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『幸せになれますように』 作者:そら / 未分類 未分類
全角1619文字
容量3238 bytes
原稿用紙約5.2枚
 雨が降る夜に俺の恋人が亡くなった。名前はアキ。
眠るように息を引き取った。雨がいつもより冷たく感じた。
本当に眠っていたと思った。夢だと思った。だから俺は泣かなかった。
 
 アキの家のアキの部屋でアキの日記を見つけた。
パラパラと適当にページをめくる。俺の字と比べると、凄く綺麗なあいつの字。
思い出すのは・・・やめた。あいつを「思い出」にすると帰ってこない気がして…。
あいつの部屋は女っぽくない部屋だ。真っ白な部屋に綺麗に整頓された机。あいつが好きだった本がたくさん詰まった本棚。ベット。
俺はアキの母にこのままにしておいてくれ、と頼んだ。まだ、あいつは帰ってくる。そう思いたかった。
 帰る頃には、日が落ちかけていた。オレンジがかかった赤い夕焼け。帰り道の途中にあるこの町がほとんど見える見晴らしの良い丘に寝そべって、俺は煙草に火をつけた。ここは俺とアキが初めて会った場所だった。俺がそのへんをふらふらしてると、犬の散歩に来ていたアキとここでばったり会ったのだ。しばらく経つと、いつもここでつるんでいたシュウが来て俺を見下ろしながらこう言った。
「やっぱりここに居た」
すると、俺の隣に寝そべる。
俺は言った。
「あいつ…。本当に死んだんだろうか?」
「あいつ?」
「アキの事だよ」
「ああ…」
シュウも煙草に火をつける。
吸った後に
「…お前がどう思ってるか知らないが、あいつは確かに死んだよ」
数秒の沈黙が、何分も何時間も長く感じた。
沈黙が嫌で堪らなくて、俺は言った。
「お前の彼女が死んだら、お前はどうするんだ?」
「俺なら泣くね。次の日、目が真っ赤になるくらいに、な」
続けてこう言う。
「ケイはどうせ意地張って、泣いてないんだろ?」
憎たらしい笑顔をこちらに向ける。
「お前の悪い癖だぜ?意地張るの」
「……」
意地を張っているかは自分でもわからない。
ただ泣くとアキが死んだことを自分で認めた気がするんだ。

 次の日は雨が降っていた。俺はまたあいつの部屋にいる。
体操座りをして、部屋の隅にうずくまっていた。
あいつが帰って来る日をずっと待っていた。帰ってこないってわかっているのかもしれない。
開いてる窓から風が吹き付けてくる。その風がアキの日記をパラパラとめくる。
そこから一枚の紙が飛んできた。
それはアキから俺宛の手紙だった。


『これをケイ君が読んでる頃は、私は生きていないかもしれない。自分でも分かってるんだ…。私の体はもう持たないって…。でも悲しくなんてない。あなたが居てくれたから。ケイ君は私が居て幸せだった?楽しかった?私は凄く幸せだった…。楽しかった。

ねぇ、私の夢、覚えてる?空になりたい。ケイ君、君はそれを聞いたら笑ってたよね。空になれば、ずっとあなたを見ていられる…。あなたを包んでいられる。私、空になれるかな・・・。なれるといいな。

きっと、ケイ君は私が死んでも、泣いてないと思います。昔から意地っぱりだからね。でも涙の意味は悲しみだけじゃないんだよ・・・?人間悲しい事があれば、涙を流す。でも涙の本当の意味って心を洗うことなんだよ?

私はここで筆を止めます。未練がましいと空になれなさそうだしね。最後に…あなたが幸せになってくれる事を祈ります。アキより』


 何かがはじけた。途端に涙が溢れてきた。あぁ、俺はもう泣いていいんだ。そう思えた。
俺は生まれて初めて声を出して涙を流した。この雨は、あいつの涙だったんだ。この雨が俺の心を洗ってくれたんだ…。いつもあいつは俺の幸せを願ってくれてたんだ。あいつは…アキは空になった。あいつは俺を見守ってくれてるんだ。だから悲しくなんてない。寂しくなんてない。
 今日は傘を差さずに帰ろう…。そう思って雨の中歩いた。帰り道のあの見晴らしの良い丘の所まで着くと、雨が急に止んだ。雲の間に光が射す。やっとあいつが笑ってくれた…。俺は空に向かってこうつぶやいた。「幸せになれますように…」


2003/09/25(Thu)20:45:10 公開 / そら
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■作者からのメッセージ
お初にお目に掛かります。そらと申します。今日ここのHPを見つけて、皆様の力作見させていただきました。素晴らしいものばかりです。小説は好きなのですが、書くのは初めてです。皆様のお目汚しにならぬよう、出来れば感想やご指摘をしていただきたいです(苦笑
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