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『HERO  (前編)〜(エピローグ)+(オマケ)』 作者:紅い蝶 / 未分類 未分類
全角13128文字
容量26256 bytes
原稿用紙約42枚
【前編:おかしな夢】





最近おかしな夢を見る。
死んだじいちゃんが出てきて、何かを必死に訴えるとどこかへと消えていく・・・・・・。そんな夢。
じいちゃんが夢に出てきてから一週間以内に、必ず何かが起こる。
最初は何を言ってるのか聞き取れなかったけど、最近はちゃんと聞き取れるようになった。
4日前はトラックに轢かれそうになるから気をつけろ。
その言葉のとおりに昨日4トントラックが目の前数十センチのところを通過していった。
本当に危なかった・・・・。死ぬかと思った・・・・。
 とにかくそんな日が続いている今日この頃。
ただ願うことは・・・・・・じいちゃん、出てこないでくれ。何か起こるのはイヤだから・・・・・・。


「隆一、歯磨いたの?」
寝ようとして階段を登りかけた秋山隆一(あきやま りゅういち)に母が呼びかけた。
今隆一は高校二年生だ。歯磨きどうのこうのって言われるような歳じゃない。
「磨いたよ!もう寝るんだからいちいち言うなよ。おやすみ!」
怒鳴るように階段からリビングへと話す。
「はいはい。おやすみ」
その言葉を聞き取ってから隆一は階段を登りベッドへと入った。

 今日は11月14日。あと3日で待ちに待った修学旅行だ。行き先は長崎。この機会に憧れの土屋摩奈ちゃんにお近づきに・・・・・。隆一は今までにないほど心を躍らせていた。
 興奮して眠れない・・・・・・。23時を過ぎても寝ることができない。まだあと3日あると言うのにこんな緊張感だ。そわそわして眠れないのでプレイステーション2の電源を入れて小一時間ゲームをやり、やっと寝ることができた。
 そしてその夜、またあの夢を見ることになる。そしてその夢が、高校生活最大のイベントである修学旅行をガラリと変えてしまうことになるとは、思ってもいなかった。

夢の中に入った。といっても特別な場所に移動したりするのではなくて、風景は自分の部屋だった。
じいちゃんがくるときはいつもこの感じ。夢の中で隆一は大きくため息をついた。
「お〜い、隆一・・・・・。また嫌なことが起きるぞ〜」
70歳を超えていた老人の声とは思えない最近の話し方。
「またじいちゃんかよ・・・・・・・。今度は何ぃ?また俺はトラックにでも轢かれるんか?」
「そんな柔なことじゃあないんだなぁ・・・・これが」
「もったいぶらずにとっとと言ってくれよ」
もう慣れてしまったこの夢。隆一はまたどうせ死にそうになるだけだ。気をつけていれば死ぬようなことじゃない。
そう軽い気持ちで適当に聞こうとしていた・・・・・・・が。
「お前の乗る飛行機は離陸してからちょうど30分後、突然前方に乱気流が発生してなぁ、エンジンが異常を起こして墜落するぞぉ〜」
それだけ言って祖父は消えてしまった。
「あ〜はいはい・・・・。墜落ね、墜落・・・・。・・・・・墜落ぅ!!?」
飛行機に乗るといえば・・・・・修学旅行。修学旅行といえば・・・・・みんないる。みんないるといえば・・・・・もちろん土屋摩奈ちゃんも!!
墜落は避けなければ!!絶対に!!
隆一はそう決心した。
 普通だったらこんなこと信じるわけがない。だが、隆一は信じるしかない。今までに何度も同じようなことがあったからだ。
 墜落を避けるためにはどうすればいいだろうか・・・・・・。
隆一は3つの方法を思いついた。
@修学旅行の日程を変更する
無理だ。できるわけがない。冷静に考えてみろよ。あと2、3日だぜ?もうとっくに旅館に予約してあるだろ。飛行機も。ってことで却下。
A自分だけ休む。できれば摩奈ちゃんも・・・・・
却下。二人だけ助かればいいってのか?みんな死んじまうぞ?イヤだろ。それは・・・・。
そしてB・・・・・・。これはできれば絶対にやりたくないのだが、これ以外には思いつかない。夢でのことを他のやつが信じるわけがない。
ってことで、これしか残らなかった・・・・・・。一番嫌な方法しか・・・・・・。

 修学旅行2日前、隆一は部活を休んで帰宅後、いそいそと準備をしてすぐに家を出た。
まず最初に行ったところは模型店。ここで電動ガンとリアルなおもちゃナイフを購入。しめて34510円。
少々もったいない感じはしたがもはや無視できるような話ではない。今まで何度も当たっているからだ。100%の確立で。
その後100円均一で変な顔のマスクを購入。消費税を込めて105円だった。
家に帰宅後、机からレポート用紙を取り出してなにやら書き始めた。

そして遂にやってきた修学旅行当日。隆一は羽田空港にやってきていた。電動ガンは何とか金属探知機に引っかからずに済んだ。もちろんオモチャナイフも。もし今ここで電動ガンとナイフが見つかってしまえば、自分たちに待ち受ける運命は“死”のみだった。
 とにかく、隆一は最初の難関を突破した。我ながら馬鹿だなと思う。修学旅行さえ休んでしまえば死ななくてすむのに・・・・。だがそれを、隆一の心が否定したから今ここにいるのだ。
現実を受け入れろ。自分に何ができるか考えろ。今できることは一つ。それをするためにわざわざやって来た。
 隆一は大きく深呼吸すると、飛行機へ搭乗した。


『当機はまもなく長崎空港へ向けて離陸いたします。シートベルトをしっかりとお閉めください。また、シートベルト着用サインが消えるまでは絶対に外さぬようお願いいたします』
機内アナウンスが流れる。もしこの飛行機が墜落すると知らずに乗っているなら、これから始まる2泊3日の修学旅行に胸を躍らせていることだろう。だが今の隆一はそんな状態じゃない。うまくいくのだろうか。失敗しないだろうかという不安で心がいっぱいだった。
「隆一、どうしたの?」
 隣に座っている隆一の元彼女である佐伯水鳥(さえき みどり)が声をかけた。サラッとした黒い髪に小さめで綺麗な顔。友達はみんな「なんで別れたんだ。もったいない」と口をそろえて言うほどの美人だ。別れを告げたのは隆一からで、水鳥はずっと泣いていたらしい。別れてもう2ヶ月ほど経つので、そんなことはもうないと思うが・・・・。
「別に・・・・・・どうもしないよ」
一言そう答えて、隆一は腕についている時計を見た。携帯電話にも時計はついているが、わざわざ取り出すのは面倒なので腕時計を持ってきていたのだ。
(10時30分か・・・・・)
 離陸予定まであと5分。じいちゃんの予言の時間まではあと35分。離陸してからたったの30分で、隆一はこの残酷な運命を回避しなければならなかった。

 エンジン音がけたたましく響き渡る。アナウンスが離陸を告げる。機体がゆっくりと動き出す。
ひとつひとつのことがとてもゆっくりに感じられた。そのゆっくりさが逆に恐怖をあおる。
あと30分で自分は死ぬかもしれない・・・・。もちろんみんなも・・・・・・。
「やるっきゃない・・・・・か」
 隆一のつぶやいた一言はエンジンの音でかき消され、隣に座っている水鳥には聞こえなかった。
できれば土屋摩奈ちゃんに最後に一目会っておきたかった気もするが、クラスが違うのだからそれは諦めた。
 足元に置いてあるバッグ。この中に自分の運命を決める大切なものが入っている。あとは、自分の運。
(神様・・・・・。信じてねーけど、いるならいるで俺に力を貸してくれよ・・・・)
 離陸から5分。やっとシートベルト着用サインが消えた。隆一はバッグを持って立ち上がり、トイレへと入った。途中で水鳥が「どうしたの?」と聞いてきたが、軽く返答するだけにしておいた。
 トイレの中であのマスクをかぶって電動ガンとおもちゃだがリアルなナイフを取り出す。
「やってやる・・・・・・。俺にしか、運命は変えられないんだ・・・・!」
 墜落まであと23分。隆一は勢いよくトイレから飛び出した。









【中編:事体悪化】



トイレからでて操縦席へとまっすぐに向かっていく。ビビッてなんかいられない。この飛行機が墜落するということを知っているのは自分だけ。運命を変えられるのは秋山隆一ただ一人だけ。
客席を変に悟られないよう足早に通り過ぎ、操縦席のドアを開ける。操縦席にはC・A(キャビン・アテンダント)なども出入りするためカギはかかっていなかった。それは隆一が勝手に考えたことであって、本当かどうかはわからないが・・・・・・。
「手挙げろ。変なまねしたらぶっ放すぞ」
我ながらなかなか落ち着いて言えた。だが、心の中は不安と緊張でいっぱいだった。なんで自分はこんなことしてるんだろう。なんでこんなこしなきゃならないんだろう・・・・。心臓の鼓動がみるみるうちに早くなっていく。
「操縦中だ。手は挙げられない・・・・」
機長であろう人物がそう言った。確かに・・・・・・。挙げてたらまずい。確かにずっと気を張り詰めておく必要はないらしいが、緊急の事態に備えて操縦桿に手は掛けておくべきだろう。
「と、とにかく変なことはすんな。いいな?」
「わかった・・・・・。要求はなんだ・・・・・・?」
冷静に機長が対応する。こういった事態のために指導されているのだろうか。
「要求は一つだけだ。すぐに近くの空港に着陸してくれ。それ以外に要求は特にない」
 ハァ?といった表情で振り向く機長。ハイジャックするならもっと他のものを要求してくると思ったのだろう。金や、もっと他の何かを・・・・・。
「とにかく・・・・・頼む」
そう言って隆一は頭を下げた。そして・・・・・・マスクを外す。顔もわからないやつの頼みなんて聞けるわけが無い。隆一は信じてもらうためにマスクを取った。105円は無駄になってしまったが・・・・・・。
「・・・・・・・君は私利私欲のためにハイジャックをしたわけじゃないんだね?」
「ああ・・・・・・。このままだと・・・・・信じてもらえないかもしれないけど、この飛行機は墜落する。エンジントラブルで・・・・」
その言葉を聞き、機長は機内放送用のマイクをとる。そして・・・・・
「お客様に申し上げます。機長の高橋です。当機は都合により羽田空港へ帰還します。なにとぞご理解ください」
マイクを元の場所に戻し、機長はまっすぐなその瞳で隆一を見た。
「もう後戻りはできないぞ?いいんだね?」
隆一は深々と頭を下げ、操縦室を後にした。
よかった。信じてくれた。これで乱気流に飲まれることは無い。あとは羽田空港に帰るのを待つだけだ。
バッグの中に電動ガンとナイフをしまって、自分の席に戻った。


隆一が席に戻って一息ついた瞬間、二人ほど男が立ち上がった。一人は操縦室のほうへと向かっていく。そしてその二人のてに握られていたもの・・・・・・・。隆一をはじめ全ての人々が驚愕した。・・・・・・・銃だ。しかもアサルトライフル。・・・・・本物のハイジャック。
「全員動くなぁ!!死にたくなかったらおとなしくしてろ!!この飛行機は羽田には戻させない。今から予定通り長崎へ向かって燃料補給後、アメリカへ向かう。もう一度繰り返す。死にたくねぇやつはおとなしくしてろよ!!」
悲鳴が機内中に響き渡る。乗客はみな頭を下げ、ガタガタと震えだす。隣に座っている水鳥も例外ではなかった。
「・・・・・隆一ぃ・・・」
恐怖に満ちた声で水鳥が言う。隆一の額から一滴の汗が静かに滑り落ちた。これじゃせっかく羽田に戻ることになったのに、意味が無い。
 チラリと時計を見ると、墜落時刻まであと18分。全てが水の泡になる。おとなしくしていても・・・・・・死ぬ。
客席に残ったハイジャック犯一人の目を掻い潜ってバッグの中から電動ガンを取り出す。
「・・・・隆一?もしかして・・・・・戦うの?」
電動ガンのマガジンにBB弾が装填されていることを確認しながら隆一が静かに答える。
「このままおとなしくしてても、俺達は死ぬ。うまくいえないけど・・・・・とにかく。羽田に戻らなきゃ死んじまうんだ。全員」
立ち上がろうとする隆一のシャツのすそを水鳥が掴む。振り返って見た水鳥の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。せっかくのきれいな顔が・・・・・。
「・・・・ダメ。行かないで・・・・・・。あたし、本当に一人になっちゃう・・・・・。あたし・・・・あたしまだ隆一のこと・・・・!!」
シャツを掴む手を優しく引き離す。水鳥の頭をくしゃっと撫でてあげる。そして隆一は立ち上がった。
「絶対に死なねぇよ」

ハイジャック犯の後ろから静かに忍び寄る。幸い犯人は気付いていない。5メートルほど離れたところの空席の陰に隠れ、ハイジャック犯が近付いてくるのを待った。
ハイジャック犯が踵を返してこちら側を向く。一歩ずつ・・・・・一歩ずつ近付いてくる・・・・・。電動ガンを握る手に力が入る。汗がダラダラと止まらない。引き下がれない・・・・・。もう引き下がれない。やるっきゃない。自分がやらなきゃ誰がやる・・・・・。ハイジャック犯が自分の右側に来たとき、隆一はその柔軟な体を生かして右足を高々と上げて首にかけて押す。
「・・・うおっ・・・」
倒れこむ犯人と共に右足を下ろしてギロチンのように首に叩き込む。ぐっと息を漏らしたがそんなのお構いなしに犯人の上に乗っかって電動ガンの照準を相手の目にあわせる。
「目・・・・つぶすぞ?イヤならおとなしく捕まれ・・・・」
 隆一は心の中から願った。頼む・・・・。言うとおりにしてくれ・・・・・。
「危ない!秋山!!」
クラスメイトの立花雄(たちばな ゆう)の叫びが聞こえた。それと同時に隆一の体が浮く。そして吹き飛ばされた。
「・・・・ってぇ・・・!」
腹に乗っかったのが間違いだった。犯人は腰を曲げて両足を隆一の首にかけて前方に向かって思いっきり足を振り下ろしたのだ。
 犯人がゆっくりと立ち上がる。銃を構えながら・・・・・。
 やられる・・・・・・。撃たれる・・・・・・。隆一はそっと目を閉じた。自分の力は所詮こんなものだったんだと悔やむと同時に、様々な思いが脳裏を駆け巡った。
(ごめん、みんな・・・・・・・。俺はこの先どうなるか知っておきながら・・・・・みんなを助けることができなかった・・・・)
ダダダダダ・・・・という機関銃のような轟音が機内に響き渡る。だが不思議なことに、隆一の体はどこも痛くなかった。不思議に思って目を開けると、そこには・・・・・・・・・・。
体から血を流して倒れこむ水鳥の姿があった・・・・・。
「み・・・・水鳥っ!!!!」
うおおおおおおお!!と叫びながら隆一は電動ガンを構える。撃つ。パパパパパと渇いた音を立てながら、銃口からBB弾が発射される。BB弾は一直線に犯人へと向かっていく。体に当たり、腕に当たり、そして・・・・・、犯人の両目をつぶした。
「う・・・・うああああ!!いてぇ!いてぇぇぇぇ!!」
その隙を逃さずに立花が座席を飛び越えて犯人の銃を蹴り落とす。それに続いて他の乗客も犯人を取り押さえてベルトなどで縛り上げた。
隆一は立ち上がると、走って水鳥に近付いてその場に座り込んだ。
「水鳥・・・・おい・・・・。水鳥!返事しろっ!!」
水鳥はそっと重たいまぶたを上げ、ニコッと微笑んだ。
「隆一・・・・・・・。よかった・・・・・。平気みたい・・・・・」
「バカやろう!!何やってんだよ!」
「隆一が・・・・・みんなを守るんでしょ?その・・・隆一が・・・・死んじゃったら・・・・・みんなを守れないじゃない・・・・・」
隆一の目から大粒の涙が零れ落ちる。不思議だ・・・・・。自分は土屋摩奈が好きなはずなのに、今になって水鳥のことがとてもいとおしく思えた。
「水鳥・・・・死ぬな・・・・!!絶対に死ぬな・・・!!」
コクリとうなずいて水鳥は一言告げた。
「みんなを・・・・・・守って・・・・」
そう言って静かに瞳を閉じる水鳥。死んだわけではない。眠っているのだ。だがいつ死んでもおかしくない怪我だ。
隆一は誓った。
絶対に負けない。
絶対にみんなを守りぬく。
そして、生きてもう一度笑ってみせる。
 そっと水鳥の体を床に置くと、犯人の持っていたアサルトライフルM16を拾い上げて、操縦席へと向かった。
もう一人のハイジャック犯を倒し、すぐにでも羽田空港に戻るために。



飛行機墜落まで、あと6分・・・・・・・。







【後編:運命を塗り変えろ】



操縦室の中。メーターやらスイッチやらでなかなかごたごたしている。
機長と副操縦士が座っていて、その後ろから銃を構えて脅す男が一人。高い身長で茶髪にサングラスだ。黒いジャケットを着ていて下はジーンズを履いている。
「さぁて・・・・・・。まずは予定通り長崎に向かってもらおうか。そのあと燃料を補給してアメリカに飛んでもらう」
男はそう要求してきた。
それに対し、長崎に向かったら墜落するということを知っている機長が反抗した。
「ある子に言われた。このままでは墜落する。羽田へ戻ってくれと・・・・・。だからそれはできない。羽田で燃料を補給してからアメリカへと向かおう。そのときに乗客を降ろして欲しい」
額ににじむ汗をふき取りながら必死にそう言った。反論したら撃たれるのはわかっている。だが、このまま死ぬのはどうしてもイヤだったのだ。
「却下だ。このまま長崎へと向かえ」
「その子は自分の一生を棒に振るかもしれないのに、そう言ってきてくれたんだ。だから・・・・・・」
ダダン・・・・という音が狭い操縦室に響いた。話途中だった機長の首が情けなくダランと垂れ、後頭部からドクドクと血があふれ出してきた。
「き・・・・・機長!!」
副操縦士が操縦などお構いなしに機長の体を支えるために飛び出した。
「お前も死にたくなかったら反抗するなんて考えないことだな。とにかく長崎へ。・・・・・いいな?」
銃を突きつけられたまま固まる副操縦士。そのとき彼はひとつのことを思い出した。隆一のことを・・・・・・。
隆一は(オモチャだが)銃を持っている。今この飛行機に乗っている人物の中で対抗できるのは隆一ただ一人で、もしかしたら彼が助けてくれるかもしれない。
 その次の瞬間だった。操縦室のドアが蹴り破られて誰かが飛び込んできた。そのまま犯人にとび蹴りを食らわす。
「・・・・・うがっ・・!」
操縦室の床に叩きつけられる犯人を見下ろして銃を構えるその“誰か”。
―――――――隆一だ。秋山隆一がハイジャック犯を取り押さえたのだ。
「動くんじゃねぇ・・・・・。お前の仲間は目つぶされて捕まってる。おとなしく捕まりやがれ」
水鳥を撃たれて興奮しているのか、隆一はフーフー言いながら犯人を見下ろしている。
「撃ってみろよ・・・・。え?」
犯人が挑発してくる。撃てるわけないとでも思っているのだろう。実際、隆一に人を殺す勇気はなかった。
「・・・・くそっ・・・」
引き金に掛けた人差し指が動かない。動いてくれない。こいつらが憎いはずなのに・・・・・・・殺せない。心の中で何かが指の動きを封じていた。
その一瞬を犯人は見逃さなかった。後ろにくるりと回って銃の照準から逃れると、長い足で手を蹴り、銃を払った。
そして立ち上ると、手を痛めて悶える隆一を壁に押さえつけて硬く握り締めた拳の連打を浴びせる。みぞおちに入り、顔面を殴られ、それが相当の時間続いた。顔は腫れ上がってきて目の上からは流血している。さっきの飛び蹴りのおかげで犯人が銃を持っていないことが不幸中の幸いだった。
「ふざけ・・・やがって・・・!!大人を・・・・なめるなよっっ!」
殴りながら犯人がそう言う。未だ手を止める気配はない。
「・・・・・・・子供・・・なめんなぁっ!!」
そう叫んで隆一は右ヒザを相手の右太ももに叩き込んだ。俗に言うモモカンというやつだ。これは・・・・・・正直痛い。
犯人もその痛みに耐えることができずにガクリと右に傾いた。
―――――――チャンス!
隆一の胸の辺りに下がっている犯人の頭めがけて回し蹴り。犯人の体が吹き飛び、うつ伏せに倒れこむ。そこに追い討ちを・・・・・・・。
――――――ダダン!!
犯人が倒れこんだ位置が悪かった。そこには犯人の銃が転がっていて、その銃を拾い上げた犯人がうつ伏せのまま隆一に向かって発砲。隆一のわき腹に命中した。
「・・・・・ってぇ!!」
右のわき腹の肉が裂け、血が滲み出す。息をすると激痛が走る。
そこに立ち上がった犯人が向かってきて腹に蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ばされていく隆一は客席まで飛ばされて腰から落ち、後ろ向きにゴロゴロ転がる。そのとき、隆一はドア際に落ちていた銃を拾い上げていた。
 転がるのが止まって上半身を腰で支える。
隆一は銃を構える。だがそれより早く犯人が銃を構えた。
――――――負ける・・・・・・。
その時、犯人を副操縦士が後ろから抱き抑えた。
「・・・い、今だぁぁ!!」
副操縦士の言葉が終わるか終わらないかのうちに、隆一は引き金を引いた。ためらいなんかなかった。水鳥を傷つけられ、自分もボコボコにされ、そしてこのままでは副操縦士の身にも危険が及ぶかもしれない。・・・・・もうこれ以上被害者はいらない。
「俺達の・・・・・勝ちだ」
銃口から発射された全弾が犯人の体をズタズタに引き裂く。血が噴出し、倒れこむ。最後の言葉などなかった。
とにかく、隆一は勝った。あとは羽田に・・・・・・・・。
――――――――ゴゴゴゴゴゴ!!!
機体が大きく揺れた。時計を見る。・・・・・・・・あと2分。
「ら、乱気流だ・・・・・」
副操縦士が前方を見て泣きそうな声でそう言って操縦席へと走る。
一難去ってまた一難。
そしてこれが・・・・・この乱気流から逃れることが本来の目的。
隆一も操縦席へと駆け出した。


墜落まで、あと1分26秒。









【エピローグ:HERO】



機体全体を襲う爆音と揺れ。その原因はたった今突入した乱気流のせいだ。乱気流は大気が不安定な状態で起こるいわゆる一つの自然現象で、発生するのはめずらしくない。乱気流の中は大気が渦巻き、雷が鳴り響く。
祖父の言ったとおりになるのならば、あと1分と少しでこの飛行機は墜落する。それだけは絶対に避けなければならない。
副操縦士が操縦桿を汗だくで握り締めて懸命に脱出をはかる。右に急旋回してUターンしようとするが、激しい揺れのせいでうまく操縦できない。
「うぅ・・・・・くそ・・・!機長が生きてれば・・・・!」
 頼みの綱の機長はすでにハイジャック犯に殺害されており、ダラリと首を垂らして席に座っている。
―――――ゴゴォッン!
また機体の揺れが激しさを増した。
「ぐぅっ・・・・!」
その揺れで、急いでいてしっかりとシートベルトを締めていなかった副操縦士の体が宙を舞った。
操縦席から転げ落ちるように投げ出され、頭を強く打って気絶してしまった。
「・・・・・・おいおい」
隆一は壁に身を任せていたおかげで吹き飛ばされなかった・・・・・・・が、そんなことはもはや関係ない。操縦する者がいなくなってしまったのだから・・・・・・。
 乗客は恐怖に身を縮ませて泣き叫ぶ。頼りになりそうな者など一人もいない。となると・・・・・・。
「俺がやるしかないってか・・・・」
 隆一は少し前に飛行機運転シミュレーションゲームにはまっていた。専用コントローラーまで購入してまでやっていたのだが今では単身赴任中の父親のいいオモチャである。貸してと言われて貸したまま2ヶ月以上返ってこない。
 つまり隆一は、なんちゃって飛行機運転はできるが本格的な運転はできないし、最近それすらもやっていないということだ。
 だが・・・・・やるしかない。
たかだか16年と7ヶ月生きただけで死ぬわけにはいかない。まだやってないこともあるし、やりたいこともある。そして何より・・・・・・・・水鳥が大切だと今さらになって気付いた。一度は別れたにもかかわらず、もう一度自分の気持ちをしっかりと伝えたかった。
 副操縦士が投げ出されて空席になった操縦席に座る。時計を見ると墜落予定時刻まであと1分5秒。服で手の汗をふき取ると、操縦桿をがっしりと握った。
「これで生きて帰れたら、俺はヒーローだな・・・・・・」
 ハイジャック犯と戦うときに自分に言い聞かせた言葉をもう一度言い聞かせた。
―――俺がやらなきゃ誰がやる!
 その次の瞬間。操縦席にけたたましくブザーが鳴り響いた。ビーッビーッ・・・・と。
 操縦席の目の前にあるスイッチやらメーターやら。その中のある場所が赤く点滅し続ける。そこには英語でこう書いてあった。
「・・・・・エンジン・・・停止・・・・」
そう。遂に起きてはならないことが起きたのだ。時計を見る・・・・・・・あと51秒。
機体はみるみるうちに降下を始める。前方が下に傾き、誰がどう考えても墜落への道を大股で駆け抜けている。
「やばい!!やばいっ・・・・!!」
揺れる機体の中で操縦桿を握り締め、目一杯に右に傾ける。
機体全体が降下しながら右へと旋回していく。ゲームで見たのと同じような高度を知らせるメーター。見方はわかる。現在の高度は4600メートル。一秒に100メートルずつ落ちていく。時計を見るとあと46秒。ちょうど0秒になるとき、この機体は墜落している計算だ。
 そんなことには構っていられない。とにかく右へ・・・・。
「頼む・・・・・・。頼む・・・・・・!!」
一秒が恐ろしいほど早く感じる。死へのカウントダウン。着実に隆一を含む乗客は永遠の死へと向かっている。
「力・・・・・貸せよ」
下へ下へと向かっていく機体の中でそう呟く。
「勝手なことばっかり言ってほったらかしにすんな!!力貸せって言ってんだよクソジジイーーーーーッ!!!」
機体全体に、隆一の叫び声が響き渡った。
「・・・・・・隆・・・・一・・・・・・」
水鳥がそう呟いたのは、墜落予定時刻まであと3秒のときだった・・・・・・。




 青々と晴れ渡る空。雲ひとつない快晴。いや違う、雲は下にある。自分の遥か下に・・・・・。
いつの間にかエンジン停止を告げる警告ランプは消え、乱気流からも抜けていた。
「フーッ・・・・・・」
 大きく息をつく。生きている実感がする。時計を見ると11時6分。墜落予定時刻の11時5分を過ぎていた。
操縦席を離れて副操縦士を起こす。副操縦士は目を覚まして立ち上がり、安心したかのように笑って操縦席へと向かう。
33分後の11時39分。乗客357人を乗せた10時35分発の長崎行きの飛行機は、無事羽田に着陸した。

次に日の一面記事。笑っている人や泣いている人が写っている。その中には立花雄やその他のクラスメイトの顔もあった。

『高校生、恐怖から人々を救う』
ハイジャック、乱気流、エンジン停止の最悪の事態。全てを救ったのは一人の高校生、秋山隆一君(16)だった。
三つ巴の恐怖に自らの意思で立ち向かい、357人中一人を除いての356人の命を見事に救った。
秋山君には後日、警察と総理大臣から感謝状が贈呈される予定となっている。
 乗客は口々にこう語ってくれた。
「彼は私達の英雄・・・・・HEROだ」・・・・・・と。

機長:高橋正成(たかはし まさしげ)さん  43歳
乗客:佐伯水鳥さん              16歳
犯人:九条光明(くじょう みつあき)容疑者 26歳

                                     以上3名 死亡



毎朝新聞、11月18日発行、一面記事より





―――――――1年後

 隆一は墓に来ていた。目の前の墓石には「佐伯家之墓」と刻まれている。
水鳥が死んでちょうど1年の今日。あの忌まわしい一日がウソのような青が空を埋め尽くしていた。
 水面を翔る美しい鳥のように、誰が見ても綺麗と思える人になるように・・・・と願って付けられた名前。
それを表現するかのように、墓の近くを流れる川で鳥が水浴びをしている。
「水鳥・・・・ごめんな。俺、お前を救ってやれなかった・・・・・」
隆一の隣には一人の可愛らしい女の子が立っていて、墓に向かって手を合わせている。
その女の子の肩を優しく片手で抱き寄せると、隆一はもう一度手を合わせた。

 彼女・・・・・・土屋摩奈と付き合って9ヶ月。水鳥に注いでやれなかった愛情を、今はできる限り摩奈に注いであげている。
幸せな二人。それをきっと水鳥は笑って見守ってくれるだろう。もちろん祖父も。
今でも祖父は夢に出てくる。もちろん不吉なお告げをしに。だがそのおかげで摩奈の命を救うことが出来たときもあったし、とにかく1年前のことに関しては本当に感謝している。みんなの命を救うチャンスをくれた祖父に。
「隆一は、あたしたちのHEROだよ」
 一度だけ水鳥が夢に出てきてそう言った。隆一が“HERO”だと・・・・・。
HEROになりたくてやったんじゃない。だが、うれしかった。みんなの命を救えたことが本当にうれしかった。

“HERO”や“大スター”などの称号は手に入れたくて手に入れられるものじゃない。過去の功績を称え、人々がその人物に対して敬意を払ってそう呼ぶのだ。
隆一は恥ずかしい気持ちとうれしさを心の奥の宝箱にそっとしまって今を生きている。
そして・・・・・・・・これからも、ずっと・・・・・・・。





人間は神様の人形でも道具でもない。
決め付けられた運命なんてない。
運命はただのミチシルベであって絶対じゃない。
だから恐れずに一歩を踏み出そう。
動かなければ何も変わらない。
自分の可能性を信じて歩いていこう。



だって俺達は・・・・・・・・生きているのだから・・・・・。







【HERO        完】












【オマケ:さよならじいちゃん】



 隆一の祖父、秋山茂(あきやま しげる)は孫である隆一に溺愛だった。どこに行くにも連れて行き、何かと遊んで回った。そんな茂のことを、隆一も好きだった。いつも遊びに連れて行ってくれ、優しくしてくれる祖父。二人は本当に中がよかった。

 隆一が中学を卒業する頃、茂が倒れた。趣味のボーリングをやっているときに胸の痛みを訴え、救急車で運ばれたのだった。隆一は学校を早退して市民病院へと駆けつけた。これが最後の会話になるとは、思ってもいなかっただろう・・・・・。



「じいちゃん!!」
 病室のベッドに目を閉じて眠ったようにしている祖父。起きているのだが意識が飛び飛びなのだ。医者の話によれば祖父は末期ガンで、ボーリングどころか普通に生活できていたことが奇跡に近かった。孫の隆一が支えになっていたのかもしれない。
「じいちゃん・・・・・・死ぬな!!」
横たわった祖父の手をギュッと握る。両親は涙をこらえてただ立ち尽くしている。
「・・・・隆一・・・か。学校は・・・終わったのか?」
「人の心配してねーで、自分の体心配しろよ!」
 隆一の目から大粒の涙がこぼれる。いやだ。死んでほしくない・・・・。死ぬな・・・!
「やっと・・・・死んだばあさんのところへ、行ける」
「じいちゃん・・・!」
さっきよりも強く祖父の手を握り締める。その手からは少しずつ血の気が引いていくように感じられた。半分開いた窓から初春の風がそよそよと病室のカーテンを揺らした。
「気持ちいい・・・・風だなぁ」
 細々と小さな声で祖父が言う。もう消えかけた命の炎が、急激に小さくなっていく。
「若者なんだろ?じいちゃんはさ!だったら死ぬな!!」
涙がこぼれる。止まらない。止められない。
「・・・・バカ・・・言うんじゃない。歳は・・・・歳だ」
 さっきよりも小さな声。鼻に入れられた酸素吸入器が悲しさを倍増させる。
両親はとっくに涙を流し、祖父の死を受け入れたくない気持ちでいっぱいだ。
「じゃあなぁ・・・・・・隆一。ずっと・・・・・見守って・・・る・・・」





ピーーーーーーー




 病室に響く心臓停止を告げる音。医師が必死に蘇生術を行うがそれも虚しく、午後1時19分、秋山茂の命の炎が消えた。
「じいちゃん!!!」
涙が止まらない。とめどなく流れ、そして床に落ちる。
 祖父の体に泣き付く隆一の泣き声が病室にこだました。





「ずっと見守ってる」
その最後の祖父の言葉が、今現実となって現れた。

――――夢に出てくるのだ・・・・。

これが、隆一を今までに体験したことの無い事件へと導くようになる。
まぁそれは、高校生になってからのお話・・・・・・。









【HERO     本当に終わり】

2004/05/05(Wed)22:13:27 公開 / 紅い蝶
■この作品の著作権は紅い蝶さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
終わったぁぁぁ〜〜!!
終わりました。すっごい短い期間でしたけど・・・・・。
どうだったでしょう??




いつの間にか100ptを超えているっっ!?
ここにきてまだ日が浅い僕には初めての経験ですっっ!!
本当にうれしいです!!
ありがとうございます!!



HERO Uを書き始めました。
そちらのほうもぜひぜひ^^
登場人物はほとんど変わらないと思いますので・・・・・。


この作品、個人的には自信作なので何度か上に持ってきてもよろしいでしょうか・・・?^^;
もちろん限度はあるので考えてやりますが・・・・・。


それでは。

大したことないこんな作品を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!!


Uとの関わりで少しおかしなところがありましたので、訂正させていただきました。
すみません^^;



とにかくありがとうございました!!



P.S おまけ書きました。おまけになるかどうかわかりませんけど・・・・・。
祖父のエピソードを書いておくべきかなぁと思って書いてみました^^;
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]おもしろかったです。
2017/02/16(Thu)13:41:350点Peggy
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