- 『堕天使』 作者:霜 / 未分類 未分類
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原稿用紙約3.55枚
下の大地から遠く、遠く離れた空の地に、翼を持つ人々がいました。彼らは自分達を天に住む神の使いと信じ、天使と名乗り、遠い、遠い空の地で豊かに暮らしていました。
ある天気の悪い日、一人の少女が神様の祭られている神殿へお参りに行きました。空には雲が少なく、普段なら架かっている橋がないため、少女は飛んでいくことにしました。
銀色の髪に銀色の眼、眩い純白の翼を身につける少女の姿はとても神秘的な雰囲気を漂わせていました。
ちょうどその時です。遠くから黒い何かが少女に向かって飛んできました。少し前まで天上線の端に見えたのに、既に少女の眼前まで迫ってきています。少女は避けようとすらできずに黒いものとぶつかってしまいました。
ぶつかった少女は、なすすべもなく、遠い遠い下にある大地に引っ張られました。なんとか飛ぼうとしても力が入りません。背中を見ると、片方の翼がなくなっていました。ぶつかったときにとれてしまったのでしょう。辺りに散らばる自分の羽を見て、少女は青ざめました。
少女は、そのまま地面に引っ張られていきました。
その異変に気づいた村の人たちは、少女を助けようと必死に追いかけてきたのですが、追いつく者は誰もいませんでした。地面に引かれる力があまりにも強すぎたのです。その力はだんだんと強くなっていきます。
少女は、神様に祈りました。どうか、助けてください、と。
そのとき、少女は何かに腕を掴まれました。それは、黒く、硬い手でした。その手の持ち主を見ると、その人もまた黒い髪に黒の瞳、黒い翼の持ち主でした。彼は、さっきはごめん、と言って謝りました。
少女は男に助けて、と言いました。しかし、男は悲しい眼をして横に首を振るだけです。彼の背中にも翼が片方ありませんでした。彼もまた、翼を失くしていたのです。
少女は泣きました。銀色の瞳に溢れんばかりの月の涙を溜め込みました。少女が手を覆うと同時に足元に向かって音もなく消えてゆきます。
男は、わかりました、と言いました。そして、私はあなたに命を捧げますと。
男は残った翼を少女に託しました。同時に、すごい力で地面に引きずり込まれていきました。
少女は、白い翼と黒い翼で懸命に飛びました。しかし、しばらくしてから飛ぶことをやめました。そして、地面に向かって堕ち始めました。
少女はどんどん堕ちていきました。それ以上に、泣いて、叫びました。死なないで、と。
月の表面に焼きつく一つの黒点。その黒点は、近づくにつれて大きくなり、近づくにつれて赤く染まっていきました―――。
黒い男は茶色い地面を赤く染め上げて静かに眠っていました。その顔は、微笑んでいるようにも見えました。これからも永遠に眠り続けるでしょう。男の近くに、白い翼と黒い翼が一つずつ添えられていました。それと、銀色の杯からこぼれた、透き通る水がそっと男の頬に落ち、眩い光を放っていました。
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2004/01/30(Fri)18:32:03 公開 / 霜
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■作者からのメッセージ
初投稿です。
人に評価されたことがないのでかなりドキドキものです。
お手柔らかにお願いします。