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『虐殺テンシ  序章〜2章』 作者:牙狼 / 未分類 未分類
全角3422文字
容量6844 bytes
原稿用紙約12.75枚
 

人間は少し欲張りすぎた・・・

 故に制裁を受けなくてはならないのだ。

 ああ、我がテンシ達よ、行くがよい。


 人類に、制裁を・・・





始まりはこの日。
空は暗黒に染まり、一点の明かりすら見えない。
そんな中、不釣合いな程に白く光る一枚の羽。
いや、見ればそれは無数に空から降り注いでいる。
やがてそれ等はそれぞれ、家屋の中へ・・・まるで生きているかのように侵入した。


―山田宅―
「ぐがぁ〜・・・ぐごぉ〜〜・・・」
いびきをかいて寝ているのは、山田家の主である。
そこへ、先ほどの羽が。
そして羽は背骨のやや左の所に留まり、にゅうっとそのまま体内へ入った。
「ぐがぁ〜・・・ぐ・・・ギ・・ガゴゴゴ・・・」
低くうめき声とも言えない、奇声をあげる。
「アナタぁ?どうしたの・・・?」
隣に寝ていた妻の良子がまだ寝ぼけたまま、不思議そうに聞いてきた。
すると、夫は一瞬目が白目を向き、再び眠りに落ちた。
「なんなのぉ・・・?気味悪い・・・」
言うと、良子も眠りに落ちた・・・






「えぇ〜では、次のニュースです。昨夜、12時頃に千葉県船橋市在住の山田良子さんが何者かに殺されました。・・・死体の頭部は無く、臓器などは抜き取られ、腹部は空洞の状態、という怪事件でした。なお、犯人は・・・」


この日本に、何かが起ころうとしている・・・





一章

同時刻・神無月宅

「昭彦〜?そろそろ学校よ〜?起きなさ〜い!?」
神無月家の妻、幸子が息子を呼び起こそうと、朝から声を張り上げる。
「んにゃ〜・・・今行く〜・・・」
この時、まだ昭彦は今朝の大事件を知らない。
昭彦は寝ぼけた返事をしてまた眠りに落ちようとした・・・その時。

『寝るな、アキヒコ・・・そろそろ、養分を摂取する時間だ・・・』

夢か真か、どこからか見知らぬ声が。
「わっ!・・・誰!?」
昭彦は、夢にしてはあまりに鮮明すぎる声に驚き、飛び起きた。

『私はテンシ、君を「乗っ取ろうとした」者だ』

明らかにこの部屋から聞こえる声。
だが、昭彦はその音源を見つけられない。
「ど、ど、ど、どこにいる!!」
昭彦はビビりながらベッドから立ち上がる。
が、その時、昭彦の身体に異常が起きた。
いや、起きていた、と言うべきか。
「な!なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
右腕だけがベッドから離れない。
そう、右腕だけ伸びた状態だ。
伸びた右手の甲には一つの目があり、中指と薬指を足のごとく立たせた、言ってしまえば「手人間」がそこにはいた。
「なんだよお前!!」
昭彦は伸びた右手を抑えながら言う。
『だから、テンシと言っている。アキヒコ、君だってテンシという存在を知っているだろう?』
「右手」には口はないものの、どういう原理か、確かに右手から声が出ている。
「テンシったら、こう羽がブワーっと生えてて、凛としてて・・・」
『やはりそれか・・・それはどこかの本で見たのだろう?・・・本当のテンシの姿はもっと・・・醜い・・・』
「右手」はため息混じりに言った。

「昭彦!?何してるの!?もぅ!!」

幸子だ。
いつまでたっても起きてこない昭彦に、ついに腹をたて昭彦の部屋がある二階へ上がってこようとする。


トットットット・・・・


「ヤバい!!母さんが上がってきた!!おいお前!引っ込めよ!!」
小さい声で、かつ怒鳴りながら「右手」に言った。
『まぁ待て。先ほどこの手に侵入したばかりなのだ。自由に動かせるまであと5秒程・・・』
「右手」はのんきに答えた。
「5秒・・・!・・・くそ!!」


ガチャッ・・・


「昭彦!!いい加減に起きなさ・・・って、起きてるなら早く降りてらっしゃい?」
「あ、あぁ、今行くよ!」
間一髪。
長い階段のお陰で、ギリギリ間に合った。
「もう出てくるなよ!?」
一回怒鳴ると、「右手」に残っていた目は、スゥっと溶けるように消えていった。


そして、昭彦は「右手」の言う、「養分摂取」の時間を済ませ、学校へ向かった。

まだ昭彦は、「あの事件」を知らない・・・






      2章

 3−3・教室

「えぇ〜、ここがこうなる訳だ。つまり・・・」
学校の先生が長々と解説をしている。
昭彦はいつものように聞いてはいない。

『おい、アキヒコ。』

突然、心の中に発せられる声。
「わっ!なんだよ!!」
思わず立ち上がってしまう。
そんな昭彦は、当然、みんなの注目の的である。
そして、1秒もしない内に教室は笑いの渦に。
昭彦は赤面しながら、席についた。

(何なんだよ!この手マン!!)
心の中で怒鳴りつける。
『手マンではない。私の名は「ネイル」。確かな。」
(ネイル?そうかいそうかい・・・)
どうでもいいという風に昭彦は言った。・・・いや、思った。
(ところで、貴様は何?「乗っ取ろうとした」どういう事?)
『まだ言ってなかったな・・・私達には、まだ私と同じような「仲間」がいる。そしてその「仲間」は人間の背中から侵入し、血管を通り、両腕から両足。最後に脳を乗っ取る。脳を乗っ取られた人類は、完全にその「乗っ取った者」の物になる』
(なんじゃそりゃ!!んなの信じられっかよ!!)
昭彦は心の中でさらに怒鳴った。
確かに、信じろという方が無理がある。
(・・・ん?じゃあ俺はお前に乗っ取られてたハズじゃあ・・・)
『そう。そのはずだったのだが、君・・・脇に何かはさんで寝ていただろう?私が右腕を乗っ取った時に、その何かが血脈を止めて、脳に私が浸透できなかった・・・そして、そのまま熟してしまったのだ・・・』
昭彦には理解できない。
(もぅ・・・わけわかんねぇ・・・)
昭彦は頭を抱え、うつむく。
『そこで・・・だ。私に協力・・・・』
言いかけると、ネイルは黙った。
(・・・何?どうしたの?)
抱えていた手を解き、言う。
『・・・私の仲間がいる・・・それも、この校舎内・・・距離にして300M程・・・屋上か・・・』
冷静な声で分析した。
(仲間?よかったじゃないか。仲間に会えて。あとで会いに行ってみる?)
少しにこやかに昭彦は言った。
『よかった?馬鹿か、君は。人間の脳を乗っ取る輩だぞ?会って和解できると思っているのか?』
少し焦り交じりの声で言い放った。
(・・・会ったら・・・どうなるの・・・?)
恐る恐る問い掛ける。
『殺されるだろうな。間違い無く。』
大体予想はできた答えだった。
(ど、どうすんだよ!)
『距離が縮んできている・・・相手もこちらの存在に気がついたな・・・』
声色は一切変わらない。
(だからどうすんだよ!!)
昭彦の額から冷や汗がにじみ出てくる。
『私としては会いたくはないな・・・君の運動能力と、脳の乗っ取りに成功したテンシとじゃ、勝てる見込みはない・・・だがこのままここにいても、どちらにしろ殺される・・・少しはあがくか・・・』
(あがく!?・・・って事は・・・)
『行くぞ。場所は屋上だ。』
言うと、ネイルは昭彦の腕を伸ばし、扉のところへ飛んでいく。
「わっわわ!ちょい待っ・・・!!」
昭彦も伸びた腕を隠すため、仕方なく扉へ。
「どこへ行くんだ!神無月!まだ授業中・・・」
先生のそんな言葉は無視し、昭彦は屋上へ向かう。
「はぁ・・・数学の評価1だな・・・どうしよ・・・」
ため息を吐く。
『よくのんきな事を言ってられるな。君は後1時間後に生きていられるかわからんのだぞ?』
その言葉を聞き、昭彦は生唾を飲んだ。
そして、昭彦は立ち止まる。
『どうした?早くしないとここまで来るぞ?』
ネイルは右手に目を出して昭彦を見る。
「・・・嫌だよ・・・死にたくない・・・」
昭彦は、立ったままうつむく。
『あぁ、私もだ。だが運がよければ死なないさ。』
やはり、ネイルに焦りはない。
「どうして!?どうしてお前はそんなに冷静なんだよ!!」
昭彦は自分の手に怒鳴りつけた。
しかし、それは「怒り」ではない。
『・・・くそ!敵が近いぞ!廊下じゃ分が悪い!』
ナイルにもやっと焦りの色が見え始めた。
しかし、昭彦はうつむいたまま、動こうとはしない。



『見ツケタゾ・・・「同族」・・・』



昭彦の10M程後方の階段から顔を覗かせた、中年男性の顔。
その口のまわりには大量の血。
ニヤリと笑って見えた歯に、白さはみじんも無く、血の赤に染まっている。


『クソ・・・ここで戦うしかないか・・・』
昭彦は恐る恐る後ろを振り向く。


「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
昭彦は絶叫した。



2004/02/17(Tue)20:30:23 公開 / 牙狼
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