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『月の晩に【T】』 作者:翠 / 未分類 未分類
全角1596文字
容量3192 bytes
原稿用紙約5.8枚
         最後に見たのは、倒れている「彼」。
          最後に聞いたのは、ごめんねの一言。

    暗い、真っ暗な空なのに、雲に隠れることのない月だけが、
         私と「彼」を静かに照らしていた。

          赤い池に浮かぶ、「彼」と私。
       声は出なかった。あまりにも、突然のことで。
      なぜ、彼は倒れているの? なぜ、彼は喋らないの?
      
     なぜ、私・・・涙が出ないの? ・・・「彼」って・・・ダレ?


どこまでも、果てしなく続く白い空間。
どっちが上か、下か、右か、左か、分からない。どちだと正しいのだろう。
今思うと、私の立っているここも地面じゃないのかもしれない。
何もない、ただ私の声だけが広がる場所。
それでも初めのころ・・・いつだっただろう。
初めてここへ来たときは、必死に叫んだ、声の続く限り。
必死に走った、足が動く限り。
それでも、白い空間だけが続く場所から、出られることは無かった。

 「・・・なんで、頭から離れないんだろう・・・。」
 
ただ突っ立ってるってのも退屈だから、寝たりもした。
でも、必ず、見る夢は一つ。
空に月が浮かんでいて、足元に真っ赤な池が広がっている場面。
その先に、誰かが倒れていて・・・。男の人だろうナ。何か必死に喋ろうとしてる。
・・・そこで、おしまい。かならず、目が覚めるの。
一生懸命考えるけど、思い出せない。

 「・・・私、なにかしたのかな・・・。」

そうして、また、目を閉じた。見る夢は決まっているけど、
何もないここでは、それくらいしかすることがない。
また、深い眠りについた。白い床に寝そべって―。


  思い出せないの?あんなに悲しかったのに?
     突然のことだったから?涙も出なくて?
      そうじゃないよね、信じてなかったんだ。彼を。
        会ったら、言ってやるつもりだったんでしょう?
          『私、もう、あんたなんかと会いたくもない!』って・

          全部・・・あなたの勘違いなのに?


また、同じ夢を見た。真っ赤な、血の池の私。何かいいたげな彼。
不思議と、涙が頬を伝う。少し思い出した気がした。あの、満月の晩。

 「ようやく、目が覚めたの?・・・爆睡ネ。こんなとこで。」

上からの声。驚いた。なんでこんなところに・って。
でも、その少女はすごく普通に、私の目の前に降り立った。
真紅の、紅の翼。日に透けそうな、栗色の髪をなびかせて―。

 「―水原 泉水。16歳。中学三年生。身長 163センチ。黒の髪に」

少女は、その桃色の唇から、勢いよく言葉を滑らせた。
顔に似合わず、きつい口調で。止めようとしたけど、口を挟めなかった・・・。

なんせ、恐ろしく早口だったから・ね。

 「栗色の瞳・・・。あなたに間違いないわよね?イズミさん?」

少し見上げて、目を見てきた。整った顔立ちの少女。
下手をすれば、吸い込まれそうだった。
・・・気になるのは、あまりにも似合わない、真紅の翼。

「そう・・・なの?生憎、私、自分のこと、何も思い出せないのよ。」
「あ、そうみたいね。現在、心が何もないから・」
「ま、何でもいいわ。やっと見つけたんだから。
こんな場所にいるなんて、思わなかったから・・・。時間が無いから、率直に言うわ。ちゃんと聞きなさいよ?」

突っぱねた態度をとった私に動じないで、少女はあっさり言った。
・・・一体、この子、ダレ!?なんで、私に話しかけるのよ!?
少女に背を向けた。悪いけど、信じる気持ちになんかなれない。
最も、ここから出してくれるのなら、話は別だけど。

   「先月の満月の晩、あなたの心は止まりました。原因は・・・」

        自分の彼氏を殺してしまったことに対する
               罪悪感。
 
表情が、凍りついた。・・・全部、今の一言で、思い出したから・・・。
2003/11/06(Thu)23:55:07 公開 /
■この作品の著作権は翠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初投稿です。
長くて、稚拙で、読みにくいと思います。
感想・批判、頂けると大変嬉しいです。
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