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『孤高』 作者:石田壮介 / 未分類 未分類
全角1116.5文字
容量2233 bytes
原稿用紙約4.3枚

ゆりりん:>わたしと付き合ってくれませんか?
とおる:>・・・

 この時、とおるの携帯電話は止まっていた。田舎道を走る電車だ
けが、ことんことんと秒針を刻むが如く、静かに歩みを進めている。
 とおるはおよそ5分程、座ったまま画面を見つめていた。とても
クレバーな瞳を注いでいた。碁打ちが今まで打ってきた石の順と、
現在得られる囲いの大きさを見極めているのと同じであった。やが
て、彼はしかめ面をした。

 〜うざいな〜

 と一言呟くと、電源を切ろうとしたが、自分の頭の上に大きな暗
がりを感じて見上げると、そこには大柄な老婆が、もうこの世の者
ではなくなってしまったのではないかと思えるような鬼の形相で、
とおるを睨み付けていた。
「消すんじゃないよ!」
 老婆の大声がローカル電車を木霊した。とおるはビクっとしたが、
どうして消しちゃいけないのかが、よく解らなかった。
「消すんじゃない!」
 老婆はまた吼えた。
「どうして?」
「消したら証拠にならないじゃないか!付けたまま駅員さんのとこ
ろへ突き出して、叱ってもらうんだよ!」
 よく解った。
「あたしゃね、ペースメーカーを付けてるんだよ!」
「ご病気なんですか?」
「そうよ!」
「なんて、名前の病気なんです?」
 とおるは意地になると、詳しく聞く癖があった。
「あんたにゃ、病人の気持ちなんか、解りはしないよ!」
 解りたくもない。あんたの”ワガママ”なんか・・・。とおるは
そう思った。

 〜うざいな〜

 老婆は次の駅で降りた。とおるはあと三つ先の駅だったので、お
咎めは免れた。
 夏の田畑は虫で賑わっていた。りんりんちーちろと処々から、い
つ止むともなく聞こえてくる。だいたいが求愛行動かなんかなのだ
ろう。

 〜うざいな〜

 とおるは余計に暑苦しくてたまらなかった。もし、この田畑の中
にいる虫を道へ引きずり出せたら、踏みつけて歩いてやりたいと思
った。ぱりぱりって音の方が心地よい。
 家が見えてきた。電灯が消えている。しずかはもう寝たのだろう
か。寝てもらっていた方が気が楽だ。
 とおるは静かに錠を解いた。やはり中は真っ暗だった。寝てしま
っているのだろう。自室へ入り、外套を脱ぎ、スーツを脱ぎ、ネク
タイを取り、タオルを取って浴室へ向かった。
 全裸になって、がらがらと引き戸を開けた。

 〜うざいな〜

 しずかがお湯加減を見ている。お風呂には赤い温泉の素が入れて
あった。随分と長い事、お湯加減を見ていたのであろう。
 とおるは引き戸を閉めた。
 そのまま、寝巻きへ着替えて、床へ入った。ダブルベッドの広さ
が一人だと、なんとなく心もとない気がした。

 〜うざいな〜

 睡眠薬を飲んだ。おやすみ。

2004/04/01(Thu)20:40:43 公開 / 石田壮介
■この作品の著作権は石田壮介さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
終了です。
即興のショート(即興なのはいつもだが)ですが、読んでいただけたら、幸いです。
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