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『姉と私』 作者:琴子 / 未分類 未分類
全角2215.5文字
容量4431 bytes
原稿用紙約7.05枚
私の姉は、生まれつきダウン症を患っていた。最近、やっと一人で歩けるようになった。姉は医者に長くはないと言われ続けてきたが、やっと15歳を無事に迎えることができた。私は13歳で中一だ。だが、先生泣かせの悪ガキだった。学校へ行っては問題を起こし親が呼び出され家出をし、その日の夜には帰ってきてしまう。そんなことが日常茶飯事だった。
私が問題を起こして帰ってくるといつも姉は
「さくらちゃん、だめじゃん。」
と、ゆっくりと口を動かして私に注意をした。私はそんな注意をものともせずに2階の自分の部屋へと駆け込む。そして、たいてい姉が私の部屋まで来て
「ママとパパが泣いちゃうでしょ。」
と言ってまた静かに階段を下りていってしまうのだ。
そんな姉を、私はうるさったいなぁ。と思っていた。そんなふうに毎日が過ぎていった。
ある日、私はついに万引きをしてしまった。学校付近の文房具屋で消しゴムとノート一冊をすぐさまカバンに入れて店を出た。
その日は雨が降っていた。・・・当然傘なんて持っていなかった。カバンの中には教科書も筆箱も入っていない。私は学校をナメていた。
雨がやむまで雨宿りをしようと思い、文房具屋から10mほど離れた本屋で雨宿りをしていた。親が迎えに来てくれるはずもなく、制服やカバンがびしゃびしゃだった。
車のヘッドライトが私とカバンを照らす。もう真っ暗だ。ヘッドライトと町の灯りしか頼りがなかった。
・・・すると、暗闇の中からヘッドライトに照らされながらゆっくりゆっくり歩いてくる人影が私へと近づいてきた。ゆっくりゆっくり・・・。
その人が近づくにつれて私は誰だかわかった。
・・・姉だ。
姉は横断歩道を小学生のように手をあげてわたり、私のもとへ笑顔で歩いてきた。
「傘、もって来たよ。」
姉は私に傘を渡した。そのときの笑顔は、忘れられない。
その笑顔で、ふと私は万引きのことを思い出した。急に、罪悪感がこみ上げてきた。
「さくらちゃん。風邪ひいちゃうよ。」
姉は私の青白い顔をみて心配そうに言った。
私はそのとき、走って文房具屋へ戻った。
「これ、盗みました。本当にごめんなさい。」
店員は、私のあまりにもすごい形相に一瞬たじろいだ。だが、店員さんは私を見て
「正直に言ってくれましたね。警察沙汰にはしませんがこれからは絶対にしないで下さい。」
店員が言い終わると、店員はふと、店の入り口に目をやった。
私がふと振り返ると・・・入り口に姉が立っていた。傘を片手に呆然と立ち尽くしていた。
「お姉ちゃん・・・。」
私が店を出ると姉はニコニコしながら
「どうしてあやまっていたの?」
と、聞いてきた。私は
「別に・・・なんでもないけど。」
と、ぶっきらぼうに姉に言った。けれど姉は笑顔を絶やさなかった。
次の日から、私の心に大きな変化があった。
真面目に授業を受けてみようと思ったのだ。
その日から私は問題も起こさないようになり、普通の中学生に戻ることができた。
平穏な毎日がやってきた。
・・・そう思っていた。
姉が急に倒れた。
嫌な予感がした。
私は救急車を呼び、病院まで同行した。救急車の中で、姉は私の手を離そうとはしなかった。この手を離したらもう二度と会えなくなるかのように。
病院に着き、母が医師に呼び出された。きっと、今夜が山だとでも言われたのだろう。母が泣き崩れていた。
病室では姉がぐっすりと眠っていた。・・・姉の姿が痛々しかった。
その夜、私は姉の隣で今までのことをふと思い出していた。
さくらちゃん・・・さくらちゃん。という声が頭にこだましていた。
雨の日に傘を持ってきてくれたこと、わざわざ部屋まできて私に注意してくれたこと・・まだまだ思い出はたくさんあった。だからこそ、これからも思い出をつくっていきたいのに・・・。  そう思った瞬間、かすかに声が聞こえてきた。
「さくらちゃん・・・。」
姉の声だとわかった瞬間、私は立ち上がってしまった。
「さくらちゃん、ママとパパ・・・」
何を言っているのか、はっきりと聞き取れなかった。
「ママとパ・・・パ」
姉の息がだんだん荒くなってきた。
「ママとパパ・・・困らせちゃダメだよ。それからね・・・今・・までありがとうね・・・。」
そういい終わると姉の目にうっすらと涙が浮かび、片手をだらんと力なく垂らした。
・・・姉はもう、息をしていなかった。
私の目に、初めて綺麗な涙、純粋に姉をいとおしいという涙が溢れてきた。私はまわりの患者さんを気にせず、大声で泣き始めてしまった。
夢の中で、姉はこんなことを言っていた。
「さくらちゃん、泣いちゃダメだよ。ママとパパがもっと泣いちゃうでしょ。私はね、いつでもさくらちゃんを見てるからね。傘はいつも持っててね。」
そして、さようならとでもいうように、私に笑顔で手をふって白い煙の中へと消えていった。
・・・目が覚めた。
姉のいない現実が受け入れられなかった。だが私は、姉の死で姉のありがたみにやっと気がついたことを実感した。ありがとう、ありがとう。ずっと姉の亡骸に言っていた。
---数ヶ月後---
「行って来ます!」
私は、毎日のように学校へ行く。
天気予報の通り、雨が降っていた。
「ああ・・やっぱり降ってる。」
私はカバンの中から青と黄色のチェックの傘を取り出した。
雨の日になると、あの姉の笑顔を思い出す。
私は笑顔で通学路を走っていった。

                    〜おわり〜


2004/02/06(Fri)11:31:59 公開 / 琴子
■この作品の著作権は琴子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
早速次の作品出してみました。今回は、父の仕事(養護学校教諭)でもある「障害」を題材にしました。これは健常者との差別でも区別でもないです。ただ、みなさんに障害についてわかってもらおうと思いました。
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