」
 僕はコロッケを半分切って、ヒナのお弁当箱にそっと置いた。
「先生のことが好きだから」
 僕は飲んでいたウーロン茶を噴出しそうになった。
「嘘だと思います?本当だと思います?オレンジくれたら教えます」
 僕は慌てて自分のお弁当箱からオレンジをつまんで、ヒナのお弁当箱にのせようとしたけれど、
 動揺からか、手が震えてオレンジが床に、ぺたっ、と落ちた。
「あ」僕とヒナは同時に声を出して、二人してかわいそうなオレンジを見ていた。
「ウインナーじゃダメだよね?」
 真っ赤に着色されたタコウインナーを摘んで、ヒナに見せた。
「ダメ」

 ということで、重大な問題を残したまま列車は東京を離れ東北へと向かう。
 僕はちらりとヒナのことを見た。
 彼女は、ねずみ色の制服スカートから伸びる白い足を組んで本を黙々と読んでいる。
 静かな車内にときおり、ページのめくれる、ぺらっ、という音が響いた。

 ヒナは変わった女の子だった。
 それは僕の自殺を見届けると言ったあの日で証明済みだけれど、
 それ以前にも僕はちょくちょくと彼女を変わった子だな、と思っていた。
 ヒナは、クラス15人の中で唯一、僕へのいじめには加わらなかった子で、
 いつも窓際の席で夜の都会の夜景に目をやりため息をついたり、
 今日と同じように、本を読んだりして過ごしていた。
 僕の授業を受けていなかったという点では他の生徒達と同じだったけれど
 いじめに加わらない彼女のその行為は極めて異質なもので、
 そのせいかヒナは近寄りがたい雰囲気を外面から発していた。
「近づかないで。私に触れないで」
 まるで冷たくそう言っているように。
 だから、学校ではどうかわからないけれど予備校でのヒナに友達はいなかった。
 そして僕は彼女が笑ったところを一度も見たことがない。
 いつも無表情で毎日をひょうひょうと生きているイメージがあった。

「笑ったらきっと可愛いよ」
 そう思っていたら、本当にその言葉が口から出てしまっていた。
 彼女は本から顔をあげ「セクハラ」と言い残し再び本の世界へ帰って行った。
「ごめん」
「あ」
 ヒナがそう言って再び僕を見る。
「先生って……」
 その言葉に反応して、また乗客が冷たい視線を僕らに投げかけた。
「瑞樹ね」
「瑞樹……さんって、死んだら何をするんですか?」
 考えたこともなかった。
 死ぬことが僕にとって最終地点だったから、死んだ後のことなんて考えてなかったのだ。
 うーん、と僕は鼻を鳴らして眉間を指で揉んだ。
 天国に行きたいなんて返答は抽象的すぎるよな、とか色々な考えをめぐらせて
 ひとつの結論に辿りつく。
 僕はその答えに気づいていなかっただけで、僕にとって死ぬことが最終地点なんかではなかった。
「死んだら生まれ変わりたい。もう1回生まれて人生をやり直すんだ」
 そう。僕はもう一度生まれ変わって人生をやりなおしたい。
 こんなお先真っ暗の人生と決別して、今度はちゃんと生きたい。
 もちろん、生まれ変われるなんて保証はどこにもないし、
 この答えだって抽象的かもしれないけど、僕は生まれ変わることを心から願った。
「リセットするの?」
「うん、そうだね。今までの僕をリセットだね」
「出来るといいですね」
 彼女は相変わらず無表情だったけれど、
 なんとなく本気でそう言ってくれていることは伝わったので
 僕も素直に「ありがとう」とだけ言って再び本の世界へと戻っていく彼女を見送った。            

 地下鉄に乗っているのかと思うくらい、窓の外が闇を落とし始めた頃
 僕は地図を広げて、これから向かう場所をヒナに説明した。
「夕日岬っていう場所に行こうと思うんだ」
 ここ、と言って僕は海に向かって突起した、“つ”の字型の地形を指差す。
「どうして、ここなんですか?」
「小さいときに両親と旅行で行ったんだ。そのとき、この岬の展望台から眺めた景色が綺麗でさ」
 そこから見える景色は今までに僕が見た景色の中でいちばん綺麗だった。
 空と海を隔てるように引かれた水平線。
 そこに柑橘系の果実とも呼べる酸っぱそうな夕日がゆっくりと吸い込まれていくと
 それに反応するように水面がきらきらと光って、僕と父と母をオレンジに染める。
「一日はここで始まってここで終わるんだな、なんて親父とお袋の手を握りながら思ってたよ」
「ここで始まって、ここで終わる……」
「明日、僕はここから飛び降りる。死ぬにはピッタリの場所だろ?」
 ヒナがこくりと頷いた。

 夜11時過ぎ、ぼんやりと電灯が灯る車内に
 車輪と線路が鳴らすカタン、カタン、というリズムと、他の乗客たちの寝息だけが響き始めた頃、
 ヒナは今まで読んでいた本を閉じて、バッグのファスナーを開けた。
「ヒナは旅の準備万端って感じだね」僕は笑った。
「瑞樹さんは、手ぶらですね」
 相変わらずヒナはぶっきらぼうに必要以上の言葉は使わず、返事をした。
「これから死ぬ人間に歯ブラシも鏡も本もMDも必要ないだろ?」
 僕の荷物といえば、よれよれのジーンズのポケットに入った財布だけだった。
「死ぬ前に歯を磨いたり、寝癖を直したり、身なりを整えておいたほうが私はいいと思います」
そしてヒナは「何歳ですか?」と僕に聞いた。
「24」
「24年間、お世話になった体なんだから」
 ヒナの言うことは妙に説得力があった。
 あとで売店の人が来たら歯ブラシでも買うか。
「読みます?」
 ヒナはバッグにしまおうとしていた本を僕に差し出した。名前の知らない作家の本だ。
「ヒナはこの人の本、好きなの?」
「小日向 萌です。知りませんか?」
「知らない」
「今、人気なんです。彼女のエッセイ」
 顔の前で手をひらひらとふって読まない意志を示すと、
 ヒナは相変わらず無表情のまま、静かにバッグのファスナーを閉めた。

「今頃、みんなどうしてると思う?」
 僕は窓枠に肘を置いて、家族や友人のことを思い出していた。
 遺書なんて書いてないから、まだ僕がいなくなったことには誰も気づいていないだろうな。
 もし僕がいなくなったことに気づいたとしても誰も自殺しに行ったなんて思わないだろう。
「ヒナはさ、両親にちゃんと言ってきた?学校だって公欠とかにしてもらった?」
 予備校の講師っぽい質問だな、我ながらそう思った。
「そうゆうのは最初に聞くものじゃないですか?」
「ごめん、なんか自分のことで精一杯だったっていうか、その」
 あはは、と苦笑いをして頭を掻くと、ヒナは表情をピクリとも動かさずに
「それに片親です」
 僕は頭を掻いていたときの姿のまま、笑顔だけをゆっくりと消して「ごめん」と言った。
「いいです、別に。親には言わなくても平気です母は私になんて興味ないですから、全然。放任主義でしたから」
「いいな、そうゆうの」
 
 僕の父と母は厳しい人だった。
 小学校6年間、門限は5時で、それを破ろうものなら夕飯はおろか、
 朝食さえも抜かれることがあった。
 彼らは一人っ子の僕を溺愛していて、僕も幼いながらにそれを理解していた。
 ただ彼らは愛するが故に、その溺愛する息子を自分達のカゴの中に入れた。
 そうすることが彼らにとっての息子の守り方だった。
 だから僕は中学生くらいから、ヒナのような放任主義の親を持つことが羨ましかった。
 その頃の僕と言えば、過保護という透明な首輪を巻いていたようなものだから。
 僕が解放されたのは、大学を卒業してから、やっとだった。

「幼い頃から自由だったヒナが、羨ましいよ」
 一呼吸置いてから「想像してみてください」とヒナは言った。
「小さな子どもが、何もない砂漠にポツンと取り残されるんです」
 ヒナは口だけを動かし、僕の目を見ながら淡々と語る。
「どっちに歩けば、この砂漠を抜けられるんだろう?ママ。ママ。ママ。ママ。」
 気づいた。彼女がじっと見ていたものは、僕の目なんかではなく、もっと遠い場所。
 それは自分の幼い記憶。自由という砂漠に置き去りにされたあの日の少女。
「いくら呼んでも、母親からの返事はないんです」
 そして彼女は記憶から帰ってきて、今度こそ僕の目を見つめ、言った。
「自由って、そういうことです。母は私を愛していなかった」
 音楽聴きます、と彼女は僕の返事など待たずにイヤホンを耳にはめた。
 一体、彼女と母親の間に何があったんだろう。
 僕がいくら考えても答えなんかが出るはずがなかったし、
 なんだか触れてはいけないような、そんな気がした。

 ふと腕時計に目をやると0時を回っていた。
 僕が「そろそろ寝るよ」とこの車両の連結部のすぐ脇にあるトイレに向かうために席を立つと、
 ヒナは上目遣いに僕を見て、またすぐに視線を本へと戻した。
 願わくば彼女の聴いている音楽が明るいものならいい、僕はなんとなくそう思った。
                  
 トイレから戻ると、ヒナはすやすやと寝息を立てて眠ってしまっていた。
 普段は無表情で愛想のない彼女だけど、寝顔は普通の女子高生となんら変わりはない。
 僕が荷台に上げられた彼女のキツネ色のダッフルコートを取ってヒナにかけようとすると
 彼女の白い頬に一筋の涙が零れ落ちた。
 ヒナは一体、胸の奥に何を抱えているんだろう。
 それは僕なんかが想像つかないくらい深い闇なのかもしれない。
 窓の外では満月がこうこうと輝いていて、街灯か家の明かりがぽつぽつと星のように灯っていた。
 死ぬことを決めてからこうゆう景色を見ていると、不思議と生きている実感が沸く。
 生きているときはそんなものなかったのに。
「皮肉だな」
 僕はそういってゆっくりとヒナにコートをかけて、列車の窓にカーテンを引いた。               

 翌日の朝、重い瞼を開くと、すでにヒナは目を覚ましていて、
 僕に光が零れないようにカーテンを頭から被って外の景色を見ていた。
「おはよう」僕が彼女に声をかけると
「おはようございます」と彼女は何事もなかったかのようにカーテンの中から出てきた。
「あ、あれ?」
 気づくとヒナのダッフルコートが僕のほうにかかっていた。
「昨夜(ゆうべ)そんなに着込んでるのに、くしゃみばっかりしてました」
 フードのついたジャケット姿の僕を見て彼女は言った。
「かけてくれたんだね、ありがとう」
 冷たそうに見える子だけど、本当はこうやって細かな心配りが出来る子なんだな、
 その優しさが温かくて嬉しかった。
「あ」
 僕はヒナの髪型を見て、くくくっと笑いを噛んだ。
「なんですか?」彼女はちょっと不機嫌そうに僕を見る。
「寝癖」
「寝癖?」
 ヒナの頭のてっぺんだけ、何かの電波を察知したのか、髪がぴょこんと立っている。
 無表情で愛想のない彼女の頭の上に出来た寝癖はどこかミスマッチだったけれど、
 そのミスマッチが滑稽で、僕はかみ殺していた笑いを殺しきれずに、腹を抱えて笑った。
 彼女は頬を赤らめ手鏡をバッグから出して、慌てて手でサッサッと直したけれど
 完璧には収まりきらずに、ぴょこんとたっていた寝癖が少しだけ傾いただけだった。
「笑いすぎです」
「だって、ヒナが寝癖ついてるなんて思わなかったからさ」
「トイレで直してきます」
 こんなこといったら失礼だけど、彼女が初めて見せた普通の女の子らしさだった。

「世界が終わったみたいだね」
 東京から何時間も離れた10分停車の駅の構内は朝9時なのにがらんとしていた。
 都会のほうへ行けば、人を交わしながらじゃなきゃ歩けないホームも
 山沿いのこの駅では人数もまばらだ。
 でも今頃、向こうでは当たり前のように一日が始まっていて、
 僕もここにいなければ、今頃スーツでも着て予備校に向かっている頃だ。
 そしてヒナも、電車に揺られて学校へ向かっている頃だろう。
 そんなことを考えていると改めて、今ここにいる自分が非日常的に思えて、
 同時に日常から抜け出せたという安堵感が僕の胸を埋めていった。
「あ、あれ?ヒナ、これ」
 駅弁を買うために訪れた売店で目に入ったスポーツ新聞の一面の見出しはこういうものだった。

「作家の小日向 萌(41)自宅のマンションで刺殺体で発見」

 そう。つい昨日、彼女が熱心に読んでいた本の作者だ。
「買う?」
 僕は新聞を指差し、聞いた。
「いいですよ。別に」
 彼女はいつものように無表情なままだったので、そこからは何も読み取ることは出来なかった。
 ヒナと小日向 萌とは作者と読者という関係で繋がっていて、他人ではない。
 だったら少しくらい小日向 萌の死に興味を持っていいのではないか?と僕は思ったけれど
 ヒナは一向に、その死に興味を示さなかった。
 その態度は僕の胸の中に期待感や希望を落とした。
 ヒナなら、僕の死を黙って見届けてくれる。

 僕は売店で駅弁を買った。
 凍てつく空気が僕とヒナの体温をすぐに奪ってゆく。
「中、入ろう」
 僕とヒナは首をすぼめながら車内に戻った。

 僕の人生の最終日が静かに動き出していた。

「あのさ、あの、言いにくいんだけど」
 僕は駅弁の包装紙のセロハンテープを丁寧に取りながらヒナに聞いた。
「オレンジくれたらおしえてくれるってヒナが言った、ほら、あの」
「好きって言うのは嘘かホントかのやつですか?」
「そう。その公約ってまだ生きてる?」
「いいですよ、オレンジくれたら教えてあげます、本当に先生を好きか、嫌いか」
 好きだからどうとか、嫌いだからどうとか、そうゆう下心はないけれど
死ぬ前にハッキリさせておきたかった。
 駅弁を買ったとき、中身は見ずに買ったので、
 今の僕にはこのあずき色のプラスチックの弁当箱の中に
 オレンジが入っているか入っていないのかわからない。
 心臓をバクバク鳴らしながら、弁当箱の蓋に手を置いてゆっくりと持ち上げた。
 僕は一品一品丁寧に順番に見ていく。
 炊き込みご飯。漬物。煮物。白身のフライ。ポテトサラダ。
 ポテトサラダ。白身のフライ。煮物。漬物。炊き込みご飯。
 どれだけ見てもオレンジの姿は見当たらなかった。
「残念」
 ヒナはあっけなくそう言って本を開き、この問題の答えに鍵をかけた。
 あ。
 そのとき頭の中にひとつの考えがよぎった。
 例えばヒナが僕のことを好きなら、彼女は僕の自殺を必死に止めただろう。
 それなのにヒナは僕の死にたい気持ちを肯定して、
 その死を見届けるために今こうして列車に揺られている。
 ということは言い換えれば彼女は僕が死んでも困らないわけで、
 それって好きじゃないってことなんじゃないだろうか。
「何、じろじろ見てるんですか?」
「あ。いや」
 結局、答えは彼女の胸の中にだけ真空パックで保存されているのだ。               
 トンネルを抜けると一気に窓の外は雪景色へと変わった。
 まだ書き初めの風景画の画用紙のように白ばかりの景色を僕は眺めていた。

 その日の夕方、列車は予定通り夕日岬駅へと到着した。
 僕はあと何時間か後には死ねるんだ。


 後編                         


 僕はパトカーの後部座席に座り、駅まで送ってもらっていた。
 すっかり日が落ちた窓の外は、すでに雪が止んでいて
 死にきれなかった透明の男の顔が写っている。
「刑事さん」
 僕は額の辺りをかきながら両脇に座った中年の男と若い男、どちらともなくそう聞いた。
 返事をしたのは中年の男だった。
「なにか?」
「……ヒナは、どうなってしまうんでしょうか?」

 自殺の計画は夕日岬の展望台へ到着するまでは完璧だった。
 僕はもう何分か後には飛び降りて死んでいるはずだった。
 でも僕の知らない間に二つの計算違いが生まれていた。
 そして、その計算違いは僕がこの旅に出る前から用意されていたもので
到底、予期できるものではなかった。

 まず一つ目の計算違い。
 それは僕が幼いときに父と母に連れられてこの地へ来ていたこと。
 駅前に揺れるおみやげと書かれた旗や、わずかだけれど記憶にある狭い道は
 僕を幼い頃へと引き戻して懐かしい気持ちにさせた。
 夕日岬の展望台でもそうだった。

「ここでさ、夕日を見たんだ」
 僕とヒナは柵のギリギリから灰色の冬の海を眺めていた。
 波はまるで僕を死の世界に誘うように静かにうねっていて
(大丈夫、慌てなくもすぐ行くよ)
 僕は心の中でつぶやいた。
 そう。この景色を懐かしむことなく、僕はすぐに飛び降りるべきだった。
 そうすれば、僕は二つ目の計算違いを知ることなく死ねたかもしれない。

 そして、その二つ目の計算違いこそが、僕の最大の計算違いで、そして後悔でもある。
 僕はもっと早く気づくべきだったのだ。
 昨夜、ヒナが眠りながら見せた涙の意味を。

「ヒナ、一人で帰れる?」
 飛び降りる前に、僕はヒナに確認をした。
「これから死ぬんだから、ヒナがちゃんと帰ろうが帰れなかろうが僕には関係ない」
 そう思ってしまえばそれまでだけれど、僕はそこまで薄情ではないし、
 ここまで来てもらった恩もあった。
 僕はもう要らなくなった財布を「このお金で切符買って」と渡し、
 いよいよ生と死の境界線とも呼べる展望台の周りを囲む柵に足をかけた。
 この柵の先には、ごつごつとした岩肌があったがちょっと歩けばすぐ下は海だった。
 これで死ねる。僕は死んで生まれ変わって、また新しい人生をやり直せる。

「あの」と背中でヒナの声がした。
 僕は柵に足をかけたまま振り返る。
「ん?」
「最期だから言いますけど……」
「なに?」
「昨日、先生、私に聞きましたよね「なんで君は僕の死を見届けてくれるって言ったの?」って」
「うん、聞いたよ」
「見届けるなんて嘘です」
 彼女は雪を踏む、茶色のローファーをじっと見つめたまま、そう言った。
「あ。え?どういうこと?」
 あまりに咄嗟のことで、わけがわからないまま
 僕は柵にかけた足をいったん元の位置へと戻してヒナに聞いた。
「嘘ってどういうこと?」
「私もここへ死にに来たんです」
 そして彼女は彼女の抱えていた苦悩について語り始めた。
「死にたいと思い始めたのは、父が亡くなって、母が暴力を振るい始めた2年前からです」
 僕はヒナを見つめ、話を聞いた。
「母は突然すぎる父の死に対する悲しみや怒りを、どこに持って行けばいいのかわからなかったんだと思います。その怒りは娘の私にぶつけられました。理不尽だと思いました。悲しいのはあなただけじゃない。泣きたいのはあなただけじゃない。灰皿で殴られながら、ずっとそんなことを思っていました。私は何度も手首を切りました。でも血は出ても死ねませんでした。頭では死にたいと思っているのに、体が勝手に防衛反応みたいなものを起こして、カッターは動脈まで届きませんでした」
 彼女はそう言って左手にはめられた腕時計を外し、いくつもの線で出来た、
 みみずばれのような茶色い傷を僕に見せた。
「母は私の手首の傷を見て言いました。おまえがあの人の代わりに死ねばよかったんだ、って。母は私には執着や関心はありませんでした。私は砂漠に放り出されたような気持ちになりました。何もない砂漠でひとりぼっちになったような気持ち。予備校は、そんな私の唯一の逃げ場でした。母におびえることなく時間を過ごせる。そんな場所でした。そこで先生に出会って、そして集団ボイコットのあの日、私と同じように死のうとしている先生を見かけた。だから利用しようと思ったんです。一人で死ねないなら誰かと死のうって」
「じゃぁ、あの場で一緒に飛び降りればよかったじゃないか。なんで僕を止めたんだい?」
「あの日、私、言いましたよね」と彼女は言った。
「どうせ死ぬならもっと見晴らしのいいところから飛びなよ、って」
「う、うん。言ってた」
「見届けるって言ったのは嘘だけど、それは本心です。私だって、あんな汚い場所から嫌でした」

 そのとき展望台の入り口にサイレンをおさえて走ってきたパトカーが止まり
 二人の男が僕たちのほうへ近づいてくるのが見えた。
 僕たちが自殺をしようとしていることがバレた?
 胸がドクドクと鳴った。
 いや、バレているはずがない。
 もしかしたら電車の中で僕らの会話を聞いた人が通報したのか?という思いもあったけれど、
 それは中年の刑事の言葉によって、すぐにかき消された。
「向田 日名子さんですね?」
 そういって二人の刑事はそれぞれのコートの胸ポケットから、警察手帳を開きヒナに見せる。
 僕じゃない?
 おかしい。もし、電車の中での会話を聞いて通報した人がいるなら
「死ぬ」と言っていたのは僕だし「男の人が自殺をしようとしている」という通報が行くはずだ。
 仮にその乗客がヒナも自殺するものだと思い込んで通報していたとしたら、
 僕も刑事に「島本 瑞樹さんですね」と名前の確認をとられるはずである。
 それなのに中年の刑事はヒナの名前だけを告げた。どうして?

「小日向 萌、殺害容疑で逮捕する」
 そういって、中年刑事は逮捕状と書かれた紙を広げヒナに見せて
 若い刑事が「18時04分、逮捕」と慣れた言い回しで言った。
「小日向 萌の本名は向田 萌。私の母です」
 手錠をかけられたヒナは相変わらず無表情のままそう言って
「私が殺しました」と刑事ではなく僕に向かってポツリと呟いた。

 死ぬ気も生きる気もなくなって
 考えることさえ面倒で
 悲しいのか嬉しいのか泣きたいのか笑いたいのか
 僕にはわからなかった。

「あなたは?」と刑事に聞かれて我に帰った。
「その人は、地元の人です。私をここまで案内してくれたんです」
 そう言ってヒナは口だけを動かし「マタシネナカッタ」と言った。

“一応”ということで警察署で簡単な取調べが終わると、
 僕は釈放され中年刑事がパトカーで駅まで送ってくれた。
 僕の隣にヒナはいなかった。
 すっかり日が落ちた窓の外は、すでに雪が止んでいて
 死にきれなかった透明の男の顔が写っている。
「刑事さん」
 僕は額の辺りをかきながら両脇に座った中年の男と若い男、どちらともなくそう聞いた。
 返事をしたのは中年の男だった。
「なにか?」
「……ヒナは、どうなってしまうんでしょうか?」
「まぁ、裁判次第ですが、人ひとり殺してるんでね、更生施設へ送られると思います」
「そうですか」

 ヒナ。

 僕は自分が死ねなかったことより、
 彼女の抱えていた闇から彼女を救い出せなかったことのほうが悔しかった。
 不思議とそんなことが僕に生きる気持ちというものを呼び戻していた。
 ヒナのために、僕には何が出来るだろう。

 小日向 萌を殺した自殺願望のある少女Aは更生施設へと送られた。
 テレビではヒナのプライバシーを考え、「小日向 萌の娘」という事実は伏せられた。

 僕の日常は死ぬ前と変わりない生活を取り戻していて
 相変わらず僕は予備校の講師をしていて、相変わらず生徒にはいじめられていた。
 そんな変わりない日々の中にも、まえとは違った日課みたいなものが出来ていた。
 ヒナのいる施設に面会に行くことだ。

 ガラスで仕切られた殺風景な部屋にヒナが看守に連れられて入ってくる。
 いつものように、上下灰色のスエットに身を包んで。
「やぁ」
 僕は軽く手をあげた。
「まだ生きていたんですか?」
 彼女は無表情のままパイプ椅子に座り、もうお決まりになった台詞を言う。
「君が生きているうちは死ねないよ」
(一緒に死のうとした仲なんだから)僕はガラスに顔を近づけて小声で言った。
「本、読んだよ。君のお母さんの」
 僕はあれから、彼女の母親の本を買いあさり、その全てを読んだ。
 小日向 萌のことが知りたかったんじゃない。
 なぜ、ヒナは憎み殺した母親の本を、あんなに真剣に読んでいたのか。
 その行動の意味を知りたかったのだ。
 そして僕は小日向 萌のエッセイを読んでいくに連れて、ひとつの結論に行き着いた。
「君は虐待されても、殺しても、母親を理解しようとしていたんだね」
 ヒナはその僕の問いには答えなかったので、その真意はわからない。
 でも僕はそんな感じがしていた。
 彼女は理解できたんだろうか?自分の母親のことを。
「先生、早く死んで生まれ変わりたい」
「ヒナがここから出たらまた夕日岬へ行こうよ」

 面接のあと、僕はいつもどおり予備校へと向かった。
 教室の前へ着き、僕は扉の前で大きく息を吸って吐いた。
「今日はダイジョブ、今日はダイジョブ」
 扉を開けると、生徒が僕を見てニヤニヤしている。
 僕を無視して友人と話し込んでいる生徒もいる。
「そ、それじゃぁ、始めようか?」
 胃がキリキリと痛む。
 次の瞬間、教科書が飛んできて僕の額に当たった。
「あ。すいません、飛んじゃいましたぁ」
「教科書は投げるものじゃないよ?ね」
「先生、最近、向田さんの姿が見えないんですけど」
 一人の生徒がワザとそう聞いた。
 事件の後、この予備校にもマスコミが訪れて、彼女について無断の取材があった。
 だからヒナが母親を殺したというのは、みんなが知っている事実だった。

「テキストのP35、開いてください。ここ受験にでますよ」
 僕は無視して授業を進める。
「でもさ、いなくなってせいせいしたよね」
 一人の女子高生が机に置いた鏡で髪を直しながら言った。
「それ言えてるかも。なんかあいつがいると空気悪いし」
「どうりで空気悪いと思ったら殺人犯だったとはね」
「俺らとは住む世界が違うってことだよ」
「殺人犯と勉強してたなんて怖い怖い」
「あたしなんて同じ高校だよ?もっと怖いんだけど」
 ほとんどの生徒がニヤニヤと笑っている。

「おまえらがヒナのことどやかく言うんじゃねーよ!」
「は?」
 いじめられっこ教師の初めての反抗に戸惑いながら、生徒達は眉間に皺を寄せて僕を睨んだ。
 気づいたら僕は目の前にあった教卓を蹴り、誰かれかまわずテキストを投げつけた。
「おまえらにはわからねーよ、ちゃんと帰る場所があって、親にチヤホヤされて甘やかされながら育ったお前らにはな!どこにも居場所のないヒナの気持ちなんてわかんねーよ!生きてることより死ぬことのほうがラクだなんて思ったことないだろ?手首、切ったことないだろ?あいつは死ぬことしか選べなかったんだ。死にたいと思う人間はな、本当はいちばん生きていたい人間なんだよ!生きたくてしょうがねーんだよ!生きたい世界で死ぬしか選べないことがどんなに苦痛か、おまえらわかってんのかよ!人間はな、みんな生きてて楽しいって思わなくちゃいけないんだよ。死にたいって思うような世界じゃいけないんだよ!そんな世界を作ったのはな、おまえらだよ。僕だよ!人間だよ!同じ人間だよ!馬鹿だよ、狂ってるよ!」

 そして僕は目に付いた一人の生徒を殴った。
 鼻が鈍い音をして、くにゃりと曲がって赤黒い血がでた。
 教室が一瞬にしてざわめきに包まれる。
 驚いて泣き出す女子もいた。
 僕は机を次々と蹴って倒し、言葉になっていない言葉で何かを叫んでいた。
 気づいたら泣いていた。
 体の内から全ての悲しみや怒りを出すように、ただ叫びながら泣き続けた。
 事務所から慌てて他の講師や警備員がやってきて、僕を取り押さえる。
「離せ!おまえら、ヒナに謝れ!」

 僕はその日のうちに予備校の講師をクビになり、職を失った。
 何もかも失った。もう空っぽだ。
 帰り道で見上げる都会の夜空には満月といくつかの星が出ていて、
 皮肉にも初めて都会の夜空を綺麗だと思った。
 空虚感が少しずつしぼんでいく感じがした。

 ――4年後。

 木の葉舞う秋。
 今日はヒナが仮出所という形で更生施設から退院する日だ。
 夕方、僕はヒナが出てくる施設の裏にある灰色の扉の前でヒナを待った。
 4時きっかりにヒナはあの日と同じ制服を着て、錆びついた扉を開けて出てきた。
 看守の人と何か一言二言交わし、彼女は深くお辞儀をする。
 そして枯葉を鳴らし、ゆっくりと僕に近づいてきて言った。
「なんだ。まだ生きていたんですか?」
 僕は返事をしない。
「あ。そうだ。夕日岬に行くんですよね。いいよ、行きましょ。今度こそ死ねるかしら?」
 そう言ってヒナは僕の先を歩き始める。
 彼女の背中はとても華奢に見えた。何かを背負うには薄すぎる背中だ。
「ヒナ?」
 僕は彼女のその背中にそっと声をかけた。
「生きよう」
 冷たくなり始めた秋の風が吹くと、振り返ったヒナの髪を揺らした。
「僕らは生きよう」
 僕の頬からはこらえていたはずの涙がこぼれていた。
 涙は温かくてしょっぱかった。
「職を失ってね、ひとつ、わかったことがあるんだ」
 彼女は何?と言うように少しだけ肩を挙げた。
「あの日、僕らは真っ暗な世界に希望を見つけられずに、生まれ変わってやり直すために旅に出た」
 ヒナは黙って僕を見て、静かに話を聞いている。
「でもね、人は生きていても生まれ変われる。何度でも」
「少しの行動力ときっかけさ」と僕は続ける。
 僕は職を失ったあの日、生徒を殴ることによって、それまであった世界を壊した。
 殴ってよかったとは思わないけれど、
 僕はそれをきっかけに新しい職場に出会い、そして新しい人生を歩み始めた。
「今、ここから生まれ変わろう」

 生きよう、ヒナ。

 彼女の瞳から綺麗な雫が落ちた。
「本当に生まれ変われますか?」
「うん」
「殺人鬼でも?」
「うん」
「また新しい人生を送れますか?」
 そして次の瞬間彼女は僕の胸へ飛び込み、そして大声で泣いた。
「生きたいです」と。
 しばらく僕らは互いの命の温度を確認するようにそのまま抱き合っていた。
 初めて抱きしめたヒナの体は温かかった。

「あ。夕日」
 歩き始めた空には鮮やかなオレンジ色の夕日が空を染めていた。
 ふいにヒナが「本当ですよ」と言ったので、わけがわからず「うん?」と首を傾げると、
 彼女は夕日を指して「オレンジ」と言った。
 そうゆうことか。
 そしてヒナは「もう言いませんからね」と笑った。
 それは彼女が見せた初めての笑顔だった。

 僕らの明日はどんなものかわからない。
 また落ち込むときや悲しい出来事が起こるだろう。
 もしかしたら死にたいと思うときがくるかもしれない。
 あの日、僕らは先の見えない真っ暗な世界に光を見つけられないまま、
 その暗闇に怯え、見えない明日に怯えていた。
 でもわかったことがある。
 見えないから立ち止まるのではなく、見えないから進むんだ。

「明日も晴れるといいですね」
「晴れるよ、きっと」

 僕らは今、静かに歩き始めた。
 夕日が照らすオレンジの道の上、この終わりなき旅路を。



2004/05/17(Mon)01:34:04 公開 /
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■作者からのメッセージ
管理人様には感謝の気持ちでいっぱいです。
復活して本当に良かったです。
この作品は以前「終わりなき旅路」という作品で前編だけ投稿した作品ですが、タイトルを変えて完結編です☆書き終わってみれば反省の多い作品になってしまいましたが、読んでもらえれば幸いです♪
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