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『蒼い髪 38話 敵前逃亡』 作者:土塔 美和 / 未分類 未分類
全角44489文字
容量88978 bytes
原稿用紙約133.2枚
 次期皇帝の威厳を示すため同盟星の外遊を行ったジェラルド王子だったが、帰還間際にクーデターにあう。幸いアヅマの倅と名乗る男に助けられ、アヅマの要塞に案内されることになったが、ジェラルド王子の護衛としてついてきた艦隊は、その空域に残された。カロルの命令でネルガル星へ帰還することになったものの、ネルガル星で彼らを待ち受けていたものは、ジェラルド王子を見捨てての敵前逃亡の罪だった。
 ジェラルド王子を人質に取られたまま帰還したレイたちを待っていたものは、軍法会議だった。お歴々の面前に引き出されたのは、第6宇宙艦隊総司令官フリオ・メンデス・コルネ中将、第7宇宙艦隊総司令官レイ・アイリッシュ・カーリン中将、第8宇宙艦隊総司令官テレス・アルシャ・マール中将とその各々の幕僚たちだった。無論その中に平民の姿はない。貴族のみである。平民は別な所で裁かれていた。

 そしてここは、ケリンたち平民を裁くところ。
「やっと本性を出したな、ケリン・ゲリジオ」
 そう言葉をかけて来たのは情報部の一人、ベルロ・ドミンゴである。ケリンとは同期でいつもケリンに先を越され、常々快く思っていなかった。敵前逃亡は重罪。しかも皇太子様を置き去りにしての逃亡とあっては死刑は免れない。よってここぞとばかりにこの役を買って出たのである。最終的には絞首台まで連れて行ってやるつもりで。
「皇太子様を置き去りにして逃げるとは、軍人の風上にも置けない」と、鬼の首でも取ったかのように喚きたてるドミンゴ。
 神経質そうでキイキイする声が耳障りな感じだ。
 ケリンはうんざりしたような顔で彼を見ると、彼の言葉を頭から否定した。
「逃げたのではない。命令に従ったまでだ。軍人たるもの、上官の命令は絶対だ」
 まさかこんな言葉をケリンの口から聞くとは思わなかった同僚たちは、唖然とした顔でケリンを見た。ケリンは司令官の命令系統から一番遠い男として有名である。
「命令?」
「ああ、カロル・クリンベルク大佐からネルガル星へ戻るように命令された」と、ケリンはいけしゃあしゃあと言う。
 ドミンゴは甲高い声で笑い出した。
「そんな命令、誰が証明できる。お前らがどんなに口裏を合わせたところで、命欲しさに逃げ出した口実にしか取れない。しかも皇太子様を置き去りにして」
 ケリンと同艦していた者は諦めていた。どんなに命令に従ったまでのことだと言い張ったところで、それを証明する者は同じく逃げ帰って来た者たちしかいない、カロル司令官でも居れば話は別だが。よって同僚たちはケリンに言う。
「無理ですよケリンさん。我々意外に証人はいないのですから」と、諦めきったように肩を落として見せる。
 ジェラルド王子の護衛と聞いた時から嫌な予感はしていた。うまく行けばこれほど楽な航宙はないが、一歩間違えれば戦死しなくとも死罪は免れない。それが的中したとしか言いようがない。
 こうなるのだったら、あの時、戦って死んだ方が名誉だけは残ったか。遺族年金ももらえる。少なくとも家族たちは飢えに苦しむことはない。死刑では遺族年金はもらえないし、世間からは白い目で見られることになるし。
 だがケリンだけは堂々としていた。
「証明できる人物はいる。否、人物と言っていいのかな、彼女のことを」
「彼女? まさかアルシャ中将のことか。彼女だってお前らと行動を共にしていたのだから、証人にはなれない。それどころか今彼女たちも」
「否、アルシャ中将のことではない。ヨウカという女人のことだ」
「ヨウカ?」
 そんな女兵士がいたかとドミンゴは調べるように秘書に目配せする。だがどの艦にもそのような名の付く兵士のデーターはなかった。
「そんな女、どの艦船にも乗艦していない」
「居るはずないだろう。彼女はネルガル人どころか、我々が意識する生物にもあてはまるかどうか」
「それはどう言う意味だ?」
「幽霊とでも言った方が、あなた方には理解しやすいかな。イシュタル人たちはどうやら彼女たちの存在を知っているようだが」
「幽霊? そんなものに証言させようと言うのか」
「そうだ。彼女ならあそこで何が起きたのか全て説明できる。実際我々も、何が起こったのか解らないのだ。クーデターが起こり、アヅマに助けられ、ジェラルド様を連れ去られた。だがカロル司令官の命令では、アヅマの要塞をちょっくら見物して来るからお前らは先にネルガルへ戻れと言うことだった。先に戻れと言うことは、後から戻って来るつもりなのだろう」と、ケリンはジェラルド王子が、遊泳にでも出かけたかのように言う。
 ドミンゴは苛立った。
「ケリン、いい加減にしろ、人がおとなしく聞いていれば、往生際が悪いぞ。もう少しまともな奴かと思っていたのに。少なくとも俺がライバル視していたのだから」
 ケリンは苦笑した。ケリンにすればドミンゴなど意識したこともない相手だ。
「往生際が悪いか。だがこの女の存在を俺以外にも証明できる方がおられると、言ったら」と、ケリンは急に敬語を使い始めた。
「お前以外に幽霊の存在を証明できる奴がいるというのか」と、ドミンゴは馬鹿にしたように鼻で笑う。
 今のネルガル星では、奇怪現象の大半は科学で証明できるようになっていた。このご時世に幽霊など口にする者はアホか気違いしかいない。下手をすれば隔離病棟行きだ。
「幽霊と表現したのは間違いだな。正確には四次元生物とでも言うべきなのだろう。四次元に住んでいるのだから」
「馬鹿馬鹿しい。そんな生物、居るはずがない」
「そうだ、生物ではない。死物だ。彼女の話しでは我々も死ねば四次元で生活することになるらしい」
「はっ?」と、思わず首を傾げるドミンゴ。
「俺は別にお前と、宗教や哲学の話などするつもりはない」
「俺だってお前とそんな高尚な話をするつもりはない。宗教や哲学から一番遠い所にいる奴らの集まりが情報部だろうが。だが、これからシャーやアヅマと戦うには彼女の協力が必要だ。あまり彼女を怒らせない方がいい。こうやっている間も、彼女はこの部屋で我々の話しを聞いているかもしれない」
 ドミンゴは、馬鹿なと思いながらも、ケリンが十分な裏付けもないことを口にしないことは情報部なら誰でも知っている。
「その幽霊の存在を証明できる人物とは、誰だ?」
 宇宙海賊シャーやアヅマを出されては訊かずにはおられなかった、これではケリンの目論見だと知りつつも。これでこの事件の解決はのらりくらりと長引くことになる。だがなんぼ延長したところで事の重大さに変わりはない、死罪はまぬがれないのだ。という安心感がドミンゴにはあった。しかし少し面倒だがその人物の尋問をしなければならなくなった。時間の無駄だと思いつつも、ケリンのことだ、かなりの大物を証人にすることだろう、尋問したくともなかなか呼び出せないような。それを思いドミンゴは嫌気がさして来た。まったく面倒なと、内心、舌打ちをする。
「皇帝陛下だ」
「皇帝陛下だと!」
 ドミンゴは一瞬、唖然としたが、よりによって陛下を引き出すとは。我々では尋問できないと言うことを見越してか。
「あの方なら、ヨウカの存在をご存じだ」
「馬鹿な、陛下を尋問しろと言うのか。我々では拝顔することすらかなわないというのに」
「情報部なら、そのぐらい簡単だろう」
「できるはずがない」と、ドミンゴは頭から否定した。
「ルカ王子の出生に関わることだと言えば、陛下も動くだろう」
「どういう意味だ?」
「それは俺より陛下に聞いた方がいい」
「お前、何を知っている?」
「ヨウカから聞いただけだ」
 ドミンゴは訝しげな顔をした。だがその後は、何を聞いてもケリンは答えようとはしない。ケリンがこうなると貝の口を開くより難しいことは情報部の者なら誰でもが知っている。
 結局、陛下の名前が出て来た時点で、この問題は下では解決できなくなってしまった。
 ケリンはニタリとした。これで時間は稼げた。その間にカロルたちが戻って来てくれればよいのだが、あまり期待はできないな。





 ここは鷲宮の皇帝の私室。某惑星から特別に取り寄せた石を敷き詰めた床は、独特な色彩を放っている。そんな中、グラスを片手に独り佇んで庭と言うより下界を見下ろしているのは、今やこの銀河の支配者とでも言うべきネルガルの皇帝。
「陛下、こちらでしたか」
 背後から声を掛けて来たのは皇帝が幼少のころから仕えている執事。
「どうだ、お前も一杯やらないか」と、グラスを差し出す皇帝に、
「陛下、先程情報部の者からルカ王子のことで、出生がどうのこうのと」
「相変わらず心配性だな、お前は」と、皇帝は笑いながら執事に与えたグラスに琥珀のような液体をそそぐ。
「ですからあの時、堕胎させればよかったのです。やはりあの者は人間ではありません」
「奴は俺の子だ」
「陛下」と、忠告する老執事。
「ではお前は、ルカは神の子だとでも言うのか」
「そうは申しておりません。それどころか悪魔ではないかと」
 皇帝はやれやれと言う感じに大きな溜息を吐くと、
「お前の心配性のおかげで随分救われたからな、一概に否定はしないが、ルカにはピクロスのような権勢欲はないからな」
「しかし、ピクロス王子を排除したのは事実です」
「あれはピクロスがルカの愛人に手を出したからだろう」
 シナカのことを妻とも側室とも言わない。所詮異星人はネルガル王子の妻になることは出来ない。
「ルカも若かったからな。俺も最初の女の時は決闘までしたものさ」
「そうでした。あの時は随分後始末に苦慮しました。なにしろ相手が名門のご子息でしたので」
 老執事は昔を思い出したかのように語る。陛下には心休まされたことがない。
 この部屋に自由に出入りできるのは彼のみ。よってこの部屋には護衛もいない。心の想いのままを話すことができる。
「ルカはジェラルドを殺してまで玉座に座ろうとは思っていないようだからな」
「それは表向きそう振る舞っておられるだけで、内心はどうですか」
 皇帝はグラスの液体を一気に飲み干すと、
「最後に生き残った者が玉座に座ればいい。それがこの星のやり方なのだから。今までもそれで来た。これからもだ」
「しかし、それはあくまでも人間が座ることが前提です」
「ルカは人間ではないと言うのか」
 老執事は黙り込んでしまった。
 皇帝は二杯目をそそぎながら、
「ところで情報部は何と言ってきているのだ」
「それが、ヨウカとか言う四次元生物がどうのこうのと。そこら辺がはっきりしないのですが、どうやらその生物と話が出来る者がいるようでして」
 皇帝は懐かしい名前を聞いたと思った。あれ以来、ヨウカとは会っていない。まだ居たのか、あの女。否、あの蛇。
「ほー、ヨウカと話が出来る人物が居るとは、会ってみたいものだ」
「へっ、陛下!」と、老執事は驚く。
「またそのような好奇心を」
 殿下の幼少のころからの悪い癖である。この好奇心には随分危険な目に会わされながらも一向にこりず今に至っている。
「四次元生物だなどと、得体の知れない」
「ほれ、お前の心配性がまた始まった」
「陛下、いい加減、私を楽にさせてください」
「そんなに早死にしたいのか」と、皇帝は笑う。
 この老執事の前でだけ見せる屈託のない笑いだ。
「とにかく、その人物に会ってみよう。軍法会議に立ち会うと言う形でだ。ジェラルドの生死に関わることだからな、俺が立ち会ってもおかしくなかろう」
 そう言うと皇帝は杯をあおった。
「ところで、ルカはどうしている」
「砂の星に発ったそうです。そろそろ着くころかと」
「そうか」





 そして幾度目かの軍法会議。今回は皇帝も出席されるとあって審議委員たちは緊張気味である。今回尋問されるのは第7宇宙艦隊司令官のレイ・アイリッシュ・カーリン中将と最後までカロルと一緒に居た幕僚のオルランド・ヒメネス・バザン少尉、無論彼は貴族である。そしてケリンだった。ケリンが引き出されてきた時には会議室が騒ぎ出した。
「何故平民が、ここに。今回は御前会議である。場違いも甚だしい」と言って、審議委員の面々は一段高いところで座っている皇帝を仰ぎ見る。
「早く連れ出せ!」と、場違いな者が出て来たとばかりに騒ぎ立てる委員たち。
「そうもいかないのです。今回の審議は、彼こそが重要参考人なのですから」
「それでは下級裁判の方で調書を取れば」
「それが、そうも」と、困り果てたような検査員。
 ケリンはアイリッシュ中将の通信オペレーターとして参戦していた。よってその関係でケリンの上官であるアイリッシュも引き出されたのである。
「静粛に、審議を始めます」
 議長のその声で会議室は静まった。だが騒ぎ出すのは時間の問題だった。今回の審議は見たり会ったりしたことのない者たちにとっては茶番にしか思えないが、実際それを経験した者にとっては笑って済ませることは出来ない。なぜなら宇宙海賊シャーやアヅマは、そのような存在なのだから。
 議長からの指名により、カロルの幕僚であったヒメネス少尉が幾度となく話したあの時の状況を、もう一度語り始めた。
「つまり、クライセル中佐が中心となってクーデターを起こしたと言うことだな」と、審問委員の一人が訊く。
「ジェラルド様暗殺などクライセルごときが出来るはずがない。誰が背後で糸を引いていた?」と、別の審問委員が問う。
「それは私にはわかりません。彼は何も語らずに亡くなりましたから」
「アヅマはどうして救援に来たのだ?」
「それも私にはわかりません」
「おそらくジェラルド様を人質に取り、何らかの交渉に出て来るものかと」と、答えたのは学者肌の審問委員。
 そこに割って入ったのはケリンだった。
「それは違う。彼らの標的はジェラルド王子ではなく、カロル大佐だ」
「カロル大佐だと、それでは奴らの狙いクリンベルク将軍ですか」
「倅を人質に取り、将軍の動きを封じようと」
 今、ネルガルの軍部を支えているのはクリンベルク将軍である。そしてクリンベルク将軍が子煩悩なことは誰でも知っていた。会議室が再びざわつき始めた。そのようなことで将軍が動揺することはないと知りつつも、念には念を、戦場を知らない者ほど疑心暗鬼になる。
「静粛に。指名されていないものは勝手に喋らないように」と、議長はケリンに忠告する。
 だがここに、勝手に喋り出しても誰も忠告出来ない人物がいた。
「お前か、化け物と会話が出来るという奴は」
 皇帝がケリンに直接問いかけて来た。
「よろしいのですか、そのような言い方をなされて。彼女はとてもデリケートですから、気分を害して証言してくれないと、私が困るのです」
 皇帝は笑う。
「それは悪かったな。だが、あれのどこがデリケートだ」
 ケリンはやれやれと肩をつぼめて見せると、
「私たちの取った行動が命令に反していなかったことを証言してもらおうと、この場にお呼びしているのですが」
「ほー、この場に来ているのか。よくあの天邪鬼がその気になったものだ」
 まるで皇帝がその化け物を知っているかのように話すことで、会議室は静まり返った。
「私の精気をやると言うことでこの場に呼んだと言えば、納得していただけますか」
 今度は皇帝は大声で笑い出した。これほど信用のおける答えはなかったから。
「なるほど、お前もあいつの餌になったと言うことか。もっともあいつに取り殺されるなら本望かもしれんな」
「よろしいのですか、そのようなことを口にして、彼女が本気になれば我々の命など。私は命だけは勘弁してくれと断りましたが」
「それで彼女が納得したか?」
「まだ私は、生かしておく価値があるそうです」
「ほー」と、皇帝は興味津々な顔をする。
「陛下、お話し中、申し訳ありませんが、何方のことをお話になられておられるのでしょうか」と、委員の一人が恐る恐る尋ねる。
 だが皇帝はその問いを無視した。所詮、どう言おうと会ってみないことには説明のしようのない化け物なのだから。
「何処にいる?」
 何の話か解らない審議委員の者たちは、あたりをきょろきょろし始めた。この部屋に化け物が居る?
「彼女を三次元に降臨させるには、憑代が必要です」
「憑代?」
「ナオミ夫人はもうこの王宮にはおられませんから、代わりの女人を。彼女はナオミ夫人のような心の澄んだ生娘がお好きなようです」
「ほー、それは知らなかった。女人なら誰でもよいのかと思っていた」
 現にあの後、娼婦に憑依してヨウカは幾度なく皇帝の寝室に通って来た。
「誰でもよいはずなかろう。お前だって美味いものしか食わんじゃろーが。わらわだって不味い気の持ち主になど憑りつく気にもならんわ」と、突然話し出したのは護衛として控えていた女兵士だった。
 ネルガル人には珍しく、慎み深くお淑やかなイメージで通っていた彼女の変貌ぶりに、同僚たちは驚いた。だが何時までも驚いている訳にもいかない、ここは御前である。陛下にもしものことがあってはと、同僚が慌てて彼女を会議室から出そうと取り押えたが、その女兵士は物凄い力で同僚をことごとく壁や柱に叩き付けてしまった。そして、
「汚らわしい、わらわに触れるでない」と叫ぶ。
「なんじゃ、この服は。発育盛りの肉体、こんなに縛り付けられていては息苦しくてたまらん」と、軍服の上着を脱ぎ捨ててしまった。
 ブラウスの胸のボタンは、その膨らみで今にもはじけそうである。白くなまめかしく伸びたうなじからは例えようのない媚がただよい、男たちの鼻孔をくすぐる。
 思わず唾を飲みこむ男たち。
 彼女、あんなに胸が大きかったっけっかと思う同僚。だがそれより彼女をこの場から連れ出すのが先決。
「マーゴリス少尉」と口々に、今度は数人の同僚が一斉に彼女を抑え込もうとしたが、またもや事ごとく投げ飛ばされてしまった。
 女性の力、否、人間の力ではない。
「なんじゃ、こいつらは、真昼間から。そんなに相手をしてもらいたいのならしてやらんこともないが」と、ヨウカは舌なめずりしながら体をくねらす。その反動で軍服のスカートの裾が艶めかしく揺れる。
 その妖艶さに委員たちの目は釘付けになった。我先にと飛び掛かりそうな勢いだ。
「止めろ!」と、制止したのは皇帝だった。
 陛下の制止で我に返った同僚の一人が、
「陛下、このものは狂っております」と、自分の欲望にかろうじて抵抗したのか荒い息で言う。
「ヨウカ、久しぶりだな」と、マーゴリス少尉に声を掛けたのは皇帝。
「ほー、わらわがヨウカだと、よく解ったの」
「そりゃ、ここで古代ネルガル語を使うのはお前だけだからな」と言ったのはケリン。
 あまりの味気のない分析にヨウカはむっとした顔をケリンに向けると、
「お前のそういう所が可愛くないのじゃ、いい女じゃから、とでも言えば少しは可愛げがあるものを」と、今度は先程の妖艶さは姿を消し幼げに脹れて見せる。
「エルシア様みたいでてすか」と、ケリンは笑いながら問う。
 ヨウカのこんな仕種が、おそらくエルシアは気に入っているのではないかと思いつつ。
「あやつは、もっと可愛くないわ!」と、ますます頬を膨らますヨウカ。
 それがエルシアに対する愛情の現れであることぐらいケリンはよく知っていた。自分が生かされているのもルカ(エルシア)を守るのに必要な道具だから。
「随分、親しいのだな」と、二人、否、一人と一匹の会話を聞いていた皇帝が言う。
「うらやましいか。こいつとわらわは目的が同じじゃからのー、お前と違って」
 皇帝をお前呼ばわりするのを聞いて、審議委員たちは驚く。その中の一人が規律を守らせようとして、
「無礼だろう。陛下の御前だ、言葉を慎め」
「陛下? 陛下とは誰のことじゃ?」
「ふざけるな、マーゴリス少尉。陛下の御前だ」と、忠告する審議委員。
「わらわはマーゴリスなどという名前ではない。ヨウカだ」
 忠告した審議委員は黙り込む。
「ヨウカと呼べばよいのですか。陛下とはこちらの方だ」と、別の審議委員が手で指し示す。
「なんじゃ、お前の名前はヘイカと言うのか」
「違う、陛下とは」と、審議委員が説明しようとしたが、いざとなるとなかなか適した言葉が出て来ない。
「名前ではない、あだ名だ。力があるという意味だ」と、ケリン。
「力がある?」と言いつつ、ヨウカは皇帝陛下をまじまじと見る。
「どう見ても、そんなに力があるようには見えんがのー?」
 ケリンは軽く笑うと、
「それは力の意味があなたの世界と私たちの世界とでは違うからだ。あなたの言う力とはずばり生命力。それに対して私たちの言う力とは権力のことだ。もっとも生命力がなければ権力がいくらあっても何の役にもたたないがな。竜の生命力に比べれば私たちの生命力など蠅ほどにも及ばないのだろうが」
「蠅どころか、バクテリア以下じゃ」
「そうですか」と、ケリンは納得する。
「吸っても吸っても減らないからのー、あやつは化け物じゃ」
 ヨウカに化け物と言われた時のルカの顔を想像したケリンは、笑いが堪えきれず吹き出してしまった。おそらくルカはヨウカにだけは化け物と言われたくないはずだ。
「何が、おかしいのじゃ」
「ルカが、否、エルシア様が、今のヨウカさんの言葉を聞いたらどんな顔をするかと思ったら、ついおかしくなって」
「どんな顔をするのじゃ?」
「少なくともルカは、あなたのことを化け物だと言ってはばかりませんから」
 ヨウカは武者震いのように身をふるわせると、
「まったくけしからん奴じゃ。今度会ったらただじゃおかぬわ。しかし未だに記憶が戻らんところをみると、ネルガルに長居し過ぎたのじゃ。早くイシュタルへ戻れと言うておるのに、意固地な奴じゃ。何時までもぐずぐずしておると、ここに居るネルガル人のように過去の記憶が取り戻せなくなるぞ」と、ヨウカは心配する。
 ヨウカの心配をよそに、ケリンは問う。
「どうして彼はイシュタルへ戻らないのですか?」
 幾度となく繰り返した問いだ。たが今回も、このことに関してはヨウカは黙秘を貫くようだ。それでケリンは鎌をかけて見た。
「アヅマやシャーがいるからですか?」
「アホなことをぬかすな。あんなチンケな奴ら、あいつの対象ではない。現に今回ですら、どうしてアヅマがお前らを助けたと思っちょる?」
 そこがケリンも知りたいところだった。ヨウカは天邪鬼。こちらから質問してもなかなか答えない。それを向こうから話してくれるなら好都合。エルシアがイシュタルへ戻らない訳は一先ずおいといて、こちらを先に訊きだすか。教えを乞う振りをして聞き出せば。
「竜の気が動こうとしていたからじゃ」
「竜の気?」
「そうじゃ。空間が歪みだしていたのをお前は気付かなんだったか。膨大なエネルギーが動き出す前兆じゃ。それに接触でもしたら一溜りもないからのー」
「空間の歪み?」
「そうじゃ。あれに気付かないとは相当なアホじゃ」
 ヨウカにどんなにアホ呼ばわりされようと、進化の中で一度失くしてしまったものを取り戻すのは至難の業だ。
「全ての事象は、三次元で形を成す前に、その兆候が四次元で現れるのじゃ。そのぐらい子供でも知っちょることだ。そして生物はそれを予感として察知することができる、赤ん坊や子供でもな。なぜなら、魂は四次元とつながっちょるからのー」
「ヨウカさん。その子供でもできることが、ネルガル人はできないのです」と、ケリンは教えを乞うように言う。
「お前らの教育が悪いのじゃ。生後間もないお前らの子供らはできる。それを否定するような教育をしておるから」と、ヨウカはやれやれと言うような感じに溜息をついた。そして無知の者に教えるかのように、どうしてアヅマがカロルを助けたか。
「あの時、カロルの並々ならぬ不安を察知した白竜は、カロルを助けようと力を発動しようとしていたのじゃ。たまたまその近くをアヅマも航宙していた。このままでは竜の気に巻き込まれると悟ったアヅマは、カロルの救出に動いたのじゃ。あのエネルギーに触れるようなことになればアヅマだって一溜りもないからのー。カロルの不安さえ消えれば、カロルの感情は四次元を通して竜に直結しておるからのー。カロルが安心すれば竜が力を発動することもなくなる。言うてみればアヅマは自分たちの身を守るためにお前らを助けたのじゃ。だから何もアヅマに恩を感じることはない。そうしなければ自分たちも無傷ではいられなかったからのー。竜の目的はカロルだけ、それ以外の物は見えないのじゃ。だからそこにどんなものがあろうと、カロル以外の物は一瞬にして消滅してしまう。原子、否、下手をすれば粒子の段階まで分解されてしまう。竜とはそのような力を持っておるのじゃ」
「つまり、私たちも助からなかったと」
「当然じゃろ、竜にはお前らは見えんからのー。じゃが、お前だけは助かるよ、わらわが命乞いしてやるからのー。貴重な餌を、そう簡単に分解されてはたまらんからのー」
 ケリンは苦笑しながらも、
「感謝すべきところですか」と、ヨウカに問う。
「当然じゃろー、助けてやるのじゃから」
 何の悪気もなくヨウカは答えた。
 今までの会話、ボイ人との接触により予備知識のあったケリンやレイには理解できたが、ネルガルの科学こそが万能だと思っている審議委員たちにとっては、何のことなのかさっぱりわからない。まして古代ネルガル語など使われては。
「ケリン・ゲリジオ、マーゴリス少尉は何を言っているのだ?」と、審議委員の一人が問う。
「マーゴリス少尉ではない。ヨウカ様だ。あまり無礼な態度をとると、その場で生気を吸い取られますよ」
「ヨウカ様?」
 誰もが疑問に思う。どこからどう見てもマーゴリス少尉である。ただ今の彼女は大胆すぎる。ボタンが弾きとんでしまったシャツブラウスからは胸の谷間が垣間見えるし、テーブルの上に片膝を立てて座っているせいでタイトスカートの軍服ではショーツが丸見えである。きれいにまとめ上げられていた髪はいつの間にかにほどかれ、それをかきあげる仕種はどう見ても男を誘っているとしか思えない。審議委員たちは目のやり場に困りながらも、彼女、こんなに色っぽかったかと問えば、疑問が残る。確かに性格は別人。
 ヨウカはテーブルの上でドンと胡坐をかくと、ぐるりと審議委員たちの顔をねめつけ、
「しかし、ネルガル人とはつくづく面白い生き物じゃのー」と言い出した。
「自由だの平等だのと言っているわりには相手の自由や平等は認めないのじゃきに、自然界は生くとし生ける物には自由と平等を与えているのにのー」
「それは、どういう意味ですか」と、ケリンは低調に問う。
 出来るだけヨウカに喋らせ、エルシアに関する情報を引き出したいがため。
「自然界は動物も植物もその体型で差別することはない。像が鼻が長いからと言って周りの動物から殺されることもないし、キリンが首が長いからと言って殺されることもない。彼らが相手を殺すのは、糧を得る時のみじゃ。腹さえくちければ例え獅子の鼻先で兎が遊んでいようと殺されることはない。なのに、お前らはどうじゃ。体型が同じだと言うのに、肌の色が違うから髪の色が違うからと言って殺し合う。挙句には、鏡に映したように同じ相手でも、宗教が違う、思想が違うと言っては殺し合う。つまりそれって、自分の自由や平等は主張しても、相手の自由や平等は認めないということじゃろ。思想の違いとは自由そのものじゃろーが。そういう矛盾したことを平気で出来るのだから面白い生き物じゃ、ネルガル人とは」
 どんな政治体制であろうとその星の八割の者が満足しているのならば、それはそれでよしと認めるべきじゃ。その星の者たちのためにも余計なちょっかいは出さぬべきなのじゃ。と、ヨウカは思っている。
「イシュタル人は違うのですか」と、問うケリン。
「奴らは、自由だの平等だのと言わんからのー。そもそもそんな言葉、知らんのじゃろう。自由も平等も生まれながらにあるものだからのー。いちいち意識することもないのじゃ。もっとも不自由も不平等も生まれながらにある。どんなに空を飛びたくとも鳥に生まれないからには自由には飛べんし、いくら太陽は平等だと言っても、緑豊かな大地に生まれた者と砂漠に生まれた者では違うじゃろう。だが奴らは腹さえくちければよいのじゃ。大概の生物はそうじゃろ。お前らだけじゃ、変わったことを口走って殺し合っておるのは」
 ヨウカは馬鹿馬鹿しいとばかりに大きな欠伸をすると、
「ケリン、腹減った」
 どうやらヨウカはここで話を打ち切ろうとしているようだ。だが肝心なことをまだ話してもらっていない。
「まだです、ヨウカさん。肝心なことを話してもらっていませんから」
「肝心なことじゃと?」
「アヅマと対峙した時、カロル大佐が我々にどのような命令を発したか」
「ああ、そのことじゃたな。俺はアヅマの要塞を見物して来るからお前らはネルガルへ戻れと言ったのじゃなかったかのー」
 ケリンは審議委員たちの顔を見ると、
「そう言うことです」と言う。
「じゃ、これでわらわの約束は終わった。次はお前が約束を守る番じゃ」
 ヨウカは宙を飛ぶようにしてケリンの首に抱きついた。
「その前に一つ聞いてもいいですか」と、声を掛けたのはレイだった。
「なんじゃ」と、ヨウカはケリンに抱きついたままうるさげにレイを睨み付ける。
「カロル大佐はネルガルへ戻れるのですか」
「そりゃ、見物してくると言うのだから戻って来るつもりなのじゃろ。何処かの馬鹿のように見物ついでに居座る気はなかろう」
 馬鹿と言うのが誰を指しているかはケリンやレイは気づいていた。どうして彼がネルガルに居座り続けているのか疑問ではあるが、ここはまずカロルの件を片付けなければ。
「カロル大佐に戻る意志があってもアヅマの方が」
 ヨウカはレイを睨め付けると、
「お前、わらわの話しを聞いておらなかったのか、アヅマはカロルに何もできんのじゃ。奴がネルガルに帰りたいと言えば黙って帰すわ」
「ではジェラルド様たちは?」
 これがレイが一番訊きたかったことである。
「カロルが一緒に連れ帰りたいと言うば、そうするしかアヅマには出来なかろう。誰も竜と喧嘩したいと思う奴はおらぬわ。どうやったって勝ち目はないからのー」
「つまり、全員無事に戻って来ると言うことですか」
「お前もしつこい奴じゃのー。当然じゃろー、竜と喧嘩したくなければカロルの言うなりにするしかなかろう。そもそも奴らがカロル以外の者を連れて行ったのは、カロルをおとなしくさせておくためじゃ」
「どうして奴らはカロルを連れて行ったのです?」と、今度問いただしたのはケリンだった。
 ネルガル人的思考から言えば、カロルよりジェラルドの方がはるかに拉致する価値がある。
 ヨウカはケリンの首にぶら下がりながら、
「竜はイシュタル人の憧れなのじゃ。それに滅多に会うことができん。そこに竜の恋人が現れたら、話をしてみたくなるのは当然じゃろー。お前らだって憧れのタレントの付き人でも現れたら、話がしたくなるじゃろー。どうすればそのタレントに会えるのかと。それと同じじゃ。どうすれば竜に好かれるのかと。なんじゃないかんじゃない言ったところで、奴らは竜に好かれたいのじゃ」
 ヨウカは髪をかきあげると、ぐっと胸をケリンに押し付けて来た。
「もういいじゃろ」と、あまだるいささやき。
 ケリンが手錠を掛けられているのをいいことに、ヨウカはケリンの頭を抱え込むと唇を奪う。濃厚な接吻にケリンが抗う。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
「なんじゃ」と、ヨウカは不機嫌に問う。
「その肉体では困る」
「なんじゃ、この女はお前の趣味ではないのか?」
「できれば処女でない方がいい、後腐れがないからな。それにここでは」
「うるさい男じゃの。まさか約束を違える気じゃなかろうな」
「そんなことしたら命まで取るだろう」
「そりゃ、そうじゃ。わかっておるならよい」
「準備ができたら呼ぶ」
 ヨウカはお預けを食ったようでやりきれない様子だったが、
「長くは待たんぞ」と言い残すと、マーゴリス少尉の体から抜け出した。
 それと同時に彼女の体がケリンに重くのしかかって来る。ケリンは慌てて手錠のかかった腕で彼女の体を支えた。
 彼女は意識が戻るなり悲鳴をあげた。見ればブラウスのボタンははずれスカートのファスナーは下ろされていた。靴に至ってはどこにあるのか。そして男の腕。マーゴリス少尉は思いっきりケリンの頬をはった。大きな音が会議室に響き渡る。ケリンは豆鉄砲を食らった鳩のようにキョトンとし彼女を支えていた手を放した。
「なっ、何だよ、自分でやっておいて」 叩くことはなかろうと彼女に言う。
 だが彼女はそんなこと聞いてはいない。ケリンの手から解放されたと知るや、脱兎のごとく会議室を出て行った。
 ケリンはやれやれと言う顔をする。
 何で誤解を招くような状態で彼女の体から抜け出した。と問いただしても、ヨウカがこの部屋に居るのかどうかもわからない。
 結局審議委員たちは皇帝がヨウカの存在を認める以上、ヨウカの言葉を審議するはめになってしまった、信じられないことだが。それよりマーゴリス少尉を精神鑑定した方がはるかに有意義ではないかと思いながらも。

 牢に戻されたケリンを待っていた者は、この刑務所で地獄の使者と異名を持つほど拷問の大好きなベトラ大尉だった。美しい顔を持ちながら性欲に満ちたその残虐性は男以上である。
 囚人番号で呼び出されたケリンは、両サイドを屈強な男に挟まれ連れて来られたのは拷問室だった。その台の上に上半身裸体にしたケリンの体を固定すると男たちは出て行った。代わりに入って来たのは鞭を握ったベトラ大尉。こちらも軍服をバシッと決めていたがマーゴリス少尉とは処女と熟女、小鳥と大蛇ほどの違いがありありとしていた。ベトラ大尉はツカツカと歩み寄ると鞭をケリンの胸の上で遊ばせる。まるでどう料理しようかと決めかねているようだ。
「俺は、知っていることを全て話したが」 拷問を受ける結われはない。
「ええ、知っているわ。もうあなたから聞き出すことは何もないわ。これからのことは私の個人的な趣味」
 こう言われては対処のしようがない。監視官の嗜好でどれだけの囚人が痛い目に会わされていることやら。否、命を落とした者すらいる。
 ところがベトラ大尉は鞭を振るうどころか自分の服を抜き出してしまった。髪を振り乱しケリンの上に馬乗りになる。
「どうじゃ、この嗜好は。これならお前もむらむらとくるじゃろう」
「よっ、ヨウカ!」
 驚くケリンの唇をヨウカは自分の唇で塞いだ。息もつけないような激しさ。何時しかケリンの体を固定していたベルトは外れていた。ヨウカによって落とされていく自分がわかる。意識が遠のく中、取り殺されてもいいと言った皇帝の言葉が解らなくもないと感じていた。どの位時間が経ったのだろう、倦怠感のなか目を覚ますと、隣にベトラ大尉の裸体があった。
「やっと目覚めたか、口ほどにもない奴じゃのー、直ぐに落ちよって」
 舌なめずりしながら嬉しそうにヨウカは言う。ヨウカは寝入るケリンをじっと見ていたようだ。
「ここは?」 拷問室ではないようだ。
「独房じゃ」
「独房? どうやって?」
「テレポートじゃ」
 ああ、そうか、ヨウカもテレポートが使えるのか。二人は独房の床の上に転がっていたのである。これがハルガンだったら同じ独房でもふわふわのベッド付きだろうと想像した時。
「あやつなら元気じゃ」
「あやつって?」と、一瞬ケリンは疑問を抱いたが、そうだった、ヨウカは四次元を通して俺の思考が読めるのだと気づき、
「お前ハルガンに会ったのか」
 何処で? と問いただしたかったのだが、ハルガンがネルガルへ戻って来たという話しは聞いていない。まさか、ダモアゾー星系まで行って?
「ああそうじゃ、時折、あいつの気も馳走になっちょる」
 ダモアゾー星系まで行くだけでかなりのエネルギーを使うだろうと思うのだが、
「テレポートなら一秒とかからん。距離があると思うのは三次元のみじゃ。四次元では距離は関係ないわ」
 そうか。とケリンは納得するしかない。その感覚がいまいち、実感できない。
「ところで、それなら砂の星へも行っているのだろう」
「砂の星?」
「ルカの所だ」
「ルカ? ああ、エルシアのことか。行くはずなかろう」
「どうして?」
「もう、あやつを守る必要はなくなった。白竜様が傍におられるのじゃからのー。もうあやつは死ぬことはない」
「なるほど、それで自由の身になってわざわざダモアゾー星系まで遊びに行ったということか」
 ヨウカはケリンの胸にベトラの豊艶な胸を押し付け、ケリンの短い髪を指に絡ませながら、
「お前はアホか。わざわざ行く距離ではないのじゃ。わらわにとっては何処へ行くのも壁をすり抜けて隣の部屋へ行くのと同じなのじゃ。テレポートとはそう言うものじゃ」
「アホと言われても、俺はテレポートが出来ないから、そう言うものなのかと想像するしかない」
「まったく不便な奴らじゃ。くだらない機械はいろいろ発明しても元来自分の体に備わっている能力は磨こうとはしないのじゃからのー」
 そう言うとヨウカはケリンの唇に接吻した。そのまま下へ下へと舐めていく。そして股間にしゃぶりついた。
「ヨッ、ヨウカ、よせ。もうこれ以上吸われたら俺」
「心配するな、もう吸わん。次は皇帝の所へ行くのじゃ」
「皇帝の所に?」
「ああ、あの女の肉体で来いと。皇帝はあの女とわらわが所望らしい」
「ヨウカ、マーゴリス少尉には手を出すな。彼女はネルガル人には珍しいほど純粋な人だ」
「なんじゃ、やっぱりお前も彼女が好きだったのではないか。わらわはあの時、自分の目を一瞬疑ってしもうたわ。あの女ならお前も承諾すると思ってたからのー」
「だから彼女を傷つけたくなかった」
「心配いらぬわ。皇帝の子供でも孕めば傷など付かぬわ」
「そんなことにでもなったら」と、マーゴリスを心配するケリン。
「お前は女を知らぬな。女は強い男の子供を孕むのが一番幸せなのじゃ」
「それは、お前の考えだろう」
「否、これは三次元の雌の持つ本能じゃ。お前らは三次元の動物の姿は自然の淘汰だと思っちょるようだが、実際は雌が作っちょるのじゃ。チーターが足が速いのも、兎が高く飛ぶのも、ライオンが強いのも、そして人間の大脳が発達しているのも、全て雌がそう望むから雄はそうなるのじゃ。何故、雌がそう望むのか、それはその方が我が子が生きられる確率が高いと思うからじゃ。よってその娘も自分で意識していないところで我が子の父親は権力のある者を望んでいるのじゃ。だから皇帝が相手なら一時は苦しんでも、子供を育てられる環境が整っていれば本能がその苦しみを打ち消す。そう言うものじゃ」
 ヨウカはまたしてもケリンの股間にかぶりついた。
「よっ、ヨウカ、よせ」
「まだ、いけそうじゃのー。この女はこういうのが好きなのじゃ。少し相手してやれ」
 そう言うとベトラの動きが変わった。どうやらヨウカが抜けたようだ。





 数日後、アヅマから軍部へ通信が入った。極限られた者しか入れない会議室に数名の軍の上層部が集まって来た。
「ジェラルド王子を返すから迎えに来いだと、罠に決まっている。のこのこ迎えに行ったところを一網打尽だ」と、将軍の一人。
 今回のこの会合、クリンベルク将軍は出席していなかった。我が子が質に取られている以上、冷静な判断が出来ないとのことで。
「位置は何処を指定してきたのですか」と、問う幕僚の一人。
 指定された位置とその空域の様子が卓上のディスプレイに映し出される。
「周りに何もありませんね。これでは狙われたら」
「だが、それを言うなら相手も同じ条件だ。奴らよりより多くの宇宙艦船で奴らを包囲すれば」
 それこそ一網打尽である。
「しかしそれては、ジェラルド様のお命も」
「この星には王子は幾らでもいるのだ。そう言えば先日、また一人生まれたと言うではないか」
「そうだ、王子一人の命より、アヅマを叩く方が先決だ。この機会をのがしたら」
「クリンベルク将軍のご子息は?」
 この問いには誰しもが一時黙り込んだが、
「クリンベルク将軍は軍人だ。このぐらいのことは理解できるだろう」
 結局これが、軍上層部の結論になった。それで、誰が王子を受け取りに行くかと言うことになる。言うなれば彼らは捨石である。
「宇宙艦隊のなかで、一番使えない艦隊がよいのではありませんか。いなくなっても支障ないような」
 誰もが一斉に同じ艦隊を頭に描いた。
「第14宇宙艦隊」と、誰かがつぶやく。
 それに出席者全員が頷いた。
「どうせ役に立たない奴らだ。最後ぐらいネルガルのために死ねば。名誉勲章の一つなり、階級の二つなり、やろうではないか」
「それでは包囲網の方は?」
 これにはこの会議室に居る全将軍が名乗り出た。これほど名声をあげられる戦いも少ない。なにしろネルガル人を震撼させた宇宙海賊の片割れを、完膚なきまでに退治できるのだから。





 それから数日後、一惑星でも攻略するのではないかと思われるほどの艦隊がネルガル星を発った。それを自室で見送るクリンベルク将軍。今回の作戦からクリンベルク将軍ははずされていた。無論、その作戦内容も知らされていなかったが、さる筋から完全な内容を受け取っていた。
 将軍は忌々しげにその作戦書を床に叩き付ける。
「父さん」と、心配する長男のマーヒル。
 こんな父親の姿を見るのは初めてだった。どんなことに対しても非情なほどに冷静沈着な人なのに。カロルの命がかかっているからだろうか、これが私だったらここまで父の心を乱しただろうか。否、それだけではないような気もする。
 この部屋にレイも呼ばれていたが、将軍に掛ける言葉を持っていなかった。唯一、レイに同行して来たケリンだけが、
「カロル坊ちゃんなら、心配いりませんよ」と言った。
 何を根拠にそんないい加減なことが言えるのだといわんがごとくに、三人に睨まれたケリンはヨウカが話したことを伝える。
「ヨウカの言うことには」
「ヨウカ?」と、クリンベルク将軍は訊き返す。
「四次元生物とか言う化け物のことですか」と、マーヒル。
 先日の軍法会議の報告から得た知識である。
「今回は女兵士に憑依して、まるで人が変わったようになったとか。カロルはよく白い蛇だと言っておりましたが」
「その実体は私にも解らない。意志を持ったエネルギーとでも言えばよいのか」と、ケリンはケリンなりに彼女を分析した結果を述べる、自信はないが。
「彼女の正体は別として、だが現実に彼女は存在する。現に私に今回の件で話しかけて来た。彼女の話によれば、ルカ王子からいただいた剣を持っている限り、カロル坊ちゃんが死ぬようなことはないそうです」
「死ぬようなことがないと言っても、あれだけの艦隊に包囲されたら」
「むしろ彼女が心配しているのは包囲している艦隊の方です。おそらく全滅だろうと」
「はっ、馬鹿な! どうやって?」
 マーヒルも宇宙艦隊を率いて幾度となく出動している。有利な状況と不利な状況ぐらいすぐに見分けられる。否、今回は艦隊戦などしたこともない者でも一目瞭然だろう。それをどうやって?
 だがレイには心当たりがあった。我々の艦隊でクーデターがあった時、アヅマが恐れていたのは敵味方になって争っている我々ではなく白竜だった。我々の争いを止めない限り、あの空域にいる宇宙船は全て消滅すると。
「白竜は心に思っただけでそれが現実になってしまうそうです。カロル坊ちゃんに害をなす艦隊は全て消えろと思うだけで、カロル坊ちゃんを包囲した艦隊は全て宇宙の藻屑になってしまうそうです。もっとも白竜様にはカロル坊ちゃんしか見えないので第14艦隊も保障できないと。正確に言えばカロル坊ちゃんも見えないそうです。ただ件の剣を持っているから」
「それではその剣を別の人物が持っていたらどうなるのですか」と、マーヒル。
「その剣はカロル坊ちゃんしか持てないそうですよ」
「それはおかしい。私はかしてもらったことがあります」
 マーヒルはあの時の感覚を思いだしていた。一振りしたときの鋭さ。あの剣はまさに、飾りというよりもは実戦用。
「それは魂の抜けた剣です」
「魂?」
「イシュタル人は物質にも魂があると思っているようです。魂と言うよりエネルギーと言った方が解りやすいですか。その物質をその物質たらしめている。つまりその剣のエネルギーはカロル坊ちゃんから離れることはないそうです。私たちが掴んでいるような気になっているのはエネルギーの抜けた剣、言うなれば剣の残像とでも言うのか」
 ここら辺になって来るとケリンもよく理解していないようだ。
「つまり、どんな状況になってもあの剣が我が息子を守ってくれると言うのか」
 クリンベルク将軍にしてみれば剣の魂などどうでもよかった。要はカロルの命だ。
「そう言うことになります。あの剣はどんなことがあってもカロル坊ちゃんを守る。ヨウカが心配しているのはカロル坊ちゃんを守ろうとしてネルガル艦隊を全滅させてしまった後の事のようです」
「と、言いますと」と、先を促すレイ。
「エルシア、つまりルカ王子は白竜にカロル坊ちゃんを守るように頼んでおきながら、白竜がカロル坊ちゃんを守るためにネルガル艦隊を全滅させれば、そこでまた喧嘩になってしまうということです。お二人の喧嘩をヨウカは何より嫌っているようで。しかし、どうして喧嘩になるのですかねー」と、ケリンは首を傾げた。
「白竜はエルシアの願いを聞き届けたのに」
「おそらくカロル坊ちゃん一人を助けるのに余りにも多くの犠牲を出すことになるからではありませんか」
「しかしそれを言うなら、包囲している連中だってカロル坊ちゃんたちを犠牲にしてアヅマを退治しようとしているのだから、どんでん返しを食っても何の文句もないと思うが」
「あなたはいいですね、物事が何でもきれいに割り切れて」
「レイ閣下殿、褒めていただいたと受け取りましょう。なにしろコンピューターばかり相手にしていると、答えはイエスかノーだけになりますから」
「本当に弟は無事に」
「ヨウカは嘘だけはつきませんから」
「それでは彼らに知らせてやらないと。全滅するとわかっていて」と、マーヒル。
 マーヒルらしい優しさである。
「知らせると言っても、誰がこんな話、信じるのだ、兄さん」と言い出したのは、今までソファに腕を組んでじっと座っていた二男のテニールだった。
「親父が倅の命欲しさに、妄想でも語っているとしか思われない」
「確かに」と、言ったのは言い出しの張本人ケリンだった。
 過去の経験からこの手の話を信じてもらったことがない。否、自分だってヨウカに会うまでは信じなかった。どんなにルカの侍従武官カスパロフ大佐から話を聞かされても。
「ヨウカに会ったことのない奴は、信じないさ。あなた方だってそうだろう」と、ケリンはマーヒルとテニールを指し示して言う。この二人、否、クリンベルク将軍を含めて、ここまでの話をどれだけ本気で聞いているのか、疑問だ。
「確かに、そうあってくれればよいと思うが。やはり何十万人のネルガル人の命よりあんな破天荒な弟でも、弟の命の方が大切だ」と答えたのはテニール。
 二男は昔からきれいごとは口にしない。
「だがこれは、ヨウカにすれば最悪のシナリオらしい」
「では、まだカロルを助ける別な方法があると」と、期待したように問いただすマーヒル。
「白竜がカロル坊ちゃん以外の人は見えないことはアヅマも知っている。だから船でカロル坊ちゃんたちを送り届けるような危険なことはしないだろうと。ネルガル艦隊が包囲していることは知っているし、ネルガル艦隊の砲撃に会う前に白竜によって消滅させられてしまうこともそしてその余波が自分たちの船にも。よってカロル坊ちゃんたちだけを艦船の中に移送、つまりテレポートするのではないかと」
「つまり、彼らがあの空域に姿を現すことはないと」と言うマーヒルの言葉に、ケリンは頷く。
「それは理想的な解決策だな」
「そうあってくれと願うしかありませんね」と、レイ。
 いきなり女性のヒールの音が部屋に響いた。部屋から駈け出していく。先程まで部屋の片隅で兄たちの話しをじっと聞いていたのである。いよいよ堪えきれずに部屋を出て行った。
「シモン」と、追いかけようとするマーヒルを将軍は留めると、妻に後を追うように目配せする。
 さすがは常勝将軍と言われているクリンベルク将軍の妻、いつかこのようなことが起きると覚悟をしていたようだが、娘のシモンにはまだ厳しすぎる覚悟のようであった。しかも今回は夫と弟、一度に二人を失うかもしれないのである。
 シモンは自室に駆け込むとベッドに突っ伏した。涙が止まらない。母親がそっと近付き、彼女の肩を撫でる。
 シモンは涙だらけの顔を母親に向け、薬指にはまっている指輪を見せた。
「これも、その白竜とか言う人とつながっているのよ」
 えっ! と驚く母親。
 それはジェラルド王子からもらった婚約指輪のはず。
「ルカ王子が私の身を案じで、何かまじないのようなことをしたら、ほら」と、言って指からはずして指輪の内側を母親に見せた。
 そこにはジェラルドとシモンのイニシャル以外に、カロルの剣に彫り込んであるのと同じ紋章が彫り込まれてあった。
「もし、ケリンさんの言うことが本当なら」
 シモンはぐっと指輪を握り込むと床の上に膝で立ちベッドの上に両肘を付き、祈りを捧げた。
「お願い白竜さん。どうか夫とカロル、仲間たちを、私の元へ無事に帰してください。私は彼らの無事以外のことは何も望みません。お願いです、彼らを私の元へ」





 その頃、アヅマから指定された空域では、第14宇宙艦隊を先鋒に展開が始まっていた。無論第14宇宙艦隊には何の話もない。ただネルガル艦隊を代表してジェラルド王子様の身柄を引き受けに行ってもらいたいと言うだけで。
「どうして俺たちのようなならず者にこんな大任が?」と疑問を抱いたのは、幕僚のダニールだけではなかった。脳みそまで筋肉で出来ていない者たちは、少なからず疑問を抱いた。もっと適任者はいくらでもいるだろうにと。
「何か、おかしくないか」と、口々に言う仲間たち。
 ジェラルド様を救出した後、一斉砲撃だと言うが、一歩間違えば。まあ、そんなことはないか、こっちには皇位継承権第一位の王子が居るのだから、と自分たちを納得させてみたものの。
「そりゃ、俺たちが一番ルカ王子と仲が良かったからな」と、名誉がありすぎる任務を与えられ何の疑問も抱かない艦隊司令官のバルガス。
 普段なら野性的本能が身の危険を知らせるはずのバルガスも、今回ばかりは名誉という言葉に本能も酔ってしまったようだ。
「それがどうしてジェラルド様を迎えに行くことになるのですか」と、正常心のダニール、食い下がらずにはいられない。
「そりゃ、ルカ王子とジェラルド王子は仲が良かったからに決まっているだろう」
 全然、納得のいく解答ではない。
「そりゃ、ルカ王子とジェラルド王子は仲良かったかもしれませんよ、だが、ジェラルド王子と我々は別に何の関係も」
「ダニール、俗に言うではないか、友達の友達は友達だと」
 ダニールは頭を抱えてしまった。これ以上の問答は時間の浪費。そう悟ったダニールは、バルカスに内緒で背後に警戒するように指示を出した。
「つまり、味方が撃って来ると」と、幕僚の一人。
 ダニールは声が大きいと忠告する。
 幕僚は声を落とし、
「最悪、そうなったらどうするつもりですか?」
「強行突破か」
 ダニールがふざけて言っていることはわかっていたが。
「不可能ですよ、この数の差では」
「では、奥の手だな」
「奥の手?」
 ダニールは今度は真剣な顔で頷くと、
「ジェラルド王子と共に、アヅマに亡命する。これだけの艦隊を引き連れて行けば、アヅマだって喜ぶだろう」
「そこ、何、こそこそ話をしているのだ。出撃するぞ」と、バルガス。
 前方に突出したような陣形で第14宇宙艦隊は、アヅマから指定された空域で待機した。


「そろそろ約束の時間ですね、レーダーに艦影が映ってもよさそうなものですが」と、ダニール。
 だが敵の艦影はどこにも見当たらない。それどころかレーダーにも何の反応もなかった。
「本当にここでいいのか、場所、間違ったのでは」とバルガス。
 そもそも第14宇宙艦隊は今回の出陣に対しては何の連絡も受けていなかった。それがいきなり、数日前に出陣の命令が下ったのだ、行く場所も教えられず。しかたなく皆の後を付いて来たようなしだいだ。そしていきなり陣頭に立たされ、名誉ある任務をまかされることになった。言うなれば、今回の作戦の全容を知っている者は第14宇宙艦隊には誰も居ない。
「総司令官に確認とってみたらどうです? 本当にこの空域であっているのか?」と、幕僚の一人。
「彼らも背後で控えているのだからここで間違いはないのでは」と、ダニール。
「アヅマの野郎、怖じ気付いたか。俺たちの畏怖堂々たる陣形を見て」と、バルガスは声高らかに笑う。こうでもしなければ精神を安定できないのだろう。司令官の悪い癖だ。
 確かに怖じ気付くだろう。今、我々に接近すれば我々共々蜂の巣だからな、ダニールは思った。アヅマも馬鹿ではない。手ぐすね引いて待っている所にのこのこ出て来るはずがない。いっその事このまま逃げてくれた方が我々の寿命も延びると言うものだ。
「時間です」と、言うオペレーターの声と、
「あの奴ら」と、言うバルガスの忌々しげな声とが重なった時、いきなり四人の姿が艦橋に出現した。
「ジェ、ジェラルド王子様」と、ダニールが叫ぶより早く、四人の姿は消えた。否、今度は四人ともう一人、バルガスの姿もなくなっていた。
「バルガス司令官」
 呼んでも返事はない。
 艦橋に居た者たちは周囲を探し始める。確かに四人が現れた。そして五人が消えた。
「どっ、どうなっているんだ?」と、騒ぎ出す艦橋。
「アヅマの艦隊は?」と、ダニールはレーダー主任に問う。
「レーダーには何の反応もありません」
「総司令官に連絡を」
「ダニール指揮官補佐、総司令官につながっております」と、オペレーターが通信を回して来た。
『どうした、バルガス司令官。アヅマは現れなかったようだな』
「それが」
 総司令官のモニターに現れたのは第14宇宙艦隊のバルガス司令官ではなかった。
『誰だ、お前は』
「申し遅れました。私はバルガス司令官の指揮補佐官、フレオ・ダニール・バチェロと申します。つい先ほどジェラルド王子と他三名の者が当艦橋に現れたかと思いきや、バルガス司令官を連れて何処かへ消えてしまいました」
『はっ?』と言うような反応。
 言っている本人が解らないのだから、聞いている本人は尚、解らないだろう。案の定、
『どういう意味だ?』と怒鳴るような返答が戻って来た。
「それが、丁度指定時間になった時、いきなり艦橋にジェラルド王子とカロル大佐、それにデルネール伯爵と二等兵でしょうか兵士が一人の計四人が現れたのですが、直ぐに消えてしまいました。それと同時にバルガス司令官の姿もなくなったのです」
 司令官を失った第14宇宙艦隊は大騒ぎになった。だがその騒ぎは他の宇宙艦隊にも伝染した。そもそもアヅマとの取引をしたがる兵士はいない。彼らは人間ではない、幽霊なのだから。死者となど取引したらあの世に連れて行かれるのが関の山だ。案の定、バルガス司令官はあの世に連れて行かれたのだ。既にジェラルド王子たちもこの世の者ではないのだろう。これが大方の兵士たちの考えだった。幽霊船である以上、レーダーなどに映るはずはないし、まして見えるはずもない。くわばらくわばら。兵士たちは早くこの空域を離れたがっている。撤退の命令さえあれば我先にという感じだ。





 ここはシモンの自室、夫たちの無事を必死で祈るシモンの姿があった。
「お願い、彼らを無事に私の元へ」
 涙が白い頬を伝わる。
 その時である、背後に人の気配。軍人の娘であるシモンは反射的にプラスターを構え振り返った。そしてそこに見たものは。
「あなた!」
 それ以上の言葉がでなかった。
 そこにはジェラルドを始めカロル、クラークス、エドリス、それに知らない軍人一人がいた。
「あっ、あなた、何時、お戻りになられたのですか」
 軍部からも宮内部からも何の知らせもなかった。ないはずである。彼らはまだ、アヅマの指定した空域にいるのだから。戻って来るには一ヶ月はかかるだろう。
「ここは?」と、辺りを見回しながら問うバルガス。
「あなたは、何方ですの?」と、問うシモン。
「姉貴、こいつは第14宇宙艦隊司令官のブルゴルネ・バルガス中佐だ」と、カロル。
「第14宇宙艦隊の司令官がとうしてここに?」
 それはこっちが知りたいと問いただしたかったバルガスだが、なんとなく場違いな所に来てしまったような気がして声にはだせなかった。
 シモンがバルガスにそう問いただした時である。
(間違っちゃった)と言う子供の声、否、思念。それはシモンの頭の中に直接イメージとして響いて来た。
 辺りを見回せば、窓の桟に足をぶらぶらさせて腰かけている子供の姿。
「あなたは?」と、問うシモンに。
(エルシアの匂いがしたから、間違って一緒に連れて来た)
「エルシアの匂い?」と言いつつ、シモンはバルガスを見る。
「エルシアと言えば、ルカ王子のことですよね」と、シモン。誰に尋ねるでもなく問う。
「どなたか、そこにおられるのですか?」と、クラークス。シモンの視線の先を見詰めても何も見えない。
「男の子が。間違って彼も連れて来てしまったと」
「エルシアの匂いがしたからってか」と、カロル。
「ええ」
「そりゃ、そうだろう。第14宇宙艦隊と言えばルカの子飼いの艦隊だからな、その司令官だものルカの匂いがしてもおかしくないだろう」
「では、この方が彼の有名なやくざ艦隊のボス。子羊が獰猛なオオカミの群れを連れて歩っていると言う」
 当然この子羊はルカ王子のことであり、オオカミの群れとは第14宇宙艦隊のことである。
 シモンにそう言われて何と答えてよいか解らなくなったバルガス。
 するとすかさずカロルは、
「こちらが彼の有名なクリンベルク将軍の鬼娘」と、バルガスに姉を紹介した。
 お互いに名前で名乗るより通り名で名乗った方が解りやすい。
「カッ、カロル!」と、怒るシモン。
 そのシモンの姿を見て、と言うより、その気配を感じとって安心したのか、
(シモンはめそめそしているよりカロルを怒鳴りつけている方がきれいだ)と笑って少年は消えた。
「どっ、どういう意味?」
「姉貴、奴に何か言われたのか?」
「べっ、別に、何も」
 こんなことカロルに言ったら、また何を言われるか解らないのでさり気なくぼかした。
「そうか、それならいいが。あいつ、たまにとんでもないこと言うからな」
 確かにと、心のうちで納得するシモン。
「カロル、あなたが何時もあの竜木の下であっていると言う少年は、彼なの?」
「さあ、それはわからない。だって俺、今の少年の姿、見ていないから。俺の前に現れる生意気なガキは、栗毛色の髪で」と、カロルが竜木の下の少年の姿を説明し始めると。
「違うわ、髪は青かった」
「青!」
「ええ、髪は青く色白で、どことなく幼いころのルカ王子に似ていたわ」
 そうか、やっぱりな。とカロルは自分で納得すると、
「あいつな、本当は姿がないんじゃないかな、ヨウカみたいに、幽霊だからな。だからこっちがイメージする姿で現れるんだよ。幽霊なんだからやっぱりと思った瞬間、本当に血だらけの姿で現れたんだぜ、あんときゃ、マジでビビったぜ。あいつ大笑いしてやがったけど、お前の要望に応えただけだと。でも、なんで青い髪で現れたんだ?」
「ほら、これ」と、シモンは握りしめていた指輪を見せる。
「白竜の紋章だと言うから。イシュタル人に言わせれば白竜は青い髪だそうね」
「それでか」
「そう。私、白竜様にあなたたちを無事に私の元へ帰してとお願いしていたの、そしたら」
 いきなり目の前に現れたと言うわけ。
「そう言えば、あまり突然だったもので、お礼も言わなかったわ」
 シモンは困った顔をした。
「どうしましょ、お母様。何のお返しもしなくて」
 しようにも居場所もわからない。
「あなたの願いが届いたのですから、お礼もそうすればよいのではありませんか。心を込めて言えば、その声は届くはずですよ」と、母。
 カロルたちの母は何があっても動じる人ではない。長年、戦場を駆け回る夫の安否を気遣いながら待ち続けた歳月が、彼女をそういう女にしてしまったのだろう。彼女も幾度となく神に祈りを捧げたことか。それがネルガルの神アパラ神でも、イシュタルの神白竜でも違いはないと思うようになっていた、願いを聞き届けてくれるなら。そうでも思わなければ戦場から戻ってくるはずの夫を、平常心で待ち続けてはいられない。
「そっ、そうよね」と、シモンは指輪を固く握りしめ、
「有難う、白竜様」と、心の中で呟く。
 反応があった。
(俺、白竜って名じゃないよ、アツチって言うんだ)
「そうなの」
(姉貴って呼んでいいかな。カロルがいつも楽しそうにあなたのことをそう呼ぶから)
「いいわよ」
(じゃ、姉貴)
「なあに」
(なんか、照れるな)
 シモンには少年がもじもじしている様子が感じ取れた。
(なっ、姉貴。カロルに言っといてくれないかな)
「何を?」
(今度、俺の姉貴を悲しませるようなことをしたら、ただじゃおかないからって)
 シモンはくすっと笑うと、
「ええ、いいわ、伝えておくわ」と言うシモンの顔はとても優しい顔をしていた。
 シモンは自分の言葉を最後に、少年がこの部屋から完全に去ったことを感じ取る。
(本当に、ありがとう)とシモンはもう一度心の中で呟く。
 シモンの俯いた横顔の美しさにカロルは驚く。姉貴って、こんなに美しかったっけっかと。そして気になった、あいつが何を言い残して行ったのか。
「また、何言われたんだ?」と問うカロルに。
「俺の姉貴を泣かせるようなことをしたらただじゃおかないって」
「俺の姉貴?」と、カロルは怪訝な顔をする。あいつに姉貴がいたのか?
「私のことよ」
「姉貴って、姉貴のこと」と、カロルは驚く。
「そうよ」と言ったシモンの顔はいつもの姉の顔だった。
「どうして姉貴が奴の姉貴になるんだ?」
「姉弟の契りを交わしたの」
「奴と?」
「そうよ」
「止め方がいい」と、カロルは瞬時にそれも大袈裟に手を振った。
「どうして。少なくともあなたより頼もしいわ」
「わるかったな、頼りない弟で」と、カロルは不貞腐れる。
「それに白竜なんかではないらしいわ。名前はアツチと言うそうよ」
 シモンは楽しそうに言う。
「随分、嬉しそうですね」と、ジェラルド。
「ええ、本当に新しい弟ができたみたいですもの」
「姉貴はあいつの正体を知らないからそんな悠長なことを言ってられるんだよ。あいつときたら生意気でいけ好かねぇー野郎なんだからな」
「あら、生意気でいけ好かない弟なら、既にいます」
「あのな、俺よりずーとたちが悪いんだよ」と、自分のことも自覚している所がカロルのいいところだ。
「あら、あなたより生意気な人に、未だかつて会ったことがないわ」
「会っているだろう、ルカと言う奴に。あいつは俺より生意気で」
「ルカ王子はそんな方ではないわ。とても物静かで礼儀正しいし、あなたとは雲泥の差だわ」
「はい、はい」と、カロルは諦め気味に生返事を返す。
「姉貴は奴の見た目に騙されているんだ」
 あいつは姉貴の前じゃ、決して正体をださない。いい子ぶりやがって。
「何か、言った?」と、シモンはカロルに問う。
「いいや」と、カロルは口をつぐむしかなかった。ルカに関しては何を言っても聞く耳を持たない姉である。ルカ王子に限って、そんなことは無いの一点張りだ。
「とにかく、助けてもらったのは事実なのですから、あなたからもお礼を言っておきなさい」
 敢然たる命令であった。
「あのな、別に奴に助けてもらったわけじゃない。俺たちはアヅマによって第14宇宙艦隊にテレポートされていたんだ。奴が何もしなければ俺たちはそのまま第14宇宙艦隊とともに帰って来るはずだったんだ。今より少し遅くなっていたが」
 確かにカロルの言うことは事実だった。一か月後には第14宇宙艦隊と共に帰還していた。だが実際、帰還できたかどうかは解らない。他の王子を担ぐ者にとってはジェラルド王子を亡き者にするには絶好のチャンスなのだから。
「カロルさんはそう言いますが、やはり彼に助けられたのでしょう」と言ったのはクラークス。
「アヅマは彼を恐れてあなたを助けたのですから。彼の存在がなければ今頃私たちは」
 クーデターによってどうなっていたかわからない。
「そうですね、アヅマはネルガル宇宙艦隊より彼一人を恐れているようですから。よって今後もアヅマがカロルさんに手を出すことはないでしょう」と、ジェラルド。
「それより、お前がしっかりしないからあんなことになったんだ」と、カロル。
 片腕をなくした痛手は忘れられない。
「カロルさん」と言うクラークスを制してジェラルドは。
「すまなかった」
「別に、謝られても奴が生き返ることはない」
 何があったの? と言う感じのシモンを蚊帳の外に置いて、
「もう、ふざけません」と、ジェラルドは決心したように言う。
「ジェラルド様」と、心配するクラークス。
「父に頼んで私の宇宙艦隊を編成してもらいます。ルカの艦隊をそのまま譲り受けたいと思いますが、どう思いますか」
「馬鹿なことを言ってんじゃねぇー。こいつらがお前の言うことなんかきくか」と、カロルはバルガスを指し示して言う。
「親父だって、こいつらを上手く使いこなせなかったんだ」
 天下のクリンベルク将軍ですら手こずらせた相手である。彼らはルカ王子以外の者を主とは仰ぎたがらないようだと。
「私は別にカロルさんに聞いている訳ではありません。バルガスさんに聞いたのですが」
 バルガスは顎に手を当てニタリとした。ルカに言われたことがあった。もし私の身に何かあったら、ジェラルド王子を頼るとよいと。彼ならあなた方を悪いようにはしないはずだ。ジェラルド王子の力になって欲しいとも。
「お前次第だな」と、顎をこすりながらバルガスは言う。
「俺たちは強い奴が好きだ」
「ルカはそんなに強かったですか」
「ああ、あいつの頭の中には恐怖と敗北という言葉はないようだ」
 だがジェラルドは知っていた。ルカがどんなに臆病で、そのためにどれだけ懸命に情報を集めていたか。完全に勝つと解るまでは動かないことも。
「それにただ勝つだけならクリンベルク将軍だって出来る。あいつの凄い所は、最低限度の犠牲で勝つことだ。それも味方だけではなく敵に対してもだ。奴の戦法は犠牲者が少ない。戦死したなどと言うと、あれで死ぬ方がおかしいと言われるぐらいにな」
「そうですか」
「お前にそれが出来るか、姿はルカ司令官に似ているようだが」
 同じ皇帝の血を引くせいかルカとジェラルドはどことなく似ている。否、雰囲気がか?
「努力してみましょう」
「努力か」と、バルガスは鼻で笑う。
 あれは努力などで身に付くものではない。天性のものだ。
「まあ、しないよりましか」
 自分たちもルカ司令官に付いて行くためにどれだけ努力したことか。クリスなどに、艦隊運動が下手だから出さなくともよい犠牲を出したなどと言われた時には。バルガスは拳を握りこんだ。あれから第14宇宙艦隊の規律は変わった。
「へぇー、バルガス。お前にはルカはそう見えるのか」と言ったのはカロルだった。
「あいつは負けるのが嫌いなだけさ。私生活だって、絶対謝らないから」
「それは、いつもカロルが悪いからでしょ」と、茶々を入れたのは姉のシモン。
 カロルはむっとした顔を姉に向けると、
「奴は、俺にこう言ったんだ。剣を抜いたからには絶対に勝てと。勝つまでは納めるなと。どんな卑怯な手を使っても、例え数十万、女、子供まで皆殺しにしてでも勝てと。負ければ勝者の傲慢な仕打ちにあうだけだと。どんな残虐な手を使っても勝って相手を許してやれば、それ以上の犠牲は出ないと。あいつは十歳の時、敗戦と言う煮が湯を嫌と言うほど飲んだからな。そして傲慢な勝者によりボイ星は略奪された。無論、その傲慢な勝者とは俺たちのことだ。ルカはよ、決してネルガル人を許さないんじゃないかなーて感じる時があるよ」
 ルカがカロルにだけ見せる心の闇。





 居間でカロルたちの身の無事を倅たちと心配していたクリンベルク将軍は、先程駈け出して行った娘のシモンのことも気になっていた。余計なことを口にしてしまったと後悔しても遅い。だが暫くすると娘の部屋の方から笑い声が聞こえて来た。しかもその声はカロルに似ている。怪訝な顔をしている父親に、
「カロルの声みたいですね」と言ったのは長男のマーヒル。
 不思議に思い娘の部屋に行こうと立ち出すと、その声は向こうから近づいて来た。それも数人の足音と共に。
「やっ、兄貴。親父も一緒か」
「カッ、カロル、どうしてお前が?」と、目が飛び出さんばかりの驚き。
 だがそれ以上に驚かされたのは背後にいる人物たちを確認した時だった。
「ジェ、ジェラルド様! それにデルネール伯爵!」
 一瞬、影武者。否、あの出撃したのが影武者だったのか? カロルが今まで我々を騙していたと言うのか、あのカロルが。驚きを隠しきれないままカロルの兄たちは、カロルの背後にいるバルガスの姿を見て。
「バルガス中佐、どうしてお前までが」 ここに居るのだと、クリンベルク家の兄弟はそれぞれが驚きの声を発した。
 軍部からはまだ彼らが帰還したという知らせはない。それどころか今頃は、アヅマとの取引の真最中のはずだ。
「カロル、これはどういうことなのだ」
 さすがに冷静なクリンベルク将軍もこの時ばかりは冷静さを失いかけた。無事に戻って来てくれたのは有難いが、アヅマと何を取引して来たのかと。かなりのものを条件に出さなければアヅマがジェラルド様をやすやす手放すはずがない。もっともアヅマ程の人物が、罠を張っているような所にのこのこ出向くはずはないとは思っていたが、ネルガル宇宙艦隊をあの空域に引き付けておいて、真の目的はネルガル本星への総攻撃。だが、それにしてはあの空域はネルガル星に近すぎる。もしネルガルに何かあれば十二分に反転して駆けつけられる距離である。アヅマは一体何を考えているのだ。ネルガルではアヅマの実体を掴みきってはいない。その数は次第に増えつつあると聞いているが、実際その数すら掴みきれてはいないのが今のネルガル軍部の実情である。アヅマがネルガルに敵対する惑星と手を結ぶ前にたたかなければ。
 カロルはへへぇーとばかりに頭を掻くと、
「テレポート」と言う。
「テレポート!」と、兄たちの驚いた声。
「アヅマの要塞から第14宇宙艦隊の艦まではアヅマの生意気な倅がテレポートしてくれた。第14宇宙艦隊からここまでは白竜が直にテレポートしてくれたようだ。アヅマは最初からあの空域に行く気はなかったようだぜ。俺たちネルガル宇宙艦隊がどう動くか観察していたようだ」
「つまり約束を守らないと言うことをか」と、テニール。
「ついでに俺たちの捕虜としての価値も。と言うのは俺の憶測だが」と、カロルは笑いながら言う。
 ネルガルが捕虜の救出のために妥協することがないことは誰もが知っている。そのために王子が何人もいるのだ。捕虜になるような者は、所詮使い物にはならない。
「テレポートか」と、クリンベルク将軍はカロルの薬にも毒にもならない憶測を無視して考え込む。
 全員無事だったのはありがたい。移動手段がテレポートだったというのもいいだろう。イシュタル人がテレポートを使うことは大概のネルガル人は知っている。ただテレポートを実際に見たものは少ないが。問題はテレポートされた場所である。第14宇宙艦隊の艦内ならばともかく、我が館内ではクリンベルク家がアヅマと内通していたと疑われかねない。そんなことにでもなったら今までの苦労が水の泡。今までどれほどの苦労をして自分に野心がないことを実証してきたことか。これもすべてクリンベルク家存続のため。




 その頃、アヅマとの約束の空域に展開したネルガル艦隊は、兵士たちの動揺を抑えるのに苦慮していた。
「奴らは幽霊なんだ。既に死んでいるんだ。死人と戦ったところで勝てるはずがないだろう、俺たちは撃たれれば死ぬが、奴らは撃たれたってもう死んでいるのだから、これ以上殺しようがなかろう」
 これがどの艦内でも浮き足出す口実になっていた。
「相手が生きているのなら戦いようもある」
 死人を殺すことはできない。
「奴らと一緒だったということは、既にジェラルド王子も死んでいるのだ」
 恐怖は頂点に達していた。
「逃げろー!」
 誰かのその合図で、おのおのの戦艦がおのおのの方向に艦首を向け始める。
 だがここに英雄誕生。司令官を失い浮き足立っている艦隊を黙らせたのはダニールだった。だてにやくざ艦隊の親分バルガスの、指揮補佐官をやっていたわけではなかったようだ。
「ここで艦列を乱して逃げたとあっては、またトリス閣下に何を言われるかしれたものではない」
 第14宇宙艦隊は誰から何と言われようと屁にもかけていないが、トリスに笑われるのだけは恥と感じていた。ルカ司令官の腰巾着であるトリスに笑われると言うことは、ルカ司令官から無能と見られたのも同じ。それだけは彼らの矜持が許さなかった。
「退却するなら退却するで、堂々とこの場を引き揚げようではないか。負け犬のように尻尾を巻いてこそこそと逃げ帰るのではなく。我々が殿を勤めて、いつでも反撃できるような態勢を整え。これぞ軍神ルカ王子の近衛、第14宇宙艦隊だと言わせるような」
 いつのまにか自称、ルカ王子の近衛と格上げになっている。
「そっ、そうだ。トリスの旦那がルカ司令官に俺たちのことを」
 あることないこと伝えかねない。
「そうだ、そうだ」
 一人のものが同意すると次々と声が上がってきた。幽霊は怖いがルカ司令官に無能と思われるのだけは死んでも嫌だ。
「引き揚げるぞ、艦列を整えろ、トリス閣下に笑われないようにな」
 ダニールの指揮の元、第14宇宙艦隊はいち早く陣形を立て直す。
「オペレーター、総司令官に繋いでくれ」
 ダニールは総司令官に連絡を取る。
「約束の時間はとっくに過ぎたのに、彼らはジェラルド王子を帰すどころか我が司令官までも拉致していきました。はなから彼らに約束を守る気はなかったようです」と。
「犠牲が出る前に、ここは一旦引き揚げたほうがよろしいかと存じます。我々に殿を勤めさせてください」と。





 一方クリンベルクの館では、クリンベルク将軍が苦虫を噛み潰したような顔でソファに腕を組んだまま座り、動かない。
 さて、これからどうする。門閥貴族たちの妬みを買わないために王族との婚姻は避けてきたクリンベルク家である。それが第一皇位継承者ジェラルドと娘シモンの結婚。そして今、アヅマとの取引の真っ最中に我が家へのテレポート。これでは誰がどう見てもアヅマとクリンベルク家は裏取引をしているようにしか思われない。下手をすればクリンベルク家は宇宙海賊と手を組み、ネルガル皇帝の座を狙っているのではないかと噂されてもおかしくはない。困ったものだ。これが現状のクリンベルク将軍の心情のようだ。
 この悩みに助け舟を出したのは、将軍の悩みの張本人のジェラルドだった。
 クリンベルク将軍と相対して座っているジェラルドは、今までのようにクラークスの影に隠れているような彼ではなかった。
「将軍、アヅマは私を利用してネルガルと取引をしようとしていたということにしませんか」
 ジェラルドにそう言われ疑問に思ったのはクリンベルク家の人々だった。
「違うのですか」と、問うテニール。
 アヅマの狙いはジェラルド皇太子を質に取り、ネルガルに揺さぶりをかける事だとばかり思っていた。
「アヅマの目的はカロルさんだったようです。私たちはカロルさんの近くに居たからと言うよりも、カロルさんの子守役として一緒に連れて行かれたようです」
「なんで、俺に子守が必要なんだ?」と言うカロルの疑問は無視され、
「どうしてカロルを?」と言うクリンベルク将軍の疑問が優先された。
「その剣です」と、ジェラルドはカロルが帯剣している剣を指す。
「剣?」と、首を傾げるクリンベルク将軍。
 剣のことは既にケリンから聞いている。だがその話は余りにも信じがたい。
「それはルカ王子からいただいたものですよね」と、マーヒルは念を押すように。
「ルカは竜らしい」と、言ったのはカロル。
「竜? どう見ても彼は普通の人間のように見えましたが、かなり賢いようですが」と、テニールは皆の心のうちを代弁した。
「イシュタル人によれば、竜は人間だそうです」と、答えたのはジェラルド。
「彼らは竜に会いたかったようですが、それがかなわないのならせめて竜が愛でた人物にと」
「それでカロルを拉致したの。どうして?」と、シモンは首を傾げる。
「何かの間違いではなくて、カロルが竜から愛されるなんて」
 シモンは全然信じないようだ。たで食う虫も好き好きとは言うものの何もカロルでなくとも、カロルよりかわいい青年はネルガルにはいくらでも居るのに。
「その剣の紋章が証拠だそうです。竜は気に入った人に自分の紋章を掘り込んだ物を渡すそうです。そして永遠にその人を守る」
「永遠に?」
「竜の寿命は長いそうです」
 それはシモンの指輪にも掘り込まれていた。シモンは指輪をはずして見る。これもルカ王子が掘り込んだものだ。
「しかしこう見ると、竜とはそうとうな物好きだな。よりによってネルガルいちのじゃじゃ馬と破天荒な男を好むとは。もう少しお淑やかな女性も、まともな男もネルガルにはいくらでも居ただろうに」と、シモンが心に思っていたことをテニールは口にした。
「にっ、兄さん。私をカロルと一緒にするなんて、ひどいわ」
 話しがだんだん逸れるのに対しクリンベルク将軍が大きなため息を吐いた。何で我が家はこうものん気なのだ、クリンベルク家の将来がかかっていると言うのに。
「軍法会議でもアヅマの今回の拉致は、ジェラルド様ではなくカロルが目的だったと言っていた者が居たようですが、審査官は取り合わなかったようですね」と、マーヒル。
「話しを戻そう」と、ジェラルド。私のことでこれ以上皆に迷惑はかけられない。
 今のジェラルドはクリンベルク将軍やマーヒルたちが知っているジェラルドとは、まるで人が違うように違っていた。言葉がはきはきしている。それどころか全てに関して敏捷だ。ルカ王子から再三、ジェラルド王子は正気だと聞かされてはいたが、クリンベル家の誰しもが今の今までそれを信じる気にはなれなかった。
「こう言う筋書きはいかがでしょう」と、ジェラルドは前置きして、
「アヅマが私を利用しようとした。だから私はアヅマに忠告をした。私を質にとっても無駄だと。ネルガルには王子はいくらでも居るのだから。嘘だと思うなら試してみたらどうだ、ネルガル人の考えがよくわかりますよと。それが今回の取引だった」
 今回の件はジェラルドが持ち出したかのように。
「件の空域に展開したネルガル艦隊を見て、そちらがそう出るならこちらもと、ネルガルの宇宙艦隊など恐れてはいないと言うところを見せ付けるため、アヅマは私たちをネルガルで一番有名な将軍の目の前にテレポートした。我々がその気になればクリンベルク将軍ですら怖くないと」
「まるで茶番です」と、テニール。
「確かに。だが、実際そうされた将軍は手も足も出なかった」
 ジェラルドにそう言われ、クリンベルク将軍は唸るしかなかった。ますます苦虫を噛み潰したような顔になる。
 彼らと戦うには、この移動手段をどうにかしなければならない。
「茶番と言われましても、この筋で押し通すしかないようです」と、言ったのは今まで黙って聞いていたクラークス。
「それには宮内部や軍部が私たちの存在に気づく前に、こちらから連絡を取ったほうがよいかと存じます。いかにも驚いたように」
「そうだな、それはクラークス、お前に任せる」と、丸投げするジェラルド。
 これはクラークスの知る何時ものジェラルドだった。



 クラークスからの連絡を受けて宮内部は驚く。
『デルネール伯爵、ご無事だったのですか』
『どうして、クリンベルク将軍の館へ?』
『それよりジェラルド王子はご無事なのか?』
 一斉に問いかけてくる宮内部の面々。通信を通して宮内部の当惑振りが目に見えるようだ。
「ジェラルド様でしたらご無事です。なんでしたら代わりましょうか?」
『いや、結構です』
 即答だった。こんな時に狂人の相手はしていられないと言う感じである。
「どうしてクリンベルク将軍の館へと問われても、私たちにもよくわからないのですが、一旦、何処かの艦橋にテレポートされたようなのです。そしたらいきなりアヅマが怒り出しまして、そちらがそういうつもりなら我々の方にも考えがあると。そして気づいたらクリンベルク将軍の館に居たと言うのが実情です。我々は約束を守ったという証に、バルガス中佐も連れてきたと言っておりましたが、何か手違えでもあったのでしょうか」
 クラークスはわざと今回の作戦は知らなかった振りを装い問う。
『いや、何も』と言葉を濁す宮内部の面々。
 まさかジェラルド王子を囮に宇宙海賊アヅマを殲滅させようとしていたなどとは、口が裂けても言えない。
『皆さんご無事で何よりです』
 宮内部としては軍部のへまに舌打ちしつつも、そう言うしかない。

 そしてカロルはカロルで軍部に連絡を取っていた。
『カロル坊ちゃん、無事だったのですか』
 坊ちゃんではない、カロル大佐だ、大佐。と言いたいところをカロルはぐっと堪え、
「全員、無事だ。それとバルガス中佐も一緒だから、第14宇宙艦隊の連中に伝えてやってくれ」
『バルガス中佐もですか? どうして?』
「それは、こっちが知りたい。それより、今からそっちへ向かうから」
『今、何処におられるのですか?』
 車を向ける都合上、オペレーターは訊いた。思えば位置情報などすぐに確認できるのだが、あまりの驚きに思考が停止してしまったようだ。
「俺の館だ」
『俺の館って、クリンベルク将軍の?』
「そうだ、俺の館がそんなに幾つもあるか」
 否、しょっちゅう勘当されているカロルには友人の館という強い見方があった。
『また、どうして?』
「それも、こっちが知りたい」
『出動したのは影武者だったのですか?』
「俺に影武者はいない」
『そうですよね』と、考え込むオペレーター。やっとここで思考が働きだした。
 だが答えは出なかったようだ。答えのない疑問は長く考えないに限る。
『では、迎えのお車を』と、オペレーターが言いかけるとカロルは即、
「否、それでは時間の無駄だ。自分の車で行く」と言って、通信を切った。

 クラークスも宮内部からの迎えの車を断り、クリンベルク家から車を出してもらいそれで鷲宮へ向かうことにした。今回の出動でジェラルドの死を願っているものには、今が絶好のチャンスだ。なぜなら私たちは今ネルガル星に居るはずがないのだから。死体さえきちんと始末できれば、ジェラルドは宇宙海賊に襲撃されて死んだことにできる。宇宙は広い、遺体が親元に戻らないのは当たり前のことだ。

「お車の用意が整いました」と、守衛がやってきた。
 それを合図にジェラルドたちは立ち出す。
「シモン、あなたはここに居てください。ここが一番安全でしょうから」





 鷲宮へ入ったカロルたちは帰艦の挨拶もそこそこに、カロルはジェラルドをクラークスに頼むと、バルガス中佐とともに軍司令部へと急いだ。
「カロル大佐」と、敬礼される中、
「第14宇宙艦隊と連絡が取りたい」
 オペレーターは一瞬、この場の司令官に目を移したが司令官が頷くのを見て、第14宇宙艦隊の現在の司令官に通信を繋いだ。
 それをカロルはバルガスに渡す。
「まずは奴らを安心させろ」と。
『こちら第14宇宙艦隊指揮補佐官フレオ・ダニー』
 バルガスは最後まで言わせなかった。
「ダニール、俺だ」
『しっ、司令官!』
 ダニールの驚く声。無事だとは連絡を受けていたが、実際にその声を聴くまでは、否、その姿を見るまでは。スクリーンが映し出したその映像は紛れもないバルガス中佐だった。
 ダニールはこの通信を第14宇宙艦隊の全ての艦に流させたようだ。各艦の司令官たちの歓喜の声が入ってくる。バルガスはしばしその声が静まるのを待ち、
「早く、帰って来い」と、命令した。
 バルガスの方が一件落着するとカロルは、第6、第7、第8宇宙艦隊の司令官たちに、帰還の報告書を作成するために集合をかけた。

 数時間後、レイ・アイリッシュ中将を先頭にフリオ・メンデス中将、テレス・アルシャ中将がおのおの幕僚を従えて集まって来た。それにカロルの幕僚たち。彼らは目の前で起きたことが信じられず、カロル司令官の無事な姿を見て心から喜ぶ。既に帰還してからの彼らの現状は聞いていたカロルである。開口一番は、
「すまなかった。随分迷惑をかけたようで」
「いいえ、ご無事でなによりでした」と、アイリッシュ。
 誰もあの時の状況を知るものはいない。唯一知っているものはジェラルド王子やカロルと共に艦橋にいた幕僚たちなのだが、その彼らの話が取り止めがつかない。
「まず、あの時の状況を説明するから座ってくれ」と、カロルは皆に楽にするように勧めると、艦橋での出来事を話し始めた。
「つまり、アヅマの倅と言う者が、テレポートして来たと言うのですか。あなたの前に」と、アルシャ中将は信じられないと言う感じに言う。
 テレポート自体、アルシャの現実的な思考の中にはなかった。SFじゃあるまいしと。どうもカロルは、出動前から彼女からはクリンベルク将軍の七光り的な誤解をされているところがある。
 実際テレポートを体験したことがない者には無理もない。メンデス中将ですら半信半疑である。だがアイリッシュだけは実際に経験しているだけに、
「アヅマはカロルさんが目的だとケリンは言っておりましたが」
「実際は、この剣だ」と、カロルは剣を高々と見せた。
「白竜の分身らしい」
「分身?」と、誰もが首を傾げる。
「俺たちが触っても何ともないが、ある一定以上の能力を持った者が触れると、すごい反応を起こす。なっ」と、カロルは自分の幕僚たちに同意を求めた。
 彼らはそれを目のあたりにしたのだから。幕僚たちは頷く。だがテレポートを始めて見た彼らにはアイリッシュ中将ほどの冷静さはなかった。未だにあの時何が起こっていたのか理解できないでいる。
「ではアヅマはその剣が欲しくって」と、アルシャ。
「否、そうではなくて」と、言葉を濁すカロル。
「アヅマの目的は竜の恋人です」と言いつつ、会議室に入ってきたのはジェラルドたちだった。
 ジェラルドの出現に室内の空気が一瞬にしてピンと張る。
「皇太子さま」と言いつつ立ち上がる司令官たちを、ジェラルドは片手で制し、
「そのまま」と言いつつ、カロルの隣の席を空けてもらいそこに座る。
「私から説明いたしましょう」と、ジェラルド。
「アヅマの目的はカロルでした。そのためにアヅマは私たちを宇宙海賊から救出し、拉致したのです」
「失礼ですが、アヅマの目的はカロルとおしゃいますと、私の耳にはカロル大佐が竜の恋人と聞こえますが」と、メンデス中将。
 メンデスの耳だけではなく、この会議室にいた全員の耳にそう聞こえていた。
「竜は愛した人物に自分の姿を彫り込んだ物を贈る習性があるそうです」
「あの失礼ですが、竜とはドラゴンのことですよね」と、アルシャ中将が確認をとる。
 ドラゴンと言えばネルガルでは最強の悪魔のことだ。
「どうしてカロル大佐がドラゴンの恋人に?」
「確かその剣はルカ王子から贈られたものだと伺っておりますが、ではルカ王子は何者なのですか?」と、メンデス中将。
 ルカ王子とは幾度となく戦場を共にした。王子と言うご身分でありながら、おごりもなく部下思いの素晴らしい指揮官だという印象を受けた。それに戦争がうまい。下手をすればクリンベルク将軍以上ではないかとメンデスは密かに評価している。
「ルカは私の弟です。ただ、母が巫女だったようですが」
 実際、ルカが神の生まれ変わりだと言う噂を知っているものは少ない。
「弟をいつまでも刑務所に入れておくのも忍び難い。父に許しを願いルカを迎えに行きたいと思っています」
 それを聞いて一番驚いたのはカロルだった。宮使いの身でなければ何をおいてもルカを助けに行こうと思っていた。ルカが流刑になった経緯は軍人なら誰もが知っている。否、軍人どころか市民ですら。ルカへの同情から一時は暴動が起こるのではないかと上層部も危ぶんだほどである。
「その節は、是非ともあなた方の艦隊を私の指揮下に」
「殿下を助けに行くなら喜んで」と、申し出たのは第7宇宙艦隊の面々だった。
 第7宇宙艦隊はレイ・アイリッシュをはじめ元ルカの親衛隊が中枢をなしている。現にアイリッシュがここへ連れてきた幕僚の中にも数名いる
「ルカをアヅマの手には渡したくない」
 アヅマの手と疑問を持つ幕僚たち。ルカ王子は砂の星に流刑されて居るのではないのか? まさかアヅマがそこを襲撃すると?
「ルカを迎えに行くとアヅマの要塞から宇宙艦隊が出航したのだ」
「どうしてルカ殿下をアヅマたちが?」と、皆を代表して疑問を投げかけたのは幕僚のひとり。
「それは私たちにもわかりません」と答えたのはクラークス。
 それを聞いたカロルが隣で抗議めいた顔をしていたがそれを無視し、はっきりと答えた。実際クラークスたちはアヅマがルカ王子を必要としていることをあの要塞で知った。ルカ王子の母であるナオミ夫人の村の言い伝えが正しかったことも。ルカは村の守り神、ルカが村を離れたとき村は滅ぶ。違ったのは村ではなく滅ぶのはネルガ星。村人たちがルカを村に連れ帰ることを諦めた時、村の長老がルカは村の守り神ではなくネルガルの守り神だと言い残して去った、だがあの時は誰も信じる者はいなかった、村人でさえ初耳だったようだ。だが今は違う。少なくともルカ王子がネルガルに居る限り、アヅマたちイシュタル人がネルガルに手を出すことはない。どんなに我々を滅ぼせる兵器があっても。現にクリンベルク将軍の目の前に私たちを送り付けることができるのだ。彼らにその気があればクリンベルク将軍を闇討ちすることぐらいたやすいことだろう。と、クラークスがひとり思考の中に沈降していると。
「アヅマの要塞はどこにあったのでしょうか。いっその事、その要塞を奇襲しては」と、幕僚の中から意見が出た。
 巣をたたいてしまえば蜂も出て来ない。の原理である。
「だが、その肝心な要塞の位置がわからないのだ」と、カロル。
「要塞に行ったのではなかったのですか」と、幕僚は怪訝な顔をして問う。
「いきなりテレポートでアヅマの倅とか言う奴の艦橋に連れていかれ、それから要塞の格納庫、そして部屋。どれもこれもテレポートでの移動だから、時間はかからないし距離においてもどのぐらいどの方向に移動したのかさっぱり把握できない」と、カロルは両手を広げて見せる。
 腕のジャイロも何の役にもたたなかった。ただ時計だけが移動に数秒とかかっていないことを示していた。
「要塞がどこかの惑星上にあるのか、はたまた宇宙ステーションなのかすらわからなかった。それどころか基地の大きさ、居住している人数ですらわからない。要塞には年寄りから乳飲み子まで老若男女を問わず居た。こんな赤子までが戦闘員なのかと問いただした俺に、奴らはそうだと、当然のように頷いた。彼らに共通しているものは、ある一定レベル以上の能力を持っていることらしい。一見乳を飲むことしかできなそうな赤子でもその能力は並外れているようだ」
「つまりそれって、せっかく敵の内部に深く潜入しながら、何一つ有効な情報は得られなかったと言うことですよね」と、幕僚のひとり。
 やれやれと言う感じに肩をつぼめてみせる。我々にこんなに心配かけておいて、無事に戻ってきてくれたからよかったものの。
「あのな、お前だって、あんな移動をされたら」と、カロルは馬鹿にされたような気がしていきり立つ。
 そのカロルをジェラルドは片手で制して、
「アヅマは我々が理解できないことを知っていた。ですからわざと基地を案内したのだろう。基地の中枢を見せても我々には何もできないことを」
「つまり我々はそういう敵と戦うと言うことですか。手の内を全て見せられながらも対処法のない」
「未知の兵器」
「否、兵器を自慢するようなことはなかった」
「おそらく兵器は私たちと大差ないのではないでしょうか」と、クラークス。
「違うのは移動手段、テレポートです。あれさえどのような仕組みなのか理解できれば、せめて出現する場所でも推定できればどうにか対処の仕方も」
 それはシャーやアヅマと遭遇した者たちの実感。ルカが口癖のように言っていたことでもある。
「ルカは彼らとは戦うなと言っていた」
 今は第7宇宙艦隊に所属する元ルカの親衛隊たちなら誰でも知っていた。ルカ殿下がどれだけイシュタル人との講和を望んでいたか。戦っても勝てない。白竜伝説の再確認だと。だが白竜伝説、ネルガルのものによれば神がドラゴンを退治したことになっている。ただイシュタル人のものによればドラゴンが勝ったことになっている。不思議な物語だ。あらすじはほとんど同じなのに最後の結末が真逆。実際にそのような戦いがあったのなら、どちらかが嘘をついているとしか思えない。
「しかし、戦うなと言われましても先方から仕掛けられては、戦わざるを得ません」と、アルシャ。
 意外に過激なところのある婦人である。左頬を叩かれたからと言って右頬を素直に出すような人ではない。
「イシュタル星への攻撃をやめれば、アヅマたちはおとなしくなるだろうと、ルカは言っていたぜ」と、カロル。
 ジェラルド王子が弟のルカ王子を呼び捨てにするのは許されるが、カロル大佐がいくら親友とはいえ人前で公然とルカ王子を呼び捨てにすることは許せないアルシャである。
「カロル大佐。いくら親友とは言え、ルカ王子を」と言いかけた時、さりげなくジェラルドが仲裁に入った。
「アルシャ中将、よいのだ。カロルは唯一、ルカの鷲宮での友なのだから」
「お言葉を返すようですが、いくら親友とは言え、公衆の面前で呼び捨てとは。軍隊は規律を重んじるところでありますから」
「その心配もありません。カロルの艦隊はよくまとまっております」と、ジェラルド。
 だがこの時カロルは思った。もう少し自分に仁徳があれば、今回のようなクーデターは起こらなかったと。
「とにかく、ルカを、否、ルカ王子を迎えに行こうぜ。あんなラクエルとか言う奴に渡すわけにはいかない」
 少し反省の色があるのかカロルは言い換えた。
「ラクエル?」と、幕僚の中から疑問の声。
「アヅマの要塞の中で会った奴だよ。いけすかねぇー奴。あれならまだ生意気だがアヅマの倅の方がましだ」
 カロルは何故か、初対面からラクエルを嫌っていた。





 カロルたちがルカ王子の救出に専念し始めたころ、地下組織にも動きが出てきた。外部との戦いで負けがかさむようになると、内部の治安が悪化するようになるのは、いつの時代でも何処の国でも同じである。ネルガル星も例外ではなかった。そもそも地下組織は自由・平等・博愛のもと、ギルバ王朝打倒を合言葉に集まった者たちだ。もっともギルバ王朝も最初のスローガンはそれだった。だが時は最初の目的を忘れさせ、人の思想を変える。人の心の奥底に支配欲がある限り。そして地下組織も人が作った組織である限り例外ではいられない。その本心は我こそが正しい。我こそが善でありお前らは下等な生き物だ。よって次期ネルガル皇帝にふさわしいのは私のみだと思っている者ばかりである。ただし本人がそれを自覚していないところが怖いところである。本人はあくまでも善政を敷くためにやっていると思っているのだから。だが本能(本心)に基づく行動は早い。ギルバ王朝の力が弱まったと見るや、今が絶好の機会と思うものが出てきてもおかしくない。よって組織の分裂は避けがたい。中でもより過激な思想の持主は勝手にゲリラ戦を開始し始めた。ルカが一番嫌っていた内戦の始まりである。内戦は平和を取り戻してからも市民の間にしこりが残る。
 まず狙われたのは武器取引によって巨万の富を築き上げた財閥と、その関連軍需産業だった。予告なしの爆弾テロ。豪華な貴族の屋敷が炎上するのには何の関心も示さなかったトリスたちだったが、巨大な軍需工場が炎上する映像を宇宙艦隊の休憩室で見て、
「なっ! 何考えてんだ、あいつら」
 これがトリスの第一声だった。
「これから宇宙海賊と戦わなければならないという大事な時に、武器がなくては」
「それはどうだか。あれらの武器が宇宙海賊より先に、俺たちに向けられるかもしれないぜ」と、トリスの純真な正義感あふれる心に水を差したのはロンである。
「だったら早いところ破壊しておいたほうが賢いともいえる」
「はぁ?」と、疑問符を浮かべるトリスに、
「俺も同感だな」と、バムがロンに賛成する。
「どうしてよ?」
「貴族にとっちゃ、俺たちの手にかかるのも海賊の手にかかるのも死ぬのは同じだからな、だったらまず、手っ取り早く俺たちから始末しようというところさ」
「ちょっ、ちょっと待て」と、ロンの言葉を遮るトリス。
「何で俺たちが奴らを殺さなきゃならないんだ。それに俺たちを殺したら、誰がネルガル星を守るんだよ」と、正義感丸出しで問う。
「お前な、何のために俺たちが命を張っていると思うんだ」
「ネルガル星を守るためだろうが」
「だから、何のために」と、ロンにしつこく詰め寄られてトリスは答えに窮した。
「身内を守るためだろう。親や兄弟、愛する人を」と、バムが助け舟をだす。
「殿下を見てみろよ。シナカ様がおられなくなってからは、ネルガルなどあってもなくてもどっちでもいいという感じだっただろ。俺たちだって同じさ。地下組織を殲滅するという名目で市街地への砲撃命令が出たら。地下組織の活動が活発になれば、そういう命令が出ないとも限らない」
「しかし、なんで地下組織を殲滅するのに市街地を砲撃するんだよ」
「そりゃ、地下組織のメンバーは平民が多いからな。次期皇帝の座を狙っている貴族にだまされた」
「ちょっ、ちょっと待て」
 トリスは頭を整理しようとロンの話を止める。
「殿下も言ってただろー、ギルバ王朝も最初は自由・平等・博愛をスローガンにした革命派だったと。俺、思うんだけど、ネルガルってそういうことを何百年かの周期で繰り返している星なんじゃないのか。そのたびに罪もない人々の血が流れ、結果としては首が付け替えられただけなんだ。何も以前とは変わっていない。自由もなければ平等もない、まして博愛など、どこ吹く風だ。まったく進歩のない星だよな」と、嫌になったようにロンは言う。
「本当にそんな命令でるのか」と、今度はバムが心配そうに訊く。軍需工場の爆破、冗談で賛同したつもりだったのだが。
「出るだろうな」と、あっさり答えたのはトリスだった。
 トリスもルカの言葉を思い出し、今までホルマリン漬け、もとい、アルコール漬けになっていた脳が、ルカの言葉と言われ動き出したようだ。ルカが一番心配していたこと、それが現実になりつつある。早くしないと、何を? トリスは自問自答した。ルカをここへ連れ戻すことだ。そうすればルカがどうにかしてくれる。ジェラルドと同じ丸投げ方式である。
「出たらどうするんだよ」
「決まってんだろー、そんな命令、却下」
「そしたら軍法会議もんだぞ。命令違反だからな、命令違反は法律によると」と、バムはビビりながら言う。
「お前、そんな命令聞く気か?」
 そう訊かれてバムは答えに窮した。命令違反はその場で銃殺。自分の命は欲しい。だがそれと同じぐらい自分の家族の命も。
「バムちゃんよ、よーく聞け」と、トリスはバムにすり寄るようにして優しく言う。
「これはルカが言っていたことなんだけど」と前置きして。
「正しいから法律なのではない。法律だから正しいのだと」
「それ、どういう意味だ?」
「つまりだなバムちゃん。法律の全てが正しいとは限らないってことさ。中には一部の者の権益を守るために作られた法律もかなりあるってことさ。それをいちいち守っていたんじゃ、俺たちが馬鹿を見るってことさ」
「守らなかったために大馬鹿を見るって可能性もあるぜ」と、ロン。
「うるせぇーな、おめぇーは」
 そこへボコボコになったロサレスがやって来た。
「どうしたんだよロサレス、その顔は? 色男が台無しだな」と、トリスは心配するより半分楽しんでいるようだ。
「どうもこうもねぇー」と、ロサレスはおしぼりで顔の痣を冷やしながら、
「給料が上がったもので喜んで飲んでたらよ、いきなり数人の奴らに絡まれたんだよ」
「なんでよ」
「知るか」と、ふてくされて椅子に座る。
「あんまり外で言いふらさないほうがいいぜ」と、忠告したのはロンだった。
「ベースアップがあったのは軍人と軍需関連産業ぐらいなものだから。多くの平民はベースアップどころか、これから物価が上がる分だけ同じ生活を維持するには労働時間を延ばさなければならなくなったからな。実質的な賃下げさ」
「そんな話、聞いてねぇーぞ」と、ロサレス。
「景気を良くするために賃上げするって、俺は聞いたぞ」
「アホがお前は」と、トリス。
「お偉方さんの小遣いが足りないから賃上げしたに決まってんだろー。賃上げしたからって景気が良くなるはずねぇーだろーが。賃上げすれば数か月後には必ず物価が上がるのは火を見るより明らかだからな」
「どうしてよ、金が入れば金回りがよくなるだろうが。金回りがよくなれば景気だって」と、バム。
 トリスは呆れたような顔をすると、
「金回りがよくなるのはバムちゃんとロサレスぐらいだ」
「へぇー、俺はこの星の誰よりも早く金が回るのはトリスの旦那かと思っていたが」と、ロン。
 トリスは宵越しの金を持たないので有名である。給料はすぐにアルコールに変化し、水洗トイレで流れる。トリスの給料は留まることを知らない。
「てめぇー、ぶん殴るぞ」と、トリスはロンの減らず口を黙らす。
「だいたい景気が悪いのに賃上げすることが無理なんだよ。だってそうだろう。俺たち軍人の給料は税金だから、たんなきゃ幾らでも国民から搾り取ればいいんだ、人頭税だの消費税だの安全保障税だのといってな。だが一般の企業はそんなことできないだろう。まして小さなサービス業なんか、景気が良くならなきゃ賃上げなんか絶対無理に決まってんだろうが。だいいち企業って言うのは売り上げが決まっていれば支払える金額も決まっているもんだ。例えば月々百万ドットしか支払えない売り上げしかない企業じゃ、そしてその製品を作るのに十人人手が必要だと、単純計算すれば一人頭十万ドットと言うことになるだろうが」
「ちょっ、ちょっと待って」と、今度はトリスの話を止めたのはロンだった。
「十万ドットじゃ、ひと月生活できないぜ」
「だから単純計算すればって言ってんだろうが。おめぇーにそんなこと言われなくったて解かってら。計算をわかりやすくするためにそうしたんだ。話、突っ込まないように。ルカだって言ってたたろー。ます物事は単純にして考えろって。俺は数学で計算するつもりはない。あくまで算数で計算する。それで今回の賃上げだ。例えばひと月一万ドット賃上げしたとする」
「ちょっ、ちょっと待って」と、今度止めたのはバムだった。
「ひと月一万のベースアップじゃ、俺、そこへ転職するぜ」
「だから、言ってんだろー。計算をわかりやすくするための数字だと。本気にするな、アホ。それで計算に戻るが、賃上げした結果、その企業はひと月百十万ドット出費することになる。これでは企業としてやっていけないだろう、月々十万の赤字なのだから。それで俺が経営者なら考える。人手を二人減らして八十八万にする。そうすれば」
「ちょっと待てよ。何で二人なんだよ。一人で十分じゃないか。そうすりゃ九十九万だ」と、バム。
「一人じゃ駄目なんだよ。この企業は製品を作るのに人手が十人必要なんだ。一万ドットじゃ、誰もやとえないだろ、十万ドットだって生活が厳しいって今ロンが言ったところじゃないか。だが六万ドットだったらどうだ。二人やめさせて十二万浮いたのを二で割れば」
「なるほど、お前見かけによらず頭いいな」と、バムは感心する。
「これを頭いいって言うかな、苦肉の策さ」
「つまり、二人を犠牲にして、八人の給料をあげるということか」と、ロサレス。
「まあ、そう言うことになるかな」
「だけどよ、仕事はおなじなんだろ、その十一万もらっている奴らと、六万しかもらわない奴と」と、バム。何か腑に落ちなげに訊く。
「そりゃそうさ。本来十人いなければ出来ない仕事なんだからな」
「それって、喧嘩にならないか」
「喧嘩になるより、もらいの少ない奴はやる気が失せるだろうな。難しく言えば効率が悪くなるってやつさ。気力と言うものは感染するからな。もらいの少ない奴がさぼれば当然、もらいの多い奴もさぼるようになる。だが当面はこの方法しかないだろう、この企業の売り上げが上がるまで」
「でも売り上げは上がらないだろう、賃金があがっては製品単価が高くなるのだから、単価が高ければ競争力は落ちる」
「アホだな、製品単価を高くしないために二人を首にしたんだろうが」
「あっ、そうか」 腑に落ちない。
「でも、その二人、これからどうやって食っていくのだ?」と、バムが同情的に問う。
「そんなの、俺が知るか」と、トリスはふてくされた様に言う。
「生活保護だろうな」と、ロン。
「また、税金があがる」
「それよりみんなで我慢したほうが」と、バム。
 バムはあくまで平和的である。
「賃上げしないで。それどころか賃下げして一人でも多く雇ったほうが景気がよくなるんじゃないかと俺は思うが。だいいち生活保護者が減った分だけ税金が浮く」
「下げんのか、それはな、借金もあるし。それに今までもらっていたものが少なくなるのは考えものだぜ」と、ロサレス。
「せこい奴」
「そう言うけどな、トリスはそれでいいのか」と訊かれて、トリスも黙り込む。
 トリスは給料の全部を飲んでいるわけではない。大半は自分が世話になった孤児院に寄付しているのだ。その額が少なくなるのは。
 そこへ現れたのはバルガスだった。ケリンも一緒である。
「誰の演説が高らかに聞こえるかと思ったら、これはトリス大先生ではありませんか。いつの間にトリス大先生は数字にお強く」
 トリスは最後まで言わせなかった。ハルガン流シュー(靴)ティング。靴はバルガスめがけて飛んで行ったのだが、バルガスもただ当たるのを待っているような男ではなかった。よけたものだから始末が悪い。それがバルガスの背後でほどよく出来上がっている男の頭にあたってしまった。男は隣の男に殴られたのかと思って殴り返す。いきなり殴られた男はその男を突き飛ばしたもので、隣で食事をしていた者たちのテーブルがだいなしになってしまった。もともと喧嘩っ早い連中の集まりである。そこらへんが引き金になって喧嘩はみるみる広がっていった。気付くとトリスたち以外の者は全員喧嘩をしている状態だ。
「にぎやかな所だ」と、ケリン。
 昔のルカの館を思い出す。喧嘩が挨拶代わりだったころの。
「ところで聞いたか地下組織が」と、バルガスは小物が飛び交うところに平然と腰かけトリスたちに尋ねる。元来、銃弾の飛び交う中を平然と行軍する者たちだ。皿やコップ、ナイフなどが頭上を飛び交っていても何とも思わない。
「それなら今、ニュースでやっているよ」と、ロサレスがスクリーンの方に顎をしゃくって見せた。
「その話は既に決着済みだ」と、トリス。
「決着済み?」と、首を傾げるケリン。
 何がどう決着ついたのか?
「市街地砲撃の命令が出たら、即、却下」
 一瞬、バルガスとケリンは何のことかと思ったが、そこは頭の回転の速いケリンのことだ、いきなり笑い出した。むっとするトリスたちに、
「そんな命令でないよ」
「どうして?」
「奴らだって命は欲しかろう。そんな命令だしたらクーデターになる」
「まあ、ケリンがそう言うのならそうなんだろー」と、トリス。
 ケリンは情報に裏付けされたことしか口にしないのは有名である。
「正確に言えば、今のところはと言うべきか」
「じゃ、将来?」
「可能性は無きにしも非ずか、地下組織の出方によっては」
「どっ、どうすんだよ、そうなったら」
「それまでに、ルカ殿下にはここに戻っていただくってことさ」
 トリスはケリンも自分と同じ考えだと思ったらほっとした。やっぱりこの混乱を収められるのはルカしかいないよな。
「ジェラルド様自ら迎えに行くらしい」
「それ、本当か?」と、トリス。
 ケリンとバルガスは頷く。それを見てトリスはつくづく思う。やっとあのアホも本腰を入れるようになったかと。
「しかし、そうしたらどうするんだ、この星は」と、ロン。
 それでなくとも第一皇位継承者のジェラルドを亡き者にしようとしている者たちが幾らでもいると言うのに、自らこの星を出て行くようなことをしたら、この星は悪の巣窟になってしまう。ルカを連れて戻ってきたはいいが、居場所がない。
「クリンベルク将軍に頑張ってもらうしかないだろう」

2017/05/28(Sun)00:06:16 公開 / 土塔 美和
■この作品の著作権は土塔 美和さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 今日は、子無沙汰しておりました。アベノミクスの三本の矢に当たり、死んでました。円安、輸出業者にとっては追い風ですが、原材料を輸入する業者にとっては向かい風もいいところですよね。本当にまいりました。妄想にふけっている暇もありませんでした。でもどうにか少しだけゆるりとできるようになったので、また少しずつダラダラと書いていきたいと思います。飽きずに付き合ってくだされば幸いです。
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