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『続繰夢』 作者:磔宮罪 / 未分類 未分類
全角2380文字
容量4760 bytes
原稿用紙約8.25枚
ピ、ピ、ピ、ピ
 その人が、まだ生きていることを証明する電子音が鳴り響く。
ピ、ピ、ピ、ピ
 この人は、今夢を見ているのだろうか。見ているのならどういう夢を見ているのだろう。
 「谷崎先生。」
 僕の名前を呼ぶ声がする。振り向いた先には白衣の天使が立っていた。
 「何でしょう。」
 「どうしましたか?なんか、思いつめたような顔していましたから。」
 僕のことを心配してくれてるようだ。
 「大丈夫ですよ。ただね・・・」
 「ただ?」
 「この人は、今どんな夢見てるのかって思っていたんです。」
 「ああ、この前アパートから飛び降りた患者さんですか。」
 「うん。」
 先日、あるアパートから彼は飛び降りた。幸い雪がクッションとなり一命は取り留めたのだが、意識がもどらず昏睡状態のままだ。
 現場には遺書も見つからず、計画的な自殺ではなく、突発的な自殺と推定され警察は去っていった。
 僕にはそうは思えない。なぜだろう。わからない。
 「では、私は帰ります。」
 「ああ、お疲れ様。」
 看護婦は帰っていった。
ピ、ピ、ピ、ピ
 電子音はなり続ける。
 なぜ起きないんだ。どこも異常は見当たらなかったんだ。なのに何で目を覚まさない。なぜなんだ。
 「教えてあげようか?」
 !誰だ。この部屋には、ぼくと患者しかいないはずなのに。
 「誰だどこにいる。」
 「目の前にいるじゃないか。」
 目の前には、今まで昏睡状態だった彼が、ベットの上に座っていた。
 「意識が戻ったのか。よかった。いま看護婦さんを呼んでくるよ。」
 「その必要はないよ。」
 彼が僕の行動を遮った。
 「だって今、この病院、いや、この世界にはぼくらしかいないんだから。」
 「何を言っているんだ?現にさっきまで看護婦が僕の横にいた。」
 彼は、頭を強く打ったのだろうか?
 「まだ、分からないのかい?」
 僕はだんだん今まで感じたことのない恐怖を感じていた。まるで自分の存在自体を否定されてるような・・・僕のすべての意思を拒絶されたような感じだ。
 「周りを見てごらん」
 ここは病室ではなくなっていた。ただの白い空間だった。どこまでも・・・果てしない無の空間。いや、虚無というべきか。
 !
 「夢の世界へようこそ。いや、それとも『狂気の世界』と言った方がいいかな。」
 なんだここは・・・ぼくは夢を見ているのか。
 「夢なんだよ。」
 ぼくの心の中を見たように彼は答える。
 「問題。」
 彼は、この状況に困惑している僕に構わずいきなり問題を出しはじめた。
 「僕の名前は?」
 「そんなの簡単だ。君の名前は・・・」
 あれ、分からない。何で・・・
 「分からないでしょう。」
 何でだ・・・
 「問題2」
 僕の困惑した顔を満足そうに見て二つ目の問題を出題する。
 「君の名前は?」
 「そんなの聞いてどうする、わかるに決まってるじゃないか。僕の名は・・・」
 あれ、分からない。どうして・・・僕の名前だぞ。忘れたでは済まされないぞ。ではなぜ分からないのだ。  なぜだ・・・・・・
 なぜだ、何故だ、ナゼダ、なぜだ、nazeda、何故だ、ナ、ゼ、ダ・・・
 僕は今まで感じていた恐怖が狂気になるのを感じた。
 「どんなに、考えても思い出せないよ。」
 彼はそれが当たり前のように言う。
 「だって、僕は君だから。」
 「?」
 「正確に言うと、君は、ぼくの虚映だ。」
 どういうことだ・・・
 「鏡を見てごらん」
 いつからあったのかそこには鏡があった。その鏡で自分の顔を写す。
 そこには僕の顔ではなく僕の患者であった彼の顔が写っていた。
 「ぼくが君で君がぼく・・・」
 彼が歌うようにささやく。
 医者の僕が診ている患者が僕で、患者である僕が診てもらっているのが医師の僕・・・
 理解した。すべてのピースが噛み合った。そういうことか・・・アパートの屋上から飛び降りたのは・・・
                僕だ。
 なんだそういうことだったのか。なんだか難しい数式が解けたようなさわやかさだ。
 なんだ、まだ夢の続きだったのか。
                 ふふふふふふふふふふふふふふ
 まだ、ぼくは目が覚めないのか。いいや、このまま夢の住人になるのもいいかもしれない。 
               フ   ザ
               フ    ア
               フ     ア
               フ      ア
               フ       ァ
               フ        ァ
               フ         ・
               フ          ・
               フ           ・
 気づいたら、ぼくの体が砂のように崩れていっていた。でも怖くはない。また、夢を見るだけなのだから。
 ふふふふふふふふふふふふふふ
 もう、体は完全に崩れ去り意識だけの存在となった。
 彼がにこやかな笑顔でぼくの消え去るのを見守っている。
 おやすみ・・・僕。
 僕の意識が完全に消え去る時に最後に聞いた彼の言葉は
 「おやすみ、ぼく。」
 だった。

 すべてが消え去り、残ったのは入院患者の格好をしたぼくと、ベットだけだった。
 「起きれなかったか・・・死ねもしなかったか・・・」
 夢はいつまでぼくを狂気の世界に閉じ込めとくつもりだろう・・・ぼくが衰弱死するまでかもしれないな。
 まあそれも一興、気長にまとう。本当に目覚められる日を。それまで、いい夢でも、怖い夢でもこの狂気の世界を存分に楽しんでいよう。
 「寝よ。」
 ぼくは布団にもぐりこんだ。
              本当の朝を迎えるために

fin
                
2004/03/18(Thu)12:25:43 公開 / 磔宮罪
■この作品の著作権は磔宮罪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
・・・修正しながらも一回ちゃんとした話にします。
 てなわけで、『繰夢』の続編です。途中から話がおかしくなってきましたね。修行不足でしゅ。がんばります。
 前回の話で二人の人が読んでくれました。感謝。(あえて名前は控えさせてもらいます。プライバシーとかあるでしょ。)その人たちの感想を読んでへこんだり元気になったりしました。ありがとうございました。謝謝。これからももっと多くの人に読んでもらえるようがんばりまっす。
てなわけで、磔宮罪でした!
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