- 『始まり』 作者:永吉 / 未分類 未分類
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原稿用紙約8.5枚
始まり
「三橋三橋三橋さーん、三橋みぞれさーん」
「聞こえてる」
in屋上。
入学式中だけど。
否、最中だからここに居る。
幸いにも、ココにはラブラブで目を塞ぎたくなるようなカップルも、自殺志願者(しかし結局飛び降りることのできない臆病者)も、いじめっこ集団(と、いじめられっこ)も居ない。
三橋は一日のうちで一番のんびり出来る時間を有効活用していた。
初めて来たこの場所で。
初めて踏むコンクリートに、初めての空気。
スーハー・・・あ、美味。
そして、青空の下メロンパン食ってたわけで。
が。
「お前見るといっつもメロンパン食ってる気ィするんやけど」
「ほっとけエセ関西人。生まれが関西なのか育ちが関西なのか自宅が関西なのかはっきりしたまえ」
「純★関西人や」
「星ウザ」
飴宮という変人が居る。奴は関西人(ちょっと微妙)で、黒髪ウルフで、背は悔しいことに三橋より拳3個分くらい高くて、目は少しつってて、ちょっと悪人ズラで、ってか顔だけじゃなくて性格も悪人で、妙に頭キレてて、人気があって。
そうだ奴は人気があったんだった。昔から。
飴宮は三橋の横に寝そべった。生暖かいコンクリート。
もうちょっと熱が吸収されればいいのに。
「今日は不愉快!!」
「あ?・・・・っと、わッ!!」
イキナリ三橋が飴宮の上に乗っかってメロンパン(無理矢理)差し出して。
「このメロンパンは何!?メロンパンは外は香ばしく中はふんわりがコンセプトのはずじゃないの!?不味い不味い不味過ぎる!喜びなさい飴宮。三橋さんと間接キッス。きゃー初々しい」
「最後の辺棒読みやし・・。しかも重いわ、アンタ」
「いいから早く食べてこの物体の後始末を!!」
どうやらよほどメロンパンにこだわりがあるらしい。
「あぁ、もう口の中気持ち悪い・・」
春風がさわさわと吹き、全体的に色素の薄い髪がそれに靡く。
本当に落ち込んでいて、俯いていて、悲しそうで。
ああ、この女はパンひとつで一生懸命になれるんだな、と思った。
その時の三橋は、間違いなく綺麗だった。
見つめる先はただ一点。
瞬間、飴宮は三橋の髪をくいっと手前に引き、自分の顔に近づけた。
だが三橋はそれに動じようともせず。ぴくりともしないで。
「ちょっとは抵抗しろや」
「抵抗して欲しいなら始めからしなきゃいい。Mじゃあるまいに」
そして二人は唇を重ねた。
「きゃー、みぞれたん飴宮好きな女子に殺されちゃうかもー」
「だから棒読みやめれ」
別に三橋は「愛してる」とか「ずっと一緒だよ」とかいう言葉は望まない。そんなモノ要らない。言葉なんてすぐに消えてなくなってしまう。忘れてしまう。
飴宮と三橋は恋人じゃない。世間体で言うならどこにでもいる、そう、どこにでもいるただの従兄妹。そうでないならいるのが当たり前のモノ。共存しなくちゃ絶滅。生まれる時も死ぬときも、ひょっとしたら居るのかも。
あるいは何をする時も。
いつもコイツから何かが始まるんだよな。
「っていうか愛してねぇし」
「は?出来ればその突飛に物事言うクセ直して欲しい。ちゅーかいい加減直せや」
見上げると蒼い空。まぶしいまでの太陽。
それらすべてが見える屋上に、仰向けの男とそれに馬乗りになる女が一人ずつ。
奇怪、としか言い様がない。
「どうでもええけど今日何の日かお分かり?」
「メロンパンが最低の日」
「違くて。お前らの入学式ちゃうん?」
「ちゃう、ちゃうちゃう犬」
入学式なんてどうでもいい。春が来て夏が来て秋が来て冬が来たのに何の意味があるというのだ。
つまらない毎日を過ごして、つまらない人生を送って、それなりの友達を作り、それなりの人と恋愛して結婚して。それなりにガンとか交通事故とか寿命とかで死んで。
人生の終着点は死ぬこと?
何がめでたいんだ畜生。
何が。
「毎年つまらんね」
「人生放棄?自暴自棄?」
「終わりって何だろうね」
「ドコでどうなってそこまで行き着くのかはよう分からんけど終わりは終わりやろ。その言葉以外にどんな意味があると?」
終わりは終わり。
「じゃあ終わりに行き着くにはどうすればいい?」
ゆっくりと立ち上がって、三橋はフェンスまで行ったかと思うとそれに手を掛けて登って。
止める間もなく。
下を見れば一面運動場。墨の方は豆粒くらいの自転車たち。
風が強く吹き、少し砂埃が見られる。
・・・ここから飛び降りちゃったりなんかしたら、間違いなく
死ぬのかな、なんて。
「人生の終着駅に行くにはここから飛び降りなければならない。マルかバツか」
「ははっ」
笑った。
飴宮は笑った。さもバカにするように。
哀れな自殺志願者を目の前にして笑った。
笑いやがった。
「始まりも見つけてない奴が言うなや」
二人は互いに笑った。
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■作者からのメッセージ
100題より。
ジャンルめちゃくちゃ指定し難い話です。
シリアスでもコメディーでもラブストーリーでもなく。
彼等の日常の一部分をほんの少し文章にしてみました。