- 『自分の価値 〜ライアの死〜』 作者:神無陰 聖夜 / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.75枚
「───了解、すぐに救護班を送る。通信終了」
通信機を再び戻すと、一通りの応急処置を施し、マトスを休ませる。一応、応急処置をしたものの、足の怪我はとてもひどく、肉は溶け、血は噴き出し、パックリと骨が覗いていた。また最悪なことになかなか血が止まらない。
しかし、後輩がやられたのにあわてることも無く、また、モンスターに対してまったく怒りや憎しみを持つことなく、ただ淡々と任務をこなす自分、感情の無い自分がそこにいた。
「すいません先輩・・・」
マトスが静かに呟く。
「ん、あぁ。気にするな」
無感情にアースは返事をする。
この仕事もだいぶ刺激がなくなってきた。
アースは煙草に火を付けようとし、ライターが無いことを思い出した。
同じことの繰り返しだ。
何の変哲も無い世界へ送られ、野放しになって暴れているモンスターを見つけ、ただ倒す。
ライアにも最近会っていない。
四人で一つだったあの仲間たちも、みんな死んだ。今では仲間の死因すら、もう思い出せない。
そして自分は今、何の変哲も無い世界に唯一存在している。
救護班がやがて到着し、マトスを本部へ連れて行こうと、担架に乗せようとしている。
アースは石に座ったまま動かない。
風が、一陣の風が彼の全身を撫でるように吹き抜いていく。
彼は一枚の古びた写真を取り出した。
仲間たちが写っている。皆笑っている。
アースは手に力を込め、その写真を破り捨てた。
友情は廃れ、消えた。
愛情も廃れ、消えた。
世界までもが、廃れて崩れようとしている。
写真の欠片が風に乗ってアースの傍から離れていった。
もう何も残っていない。
自分の存在すら怪しい。
残るのは虚無だけだ。残っているのは・・・何も無いという事実だけ。
世界は疲れ果て、崩れ去ろうとしている。
俺は何をしているんだ。
アースは立ち上がると、自分の愛用のオートバイで自分の所属する隊の本部へと戻った。
荒野の中にポツリと、壁は砂がこびりつき入り口までボロボロになり、自動ドアとしての機能をしていない。話に聞くと、もとは白く清潔な病院だったらしいが、世界が崩れ去るとともに軍に基地として引き渡された。
そんな本部に戻ったアースに、同僚からいきなりこんな話を聞かされた。
「残念の知らせだ・・・ライアさんが死んだよ。例の病原菌でな、全身が朽ちて・・・いま、とくに遺体を引き取る人がいないからこっちへ持ってこさせたぜ・・・いつもの場所にな」
しかし、同僚からの知れせにも、アースは心を動かされなかった。
ただ一つ、静かに頷いただけ。
気づいたらアースはいつもの場所、約束の場所へ来ていた。・・・今はライアの墓がある、大きな枯れた桜の木下。
頭の中、記憶の中ではアースの名を呼ぶライアの声がする。
アースがその声に振り返ると、ライアがこっちに走ってくる。
桜が咲き乱れ、風が舞い、地面も空も桜の花びらでピンク一色だ。
ライアは何も言わず、頬を紅潮させながら、ゆっくりとアースにライアお手製の銀のネックレスとつける。
アースは、銀のネックレスの中央に刻まれているアースとライアだけのマークを力強く握り締める。
幸福が二人を祝福する。
・・・しかし、そんな世界は終わった。
アースはライアからもたっら銀のネックレスをはずし、ライアの墓に立っている十字架にかける。俺にはもう、それをつける資格はない。
アースは、ライアに別れを告げると、休むために自分の部屋へ戻った。
また一つ、冷たい一陣の風が吹いた。
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2004/01/01(Thu)21:53:56 公開 /
神無陰 聖夜
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■作者からのメッセージ
いやぁ、前書いた作品は一瞬で過去のものとなってしまいましたね。
・・・も少しだけ続きます。