- 『美和子と直哉』 作者:美禰湖(ミヤコ / 未分類 未分類
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第一章
朝から美和子はご機嫌だった。
中学3年になり早三ヶ月今日は部活も休み!友達の朝倉千佳と遊びに行くんだ!
いつもより二時間は早く起きた美和子はうれしそうに階段を下りていった。
「おかあさんっ.早くパンやいて!」
「あら。早いのね。」
「うん。いろいろ準備があるからね。」
「千佳ちゃんと遊びに行くんでしょ、お昼はどうするの?」
「どっかで食べるよ。」
「それじゃお金、いるでしょ。」
母の早紀は財布から一万円札を取り出した。
「洋服でも買ってらっしゃい。」
やった。今日は多め!と美和子は思った。
美和子はお小遣いをもらっていない。でも必要があれば、早紀が必要な分だけくれるのだ。美和子もこのシステムに不満はなかった。
ショートカットの髪に丁寧にストパーをかけ、少し薄くピンクの色が付くリップをぬる。胸にはこの前千佳と買った、お気に入りの月型のネックレスが光っていた。
「それじゃ、行ってきまーす!」
気をつけるのよーといういつもの母のセリフを背中で聞きながら美和子は家を出た。待ち合わせは家から15分ほどの駅だ。
大丈夫、後25分あるわ……。
そんなことを考えながらも久しぶりの千佳との買い物を思うとついつい早足になるのだった。
待ち合わせより5分ほど早く美和子は駅に着いた。
「千佳?」
辺りを見回してみたが何処にも千佳はいなかった。
まだ来てないのかなあ。
と思いながら駅に入っていく人達を観察する。楽しそうに話す二人組、キャ
ーキャー騒ぐ女の子の集団、カップルなど……さすがに休日は皆楽しそうだ。
ふと美和子は駅の入り口と反対のほうを見た。そこは小さな路地があり、うって変わってくらい雰囲気だった。最近工場がつぶれたからだ。そこへ怪しげな男が三人工場の倉庫跡へ入っていくのが見えた。
「……?」
美和子は持ち合わせの好奇心にかられてその後を追いかけ、物陰に隠れ、そ
の様子をうかがってみた。
「……で、例のものは用意できたのか?」
「ああ。これだ。」
少し太った男は後ろからトランクを取り出す。それを開くと中には万札がぎっしり……
「わっ」
思わず美和子は声を漏らしてしまった。が、男たちは気づいた様子がなかったので、ほっと胸をなでおろす。
「よし、偽モンじゃなさそうだな……。」
背の高い男が札束を確認する。
「これで、俺とあんたたちの縁は切ってもらうぜ。」
「そうだな……。」
背の高い男は懐から何か取り出した。拳銃だった。
「なっ。」
「このまま警察にタレこまれちゃあ困るんでな。悪いがあの世へ行ってもら
うぜ、田中さんよお。」
「そ、そんな、約束が違うじゃないか……!」
「俺たちを簡単に信じたあんたが悪いのさ。あばよ。」
美和子は思わず目をつぶった。
電車が通った。すごい音だった。電車が通る音とはこんなにもうるさかっただろうか。そう美和子は思った。
美和子が恐る恐る目を開けると田中と呼ばれた男は胸を打ち抜かれてしまったようだった。辺りは血の海だった。
「うっ。」
あまりの光景に吐き気を感じた美和子は口とお腹を抑えうずくまった。
それがいけなかった。
うずくまった瞬間に横に立てかけてあった掃除用のモップを倒してしまったのだ。
ガッシャーン
やばいっ
逃げよう
と思ったときはすでに遅かった。美和子は男たちに見つかりがっちり抑えられてしまったのだった。
「この野郎、見てたのか。」
「竹、顔を見られたんだ。この際やっちまおうぜ。」
「まあまて。こいつを誘拐して脅迫すれば金が入るかもしんねえ。どうせこ
の娘は返さないんだ。それから始末すりゃいい。」
「それもそうだな。」
はなせっと抵抗しようとした瞬間美和子はおなかに強烈なアッパーをくら
い、そのまま意識が遠のいていった。
朝倉千佳は待ち合わせぴったりに駅に着いた。美和子の姿は……見当たらない。
珍しいな。いつもちょっと早めに来るのに……
そのうちくるだろう。
そう思っていたのにいつまでたっても美和子の姿は見当たらない。千佳はそこら辺をぶらぶら歩くことにした。
駅の周りにはいろんな店があった散髪屋、焼き鳥屋、風呂屋、焼き肉屋、居酒屋……
どれも仕事帰りのおじさんたちであふれそうな店だ。
そんなとこに美和子がいるわけないっか。やっぱり駅の前で待っとこう。
そう思いUターンした千佳の目にきらっと光るものが見えた。
「?」
なんとなく気になりかがんで取ってみると、それは美和子と一緒に買ったはずのネックレスだった。
「うそ……」
おもわず口が半開きになる千佳。
「だってここ…この前つぶれた工場じゃん。こんなとこに美和、何の用
で……?」
それでも千佳は美和子がいるような気がして壊れた門をくぐり中へ入っていった。
美和子のネックレスは工場の入り口の門に引っ掛かっていたのだった……
倉庫の中は薄暗く気持ちの悪い雰囲気だった。ドアを全開にしても目が暗さになれるのに時間がかかるほどだ。千佳は辺りを見わたす。
「美和、どこ……?」
だが、そこには美和子の姿はなかった。かわりに何か奥のほうに見える。
「足…?血…?」
いや、そんなはずはないっと千佳は自分に言い聞かせた。
きっと幻覚だよ……よし、確かめよう。
恐る恐る足のような物体に近づいてみる。近づいてもそれは消えなかった。
「ウソ……ウソでしょ……?」
半ば、泣き笑いのような表情で千佳は立ち尽くした。
きっと美和の悪ふざけよ……。
いろんな考えが頭をめぐった。それは0・1秒ほどだったなどということは今の千佳には分からなかった。そして一つの結論に達した。紛れもなく人が、そこに死んでいるのだ。そして……
「いやああああああ!!」
すぐに、美和子が自分と同じものを見てしまったことを感じた。
「警察に知らせなきゃ……」
あまりの驚きに怖いなんてことは忘れてしまったかのような千佳はそのまま駅前の交番へと走った。
第二章
“なんかへんだな……”
直哉は起きたとたんにまずそう思った。
何だかへんなのだ。何というか、こう胸がうずうずして、もやがかかっている感じなのだ。何がなんだか分からず、ただ不吉な予感がした。
変な夢を見てうなされた記憶があった。でも夢がどんなものだったか全く覚えていない。
階段を降りようとして足を踏み外し、もう少しで転げ落ちるところだった。
歯磨きをしていて水の入った陶器のコップを見事に落としてしまい、そこらじゅう水だらけにしてしまった。
朝食のパンを真っ黒焦げにしてしまった。
昨日確かに机においたはずのノートがどうしても見つからなかった。
そして、極めつけは靴を履こうとすると靴紐がまるで切れ目でも入れたかのようにぷちっと切れたことだった。これは直哉を不安にさせるのには十分すぎた。
直哉の予感は当たってしまった。
直哉は美和子の彼氏だった。朝、いつも美和子と一緒に学校へ行っている。今日もいつもと同じように家を出る。遊歩道を通って美和子の家まで行く。チャイムを鳴らす。
今日はインターホンに早紀が出た。あれっへんだな、と直哉は思う。早紀は暗い顔をしていた。いつもは元気な肝っ玉母さんで、直哉も早紀のお気に入りなのだ。
「直哉君…実はね、美和子昨日から帰ってないのよ…。」
“そんな…まさか、神田は…”
直哉は早紀から一部始終を聞いた。朝は普通に出て行ったこと、とても楽しそうで、家出なんかしそうに無かったこと、千佳が男の死体を見つけたこと、美和子のネックレスがあったこと……
直哉は頭をよぎる不安をなんとか振り払おうとがんばってみた。が、どれだけ安心しようとしても美和子は誘拐されたんじゃないか、殺されたんじゃないか。そんなことが頭から出て行ってくれなかった。
いつも二人で通るイチョウ並木が妙にざわついているような気がした……。
学校へ着くと、直哉の周りに黒山の人だかりができた。何処から聞きつけたのか、何処まで知っているものなのか、美和子の彼氏なら知っているだろうと思っているのか、聞いてくるのだ。鬱陶しいと思った直哉は小走りで教室に逃げ込む。それでも付いてくる連中は完璧に無視した。その光景はまるで有名人のゴシップを聞きつけたマスコミのようだった。直哉は早く授業が始まるようにと願った。
授業がすべて終わり、教室を出ようとして、ホッとするまもなく直哉はややこしい奴に捕まってしまった。美和子の追っかけの丘谷拓だ。拓は美和子と幼稚園の頃からの幼なじみでいつも美和子にくっついてくる。直哉はそんな拓のことをあまり好ましく思っていなかった。
「ナァ、おい、聞きたいことあるんだけど。」
「あんだよつ。」
直哉はついつい拓に対してつっけんどんになってしまった。拓は自分の荷物を拓の席におろす。直哉は少しむっとした。
「なあ直、美和、どうしたんだ?皆が言ってること、ホントなのか?」
「皆が言ってることって何だよ。」
「そう怒んなよ。知らないのか?美和が誘拐されたって噂なんだぜ?」
「俺だって、そうでないように願ってんだぜ。」
「なんだ、知らないのか、ホントのこと。」
「うるさいっ。」
「ごめんごめん。彼氏のお前なら知ってるかと思ってさ。」
「……。」
直哉は拓の荷物を少し力を入れて小突いた。拓は気づかなかった様子だ。
「んじゃ俺、急ぐから…。」
「ァ、オイ待てよぉー。」
おいた荷物を取って拓が急いで追いかけてくる。しつこい所がまた鬱陶しいと直哉は思った。
美和子が目覚めるとそこは暗闇だった。ぼんやりする頭でここは何処でなぜ自分がここにいるのか考える。
“たしか……千佳と買い物に行こうとして……変な男たちを見つけて……それから……?”
ところが、そこから先が、どうしても思い出せなかった。考えると頭が痛くなる。まるで思い出すことを拒否しているようだった。
「それからどうなったんだろっ?」
口に出していってみても結果は同じだった。ただ、美和子の目が慣れてきて当たりがよく見えるようになった。ここはどこか、物置のような所だ。そういえばよく似た風景を見たことがある。と美和子は思い出す。
“あれは確か、小学二年生のときだったかな。かくれんぼをしてて…。そうだっ。おじいちゃん家のガレージに隠れたんだった。そのまま眠ってしまって……。”
そのまま美和子の祖父は美和子に気づかずガレージを閉めてしまったのだった。起きたときには真っ暗で何も見えず、扉も開かない。家族があまりにも帰りが遅いのであわてて探しやっとのことで泣き叫んでいる美和子を見つけたのだった。これは苦い記憶として幼かった美和子の脳裏に刻み込まれていた。
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2004/03/10(Wed)21:31:19 公開 / 美禰湖(ミヤコ
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■作者からのメッセージ
少し修正を加えました。描写が少ない・・とのことでしたので、続きからは少し意識して書いていきたいと思います。感想、批評、バンバン書いていってください!