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『ミツバチの恋 (前編)』 作者:安斎 / 未分類 未分類
全角3156.5文字
容量6313 bytes
原稿用紙約11.5枚
-----------------私は,初めて恋を知りました。



「奈津,今日合コンいかない?東校の男がいっぱい来るってよ!」
午後の授業が終わるやいなや,ハデな女友達が話しかけてきた。
「東校ってレベル高いじゃん!やったね,奈津も行くっしょ?」
奈津の机の周りにはどんどん女子が集まってくる。
少し迷ったが特に予定も入っていないし,誘いにのることにした。
「うん,いいよ行こう。」
一斉に化粧をし始める私達を,他のクラスメイトは汚いものでもみるように
遠巻きにしていた。

私は,共学の高校に通う本条 奈津。今年で高校2年生になる。
遊びと勉学にいそしむごく普通の女子高生なんだけれど…,
違いがあるとすれば,私がクォーターだってこと。
母親のイギリス人の血がはいっていて,日本人と比べて色素が薄い。
その為,髪が天然の栗毛色…この髪は友達の誰もが羨ましがられている。
高校に入って気付いたのだけれど,茶髪=ギャルという定義でもあるのか,
入学以来周りに寄ってくるのはハデな女や男がほとんどで…。

別にこの人たちが嫌ではない。実際,一緒にいると面白おかしい。

私を含めた女子高生6人ほどが,電車に揺られ隣駅にあるカラオケボックスへ
向かっていた。
そこが今日の合コンの会場である。
ぼんやり窓の外を眺めていた私だが,ふいに彼女たちの会話が耳に入った。
「うちのクラスのぶっさい女がさぁ,うちらのこと女のクズって言ってんの。」
「えー,あんた鏡見て言えってカンジだよね〜。」
けたたましい笑い声が社内に響く。
乗客が皆下を向いて黙っていた。だけど私には彼らの嘲笑が聞こえる気がする。

この人たちといると面白おかしい…だけど,だけどそれだけ…。


合コンはまずますの盛り上がりを見せ,無事終えた。
何人かは二次会へ繰り出したが,私は断っておいた。
最近はこんな馬鹿騒ぎをしてもちっとも楽しく感じないのだ。
お風呂に入って早く寝たいな,と思いつつ友達とまた電車に乗っていると
うち1人に声をかけられた。
「奈津はいいよねー,美人でさ。いっつもモテモテじゃん。」
「そうそ,今日も一人勝ちだったしね。」
いつものノリとは違う,どこか毒を含んだ物言いに私はギクリとする。
これは…。

あの時と同じだ。

中学生の時,この髪でいじめられた。
生意気だという理由で。
いじめたのはクラスでもハデな子達で,もうあんな怖い思いをしたくないと…
この子達に取り入った方がましだと…そう思った。

あぁ,なんだかんだ言って私は自らこの人たちにすがっているんだ。

そう認識するとすごく情けなくなって,それから私は一言も話さなかった。
家に帰ると,悲しみを取り払うように深い眠りについた。


翌朝。
気持ちの良い晴れの日だったが,私の気持ちは重かった。
今日も彼女たちに何か言われるかもしれないと考えると,気が滅入るばかりだ。
ガコン。
靴箱を開けて上履きを取ろうとした時異変に気付いた。
「手紙………?」
上履きの上に真っ白な封筒がのっかていた。
ぺりぺりと封をきると几帳面な文字がのぞいた。

『本条 奈津さま
   お話があります。5時にピロティーに来てください。
                        溝口 隆志』


「これってもしかして漫画でよく見るラブレター…?」
奈津はひとりごちた。
最近の告白は手紙より,電話やメールが多い。
多くの求愛を受けてきた奈津だがラブレターというのは初めてだった。
丁寧な文字をなぞってみる。
差出人の名前は知らない。顔も知らないかもしれない。
「どんな人だろう…。」
だけど会ってみたいと思った。

「奈津ぅ,今日ゲーセン行ってプリクラとろうよ。新機種はいったってさ。」
グループで昼食をとっていると,さっそく遊びの誘いがかかった。
しかし,今日は放課後の呼び出しがある。
「えっと,今日はちょっと用事があるの。他の皆であそんでて?」
そう言うと1人がニヤリとこちらを見た。
「まさか…彼氏とデートとか…?」
「ち,ちがうよ!」
本当に違うのだけれど,口べたな私は思わずどもってしまった。
「そうだよ,奈津はそんな嘘つかないもんねぇ?」
今度は違う方から嫌味を含んだ声が飛ぶ。
「うん…。」
居心地が悪くなって,残りのお弁当が喉を通らなかった。


放課後。
待ち合わせ時間の10分前にピロティーに行くと,人はまばらだった。
(私,溝口くんの顔知らないんだよね。わかるのかな…?)
しかしその心配は杞憂に終わった。
キョロキョロとしていると,後ろから大声で名前を呼ばれたのだ。
「本条先輩!」
声がした方を振り向くと,そこには大柄な青年がいた。
肩には大きなスポーツバックがかかっていて,体つきからも何か部活をやっていることがうかがえる。
「溝口くん,だよね。お話ってなんですか?」
そう聞くと,溝口の顔がボっと朱に染まった。
そして何かを決意した表情になると,バチっと目線が合わさって…
「1年B組 溝口 隆志といいます!
 おっ,俺と付き合ってください!!」
ガバッと頭を下げられた。何人かの生徒がこちらに釘付け状態だ。
あまりのストレートな告白に,奈津も呆気にとられていた。
もちろんこの大きな体で,年下の1年というのにも驚きだったが…。
(こ,こんな時,なんて言えばいいんだろう?!)
返事に困って思わず奈津の口から滑り出た言葉は,
「えっと,いつから…?私,会ったことあったっけ?」
溝口は頭を上げると,恥ずかしそうに答えてくれた。
「俺ラグビー部なんですけど,この前の部活の先輩の試合の見学に行ったとき
チアガールとして応援する先輩を見て……,」
一目惚れしたんです…とかろうじて聞こえる程度の小さな告白を聞いた。
奈津は友人に頼まれて1度だけチアガールをしたことがある。
そこで溝口は奈津に出会って,ずっと想っていたらしい。
「俺,先輩のこと絶対幸せにします!だから俺と付き合ってください。」
真面目な表情が,男らしくてかっこいいと思った。
そして何よりこんなに熱い告白をしてくれたのは彼1人だった。
奈津は答えを決めた。
「…はい,私で良ければ。」
奈津がそう答えると,溝口が一瞬驚いた顔になって…そして嬉しそうに笑った。
その笑顔がとても可愛らしく感じて,奈津も一緒に微笑んだのだった。


それから二人は登下校を共にするのが常となった。
1年の溝口 隆志は同級生はともかく上級生にも人気があるらしい。
そのワケは爽やかなスポーツマンであることと,優しい性格らしい。
そんな彼と,美人なクォーターで有名な奈津のカップルの誕生はあっという間に
学校中に広がった。
そんなある日------------------------。

昼食をとろうと,奈津はお弁当を持って仲間のところへ向かった。
「あー,お腹減った!……あれ?私の席は?」
いつも奈津の座っているイスが今日はなくて,皆に尋ねたが誰も答えない。
奈津は静かで嫌な空気が流れるのを感じた。
「あの…」
「あんたは新しい彼氏と食べればいいじゃん。」
きつい声をもって睨まれる。
誰も奈津と目を合わせようとしなかった。
「別に気ぃつかってくれなくてもいいんよ。ほら,行きなよ。」
「私,別にそんなつもりじゃ…!」
そうではないのだと弁解しようとするが,彼女たちはその暇さえ与えてくれない。
「あんたさぁ,勘違いしてるみたいだから言ってあげるけど」
やっと1人と目が合ったが,それは苛立ちを含んでいる眼差しだった。
「今まであんたに付き合ってやったのは,男寄せの為だよ。あんたが来ると勝手に男が湧いてくるからね。でも彼氏持ちになった今は,要らないわけ。分かる?」


-----------目の前が真っ暗になるような気がした。



                           後編に続く


2004/01/09(Fri)22:29:08 公開 / 安斎
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■作者からのメッセージ
こんにちは。恋愛ものを書こうとはりきってみたもののまとまらず。
人の胸をキュンとさせる文章力がほしいものです…。(ほど遠い)
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