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『天使と死神の色 序章〜第一話』 作者:翡翠流星 / 未分類 未分類
全角4154.5文字
容量8309 bytes
原稿用紙約14.35枚
〜Prologue〜




 世界から色が消えるんだって。

 …少なくとも私達は、そんなの嫌だ。



 全ての生物が心に宿す色。

 その色を、自分の色を、悪用する者達。

 世界を破壊しかねない、極めて危険な存在。




 少なくとも私達は、奴らを許すわけにはいかない。








 時間帯は、夜。

 もうボロボロで使われていない、町の隅の廃工場の中に、学制服に身を包んだ青年が仰向けに倒れている。
 目を瞑り、死人のように動かない。
 近くにネームが落ちていて、それには「八原 司郎」と彼の名前が書かれている。


 そんな青年を、二人の男女が見下ろしていた。


 一人は純白の衣を身に纏う、腰ほどまである金髪、大きい青い瞳を持つ少女。
 果たしてどういう原理か、頭の上に金色のわっかが浮いている。
 人は彼女を『天使』と呼ぶだろう。


 もう一人は漆黒のコートに身を包んだ、肩にかかるほどの黒い髪、鋭い黒い瞳を持つ青年。
 手にはめた白い手袋、皮膚を除けば、ほぼ全身が真っ黒だった。
 そして右手に、見るだけでも恐ろしい、大きな漆黒の鎌を持っていた。
 人は彼を『死神』と呼ぶだろう。


 そして天子の方は黄色の小さな宝石、死神の方は紅い小さな宝石を首からネックレスのようにかけていた。


 そんな二人が、倒れた男子生徒―歳は15、6歳ほどだろう―を見下ろし、同時に「やっと見つけた」と、呟いた。

「この男だな。『色』は?」

「待って。今、見るから」

 死神の青年の問に返答すると同時に、天使の少女は右手を真横に水平に伸ばした。
 その手の先の周りに黄色の光の帯が現れ、やがて1本の剣が収まった鞘になって具現する。
 純白の衣に身を包んだ天使にはおよそ相応しいとは思えない、漆黒の鞘。
 それから剣を抜き放ち、右手で柄をつかんで、剣先を倒れている青年の腹辺りに向ける。

「さ、どんなもんだ?」

 すぐに、剣先にほのかな紫色の光が揺らめいて現れた。

「紫だね。アメジスト、出して」

「あぁ…ほいっとな」

 今度は死神の方が左手を前に突き出し、見えないボールを真上に投げるような仕草をした。
 すると手の上に小さな光の球体が現れ、すぐに紫色の水晶となって現れた。
 それは細い紐のようなものに繋がれており、首にかけられるようになっている。

「水晶系の中では至高美を誇るとさえいわれる宝石・アメジスト…か。色から見ても、やはり素質はあるな」

 死神は宝石をつまんで眺め、素直な感想を漏らす。
 一仕事終えた天使は、剣をどこかへ消し、一息ついた。

「ふ〜…。うん。これでいいね。様子見るんだし、今日はもう帰ろ。『エメラルドとダイヤモンド』、早く見つけないとね!」

「あぁ。そのためにも、コイツには悪いが、協力してもらわないとな」

 天使はにっこりと、年相応の少女らしい笑みを作り、死神はフッと笑い、彼らが探していた『素質』を持つ男を再び見下ろし、その場を去った。






 相変わらず、その場に倒れている学生服の青年。

 その首で、先程の紫水晶が光っていた。




第一話



 ある高校で、日本史の授業が行われている。生徒達は誰もがそれをつまらなそうに受け、教師はそれを見ずに板書を続けている。
 そんな中、クラスの後ろに座る一人の男子生徒が頬杖をつき、黙々とノートをとっていた。 
 彼の名は八原 司郎(やはら しろう)。彼には今、不可解な謎が二つあった。
 一つ目は、何で自分が「あんな所」にいたのか。あんな所というのは、2日前、なぜか自分は自分の町内の隅にある使われていない廃工場、その中で目を覚ましたのだ。自分はそんなトコに行った覚えはないし、無理に連れて行かれるような理由も無い…はず。
 二つ目は、彼のポケットにある。
「…これ何なんだろ?」
 彼がシャーペンを置いて、右ポケットの中から取り出したのは、紐が付いた紫色に光る小さな水晶。彼が上記の工場で目覚めた歳、いつの間にか首にかかっていたものだった。最初はなんだか怖くてすぐに外してしまったのだが、捨てようとすると、不思議に「捨ててはいけない」という、妙な気持ちを覚えるのだ。
 なぜか置いていく事もできない。そのため、しぶしぶ学校まで持ってきている。
「あ〜あ。気にしても分かんないし…どうすっかな」


 そうこうしている間に、一時間目の授業終了を継げるチャイムが鳴った。
 そんな調子でとうとう放課後を迎えてしまう。


 結局気になって授業も身に付かなかった彼は、なんだかもやもやしたまま、帰路に着く。
 彼の家は徒歩で通えるほどの距離にあったが、彼は同学年で数少ない帰宅部の一人なので、ふだん一緒に帰る友達はいない。
 その途中、左右に住宅が並ぶ道を歩きながら、彼はポケットから水晶を取り出し、眺めてみる。
「綺麗だけど、なんか変な感じだな」
 怪しい光を放つ水晶。「帰ったらネットで何の宝石か調べてみよう」…などと考え、ポケットに再び水晶をしまう。
 その瞬間、彼は目の前に目を見張った。
「…うわぁっ!?」
 思わず小さな叫び声をあげた。突然、彼の目の前に、眩い光が現れたのだ。
 彼は正視できなかったが、光は目の前でどんどん形を買え、人の形になっていった。それも、二人分。
「な、な…え」
 あまりの出来事に、声が出ない。思わず二歩あとずさった。
 どうじに、人の形をした光が、完全な人になった。 正確には、違った。
「…は?」
 司郎は目の前に現れた人間をじっと凝視した後、辺りに人がいないかきょろきょろと確認する。そして視線を戻し、無遠慮に突然の来訪者を眺め回した。
 一人は、絵とかで見た事がある、天使。
 もう一人は…黒いコートを着た、全身黒づくめだけど、普通の男…。
 司郎が混乱しそうな頭を抑えようと必死になっているとき、天使の方が一歩歩みでた。
「あ、いきなりでごめんね。初めまして、私は『天使』の『メイシア』。メイ、って呼んでね」
「俺は見ての通り…って、わかんねぇか。『死神』だ。名前は『神無月』。…メイからはカンナって呼ばれることもある」
 司郎に対して自己紹介をする二人。された当の本人は、状況を把握し、少しだけ落ち着いた。
「…お、俺に、何か用が…あ、まさかこれが…!」
 気づいたように司郎はポケットに手を突っ込んだ。先刻の水晶が再び姿を現す。
「うん、それあげたのは私たち」
「俺に、あの、その…何なんだよ! い、命を」
「安心しろ。危害は加えない…少なくとも今はな」
 神無月が司郎の不安を打ち消した。後半はボソボソ言ったので、司郎には聞きとれなかったが。
 そして続けて話し出す。
「俺たちがココに来たのは、色々重大な事件が起きているからだ。早速だが、お前に協力してもらう」
「は、え? 事件…」
「うん。大変なんだよ。じゃぁ、その前に色々説明させてね。…あ、ちなみにここ結界作ってるから、人は来ないと思うよよ」
「けっか…分かった。とりあえず、話を聞かせてくれ」
 聞く事聞いておかないと訳が分からない…そう判断した司郎は、二人の話を聞くことにした。
「まずは、その宝石。厳密にはその色…それはお前の『心の色』ってやつだ。人の心…まぁ、端的に言えば性格とか、精神だとか…人それぞれのそんなもんを現す色」
「心の…色」
 イマイチ実感が無いが―まぁ、心のことなど分かりはしない―司郎は胸に手を当てた。
「うん。君の宝石は紫色だから、心の色も紫。ちなみにそれ『アメジスト』っていうの。綺麗でしょ? 色は天使と死神にもあって、だから私達も宝石をつけてるの」
 ちらりと視線を二人の宝石へ向ける司郎。たしかにそれぞれ黄色と赤色の綺麗な宝石を首から下げている。
「まだ飲み込めてないけど…あ、それじゃぁ、俺をあの工場に運んだのも、あんた達か?」
「…? 何の話だ?」
 神無月が腕を組み、怪訝な表情で返答する。
「え? だって、俺2日前にあっちの工場の中にいて…」
「あたし達は倒れてた君を見つけただけだよ? まさかあんな所にいると思わなくて、ちょっと探すの手間取っちゃった」
「…え?」
 いよいよ司郎は訳が分からなくなり、頭にハテナマークを浮かべた二人がそれを見ている。 
「ってことは…」
 司郎が言いかけたその時、後ろで何かバサッ、バサッ、と音がした。
 振り返ると、黒い羽の生えた、真っ黒のコートを着た大男が、赤っぽく染めた髪を持つ女性を片手に抱き、降りてきた。
 司郎は驚き、メイと神無月の間まで後ずさった。隣に立つ二人は、さっきまでとは違う鋭い目でもう二人の来訪者を見据えた。 
「…お前達は―」
「よーやく見つけたわっ!! さぁ、その男の子は私達が先に見つけたのよ! こっちよこしなさい、そこの死神に天使っ!」
 女がそう叫ぶと、突然、羽根をしまった大柄な男がコートと下に着ていたものを豪快に脱ぎ捨て、上半身裸になった。恐ろしいほどに鍛え上げられた筋肉があらわになる。
「なるほど、同業者だな。シローを連れ去ったのもこいつらか?」
 赤髪の女性は彼の後ろに少し後ずさり、告げる。
「水鏡(みかがみ)! 思いっきりぶん殴ってやって!」
「サナ、てめぇに言われなくても分かってる。…久々に暴れるか」
 ひそかに笑みを浮かべた闘志剥き出しな男を前に、神無月は後ろへ叫んだ。
「シロー、メイ! 危ないから後ろで引っ込んでてくれるか?」
「あ、分かった…なぁ、この人達は、何者?」
 大男の前に歩み出る神無月。司郎は右隣のメイに、尋ねる。
「まだ言ってなかったけど、君には『素質』っていうのがあるの。だから、君は狙われちゃってるわけ」
「素質ぅ…?」
「二人が闘ってる最中にいろいろ説明したげるから。大丈夫、カンナってすごい強いんだよ〜」
 なぜかワクワクした様子で目の前の二人の男に視線をやるメイ。司郎はこれから何が始まるのか分からず、黙って前を見つめる。
 男二人が、対峙した。相手の大男は、神無月が見上げるほどのでかさだ。おそらく2m弱くらいか。
「…どうした、お得意の鎌を使わないのか。臆病者が」
「…ふん、丸腰相手にそんなマネができるか、デカブツ」
 お互いに相手を挑発する。

 そして拳と拳がぶつかり合い、戦いが始まった。

2004/05/04(Tue)14:38:00 公開 / 翡翠流星
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■作者からのメッセージ
第一話です。いやぁ、早く書かないとすぐ流れますね(汗
まだまだ謎を引っ張ったままですが、二話と三話で大まかに明らかにしますんで。

あと重ね重ねですが、感想どうもありがとうございます!
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