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『春風に遊ばれて』 作者:名も無き詩人 / 未分類 未分類
全角14713文字
容量29426 bytes
原稿用紙約49.15枚
 退屈な日常。変わり映えのない世界。一日一日が何の変わり映えもなく流れていく。
 世の中の人はそんな毎日をくり返し、歳をとっていく。
 だから僕もそうやって歳を取っていくと思っていた。だけども、僕は思い違いをしていたんだ。
 その事を後になって思い知る事になる。



 あれはまだ春のサクラのにおいが感じられる季節だったと思う。
 僕は新学期を迎えるにあたって。文房具を買いに、友だちとよく行く文房具屋に向かった。
 財布には五百円玉と百円玉が三枚、それに十円玉が数枚入っている。
 それをお気に入りの財布に入れて、肌身離さず手で握っていた。

 このお気に入りの財布は叔母に買ってもらったもので、黄色い縁の青い財布であり、
 買ってもらった当時からずっと使っている一番の宝物である。

 文房具屋に着くと、まずはノートを探し始めた。最近ではキャラクタもののノートが流行っているらしく。
 友だちの何人かも自慢そうに見せびらかしていた。だから、僕も好きなキャラが描かれているノートを探していた。

 一段目は淡いブルーのノートで何か文字が書かれている大人風のノートだ。
 二段目も同じ大人風のノートだがリング付きであった。そして、三段目にやっとお気に入りのキャラの絵が見えた。
 それは、子供から見たらまるでヒーローの様な格好をしたキャラが剣を掲げている絵だ。
 僕がそのノートを手に取ろうとしたとき、横から乱暴にそのノートを取ったヤツがいた。

「あった。あった。探してたんだよな」

 僕よりも背が高く体のでかい少年が僕の見ている目の前でそのノートを手に取った。僕は恨めしそうに少年を見上げた。

「何だよ。お前もこれ欲しかったのか? でも残念だったな。早いものがちだからな」

 少年はいやらしい笑みを浮かべてノートをレジに持っていった。

 僕は再び三段目を見るが。あれが最後の一冊だったのか。あのキャラの顔はどこにもない。
 僕はがっくりと肩を落とし、仕方なくその隣にあったブルーの花の絵が描いてあるノートを買った。

 百円玉を二枚だして、おつりが十円玉二枚帰ってきた。

 僕はそれを財布に入れてノートを抱え文房具屋を後にする。
 先ほどの嫌な出来事を振り払うために、僕は帰りがけに公園によることにした。

 僕の家の近くには森に覆われた大きな公園がある。公園の中には、林に囲まれてジョギングできる所や
 夏になると開かれるプールなどがあった。

 今は四月なのでもうすでに何本か、桜の木が花を咲かせていた。

 僕はサクラ道を通り抜け、脇道に入る。
 その脇道は人が一人通れる位の幅でとても狭い。

 けれども、そこを抜けると壮大な景色が目の前に現れた。
 そう、ここは僕の秘密の場所。

 丘の上にあるこの公園のとっておきの場所なんだ。
 たぶん、知っているのは僕だけしかいないと思う。
 クラスの奴らにも教えたことはない。そんな場所だ。

 僕は近くの木にもたれかかり、先ほどの嫌なことを忘れるため一万円の景色を楽しんだ。
 ちなみに、一万円の景色と命名したのは僕だ。
 なぜ一万円かって、それは僕が貰った小遣いの中で一番高い金額だからだ。

 そして、小一時間経った頃、嫌なことも綺麗さっぱりしたので家に帰ることにした。
 そんな時、ふと気づいた事があった。僕のズボンのポケットに財布が入っていないのだ。
 もう一度確認したがポケットから出てくるのはゴミだけで、いくら探しても財布は出てこない。

 僕の顔がサッと真っ青になる。

 僕はすぐさまここから文房具屋までの道のりを戻り始めた。
 まずは、細い脇道から探し始める。

 脇道の地面をくまなく探したが財布は見つからなかった。
 次にサクラ道に出てもう一度地面を探したがやっぱり財布の姿はなかった。

 そんな時、いきなり風がビューッと吹き、地面に落ちていた花びらが再び息を吹き返し、空に舞った。
 そして、そのサクラが舞い落ちる中に一人の女の子が立っていることに気が付いた。

 女の子は大きめの真っ白い帽子を被り。その帽子を風で落ちないように必死で押さえていた。
 それと同時に女の子が着ているワンピースの中を春風が通り抜け、まるで花びらの様にスカートが膨らんだ。
 僕はおとぎ話の世界に迷い込んでしまったのではないかと思い、一瞬呆けてしまった。

 春風の悪戯も収まり、女の子は服に付いたサクラの花びらをはらう。
 そして、僕の存在に気が付いた。女の子は少しぎこちなく笑い、サクラ道の奥へと消えていった。
 僕は息を飲み、女の子の姿を追いかけていた。何だか初めて感じた気持ちだった。

 何故か心臓が痛いほどドクドクと脈動していた。けれども、その痛みは辛いと言うよりも心地よい感じがした。
 この時の僕は、今日あった嫌な事や財布を無くしてしまった事さえも忘れていた。

 季節は春。まだまだ、サクラが咲き始めた頃。僕はその少女と出会った。



 このお話しは男の子と女の子の出会いの物語である。
 先に断っておくが剣や魔法が飛び交うお話しでもなく、奇妙な殺人事件に巻き込まれるお話しでもない。

 ただただ、日常の中で描かれていく二人の物語である。

 他の人に取っては何の変哲もない退屈な出来事だけど。
 僕らに取って、それはかけがえのない特別な出来事だったんだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

『キ〜ンコ〜カ〜ンコ〜キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜』

 放課後を告げる鐘の音がし、皆一斉に挨拶をする。

「先生さようなら」

 教壇に立つ先生はそれを聞いて教室を出た。

 僕以外の奴らは皆一様に放課後の予定を話し始めた。
 まあ、僕にはあまり関係のない話だ。
 僕は教科書をカバンに入れて背中に背負った。
 その後教室を出ようとしたとき、突然後ろから声をかけられた。


 僕はまさか声をかけられるとは思っていなかったので、
 一瞬何を言われているのか分からなかった。

「おい! 大喜。お前も俺たちとサッカーしないか? 人数が足りなくてさ」

 さわやかな笑みを浮かべ彼は僕に言った。

「いや、僕はいいよ」

 僕は素っ気ない態度をとってそのまま教室を出た。後に残された少年達はヒソヒソと話し始める。

「あいつさ。いつも一人でいるよな。友だちいないじゃない?」

「案外そうかもよ。それにあいつ、母子家庭なんだって」

「母子家庭?」

 ちょっと小柄の少年が聞く。

「ああ、あいつ父ちゃんいないんだとよ」

「かわいそう」

「ああ、確かにかわいそうだな」

 その中一人だけ話しに加わっていない少年がいた。

「俺はそうは思わないな。『かわいそう』っていうのは自分より弱い立場のものにいう言葉だ。
 少なくともあいつはお前らより弱くない」

 少年はそう言うと腰掛けていた机から降りる。

「まあ、いいや。それよりも、数は足りないけどサッカーやるか」

 そう言って少年達は教室を後にした。



 その頃、僕は教室を出て図書室へと向かっていた。この学校の図書館は結構広い作りになっており。
 それに、小さな子供や老人までもが利用できる用になっている。僕はカウンターの人に声をかけた。

「あら、大喜君」

「こんにちは野々村さん」

 僕は軽く会釈をする。野々村さんはここの図書館を管理している司書さんで、
 いつもみんなが楽しく図書館を利用できるように管理している人なんだ。
 学校の生徒にも人気があって。特に男子に人気がある。

「そうそう、大喜君が予約してたアレ届いてるわよ」

 野々村さんはにこりと笑って後ろの棚から一冊の本を取り出す。

「それにしても小学生五年生にはちょっと難しい本よ」

「いいんですよ。その本で」

 僕は図書カードを入れる袋を取り出す。野々村さんから本を受け取り、図書カードに名前を書く。
 『鳴海大喜』っと。しっかりとした字で。僕は図書カードを袋に入れて野々村さんに渡した。

「分かったわ。本当は小学生に、貸しちゃいけないんだけど。内緒よ」

 野々村さんは片目をつぶってウインクした。僕はこくりと頷くと。
 カバンに借りた本を入れ、図書室を後にした。

 校舎の中はすでに人の姿はなく。下駄箱も人の姿はなかった。
 僕は靴箱から靴を取り、上履きを靴箱に放り込んだ。

 空は夕暮れに染まり、昼の景色とは別の顔を覗かせる。

 それもほんの一瞬の間だけの景色。
 僕は学校を出ると急ぎ足で公園へと向かった。

 あそこからの景色は今の時間が一番綺麗なのだ。
 これを逃すとまた明日までお預けになってしまう。

 これが僕の学校帰りの日課なんだ。

 僕は商店街を抜け、団地を通り抜ける。日は少しずつ傾きかけてきた。
 僕はとっておきの近道を抜けることにした。
 そこは、少々入り組んでおり小さい家が建ち並んでいるところなので、迷いやすい。
 しかし、僕はその道を完璧に把握し、公園への近道を発見したのである。

 名前をスターロードと名付け。僕だけの近道として使っている。
 また、公園への近道の他に商店街への近道もあり、何かと便利に使っていた。

 僕は空を見上げて、走るペースをあげる。

 二つに分かれた道を左に曲がり、突き当たりを右にそして、見えてきた長い階段を一気に駆け上がった。
 僕は息を切らせながら全力で登った。

 やっと階段のてっぺんまで来るとさわやかな風が吹き、身体の熱を冷ます。
 僕は額の汗を拭い去り、再び走り出そうとした。

 その時、突然強い風が吹いた。それと同時に女性の叫び声が聞こえ。
 何か丸くて白いものが僕の頭に降り立った。よく見るとそれは白い帽子だった。

「それ、私の帽子‥返して」

 僕の目の前に白ワンピースの女の子が顔を赤らめて言う。僕の心臓は飛び上がる。
 目の前に立っていたのは昨日見たサクラ道の少女なのだ。
 いつまで経っても僕が帽子を返さないので少女は僕を睨み付ける。

「あ、ゴメン。えっと‥‥」

 僕はうまく回らない口調で、その帽子を少女に返した。少女は帽子を受け取るとすぐに頭にかぶせる。
 僕は周りがすでに紅く染まっていることに気づいた。まずい、そろそろ時間だ。
 僕はとっさに彼女の手を取り駆けだした。

「ちょっと、何するのよ!」

 少女は僕に向かって怒鳴り散らす。僕はそれを無視してサクラ道を通り抜け、脇道に入った。
 そして、目の前に広がる壮大な景色を見て、少女の怒鳴り声は収まった。


 その景色とは真っ赤に染まる町の景色。
 ビルや家全てが紅い絨毯に敷き詰められ、
 何もかもが別の景色として目に映っていた。

 その後、日はだんだんと傾き、紅い色は元の町の色へと戻っていき、
 全ては幻だったとさえ錯覚させるほどの短い景色を見せてくれた。


「ねえ、そろそろ手を放してくれない?」

 少女がそう言って初めて気が付いた。僕はずっと彼女の手を握りしめていたのだ。
 僕はすぐに手を放した。少女は両手で帽子のつばに触れ、僕に背を向ける。

 数秒が経った後、ふりかえり僕の顔をのぞき込む。
 僕はドキドキしながら少女の瞳をのぞき込む。
 少女の瞳は帽子のせいでよく見えなかった。彼女は僕に向かっていった。

「あなた名前は?」

 少女の良く通る声が僕の耳をくすぶる。

「えっと、僕は鳴海大喜」

 僕は大声で自分の名前を言う。

「大喜君か‥‥あたしは優花‥‥風見優花よ」

 そう言うと少女は僕の後ろを通り抜けて脇道へと消えていった。僕は慌てて彼女の後を覆うとする。
 けれども、いきなり強い風にあおられて目をつぶってしまう。

 次に目を開けたときにはすでに脇道には彼女の姿はなく。
 急いでサクラ道に戻っても彼女の姿はなかった。

「‥‥‥風見優花か」

 僕は彼女の名前を何度も何度も繰り返し口にし、帰路につくのであった。


 これが僕と彼女、風見優花との二度目の出会いであった。
 そして、この後彼女はとんでもない形で僕の前に現れるのであった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 人によっては一日は短いと感じるかも知れない。
 それに、一年間で考えたら365日もあるし、人間の一生で考えたら約29200日ある。
 だから一日は短いと言えるかも知れない。

 でも、この日はそんな短いと思える一日とは違っていたんだ。
 僕に取っては本当に長い長い一日になった。


 その日は何の変哲もない良く晴れた日の出来事であった。
 僕の学校では月曜日の朝には必ず朝会が開かれていた。

 四月だというのに太陽がぎらぎらしていて、汗が噴き出るくらい暑く。
 みな校長先生のだるい話しにうんざり顔だった。
 ちなみに僕もけだるさを隠せなかった。

 そもそも、何で毎週毎週校庭に列んで校長先生の話を聞かなきゃならんのか不思議でしょうがなかった。
 別に校内放送でやってもいいし、それがダメならプリント等でありがたい話し(僕はそうは思わない)を載せればいいのだ。

 今はまだ四月だからいいけど。これが七月になると最悪。熱射病で倒れるヤツが続出する始末。
 去年は八人くらいは倒れたと思う。

 それでも、学校と言うのは不思議なものでこういった規律は変えないのである。
 僕にはそれが不思議でならなかった。もっとも、小学生である僕が先生達に意見を言える訳もなく。
 そんな度胸もなかった。

 校長先生の挨拶が終わり、皆の顔はパッと明るくなった。
 僕らは一年生から順に校舎に入り、僕たち五年生も教室へと向かった。
 教室に入ると机に横になる連中が続出。そして、すぐに担任の先生が入ってきた。

「おっし! みんな揃ってるな」

 上はTシャツ、下はジャージの体育会系の担任が入ってきた。

「今日はみんなに良い知らせがある。なんと、うちのクラスに転校生がきたぞ」

 先生が合図をすると教室の扉が開いて一人の女の子が入ってきた。
 彼女は白いワンピースを着ており、肌も白く透けていた。
 それに腰まで長い髪が歩くたびに揺れていた。彼女は教壇の上に立ち、黒板に自分の名前を書いた。

『風見優花』と書かれた黒板の字に僕は仰天して立ち上がってしまう。

「お! 鳴海、どうした?」

 先生が僕を見て言う。

「いえ‥何でもありません」

 僕はそう言って席に座った。

「それじゃあ、自己紹介を」

 先生がそう言うと優花は凛とした顔をする。

「えっと、両親の都合で最近この町に引っ越して来ました風見優花といいます。みなさんよろしくお願いします」

 そう言って彼女の白い笑みが光った。

「うおおおお!!!」

 みな一斉に声を上げる。僕はあっけにとられていた。
 まさか彼女が転校してくるとは思っても見なかったからである。
 そんな、僕の心を見透かしてか、優花は僕の視線を見て再び笑みを浮かべた。

 僕の顔が一気に熱くなる。ちなみに、僕の事はお構いなしに、クラスから優花への質問タイムに映っていた。

「一つ目の質問。風見さんはどこに引っ越してきたの?」

 しきり屋の学級委員がまず最初の質問を投げかけた。

「えっと、丘の上にある大きなお屋敷よ」

 その答えに皆大声を上げる。

「俺知ってる! 確かあの屋敷すっげ〜でかいんだぞ」

 一人の少年がそう言って声を荒げた。

「じゃさあ、お父さんとかって何してるの?」

「うん。パパは飛行機のパイロット」

「すっげ〜」

 優花がそう言うと男子は一斉に声を上げた。

「おい! そろそろ授業を始めるから質問タイムはそれまで」

 先生の言葉に男子は文句を言うが先生のにらみで押し黙る。

「それじゃあ、風見さんの席は………」

「あ、先生。私は彼の隣でいいです」

 そう言うと彼女は僕の隣を指さして言った。

「鳴海の隣か…まあいいだろう」

 優花は僕ににっこりと微笑み小さな声でいった。

「来ちゃった♪」

 彼女はそれだけを言うと席に座る。そうして、一時間目の授業が始まった。


 一時間目の授業は算数で、小数のかけ算とわり算の勉強だった。
 先生は黒板にいくつもの数字を書き、説明する。

 僕はとりあえず、授業内容をノートに書き出そうとしたところでふと手を止めた。
 何故か隣の彼女が僕の事をじっと見つめているのだ。僕は少し考えてポンと手を打った。
 僕が先生にその事を伝えようとすると、彼女の右隣の人が先生にいった。

「先生! 風見さんが教科書が無いようなので見せてあげたいんですが」

「あ、すまんすまん。風見さんはまだ教科書が無かったんだな。それじゃあ、学級委員たのむよ」

 学級委員は『ハイ』っと返事をして机をつなげようとした。
 しかし、優花はにっこりと立ち上がり、やんわりとした笑みで言う。

「すみません。私、彼に教科書を見せて貰いますから」

 それを聞いて学級委員はむっとした表情になるがすぐに席に座った。

「それじゃあ、鳴海頼むよ」

「はっ、ハイ」

 僕はとっさに答えた。僕は渋々彼女の机に自分の机をくっつけた。みんなの視線が少し痛かった。

「あなたがさっさと私に教科書を見せないからこうなるのよ」

 彼女は怒った風に言う。僕はちょっとむっとするが、彼女の顔が目の前にあるのですぐに顔を背けた。

「まあ、いいわ。次からはちゃんとエスコートしてよね」

 そう言って彼女は僕の教科書を机と机の間に乗せた。授業は淡々と進み、先生が教科書の問題を書き写した。

「え〜と。誰かこの問題解けるか」

 先生がそう言うと皆一斉に先生の視線から目をそらす。僕はというと一瞬目をそらすのが遅れた。

「おっ、鳴海。目があったな。それじゃあ、答えてみろ」

 僕は顔をしかめた。はっきりと言って僕は算数はあまり得意な方ではなく。
 特に小数は苦手な部類に入る。小数点の位置が嫌いでよくその場所を間違ってしまう。
 僕がじっとたたずんでいると隣の彼女が僕にそっとノートを見せた。

『0.87×0.48=0.4176』と書かれていた。

「0.4176です」

「おお。良くわかったな」

 皆の顔が一斉に僕の顔に注目する。先生はその問題の説明を始めた。

「ありがとう」

 僕は小さな声で言ったが、彼女はそれには気づいていないのか黒板の字をノートに書き写していた。
 僕もとりあえず授業に集中することにした。

 そんな二人をじっと見ている者がいた先ほど優花に拒絶された学級委員だ。
 彼女はずり落ちたメガネを元の位置に戻す。その顔からは不満全開であり、怒りにも似た形相である。
 もっとも、彼女の顔はいつもむすっとしているので、はたから見たらたいして変わっていないようにも見えた。

 授業も後半になると集中力は途切れ、だらけ始める。
 そして、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴る。
 
「んじゃ、一時間目の授業は終わる。次は理科室で実験だからな。遅れるなよ」

 先生はそう言うと教室を後にした。優花は席から立ち上がり言った。

「次の時間は理科みたいね。じゃあ、理科室まで私を案内してよ」

 彼女はそう言うと、僕の手を取りすたすたと歩き始める。

「ちょっと、待ってよぉ〜! 僕まだ準備してないんだよ」

 僕は悲しい叫びをあげたが、彼女はそんなことお構いなしにぐいぐいと僕を引っ張る。
 僕は抵抗するすべもなく彼女を理科室まで案内するはめになる。

 そんな二人が出て行くのを一人の少年と先ほどの学級委員が見ていた。

「あいつも、なかなかやるな〜」

 にやにや顔の少年は机に乗っかり学級委員に向けていった。

「何にやにやしてるのよ! 気持ち悪いわね」

 学級委員の少女は少年を睨み付ける。その睨みに怖じけることもなく少年は更に口を開いた。

「やれやれ、こっちは機嫌が悪いときたか。まあ、俺には関係ないことだけどね」

「ええ、関係ないわよ。守には関係ないんだから」

「まあ、お節介ついでに言っておいてやるよ。理津子、ぐずぐずしていると転校生に先を越されるぞ」

 守と呼ばれた少年はそれだけを言うと教室を出て行った。

「そんなこと分かっているわよ」

 理津子と呼ばれた少女は誰に言う出もなく小さく呟いた。


 うちの学校の校舎は最近建たれたばかりのコンクリート製だ。
 昔は木造建てだったそうだが時代の流れと共に立て直されたのだと言う。
 コンクリートの壁に覆われた廊下はひんやりとしており、僕の熱を冷ます。

 僕は前を歩く少女に顔を向ける。彼女の整った顔立ちが周りの冷たさを和らげている。
 僕がそんな事を思っていると気づいたのか。彼女は立ち止まり僕の方に振り向いた。

「理科室はどっちよ?」

「えっと‥‥‥こっちだと逆方向だよ」

 それを聞いて彼女は僕の頭をこづいた。

「そう言うことは早く言いなさいよ」

 僕は頭を押さえる。彼女は口をとがらせたまま、僕の手を強引に引く。
 彼女の細い腕のどこにそんな力があるのか不思議だったが何故か僕は抵抗しようとは思わなかった。
 むしろ幸せを感じ、顔が自然とゆるむ。

 他の人から見たら気持ちが悪いと言われるかも知れないが、僕にとってはそれは久しぶりに感じた幸せだった。

「ところで、風見さん。どうしてこの学校に?」

「言い忘れていたけど、私のことは優花でいいよ。その代わり、あなたの事も大喜君って呼ばせて貰うから」

「分かったよ。えっと、優花はどうしてこの学校に? 確かあの屋敷からだとこの学校の学区外だったと思ったけど」

 僕は疑問に思ったことを優花に尋ねた。

「それは‥‥秘密です」

「え〜。それはないよ」

「ところで大喜君。あの部屋は何?」

 彼女は大きめの扉を指して言う。

「ああ、あそこね。確か今は使われてない教室だったと思うよ」

「ふ〜ん。ちょっと覗いて見ない」

「えっ、でも、もうそろそろ授業始まるよ」

「あ、恐いの?」

 彼女はジーと僕の顔を覗く。

「べ、別に恐くないよ」

「じゃあ、行きましょうか」

 優花はそう言うと教室の中へと入っていった。その教室の中は薄暗く少し埃くさかった。
 中を見渡すと去年運動会で使われたくす玉や獅子舞などが置かれていた。
 どうやらこの教室は物置に使われているみたいだ。よく見ればどれも見たことがあるものばかりであった。

「どうやらこの教室は物置として使われているみたいだね。さてと、そろそろ授業に戻らないと」

 僕は教室を出ようとすると何故か扉が開かなかった。

「ねえ」

 彼女は小さな声を言う。

「あなたはどうしてあの時、私をあの場所に連れてきてくれたの」

 そう質問されて僕は一瞬固まるが、思いきって答えた。

「いや、別に深い意味はないよ。ただ、僕の好きな景色を君に見せたかっただけだよ」

「ふ〜ん。そうなの‥‥ならさっきの質問にも答えてあげる」

 彼女は近くのマットの上に座る。僕も助けが来るまで待つことにした。

「本当を言うと。私、この学校に入るはずじゃなかったの」

「じゃあ、何でこの学校に」

「ふぅ〜。君はちょっと鈍感なのかな」

「どういう意味?」

「私はね。あなたがこの学校を通っているからこの学校に来たのよ」

 僕は唖然とする。

「まあ、男の子はちょっと鈍感なぐらいが、ちょうどいいのかもね。だから許してあげる。その代わり‥‥」

「‥‥その代わり?」

「私をどこかに連れて行って。どこでもいいから」

 彼女はにっこりと微笑む。僕はそんな彼女の微笑みに顔を赤らめる。

「‥‥無理かな?」

「いや、無理じゃないさ。そうだな今度の休みにもっと凄い景色を見せてあげるよ」

 僕は彼女の笑顔をもっと見たくそう言った。

「うん、期待している」

 僕と彼女の会話が終わった頃、いきなり教室の扉が開いた。

「こんなところにいたのか。大喜。探したぞ」

「守か。助かったよ」

「ここの教室の扉、立て付けが悪くさ。開けるのにコツがいるんだよ。お前も災難だったな。
 まあいいや、風見さんも一緒みたいだし。理科室に戻るよ」

 そう言って守は教室を出て行った。その後僕らは先生に事情を話し、授業を受けることにした。
 その後の授業は何のトラブルもなく、給食の時間となった。


 この学校の給食はよく考えられて作られており、生徒達にも評判である。
 今日の献立はクリームシチューとパンそれにコンソメスープという洋風となっていた。

 僕のクラスでは。給食の時間、いわば戦場と同じ場所になる。
 先生と早食い競争を挑むヤツや、昼休みをできるだけ長く取りたいため、速攻で食べるヤツもいる。
 あまり良い食べ方ではないのだが、このクラスではそれが当たり前だった。

 ただし、それにもルールがあり、先生の合図と共に食べること、
 他の人の迷惑になることはやらないこと、食べ物をこぼさないことなどのいくつかの制約があった。

 皆それを守り毎日激しいバトルが繰り広げられていた。

 ちなみに、僕はそんな下品な食べ方はしない。
 もちろん、休み時間は多く取りたいが、そのために早食いをするつもりはない。

 それに早食いをすると満腹中枢が満足されず、すぐにお腹が空くのである。
 それは非常に効率の良くないことである。
 美味しいものを良く噛んで食べることは、満腹中枢を満足させると同時に顎を発達させるので肥満になりにくい。
 もっともこういう事を知っている人はいないだろう。

 僕だって母さんが看護婦で、そう言った知識を聞かされていたから実行しているに過ぎない。
 だけども、僕はそれが正しい食べ方であると確信していた。母が言うことは間違いないのである。

 さてと、どのクラスも同じなのだが給食時は机をくっつけて、いくつかの班に分かれて食べる。
 ちなみに僕の班は僕を入れて四人いる。いや、前は三人だったのが優花が入ったことで四人となった。

 まずは、僕の左前で黙々とスプーンを動かすメガネの少女。
 彼女がこのクラスの学級委員、岡崎理津子。
 このクラスを仕切っている女子である。

 いつもいつもムスッとしているので給食中も話しをしたことはないし、いつも僕の事を睨み付けてくる女の子である。

 お次は僕の隣でパンをちぎってそれをスープにつけて食べている。変わった食べ方をしている少年、琢馬守。
 このクラスで一番の実力者。成績もトップクラスでスポーツも万能。顔も格好良くクラスの女子にも人気がある。
 ただし、性格が非常に特殊で一癖もふた癖もあり、世間で言うところの変わり者である。
 何故か僕の事をかっており、僕に何かと話しかけてくる。
 岡崎理津子とは幼なじみらしく何度か二人でいるところを見たことがある。

 まあ、ちょっとした問題児が集まった班である。
 先生も初めはこの班に優花を入れるか迷っていたみたいだが、
 優花が僕と一緒が良いと言ったので先生も無理に変えようとはしなかった。
 もっとも、そのせいでクラスの男子の目が僕を睨んでいるような気がしたが、とりあえずそれは無視した。


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 給食を食べ終わった頃、僕は優花にせかされてながらも、校舎の案内をすることになった。
 そこで、僕が最もお世話になっている場所に連れてくることにした。その場所とは‥‥。

「うっわ〜。凄い数の本っ!」

 優花は目を輝かせている。どうやらこの場所が気に入ったみたいだ。

「あら、大喜君。その子は?」

「あっ、野々村さん。えっと彼女は今日転校してきた風見優花さん」

 そう言われて優花はぺこりとお辞儀した。

「あら〜かわいいこね。大喜君のこれ?」

 野々村さんは歯を浮かせて笑い、小指を立てる。

「ちっ、ちが‥‥」「はい、私たちラブラブです」

 優花は僕の腕にからみつく。僕が否定する前に優花は先手をうったのだ。

「あらあら、見ていて微笑ましいわね。どうやらお邪魔みたいだから、私はこれで」

 そう言うと野々村さんは図書館の奥へと消えていった。
 そんな三人のやりとりを見ている者がいた。それも二人もだ。

「‥‥‥まるで恋人みたいだな」

「何で私に向かって言うの」

「いや、特に意味はない」

「だったら言わないでよ」

「いや、恋人になるのも時間の問題だな」

「‥‥‥‥」

「積極的な転校生と引っ込み思案なお前じゃな。勝負は見えているよ」

「‥‥‥‥」

「じゃあ、俺行くわ」

 そう言うと少年は図書館を出ようとする。だが一歩前に出ようとすると服を誰かに引っ張られた。

「何だよ。言いたいことがあるならいえよ」

「私だって‥‥好きだもん」

 少年は頭をかく。そして、ひらめいた。

「しかたねえな。俺が人肌脱いでやるよ」

 そう言って少年はにっこりと微笑んだ。少女の顔からは笑みがあふれた。

「じゃあ、計画を話すからな‥‥」

 そう言って少年は彼女の耳に口を当てた。

「というわけだ。やれるな」

 少女はこくりと頷き、少年の顔をのぞき言った。

「‥‥ありがとう。守」

「お礼なんていい。俺はお前の幼なじみだからな」

 少年は照れながら図書室を後にした。そんな彼を見て少女も笑った。



 そんな計画が進行しているとは思わずに僕はのんきに優花の案内を続けていた。
 そして、そろそろ昼休みが終わろうとしていた。

「次の授業は体育か」

 僕は憂鬱な顔になる。

「‥‥大喜は体育嫌いなの?」

「う〜ん。嫌いっていうかさ。ちょっとね」

「?」

 そんな僕の顔を見て優花はハテナマークを浮かべていた。

 さて、僕が何故体育が苦手かというと、別に運動が嫌いという訳ではない。
 走ったりすることは結構好きな方である。球技も上手ではないが好きである。
 だがしかし、そんな授業だからこそ意識してしまうことがあった。

 それは、女子の姿である。この頃になると女子の体型が著しく変化し始める。
 それも、体操服という薄い生地ではっきりといって身体の体型が丸見えなのである。
 小学五年生になると身体の変化が早いヤツは胸が大きくなり、お尻も出っ張ってくる。

 それに、気持ちがわるくて体育を休むヤツも出てくる。
 まあ、そんなヤツはごく稀だが、こういった期間は男子にとって興味の対象になるのである。
 女子にとっては嫌な気持ちになるだろうが男子にとってはドキドキの対象なのである。

 僕は何が言いたいかというと体育の授業は男女同じ教室で着替えをする。
 以前だったら意識しなかったのにこの時期になると胸だとか気になり出す。
 別におかしいことでも何でもないのだが男という生き物はそう言う風にできているんだと母はよく言っていた。

 そう言われているからと言って納得できる訳もなく。
 僕は早く着替えて教室を出ることにしている。
 しかし、今回はそうもいかなかった。何故ならば彼女が優花がいたからである。

 優花は何かと僕に自分の身体を見せようとする。特に胸を見せてくるのだ。
 彼女の胸はうちのクラスのどの女子よりも大きく形が良かった。
 それは、本来の男だったら嬉しい光景なのだが、僕はまだ小学五年生。
 顔を真っ赤にして黙々と着替えて教室を後にした。
 そして、下駄箱で靴を履き替えているとき、後ろからポンと肩を叩かれた。

「よう!」

「何だ‥守か」

「つれない顔するなよ。ところでさ、先生がお前に体育倉庫にあるボールを運んでおけって言ってたぞ」

「ふ〜ん。分かった」

 僕はそう言うと靴を履き替えて体育倉庫へと向かった。
 うちの学校の体育倉庫は校舎裏にあるプールのすぐ横にある。
 ちょっと古ぼけているがしっかりとした作りになっているところだ。
 僕は倉庫の中に入るとそこには先客がいた。

「何だ。岡崎さんか」

 僕は彼女の脇を通りボールの入ったかごを取り出した。

「岡崎さん。授業始まっちゃうよ」

 僕はそう岡崎さんに言ったが彼女の反応は無かった。
 僕は少し不気味に思ったので倉庫を出ようとした。
 その時、急に手を引っ張られた。

「待って!」

 僕の手を汗ばんだ彼女の手が掴んだ。

「えっと‥‥」

 僕は何とも言えない顔になる。

「わ、私‥‥鳴海君のこと‥‥」

 僕はごくりとつばを飲む。倉庫の中が何故か暑苦しい空気に変わる。

「えっと、その‥」

 いつも僕が知っている岡崎さんの態度がどこか変だった。
 いつもはムスッと僕の事を見ているのに、今日はどこか違っていた。

「‥‥‥‥」

 授業が始まるチャイムが鳴った。そして、辺りが急にシーンと静まり変える。
 僕はこの張りつめた空気を和らげるために声を出そうとした。けど、それよりも前に彼女の口が動いた。

「好きです‥‥‥私、鳴海君が好き。それだけ言いたかったの」

 そう言うと彼女は真っ赤な顔をして僕の脇をすり抜ける。
 僕はポカンとバカみたいに口を開き、彼女を追うでもなく。ただただ、呆然としていた。
 いきなりの告白に戸惑っているだけなのかもしれない。
 僕は思い出したようにボールのかごを取り出し運動場へと走り出した。

「どうだうまくいったか」

 守はにやりと笑い言う。理津子は顔を真っ赤にしてこくりと頷く。そして、守の脇を通り抜けた。

「そうか‥‥」

 守はすぐに真顔に戻り、理津子の背を見つめていた。


 その後の授業はどこか上の空だった。自分の取り巻く世界がいきなり変わり、
 どこへ行ったらいいのかさえも分からない状態。
 物語風で言えば、旅人といった感じだろう。いや、旅人はどこかの目的地を持っているだけましかも知れない。
 僕の歩く道は未だ霧に包まれている状態で迷い道。
 僕はもう一度ため息をついた。僕が元気がないせいで優花も僕を心配していた。

「大喜君。元気ないね」

「はあ〜」

 僕はもう一度ため息をついた。

「ねえねえ、大喜君。ため息を一つ吐くと幸せが一つ逃げちゃうんだよ」

 優花はにこり顔で僕の顔を覗く。そして、僕は初めて気が付いた。
 いつの間にか先生の挨拶も終わり、周りには人の姿がなかった。
 どうやら、ずっと考え事をしていたので周りのことに気が付かなかったみたいだ。

 僕はカバンに教科書を詰め込み。帰る準備をする。その横で優花はにこにこしていた。
そして、教科書をしまった後、彼女は僕の腕を掴み走り出した。

「ねえねえ、早くあの場所に行こう」

「あの場所?」

「ぶうぶう、もう忘れちゃったの? 私に昨日見せてくれた場所だよ」

「ああ、一万円の景色ね」

「一万円の景色?」

「うん。僕がつけた景色の名前。僕が貰った小遣いで一番高い金額なんだ」

「何か変な名前!」

「変かな?」

「変だよ。私だったらもうちょっと格好いい名前にするな」

「例えばどんな?」

「そうね。夕陽丘なんてどう?」

「何か安直じゃない」

「それじゃあ、カユナダってのはどう?」

「カユナダ? それの方が変な名前じゃん」

「も〜。文句ばかり言っているからカユナダに決定」

「そんなめちゃくちゃな」

「めちゃくちゃでも何でもカユナダなの」

 僕は苦笑する。この時だけは、今まで考えてきたことを忘れていた。
 いや、どうでも良いことになっていたのかも知れない。

 別に岡崎さんの事をどうでもいいと思っているわけじゃない。
 ただ、それをあれこれ考えるのがばかばかしく思えたからだ。

 僕にはもっと見るべきことがあるし、見せたい景色がある。
 たまには立ち止まるのもいいけど、僕は立ち止まらずに歩き続けたい。
 それが例えどんなに遅かろうと、そして僕の隣にいる彼女が入れさえすれば僕はいつまでも歩き続けると思った。

「あっ、今笑った」

「えっ、そうかな」

「そうだよ!」

 彼女は僕の顔をじっと見る。その顔がおかしくて僕は笑った。続いて彼女も笑った。
 僕は彼女の手を取り、駆けだした。僕は僕の道を見つけた。


 この物語は何の変哲もないただの日常を描いた二人だけの物語である。
 人にこんな話しをしてもたぶんつまらないかも知れないが。
 だけども、そんな日常だからこそ、かけがえのないものであることを。僕たちは知らない。
 そう、僕たちはまだ知らない。知らないからこそ笑っていられたんだ。


<<春風に遊ばれて【デート編】に続く>>
2004/05/27(Thu)20:31:12 公開 / 名も無き詩人
http://www15.ocn.ne.jp/~tuki/
■この作品の著作権は名も無き詩人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
遂に始まった。初のオリジナル恋物語。
前に書いたのはパロディ系だったので自分で
書いたキャラ達が恋に落ちていくなんてちょっとドキドキものです。
いや、マジで書いていて恥ずかしい時があります。

もっとも、私の今まで書いてきた小説は大抵男と女の恋愛を入れていますから。
すんなりといくと思いましたが、今回の登場人物達は全て小学生という設定。

まあ、あまり小学生らしからぬ発言をせぬようにしたいと思っていますが、
何せ初挑戦の連続。
読んで見ればあっちこっち穴があるかもしれません。

そう言うのを見かけたら感想等でお知らせしてくれると助かります。

第一回あとがき
遂に第一章とも言うべきお話しが終わった。うが〜! 何か良くわからないうちに展開がすすんでおります。
岡崎さんが恋のバトルに参戦し、それをたきつける守にも何かの思惑がありそう。
さて、第二章の話しはデート編。小学生のデートって一体どんなものなのでしょう。
たぶん、皆さんにもあまり思い浮かばないでしょう。
小学生でデートなんて生意気だと思う人もいるかもしれません。
まあ、そう言う人も温かく二人を見守って下さい。
ではでは、次のデート編でお会いしましょう。
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