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『ESPで行こう! ―完―』 作者:神夜 / 未分類 未分類
全角43987.5文字
容量87975 bytes
原稿用紙約144.05枚


 〜一章〜  「遅刻理由は寝坊」




 要するに黒崎怜治(れいじ)(二十四歳)は新人の御守りを押し付けられたわけである。
 別に他の奴でいいのであるからして、それが怜治でならなければならない理由など何一つもないのだ。しかしボスに無理やりそういうことに決められ、抵抗虚しくそうなってしまった。
 だから、彼は今とてつもなく不機嫌なのだ。
 端から見れば誰もが逃げ出すような表情で煙草を吹かしている。ただでさえ最近不味いと感じていた煙草がさらに不味く感じる。
 そして例の新人はというと、
「初日から遅刻ですかい」
 待ち合わせはコーヒーショップのオープンテラスに正午。
 只今の時刻は正午を十分ほど過ぎた辺りで、怜治が座っているテーブルの上の灰皿にはもうすでに三本ものシケモクが突っ込まれている。
 遅い、めちゃくちゃ遅い。ちなみに怜治は時間には律儀な男で、どちらかといえば待たすより待つタイプなのだ。だからと言って、顔も見た事もない、しかも新人に待たされるのはそれなりに腹が立った。
 今咥えている煙草の最後の一口を吸い込む。肺に煙を入れたままで灰皿に煙草を押し込み、煙を吐かずにじっとしていた。それから十秒ほど経った頃になってやっと、怜治は煙を吹き出す。
 辺りを見まわす。昼間ということもあって人通りは多く、喧騒が絶えず聞こえてくる。道路を走る車はどれもこれも元気一杯でスピードを出していて、たまに通る二輪車に事故れと呪いをかける。
 それからまた待つこと十分。彼の苛立ちは最高潮に達していた。
 煙草のパッケージを握り潰すような勢いで取り出し、ライターで放火を企むような形相で火を付ける。
 煙を思いっきり肺に送り込む。しばらくして吐き出そうと
「初めまして! 茨木真央であります! 遅くなって申し訳ありませんでしたあっ!」
 煙が変な所に入った。
「げほっげほっ! うわっ、ぉ、おえぇぇえぇっ!」
 どこに入ったのかなんて見当も付かない。目から涙が溢れる。
 まだ一口しか吸っていない煙草をテーブルに放置し、胸を叩く。
 そんな怜治の上から少し慌てた声が、
「きゃあ、ど、どうしたんですかっ? だいじょうぶですかっ!?」
 やっと咽るのが落ち着いた怜治は、涙を手で拭いて上を見上げた。
 そこには知らない女性がいた。
 その女性は怜治の視線に気付き、直立不動でいきなり敬礼をした。
「今日から黒崎怜治さんにお世話になる茨木真央です! どうぞよろしくです!」
 怜治の中でつながった、
「お前が……新人?」
 女性――茨木真央は肯く。
 改めて彼女を見てみると、違和感を感じる。確かボスからの情報では歳は二十一。だが今怜治の目の前にいる女性はせいぜい高校生くらいにしか見えず、背も怜治の胸の辺りまでしかない。
 この子が本当に新人か……? 本当にESP持ってんのか……? そんな疑問が浮ぶ。
 真央が不思議そうにこっちを見ていたので、取り敢えずジェスチャーで向い側に座れと合図する。それを察し、真央は「失礼します」と言って怜治の向い側のイスに腰を下ろした。
「……真央、っつったっけ?」
「はい。真央ちゃんて呼んでくれていいですよ」
 シカトした、
「で、どうして遅れた?」
「あ、それはですね、」
 照れたように下をぺろりと出し、真央は正直にこう言った。
「寝坊です」
「……」
 ため息を吐いた。いいのか? こんなんで本当にいいのか?
 もうどうでもよくなって来て、怜治が次の質問を問う。
「……じゃあ真央、お前のESPは?」
 ふっふっふ、と真央は思わせ振りな笑いをする。
 そしてテーブルの上に放置されっぱなしだった煙草に視線を向け、人差し指をくるりと回す。
 と、いきなり煙草の火の上に少量の水が現れ、火元を沈下した。
 へえ、と怜治は濡れたシケモクを眺める。
「水か……。聞いたことはあるが生で見るのは初めてだな」
「でしょ? わたしも水を使うひとは見たことありませんから」
「規模はどれくらいまで行ける?」
 そこで、真央は悲しそうな顔でぽつりと言う。
 それを怜治は聞き取れず、もう一度聞くと、さっきよりは少し大き目の声で真央は白状した。
「……コップ一杯分です……」
「……舐めてんのか? コップ一杯分で何ができるよ?」
 拳を握り、彼女は宣言する。
「水が飲めます!」
 その頭を張り飛ばした。
「アホかてめえ! そんなもんが何の役に立つ! 一瞬でも期待したおれがばかみたいじゃねーか!」
 涙目のうるうるした瞳で怜治を見つめ、真央は「すいません」と頭を下げる。
 ったく。もういいよ、諦めるよ。期待しても無駄だから。
 怜治が立ち上がり、それを見て真央も慌ててそれに習う。
「まあいい。じゃあさっそく行くぞ」
「どこにですか?」
 頭を掻く。ダメだこりゃ、と怜治は思う。
 怜治はひとりで先に歩き出す。その後を真央が追い掛ける。
 もうどうでもよくなった。とっとと終らせて家帰って風呂入って寝よう。
 そう決めて怜治は後ろから付いてい来る真央を無視して歩き続ける。


 そもそもESPとは何か?
 ESPとは世界共通語の『Extra-Sensory-Perception』の略であり、超常現象あるいは超感覚的知覚能力を意味する。まあ簡単にいえば第六感だ。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、人に備わっているのがその五感であり、そして六感目をESPと呼ぶ。
 しかし誰にでもそのESPがあるのかといえば、それは違う。使える者と使えない者がこの世には存在し、全体の比で行けば全世界の人口の三割程度しか使えない。どうしてそんな物があるのかは今もって不明だ。電磁波が脳を刺激して云々、放射能が隠された力をほにゃらら。その経緯を説明しようとする者は数多く存在するが、どれもこれも物的証拠がない。つまり、皆憶測である。
 そしてESP能力があれば一体何ができるのか? それは人によって違い、未確認の能力は少なからず存在する。例を挙げて簡単に説明すれば、その人が火を起こせる能力だとしよう。規模はまた人によって違うが、能力が弱ければライター程度の火しか起こせず、強くてもせいぜい家を一軒燃やせるかどうかである。そんな能力を尊敬する者もいれば、いらないと思う者もいる。それに規模がその程度であればESPはあってもなくてもあまり関係なのだ。つまりはそういう能力がESPだ。
 しかし、本題はここからである。ESP能力者は、飛躍的に運動能力が向上する傾向が見られる。それこそオリンピック選手を超越するほどに。そしてESPより、こっちを悪用する者が少なからずいて、しかもそんな化け物みたいな奴を相手に普通の人間が抑えるというのが無理な話なのだ。ここで使われるのが『目には目を、歯には歯を』である。
 『ESP能力者にはESP能力者を』。それが、ESP部隊誕生の発端である。


 そして、これはそんな部隊に所属する黒崎怜治と、新米の茨木真央の物語だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「人間丸々氷漬け」




「そういえば怜治さんのESPって何ですか?」
 真央のその言葉ですべてが台無しになった。
「バカッ!」
 急いで真央の口を塞いだが時すでに遅し、ターゲットはその声に気付いて逃げ出している。
 手を離して怜治はその背中を追い掛けた。その後を何が何だかわからないとでも言いたげな表情で続く真央。
「おい真央! お前百メートルは何秒だ!?」
 走りながら訊ねると、真央はすぐに、
「六秒です!」
「じゃあお前の方が速い! アイツの進路を塞げっ!!」
 真央は一瞬だけ前を走る男を見据え、やがて満面の笑みで、
「了解です!」
 そして爆発でも起きたような加速で真央は走り出した。気付いた時には怜治の遥か前にいて、やがて男を抜いた。その前で急に停止して進行方向を塞ぎ、それに驚いた男も急停止する。
 ふたりに追い付いた怜治が止めを刺す。
「死ねコラあっ!!」
 気付いた時にはもう遅い、怜治の飛び蹴りは男の背中に炸裂する。男はまるで車にでも衝突されたように吹っ飛び、前にいた真央を通り越して壁に激突して気を失う。
 一発で静寂が戻って来る。そんな中で、怜治が携帯を取り出し、いくつか操作した後、回線が繋がる。
「黒崎だ。ターゲット確保、掃除屋こっちに回してくれ」
 そして回線を立ち切って携帯をしまう。
 気を失って倒れている男を足の先で突ついていた真央に視線を向ける。
「真央、帰るぞ」
「あ、はい。今行きます」
 ぴょんぴょんと軽い足取りで怜治の隣りに並び、上目づかいに怜治を見上げる。
「ねえ怜治さん?」
「あん?」
「今からごはん食べに行きませんか?」
「……ああ、別に構わないけど」
「ホントですか!? じゃすぐ行きましょう!」
 怜治の手を取って走り出す真央。
 その表情が嬉しそうだったので、まあよしとしよう。


 真央とコンビを組んでから一週間が経っている。
 初めはどうしようもない奴だと思ったが、真央は怜治の予想を大きく超えた。身体能力でいえば、真央は怜治よりも優れていたのだ。
 百メートルは六秒で走り抜け、跳躍は垂直で五メートル、幅跳びは助走ありでは十一メートル、とそんな超人的な運動能力を持っている。ちなみに怜治が百メートルが七秒、跳躍が二メートル、幅跳び十メートルである。真央の数値はESP能力者の中でもトップクラスに入り、それはちゃんとした使い方を憶えれば無敵の武器となる。そして、それを真央に教えるのが怜治の役目なのだ。
 しかし真央には問題がある。天然、とでもいうのだろうか。例えばさっきのような出来事だ。さっき怜治が気絶させた男は、銀行強盗で氏名手配されていた男だ。ESP部隊は基本的にはESP能力者戦を主に行うが、真央のような新人にはまずは普通の人間でその能力を最大限にまで引き出せるように訓練する。つまりそういうことが行われるから、普通の犯罪者はESPの名を怖がり、その名に敏感になるのだ。だから真央がその名を口にした時、あの男は一目散に逃げ出した、ということになる。
 まずは、真央にその天然を直してもわらなければならないが、直らないから天然なのだ。
 近くにあったファミレスに入って、怜治と真央が軽い食事を食べ終った時だった。
「ですから怜治さんのESPって何ですか?」
 またその質問だ。
 イスに踏ん反り返って煙草を吹かしていた怜治は面倒臭そうに、
「いいだろ何だって」
 それでも真央は引かない、
「いーえ! 気になるんですってば! わたしのESP教えたんだから教えてくださいよ!」
 テーブルに手を付いて身を乗り出して来る真央に気圧され、怜治は腰が引ける。
 かなりの至近距離から見つめられ、ついに怜治が根負けした。
「わかったよ、教えるよ……」
 煙草を口に加え、手を机に置く。やっと座り直した真央を見つめ、
「おい、水を少し出してみろ」
「あ、はい」
 真央が指を回すと机の上に小さな水溜りが出来あがる。
 それに、怜治は指を付けた。
「見てろよ」
 真央がそこを凝視する。と、ピシっと音が鳴った瞬間に小さな水溜りが氷になる。
 目を見張った真央を自慢気に怜治が見下ろす、
「おれのESPは冷却だな。簡単に言や水を凍らすESPだ。ちなみに規模は最大で人間一人丸々氷漬けくらい」
 微かにすごいと尊敬する表情と、どうにかして欠点を見つけられないかと悩む真央。
「でも、それって水がないとダメなんですよね……?」
「まあそうなるな。けど人間が相手ならあんまり関係ない」
「どうしてですか?」
「だって人間の体って70パーセントが水だろ? 人間凍らすなんて簡単だし。だからお前もあんまりおれに逆らわない方がいいぞ」
 意味が掴めない真央に、怜治は平然とこう続けた。
「人を氷漬けにして粉々に砕いて捨てれば証拠は残らないから殺しなんて簡単、ってことだよ」
 顔が青ざめる真央は、呆然と怜治の顔を見て、
「もしかして今までにしたことあるんですか……?」
「バカ言え。あるわきゃねーだろ。でも第一号がお前になるかもしれないから気を付けろっておれは言いたいの」
 真央が突然立ち上がる。テーブルを簡単に飛び越して怜治の隣りの座り直し、
 ここで初めて怜治は真央が泣きそうであることに気付いた。
 潤んだ瞳を怜治に向け、心底怖そうに、
「そんなことやりませんよねっ? 氷漬けで死ぬなんてわたしやですよっ?」
 少しやり過ぎかな、と思う反面、これで真央が言う事を聞くようになるのではないか、と思う怜治がいる。
 曖昧な返事しか返さない怜治に、不安を爆発させた真央が店内で暴れたのがそれから一分後である。


 怜治のESPが冷却。
 真央のESPが水。
 その相性が抜群であることにふたりはまだ気付いてはいない。
 そしてそれが後に怜治を救うことになるのだが、
 それはもう少し後の物語だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「水と氷と熱」




 待ち合わせはコーヒーショップのオープンテラスに正午。
 真央と待ち合わせた時間と場所も全く一緒のそこに、怜治はたったひとりでいる。
 不機嫌そうな顔で煙草を吹かし、さっき居心地が悪くて注文したコーヒーを如何にも不味そうに啜る。
 時刻は正午を三十分ほど回った辺りだ。
 前にも言ったが、怜治は待たせるより待つタイプなのである。しかしこれは待たせ過ぎだろうに。
 真央だけならまだしも、もうひとりも来やしない。
 煙草を忙しなく灰皿に捻じ込み、カップに残った最後の一口を飲み干す。
 口に含んだコーヒーを飲み込もうと
「怜治さん! お待たせしました!」
 背中を叩かれコーヒーが変な所に入る。
「ぶばあっ!! うげえ、え、ぇええぇえ」
 どこに入ったかなんて見当も付かない。
 鼻の感覚がおかしいが、ここ最近はこういうのが常なのでもうすでに麻痺していた。
 彼女もその光景を見慣れているので、平然と怜治の向い側に腰掛ける。
 諦め切った表情で一応怜治は、
「……で? 遅れた理由は?」
 真央は照れたように下を出し、
「寝坊です」
「だろうな」
 もう何回この言い訳を聞いただろう。待ち合わせるたびに真央の言い訳は寝坊である。「乙女に睡眠は必要なんです!」と主張した真央の頭を張り飛ばしたのがつい三日前の事だ。
「それで今日は何ですか? またお仕事?」
「いんや。今日は情報収集って感じだな」
「なんですかそれ?」
 その真央の質問には答えず、怜治はきょろきょろと辺りを見まわす。
 今までの経験から言えばもう来ても良い頃なのだが。
 そして案の定、遥か遠くからぶっ壊れた騒々しい排気音が聞こえ始める。
 やがてその音は近づいて来て、テラスから見える道路に一台のバイクが停車した。見るからに旧式でオンボロで、こんなものスクラップだろと思わしきバイクだ。そこから降りて来た男は辺りを見まわし、怜治に気付いて軽く手を振ってこっちに歩いて来る。
「誰です?」
 真央のその問いに、怜治は軽く笑った。
「おれの親友」
 やがてその男はふたりの前に立つ。長身で金の髪の毛をおっ立てた遊び人風の男、名を、
「川澄幸一。おれ達と同じESP部隊の一員だ」
 幸一はニヤニヤした表情で軽く手を前に添え、
「悪い、寝坊した」
 そう言い訳した。
 そんな幸一に真央はただただ、
「なんかこの人に近いものを感じます……っ」
 馬鹿ばっかりだ、と怜治は思う。
 こめかみを押さえつつ、
「幸一、例の件は?」
「おおっ!? 君が噂の天然新人君か! いやあかわいい娘だっ! 羨ましいじゃねえか怜治! こんなんならおれが受け持ちになりゃあよかった!」
 幸一の真央を見ての感想はそれで、いきなりその隣りに座って質問攻めを開始する。名前は? 歳は? 趣味は? 血液型は? スリーサイズは? 好みの男のタイプは? 今彼氏いる? 怜治に変なことされてない?
 刹那、幸一の肩に怜治の手が置かれる、と。一瞬でその肩が氷漬けになった。
 驚いて顔面蒼白になる真央とは裏腹に、氷漬けにされた自分の肩を眺めて幸一は一言、
「ったく、冷てーな」
「いいから本題に入れ」
「へいへい」と生返事をしてイスに座り直す。が、真央は氷漬けにされたその肩が気になって気になって仕方なく幸一の話すら聞こうとはしない。それでも幸一は話をし始めた。
「ボスからの伝令だ。最近巷で噂んなってるESP武装集団『クロム』が行動を開始した。今回の任務はクロムの撲滅。抗争は十二分に考えられるが故、単独で行動せず連絡を回して仲間を集めて一気に潰せ。以上。何か質問は?」
 少し考える怜治と氷漬けの肩をじっと見つめている真央。
 やがて怜治が、
「クロムって言やあの殺戮と破壊工作を生き甲斐に活動している世界のゴミだよな?」
「その通り」
「クロムは百人からなる集団だよな?」
「その通り」
「こっちの人数は? 一体何人まで動員された?」
 痛いとこを突いてきやがった、と幸一は顔をしかめる。しかし隠しても無駄だと諦めたようにため息を吐いた。
「動員された人数は、五人。おれにお前にその新人に、後はおれも知らん。ボスが言うにはそいつらは二人で行動するらしい」
「最後だ。クロムの中でESP能力者は何人いる?」
 そして、幸一はこう言った。
「三人。幹部の二人とリーダーの植木だけだ」
 だけだ、とは簡単に言ってくれる。
 こっちは訓練しているとはいえ、能力者を相手にマンツーマンで勝負しなければなくなる。それにもし名前も知らない二人が来なければ、事実上真央の戦力には期待できず、二対三になる。それでは少々分が悪い。
 しかしまあ向こうが力に溺れて訓練していないのなら真央でも対処できるだろうし、そうなら怜治と幸一だけも行けると思う。ちなみにこの二人、ESP部隊の中でもトップクラスの戦闘能力を持っている。
 テーブルに肘を付き、怜治は息を吐く。
「任務了解。おれからの質問はもうナシ」
「そうかい。では、」
 ふと幸一はずっとこっちを見ていた真央の視線に気付いた。その瞳があまりにも真剣だったので、幸一は一瞬だけ引いてから何とか微笑んだ。
「えっと……質問は……?」
 真央はそれからしばらく無言だったが、やがでじっとりと、
「幸一……さん、のESPって、何ですか……?」
 一瞬、その場がしんと静まる。
 しばらくしてから幸一が「ああ」と思い出したように氷漬けにされたままの肩を見た。
「もしかしてこれが気になってる?」
 真央は肯く。
「そうか、そうだよな。よし、ちょっとここ見てろよ」
 氷漬けの肩を凝視する真央と、笑う幸一。
 やがて幸一が目を閉じ、ふっと息を止めた瞬間にその氷はたちまちの内に消えてなくなる。蒸発、とでもいうのだろうか。
 目をしぱしぱさせて真央は幸一を見やる。
「おれのESPは熱。っつてもただ体を熱するだけなんだけどな。お茶とか沸かす時とかそういう時には便利。あ、それとこうやって怜治に氷漬けにされた時にも有効」
「……なんか、微妙ですね……」
「まあそういうなよ。ESPなんて皆そんなもんだよ」
 そう言ってから幸一は席を立った。
「じゃおれは行くわ。お前らはお前らで捜査よろしく。見つけたら携帯に連絡しといてくれ。詳細はお前んちのPCに送っといたから」
 歩き出した幸一の背中に、真央は声を掛ける。
「もう帰っちゃうんですか?」
「ああ、やることがあるんでね」
 それだけ言い残し、スクラップ間違いなしのバイクに跨ってエンジンを掛け、ぶっ壊れた排気音を轟かせて幸一は走り行く。
 残された真央は何やら釈然としないような表情を怜治に向ける。
「怜治さん? 幸一さんて何しに来たんですか?」
 こいつ話聞いてなかったな、と怜治は思う。
 まあそれが真央の天然であるからして、一番の欠点だ。
 とにかく真央に事情を説明しながら家に言って詳細でも拝見しようと決める。
 怜治は立ち上がって歩き出す。
「真央、行くぞ」
「どこにです?」
「おれんち」
 嬉しそうに真央は立ち上がる。
「ホントですか!? 何か御馳走してくれます!?」
 怜治の後を追いすがる真央の頭に手刀を入れる。
 まったく、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。


 この時、怜治はクロムについてあまり深くは考えていなかった。
 今までにもそんなような事件は数多くあったし、どれもこれも大事にならない内に叩き潰したからだ。
 そして今回は少し違うということに怜治が気付いた時には、
 すでにすべては遅いのである。
 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「尾行の末に」




『ESP武装集団クロムのリーダー、植木透のESPは不明。
 幹部の右翼、杉並は風。規模は落ち葉を動かす程度。左翼の片桐は猿。猿から好かれるという何とも気味の悪い能力。
 現在のアジトと思われる場所はE-3-12の第七倉庫。しかしそこに侵入することは禁ずる。まずは相手の動きを確かめるために右翼の杉並を捕獲。顔写真を添付してあるのでそれを元に捜査せよ』


 まあそんな簡単な詳細しかなく、どうしようかと真央と相談した所、取り敢えず外に行ってみようということになった。
 顔写真をプリントアウトしてそれを見ながら歩いていたら、まさにその顔を発見した。つまりは右翼の杉並を見つけてしまったのだ。
 と、そんな馬鹿みたいに軽い展開で、ふたりは杉並を尾行している。
「捕まえなくていいんですか?」
 こそこそとそう言う真央の口を塞ぐ。
「黙ってろ。こんなとこで暴れられたら厄介だ。人がいない場所まで尾行する」
 そんなもんですか、とそんなような表情で真央は肯く。
 今ふたりがいる場所は人通りの多いアーケード街だった。そこをふらふらと歩いていたら杉並を発見したのだ。しかしこの杉並、仮にも犯罪者なのだからもっと慎重に行動しろよと怜治は思う。
 そしてかれこれ尾行を開始して十二分。杉並が道の真ん中でいきなり立ち止まった。勘付かれた、と怜治は思ったが、どうやら杉並はただ道端から見えるビルに設置された巨大なスクリーンを見上げているようだった。
 微かに安堵してからふと後ろを振り返ると、なぜかそこに真央の姿がなかった。急いで辺りを見まわすと、そこから少し離れた場所に真央はいた。どうしてか真央はしゃがんでいて、その前に小さな女の子がいる。
 何やってんだ、と怜治は思う。と、それはすぐさま腹立たしさに変わる。今は尾行しているのだ。そんなことをしている暇はないのだ。天然でもやりすぎだろう。
 少し強めの声で注意しようと思った瞬間、真央が信じられない行動をした。女の子の前で、ESP能力を発動させたのだ。女の子は水が出てきたことに大喜びで、あろうことか誰もが振り返るような大声で、
「いーえすぴーだあっ!!」
 そう叫んだ。
 そして、杉並が動いた。ゆっくりと、こっちに向って歩いてい来る。
 悪態を付いて真央の側に掛けより、首根っこを掴んで立たせ、驚いている真央の腰に手を回す。
「え、なんですかっ?」
 突然のことに焦り出す真央に、怜治は真剣な口調で言う。
「落ち着け。今からおれのすることに絶対口出しするな」
 そしてそのまま踵を返して歩き出す怜治。その時に横目で背後を覗う。
 杉並は案の定こちらに向って歩き続けている。マズイな……そう心の中でつぶやく。
 隣りで挙動不審の真央が、
「えっと、新手のセクハラですか?」
「黙れ。氷漬けにするぞ」
 その台詞に言葉を失う真央を無理やり引っ張った。
 後ろからは杉並が尾けてくる。これではさっきと逆だ。
 どうしようかと一瞬悩み、怜治はすぐそこにあった小さな携帯ショップに足を踏み入れた。店の店員が笑顔で「いらっしゃいませー」と迎えてくれた。たぶんここでじっとしていれば杉並も手荒い真似はしないはずだ。落ち着いた頃に幸一に連絡を取って、それから、
 そして、杉並も携帯ショップに足を踏み入れた。
 さあどうする? ちらりと杉並の様子を覗う。
 瞬間だった。この杉並を、甘くみていた。相手は仮にもESP武装集団クロムの右翼。殺戮と破壊工作を生き甲斐に活動する害虫なのだ。
 杉並が、懐に手を突っ込んで無機質な鉄の塊を取り出した。その名称を、怜治は一発で思い出せた。
 ――ベレッタM92F。
 その銃口が、まず笑顔で迎えた店員に向けられた。刹那、そこから乾いた銃声が響き、店員の肩を舐めた。
 一瞬で静寂がその場を支配して、その中で突然杉並が笑い出した。それに弾かれるようにして他の客から悲鳴が上がり、店員が絶叫する。
 店から人が逃げ出す、杉並が笑ったまま銃口を真央に向けた。その光景を、まるで夢のように見つめる真央。
 ダメだ、真央は状況を理解してない。
「お前、ESP部隊だな?」
「え……」
 杉並は笑う、
「死ねよ」
「待てっ!」
 ギリギリだった。怜治の声があと一瞬遅ければ、引き金は引かれていた。
 杉並の視線が怜治に向けられる。
「杉並、おれもESP部隊だ。こっちは新人だ、先に殺すんならおれからやった方が無難だと思うぞ」
 ぽかんと開いた杉並の口から捻じ曲がった笑いが漏れた。
「クックック、そうか、そうだな、じゃあお言葉に甘えよう」
 勝負は一瞬。杉並がこちらに銃声を向けたその瞬間。銃弾を避けての接近戦。それなら勝てる。
 しかし、銃口は真央に向いたままだった。そして、引き金が押し込まれる。
 刹那、真央の体が跳ねた。何が起きたのか理解できなかった。
「お言葉に甘えて新人から殺らせてもらうよ。せいぜい苦しんでくれたまえ」
 杉並は踵を返す。外に出て野次馬が出来上がっていたアーケード街に姿を消す。
 後を追う気など、これっぽっちも起こらなかった。
「真央っ!!」
 床に倒れ込んだ真央に駆け寄る、体をざっと見渡すと左の胸より少し上の方から血が流れ出ていて、シャツを真っ赤に染めていた。
 真央は自分の体から流れる血を呆然と見つめていてる。現実感がないのだろう。
 血に染まった手を目の前にかざし、ただ、
「……わたし、撃たれたん、ですか……?」
「喋るなっ!! 息を吸って止めろ、痛いかもしれんが我慢しろ」
 どこか虚空を見つめ、真央は喋り出した。
「怜治さん……あの、ですね……最後だから言いますけど、わたし、」
「喋るなって!!」
 真央の傷口に手を添える、真央が苦痛に顔を歪める。
 怜治の手が真っ赤に染まり、傷口から溢れる血を直に感じる。
「真央、よく聞け。今からお前に冷凍処置を行う。しばらく意識が飛ぶが安心しろ。次にお前が起きた時にはすべてが元通りだ」
「わたし……死ぬんですか……?」
 本心から、怜治は笑った。
「死なせねーよ。絶対にな」
 その笑顔を見て、真央も笑った。
 片手をゆっくりと怜治の手に重ねる。
「……約束、ですよ……?」
「おうよ。しばらく安心して眠ってな」
 真央は目を閉じた。
「……はい」
 怜治も目を閉じる。
 神経を集中される。人一人分、というのはかなりの力を必要とする。水を凍らせるとか、肩を凍らせるのとはわけが違うのだ。体全体の神経、細胞を一つ残らず冷却するのは至難の技だった。しかし今はそうこう言っていられない。
 真央を、死なせるわけにはいかないのだ。こうなったのは自分の責任、だから、真央が死ぬのはお門違いだ。死なせない、死なせてたまるか。
 傷口に添えた、真央の手が重ねられた、自分の手にすべての力を注ぎ込む。
 一瞬ではじまって、一瞬で終った。端から見たら何も変わっていないだろうが、真央の傷口から溢れていた血は完全に凍り付き、真央自身も呼吸をしていなかった。
 ――つまりはこれが冷凍処置である。普通ならこんなことをしたらこのまま凍死になるが、三十分以内に解除すれば問題はない。そしてその手段はあるのだ。
 凍り付いた血が付いたままの手で携帯を取り出し、メニューを操作しながら歩き出す。入り口付近にへたり込み、泣き叫んでいる店員の肩を見据える。
「落ち着いて。あなたはまだ大丈夫、必ず助かる。だから少しだけ我慢してくれ」
 血塗れの肩に、怜治は手を添える。苦悶の表情を浮かべる店員。
 そしてまた突然にその肩が氷漬けになる。
 と、その時携帯から声が聞こえた。
『どうした怜治?』
 幸一だった。
 携帯を耳に当てる。
「すまない、任務違反だ。杉並と交戦、真央と一般人が負傷、ふたりに冷凍処置を施した。場所はアーケード街の携帯ショップ」
『……新人君の具合は?』
 それに、怜治ははっきり答えた。
「全身冷凍だ。すまないがお前も病院に直行してくれ」
『了解だ』
 通話が立ち切れる。
 どこからか救急車のサイレンが聞こえてくる。
 呆然とこっちを眺めていた店員に視線を向ける、
「今から君と真央は病院に行け。救急隊の奴にはESP部隊の一員が来るまで処置は施すなと伝えてくれ」
 ぶんぶんと肯く店員。それを確認しから怜治は歩き出す。
「あ、あのっ!」
 店から出る瞬間、その店員に呼び止められた。
 振り返ると、店員は、
「あの女の人は!? あなたの仲間じゃあ……!?」
 真央の方を見てそう言う。
「だいじょぶ。真央は強い奴だ。心配ない」
「で、でも、置いてくんですか!?」
 その問いに、怜治はこう答えた。
「行く所があるんだ」
 それ以上言葉を言わずに、踵を返す。その瞬間に真央を微かに見て、そのまま歩んで店を出た。野次馬が道を開ける、まるで王道のようなそこを怜治は歩いて行く。
 行く場所は決まっている。E-3-12の第七倉庫、クロムのアジトだ。
 怜治の歩んだ場所が氷漬けになっていく。
 ぶっ潰してやる。拳を握り緊め、怜治は前を見据えた。
 覚悟しておけ。ESP部隊を敵に回したことを後悔させてやる。


 真央を傷付けた罪は、地獄に落ちるより重いぞ……っ!!


 怜治の回りが冷気と化す。
 触れる物すべてが氷漬けになる。
 怒りはすべてを忘れさせた。


 ――叩き潰す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「残りの二人」




 ESP能力者とそうじゃない者の違いはどこか。
 それはハッキリとしていて、一般的に言わせれば能力を使えるか使えないかで別れる。それが一般論であり、普通の常識なのだ。
 しかしそれよりも、もっと違う所で決定的な相違がある。それが身体の造りだ。
 簡単に言えば筋肉、もっと細かい所まで行くなら細胞レベルの話になる。身体の一つ一つの構造が、ESP能力者とそうじゃない者では極端に違う。ESP能力者が比較的に運動能力が向上するカラクリはまさにここにあるのだ。一般の黄色人種と黒色人種の筋力バランスが違うように、ここでもそれが当てはまる。
 ESP能力者の身体の構造は、そうじゃない者の約五倍の能力を秘めている。そしてそれが産まれて落ちてすぐの話であり、ここからがもっと重要になる。産まれ落ちた瞬間に五倍の差がつくのだが、そこから徹底的に鍛え上げれば、五倍が一気に約十倍まで跳ね上がる。だが理論上ならば、五倍から極限まで鍛えれば驚くべきことに百倍まで弾け飛ぶという。
 単純計算で考えれば、ESP能力者一人に対し、そうじゃない者が百人束になってやっと同等になる、ということである。


 その話を怜治に当てはめてみよう。
 今現在、黒崎怜治の身体能力、戦闘能力で考えれば約三十倍ほどである。そしてそれに加え、『怒り』というものの影響でストッパーが外れ、その値がさらに上がっていた。
 つまり、今の怜治に対して、普通の人間が勝てるはずもないのだ。
 怜治がE-3-12の第七倉庫、クロムのアジトに辿り着いた時に出迎えてくれたのは三十人たらずだった。
 それらすべてを、怜治は叩き潰した。
 命乞いは聞かない、泣くくらいなら挑んでくるな、ぶっ殺されたくなかったら失せろ。
 三十四人目のクロムのメンバーの顔面に拳を叩きつけた時にそうつぶやいた。
 辺りには人が大量に転がっている。どれもこれもピクリとも動いていないが、死んでいるのではない。皆、『意識が戻らない』だけである。
 怜治は前を向く。そこにあるのは分厚い鉄の扉が二枚、コンクリートで出来あがった巨大な倉庫。
 この中に、アイツがいる。それだけ十分だった。怜治は歩き出す。まだ怜治の攻撃を受けていない物が怖気づいてその場から逃げ出す。それでいい、向ってくるな。用があるのはアイツだけだ。
 逃げ出す者の中に、たった一人だけこっちに走り出す者がいた。片手にはギラリと光るサバイバルナイフを握り緊めて。
「うぉおおぉおおぉおおおッ!!」
 男はあらん限りの声を張り上げで向って来る。
 ちょうどいい、と怜治は思う。
 その男に怜治は向き直り、じっとナイフを見つめる。そのナイフの刃先が怜治を射程距離内に入れる、真っ直ぐ怜治の胸を狙う。
 そのナイフが怜治の胸に突き当たり、
 そのまま動かなくなる。
「……えっ。あ、……あ?」
 何が起きたのか理解できない男。そして瞬間にナイフは愚かグリップを握っていたその手すら氷漬けになった。
 痛みではなく、その男は自分の手が凍ったという事実に絶叫する。その絶叫は、すぐさま遮られて呻き声に変わる。男のこめかみが、怜治の手で鷲掴みにされていた。ミシミシと骨が軋む音が聞こえ、やがて男の口から泡が噴かれる。
 白目になり始めたその目を、怜治は睨み付ける。
「いいか、憶えておけ」
 更なる力をその手に込める、
「おれの同朋を傷付けるってことはな、貴様等が死ぬってことなんだよ」
 怜治は体を振り回し、男の体を片手の力だけで上に投げ飛ばす。
 意識を失っている男は成すがままに宙を舞い、コンクリートの壁に備え付けられた窓に激突して中に転がり込んで行く。ガラスが怜治の頭上から降ってくるが、知ったことではなかった。その粉々に割れた窓を怜治は見据える。
 笑う、
「杉並、宣戦布告だ。受け取れ」
 そして歩き出す。分厚い二枚の鉄の扉に手を添える。見上げるほどでかいその扉は、まるでどこかの基地の入り口だった。
 開けようとしみてるが鍵が掛かっているのか何かが引っ掛かっているのか、扉はビクともしない。
 無駄なことするんじゃねーよ。添えた手に神経を集中させる。
 瞬間、扉が氷漬けになる。無機質の物質を凍らすのはこれが初めだったのだが、どうやら上手く行ったようだった。もう一度扉に手を掛けて思いっきり引く。と、どこからかガコッと音がして扉が根本から崩れるように倒れる。真っ暗な倉庫内に太陽の光を背に浴びた怜治の影がすっと伸びる。
 銃口がお出迎えだった。ざっと見ただけで十、いや二十ほどの銃口が怜治を捕らえていた。
 刹那、すべての引き金が押し込まれた。耳がおかしくなるようなその轟音。単発式のリボルバーもあればサブマシンガンも揃っている。すべてがすべてその弾が尽きるまで怜治に向って打ち込まれていた。地面を何発かの銃弾が抉り、砂煙が立ち込めてたちまち怜治の姿はその中に消える。銃を構えている奴にしても怜治の姿は確認できず、ただ煙に向ってトリガーを押し続けた。
 やがて一つ、また一つと弾切れが訪れ始める。合計で二十三の銃が弾切れになった時、煙の中から「カラカラカラカラ」と数え切れないほどの小物が床に落ちる音が聞こえる。その場にいた全員が何の音だと互いに顔を見合わせる。ぶっ壊れた倉庫の扉から風が吹き、立ち込めていた砂煙が消えて行く。
 そこに、一人で立っている男がいる。それは、間違いなく黒崎怜治であり、その怜治の周りには数え切れない氷の塊が転がっている。それが撃ち込まれていた銃弾だと気付くことができたのは、この倉庫にいる連中の中で一体何人いただろうか。
 呆然と、まるでゾンビを見るような目付きで怜治を眺める連中を一通りに見渡してから、怜治は吐き捨てるそうに、
「杉並以外に用はない。死にたくなければ失せろ」
 その声で連中は我に返る。弾切れになった銃をその場に捨て去り、一丸となって怜治に突っ込んでくる。
 無数に聞こえる足音の中、怜治のつぶやきだけが静かに響く。
「――潰す」


 二十三人を血祭りに上げた。
 その奥にいる三人に視線を向ける。
 暗闇に射し込む光で微かに見えるそのシルエット。真ん中の一人がイスに座っていて、両側にいる二人は直立。真ん中が植木で、左が片桐、そして右が、
「杉並……」
 真央を傷付けた元凶。お前だけは許さない。この手で潰してやる。
 右にいた影が動く。ゆっくりとこっちに歩いて来る、
「おれをご指名ですかい、ESP部隊さん」
 光に照らされるその笑顔。さっきもそんな風に笑っていやがったなテメえは。
「そうそう、新人はどうなりました? 急所は外れましたけど、あれじゃあ死んじゃってますよねえ?」
 ゲラゲラと笑う杉並。
 怒りが頂点に達する。潰すのではない――コイツを、殺す。
「タイマンで受けてやるぜESP部隊の腰抜け」
 杉並が腕を上げて拳を握る。
「上等だ、ぶっ殺してやるっ」
 怜治が駆け出そうとしたまさにその瞬間だった。
 倉庫内に伸びる影が、三つになった。一つは間違いなく怜治の物で、他の二つは――
「ちょっと待ったあっ!!」
 振り返れば、そこに知らない顔の男が二人がいた。
 二人は同時に歩んで来る。怜治の両隣まで来てそこで立ち止まり、片方の男がイスに座っている男を指差す。
「タイマンならおれ達も混ぜてもらうぜ。なあ植木」
「お、お前らは……?」
 実に楽しそうに、その男はこう言った。
「ESP部隊最強の男、西村だ」
 続いてその逆隣の男が、
「最強ではないが同じくESP部隊の小野寺」
 まさかこいつらがこの件に動員された残りの二人……?
 西村と名乗った男はふと怜治に視線を向け、噛み締めるように、
「悪かったな……仲間一人負傷させるとはおれ達のミスだ。ゴミ掃除してたら遅れちまってよ……。だが、」
 西村の変わりに前を向いたままの小野寺は、誰に言うでもなく、
「クロムのここにいる以外のメンバーはすべて抑えた。残るはお前達三人だけ」
「そういうこと。だからよお、」
 両拳を重ね合わせ、西村は実に、実に楽しそうに宣言する。
「遠慮なくタイマンと行こうぜえ植木っ!!」
 するとまた小野寺が誰に言うでもなく、しかし怜治に対し、
「どうする? わたしはどちらを相手にするのも構わないが……」
 どうやら植木は西村が担当するらしい。だがそんなことはどうでもいい。
 怜治の狙いはただ一人、杉並だけだ。
「おれは杉並を殺る」
「そうか。ではわたしは片桐か……猿は嫌いなんだがね……」
 怜治が、西村が、小野寺が、
 それぞれに相手に狙いを定める。
 全面戦争が始まる。
 ESP能力者同士の戦いだ。


 待ってろよ真央。
 すぐにお前の所に行ってやっから。
 だから、


 ――……死ぬんじゃねえぞ……――



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「約束」




 真央とコンビを組んで五日ほどした辺りだったと思う。
 殺人事件を起こした犯人を真央が捕まえたその時だ。
 真央は、犯人に傷を負わせずに捕まえた。しかし、当の真央は左肩に微かに切り傷を受けていた。その犯人がナイフを振りかざしたからである。
 すいません、少し切っちゃいました。そう言って真央は怜治に謝った。
 その傷を怜治が手当てしながら訊ねる。
「どうしてあの時アイツを気絶させなかった? 下手したら死んでるかもしれねーんだぞ」
 肩に巻かれた包帯を照れくさそうに見つめ、
「だって、殴られたりしたらやっぱり痛いですから」
「アホ、相手は仮にも殺人者だぞ? そんなこと言ってる、」
「違うんですよ」
 真央は、怜治を見て微笑んだ。
「無傷で済むならそれが一番なんです」
「だからお前はそのせいで、」
 人差し指が怜治の口に当てられる。
 真央は笑っていた。
「どんな時でも、人を傷付けるのは極力避けた方がいいんです。だって、痛いのは皆やですから」
 反論しようとした怜治に、真央はこう言った。
「約束です怜治さん。これからは、人を極力殴らないこと。いいですか?」
 その問いに、怜治は「わかった」と返してその頭に手刀を入れる。
「痛いですってば……さっき約束したばかりじゃないですか……っ」
「うるせー。もう帰るぞ」
 最後に、真央は怜治の手を取った。
「な、なんだよ?」
 怜治の目をじっと見つめ、やがて真央は微笑んだ。
 その時、真央は怜治にもう一つ約束させた。


     ◎


 三箇所に別れて争うことになった。
 西村と植木が倉庫内、小野寺と片桐が倉庫の裏、そして怜治と杉並は倉庫前だ。
「ここなら存分にやれるだろう?」
「黙れ」
 杉並の声など聞きたくもない。今すぐにでもその口を凍らしてしまいたい。
 そして、二度と誰も傷付けさせはしない。
 なぜなら、杉並はここで再起不能だからだ。
 怜治が拳を構える。杉並のESPは風、規模は落ち葉を動かす程度。気にする必要ない。それなら接近戦での肉弾戦だ。そのいけ好かないツラに、拳を叩き込んでやる。
 戦闘開始、
 怜治は走り出す。一瞬で距離が詰って拳を繰り出すまでに、一秒掛かったかどうかである。杉並はそれを見切っていたのか後ろに飛んでまた距離を取り、ゲラゲラと笑う。
「こんなもんかESP部隊ってのは! 弱い、弱いじゃねえかよ!」
「黙れっつてんだろがっ!!」
 もう一度杉並に突っ込む。拳を繰り出し、それもまた避けられる。そんなことを何回も何回も続けた。その度聞こえる杉並の笑い声でさらなる怒りが頭の中を支配する。
 何発拳を繰り出したのかはわからない。しかしその中の一つでも、命中することはなかった。普通の人間相手ならもうとっくの昔に勝負は決まっている。だが怜治が今相手にしているのは、犯罪者と言えど曲がりなりにもESP能力者である。そう簡単に勝負が着くはずもない。
 それどころか、今押されているのは怜治の方だった。一方的に攻撃しているものの、当たらなければ意味がなく、それは明らかに杉並の思うツボなのだ。
「どうした? 怒りに任せた攻撃じゃあおれには当たらねーぜ? 天下のESP部隊も終りだな」
「クソッ!」
 息が切れ始めた、
「ESP能力者同士で戦う時、一番おもしろいのは何だと思う?」
 杉並はすぐに答えを言う、
「それはな、能力が有効に使えるからだよ」
 瞬間に、怜治の目が痛みを感じた。何かをされたのではない、ただ単純に目が痛いのだ。車に乗っていて窓から顔を出した時と同じ感覚、目が乾いて痛くなって開けていられない状態。杉並のESPは風、甘く見ていた。
 気付いた時には、怜治の視界は完全に閉ざされていた。目が開けていられない。
 真っ暗な視界の中で、杉並の声が聞こえる。
「落ち葉程度の規模でも、使い方によっちゃあ無敵の武器になるんだぜ」
 一歩一歩、歩み寄ってくる気配がする。
「ここからは、おれの反撃だ」
 腹の鳩尾(みぞおち)に衝撃、息が詰ると同時に頬に拳が撃ち込まれる。
 一発で天地がわからなくなって、気付いた時には倒れていた。上に何かが圧し掛かる、微かに開いた視界から杉並の笑顔を見た。
 マウントポジションを取られていた。次々と岩のような衝撃が降ってくる。口の中がすぐに鉄の味で一杯になる、頭が地面に当たる度にガッガッと音が聞こえる。
「どうしたどうした!? これで終りかあっ!? はッ情けねえ!! そんなんだから新人も護れねえんだよ!!」
 黙れ。そうつぶやく。
 怜治は笑う。その笑みが気に障ったのか、杉並は更に勢いよく拳を降らせてくる。
 勝ったと思ってるんだろ? 杉並。だけどな、甘めえ。お前は言ったよな? ESP能力者同士が戦う時、一番おもしろいのは能力が有効に使えるからだと。それはおれも共感するぜ。お前と意見が一緒なんて寒気がするが、その御かげで何の気兼ねもなくやれる。遠慮はしねえ。
 覚悟しろ。真央を傷付けた罪は、地獄に落ちるより重いぞ。食らえ。
 刹那、杉並の動きが止まった。自分の意思で止まったのではない、動けないのだ。
「な、なんだっ……!?」
 杉並の両手両足が、氷漬けになっている。怜治がそんな杉並を蹴り飛ばし、マウントポジションを脱出する。蹴り飛ばされた杉並は手足が使えないので地面に叩き付けられ、実に奇妙な体勢で這いつくばる。
 下から立ち上がった怜治を見上げる。
「クソ、テメえ何しやがったあっ!!」
 見下げる怜治はこう答える。
「氷漬けってのは、結構苦しいもんだろ。だがな、」
 コイツだけは許さない。潰すんじゃない、殺すんだ。
 真央を傷付けたコイツを、許す道理がないのだ。
「真央はもっと苦しいんだよ。その苦しみ、お前にも味合わせてやるよ」
 怜治が何をしようとしているのか、杉並は悟った。
「ま、待て! やめてくれ!! これでもおれはもう戦えない! おれの負けだ! だから、な、頼む!」
 命乞いは聞かない、泣くくらいなら挑んでくるな、ぶっ殺されたくなかったら失せろ。
 当てはまるのは最初だけか。命乞いなど聞いてやるものか。殺してやる、死ね。
「くたばれ」
 杉並に手を伸ばし、神経を集中させ、
 その瞬間、真央の声を聞いたように思う。


 ――どんなことがあっても、人を殺しちゃダメですよ?――


 その手を、怜治は止めた。
 そしてすぐに、笑った。
 そうだ、そうだよな……。約束したよな、真央。
 すまん、もう少しでその約束破りそうだったよ……。
 お前に会ったら、礼の一つでも言わなきゃな。
 ――ありがとう、真央。
 手を引っ込める。そのまま怜治は踵を返す。
「今回だけは助けてやる。だがもし今度、真央に手え出したら、その時は……」
 天を仰ぐ。
「いや、それはダメだな……。取り敢えず、手え出すなよ」
 その時すでに、杉並の意識はなかった。


     ◎


「一つ言っておくが、」
 小野寺は向かい合っていた片桐にぽつりと言う。
「わたしは殴り合いというのが好きではない。だから、お前にやる気がないのなら無駄な争いはしたくはないのだが……」
 片桐は鼻で笑う、
「バカを言うな。おれはクロムの左翼だ。ESP部隊には恨み持ってんだよ」
「そうか……ならば、すぐに終らせるとしよう」
 ピクリ、と片桐の肩が動く。やがて腹立たしさを隠せない声で、
「舐めたこと言ってんじゃねーよ、クソがっ!」
 走り出す。すぐさま小野寺に接近して、拳を繰り出す。
 それを、小野寺は受け止めた。実に綺麗な笑顔で笑う。
「何笑ってんだ貴様ッ!」
 片桐が逆の拳を繰り出そうと、
 異変に気付いた。体が、動かないのだ。
「わたしのESPを知らないのか?」
「な、なんだとっ!?」
 やれやれ、と小野寺は首を振る。
「わたしのESPは静電気」
「静電気!? それがどうしてこんなっ……!」
 今度は片桐の口が動かなくなる。
 小野寺は心底嫌そうに、
「全く、大声で叫ばれるのがわたしは一番嫌いなんだよ……」
 ため息を吐き、
「静電気は、使い方さえ憶えれば人の筋肉を硬直させることだってできるのだよ。人が行動するにはかならず筋肉を動かすから、それを麻痺させてしまえば人なんてただの人形に過ぎない」
 そして、と小野寺は笑う。
「脳に静電気を送れば、意識を飛ばすことくらい簡単に可能にできるんだよ。それでは、おやすみ」
 刹那、片桐の目がぐるりと白目に切り替わり、体の体勢はそのままで地面に倒れ込む。
 やれやれ、と小野寺は首を振る。
「黒崎さんは大丈夫でしょうね……。問題は、西村さんですが……」
 あの植木の能力を、ESP部隊もまだ測り兼ねている。
 もし下手に強力なESPなら西村さんでも……。
 いや、これこそ愚問ですね。
 西村さんのESPは、なにせ『あれ』ですから。
 小野寺は歩き出す。
 さて、黒崎さんの応援にでも行きますか。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「地球外生命体」




 西村は、どんな時でもテンションが高い。
 西村は、どんな時でも喧嘩腰である。
 西村は、自分のESP能力は最強であると思う。
「おれのESPを教えてやろうじゃねえかよ」
 腰を落として地面を触る。
 瞬間に、そこがドロリと溶けた。文字通り溶けたのだ。微かな煙を吐き出し、地面には綺麗な穴が出来あがる。
 西村が植木を見据えて、
「おれのESPはマグマ。すべてを溶かす能力だ。おれの前ではすべてが無駄、無意味だ。どうする植木? 今ならまだ半殺しで助けてやるぞ」
「ほう……それは怖いな。では始めようか」
「テメえ、おれの話聞いてたのかよ? おれのESPならお前なんか一発でドロドロだぜ?」
「御託はいいってのがわかんねーのか」
「あん?」
 植木が一歩踏み出す。
 その顔から明確な苛立ちの色が浮き出ている。
「お前みたいなクソのESPに興味はねえ。グダグダ言ってねえで掛かってこいや」
 こんな啖呵を吐かれたのは、いつ以来だったろうか。
「いいねえ、その口調。おれ相手にそんな口聞いたヤツあ久しぶりだ」
 姿勢を戻して拳を構える。カッカッカ、と西村は笑う。
「おれの拳を一発でも食らったら即アウトだ。死ぬ気で逃げねーと体が飛ぶぜ」
「一つ、いいことを教えやろう」
「なに?」
 植木は何も構えない。
 そして、こう言った。
「『弱いヤツほどよく吠える』」
 上等だ。
「誇り高きESP部隊に喧嘩吹っ掛けたことを後悔しな」
 西村は走り出す。大抵のヤツはこの一発で即アウト。ESP能力を発動させなくても気絶する。しかし今回は別だ。コイツは久しぶりにムカツク野郎だ、衣服くらいなら溶かしてやってもいい。さあ、その時の慌てた表情が楽しみだ。
 植木は何も構えを取らなかった。つまり挑発である。こっちはノーガードなんだ、思いっきり腹に突っ込んでみろ。上等上等やってやる。何か作戦があろうとも一発で終りなんだ、小細工は無意味。溶けて消えろ。
 西村の射程距離内に、植木が入った。そのまま一気に拳をその腹に叩き込む。ここで力を制御してESP能力発動。服が溶ける程度、さあ慌てろ。
 ……?
 しかし、いつまで経っても西村のESP能力は発動しなかった。
「言ったろう? 『弱いヤツほどよく吠える』ってな」
「お前……なにを……っ!?」
 西村の拳が、植木に握り返される。いくら力を振り絞ってもESP能力は愚か拳に力が入らない。
「植木……っ! まさかお前のESPは……っ!」
 植木は笑った。弱者を哀れむような、そんな笑顔。
「そう。おれのESPは無力化。ESP能力者の力を約五分間奪う能力だ」
「それでか……だが、な。おれをマグマだけの男だと思うなのよ!!」
 力比べなら自信がある。絶対勝てる自信が。拳を捩じ上げようとして、しかしそれはビクともしない。
 まだわからないか、と植木は言う。
「ESP能力を奪う、それは対象者を『普通の人間』に戻すってことなんだよ。お前お得意のマグマはもちろん、身体能力もな」
 つまりは、この状況は、
 ESP能力者と『普通の人間』という絶望的な争いになったということだ。
 いつもは自分がやっていることがそのまま降り掛かってきたのだ。そしてその争いは、絶対に勝てないということを西村は一番よく理解していた。今のままでは勝ち目がない。植木は五分間と言った。それまで持ち堪えれば、勝機はある。
 何とか植木の手から逃れようとすると、逆に植木の方から手を離した。これで逃げられる、そう思った瞬間だった。
「誇り高きESP部隊が、不様に敵に背を向けて逃げ出すのか?」
「……なに……?」
 植木を振り返る。
「テメえ、今なんつった……?」
 植木はこれ以上ないくらに楽しそうな笑顔で笑った。
「さっきまでの威勢は口だけか? 情けない話だな、悪党の方が度胸があるってのも」
 ここまで言われて、食い下がってたまるか。
 上等だ。受けて立ってやる。
 西村は走り出す。声を張り上げる。
 勝てないなんてことは百も承知。それでも、逃げてたまるものかっ!!
 その時見た植木の笑顔が、悪魔に思えた。


     ◎


「……痛っ」
 クソ、と怜治は悪態をつく。
 杉並の野郎、思いっきり殴りやがって。
 殴られた頬を押さえながら怜治はとぼとぼと歩いていた。向う先は倉庫内。そこには西村と植木がいるはずだ。裏に行けば小野寺と片桐がいるが、そっちに行くより倉庫の方が近いのでこっちを選んだ。
 地面を踏み締める度になぜか頬に痛みが走り、今度また杉並の顔を見たら本当にぶっ殺してやろうかと思う。
 やっとこさ倉庫前に到着して、ぶっ壊れたドアをまじまじと見つめる。そういえばこれっておれが壊したんだよな……。
 怒りはもう冷めていた。杉並を叩き潰した以上、怜治にしてみればここに用はない。しかし一応任務なので残りの二人の争いが終るまで待っていようと思った。どっちかを見てみて苦戦しているようなら助ければいいし。でもあの西村ってヤツの自信からすれば放っておいても大丈夫ではないだろうか。それなら小野寺の方を助けに行った方がいいのではないか。
 しばし考えてから、小野寺の方が良いヤツそうだったのでそっちを助けに行こうと踵を返し、
「黒崎さん」
 小野寺と出会った。
「お? おお、終ったのか?」
「ええ終りました」
 見てみるが、小野寺は無傷だった。
 小野寺は怜治のすぐ前まで来てその姿を見つめ、苦笑気味に、
「もしかして結構やられました?」
 恥ずかしくなる、
「いやちょっと罠にはめられてな……」
 とっさに出た言い訳に小野寺は深入りしてきた。
「罠ですか? それは興味深い。杉並はどんな罠を?」
「い、いいじゃねえかんなこと。それより何しにここに?」
 ああ、と小野寺は笑う。
「黒崎さんの応援にでも、と思ったんですが無駄足だったようです。黒崎さんは?」
「おれも同じだ。お前を助けに行こうと思ったんだが、今出会っちまった」
「そうですか。じゃあ残るは西村さんですね」
 怜治の後ろの壊れた倉庫の入り口を見つめる。
 疑問に思う。
「なあ、聞いていいか?」
「なんですか?」
 言葉を選ぼうとして、しかし面倒臭くなったので率直に聞いた。
「西村ってヤツは、強いのか?」
 小野寺ははっきり答えた。
「強いです。接近戦でなら、あの人は本当に最強ですよ」
「ESPは?」
「マグマ」
 ……は? マグマ? 心の中でその疑問を口にする。
「すべてを溶かすESP。それが彼の能力です。ですがまあ、」
 仲間を信じ切っているのだろう、この小野寺は。
 実に楽しそうに、小野寺は西村のことを話すのである。
「西村さんはESP能力がなくても、本当に強いですよ」
 ならばあの自信はハッタリではないのだろう。
 この任務、思ったより簡単に終るかもしれない――そう思った瞬間だ。


 怜治のすぐ後ろの壁が吹き飛んだ。


 コンクリートが木っ端微塵に砕け、その破片が怜治と小野寺を襲う。
 爆発したようなその激しさに呆気に取られて反応が遅れた。不様にも怜治はコンクリートの瓦礫に生き埋めにされてしまった。馬鹿みたいに重いその重圧では無理やり起き上がることもできない。どうしてか息が苦しくなってくる。
 身動きが出来ず、息がそろそろ保てなくなって手足をバタバタしていたら小野寺に発掘された。
 笑いを噛み殺したような表情で小野寺は、
「だ、大丈夫ですか?」
「笑うなっ!」
 咳払いを一つ、
「し、失敬なっ。笑ってなどいませんとも」
 腹が立った。一体何が楽しくて瓦礫に生き埋めにされなければならないのか。そもそもなぜこの壁は吹き飛んだのか。わからない原因を追究するより、生き埋めにされた事実に腹が立つ。
 後ろに振り返って穴が開いた壁を睨み、誰もいないことを確認する。次に散らばった瓦礫を見渡すと、
「うがあーっ!! クッソォ植木テメえっ!!」
 瓦礫に埋もれていたと思われる西村が飛び出てきた。
 その拍子に吹っ飛んだコンクリートの塊が怜治の鼻を襲い、ゴキャッと実に薄気味悪い音が聞こえて怜治の意識はお花畑へ。
 西村は頭を掻き毟ってから瓦礫の上を歩き出そうとして、小野寺に気付いた。
「おう小野寺! どうした?」
 その光景を呆然と見つめていた小野寺は我に返り、
「いえ、どうもしませんが……一体何が?」
 おおそうだっ! と西村は叫んで目の前に開いた穴を忌まわしげに睨み付ける。また叫ぶ。
「うらぁあっ!! 植木出て来いやぁあっ!!」
 やれやれ、と小野寺は首を振る。
 この人はテンションさえ高くなければいい人なんですが……致命的な欠点ですね、などと思うがもちろん口には出さない。
 ここらでやっと怜治はお花畑から開放される。鼻が圧し折れているのではないかと思うが、どうやら通常通りあるらしい。
 再度腹が立つ。目の前に突っ立って叫んでいる西村の肩を思いっきり掴んで怒鳴ろうとして、
「いってぇえええ―――――――っ!! ストップストップ肩掴むのやめいっ!!」
 驚いて手を離すと、涙目で西村は怜治を睨んだ。
「ってえなテメえ! こちとら『普通の人間』なんだバカにすんなよっ!!」
 その言葉は、怜治には理解できなかったが小野寺は理解した。
 西村の側に駆け寄り、真剣に、
「まさか植木のESPは、」
「おうよ。無力化だ。厄介な能力持ってくれてんぜ」
 やっと理解する、
「無力化って、あのESP能力を奪う……?」
「その通りだ。クッソ野郎、おれのマグマと力返しやがれ!!」
 さっき開いた穴から手が伸びて壁を握り緊め、そこが音を立てて崩れ、植木が顔を出す。
 本気の怒りに満ちた目を西村に向ける、
「貴様ッ、なぜ生身で壁ぶち破って平気でいられるっ」
 こっちも怒りに満ちた目で反論する、
「痛てえに決まってるじゃねえか!! 壁破ったんだぞ! バカじゃねえのか!?」
 さらに西村は挑発とも取れない暴言を植木に投げ掛け続けた。
 怜治はため息を吐いた。
 何だよこの展開……さっきまでの緊迫の迫力シーンは一体どこへ……? などとつい三分ほど前を懐かしく思う。
 その肩に小野寺の手が置かれる。彼は首を振った。やがて小声で、
「西村さんが関わってるなら、真剣に、なんて無理ですよ……」
「……なんなんだ……? 西村って男は……?」
 小野寺ははっきりと答えた。
「地球外生命体ですよ」
 妥当な答えだと怜治は思った。
 一体どこの世界に生身で壁をぶち破って平気で叫べる人間がいようか。つまりこの西村という男は地球外生命体なのだ。
 もしくはUMAか。そもそもUMA(ユーマ)というのは「Unidentified Mysterious Animal」の略であり、科学的にはその存在が確認されていない未知の生物の呼称の意味である。まあ簡単に言えば未確認生物だ。はじまりは動物研究家の実吉達郎氏が、超常現象研究家の南山宏氏の助言を受けて著書『UMA・謎の未確認動物』(1976年)の中で提唱した呼称で、現在では一般的に使われるようになっている。ただ、UMAというのはあくまでも日本で定着している呼び方であり、海外では一般的とは言えません――(ってちがーう!! なんだこれ!? 何の説明してんのおれ!? てゆーか何でそんなこと知ってんの!?)
 頭を思いっきり振る。そんな怜治を不審に思った小野寺が、
「どうしました?」
「いや……神の声がおれの頭に……」
「はい?」
「いや、いい。忘れてくれ」
 その時になってやっと西村の叫びが終っていた。
 そしてつかつかと怜治と小野寺の方に歩み寄って来て、そこから植木を睨み付ける。
「植木、観念しろや。こっからはおれらの番だぜ」
 植木は西村とは違い、落ちついているように思えた。
 冷静、とはまた違う――冷徹、と呼ぶのが相応しいのだろう。
「いいだろうESP部隊のクソ共が。皆殺しにてやる」
 西村のカウンター、
「やれるもんならやってみろ。上等だ」
 普通の人間にされているはずの西村が先頭とはどうかと思うが、まあそれも仕方がない。
 今度こそ本当の戦いだ。
 これでケリが着く。
 速攻で終らせる。
 怜治と小野寺も構えを取る。


 真央、もう少しだけ待ってろよ。
 すぐに行くから。
 それに……、
 約束は守るから。
 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「作戦」




 ピッ。ピッ。ピッ。と機械的な電子音が規則正しく聞こえる。
 真っ白な空間、清潔感溢れる純白の室内、病室の中央に置かれたベット、そこに眠る一人の女性。
 ――茨木真央。
 酸素マスクを口に当て、心拍数を計る装置に繋がれて眠り続けている。
 意識は戻らない。冷凍処置の効果は絶大だったのだが、銃弾が内臓を複雑に傷付けていた。真央の体に撃ち込まれた銃弾は歪な構造になっていて、物体に当たって衝撃を受けると破裂する仕組みになっていた。真央の体内で弾は炸裂、器官を徹底的に傷付けた。もし冷凍処置がなければ搬送途中に命が尽きる可能性もあったのだという。
 完全な集中治療室。当たり前に面会謝絶。
 その病室の前で、川澄幸一は立ち尽くしている。病院に到着すると同時に真央を連れた救急隊と出くわし、手術室で解凍処置を施した。黒崎怜治と幸一にしかできない緊急処置である。解凍を施すと同時に手術室から排除され、今度は一般人の方を解凍。
 医療は進んでいて、治療のESPを持つ医師によって真央は一命を取り止めた。が、すぐさま集中治療室に入れられて油断が許されない状況。下手をすれば悪化する可能性もあり、今日一日ですべてが決まるという。
 クソッ……どうすりゃいい? おれに何ができるっ? 怜治、おれはどうすればいい!?
 自問自答。何もできないことがこれほどまでに苦痛だとは思わなかった。新人君に死なれたら、怜治はどうなるってだクソがっ! たった一人の親友、皆が皆意味がないと笑ったおれのESPをはじめて活用してくれた黒崎怜治。怜治のためならなんだってする、そして怜治が護るものはおれが護るものだ。新人君を、死なせるわけにはいかない。
 じゃあ、おれに何ができる? おれに、できることはなんだ? 考えろ、脳みそをフル活用しろ。怜治のため、新人君のため、そしておれのためにできることを考え出せ。
 おれにできる限りのことを、導き出せ。
 その瞬間だった。
 そして、幸一は我が目を疑った。


     ◎


「どうしたESP部隊。威勢はやはり口だけか?」
 そう言って植木は笑った。
「っせーボケ! 黙ってろ殺すぞ○○○野郎!」
 そんな禁止用語を西村が吐いても植木は精神を乱さない。
「だから言ってるだろ、『弱いヤツほどよく吠える』」
「じゃあかーしいわアホ! あーもう悔しかー悔しかーっ!!」
「落ちついて西村さん。キャラ変わってますって」
 小野寺が西村の口の動きを静電気で止める。
「ンーブンンーンーッ!!」
「少し冷静になってください」
 さっきからこんな調子でずっと西村が叫び、小野寺がそれを止めていた。
 怜治は一人でずっと植木を睨んでいた。
 あれからもう五分ほど経っているが、三人は行動を移せないでいる。それは植木も同じで、向こうから攻撃を仕掛けてくることはない。
 動けない原因は植木のESPにある。無力化のESPはこの世界でかなりの希少種なのだ。その効果は一定のESP能力者相手なら無敵とされる。物理的な攻撃でダメージを与えるタイプ、つまり怜治の冷却も小野寺の静電気も西村のマグマも、すべてが相手に触れないことには意味がない。それゆえ触れれば無効化のESPで力を奪い取られてしまうので動けないのだ。無力化のESPに対向できるのは物理的な攻撃をしないで済むESPだけ、簡単には杉並の風なのどの能力だけだ。
 つまり、今の三人には植木に攻撃する術がない。下手に攻撃すれば『普通の人間』にされてしまう。それでも対向できるのは西村だけであり、怜治と小野寺にしてみれば一撃で即アウトだ。
 しかしそれならななぜ植木から攻撃してこないのかといえば、それは植木の戦闘スタイルにある。植木の戦闘スタイルは完全な防御系だ。ちなみに小野寺も防御系。西村は当然の如く攻撃系、怜治もどちらかといえば攻撃系だ。
 小野寺は防御系なので攻撃しようとは思わないが、西村はさっきから攻撃したくてしたくてウズウズしていて、しかしできなくて腹癒せに罵声を吐いているのだった。だがそれは全くの無意味で小野寺に止められた。
 てなわけで、今の三人にはどうしようもない状態なのだ。
「黒崎さん、」
 小野寺の声を聞き、横目で様子を覗う。
「黒崎さんのESPで植木の動きを止めることはできないでしょうか?」
 できることならとっくにやってる。
「バカ言うな。地面丸々氷漬けなんてとてもじゃねえができねえ。できたとしても植木を凍らすのは無理だ」
 上手く行けば地面を伝わって植木の足場を凍らせることはできるだろう。だがそれだけだ。植木の動きを止めるには、怜治のESPの規模ではとてもじゃないが不可能だ。
「小野寺にもできないのか? 地面を通してって」
 首を振る、
「まさか。わたしのESPの規模は狭いです。触れていればて何とかなるんですが……」
 触れられない。
 どうしようもないのだ。
 可能性があるとすれば「ンーンー」植木に向って叫んでいる西村だけだ。もうすでに西村はESPが使える。時間は過ぎているのだ。
「西村のESPで、」
「それはもっと無理です」
「規模は、」
「半径十メートルまで」
 直径二十メートル。植木までの距離には十分だった。それならなぜ無理なのか。その疑問にも小野寺は答える。
「西村さんを中心とした二十メートルなんです。植木に到達する前に西村さんの足場がなくなります」
 マグマを中心から発生させれば、当然そこから溶ける。長時間維持すればアリ地獄と同じような事態になる。そう言っているのだ。
 しかし、と小野寺は言う。
「黒崎さん、わたしの作戦に乗ってくれる気はありますか?」
「……行けるのか?」
「わかりません。ですが、価値はあると思います」
 どうせこのまま行けば負ける可能性の方が大きい。ならば、乗るしかないのだ。
「わかった、その作戦に乗った」
「ありがとうございます」
「だが、植木に聞かれたら、」
 大丈夫ですよ、と小野寺は笑って怜治の肩に触れた。なにを? と言う暇もなく頭に何かが流れ込んできた。それが小野寺の意思だと気付いたのはすべてが終った時だった。
「これが作戦です」
 頭の中で整理する、そしてすべてが繋がる。
「オーケー。けどどうしてこんな?」
「静電気に意思を乗せた、と簡単に言っておきましょう」
 正確には対象者の脳に静電気で刺激を与え、脳にある数多くある信号を思いのままに繋げて〜云々。簡単に言えば小野寺にしか使えないテレパシーと思えばいい。
 小野寺は前で叫んでいる西村に声を掛ける、
「西村さん、作戦です」
 振り返った西村はじっと小野寺の目を見据え、そしてすぐに「了解だ相棒」とつぶやいた。
「今のは?」
 子どものように小野寺は笑った。
「テレパシーですよ」
 もう何も言うまい。西村と小野寺には何でもありなのだ。だって地球外生命体とテレパシーだもん。
 首を振る、気持ちを置き換える。
 ジャリと地面を踏み締める。いつの間にか西村が叫ぶのをやめて姿勢を低くしていた。上手くいくかどうかは運。一つのミスも許されない。
 やってやろうじゃねえか。
 植木の雰囲気が変わる。
「ほう。何か作戦でも浮んだのか腰抜け共」
 西村が反論しない。それはつまり、集中しているのだ。西村もわかっている、ミスすれば負けるっとことを。
 その姿勢がさらに低くなる。いつでも飛び出せる体勢だ。
 それに習って怜治も足に力を入れて姿勢を低く、真っ直ぐ植木を見据える。その後ろで微かな物音、小野寺も戦闘体勢に入っていた。
 気配が変わったことに、植木も気付いていた。防御系独特の構えを取る。腕を伸ばさず胸の前に両拳を置く感じのスタイル。どんな攻撃にもすぐさま対応できるように編み出された体勢だ。
 そのままの状態で数秒が過ぎる。
 そして、
「作戦始動っ!!」
 西村が地面を蹴ってそこが真っ直ぐ抉れる。
 その後に怜治が、次に小野寺が続く。
 瞬間的な速さ。瞬発力が尋常を超越し、風おも切り裂く削岩機となる。
 成功するか失敗するかは運、ミスは許されない。
 小野寺の作戦にすべてを賭ける。
 三人が一気に植木に突っ込んで行く。


 真央に会うために。
 笑って過ごせるために。
 負けるわけにはいかなかった。
 第一撃は、怜治の役目だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「通信」




 ――第一撃目は黒崎さん。軽い飛び蹴りでいいです。ここで最も重要なのは植木に左に避けさせるということ。当ててもアウト、右に避けさせてもアウト、セーフは左に避けさすだけです。

 その注意ポイントを踏まえ、怜治は植木のかなり手前で地面を蹴った。なるべく右寄りに攻撃、しかし掴まれないような絶妙なタイミングで。怜治の蹴りが当たるかどうかの瞬間、小野寺の読み通りに植木は左に体を逸らした。目標をなくした怜治の体はそこを過ぎ去って地面に着地する。

 ――第二撃目は西村さん。左に避けた植木の足元をESPで消し去ってください。勘付かれないように黒崎さんが攻撃したその瞬間に実行するのがベスト、転倒させれば最も有効です。

「もらったあっ!!」
 その掛け声と共もに西村がESP能力を発動。左に避けた植木の足元を溶かし去る。怜治の攻撃に気を取られた植木の反応が遅れ、足が空間をさ迷う。常体が後方に倒れ込んで行き、しかし腕を後ろに回して地面を弾く。地面が抉れてその反動で植木の体は宙を舞い、西村の頭上を超えて地面に着地。

 ――第三撃目はわたし。西村さんが壊した壁の瓦礫を植木に投げ付け視界を遮り、一瞬の隙ができればそこで攻撃を仕掛けます。

 着地した植木の前方から何かが飛んで来る。右手でそれを瞬時に砕く。が、それは瓦礫であり、砕けば少なからず欠片が飛び散る。その破片が植木の視界を覆って一瞬隙が生じ、それを見逃さずに小野寺は突撃する。地面を蹴っての上段飛び蹴り。狙いは植木の顎。そこに叩き込めばどんな強靭な人間でも脳に衝撃が伝わる。その蹴りに、植木は逸早く気付いた。膝を追って常体を屈め、その直後に真上を小野寺の蹴りが通過する。

 ――第四撃目は黒崎さんと西村さんの連携。黒崎さんが蹴りで植木の頭部を、西村さんが拳で植木の腹部を攻撃してください。わたしの予想が正しければ黒崎さんは弾き返され、西村さんが掴まります。ESP能力を奪われても植木に対向できるのは西村さんだけです。危険ですが引き受けてもらいます。

 二つの体が地面を弾いた。常体を戻した植木の頭部に怜治の蹴り、腹部に西村の拳が狙う。一瞬で植木はすべてを理解し、どう対処すればいいのかを導き出す。左腕を頭部のガード、右腕を拳のガード。上に挙げた腕に怜治の蹴りが炸裂、衝撃の直後に植木は腕を振り叩いた。怜治の体がバランスを崩して地面を転がり、今度は植木の腹部に西村が攻撃。肉と肉が弾き合った音が響いてその拳は植木の掌に受け止められていた。植木は笑う。拳を握り返してESP能力発動。対象者の力を奪い取る。

 ――第五撃目で最後です。ESP能力を奪われても決して逃げずに意地でもしがみ付いてください。もう片方の腕での攻撃はありません。黒崎さんの蹴りが効いているはずですから。ここで重要なのは西村さんの気合です。どんなことがあっても植木から離れないでください。後はわたしが植木の動きを止めます。これで、

「貴様のESPが一番厄介だ、このまま腕事圧し折ってやるッ」
 その声に、西村は笑う。
「やってみろやクソヤローっ!!」
 有りっ丈の力を込めて植木の腕に食らい付く。
 予想外の力で抵抗され、植木は西村の進行を許してしまう。ここまでくれば気合と根性で乗り切れる。
 植木が西村を振り払おうと左腕を動かそうとして、しかしその腕は動かない。
 刹那、目の前に影が飛び込んだ。
 小野寺だった。
「無駄だ、お前のESPは静電気。直接体に触れなければ意味など……」
 小野寺は、植木の体には触れなかった。その変わりに、西村の体に触れていた。
 植木を見据え、小野寺は笑う。
「知っていますか? 人間の体は70パーセントが水なんですよ。そして、水を電気をよく通す。もちろん、静電気も、です」
 小野寺の手が西村の腕を掴む、
「気合です西村さんっ!」
「任せろやあっ!!」
 神経を集中させる、
「これで――チェックメイトっ!!」
 ESP能力発動、最大限の静電気は西村の体に流れ込む。体がぶっ飛ぶほどの衝撃が西村を襲い、しかし気合でそれを絶え抜く。瞬間的にその衝撃は違う所に流れ込んだ。西村の体を通して――植木の体へ。今度は植木にその衝撃が襲い、声無き絶叫を上げる。通常の人間にこんな大量の静電気を送れば脳みそが一発でショートして体が沸騰する。そうならないのは植木がESP能力者であるがためだ。それなのにそれを気合でどうこうできるのは西村を除いて他には存在しないだろう。
 最後の力を振り絞り、西村はしがみ付いていた腕を振り回して投げ飛ばした。体の自由を失った植木はそのまま地面に叩き付けられて何度もバウンドする。それが止まると同時に、その場に西村は倒れ込む。
「大丈夫ですか!?」
 急いで小野寺はそこに寄ったが、西村はいつも通りに笑った。
「いやわりぃ……ちょっとフラフラするだけだ……」
 普通の体であれだけの静電気を受け、フラフラだけで済むのは、本当に西村だけしかいないだろう。
「成功、だな……」
「ええ、なんとか」
 二人は顔を見合わせて笑う。


「――すげえ」
 その光景を地面に座り込んで見ていた怜治の感想はそれだった。
 一時の迷いもなく作戦通りに行動する西村。その西村を信じて生身に静電気を流し込んだ小野寺。お互いを信じ切っていなければできないことだと怜治は思う。仮にもし西村の変わりが怜治だったら、あの衝撃に絶えられる保証はどこにもないのだ。
 信じ合える仲間。それは怜治にもいる。幸一と、そして真央。
 しかしその信頼とはまた違う物を、この二人は持っているのだろう。
 少し悔しくなる。いつか、自分にもそんな仲間が欲しいと願う。
 拳を握り、怜治は立ち上がる。前方に座り込む西村と、その隣りの小野寺を見やる。
 まったく、すげえヤツらだよ。そうつぶやいて歩き出そうとして、奇妙な音を聞いた。
 音のする方を振り返る。状況は、一発で理解できた。
「小野寺っ!! 西村っ!!」
 大声で呼び掛け、怜治はすぐさま戦闘体勢に入る。 
 怜治の目の前で、植木が起き上がっていた。
 顔を苦痛に歪め、片腕をぶらりと地面に垂らし、全身を震わせながら植木は立ち上がる。
 荒い息遣いの中から声が響く、
「……この、おれのESP……な、舐めんじゃねえ……っ!!」
 怜治の後方から二つの影が飛び出す。
 一瞬で怜治の頭上を追い越し、気づけば西村と小野寺が植木の目の前に突進していた。西村が植木の胴体に食い付き、その西村を小野寺が掴む。さっきと全く同じ行動だった。
「驚かされますよ、あなたには……。あれだけの静電気を受けてまだ動けるなんて……」
 しがみ付いている西村がそれに続く、
「まったくだ。だが、これで本当に終りだぜっ!!」
 神経を集中、小野寺のESP発、
 目でも追えなかった。
 何かが砕ける音が二つ、飛び散る瓦礫。目の前で繰り広げられた光景を理解するのに、かなりの時間が掛かった。
 そして、理解した時にはすべてが遅かった。
 視界の中で立っているのは植木だけ。視界が自然に切り替わる。左の壁が粉砕しており、その下の瓦礫の中に西村が倒れている。口と頭から血を流れ出して身動き一つしない。右の壁に小野寺が凭れるように座っている。しかしその少し上の壁に何かが激突してできたと思われる穴が開いている。二人とも、完全に意識を失っていた。
 そして視界は戻ってくる。眼前に立っている男に焦点が合わさる。
 植木は笑った。
「無力化のESPを、甘く見たな……っ」
 忘れた怒りはいとも簡単に甦る。
 仲間を傷付けられ、黙っていられるようなヤツは、ESP部隊にはただの一人だって居やしない。
 力の限り、喉が裂けんばかりに、怜治は叫ぶ。拳を握り緊め、怜治は地面を弾いた。瞬間に地面が抉れ、風を切り裂いて怜治は植木に突撃する。
 無力化のESPなど知ったことではなかった、こっちがやれるなど微塵も感じなかった。
 目の前にいる敵を、ただ殴り飛ばしたかった。
 拳は植木に到達する前に受け止められる。
「このおれに逆らった敬意を評し、」
 植木の笑いは、怒りを増幅させる。
「じっくりと殺してやるッ!」
 刹那、怜治の体が背後に吹き飛ぶ。
 植木の追い討ちが怜治を襲う。
 意識が弾ける。
 その中で彼女の名を呼ぶ――。



     ◎


「新人君っ!」
 幸一は瞬間的に駆け寄った。
「怜治、さんが……」
 真央はそれだけ言って床に膝を着いた。
 息遣いが荒い。相当痛むのか真央の口から苦痛に歪んだ声が漏れる。包帯が巻かれた肩から血が滲み、途中で千切れた医療器具のチューブが生々しい。
 ドアに寄り掛かり、真央は懸命に何かを言おうと息を整える。が、どうしても声が出ずに聞こえるのは咽るような息だけだ。
「何してんだ新人君! 死にたいのか!?」
 真央の病状が決して良くないのを、幸一は誰よりも知っていた。
 解凍処置を施した時に見た真央の傷口。普通の銃弾で付くような安っぽい傷ではない、炸裂弾による重度の傷口だ。あの銃弾を受けてなお動くなど自殺も同然だった。
 幸一は真央を抱えて病室に連れ戻そうとして、しかし真央は首を振ってそれを拒む。
「どうした!? 何がしたい!?」
 幸一の腕にしがみ付き、真央は口を動かすがそこからは何も聞こえてこない。
 口の動きだけで何を言いたいのかを読み取ろうとするが、酷く曖昧なそれは簡単に理解できなかった。そのもどかしさに気ばかりが競って行き、まるで何もわからなくなる。このままでは新人君が危険だ、そう思った。まずは何より真央の安全が大事だった。現に包帯からは血が滲むどころかそこから床に滴り落ちている。本当に危険だった。
 有無を言わせずに病室に呼んで医療班を呼ぼうとした時だった。
 ――怜治さんを助けてください!!
 真央の声が、頭の中で響く。驚いて真央を見つめると、更なる声が響いてくる。
 ――怜治さんが危ないんです!! お願いです幸一さん!!
 何かを追及する前に、幸一は声を張り上げた。
「怜治がどうかしたのかっ!?」
 ――わかりません、わかりませんけど……っ!!
 瞬間で幸一は決断した。やるべきことが決まった。
 迷いはなかった。
「待ってろ新人君っ!!」
 それだけ言い残して幸一は走り出す。
 廊下で出会った医者に叫んで真央のことを告げ、それでも幸一は止まらずに突き進む。突き当たりの窓を破壊して外に飛び出す。四階だったが気にもせず降下、地面を抉って着地する。そのまま病院の正面へ走り出す。
 思う。さっきの真央の声、あれは通信のESPによる物だ。そしてそんなことができるのは、幸一の知るところでは一人しかいなかった。だったら、この近くにいるはずだった。
 全力で病院の正面に回り込んだ。そして、そこに二人の男を見た。
 間違い無かった。叫んだ。
「ボスっ!! 隊長っ!!」
 二人の男が幸一に気付く。
 幸一はその二人の元に駆け付ける。
 真央の言う事がすべてわかったわけではない。だが、真央が何かを感じたのだろう。怜治の身に何かがあるのだろう。間に合ってくれ。この二人がいれば、問題などないから。だから、頼む。


 怜治――死なないでくれ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


     「怜治と真央」




 壁に激突する度、地面に叩き付けられる度、頭と口の中で何かが爆発したような衝撃と痛みが走ったのを憶えている。
 しかしある限界を超えると痛みは不思議なほど感じなくなり、それに比例して意識が遠くなっていく。
 ぼんやりとする意識の中で植木の声を何度も聞いたように思う。
 ――お前は簡単には殺さない、ESP能力を奪わないでじっくりと苦痛を味合わせてやる、攻撃してきてもいいんだぞ、だがおれのESPを甘く見ないことだ、無力化のESPにはESPによるダメージを和らげる効果もあるんだよ、だから貴様のESPもおれの前では無意味なんだよ、さあどうした、攻撃してこい。
 確かそんなようなことだった。もっと何か言っていたような気もするし、本当はもっと別のことを言っていたのかもしれない。どうでもいいことだった。
 衝撃が来て体が吹っ飛んで壁にぶち当たる、と思ったらそれは地面だった。天地がすでにわからなくなっていた。
 倒れている怜治の腹に植木の足が叩き付けられる。圧迫感だけが押し寄せて口から血が出た。痛みは感じない、もう麻痺しているのだろう。
 手が動く。腹に乗せられた足を握り緊める。ESP能力発動。が、その足は微かに冷たくなるだけで凍るには至らない。
 上から植木の笑い声が落ちてくる。反撃、反論するだけの体力はもうなかった。気力が、尽きていた。
 胸倉を鷲掴みにされて立たされる。引き上げられてつま先が地面をやっと擦るまで締められた。息が苦しくなる、さらに意識が朦朧としてくる。
「もう終りか? ESP部隊ってのは下らないな、興醒めだ……」
 植木がそう言ったが怜治の頭には何も入ってはいない。締め上げたもう片方の手で拳を作り、植木は怜治の顔に狙いを定める。
 呆然とする意識の中で、植木の口が動くのが見えた。その口は、「死ね」と動いたように思う。
 瞬間、怜治の体が落とされた。殴られたのではない、ただ単純にそこに落とされたのだ。
 見上げると、そこに植木に掴み掛かる西村と小野寺がいた。二人とも、意識は定かではなかった。それでも気力だけで立ち上がり、こうして抵抗していたのだ。植木は二人を弾き飛ばした。地面に叩き付けられた二人はそのまま起き上がることはない。
 植木の視線がまた怜治に戻って来る。
 不思議と痛みはなく、何も感じなかった。ただ、死ぬんだろうなと思う自分がいる。
 もういい、もう疲れた。これでいいんじゃないのか。
 植木が近づいて来る。
 怜治は目を閉じる。眠ろうと思った。


 真央の声が聞こえたのは、その時だった。


 ――怜治さん?
 ……真央?
 ――はい、茨木真央です。真央ちゃんでいいですよ。
 不思議な理解が心の中で起きた。
 ……ああ、これって真央と初めて会った時の会話か……。
 しかし、その中の真央はこう言った。
 ――違いますよ怜治さん。
 ……違う……?
 ――はい。通信のESP、知ってますよね?
 繋がった。通信のESPは会話をしないで人と話せるようになるESP能力だ。確かそれを使えるのはESP部隊の隊長だ。しかし隊長の規模は数十メートルだったはず。
 ……真央、近くにいるのか……?
 ――いいえ、今は病院にいます。
 ……だったらどうして……?
 ――知りたいですか?
 苦笑する。何もこんな時もそんなことを言わないでもいいだろうに。
 ……ああ、知りたいね。
 ――正解は拡大のESPです。
 ……拡大のって……まさかボス?
 ――はい。
 ……そこにボスがいるのか?
 ――いますよ。隊長さんもいます。
 ……そうか……ボスも隊長もいるのか……なあ真央?
 ――なんです?
 ……二人に伝えてくれ。
 一呼吸置いた。そして言葉を吐いた。
 ……黒崎怜治は死にますって……。
 瞬間だった。
 ――バカですか!!
 頭の中でキンキンと感じるその大声。
 その大声は続く、
 ――死ぬなんて言わないでください!! 本当にバカなんじゃないですか!? もしくはアホですか!?
 ムっとする。
 ……お前、先輩に向って何てこと言いやがる!
 ――うるさいです問答無用です!! 死ぬなんて簡単に言う弱っちい先輩を持った憶えはありません!!
 ……あ、テメえこのやろっ! 言いたいこと言ってくれやがって! お前会ったら憶えてろよ!!
 真央の微笑みが聞こえた。
 ――ほら、だったら死んじゃったらダメですよ? わたしに会って、怒ってくれていいですから。だから、死ぬなんて言わないでください。
 言葉が出なかった。自分が死ぬほど情けなく感じた。
 後輩に、ましてや新米に説教されてる。情けない、と素直に感じる。
 自分は強いと思っていた。今まで負けたことなんてなかったから。心も体も強いと思っていた。けど、それはただの自惚れだったのかもしれない。自分なんかよりも、この新米の方が、真央の方が何倍も強かった。
 ……強えな、真央は……。
 ――そんなことはないんですよ……。
 ……いや、おれなんかよりずっと強えよ……。もうおれとのコンビなんて組まなくてもやってけるな……。
 ――えっ? やですよ!? コンビ解消なんてやですからね!?
 ……ははっ、なんでそんなに慌てるんだよ……。
 ――だって、わたしは怜治さんが好きですから。
 噴き出した。
 ……はあっ!? おま、お前いきなり何言って、
 ――だから、わたしは怜治さんに死んでほしくないんです。また、会いたいんです。
 真央は、本当に本音をぽんぽんと言う。裏表がないのだ。どこまでも正直で素直で、そして少し天然が入っているのだ。
 そもそもなぜここに怜治はいるのか? 簡単だ、真央を傷付けられたからだ。だからここにいるのだ。
 理由は、手を伸ばせばすぐ届くところにあった。それに、やっと気付いた。
 いや、気付くことができた。
 死ぬ気は、もうないのだ。
 ……――そっか、そうだよな……。おい真央、
 ――はい?
 怜治は笑う。
 ……おれはお前が好きだ。だから、絶対にもう一度会ってお前の頭に手刀入れている。
 ――なんです、それ? 好きな人を殴っちゃダメです。それに約束したじゃないですか、もう人は殴らないって。
 ……っるせーバカ。……ありがとうな、真央。
 ――何に対してのお礼ですか? お説教? 告白? 
 ……両方だよ。さて、行くか。反撃開始だ。
 ――あ、待ってください!
 それからしばらく、真央からの声はなかった。やがて、
 ――ボスさんからの伝令です。
 ……ボスからの?
 ――はい。それでは言いますよ?
 軽く返事を返すと、真央は続けた。
 ――『黒崎怜治、茨木真央、この二人におれ様の能力を分け与える。世界の秩序のため、存分に暴れろコンチクショー』です。
 ……マジでボスがそう言ってんの?
 ――たぶん……。
 笑った。気分で敬礼する。
 ……サーボス!! ESP部隊黒崎怜治!! 存分に暴れます!!
 ――サーボスさん!! ESP部隊新人茨木真央!! 存分に暴れます!! 
 ……行くか真央!!
 ――了解です怜治さん!!
 意識が切り替わる、視界に光が入り込んでくる。


 それは、時間にすればほんの数秒の出来事だった。
 しかし、怜治には途方もなく大切で、最高の時間だった。


 反撃の開始だ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     「相性抜群」




 ESP能力者として産まれた者には三通りの生き方がある。
 その事実を隠して生きる者。
 その能力を悪用して生きる者。
 悪用する者を捕まえて生きる者。
 前者は己が能力を拒絶する者か、あるいは受け入れてなお普通の人間に憧れる者だ。
 中者は己が力を固持し、思いのまま本能で生きる者だ。
 そして後者。その者達が集まって出来たのがESP部隊である。
 ESP部隊の最初の指揮を取った者の名を茨木楓(かえで)といい、その楓を中心としてESP部隊は本格的に国に認められた世界初の部隊となる。当時の隊員数は十二人。一つの国でこれだけ集まるのは奇跡に近かった。楓とその十一人のESP部隊で、秩序を守る活動を開始する。
 それから月日は流れ、ESP部隊の指揮を取る者は現在では二代目になる。隊員数は二七人にまで増えた。その中には外国の者も混じっている。まだESP部隊が認められていない国の者が集まるのだ。部隊を認めない原因は多くあるが、一般的なのが『力の一点集中』である。ESP能力者が束になって襲えば、小国の一つを一夜にして滅ぼす程の脅威と成り得るのだ。
 そしてそれがそのまま当てはまるのがESP能力者を中心とする犯罪集団だ。過去では世界各国でそういった犯罪集団はかなりの数にまで膨れ上がっていたが、ESP部隊結成後はその数が五割以上激減した。その点から見れば、ESP部隊の結成は成功と言えるだろう。
 その部隊の初代目の指揮者、茨木楓のESPは、当時は一人しか発見されていなかった拡大のESPだった。
 この世に数多く存在するESP能力の中で、今現在確認されている能力の中で最強と言われる能力が二つある。
 一つがその楓が持ち得た拡大のESP。もう一つが無力化のESPだ。
 無力化はその名の通りにESP能力を無力化する。
 そして拡大のESPは、ESP能力者の力を増幅させる効果がある。平均的に、ESP能力者の身体能力は通常の人間の約八倍とされる。理論上なら百倍まで鍛え上げられるという。しかし、理論上はそこまでだが、この拡大のESPの能力はまだ完全に解明されていないとはいえ、計測結果だけで述べるなら約二百倍まで跳ね上がる。
 そんな無茶苦茶なESPを持ち得た茨木楓だが、彼はその力を一切悪用せずにESP部隊のためだけに献上して来た。
 それが決め手となり、ESP部隊の指揮を取る者は必ずと言っていいほどに拡大の能力を使える者に限定された。つまり今現在の二代目指揮者――つまり怜治や真央がボスと呼ぶ者もまた、拡大のESPを持った人物だった。
 そして、そのボスは異例中の異例である。ボスのESPの規模は、国一つを超える。
 ESP部隊結成以来の天才と呼ぶに相応しい人物だった。
 しかし、その人物は少々変わっている。
 口癖は「コンチクショー」、その事実を知っているのは現在のESP部隊隊長だけなのだが、その説明は今は不問としよう。ちなみに指揮者と隊長の違いも説明したいのだが、そろそろ説明だけだと読み手が疲れるのでまたの機会に。(誰に言ってるのでしょうね?)


     ◎


 反撃の開始は唐突だった。
 植木の放った拳を、怜治は受け止めた。
 微かに驚きの声が聞こえ、しかしすぐに植木は拳を振り叩いて後ろに飛んだ。そこから困惑の混ざった視線を怜治に向ける。
 ゆっくりと、怜治は起き上がる。閉じていた目を開け、口の中に広がる血を唾と一緒に吐き出す。
 真っ直ぐ植木を見据え、怜治は笑う。
「こっからは、『おれ達』の番だ」
「なんだと……?」
 息を吸い込む、不思議な感じがする。身体の芯から沸き上がって来るような、そんな衝動がある。
 負ける気がしなかった。
 これがボスの、拡大のESPの力。すげえ、と怜治は思う。
 ――聞こえますか怜治さん?
 真央の声が聞こえた。
「おうよ、はっきり聞こえる」
 ――準備は?
「万全」
 その怜治の声に、植木は眉を寄せる。
「貴様、誰と話している? 頭でも狂ったか」
「バカ言え。狂ってるどころか絶好調だ」
 拳を撃ち合わせる、視界の両端に見える二人に視線を配る。
「植木、憶えておけ」
 叩き込んでおく必要がある。もう二度と、歯向かう気力がなくなるほどに。
「おれの同朋を傷付けるってことはな、貴様等が死ぬってことなんだよ」
 ギリっと歯軋りが聞こえた。
「ほざけ。さっきまで殺されかけてた野郎が粋がるなよッ」
「言っただろ? こっからは『おれ達』の番だってな」
「黙れっ!!」
 植木が走り出す。真っ直ぐに怜治に向かって来る。
 拳が繰り出され、怜治はそれを上に飛んで避ける。が、身体能力が上がっているをすっかり忘れていて危うく天井に激突しそうになる。空中で体勢を変えて天井に足を付けて下にいる植木を確認する。
 信じられない跳躍を見た植木は拳を戻すのを忘れて怜治を見上げていた。
 最高の気分だ。負ける気はしないどころか、今の自分に不可能はないとすら思う。
 天井を蹴って植木のすぐ後ろの地面に瞬間的に着地、上段蹴りで叩頭部を狙った。反応が遅れたとはいえ、この速さの蹴りにガードで対抗できる植木は相当なものだった。しかし怜治の蹴りは、植木のガードを超越する。ガードの上から、植木を吹き飛ばした。倉庫の中央から端の壁まで弾け、植木は激突して外まで転がり出る。まるで玩具のように壁は粉砕した。瓦礫が固まりになって転がる。
 怜治は飛ぶ。一回の跳躍で入り口を抜け、二回目の跳躍で植木が見える場所まで到達した。
 空は、驚くくらい晴れていた。雲一つないその空は、この場には少し不釣合いだった。
 太陽の光を浴び、怜治は言う。
 ……真央、決めるぞ。行けるな?
 ――もちろんです!
 倒れていた植木が起き上がる。目が据わっていてさっきまでとは別人のような形相。
 怒鳴る、
「貴様ぁアッ!! 必ず、コロスッ!!」
 神経を集中させる。
 今は不可能など何一つない。やろうと思えば、町の一つや二つ飲み込めるかもしれない。しかしそんな必要ない。『ここだけ』飲み込めば、すべてが解決する。
 これで、終りだ。
 最初にその雫に気付いたのは、もちろん怜治だった。
 一つ、また一つと空から降ってくる雫。地面に当たる度に小さな丸い模様を彩る。
 その異変に植木も気付いて空を見上げる。
 雲一つない空から、『水』が降り出していた。それはやがて、雨となる。
 快晴の空から地上に降り立つそれは、不思議な光景だった。
 両腕を広げ、それを体で感じる。雨が太陽の光を遮る。
 それは、もうスコールと呼ばれる代物だった。
 ……ははっ、わりぃな真央。初めて会った時にお前のESPバカにして。
 ――そんなことないですよ。わたしも驚いてるんですから。
 ……じゃあ、ここからはおれのESPの見せ所だな。
 ――はい。
 ……終ったら、お前に会いに行く。
 ――楽しみに待ってます。
 ……ああ。
 ――……怜治さん、
 ……ん?
 ――大好きですよ。
 ……おう。おれも大好きだ。
 ――キスできなかったのが心残りですね……。
 ……何言ってんだ。これ終ってお前に会ったら、キスくらい何度でもしてやるよ。
 ――ホントですかっ?
 ……約束する。
 ――約束ですからね?
 ……その代わり一つ条件がある。
 ――なんです?
 ……これからは敬語で話すの禁止。
 ――えっ、どうしてですか?
 ……いいから敬語は禁止な。
 ――よくわかりませんけど……わかりました。
 ……オーケー、それじゃ言ってみ?
 ――えっと……。
 ……っつてもいきなりは難しいか。少しずつでいいから、敬語は減らしていくこと。それが条件だ。
 ――わかりました。
 ……おっし、決めるか。
 そして、真央は最後にもう一度、こう言った。
 ――大好きだよ、怜治。
 ……ああ、大好きだ真央。
 二人して笑い合った。
 やはりこれも、時間にすれば数秒の出来事で、しかし怜治には途方もなく大切で、最高の時間だった。
 真央が、愛しかった。
 そして、それが力になる。
 広げていた腕を下に向ける、膝を折りその手が地面に着く。
 神経を集中、力のストッパーを外す。
 力を制御しようとするな、逆におかしくなる。
 自然に、今まで通りに。
 何も考えるな、考えるなら真央のことだけを考えろ。
 深呼吸。
 体に降り注ぐ水は優しかった。
 体を包む水が心地良かった。
 すぐ側に、真央を感じた。


 ESP能力、発動。
 水は、簡単に冷却できる。
 怜治を包む水は、凍りとなる。
 冷たくはあるが、どこか優しい凍りだった。


 ……真央、お前とおれのESP、相性抜群だ。


 そして、真央の微笑を聞いたように思う。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『ESP武装集団クロムの壊滅から今日で半年になります。皆さんも憶えているでしょうか? あの総勢112人のクロムを相手に、たった五人で壊滅まで導いたESP部隊の方々のことを。彼らは今、どこで何をしているのでしょうか? あの事件の内容は詳しくは未だに一般公開されていませんが、当局が粋を結集させて集めた情報によりますと、あの五名のESP部隊の方々は――』


 西村は本気で苛立っていた。
「だあークソっ! 毎日こんなに暇なんじゃ意味ねえじゃねえかっ!!」
 その隣りを歩いていた小野寺は苦笑する。
「そう言わないでくださいよ。それに暇なのはいいことです、犯罪が少ないということなんですから」
「つっても犯罪が起こらなけりゃおれたちゃいつまで経っても黒崎の所まで這い上がれないんだぜ!?」
 ふむ、と小野寺は考える。
「それもそうですね……。いや、ですがやはり犯罪が少ないことに越した事はありません」
「でもよおっ!」
「いいじゃないですか。一からやり直すんですし、のんびり行きましょう」
 しかし西村はまだ納得せずにギャーギャー喚き散らしている。
 まったくテンションが高い人だ、小野寺は思う。
 そんな西村の叫びを耳に入れ、ふと天を仰いで見る。雲一つない、綺麗に晴れた空だった。手で影を作って太陽を眺める。こうするのが、小野寺は好きだった。時を感じさせないこの感覚が、心地良かった。
 こんなのんびりするのは、いつ以来だったろうか。忘れていたこの癖。いつもは毎日していたのに、すっかり忘れてしまっていた。
 懐かしいことを思い出し、小野寺は微かに笑う。そんな小野寺を不思議そうに西村は見やる。
 ――今のこのふたりの肩書きは、『ESP部隊新人』である。発端はあの日、クロムのリーダー、植木との敗戦だった。西村と小野寺が意識を取り戻した時にはすでにすべては終っており、近くの病院のベットの上で眠らせれていた。事の経緯を見舞いに来ていたボスと隊長から無理やり聞き出し、真実を在りのまま知った。すべてを知ったその日、ふたりはESP部隊を脱退する。一からやり直すためだった。自分の中にある甘さを徹底的に取り除くために、ふたりはESP部隊を脱退した。そして、西村と小野寺は病院からその日の内に姿を消し、四ヶ月間音信不通だった。しかし今から二ヶ月前にESP部隊の入隊試練に姿を現し、今までの最高記録をすべて上回る身体能力で再びESP部隊入隊を果たす。もちろん初心に帰っての新人だ。つまりはその理由から、ふたりはESP部隊新人になっている。
「黒崎らは何してんのかねえ……?」
 小野寺のように空を見上げた西村はそう言った。
 太陽を見たままで、その問いに返す。
「どうでしょうか。でも、元気でやってるんでしょうね……」
 瞬間、
「うらぁあっ!! 待ってろ黒崎っ!! 今度はおれらがテメえを助けて一からやり直させてやるっ!! 首洗って待っとけやあっ!!」
 空に何度も何度も、その叫びは響いていく。
 大声の嫌いな小野寺だが、西村の叫びには嫌悪を感じなかった。それどころか、小野寺自身でさえそれと同様の意味を叫びたかった。
 叫びが何重にもなって響いていくその中で、機械的な電子音が聞こえ始める。それを先に探知したのは西村だ。辺りを見回す小動物のような行動で耳を澄ます。やがて、道路に視線を送ってしばし。そこを一台の車とパトライトを鳴らしたパトカーが通り過ぎる。何かしらの事件なのだろう。
 小野寺の声を聞くより速くに、西村は跳躍一発で道路に飛び出る。瞬間に過ぎ去った車を追う。
 すぐにその姿は消えてなくなってしまう。
 やれやれ、と小野寺は首を振る。
「まったく、忙しい人ですね」
 ちなみに、西村は百メートルを三秒という驚くべきスピードで走り抜ける。小野寺はどちらかと言えば走るより跳躍の方の自信があった。ふと上を見て高い屋根を見つけ、跳躍でそこまで飛び上がる。サイレンが聞こえる方に視線を向けて屋根伝いに西村を追う。
 さて、あとどれだけ任務を終えれば、黒崎さんに追い付けますかね?
 黒崎さん、貴方は今どこにいますか?
 元気でやっているのでしょうか?
 わたし達は元気です。そして、もうすぐでそこまで辿り着きます。その時は、一度手合わせ願いたいものですよ。
 本当は――。
 いえ、その話は今はやめましょう。
 貴方達が元気でやっていることを、わたしは願います。
 もちろん、西村さんもそう思ってます。……たぶん。


 そして黒崎さん。
 ――貴方は、乗り越えましたか?



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




     「ESPで行こう」



 待ち合わせはコーヒーショップのオープンテラスに正午。
 と、何度も何度も念を押したのに、案の定ヤツは四十分も遅刻して来た。
 ぶっ壊れた排気音を辺りに轟かせ、幸一は参上した。もちろん言い訳は軽く手を前に添え、寝坊しただの暴露する。腹が立ったのでその口を氷漬けにしてみる。が、すぐに溶かされて「甘い甘い、そんなもの気かぬわ」と挑発されたのでその腹に蹴りを入れた。
 路上に止めてあるスクラップ間違いなしのバイクの後ろに怜治が座り、その前に幸一が座る。「そろそろ新車にしろよ」と告げるが幸一は「これはおれの半身だ」などどぬかして譲らない。
 キーを突っ込んでエンジンを吹き返す。シートがボロいのかエンジンが壊れているのか、地震並みの振動が体に直接伝わる。すぐ下からはどうしたらこんな音が出るんだと思える爆音。幸一がアクセルを吹かす度に振動が増し、隣りを通り過ぎる歩行者が実に迷惑そうな顔でバイクを睨んで行く。
 そしてバイクは走り出す。道路を我が物顔で突っ走る。二人ともノーヘルだが知ったことではない。
 近くの花屋でバイクを一旦止め、怜治はそこで花束を買う。何が好きなのかは知らなかったので、いつも怜治が綺麗だと思った花を大量に買っていくのだ。花束片手にまたバイクに座り、再度走り出す。
 街中を超えてすぐさま田舎道へ。周りに家が一軒もないアスファルトしかない道を進み、そのままずっと行くと海が見え始める。どこまでも続く限り無い海だ。潮の香りが心地良かった。
 さらにそこから走る。家などもう一軒も見当たらない。ここは、ESP部隊の中の特別な者しか知らない場所だった。
 高台にバイクで向う。アスファルトが姿を消して砂道になる。やがて石段が視界に入って来る。ここからは徒歩でしか行けない場所となっていた。石段の手前でバイクを止め、二人は降りた。
「じゃ、おれはここで待ってるからな」
「ああ、わりぃな」
 幸一とそれだけ言葉を交わして怜治は歩き出し、石段を一歩一歩踏み締めて上を目指す。両側を木に囲まれた不思議な所だ。どこからか聞こえる波の音が新鮮で良い。
 そして、石段を登り終えれば視界が一気に開ける。
 辺りに何もなく、眼前に海だけが広がる高台だ。
 怜治は歩き、そこで止まった。花束を添え、怜治は笑う。
「真央、久しぶり」
 怜治の前には一つの墓標がある。
 そこには、こう書かれている。


『KAEDE IBARAGI』
『MAO IBARAGI』


「最近忙しくてな。ごめんな、なかなか来れなくて」
 そう言って怜治は墓標の前に座った。
「それにしても未だに驚いてるよ。真央が楓さんの娘だったなんて……」
 座ったままで、怜治は姿勢を正した。
「――楓さんに拾われたのがおれが十六の時でしたっけ? いろいろと、本当に御世話になりました……って、それは三年前にも何度も言いましたよね。でも楓さんも人が悪いですよ。娘がいるってことは聞いてましたけど紹介はしてくれませんでしたし。まあ、楓さんは親バカでしたしね、娘に変な虫が付くのが嫌だったんでしょう。あ、つっても遺書の話は初耳でしたよ。『わたしの娘がもしESP部隊に入りたいと入隊したなら、黒崎怜治に任せたい』なんて書いたでしょ? 御かげでこっちは苦労しましたよ、娘さん、天然でしたから。ああ、怒らないでくださいよ? 良い意味で言ってるんですから。しかし、茨木って苗字聞いた時に気付かなかったおれもおれですけどね……」
 怜治は空を眺めた。雲がたった一つ、ゆっくりと流れている。
「感謝しますよ、楓さん。逸れ者だったおれをESP部隊に拾ってくれたこと、そして、」
 視線を戻して墓標を見据える。
「真央に出会わせてくれたこと。本当にありがとうございました」
 頭を下げた。
 そのままで数秒が過ぎる。風に乗って潮の香りが辺りを包んでいた。
 顔を上げた時、怜治は笑っている。
「真央、そっちで元気してるか? 親父さんと仲良くしろ……っても真央と楓さんが喧嘩するなんて有り得ねえか」
 怜治はそう言ってまた笑った。
 波の音が快かった。
 この音を聞いていると、どうしても思い出してしまう。
「真央との約束、果たせなかったな……」
 あの時、真央と約束したこと。結局、それは果たせなかった。
「わりぃな、もう少し早く片付ければ叶えられたかもしれねえのに」
 墓標に書かれた名前を見つめる。
「楓さん、おれのことを恨みますか? 真央を……その、死なうわっ痛っ!」
 頭に衝撃を感じた。何事かと空を見上げるがそこには何もなく、辺りを見まわしてもみるがやはり何もない。
 痛みを感じた頭を摩る。
 そしてふと墓標へ視線を送った。
「……まさか楓さんが殴った……なんてことは……」
 昔、何かやる度に楓には殴られた。
 その感覚と、さっきの痛みは似ていた。しかし楓はもういない。なのにどうして。
 もしかしたら天から楓が怒って殴ったなんてことは……あるわけ……いやありそうだから怖い。あの人に不可能なんてないような気もする。
 しかしもしそれが勘違いだとしても、
「甘ったれるな、ってことですか」
 微笑んだ。
「そうですね。すいません、甘ったれてました。楓さん、」
 もう面と向っては言えないけど、こっちからしか言えないけど、それでも、言わなくてはならなかった。
「おれは、真央を愛しています。真央、おれはお前が大好きだ。これからもずっと。約束は果たせなかったけど、それでもおれは――」
 風が吹く。
 その中で、真央の声を聞いたように思う。


 ――……ずっと、一緒にいてくれますか?……――


 気のせいだったかもしれない。
 空耳だったかもしれない。
 しかし、それで十分だった。
「……ああ、今度こそちゃんと約束するよ。ずっと、一緒にいる」
 ピピっと機械音が聞こえる。携帯電話のアラームだった。
「おっとわりぃ、時間だ……。これからまた任務でさ、下に幸一も待たせてるんだよ」
 怜治は立ち上がる。
「また来るよ。それまで、元気でな」
 踵を返して歩き出す。石段に差し掛かった瞬間、それを感じた。
 天を仰ぐ。体に感じるその気配。
 空は、あの日と同じような快晴だった。
 そんな空から数滴の雫が降って来ている。
 小さな小さな、しかしちゃんとした水。
 コップ一杯分しか規模のないESP。
 それは、真央の気持ちだったのかもしれない。
 その水は優しかった。
 その水が心地良かった。
 ……ありがとう、真央。
 そして、怜治は石段を下って行く。下で待っていた幸一が軽く手を振る。それに手を振り返し、最後にもう一度だけ振り返った。
 約束は守るよ。おれはお前とずっと一緒にいる。
 真央、元気でな。


 さて、任務だ。
 ESPでとっとと片付けるか。
 そうだ、もしこれが物語なら、題名は決まった。
 この物語は、『ESPで行こう』
 ESP部隊に所属する黒崎怜治と、新米の茨木真央の物語だ。
 いつか、誰かに語り継がれる、そんな物語だ。


 空はどこまでも晴れている。
 


2004/03/31(Wed)12:32:36 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
終った終った……なんか最後の方、読んでもらっているのかどうか微妙でしたが、所詮自分の作品などそんなものです(笑
さて……次は何を書こうかな……。「まんげつ」の続編書きたいけど……書けないしなあ……。
おっと、忘れていた。
今まで読んでくれた方、本当にありがとうございました。これからもよろしくです!
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