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『かかし』 作者:PAL-BLAC[k] / 未分類 未分類
全角3101.5文字
容量6203 bytes
原稿用紙約11枚
 月の綺麗な晩の事でした。

見渡す限り、金、金、金--。

実りの秋を迎え、どの田んぼも、美しい黄金色に色づいています。

月明かりに照らし出された田んぼは、幻想的なまでに明るく、金色でした。

そんな畑の一つに、真新しい案山子が立っています。

いや、「立っている」のではなく、「立たされている」んですね。
でも、案山子「本人」は立っているつもりですよ。


今年は豊作です。


「今年は豊作だー!」
案山子も嬉しそうです。
別に、自分の手柄ではないのに。

「雀ども、見てろよー。この俺様が立っている間は、おまえらに一粒たりともわけてやらんぞ!」

えらく元気です。
夕方、立てられてからずっとあんな調子です。
武者震いしたり、興奮したりと忙しく、雀追いの鳴り物をカラカラと鳴らしっぱなしです。

今夜は満月。
何か飛んでくればすぐにわかるでしょう。
まあ、この時間は、カラスも山にいる子供とぐっすり寝ているのかもしれません。

それでも、案山子は張り切って見張りをしています。

「おみしゃん(おまえさん)は若ぇ、わけぇのぉ〜」

間の抜けた声に、案山子が目を向けると、権兵衛さんの田んぼの、古びた案山子がヒャッヒャッと
笑っていました。

「なんだい、おじいさんよ」

ムッとして若い案山子は言いました。

「なーに・・・おみしゃんが若いと思っただけじゃよ」

言われた若い案山子は、胸を反らせて言いました。

「そりゃそうさ。昨日作られて、今日から御命を受けたんだ!」

皮肉そうに、年老いた案山子は笑いました。

「御命?御命ときたか。それはそれは・・・」

さっきから突っかかるような態度に、若い案山子は憤然としました。

「あんたは案山子の本分を心得てんのか?!」

「もちろん」

「言ってみなよ」

「決まっとるわ。ここで朽ち果てることよ」

「は?」

若い案山子は何を言われたのか、すぐにはわかりませんでした。
そりゃそうでしょう。案山子は雀とカラスを追うもの。
朽ち果てるのが本分だなんて聞いたこともありません。

「じいさん、あんた、今、なんて言った?」

「朽ち果てる、と、言ったんじゃ。く・ち・は・て・る、とな」

言って、薄汚れて破れている口元をゆがめて笑いました。

「おみしゃん、よっくお聞き」

「儂ゃこの畑に来て、もう、3回目の田植えを迎えた。雨の日も風の日も休まず働いたもんさ」



年老いた案山子も、昔は若かったものです。
4年前、権兵衛さんが田植えの翌日、夜なべして作り、田んぼの真ん中に置いたのです。

「しっかり気張ってくんろ」

そう言って、権兵衛さんは置いた案山子の頭をポンポンと叩きました。

その年は雨が多く、初めは村の者も「恵みの雨じゃ」と喜んでいました。
しかし、梅雨が明けても長雨は続き、苗はお天道様を拝めず、全然育ちませんでした。

村の神社では、雨が止むようにと、祈りが捧げられましたが、まったく効果はありませんでした。
そして文月のある雨の夜、ついに土手が決壊して大水が出ました。

隣の平作さんの畑も、若い案山子が立っている三造さんの畑も流されてしまいました。
もちろん、年老いた案山子が立っている権兵衛さんの畑も。

大水の中、年老いた案山子は懸命に踏ん張っていました。

自分が田んぼを守らねば--。

三日三晩立って、ようやく水は引きました。
苗はほとんど流されてしまいました。
年老いた案山子の同僚の、ほかのたんぼの案山子も、雀追いも同様に。
しかし、年老いた案山子だけは残りました。

陽が昇ってきて、照らし出された変わり果てた田んぼを見て、年老いた案山子は悄然としました。
権兵衛さんにはもっと堪えたようです。
年老いた案山子のそばにへたり込んでしまいました。

「せっかく植えた苗っこが・・・」

べとべとにぬかるんだ土に手を突っ込み、倒れた苗をつまみ上げました。
大して育っていない苗は、根もほとんど張って無く、簡単に取れました。

「今年はどしたら良かんべ・・・」

そして、傾きつつも畑に残っていた案山子を見上げました。

「苗っこは流されても、こん畜生は残ってやがる」

案山子にしてみれば大変な言われようでした。
がんばって踏ん張って、どうにか耐えたのに。
まるで流されてしまえばよかった、というような口調はあまりにもひどいものでした。

農家は休んでいられません。
気を取り直した権兵衛さんは、残った苗を拾い集め、植え直しました。
そして、案山子をまたまっすぐ立て直しました。

今度は、何も言ってくれませんでした。


その夏は、長雨の後以来、全然雨が降らない日照り続きになりました。
おかげで、近年希にみる凶作となったのでした。

その秋、権兵衛さんは出稼ぎに行ってしまい、ろくに実りもせずに立ち枯れした田んぼは
晩秋まで放っておかれました。

もちろん、誰も案山子を顧みることはありませんでした。

霜が降り、雪が吹きすさぶ冬になっても畑に人が入ることはありませんでした。

ようやく権兵衛さんが戻ってきて、畑に鍬が入れられたのは松も明けてからのことでした。

結局その年も土の具合が良くなかったためか、大して収穫もできず、豊作の年に行われる、
案山子や鳥追いの供養も行われず、また畑で冬を越すことになったのでした。


「おみしゃんは、これでも案山子の仕事をしろって儂に言えるかぁ?」

返ってきたのは、意外な答えでした。

「言えるさ」

「ほう、言えるかね。なんで?」

「案山子だからさ」

年老いた案山子には、それが若い案山子の強がりであることを見抜いていました。
若者特有の、いきがっている、言った言葉を引っ込められなくなったときの口調。

やれやれ、と肩をすくめて年老いた案山子はため息をつきました。

この若いのには、そんな不幸なことにはなって欲しくない。
万が一、ここで冬を越すことがあったら。
守る物がない畑で、誰にも顧みられずに過ごしたら。

自分以上にひねくれてしまうかもしれない。

「でんも、それもしゃぁないかもしれんな(でも、それもしょうがないかもしれない)」

ボソッと一人ごちて、年老いた案山子は首を振りました。

口で言うのは容易い。
でも、実際になったときに役に立つとは限らない。

「少なくとも、儂はやることはやったんだわさ」

それは、自身にもいいわけにしか思えませんでした。



若い案山子はしばらく黙っていました。

年老いた案山子が、話が終わったと思って、一寝入りしようとしたそのとき、若い案山子が口を開きました。

「じいさんよ」

「あんだぁ?」

「あんたはそれでも畑を守っていたんじゃないか」

「・・・・・・・・・そんだな」

「『朽ち果てる』だなんて寂しいこと言うなよ」

フォッフォッフォッ

しわがれた笑い声が、静まり返った田んぼに響きました。

「何がおかしい?」

また馬鹿にされたのかと思い、若い案山子がくってかかるように聞きました。

「フォッフォッ・・・いや、おみしゃんの言うとおりだ。案山子はいるだけで仕事をしとるんだなぁ」

こんなおかしいことはない、と言わんばかりに笑いながら、年老いた案山子は言いました。
口元の破れ目が、さらに破けんばかりに笑いました。

「んだんだ。おみしゃの言うとおりだ。」

呆気にとられて、若い案山子はポカンと見ていました。

「うんず、儂ももちっと気張るかのう」

 月の綺麗な晩の事でした。

見渡す限り、金、金、金--。

実りの秋を迎え、どの田んぼも、美しい黄金色に色づいています。

月明かりに照らし出された田んぼは、幻想的なまでに明るく、金色でした。

そんな畑の中に、案山子が2体立っています。


今年は豊作です。
2003/11/11(Tue)23:13:21 公開 / PAL-BLAC[k]
http://www.smat.ne.jp/~pal
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■作者からのメッセージ
毎度の事ですが、現代的な恋愛ものよりも、こういった作品の方が書きやすいものでして・・・。

この作品は、とある詩にインスピレーションを受けて書いたものです。
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