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『旋律ノ華ニ乗 って』 作者:岐泉 / 未分類 未分類
全角3622.5文字
容量7245 bytes
原稿用紙約13.15枚
「「葎矢!」」
子供は皆家を出るとすぐに教会へ行く。
誰からも愛し愛された孤児。金の髪がよく似合っていた。
皆の相談にものっていたし、街の事をよく手伝った。
彼はいつも歌を歌って笑っていたんだ。
その歌が僕は好きで遠巻きに聞いていた。

「ねぇ、君の名前はなんていうの?」
僕は答えられない。名前が無いから。
正しくは養父に付けてもらった名前が嫌いだったから。
その名前を名乗る事は屈辱だと感じていたから。
「あぁ、君も俺と同じなんだね。」
屈託のない笑顔を僕に向けた。
とても綺麗で優しくて、淋しげな彼。
そんな彼の秘密を僕は知っている。

彼がこの地に来てすぐの事だった。

教会に住む前に、彼は滝壺で寝泊りをしていた。
そんな事も知らずにそこへ夜中いったんだ。
春先のまだ冷たい水の中で泳いでいた彼を見たとき、愕然とした。
彼が男だと思っていたのに彼は女だった。
しかし、それだけではない。
躯に無数の傷を携えて、そこから染み出る紅い液が水を赤く染めた。
気づくと僕の足元に肉片が無造作に捨てられていた。
震え上がる心臓が締め付けられ、体中が凍り、言葉を失った。
逃げる事も、瞬きをする事も、何も……できなかったんだ。
彼女が殺ったんだ。

彼女は月を背負って僕を見る。
それは月が二つあるようで、それに支配されるかのように
心臓が握りつぶされた。
奇声のような嘲笑が耳に響く。

彼女は魔物だ。

人間の指を銜えて口から血を垂らしながら微笑む。
滝の音が僕の心音をかき消して刻を止めた。
その静寂に耐えられなくなり、そこで僕の記憶は途切れる。

翌朝、僕は花に埋まって寝ていた。
血も肉片も無くなって、何事も無かったかのように朝を迎えた。

この事は誰にも他言するまい。
言った所で信じてもらえるはずもない。

それ以来彼を避けていたが、街角で偶然鉢合わせしてしまったのだ。

それが今だ。

「今も血の臭いがするかな?」
小声で囁いた彼の顔は傷一つ無く、相変わらず綺麗だった。
白い肌に薄紅が被さって血の臭いなんて無関係で……
優しい瞳だ。あの日の彼とは別人だ。
横に首を振ると彼はにっこり笑い何事もなかったように通り過ぎて行った。
彼の肩にとまっていた鳥が彼を覗き込み、慰めるかのように小さく囀る。
彼は後姿でも彼と判るほど美しかった。
揺らめく髪が太陽に照らされて黄金を散らす。

どこに行くのだろう。

不安になって彼の後を尾けた。
例え、以前のようなことが起きていても、彼を確かめるんだ。
そう言い聞かせて足音を消した。
彼は町を出て人気の無い海岸へと出た。
冷えた風が潮の香りを巻き上げて波を荒立たせる。
「高月!遅かったわね。ずっと待ってたのよ。」
岩陰から聞こえた少女の声に、彼は軽く謝った。
そして他愛のない話を長々として、別れた。
すると、また別の場所へと足を進める。
今度は立ち入り禁止の札が掛かっている洞窟前で、少し低めの男の声。
「栗栖。今度はこいつ等を頼む。死体はいつも通り隠しておけ。」
リスト用紙を渡してすぐに去って言った。
彼はまだ歩く。日が傾いてきた頃、漸く教会へと戻り普段どおり振舞う。
神父様に了解をもらい、この日だけ教会に泊まった。
彼の隣の部屋にこっそり身を潜めて様子を探ってみたが、物音一つしない。

もう寝たのか?

恐る恐る彼の部屋の戸をノックたが、音は虚しく消えるだけ。
戸をそっと開けると彼はベッドの中で静かな寝息をたてていた。
僕は安心して、溜まっていた息を吐いて部屋に戻った。
それでも、なかなか寝付けなくて、自然とあの滝壺へと足を進めてしまった。
滝の轟音に混じって小さな、それでも力強く儚い歌声が聴こえる。
その声に手を引かれ、発生源の前へと連れて行かれた。

「やっぱり来たね。」
歌を止めて僕を見た。いたのは月の使者。綺麗で、神秘的な彼女だった。
僕が来るのを知っていた。きっと僕が尾けていたのを知っている。
「彼等は俺が誰だか知らないんだよ。俺の名前は行った街によって変えるんだ。」
彼女は岩に座って月光を浴びながら僕の知りたい事を全て教えてくれた。
「葎矢は楽しいの?」
彼女の笑顔は晃晃と照らされる月に隠されて、存在が希薄になったのに気づいた。
「もうすぐ俺はこの街から消えるから、それまで俺の事は黙っててね。」
金の髪が月と共鳴して淋しく震えたのが僅かに見えた。
彼女には未来が見えている。
彼女が街を去ること、彼が消えること。
「でも俺はココに来るから。君に俺の声をあげる。」
僕は『哀しい』の意味を知らないのかもしれない。
彼女の口から聞いた、彼の最期の言葉。

『 月が呼んでいる 』


月光は蔭り、彼を掻き消して、水を止め、僕を滝の中に拘束した。


一年後
滝の水は枯れ、今にも雪が降りそうなほど寒い朝。
霜が降り注ぎ、音の無い静世界が僕を起こした。
一年前のままな自分の姿。どうやって一年を過ごしたのか記憶が無い。
街に戻ってみると以前と少しも変わっていない。
一周して気づいた事が一つ。
あれだけ皆が口にしていた名前を誰も言わない。
知り合いや神父様に訊いても同じ答えが返ってきた。
誰一人として彼の記憶が残っていない。
教会にあった彼の部屋も今や物置と化している。
家に帰ると、養父に怒鳴りつけられ無一文で外に放り出された。
行くあてがなくなった僕は目を覚ました場所へ行った。
枯れた草木が僕を歓迎してくれた。
木の実が僕の飢えを凌ぎ、朝露がのどを潤す。

葎矢………

月は彼を思い出させる。
彼女の歌が聞きたい。
彼の笑顔が見たい。
今、何処にいるか教えてよ。

無駄に日は過ぎていく。
彼の手掛かりになるもの、葎矢と接触があった人間。

そういえば、あの時………

急いで海岸まで走ったが、あの時の少女はいなかった。
肌寒い空気が僕を切り刻む。
波は何度も打ち返す。違った形を砂に残して。
次に向かったのは、立ち入り禁止の札が掛かっている洞窟。
やはりあの時の男はいなかった。
無駄足だったか。
戻ろうと思った矢先に、突然の雨。
いつの間にか空は鉛色の雲で埋め尽くされているではないか。
仕方なく洞窟の中へ入り、雨が止むまで待った。
どうしてだろう。このとき無性に気になり奥まで歩いた。
真っ暗な洞窟を手探りで進む。視覚は使い物にならない。
感覚と聴覚のみで、一歩一歩確実に進む。
だいぶ奥まで来た。
地面は水浸しで微生物が足を這うが気に止めなかった。
それよりも眼を引くものがあったから。
闇の中に一筋の光、恐らく天井に穴が開いていて外と繋がっているんだ。
ソレの傍によると、僕は足が竦んだ。

氷の塊

「冷たい。」

骨が朽ち果て 腐食した肉 金糸の髪

「寒い?」

氷ヅケ

「ねぇ、聞いてる?」

屍骸 屍骸 屍骸 屍骸 屍骸 

「歌ってよ。月が、月が呼んでるよ。」

死ヌってナニ?

「ねぇ、葎矢。出てきてよ。」

涙 泪 ナミダ

「出てきて話そうよ。僕と話そうよ。」

カナシイってナニ?

月光が降り注ぐ。雨は止み、応えの無い声だけ煩く反響する。
氷付けにされた、見るも無残な姿の彼女。
肉は朽ち果て、骨が剥き出しになっている。
その中で僕に葎矢だと教えるために生き続けた金の髪。
こんなに傍にいても触れる事ができないなんて。
声が  声が聞こえない
葎矢の声が 月に鎖をかけられ 氷の壁を越えられない
氷は溶けない。壊せない。この壁は僕と彼女との距離。
死の認識。それは突然で、僕たちが出会ったのは偶然か必然か。

〜〜〜〜♪

どこからか聞こえた歌声。
葎矢の声。僕が歌ってる。
葎矢の声で僕が歌ってる。
葎矢がくれた声で僕は歌う。

葎矢を忘れないために。

月がくれた旋律で タクトを振るう君 君の声を引き立てるのは 地上の命あるもの全て

君のために歌い続けるよ。
命ある限り、僕は君のものだ。


僕の街にタクトが来たのは桜が咲いたとき。
春一番がタクトを連れて来たんだ。
彼はこの街で「葎矢」と名乗った。
それなりに受け入れられていたはずだったのに、どうしてだろう。
何でこんな事になってしまったんだろう。
彼は皆に消されてしまったんだ。
僕だけは彼の正体を知っていたから。
忘れたりはしない。
でも、皆は忘れてしまった。
まるで夢から覚めたかのように、全てを忘れていたんだ。
だから僕は皆を殺したんだ。
大切な人はもういないから
失う怖さを知っていたから
だから彼等から奪ってやった。
満月の夜だった。
僕は狂ったように紅の旋律で歌った。
月に支配されていたんだ。
太陽は怒って僕に罰を与えた。
太陽が君臨しているとき、僕の声を焼き尽くすんだ。
でもそんな事は苦痛じゃなかった。
声を失っても月が僕を守ってくれると信じていたから。

葎矢  月が出たら降りてきて

僕の身体を貸してあげる

君の声が好きだった

君の笑顔が好きだった

君が咲かす華が僕を生かしてくれるよ

僕はもう月の支配から逃れられない 月が君を捕らえている限り
2003/12/16(Tue)16:56:29 公開 / 岐泉
http://ktplan.net/miyu/
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■作者からのメッセージ
葎矢はナゾの人物です。
どっから来て、何で死んだか、それはナゾです。
葎矢の死で少年の運命が変わった。
ちょっとダーク系ですが、自分的にも好きな話なんで苦手な方、ごめんなさい。
好きな人には、ちょっとダーク足りないよ!って言う声も聞こえてくるかもしれません。
これの続きで読みきりもあります。よかったらサイトに足を運んでください。
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