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『止まった時』 作者:春燈 / 未分類 未分類
全角2314文字
容量4628 bytes
原稿用紙約7.35枚
それは一瞬の出来事だった。辺りが真っ暗になって激痛と共に悲鳴が聞こえた。

誰かが自分を揺さ振るのを感じた。それが、私のコートでの最後の記憶だった。

気がついたときには病院のベットの上。周りにたくさんの人がいた。医者、

親、友達、チームメイト、監督、コーチ。狭い個室の部屋は息苦しかった。

体を動かすと膝に走る激痛。医者から宣告されたのは『半月盤損傷』もう

私のプロへの道は断たれた。

その時、私の『時』は止まった・・・・・。

もう、一生動き出す事はないだろう。

「本当に大丈夫なの?夢埜」

母親が私を心配する。宣告を受けてもう3週間になる。私は何も感じない。

「・・・・うん。だってしょうがないじゃん」

「けど、あなた好きなんでしょう?バレーボールが」

私は何の反応も見せない。思い出す。

私の将来は明るかった。中学校に入ってすぐに『天才セッター』として活躍。

バレーが強い高校に入り、一年生の時から先輩に混ざりながら試合に出てきた。

プロバレーの監督だった父の教育を幼い時から一身に受けて育った。上達し

ていく自分がわかって、父も周りの人間も私をはやしたて、期待した。私は

そのプレッシャーを自信に変えてきた。順調だった世界。全てが自分を中心

に回ってる気がした。

たった一回の試合で私の人生は壊れた。明るかった未来が絶望に変り、期待は

なくなり、全てのものを失った。

医者からの宣告を聞いたとき、自分のなかの全てが砕け落ちていく音がした。

「バレーは好きだったよ。でも、この怪我はもうプロにはなれないものでしょう?

だから諦めるしかないじゃん。それとも信じていれば、治るもの?」

母親には冷たく当っている。この気持ちだけは、絶対に制御できなかった。

「あなたがいいならお母さん何も言わないわ。ただ、後悔はしないでよ?

一度きりのあなたの人生。手術っていう手もあるんだから。」

「後悔? 後悔ならもうとっくにしてるよ。あの試合に出たこと、最近は

バレーをはじめたことも後悔してるよ」

「・・・・夢埜・・・・」

母親は涙を流した。

私の怪我をした試合。相手のスパイクをブロックする為に跳んだとき、相手の

アタッカーの足が私の左膝に直撃、そのせいでバランスを崩し、倒れた私の

膝の上に一緒にブロックに跳んでいたチームメイトが両足で着地した。それからの

記憶はない。

本来なら、こんな事故ありえるはずはない。まずいちに、相手のアタッカー

が私のほうまで蹴りを入れるように飛び込んでくるはずはない。故意にやる

以外はそんなこと絶対に起こるはずはない。次に、味方のブロックの着地法。

中学生の部活や、クラブチームならまだしもプロを目指しているバレーの名門

校の選手が両足で着地するなんてことはまずない。普通なら片足でしっかりと

着地するはずだ。偶然なのか必然なのかそんな2つの不運のせいで、私は二度と

バレーの出来ない体になった。私にとってバレーをするのはプロになるということ。

それが出来ないならもう、私の中でバレーは出来ない。

「どうしてあなたが泣くの? 泣きたいのは私よ?」

「・・・・あなたは・・・・あなたは天才だった。どうして・・・・どうして

こんな事に・・・・」

聞きたいのは私だ。

「さぁ? 運命(さだめ)でわ?」

私はそういって泣き喚く母親をあざ笑った。自分がどれだけひどい事をしている

のかはわかっていたが、自分を止める事は出来なかった。

 コンコン

ドアをノックする音。私は面会を拒んではいない。みんな決まって言う事は

同じだ。「大丈夫?」「みんな元気出して!」とか偽善な言葉。私の答えも

決まっている。「大丈夫。みんなは私の分まで頑張って」そういって笑えば

みんなは涙して病室を出る。

私は医者に宣告されてからも一粒の涙も見せてはいない。

「はい。どうそ」

母親は泣きながら病室をでた。みっともない。

入れ違いに入って来たのは橋野 高雅 (はしの こうが)同級生のクラスメート

同じバレー部で彼もセッター。部活の事でいろいろ相談してるうちにお互い

自然に惹かれ合った。

「あ・・・・。どうも・・・・」

ぎこちないあいさつ。目を合わせることは出来なかった。彼とは一緒にプロ

になろうと誓った仲。

彼は部屋に入ってすぐ、一筋の涙をこぼした。一筋の、綺麗な涙。

「・・・・あなたも私をみて泣くんだ・・・・。あなたもみんなと同じだったんだ・・・・」

私は苦笑した。彼は何も言わずにそこに立ち尽くしている。

「何にも言ってくれないの? 他の人はみんな励ましてくれたよ?」

私の頬に一筋の涙が流れた。怪我をして初めての涙。

「なんで? なんであなたは泣いたの・・・?」

「君が泣ける為に・・・・。何もかも一人で抱え込むな・・・・。その為に

俺がいる・・・・」

私はさらに苦笑した。私の心を知っていたのは彼、ただ一人だった。

「そっか・・・・」

窓の外には満開の桜。

「私の名前『夢埜』ってさ。お母さんとお父さんが夢を絶対に諦めないように
 
絶対に叶いますようにってつけてくれたんだ。」

彼はそっと微笑んだ。

「掴むよ! この手で! プロへの切符。 こんな怪我には負けない!」

「そうだな! 一緒に掴もう!」

私はもううなずき、彼に微笑んだ。彼も私に微笑んでくれた。

私の止まった『時』が動き出した。時計のネジを巻いてくれたのは優しい

言葉でも、慰めでも同情でもなかった。私をまた夢に向かって動かしてくれたのは

私のことを分かってくれる人の一筋の涙だった。

そして今、私は彼と共に世界の舞台に立とうとしていた。無限の可能性と共に。
2004/01/20(Tue)22:14:50 公開 / 春燈
■この作品の著作権は春燈さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての投稿作品になりました。
短編にしたかったので、話が飛んでいることもあります。バレーボールをやっていないとわからない専門的な言葉は少なくしたつもりですが、分からない事がありましたら、質問してください。誤字等ありましたらそちらの方の指摘もよろしくお願いします。
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