オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

2013/11/25「スマホ表示仮対応&縦書ビューワがWebkit系ブラウザ対応になりました」 by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『アホと踊れジングルベル! 2−5』 作者:湖悠 / お笑い ファンタジー
全角84539文字
容量169078 bytes
原稿用紙約263.95枚
 サンタとしての責務をこなす為にプレゼントを配ろうとした若手サンタだったが、袋の中身がいつの間にかたわしに入れ替わっていた。それは謎の“怪盗たわし”の仕業であった。サンタはやる気のないヒロイン、助手を伴い、怪盗を追うが、あらゆる個性的な人物たちとの出会いに振り回され続ける。プレゼントを追うサンタたち。しかし、知らぬ間に彼らはとんでもない騒動に巻き込まれていた……。※下ネタ多数、茶番多数。苦手な方はご注意ください。
 とある夜の街。煌びやかなイルミネーションで彩られた繁華街に、その二人は居た。
 街灯で髪の毛が白銀に照らされている一方の男は、ちらちらと暗い路地の方に目をやり、落ち着かない様子である。その様子にもう一方の人物が呆れていた。男は我慢できないと言わんばかりに路地に駆け込み、そこに置いてある小汚い皮袋の中身を確認していた。中身を見てほっとしたのか、彼はもう一方の人物に何かを告げ、どこかへ駆けて行った。
 残されたもう一人はしばらくじっと空を見上げたかと思うと、大きなあくびをしてベンチに座り込み、船をこぎ始めている。
 そんな中、路地に妖しい人影があった。しきりに辺りを窺い、こそこそと袋に近づいている。そして、袋に手を伸ばし、掴み上げたかと思うと、そのまま一目散に路地の闇に消えて行った。その時、ポリバケツにぶつかったが、彼はそんなことに気をもむこともなかった。
 クリスマス前夜に巻き起こる珍騒動は、こんなところから始まっていた。

第一話「サンタはトナカイを選ばない」

 1.
  
 唐突な話ではあるが、俺はサンタである。じいさんって訳でもないが、もじゃもじゃの頭も、顎だけちょっと生やしたダンディなヒゲも、立派な若白髪だ。服も赤と白の二色だし、きちんと白いボンボンが付いた赤い帽子も被っている。とはいえその姿はさながらクリスマスシーズンのピザーラ配達員なのだが、とにかくまあ俺が若手のサンタである、ということは認識してほしい。
 そんな新人サンタの俺なのだが、現在絶賛大ピンチを迎えている。
「おい、助手! 大変だ! 聞いてくれ!」
 サンタは何千人もおり、サンタ総本部という組織で統括されている。所属しているのはサンタだけでなく、プレゼントを運ぶトナカイ、雑務をこなす助手も、クリスマスに活躍するサンタ総本部の職員であった。そして、こたつに入ってぼーっとしているボブカットで眼鏡を掛けている少女こそ、俺の助手だ。
「今ちょっとTwitterで忙しいんで後でオナシャス」
 その助手はこちらに目を向けることなく、スマホをいじっている。
「後でオナシャス、じゃねーよ! ホント大変なの! ねぇ聞いてる!? 俺上司だよ!?」
 助手というのはサンタを支える重要な役職だ。サンタも万能じゃないからね。猫の手も借りたい時ってあるからね。でも――。
「チッ……すいませんでした……チッ」
「謝罪を舌打ちでサンドするのはやめろ!!」
「でなんなんすか。これで大した内容じゃなかったら労働法違反で訴えますよ」
 うちの助手は、猫の手にも負けるほど、役立たず……というかまったくやる気がないのであった。
「……まあいいや。本題に移るが……いいか、これを見てくれ」
 俺は助手の前に物が詰まって膨らんでる皮袋を置いた。袋を怪訝そうに助手は見つめている。
「なんですか、このきったねぇ袋。あー、ゴミ袋?」
「ちげーよ! サンタの袋と言ったら子供達の夢が詰まったプレゼント袋だろうが!!」
「はあ、そうですか。で、どうしたんですか?」
「……中身を見てみろ」
 その皮袋の口を縛っていた紐をほどく。助手が、袋を覗き込んだ。
「なんですか、これ。……たわし?」
 助手が袋の中からたわしを掴みあげた。
「そう、たわしだ。ついでにまだまだいっぱいある。袋の中、全部たわしだ」
「は〜……ほんとですねぇ。全部たわしですねぇ。で、これが?」
「これが? じゃないよ。この袋にはな、サンタ総本部から得た予算と俺の自費も含めたお金で購入した、子供たちへのプレゼントが詰められていたはずなんだ。それを踏まえての――たわしだ」
「はぁ」
「いや、だから『はぁ』じゃないって! たわしだぞ、たわし!」
「え? 子供たちがみんなたわしを欲しがってるってことじゃないんですか?」
「何で子供が一致団結してたわしをサンタに願うんだよ! ホームセンターのおじさんじゃないんだよ俺は!」
「まぁ確かにホームセンターっていうよりはホームレスのおじさんって言った方がしっくりきますけどね、くっ、くくくくっ」
「うるせーよ!! 何で自分で面白くなっちゃってるんだよ!」
 ここ数日この助手と生活を共にしてきたが、ずっとこんな調子なのでいい加減ストレスでハゲそうだ。
「もう話が進まないから、一回タワシが袋に詰められてるのはおかしいっていう前提を置こう。……で、だ。実は袋の中にこんな手紙が入っていてだな……読んでみ」
 助手に、たわしによって所々穴の開いているヨレヨレの紙を手渡した。
「どれどれ――『お前が用意したプレゼントはたわしがわたしに変えておいた』」
「違う。逆逆。たわしとわたし逆になってる」
「『さぞ今頃、たわ……わたしがたわした、あ、わたしたたわしをみてたわたわ……ん? ああ、わたわたしていることだろう。わたしは……ん?たわしは……わたし?』」
「なんかたわしの迷路にはまっちゃってるよ」
「よくわかりませんが怪盗たわしって人がプレゼントをとってちゃって、その代わりにたわしを置いてったっていうことはわかりました」
「あ、結構理解してたのね」
「よくわかりませんがプレゼントは諦めてたわしを配るってことでいいんですね?」
「あ、全然わかってなかったや」
 10秒程彼女は考え込み、そして苦い顔をして呟いた。
「え……もしかしてプレゼントを取り戻しに行くって展開なんすかコレ……」
「露骨に嫌そうな態度するなよ! たわしをサンタさんに渡された子供の気持ちを考えて! そしてタワシを渡された子供の顔を見るサンタさんの気持ちも考えて!」
 えー、と助手は渋る。
「手がかりもないのにどうすんすか……もういいじゃないっすか、おもちゃ屋行けば解決ですよこんな話」
「そういうこと言わないの! ほら、外国でしか売られてないおもちゃとか、すっごいレアなおもちゃとか、そういうのもあるんだからさあ。あれを取り戻さないとだめなの!」
「じゃあアマゾンでぽちればいいんすよ。サンタの格好した配達員がきっと届けてくれますって」
「お前サンタを前にしてよくそんなこと言えんな……。まあいいや。そうそう手がかりだけどね、そこは抜かりないよ」
「なんなんですか?」
「手紙の裏に住所書いてある」
「怪盗ぬかりありすぎじゃないっすか」
「んで、まぁ結構遠いし、取り戻したとしてもそのまま夜迎えるだろうからな……移動手段としてトナカイを呼んで直で向かってしまおう。何せ俺サンタだしね」 
「じゃあ私いらないっすね」
「いや、何でトナカイ来たらお前不要になるんだよ! お前のポジションは一体何だ!」
 帰ろうとする助手の首根っこを掴んでとりあえず座らせる。
「ちょっと待ってろ。今トナカイ呼ぶから」
 俺は懐から細い筒を取り出した。
「なんすかそれ」
「トナカイを呼ぶ笛だ」
「……ただのリコーダーにしか見えないんですけど」
「まぁちょっと待ってみ。これ吹くとすげーから。トナカイがちょっぱやでやってくるから」
 笛に口をつけ、息を吹き込む。
 室内に、チャルメラのメロディが流れた。
「なんなんでしょうね、このストーリー全体に漂うしょっぱさ」
「いや、マジこっからクリスマスらしくなるから! トナカイにサンタだぜ? もうジングルベルって感じだから!」
 どたばた、という騒々しい足音がどこからともなく響いてくる。
「ほら、きたきた、トナカイが今にもひょっこりと――」
 ドオオオオオオオオオン!!! 
 ひょっこりどころか轟音を上げて壁をぶち抜き、そいつは現れた。
「ウッス!! トナカイ、只今参上しやした!!」
 どう見ても上半身裸でパンツ一丁の、ガチムチの顔の厳ついおっさんだった。頭に付けられている被り物の角と、赤い鼻だけが申し訳程度にトナカイ要素を醸し出しているだけである。
 助手はほほう、と感心した様子でおっさんを見つめた。
「へぇ〜…トナカイってイラストとかでしか見たことなかったんですけど、実物はやっぱりイラストとは違うんですねぇ。なんかただのヤクザにしか見えませんもん」
「いや、これは紛れもなくトナカイじゃなくてただのヤクザなんだけど……」
「ウッス! トナカイっす!」
「へぇ〜…トナカイってもっと可愛い鳴き声だと思ったんですけど、実物ってこんな太ましいオッサンみたいな声なんですねぇ」
「いや、これは紛れもなくただの太ましいオッサンなんだけど……」
 なんだこれ。こんなオッサンがデリバリーされるなんて聞いてないぞ。
「とりあえずお前は誰だ。言葉次第では器物損害と不法侵入及びわいせつ物陳列罪で110番するぞ」
「何を言ってるんですかいサンタさん……あっしは正真正銘トナカイですぜ……」
「トナカイとの共通点が哺乳類であるっていう点しかねえじゃねーか!」
 思わず頭を抱える。こんな時でも淡々としている助手に問いかけた。
「なあ、おかしくねーかこれ。ちゃんとしたトナカイがくるって本部からは聞いてたんだけど」 
「まぁよくあることじゃないですか。通販で買った服が、実際届いたら想像してた色味と違った、みたいな」
「いや色味どころか物自体違うだろうがコレ。クーリングオフ発動させっぞコラ」
「そうですかい……あっしはサンタさんのお役に立てそうにないってことですかい……」
 トナカイは体を震わせ、俯いたかと思うと、
「でしたらそのお詫び、この命を持ってさせていただきやす!!!」
 とパンツからナイフを取り出して自分の腹に当てだした。
「おっ、おいいい!! いいって! そういうことしなくていいんだって!!」 
 慌てて止めに入り、ナイフを取り上げる。と思えばまたパンツに手を突っ込み、
「くっ、腹を切らせていただけねぇっていうんならこのチャカで!!」
 と今度は拳銃を取り出して額に当てていた。
「いや、だからいいって、わかった、わかったよ! お前でいい! お前がトナカイでいいから!」
 もはや投げやりである。
「い、いいんですかい! なんて仁義の厚い方だ……サンタさん! あっし、この命尽きるまでどこまでもお供いたしやすぜ!」
「何でノリがいちいちVシネなのこのオッサン!!」
「ともかくこれで移動手段が出来たってことですかね」
「こいつが移動手段ってなんだよ! ゴツイオッサンに白ひげのオッサンがおんぶしてもらう絵面ってなんだよ! どこがクリスマスだよ! ただの地獄絵図だよ!」
 叫ぶ俺の肩を、トナカイはそっと叩く。
「安心してくだせぇ。これでもあっし、ロマンチストですぜ?」
「だからどうした! ロマンチストだろうがなんだろうがお前はただのオッサンなんだよ!!」
「とりあえずクリスマスソングを口ずさみながらお運びするんで、それで一つ!」
「余計気色悪いわ!」
「話がまとまったことですし私は仕事上がりますね」
「何もまとまってないわ! むしろ混沌と化してるよ!!」
「とりあえずサンタさん、あっしの背中にどうぞ」
「何でパンイチで汗かいてるオッサンの背中に乗らなきゃいけねーんだ! ちょっと待ってろ! 最低限の対策をするから!!」
 俺は借家へとトナカイを名乗るオッサンを連れて走り出した。
 そして悪戦苦闘すること20分。
「ソリとトナカイをつないだらそれっぽく……なってないし四つん這いのおっさんがロープでそりに繋がれてるっていうさっきよりも最悪な状態になったけどまぁしょうがないか……」
「あ、すいません。消しゴム忘れたんで家帰っていいですか?」
「小学生でもそんな理由じゃ家に帰らんわ!! お前ほんっと業務態度最悪だな!」
「お二人、早く乗ってくだせぇ。雪が地肌に触れてさっきから痛くてしょうがないんですわ」
「もうほんとなんだこの状況。何がしたいんだコレ」
 どうしようもないので渋々ソリに乗り込む。続いて助手が横に座った。
「隣に座ってるからってマジセクハラとかやめてくださいね」
「お前みたいな貧相な娘に誰がセクハラするか」
「その発言がもはやセクハラなんですが」
 助手を無視し、先ほどの怪盗たわしからの手紙を渡す。
「とりあえず誰かに見られたら通報されかねない奇妙な状況だし、さっさとこの住所のところ向かってくれ」
 トナカイはふんふんとそれを見て頷き、
「了解ですぜ。お二人、しっかり捕まっててくださいね。うおおおおおおおおお……ふんっ!!」
 と、ソリを引っ張り出したのだが……。
「あの……あのさ、おい、ちょ、ちょっと? おい。おい! お前なんかすんげー踏ん張ってるけどさっきからぜんっぜん進んでねぇぞ!!」
 ソリは一ミリも進んでいなかった。すげえゴリゴリの体格してるのになんで非力なの。
「うおおおおおお、待ってくだせぇ、ここから、うおおおおおおおおおおおお――お、ぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
 突然トナカイは腹を抑えてその場に膝を屈した。
「お、おい、どうした。なんかえげつない声出てたけど」
「す、すいやせんお二人さん……踏ん張った拍子に……いま……ウンコ、漏らしやした……」
「は?」
「すいやせん……タクシー呼んどくんで先行っててくだせぇ……トイレ行ってきやす」
 トナカイはそう言うやいなや、腹とケツを抑えて走り去ってしまった。
「は? お、おい、ちょ……え!? なんだアイツ、マジで消えやがった!」
 待っても待ってもトナカイは帰ってこず、本当にタクシーがやってきてしまった。
「いや、確かにタクシー来たけども……っ。ほんと一体何しに来たんだよあのオッサン!」
「まぁ冷静に考えればタクシー乗った方が早いですしおすし」
「うるせーよっ。なんだよ、サンタがタクシー乗ってプレゼント取り返しに行くって! クリスマス感全然ねーよっ、ぐだぐだすぎだよ!」
「ほら、わがまま言ってないで乗りましょうね」 
 何故か俺が助手にあやされる様な形になり、不本意ながら彼女に引っ張られてタクシーに乗せられた。
 タクシーには、かなり若く、端正な顔立ちをした、黒いロンゲの運転手さんが乗っていた。V系のバンドでもやってそうな風貌である。
「お二人……どこへ向かいますか……」
 運転手さんが俺たちに声を掛けてくる。なんだか声が小さいし震えているような……?
 俺が怪盗たわしの手紙を見せようとポケットに手を突っ込んでいる時にはもう助手が運転手さんにメモを渡していた。
「とりあえずこの住所へ」
 なんだ、あんなに職務に対する熱心さが見られなかったけど、ちゃんとプレゼントを取り戻そうという思いは持っていたんだな。よかったよかった、と思いながらそのメモを覗き込む。
「ってこれお前んちの住所じゃねーか! どんだけ自分ん家帰りてぇんだよ!! させねぇーぞ! 帰さねーぞ今夜は!!」
「やめてください、セクハラで訴えますよ」
「そういう意味じゃないわ!」
 狭い車内で睨み合う俺たち。運転手さんが困ったようにイケメンフェイスをこちらに振り向いてくる。
「お二人、それで、どこへ……うっ、げほっ、げほっ、ぐえっ、おえぇぇぇぇ……っ」
 突然、運転手さんが咳き込み、身体を丸め出した。
「ちょ、運転手さん大丈夫っすか!? なんかとてつもなく不安にさせる嗚咽だったんですけど!」
 心配になって身を乗り出すが、運転手さんに手で制される。
「大丈夫です……多少血を吐いたくらいですから……」
「ああ、そうですか――って、え? 今なんて?」
「それで、行き先はどこでしたか……ああ、そうでした、行き先はあそこでしたね……」
「ちょ、何で空を仰いでるんですか? ねぇ、ちょっと?」
「お客様にとって最初で最後の運転……逝かせていただきます」
「ちょっ、何不吉なこと言ってるのこの運転手さん!?」
 運転手さんの危ない言葉に慌てふためく中、助手が俺の服の袖をちょいちょいと引っ張った。
「ねえサンタさん。乗った時から不思議に思ってたんですが、何でお腹にナイフ刺したまま運転してるんでしょうこの人」
「おま、それ先に言えよ!! むしろ今までなんの反応もしてなかったお前の方が不思議だよ!!」
「じ、実は先ほど少し事故ってしまいまして……ですが大丈夫です……人はいずれあの空という目的地に向かうのですから……」
 虚ろな目で空を見上げる運転手さん。全然大丈夫そうには見えなかった。
 っていうか事故って……ナイフ刺さってる状況からどう見てもコレ事件なんだけど……
「運転手さん、ちょっと落ち着いて聞いてください」
 助手が運転手さんの肩を掴む。
「あと1時間で私がいつも見てる昼ドラが始まっちゃうんです。だからさっさと出発して私の家むかえこのうんこカス!!」
「鬼か!! っていうか妙に家に帰りたがってると思ったらドラマ見るためかこのやろう!!」
「ああ、見える……光り輝く目的地が……」
「やばい、なんかもうダメそうだ!!」
 諦めかけたその時だった。
「ん? どうしたんですかい。出発もしないでこんなところでくっちゃべってて」
 先ほどウンコを漏らしたトナカイが、呑気な顔をして歩いてきた。
「と、トナカイ! とりあえず救急車を呼べ!」
「サンタさん……」
 何故かトナカイはため息を吐いて、呆れたように俺を見つめた。
「いくらあっしがウンコ漏らしたからって救急車は大げさっすわ。正直恥ずかしいですよ俺」
「ちげーわ!! この撒き散らされてる血を見て何も気づかねーのか!!」
「さ、サンタさん……何で、あっしが痔だってことを……」
「だからお前じゃねーっつってんだよ!! さっさと救急車呼べこのバカ!!」


 2.

「……ふぅ、何とか運転手さんは病院に運べたな」
「ついでにあっしの痔もなんとかなりやした」
「なんかおせーと思ったらお前も診てもらってたのか……」
 病院が意外とすぐ近くにあったので、結局トナカイにタクシーを運転してもらい、運転手さんを無事に病院へと送り届けた俺たちは、これからどうするべきか考え、そのまま立ち往生していた。
「サンタさん、これからどうしますか? ドラマまであと30分ですが」
「とりあえずお前の家へ行くっていう案はナシだからな」
 さて、しかし本当にどうするか……交通手段は失われてしまったからな……。警察も呼んどいたが、事情聴取などを受けている暇はない。すぐに出発したいところなんだが……。
 途方に暮れる中トナカイが先ほど乗ってきたタクシーを指差す。
「このタクシーで怪盗たわしのとこまで乗ってけばいいんじゃないっすかね。もう夜まで時間ないですしおすし」
「流行ってるんだかなんだか知らんが腹立つなその語尾……まあ、良心は痛むが仕方がないか。確かに手段を選んでられるほど余裕はない。よし、トナカイ運転しろ」
「うぃ」
 トナカイは唇をややすぼませて返事をした。
「何で返事が春日なんだよいちいち腹立つな……」
 と苛立ちはしたものの、トナカイの運転でひとまずは出発することができた。
「ふぅ……なんとかなりそうだな……とりあえずこの橋を超えれば……って、ん?」
 道路をそのまま順調に進むと思われたのだが、渋滞が起きていて足止めを食らってしまった。
「なんか妙に混んでますね。……あれ、なんかずっと先で検問やってますよ」
「お前よく見えるな……。しっかし検問かぁ、これまた厄介な……タクシーぱくってきてるからバレたらまずいな……」
 トナカイも神妙な顔で頷く。
「ええ、しかもあっし無免許ですしね……」
「……え?」
「ん?」
「おまえ……そんなことひとっことも聞いてねーぞ」
「いや、レースゲームの登録カードあったので行けるかなぁ、と」
「行けるワケねーだろ!! それ警察に見せてどうなるってんだよ! せいぜいゲーセン談義に花咲かせられるくらいだろうが!!」
 トナカイの肩を揺さぶる俺の腕を、助手がまあ落ち着いてくださいと掴む。
「しょうがないですし、いよいよ私の出番ですね」
「助手!? いけるのか!?」
「ええ行けます。アホトナカイと違ってこの魔法のチケットがあれば現実で車乗り放題なんすよすごくないっすか」
「へーどれどれ……ってこれゴーカートの券じゃねーか!! それで車乗り放題なの遊園地だけだから!!」 
 さすがに法律の壁を破ることはできず、頭を抱える。
「くそっ、万事休すか……」
 再び窮地に追いやられた俺たち。そんな時、タクシーの窓をノックする者がいた。
「安心してください、皆さん。私が運転を変わりましょう」
 それは、先ほど吐血していたイケメンの運転手さんだった。
「うおっ!! さっきの運転手さん! ……え、つーかあんた今までどこにいたの?」 
「実はこっそりタクシーの席の下でスタンバってました」
「ちょ、怪我は大丈夫なの!?」
「まぁ余裕です、あんな傷ちょっぱやで――げほっ、ごぼっ……治してきました」
「ちょー満身創痍!!」
「タクシーの運転手として、お客様を送り届けられないのは不覚の極み……。この私に、後は任せてください」
 トナカイを助手席に移し、運転手さんがハンドルを握った。エンジン音が唸りを上げる。
「お、おお! 別に渋滞の中だから運転自体は何も変わんないけど、やっぱゲーセン野郎とは違って安心できるな!」
「なんてひどいこと言うんですかい。そんな事言うからまたウンコが近くなってきたじゃないっすか。ぶっちゃけさっきから漏れそうっすどうしましょ」
「お前どんだけ腸ゆるっゆるなんだよ!」
「あ、そうだ」
 助手がぽんと両手を打つ。
「ちょうど橋の上にいることだし、いざとなったら川っていうでっかい水洗トイレあるじゃないですか」
「それナイスアイデア」
「じゃねーから! 別の容疑で捕まるわ!」
 俺が怒鳴ると、トナカイは頭を抱える。
「くそっ、万事休すか……」
「おい、それさっきの俺の真似か? なあ、実はなめてんだろ?」
「もうすぐ検問です。ここを超えればトイレはすぐありますから耐えてください」
 運転手さんの言う通り、渋滞の列は随分と進んでいた。
 しかし、そこで助手が異変に気付く。
「……なんか検問の人たちすっごいこっち見てません?」
「え? まだ俺らの番じゃ……あれ? なんかすっごい見てる」
「あれ、今あっしと目があったような」
「まぁせんとくんみたいなおっさんがパンイチでいるからな。そりゃ見るよな」
「ちょっ、人を歩く猥褻物みたいな言い方しないでくださいよ!」
「みたいなもなにも歩く猥褻物そのものだからねお前」
「いや、どっちかっていうとヤクザみたいな風貌のせいで睨まれてるのかもしれませんよ」 
「まぁ人の二、三人は軽く殺してそうな顔してるしなコイツ」
「ちょ! なんなんすかさっきから〜! あっしはこう見えて超草食系男子っすよ! 人一人どころかアリ一匹殺せませんよ!」
「それはそれでなんかキモイな……」
「まぁあっしのウンコは殺人級の臭さですがね! あっはっは!」
「お前マジ漏らすなよな。マジで漏らすなよな!」
「あ、なんか検問の人近づいてきましたよ」
「ほら、やっぱこいつだよ。ぜってー前科者だよこいつ。この検問もお前のせいなんだろ? まあムショでも元気でやれよな」
「ちょ! まじっすか! く、くぅ〜……まさかあの時の野糞で死人が出てたとかじゃ……」
「いや、それはどう考えてもないだろ……」
「あ、ちょっといいかな〜」
 警察が窓をコンコンとノックした。
「ほら、お迎えが来たぞ」
 トナカイは覚悟を決めたように顔を上げ、呻くように言った。
「おまわりさん……牢屋とトイレは別にしてくだせぇ……俺のウンコは下手したら人を殺しやす」
「い、いや……君には用はないんだが……」
 警察の視線は運転手さんに向いていた。
「ん? 私に何か?」
「いや、あんたにセクハラされたっていう通報をちょっと前に受けててね……車のナンバーもあんたの容姿も通報の内容と合致するんだ。ちょっと署までご同行願えるかな」
「ばかな……私がセクハラなど」
「そ、そうですよ! こんな良い人がセクハラなんてするわけありません!」
 慌てて俺も否定する。この人はかなり変わってるが、俺たちを助けてくれた恩人であることには変わりないのだ。
「私はただ女性を目的地に送り届けただけです! その時おっぱいは触りましたがあの淫乱女感じておりましたのでセクハラには入らないはずです!」
「おまわりさん! この人でまず間違いないです!」
 俺は即座に考えを改めた。
「今日はゲテモノと何度も出くわしますね……」
「ん? 助手さん、何であっしを見て言うんですかい?」
 運転手は助手をしげしげと見つめ、そして口を開く。
「ふむ……そこの毒舌女、口と心は真っ黒ですが、私が席の下から覗いた感じでは下は雪を思わせる白色のパンティーでしたね」
「…………」
「すげえ、あのいつも無表情な助手がドン引いてる」
「色々余罪も加わったことだし、ほら、署に行くよ」
「ふん! どうせ署に連れて行き、縄で縛り、手錠プレイや監禁プレイなどあの手この手を尽くして私を性玩具にしようと考えてるんでしょ!」
「考えてねーよ」
「しかし考えが甘かったですね! 私はもはやオーガズムの極地に至った、言わば性の玄人! あなたがたの生ぬるい性刺激ではイクことは愚か感じることさえないでしょうね!」
「この人何言ってるの?」
 警察が助けを求めるようにこちらに視線を向ける。俺はただ首を横に振ることしかできなかった。
「もうさっさと逮捕しちゃってください」
「……あれ? どうしたんですかサンタさん、そんな不感症になってしまったかのような不安そうな顔をして」
「もうほんとあんたの頭がガチで心配です」
「安心してくださいサンタさん、あなたがたは必ず目的地に送り届けますから」
「あれ、会話が成り立たないぞ?」
「と、いうわけで申し訳ないポリスメンの皆様方。ここはイカせていただきます。今はお客様がたを目的地――私と同じオーガズムの極地へとお連れしなければならないのでね」
「違う違う。目的地違う違う」
「ここはこの改造タクシーの全力を注ぎ、超えさせていただきます!」
 おもむろに運転手がハンドル下につけられたレバーを引くと、物々しい音と共にタクシーの形状が変化した。
「な、なんだ!? タクシーの側部に羽とジェットが現れたぞ!」
 警察の言うとおり、タクシーはまるでどこぞの怪盗アニメのように出鱈目なフォームチェンジを遂げていた。
「それでは出発!」
 ジェットの発射音がその場に轟き、タクシーが空に向かって垂直に上昇していく。 
「いざ、オーガズムの極地へ!!」
「いや、だから違う違――うーーーーー!!??」
 そして俺たちは、空を駆けた。
 今の時代にこんなオーバーテクノロジーがあっていいんだろうか……。
 ソリとは違う浮遊体験に複雑な心境の俺。一方隣に座る助手は相変わらず時計を気にし、前に座るトナカイは腹を押さえて唸っていた。相変わらずむかつくほどマイペースなやつらである。
「それにしても……」
 そんな中、運転手は首をかしげていた。
「あの検問はなんだったんでしょうねえ」
「お前がそれを言うか、この性犯罪者」
「どうやらひどい誤解をしておられるようだ。私は一人の女性を悦ばせただけです。あなたに分かりやすいよう例えるなら、砂漠で今にも倒れそうになっている人に水を差し上げたというだけのことですよ」
「そうだったら警察に訴えるわけないだろうが……」
「きっとウブだったのですね」
「何をどうしたらそうなるの?」
「まあそれはともかく……」
 運転手は眼下の渋滞に一瞥をくれた。 
「仮に私が痴漢行為に及んでいたとして、これほどの大規模な検問をするものでしょうか……」
 仮にも何も痴漢行為だわ、と突っ込もうと思ったが、その前に、
「お前なんか刺されてたみたいだしそれ関係じゃないの?」
「いえ、あれは個人的なトラブル、要するに事故なので」
 個人的なトラブルて……やっぱ痴漢行為したから刺されたんじゃねーの?
 まあ俺には関係ないし、どうでもいいか……。

 
「……と、いうわけで」
 俺は眼前にそびえる薄汚れた大きなビルを見つめた。
「たどり着きましたね、怪盗たわしの住居に」
 助手が自宅への最短ルートをスマホで調べながらそう言った。
 そう、着いてしまったのである。
 なんかこう、もっと大スペクタクルな冒険があるのかと思ったのだが、運転手のオーバーテクノロジー改造タクシーによって、こうもあっさり着いてしまったのだ。
「なんだろう、このストーリー全体に漂う安っぽさ」
 俺は再び頭を抱えた。一つもクリスマスっぽくない。ただの茶番だコレ。
 溜息を吐く俺の隣で、トナカイがうんうん唸っている。
「さ、サンタさん……そろそろ俺の肛門括約筋が限界を迎えそうなんですが……」
「あ、そういやトイレ寄るの忘れてたな。もう少し我慢しろ、な?」
「いや、そう簡単には言いやすが、正直気を抜いた瞬間ここ一帯うんこの海になりそうなんすが……」
「お前の腸はなんなの? 排水管?」
「ところでここは何の店なんでしょうか。私、できればナースコスの子がいる店がいいのですが……」
「もうアンタは勝手に風俗でもなんでも行ってろよ……」
「もうちゃっちゃと終わらせましょう。ちゃっちゃと終わらせて家に帰ってこたつでのんびりしながら録画したドラマみたい。仕事辞めたい」
「お〜い、胸のうちの本音がダダ漏れになってるよ、抑えて抑えて。ほら、入るよ」
 錆びついたドアを開けると、ギィ……という鈍い音が響いた。中は薄暗くてほこりっぽく、「随分埃臭いな……」と思わずつぶやいてしまうほどである。中々に広い空間で、ホテルのエントランスを思わせる構造をしている。
「……ここが後々ウンコ臭くなるって考えると……どうっすか?」
 そう俺に問うトナカイはとても深刻そうな顔をしていた。どうもなにも最悪の極みだったが、これ以上アホがうつるといけないので俺は無視を決め込んだ。
「それにしても薄暗いですねぇ。かなりエロティックです」
 一方運転手は一人で勝手に頬を紅潮させ、息を荒くしていた。本当にキモい。
「……サンタさん、あれ見てください。ドアが三つにあります」
 助手の言う通り、数メートル先に三つのドアが並んでいた。暗い中目を凝らして見ると、何か表札がかかっている。
「んん? トイレの部屋、て右の扉には書いてありやすね」
「左にはオーガズムの部屋と書いてあります」
 この距離と暗さでは表札の存在を確認するのがやっとなのだが、トナカイと運転手は目を凝らす様子もなくハッキリと表札に書かれた文字を口にしていた。近づいてみると本当にその文字が書かれていて軽く引いた。それぞれよほど執着のある単語なのだろう。
「真ん中にはプレゼントの部屋って書いてありますね……」
 助手が表札を手に取って呟く。……なんだかとてもきな臭さを感じる。
「なんだろうな、このあからさまに分断させようとしてる感じは……つーか何でウンコ野郎とオーガズム野郎がいるってわかるんだ」
「ずっと監視されてたってことなんですかね」
「え、怪盗たわしってただのアホな雑魚キャラだと思ってたけどそこまでするやつなの……?」
『何を失礼なことをっ!! この僕、怪盗たわしが雑魚キャラだとぉぉぉっ!?』
「うおっ、なんだ突然!」
「うぐぉっ!」
 突如としてエントランスに響き渡る甲高い声に、思わず驚いてしまってトナカイの腹に思い切り肘鉄を入れてしまった。他意はない。
「どうやら天井に取り付けられてるスピーカーから音がしてるみたいです」
 助手の見上げる先を辿ってみたが、暗くてそんなもの確認しようもない。さっきから何だこいつらの野生動物並みの視力。まあ頭の中身も野生動物並みだけど。
『僕はずっと貴様らを観察していた! 手紙の裏に住所を書いたのは君たちをこの屋敷に誘い込むためだ!』
 なるほど、ただのバカではなかったらしい。度を越えたバカだ。つまり俺と一緒に居るこいつらと同じということだな。
『僕はサンタというやつが嫌いでね! いつかぎゃふんと言わせようと思っていたんだ!』
「今すぐにサンタさんぎゃふんて言うらしいんでプレゼント返してください。そして家に帰らせてください」
「おいこら、誰が言うか」
『ふっ、プレゼントがほしくば、このドアの先に待つ罠を潜り抜けて僕のもとに来い! それ以外にこのプレゼントを取り戻す方法はない!』
「よーしとりあえずみんなで真ん中の部屋進もうぜ」
 俺は即座に真ん中のドアノブに手を掛けた。
『こっ、こら! ちゃんと分担して進めよ! せっかく部屋分けて用意したんだからそこは三手にわかれて進めよ! 言っとくけど三手にわかれて進まないとゴールにたどり着けないようになってるんだからな! そこはちゃんと作り手の意図に従って動いてよ!』
 なんか遊園地の係員みたいなセリフだな……。
『いいな! 三手にわかれて進めよ!? 僕待ってるからな! ここで待ってるからな!』
 ぶちっという音の後、静寂がエントランスに戻ってくる。
「なんだこの緊迫感も緊張感もない状況は」
「ここで立ち往生もなんですし、さっさと四手に分かれましょう。トナカイは右へ、変態は左へ、サンタさんは真ん中へ、そして私は家へ」
「ここまで来てまでも帰ろうとする助手の熱意は認めるが帰るのは認めんぞ!」
「まぁ私もサンタさんを上司とは認めてませんしおあいこってことで一つ!」
「一つ! じゃねーよぶん殴るぞコラ」
 助手の腕をがっしりとホールドし、俺はドアを見据えた。 
「怪盗たわしは『三手にわかれて進まないとゴールにたどり着けない』と言ってたな。それが嘘か本当かはわからんが……」
「あっしなら平気ですぜ! 例えどんな罠が待ち受けていようが突破致しやす! まぁその時はウンコも肛門を突破しているかもしれやせんがね! ハッハッハ!」
「おまえに至ってはそれが目下の心配事なんだが……」
「私も大丈夫ですよ! 例えどんな性的な拷問が待ち受けていたとしても、それは私にとってことごとく快楽にしか変換されませんからね! はっはっは」
「うん、まぁあんたに限っては最初から頭の心配しかしてないかな」
「サンタさん、私も――」
「おまえは俺がついてるから何の心配もないな! 一緒に真ん中のプレゼントの部屋、攻略しようぜ!」
「なんですかそれ、私とフラグ立てようとしてるんですか気持ち悪い」
 助手を殴りたくなる気持ちをグッと抑え、咳払いをして再びドアを見据える。
「ともかく――行くぞ、お前ら。ここまで来たらなんとしてもプレゼントを取り戻そう。プレゼントを取り戻すっていうことはつまり、子供の夢を、ひいては笑顔を取り戻すということと同じだ。取り戻すぞ、子供の笑顔を」
「…………何ですかそのカッコつけたセリフは」
 助手は珍しく無表情を崩し、何か複雑そうな顔をしていた。
「別に格好なんて余計なものはつけとらん、本心だ」
 そう言うと、トナカイと運転手がガッと勢いよく俺の手を掴んできた。気持ち悪い事この上ないんだが……。
「サンタさん……あっしシビレやした! 感動しやした! 初めはただの白髪の浮浪者かと思っていやしたが、ちゃんとサンタさんだったんすね!」
「俺は今でもおまえをトナカイじゃなくてただのオッサンだと思ってるけどな」
「私も感動しました……とても……濡れてます。とても……熱くなってます」
「うん、まぁ目頭がってことにしとくよ」
 何か明後日の方向に感動しているトナカイと運転手とは違い、助手は尚も眉を顰めていた。
「私は……私は認めてませんよ」
「まぁ逆におまえに認められたらそれこそ『ぎゃふん』て言ってしまいそうだわ。……うし、無駄話はここらへんにして……行くぞ!」
 そして俺たちはそれぞれのドアを開けた。

 3.

 ドアを開けてからしばらくは一本の長い廊下が続いていた。明かりは左右の壁にいくつか取り付けられたろうそくだけであり、お化け屋敷のようななんとも不気味な雰囲気がある。
 その廊下を無言で歩いて行くと、また表札のかけられたドアがあった。モニターの部屋と書いてある。
 ドアを潜ると、エントランスのような広い空間に出た。
「名前の通りでかいモニターがありますね。それに、入ってきたドアを除いて三つドアがあるみたいです」
 助手の言う通り、正面の壁の上方には大きなモニターがあり、その下に一つのドア、そして左右の壁にそれぞれドア一つずつあった。
 しばらく室内を観察していると、急に部屋が明るくなる。先ほどまで黒一色だったモニターが、映像を映し出したようだ
『やあ愚かなサンタたちよ! よく来てくれたね! って、あれ、助手の子も来たのか……ま、まあいいや』
 そこに映っていたのは、なにやらごわごわとした茶色いお面をつけた不審人物だった。よく見るとそのお面はたわしをいくつかくっつけた物のようである。とすると、このアホが怪盗たわしか。
 しかし何で助手が来たことに反応してるんだろう……。帰ると思ってたのかな。
「それにしてもほんと悪役のお決まりみたいなのをことごとくやるなコイツ……」
「中二病から抜け出せてないんですよ。察してあげましょう」
『ほ、本当に口の減らないやつらだね君たちはっ! ちょっとはお口チャックしたらどうだい!」
「だってよ助手。口閉じろ口」
「じゃあサンタさんも同じように口閉じてください。あ、ついでに鼻の穴も閉じてくださいよ。なんか最初は苦しいけど最後には楽になれるらしいですよ」
「へぇ〜そうなんだ。おまえが手本見せてくれたら、やるか否かをじっくり吟味しながら安らかな余生を送るわ」
『ほんっとにうるさいやつら……でもね、そんなおしゃべりな君たちも、この映像を見たら開いた口が塞がらなくなるはずさ……!』
「なんだコイツ、口を閉ざしたいんだか開かせたいんだかどっちなんだ」
『うるせーよ!! 言葉の綾だよチクショウ!! いいからこれ見ろこれを! VTRどーん!!』
 気の抜けるかけ声の後、映像が怪盗たわしから、薄暗い廊下に切り替わった。そこに、見覚えのある人物が映っていた。
「なんかトナカイさんが映ってますねぇ」
 複数のカメラを取り付けているのだろう。走るトナカイの映像が色んな角度で切り替えられながら映し出されている。一瞬ケツをアップに映し出された時は吐きそうになった。
『う〜ん、なかなか目的地に到着しないぞ……? どうなってるんだ? トイレはどこだ?』
「なんでいつの間に目的地トイレになってんの?」
『くそう、なめやがって……トイレを出しやがれクソめ……!』
「こいつここに何しにきたんだよ……」
『子供たちの夢だぞチクショウ……!』
「おいコイツ俺の話の何を聞いてたんだ。何を聞いて感動してたんだ」
『む?』
 トナカイが突然立ち止まり、何かを凝視し始めた。数秒の沈黙の後、身体を震わせてゆっくりと前へ進んでいく。トナカイが見ていたのは一つのドアだった。なぜかは知らないが、やつは緊張した面持ちでドアノブを捻っていた。
 トナカイが部屋に入る。と同時に映像もその部屋の様子を映し出す。
『こ……この部屋は……!』
 トナカイが目を見開いて硬直した。それは俺と助手も例外ではなかった。
「なっ、これは……」
「な、なんて……」
 三人とも、その光景を見て言葉を呑む。
 そして――トナカイが咆哮を上げた。
『た、たわしで出来た便所だとォォォォォォ!!!』
「「なんてアホな……」」
 二人同時に溜息を吐いた。
『紙もタワシ! 便座もタワシ! ま、まさか……』
 ぽんぽんぽんぽん、という間抜けな音が響く。
『ウォ、ウォシュレットのボタン押したら、こっ、小型のタワシが便器から飛び出てきたァァァァァァ!! な、なんだこの悪魔のトイレはァァァァァ!!!』
「何であいつあんなテンション高くなってんの?」
「自身にとってのメッカであるトイレが多大なる変貌を遂げていてショックなんじゃないですか?」
「変貌も何も、ただのたわしだからねアレ」
『こ、こんなもの、こんなもの見せられて、俺は、俺はァァァァッッ!!』
 ザクッという嫌な音。そしてトナカイの叫び声が轟いた。
『ウオオオオオオオオオ!!』
 トナカイは、何故かそのたわしトイレに座り込んだのである。俺も助手もあんぐりと口を開けて呆けてしまった。
『くぅぅぅ、タワシがケツに刺さる。刺さるゥゥゥ! それでも……それでもトイレならば俺は、俺はァァァァ!!』
 とてつもなく嫌な予感がした。
「あれ、まさかアイツ、あのトイレでする気じゃ……あ! 力んでる! するつもりだ! ぜってぇするつもりだあいつ! おい、マジで――」
 それからのことは……説明したくない。
「なんつーきたねぇ映像なんだ……」
「しばらくご飯食べれないです……」
 げんなりとする俺たちと違い、トナカイは恍惚としていた。……なんで?
 しばらく満足げにしていたトナカイだったが、俺たちでは到底想像し得ない何かに気付いたようで、『俺は……俺はバカだっ』ともっと早くに気付いてほしかったことをぼやいて両手で顔を覆った。
『ウンコは終わった……だが、トイレはこれで終わりじゃないんだ……』
「何言ってんのあいつ?」
『……ケツの汚れをとり、心身共にスッキリするまでが……そう、トイレなんだ』
「もう一回聞くけど何言ってんのあいつ?」
『例え罠だとしても……』
 トナカイは震えながらもウォシュレットのボタンに指を添えた。
『俺は、トイレを崇拝する俺は……この道を、避けられないッッ』ぽんぽんぽんぽん(たわしが飛び出る音)『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! ケツに! ケツにタワシがァァァァァァァ!!』
「何やってんのアイツ!? もう行動の全てが理解できないんだけど!!!」
『くっ……サンタさん……すいやせん、俺はここで終わる……ですがトイレは悪くないんです……トイレは、決して悪くない……っ。悪いのは、悪いのは、ただ……うぐっ』
 ケツがタワシまみれになったトナカイは、心底何かをやり遂げたという満足そうな顔でその場に倒れた。
「そうだな……悪いのはそのトイレじゃないよな……」
 おおよそ理解の及ばない映像だったが、それでも一つだけわかることがある。
「まず間違いなく、お前の頭が悪かったな……」
 その直後、トナカイの姿がブラックアウトし、違う廊下の映像に切り替わっていた。
『ふぅ……結構階段登ったな……』
「映像が切り替わりましたね」
「今度は運転手か……」
『一体目的地はどこにあるのでしょう……パイオツカイデーな姉ちゃんが100人いる桃源郷は……』
「コイツも早々に目的地見失ってるんだけど」
「ホントエロい事しか頭にないですねこの変態」
『ムッ、ようやくドアが現れたぞ!』
 ガチャッ。
『こっ、これは……!』
 運転手が目を丸くする中、隣で助手は首を傾げていた。
「ん? 何ですかアレ。たわしで出来た筒?」
『これは……た、たわしのオナホール!!!』
「なんでそーなるの?」
『こ、こんなものを見せられたら私は、私は……』
 運転手はおもむろにズボンのチャックをおろし、そして――
『いれるしかないじゃないかァァァァァ!!!』グサグサグサグサッ(たわしが刺さる音)『グアアアアアアアアアア』
「だからなんでそーなるの?」
『はぁ、はぁ…罠であろうがなんであろうが……穴があればいれる……それが男のサガというもの』
「そうなんですか、サンタさん?」
「一緒にすんな。そんなのはこいつとプロゴルファーくらいだよ」
『私の身体は限界か……ぐふっ、げほっ……サンタさんあとは頼みます……おっぱいの桃源郷に、どうか……』
 トナカイのように下半身丸出しのまま、運転手は倒れた。
「いや、だから向かってないってのに……」
 運転手の映像もまたブラックアウトし、顔面をたわしで覆っているアホの映像に切り替わる。なんなんだこのモニターは。アホしか映さねーのか。 
『ははははは! どうだサンタよ! おまえの仲間はまんまと罠にハマり、残すはお前たちだけになったぞ!』
「罠もバカだったけどまさかあいつらがそれを上回るバカだったなんてな……」
「ところで私達ってどうなるんでしょう。もしかしてこの部屋に閉じ込められるとか?」
『ははははは! そのまさかだ! 実はお前たちがこの部屋に入ったその時に、ドアには自動ロックが掛かっている! あのおバカ二人が部屋を突破し、さらにそこから幾多もあるトラップをくぐり抜け、この部屋の左右のドアを開けなければロックは解除されない!』
「両側のドアはあいつらの通路に繋がってるのか……」
「マジですか……サンタさんは煮るなり焼くなり好きにしていいんで私だけ開放してくれませんかドラマが見たい」
「おまっ、たかだかドラマでサンタさん売るか普通!?」
「サンタさんの価値なんてドラマのDVDの値段より低いです」
「言い切った! 言い切ったよこの子!」
『何をしようが出す気なんてないね! まぁ僕もそこまで凶悪ってわけじゃないから、クリスマスが終わったら出してあげるよ。クリスマスが終わったら君たちはもはやサンタでもなんでもなくなるからね! あ、助手の子だけは今日中に出してあげるから安心してね』
「何で助手だけ優遇してんの? そんなん許せるわけあるか! 俺は子供たちにプレゼントを配らなきゃいけないんだ! 助手と一緒に俺もさっさとここから出せ!」
『サンタを憎んでる僕が、そのサンタの声に耳を傾けると思うかい? 精々そこで悔し涙に暮れればいいさ! はっはっは!』
 そこでモニターの映像は消えた。
「くそっ!」
「なんて卑劣な!」
 俺と助手は同時に地団太を踏んでいた。
「お……まさか助手と意見が一致するとはな」
「ええ、今日中に出すと言われも、早くしないとさんま&SMAPに間に合いませんからね……」
「うん……やっぱ全然一致してなかったや」
 力が抜けてしまい、俺はその場にへたりこんでしまう。
「なぁ、真面目な話、なんでお前そんなやる気ないの? 本部はお前を俺の助手につける時『優秀なやつだ』て紹介してたのに」
「……弘法筆を選ばず、とはよく言いますがね。弘法に選ばれた筆というのは、それはもう幸せな気持ちなんでしょう」
「俺が弘法じゃないって言いたいのか」
「いいえ……違いますよ」
「……え?」
 また憎まれ口でも叩かれるかと思っていたら、帰ってきたのは否定の言葉だ。
「弘法に選ばれたはいいものの、その弘法が筆を使い潰すような人だったら……筆は、どんな気持ちになるんでしょうね。使い潰された筆はもうまともな字が書けません。まぁつまりは、そういうことですよ」
「そんな比喩で説明されてもよくわからん」
「人が言いたくないエピソードを教えてあげてるんですからある程度は察してくださいよ。空気読んでくださいよ。もしかしてサンタさんって……その…………直接的な表現は避けますが――バカなんですか?」
「うるせーよ! 既に直接的な悪口だよ! そういう、シリアスなのが苦手なの! 悲劇より喜劇が好きな人間なの! だからそういう表現には慣れてないんだよ」
「前からわかってましたけど、サンタさんってやっぱバカなんですね」
「トナカイと運転手を見たあとだと全力で否定したくなる言葉だな……」
「こんなに態度悪いし口も悪い助手、クリスマスを迎える前にさっさと解雇すればいいのに」
「助手が自虐的な事を言うなんて驚いたな」
「事実を述べたまでですよ。私は不思議なんです。理解不能なんです。色んなサンタの助手をしてきましたが、あなたみたいなサンタは初めて。たいていみんな本部からの『優秀』て言葉に私に期待を寄せてきますが、クリスマス前に助手を変えますよ」
「そんなの、今ここにお前がいることが答えだろうが」
「……は?」
 助手は、豆鉄砲にでも撃たれたような顔をしていた。
「お前はどうしようもなく態度悪いしすぐ家に帰りたがるし不真面目だし……欠点を上げれば数え切れないくらいだ。でも俺はお前を辞めさせない。お前は自分のことを使い潰された筆だと形容したが、俺にはそれがわからないんだよ」
「わからないって……自分で言ってるじゃないですか。私は態度が悪いしすぐ家に帰りたがるし、不真面目です。それが、ようするに使い潰された筆だってことじゃないですか」
 首を横に振り、その言葉を否定する。
「俺は、まだ文字を書いていない」
「え?」
「俺は、どうしようもなく持ちづらい筆を掴んでいる、ただそれだけだ。文字を書かなくちゃその筆の価値はわからない。たとえ弘法でも、俺はわからないと思うぞ」
「……それはまぁ過大評価をありがとうございます」
「何勘違いしてんだ。俺は、クリスマスのプレゼント配りの仕事をどれくらいこなせるかでお前の価値を見出そうとしてるんだ。まだまだお前の本当の能力はよくわからん」
「まぁ、その能力を審査する機会もおじゃんになりつつありますがね」
「おじゃんにするもんか。俺は絶対に諦めん。子供たちに夢を与えられないサンタなんて、そこらへんに転がってる空き缶よりも価値がない」
「そうですか……空き缶として送る第二の人生がんばってください。今の内に転がる練習しときます?」
「しねーよ! 俺が今することは、あのドアをなんとしても破壊することだけだ」
 そうだ。こんなところにへたり込んでる暇はない。プレゼントを取り戻さなければ。
『ははは! それは無理だね!』
「うおっ、突然出てきやがった……」
『そのドアは最近改装したばかりのものでね。例えトラックが突っ込んだとしても壊れることはない!』
「いや、さすがにそれはないですよ。ゾウが踏んでも壊れない筆箱くらいないですよ」
「随分昔のネタを持ってくるねお前も……」
『無駄口ならいくらでも叩くといい! このドアを超えるには、あのトナカイと運転手が罠を超えた次の部屋に行くしかないんだ! だが見てみろ、トナカイと運転手は、この通り罠にハマっ……て……あれ?』
 先ほどトナカイが汚物を撒き散らしたたわしトイレの部屋。相変わらずたわしが散っていたが、しかし、そこにトナカイの姿は無かった。
『なっ、ばかな!?』 
 怪盗たわしの慌てふためく声。運転手が痴態を晒した部屋も映ったが、彼もそこから姿を消していた。
『あれっ、あの変態運転手も消えてる……? ま、まさか……っ』
 その時、両側のドアが同時に開いた。
「あっ! サンタさんに助手さんじゃないっすか!」
「これはこれは……三つの分かれ道はここに合流するようにできていたんですね」
 現れたのは、二人のアホ面だった。と、いうことは……。
 モニターの下のドアに手を掛ける。予想通り、ドアノブは何の抵抗もなく回り、すんなりと開くことができた。
『えっ、嘘!? 嘘だろっ?! あのバカたちが部屋を超えて、ロックが外れるなんて……』
「お前ら! よくやってくれ、た……だ、大丈夫か? なんか体中タワシが刺さってるが……」
「確かにあの部屋の後も色々とありやしたが、あっしは全然大丈夫ですぜ! ウンコさえ出せればあとのことは大抵気になりやせんから!」
「お前にとってウンコってなんなの? 生きる目的なの?」
「私に至ってはこんなもの、快楽でしかなかったですね」
「まぁ、あんたはそうだろうと思ってたよ……」
「……あれ? サンタさん!」
 助手がモニターを指差した。
「モニターからたわしが消えましたよ?」
 見れば、やつの居た部屋の映像は映し出されてるが、室内にその姿がない。
「逃げたってことっすか?」
「だろうな……先を急ごう。何をしでかされるかわからん!」
 ドアを越え、続く廊下を駆けていく。それにしても何て適当な構造の建物だ……。室内の8割くらい廊下じゃないか、これ。
「サンタさん、あれを見てください!」
 運転手が前方を指差す。そこに、たわしの部屋と表札が掛けられたドアがあった。
「前々から思ってたが何で部屋にいちいち名前をつけるんだろうあのアホは……」 
 ぼやきながらもそのドアを開けた。
「ここは……あのモニターに映ってた部屋だな」
「なんか、寒いですね……風が漏れてるんでしょうか」
 室内を見渡すと、部屋の隅に上へ続く階段があった。トナカイが身を震わせながら階段に近づく。
「風が来てるのは、この階段のところからっすね。いやぁ、確かに寒いっす。なんか鳥肌立ってきやした」
「そりゃお前パン一ならそうだろうよ……」
 運転手が階段を目を細めて見据える。
「タワシはあの階段を登って逃げた、てところですかね」
「だろうな。風が漏れてきてるってことは屋上に出るのかもしれん」
「そこから外に逃げたって可能性もなきにしもあらずですね。しかし、外に逃げるということは……何か、空を飛んで逃げる用意でもしている、ということでしょうか」
「確かにそうだ! 急ぐぞ!」
 俺たちは階段を駆け上った。
 いよいよクライマックスだ!!

 

 4.

「よし、こいつで……」
「怪盗タワシ! 遂に見つけたぞ!」
「サンタ! もう来たのか!」
 案の定たわしは何やら空を飛びそうな機械をいじっていた。しかし、空を飛ぶ、と言ってもあれは……。
「とてもじゃないですが、人を脱出させる機械には見えませんね。私には小型のロケットかミサイルのようなものにしか見えませんよ」
 運転手がみんなの印象を代弁する。たわしは体を震わせて笑った。
「ふっふっふ……そのまさかだ……。何もあの罠でおまえらを今日足止めできなくとも、僕にはこの手段があったのだ……。サンタよ。このロケットをよく見てみろ!」
「何だ? 何を……あ! 俺のプレゼント袋がロケットに括りつけられてる!!」
「なるほど、魂胆が見えてきました」
「僕はね、お前にこれを渡さなければそれで勝ちなんだ。それ以外はどうでもいい。サンタよ! これが、僕の復讐だ!」
 たわしは何のためらいもなく、ロケットに付けられたスイッチを押した。
 轟音と煙を上げ、ロケットは空へ飛んでいってしまう。
「なっ!! なんてことを!!」
「このロケットはある一定の距離まで飛行したら爆発する仕組みになっている。つまり、プレゼントは大空高くで木っ端微塵になるということだ!」
「おまっ、そこまでするか!? 復讐つったな! 一体サンタに何の恨みがあるってんだ!」
「あるさ……山よりも大きく、谷よりも深い理由がな……」
 てれれれれ〜ん
 気の抜ける音楽が流れたかと思うと、怪盗タワシはマイクを持ってしゃべりだした。
「それは、僕がまだ冬に夢を持っているころ。まだまだ何も知ることのない小学生のときだった……」
 やつは、目をつぶって語り始める。
「おい、なんか始まったぞ……」
「僕の家はほかの家より貧しく、服もごはんも質素なものだった」
「モノローグ調に語ってるのがなんか腹立ちますね」
「それでもクリスマスだけは毎年、裕福なほかの家庭の少年少女と同じような気持ちで迎えられた。クリスマスには、特別にチキンライスが出るからだ」
「あれ? なんかあっしそんなクリスマスソングどこかで聞いたことあるような」
「今日〜は〜」
「やめろ! 予算をJA○RA○に持ってかれるぞ!!」
 俺らのコントも目に暮れず、怪盗タワシは語り続ける。
「毎年お母さんが作ってくれるチキンライス。炊飯器で作ったバナナパンケーキ。それだけで、僕の心は満たされていた。
 ……しかし、世の子供たちにはそのあとのイベントの方に重きが置かれているらしい。僕の頭には、クリスマスというものが、食事が豪華になる日、という認識しかなかったため、友達からプレゼントのことを聞かされた時は驚いたものだった。ついでに言うと、僕の家にテレビはなかった。
 小学3年生の頃だろうか。うちが貧乏であることをよくやり玉にあげられる時期だった。僕はつらくて、でもお母さんやお父さんを困らせたくなかったから、我慢して布団の中でこっそり泣くしかなかった。プレゼントを両親が買う余裕なんてあるはずがなかった。僕は、サンタなどという慈善組織の存在を全く信じていなかった」
 運転手は腕を組みながら首をかしげる。
「ふむ。私は子供の頃サンタさんを信じていましたけどねえ。なんて言ったって私が読みたいジャンルのエロ本やAVが的確に枕元に置かれてありましたからね」
「それがサンタであれ親であれ最悪には違いないがな……っていうか子供の頃からそんなんなのかお前は」
「しかし、その年のクリスマスである。両親は顔を輝かせて僕に告げた。
『サンタさんがやってきてくれるわ!』
 僕は耳を疑った。そんなはずはない。そんなものがいるはずがない。しかし父も母も目の前にいる。であれば親戚か? いや、頼れる親戚なんて僕の親にはいない。ということはどういうことだ。本当にいるのか? サンタとかいうやつは。
 少々ませてたというものの、子供であることには違いない。僕は胸をときめかせ、目を輝かせてサンタを待った。
 そして、その時は来た。図ったかのような雪が降る中、白ひげの恰幅のいいおじいさんが、にこにこしながら我が家へやってきた。
 それはもう興奮した。まさか本当にいるなんて! こんな貧しい家にも、やってきてくれるなんて! 
 サンタは僕に笑いかけながらプレゼント袋を探っていた。僕はわくわくしながら待った。そして――袋からサンタが取り出したのは、リボンの付いたたわしだった」
 その場が静寂に包まれる。
 誰も彼もが野次も飛ばせないような居た堪れない空気だった。
「え? たわし? は? なんだこれ。いや、なんだこれといってもたわしだ。たわし以外の何物でもない。
 僕はサンタが間違ったのだろうと思って彼の顔を窺った。
 彼は、先ほどからまったく変わらない穏やかな笑顔でたわしを握っていた。そして、たわしを持つ手を、僕の方へ近づけた。
『プレゼントだよ、ぼうや……くっ』
 サンタはこらえきれなかったようで吹き出していた。
『このたわしで、両親を手伝ってあげるんだよぼうや。そしたら、そしたらきっと来年はもっといいものがプレゼントになっているはずだよ』
 サンタは笑いをこらえてぷるぷる震えながらそう言った。目はあらぬほうに逸れていた。
 僕は、これは悪いいたずらか何かなのだろう、つまるところドッキリとか何かなのだ、と疑い、両親の顔を見た。
 ――嘘偽りなく、よかったねと言いたげな穏やかな顔だった。
 あ、これはいたずらじゃないな、という確信に至った。それを確かめるようにサンタの顔を見た。
 もはや僕に背を向け、腹と口元を押さえながらぷるぷる震えていた。
 僕はいろいろとあきらめ、リボンを解いた。リボンを解いてもたわしはたわしだった。それから翌年のクリスマスまでの一年、台所は常時ピッカピカだった。
 ……そして翌年、またクリスマスが来た。
 僕は小学4年生になり、同時に台所磨きの達人となっていた。友達からのあだ名は台所のだっちゃんだった。泣いた。
 しかしもはやそれも終わる。僕の一年の努力は、今年のプレゼントという形で実を結ぶ。
 また雪が降り、サンタがやってきた。サンタは僕の顔を見てにっこり笑った。ああ、これはいける、と確信した。今度こそいいプレゼントがもらえるはずだ。
 だけどどうしてだろう、サンタは笑顔を崩していないが、歯の隙間から絶え間なく白い息が出続けている。フッ、フッ、フッ、と息が荒い。何となくプルプル震えている気がする。いや、きっと気のせいだろう。両親とともにサンタを出迎える。
 サンタが、
『君の活躍は見ていたよ。すっかり台所はきれいになった。君は良い子に過ごしていたようだね』
 と言った。台所基準で良し悪しが量られる小学生というのも僕くらいだろうなぁと思いながらも、いやきっとほかの子も何らかの試練が課せられているのだ、と考えることにした。
 サンタが、去年と同じようにプレゼント袋に手を伸ばす。僕は胸をわくわくさせながら待った。はたして台所をきれいにして得られるプレゼントとは何なのか、想像もつかない。
 そしてサンタが満を持して取り出したプレゼントは―――リボンで彩られた、トイレブラシ、たわしタイプだった。
 僕はずっこけた。漫画のように盛大にずっこけた。
『ぼっ、ぼうや……ぷっ、プレゼ、ふふふふ、プレゼントだよぉ』
 もはや笑いを隠し切れず、挙句の果てに語尾までのびちゃったサンタは僕にトイレブラシたわしタイプを差し出した。棒の先にたわしがついているそれは、サンタが噴き出すたびに激しく揺れた。
『き、くぷぷっ、きっとね、ふふ、これでトイレを掃除すりゃ、は、はははっ、頑張ってね!』
 僕はそのわけのわからないサンタの言葉を聞いて、茫然自失としながらそれを受け取り、いやこれは悪い冗談なのだ、と思って両親の顔を見た。
 ――観音菩薩を思わせる穏やかな笑顔だった。ほんとうに悪い冗談だったな、と思った。
 サンタの方へ振り返ると、サンタは雪の上で腹を押さえて笑い声を上げながらのたうちまわっていた。僕の心は深淵のまた深淵、アビスのなかのアビスへと向かい、沈んでいった。
 その日から、それはさながら降り積もった清廉なる雪のように、僕の家のトイレは白くきれいになった。ご近所一帯もきれいになった。学校のトイレまできれいになった。全部僕が磨き上げた。あだ名はトイレクリーナーになった。泣いた。その涙さえもトイレに流した。
 そしてまたクリスマスが来る。
 僕は諦観にも近い心持で、しかし淡い期待を持って、その日を迎えた。
 両親はもはや朝から弥勒菩薩像のようなアルカイックスマイルだった。そのまま出家でもするんじゃないかっていうくらいの見事なアルカイックスマイルだった。僕はいやな予感をふつふつと覚えつつ、それでも気持ちを諌めて夜を待った。
 サンタは、またしてもやってきた。雪もまたしても降った。僕と弥勒菩薩二体でサンタを迎える。サンタは、僕を見た瞬間吹いた。そして近くにやってきて、
『ぼ、ぼうやああーーっはっはっははは!! くっ、くはっ、ははは、ヒィーーー、ヒィーーー!』
 それは笑いで言語になっていなかった。もはや謎の雄叫びである。サンタはもうもったいぶるようなことはせず、ボールをパスするかのようなにたわしを僕に投げてきた。生涯で最高にフランクなプレゼントの渡され方だった。僕はずっこけることもなく、冷静に手元を見た。
 そのたわしは、金だわしだった。
『ハァーーーハッハハハハ、ウヒィーーーーー! イヒィーーーーー! くはっ、くはっ、ヒィーーーー!』
 サンタは僕を指さし、謎の雄叫びを上げて腹をたたいていた。両親は相変わらず弥勒菩薩だった。
『たわしっ! ウヒッ! ヒヒヒッ! たわしでっ、ひぃっ、ひはっ、はーーーははははは!』
 もはやたわしで何をどうこうするという指示さえも笑いで掻き消えていた。僕の中の、クリスマスに対する期待もまた、その笑いで掻き消えていた」
 てれれれれ〜ん
 気の抜けるSEがまた流れ、怪盗タワシはマイクをしまい、俺たちに写真を突き付けてきた。それはたわしの山だった。
「見ろ! 毎年のプレゼントを集めた写真だ! たわししかないだろ! たわししかないじゃないか! なんだよこれ! クリスマスに謎のたわし攻めってなんだよ! おかげさまでなぁ! 家中ぴっかぴかだよ! 真っ白だよ! まぶしくて落ち着かねぇよ!」
「まあ落ち着けよだっちゃん。だっちゃんならこんなアホなことしなくても清掃員として安泰な人生送れるって」
「やかましいわ! だっちゃん言うなっ! 僕はサンタを許さない! 僕の子供時代から夢と希望を奪ったサンタを絶対許さない!! そして裕福な子供も! おもちゃやゲームをもらえることが当たり前だと思ってる傲慢な子供も! 僕はまとめて復讐する! ふ、ふふふふふ、もうプレゼントは空のかなただ! 追いつく手段はない! お前たちはおとなしくたわしを配って回るしかないんだ! 子供たちも、僕のようにたわしをもらうしかないんだ! は、ははははは!」
 たわしの笑い声が轟く中、助手が首をかしげながらこちらに耳打ちしてくる。
「サンタさん。これはサンタ総本部から派遣された人の仕業でしょうか」
「んなわけあるか。ただの意地悪な近所のオッサンのオイタだろ。俺らは関係ないわ」
「何をごちゃごちゃと! お前らに関係あろうがなかろうが、僕がサンタを、クリスマスそのものを憎むことは変わらない!」
「そんなことに何の意味があるってんだ。そのサンタと俺たちには何の関係もないし、そして多くの子供たちにとってもプレゼントを奪われる理由にはなりゃしねーよ!」
「黙れ! あの時僕を蔑み笑ったやつらを絶対に許さない! そうさ、許さないぞ! この世界を!」
 そのあまりにも大袈裟な発言に、助手が呆れ顔をしていた。
「……サンタさん。何かサンタを憎む理由が、蓋を開けてみればすごいしょうもない癖に無駄に尺を取る内容だった上に、それを誤魔化すかのように魔王みたいな大それたこと言い始めてるんですが」
「おまっ、なんて的確かつ一切間違いのない正論を言ってるんだよ。やめとけよ。そういうの一番恥ずかしいんだぞ本人は。相手がそういうテンションできてんだから、こっちもそれに乗ってあげるんだよ。よし、こっからはシリアスでいくぞ。このしょうもないストーリーをぴりっと締まらせるぞ」
 すると今度は運転手まで溜息を吐き始めた。
「すいませんサンタさん。今は締まらせるとかぴりっと感じるとかそういう猥談は控えてください。シリアスですよシリアス」
「一切そんな話してねーんだよ黙ってろセクハラドライバー」
 今度はトナカイが眉根を寄せる。
「ちょ、サンタさん……あっし横文字聞いてると片頭痛が酷くなるんです。そういうのマジ控えてください」
「何でお前の低知能に合わせて和製英語禁止ゲームみたいなことしなくちゃいけねーんだよ。そういうのいらないんだよ。今物語のクライマックスなんだよ」
「うっ、頭が……」
「腹立つなこいつ……」
「ちょ、お前ら何こそこそ話してるんだよ! 見ろよ! プレゼント飛んでるよ!? ロケットどんどん空に向かってるよ!? 絶対絶命のピンチだよ! 僕にとってはチャンスだよ!?」
「うっ、頭が……」
「おい、お前のせいで全く話が進まないじゃねーか。突然新しい設定加えてくんなよ。つかこれまでも散々横文字使ってたろ自分でも」
「波があるんすよ、波が。で、今は横文字片頭痛の大津波が来てるんす。ああ、トイレ行きたい……トイレに行けば大抵の病は治りやすからね……」
「っていうか、今お前トイレっつったよな? いいのか? それはいいのか?」
「トイレはあっしにとって別格の存在なので大丈夫なんですよ! そう、トイレはさながらあっしにとってのメッカ――」
 トナカイがガクッと地に膝を屈した。
「あ、頭がァァァァァァァッ……!!」
「こいつまじでアホだな」
 トナカイが頭を抱えている中、たわしが怒鳴り声を上げた。
「精々指をくわえて見ていろバカどもめ! お前らがそうやってバカをやってる限りプレゼントはどんどん地上を遠のき、そして仕舞いには炸裂する!」
「サンタさんっ! バカやってる場合じゃないですぜ!」
「散々バカやってたお前に言われなくてもわかっとるわ!!」 
 突然シリアス顔をし始めたトナカイをぶん殴ってから、たわしに向き直る。
「おいたわし! お前こんなことしてて満足なのか!? ずっとそうやって人を自分と同じような目に遭わせ続ける気か!!」
「そうだ! クリスマスなんてクソみたいな日をぶち壊す! ぶち壊し続ける! 僕の嫌いなサンタを、この世から根絶してやる!」
「だったら――」
 俺は、ニッと笑ってみせた。最高にハードボイルドな笑みである。
「偽物のサンタを嫌いになったお前に、この俺が、本物のサンタってやつを見せてやる」
「なに……?」
「命を賭けて、あのプレゼントを取り戻すっつってんだよ! ああ、くそ、さっきまでバカやってた時間がもったいねえ」
「何を……」
「お前が見ていた偽物のサンタには出来ない芸当をしてやる。サンタってのはな、空飛ぶトナカイにソリを引かれ、夜空に舞い上がってプレゼントを配るんだ」
「突然何を言うかと思えば……。そんなおとぎ話みたいなことできるわけないだろ!」
「ふん。だったら見せてやる。おい、トナカイ。いくぞ!」
 俺が何のためにこの腸と頭の緩いせんとくんコスのオッサンを連れまわしてきたのか。その理由が、遂にここで明らかになるってことだ。こここそこの物語のクライマックスであり、俺がサンタとしてその真価を発揮する時なのだ。
 だというのに、トナカイはぼうっと突っ立って鼻くそをほじっていた。
「…………おい」
 トナカイはほじった鼻くそを口に放り、むぐむぐと咀嚼している。まるで自分にフォーカスが向いていることに気付いていない。
「…………おい、お前だよトナカイ」
「………………え? 俺?」
 三個目の鼻くそを口に放った時点で、ようやくアホ面がこちらに向いた。
「え? じゃねーよ。空飛ぶんだよ。サンタ総本部から派遣されたトナカイならできるはずだろ」
「え? いや、普通に無理っす」
 ……は?
「……いやいやいや。今すげー俺大見栄切ったじゃん。すげーかっこつけたじゃん。ちょっとは察して『しょうがないっすねえ。いきやすよサンタさん!』くらいの気概見せてよ」
「いや、マジ無理っす。確かに本物のトナカイは空を駆けることができやすが、あっしは見た通りのままの人間っす」
「お前最初はトナカイだっつってたじゃねーか! てっきり人から獣化してトナカイになるんじゃねーかと期待してたんだぞこっちは!」
「いや、普通にただのおっさんっす。正直寒いんでそろそろ服着てもいいっすか?」
 そう言って身体を擦って暖を取ろうとするトナカイの姿は、確かに普通の小汚いおっさんだった。
「おい……じゃあなんでお前あの笛の音でやってきたんだよ……」
「サンタさんの担当事務の人に『あの子はもうそういうのいらないから、あんたがトナカイの恰好して行ってあげて』て言われやした。ついでにあっしの本職は助手っす」
「ちょっと待て……その話の全てにおいて理解に苦しむんだが……」
 トナカイ、もといただのおっさんは、俺の肩をぽんと叩いた。
「まぁ簡単に言えばあっしは助手なんでいくら拝んでも飛べることはないってことっすね! はっはっは!」
「はっはっはじゃねーよ! ロケットにプレゼントが括りつけられて飛ばされた時も、『まぁでもトナカイいるし楽勝っしょwww』て心の中で草生やしてた俺はなんだったんだよ!!」
「あっしもこれには大草原不可避ですわ」
「やかましいわ! トランスフォームでもなんでもしてさっさと空を駆けろこのクソ漏らし!!」
 思い切りトナカイをぶん殴り、途方に暮れる。こいつはただのおっさんだ。トナカイでなければトランスフォームもできない、ただの小汚い上裸のおっさんだ。
 ど、どうする。
 あんな大見栄切っちゃったのに、このままじゃプレゼントは……。
「空を……駆ける?」
 気まずい沈黙が流れる中、声を出したのは運転手だった。
「おいどうした……また傷口でも開いたのか?」
「サンタさん。ここまでどう来たのかお忘れか」
「え?」
「我がタクシーが十二分に活躍する機会がやってきたようです」


「まさかこの破天荒な機能がこんなところで生きてくるとはな……」
 俺と運転手は入口に駐車したタクシーに乗車していた。
「さぁ行きましょう。しっかりつかまっていてください」
「今更だが……よくここまでついてきたな。改めて言うが、お前の求めるエロい楽園はないぞ?」
「そんなことはとっくのとうに承知しております」
 どうだかなぁ……。
「私もね、恥ずかしながら夢を持ち、このタクシー運転手という道を選んだのですよ。言っておきますが、至極真面目な夢ですよ?」
「そこらへん疑われることに関しては自分の普段の態度を恨むことだな。……で? なんなんだ、夢って。そんな真面目に言われると気になるじゃないか」
「私はね……人を、目的地にいざなうお手伝いをするのが夢だったんです。要するに、夢へ向かう人のお手伝いをする、それが私自身の夢だった、ということです」
 その顔は、至極真剣だった。
「そうやってタクシー運転手を始めて早10数年。その中で、たくさんの道を知れましたよ。あらゆる先へとつながる道をね。喜びへ向かう道。安息へ向かう道。深淵へ向かう道。死へと向かう道。愛へと向かう道。そして――夢へと向かう道」
「……俺は、どこへ向かってる?」
「それは――見届けてから、お教えしましょう」


「行っちまいましたね」
「ええ」
 残された助手、トナカイ、たわしはみな空を駆けるタクシーとロケットの行方を見守っていた。
「まぁ飛ぶならあっしは重荷になりやすしねぇ。しょうがないんですが。でも助手さんまで置いてくことななかったのに」
「サンタさんには連れて行かれそうになりましたがね。運転手さんにここにいろと言われたんです」
「そりゃどうして? というかその耳につけているのはなんですか? イヤホン?」
「運転手さんに渡されました。これは……バカな男たちの歌声が聞こえる、そんなイヤホンです」
 イヤホン、というか、運転手によると最新の無線らしい。どうやら彼による自作らしいのだが……。助手は、運転手が"何の用途のために"こんな凄いものを自作するのか、一瞬考えて溜息を吐いた。
「んん? そうっすか。そいつぁまた珍しいもんですな。ところで……このたわし野郎はどうしやす?」
「ひっかきまわされはしましたが別に煮ようとも焼こうとも思いませんよ」
「僕だって大人しくそんな理不尽な目に遭うつもりはないし、お前らがあのロケットからプレゼントを取り戻せるとは思ってない!」
「ちょ! 理不尽とはなんすか! 俺は理不尽にも痔持ちの肛門にたわしを突っ込まれたんすよ!」
「どう見たってあれはお前が自主的にやったことだろうが……」
 怪盗たわしはサンタと運転手が飛び立ってから随分と大人しくしていた。というかしおらしくしていた。彼にも何か思うところがあるのかもしれない、と助手は思った。
「……ねぇ、たわしさん」
「ん? なんだい?」
「たわしさんは……本当にサンタというものを、根絶したいほど憎んでいるのですか?」
「ああ。さっきもそう言っただろ」
 トナカイは納得できないらしく、微妙な顔をして唸っていた。
「サンタといってもお前に悪さしたサンタとあっしらのサンタさんは違うじゃないっすか。それなのに……」
「トナカイさん。我々生物というのは、一個体を憎めば、その個体の種全てが憎く見えてしまうものなんですよ」
「あっしには……わからないっす。そんなこと、考えたこともなかった」
「だったら幸せなことですよ」
 助手は、心からそう思った。小汚いおっさんだが、中身はピュアな少年なのかもしれない。幸せな環境で育ってきたのだろう。それは、うらやましい限りだった。
「……君も、あるのか? 憎んだことが……」
 その表情はたわしのお面のせいでわからないが、何か複雑な感情を孕んでいるように助手は感じた。
「ええ。あなたと同じように……サンタをね」


 5.

「サンタさん、もしやあの飛行物……」
「ちょっと待て……あれだ! 間違いない。プレゼント袋がくくりつけてある!」
 嘘みたいな話だが、飛行するタクシーでロケットと並走することが出来た。もうなんでもありだな。
「タクシーで追いつける速度でしたが……それでも速い。よくあの勢いでプレゼント袋が破けませんね」
「まぁ滅多なことで破けないように頑丈にできてるからな……さて、どうするか。横付けはできないのか?」
「まず無理です。精々めいっぱい近づくというのが関の山でしょう。横付けしようとして衝突してしまえば、その時点でプレゼントだけでなく我々も星になりますよ」
「そうか……。……むむむ……かくなる上は……致し方ない、か」
 俺は、覚悟を決めた。
 それでどうなるか、わかってはいるが。
 だけど、こんな夜には、奇跡も起きるんじゃないか? なんてバカな考えが浮かんでしまったんだ。
「サンタさん? 何か良案でも思いついたんですか?」
「ああ……良案というか、もはやこれしかない、というやつだ。とりあえず一瞬でもいい。あのロケットに出来るだけ、安全な範囲でめいっぱい近づいてくれ」
「それはいいですが……安全を考えると手を伸ばして届くような距離まで近づくことはできませんよ」
「それで構わない。頼む」
「了解しました。行きますよ?」
 激しい排気音を立てて、タクシーが加速する。運転手の端正な顔が歪んでいた。
「くっ、最大でここまでしか――」
「十分だ。ありがとな」
 俺はそう言って、ドアを開け放った。飛ばされてしまいそうなほど強い風が吹き込んでくる。
「サンタさん!?」
「飛び乗る!! 今までありがとうな、変態運転手!」
 目を丸くしている運転手に背を向け、俺は空へ飛び立った。


『……と、いうことになってしまいました。今、サンタさんは必死にロケットにしがみついてる状態です』
 無線から聞こえてきた言葉に、助手はほとほと呆れていた。
「あの人は……ほんとうにバカですね」
『どうします?』
「どうしようもないバカです」
『あれでは片道切符だ。例えプレゼント袋を取り外せても、降りることはできない。しかし降りなければロケットはいずれ爆発する』
 最悪だ。
 そんな最悪な道を、あのバカはとったのだ。
 助手は理解できなかった。しかし、同時に理解をしている。矛盾。自らの考えと、そして彼の考え。双方が存在するから故の、矛盾。
『もう一度聞きます。どうしますか、助手さん』
「……なんででしょう、含みを感じます」
『残念ながら、私ほどの紳士ともなれば、女性のなかが手に取るようにわかってしまうのです。ですから、助手さんのなかは丸見えです』
「……は?」
 嫌な予感、というか生理的嫌悪が全身に伝った。
『例え清楚系をきどっている女がいるとしても、なかが真っ黒というのは私にはバレバレ、ということです。ああもうあのときは真っ黒でがばっがばで私は絶望しました。ですがたまにギャルギャルしい子のなかが堅牢な門で閉ざされていた時は――おっと、もちろん私は相手が服を着ている状態でそれを当てていますからね? しかも顔だけを見て』
「あの、何の話をしてるんですかコレ」
『助手さんにお会いした当初、こいつはビッチ臭がすると感じたものです。この心眼を使わずともわかると。しかし、なんででしょう。だんだんそれは違うかもしれないと思ったのです。そしていざ心眼を使ったら――なんてことでしょう。あなたは処――』
「ぶっ殺しますよ」
 運転手の言葉を遮り、殺気の籠った声を吐き出した。
『わかってると思いますが、全て比喩表現です』
「その比喩表現が不快だというところまでわかってくださいませんか」
『失礼いたしました。私が言いたかったのはですね、あなた、思ったより悪い娘ではないということです。むしろ、あなたは清廉かつ、正しい心を持った人だ』
「……はぁ、それは、どの人も過大評価をありがとうございます」
 バカ――もとい、サンタのアホ面が、彼女の頭に浮かんだ。
『ただ、あなたはひねくれてしまわれた。その清廉さを、正しさを、歪みに埋めてしまった。あなたほどの心の持ち主がそうなるということは、だいぶ痛めつけられたのでしょう。身も、心も』
「……まるで占い師ですね。転職をおすすめします」
 醜悪な顔が、鋭い鞭が、侮蔑の言葉が、彼女の脳裏によぎる。
 最悪な記憶。
 クリスマスを憎む理由になった記憶。
『占いなんてできません。色んな人間が道を往くのを見ているから、なんとなく判断することが出来るだけです』
「それはそれはシャーロックホームズ並に冴え渡った名推理ですね」
『私が言えるのはここまでです。後は、あなたの心次第だ』
「何を言って……」
『もう電池が切れてしまうのでね。――是非ともお願いします。サンタさんのバカな行為を聞いたでしょう? どうか、もう一度、そんなバカな人間を信じてください』
 運転手にそう言い残され、一方的に無線を切られた。
「……言うだけ言って切るなんて」
 バカな人間を信じる……。
 あの運転手。変態なだけかと思ったけれど、認識を改めるべきか。助手は苦笑を浮かべた。
「助手さん……い、一体誰と会話をしていたんです? その……悩みなら乗りますよ?」
 気付けばトナカイが不審及び同情の籠った目をこちらに向けていた。
「病んだ独り言じゃないので平気です。これ、無線です。サンタさんが今、ロケットに飛び乗ったという話を聞きました」
「な……」
 驚愕に目を見開いたのは、たわしだった。
「どうやらあの人は、本当に命を賭けてプレゼントを取り戻そうとしているみたいですね」
「う、うそだろ!? ほ、本当に爆発するんだぞあのロケット! そんな、そんなことを、サンタみたいなやつが……」
「……そういえばあの人、かっこつけてこんなことを言ってましたよ。『プレゼントを取り戻すっていうことはつまり、子供の夢を、ひいては笑顔を取り戻すということと同じだ。取り戻すぞ、子供の笑顔を』なんてね」
「……子供の、夢? 笑顔?」
「人間としても、サンタとしても、あなたのトラウマになったしょうもないサンタとは大違いということですね。本当に愚直で、プレゼントで子供を喜ばせることに生きがいを感じているような人なんでしょう」
 そしてそれは、今まで出会うことのないサンタだった。
 作業化されたプレゼント配達。
 彼らにとって、ただの業務となりつつあるクリスマスの夜。
 鬱屈とした彼女の日常に、その男は突然現れた。
「その為に命を賭けるって? たかがプレゼントに? な、なんてバカだ……」
「そうですね、とてもバカです。今回のサンタさんは、ほんとうにバカでした。……でも、サンタさんだけじゃない。みんなバカだ。トナカイの格好をした助手のおっさんも、犯罪者なのにタクシーを運転している変態も、たわしによってサンタに復讐を図ろうとした怪盗も。みんなみんなバカだ。ほんと、バカばっか。人間はバカばっかです」
 溜息を吐きながらも――彼女の心は、とても、信じられないほどに晴れやかだった。
「そんなバカに囲まれているから私も……バカになっちゃったみたいですね。あのバカを、もっと見てたいなぁ、なんて」
「じ、助手さん?」
 困惑するトナカイおよび、それに扮したおっさんに、彼女は頭を下げた。
「本当はね、私は助手じゃないんです。ごめんなさい。私のせいで、あなたはこの珍道中に巻き込まれてしまった。でも楽しかったですよね? 私はなんだかんだ、今までで一番楽しかったですよ。……ああ、やっぱ謝罪は撤回します。なんかあなたに謝るというのはとても情けない」
「なんだかよくわかりませんが、あっしがとても失礼な扱いを受けてるということだけはわかりましたっす!」
「上出来です。さて、そろそろサンタさんもしがみつくのが限界でしょうし、私は行くことにします」
「え? 何を――」
 突然、助手の身体が輝き始めた。その光はとても眩しく、そして温かいものだった。
 あまりのまぶしさに目を覆っていた二人の前に、その"動物"は現れた。
「えっ、えええっ!?」
 光が消えた後、そこに居たのは一匹のトナカイだった。片角は折れ、所々毛のない線が付いているが、それを感じさせない程立派で威風堂々とした姿だった。
「へっ……変身した!?」
「その姿は……とっ、トナカイじゃないっすか!? いっ、一体どういう……はっ! まさかそれが、トランスフォ――」
「違います」
 助手および、トナカイとなった彼女は、即座に否定した。
「……これは、まぁ、魔法の力としか言い様がないですね。私たちが空を飛べるのは魔法を使えるから。そして私が人間の姿をしていたのも、魔法を使えるから。どうです? 夢があるでしょう?」
「そ、そんなあっさり言って納得できるものじゃ……」
「助手職をしているのに随分な驚かれようですね」
「あ、あっしは新人っすから……本物のトナカイは初めて見たっすよ」
「魔法を使える、といっても、片角が折れた不格好なトナカイですよ。随分と、乱暴な扱われ方をして……ムチによって体中ミミズ腫れだらけになって、しまいには角まで折られて……私は、サンタというものが嫌いになりました。ひいては、人間そのものを。だというのに人間の格好をして助手業をし、生活の駄賃としているのだから……まったく、笑える話ですよ」
「そんな事情が……総本部が助手さ……いえ、トナカイさんを優秀だと称していた理由がわかった気がします……」
「なんだかややこしいですし、助手でいいですよ。まあ、助手業をしていることは総本部には筒抜けでしたから。全てね。憎かったですよ。変身の魔術が使えるからって『優秀』だなんて……そんな言葉で、檻の中から逃がしてくれない総本部も、私をぼろぼろにした人間も、なにもかも」
「だったら! だったら、なぜ……なぜ君は、空へ、あいつのところへ向かおうとしている!?」
 彼女は、じっとたわしを見つめた。彼は、自分に似ている、と彼女は思った。先ほどサンタを恨む理由をつらつらと語っていたが、"彼の心の闇"はそれ以外の何かを伴っているように感じられる。きっと、今回の一件はその鬱憤晴らしだったのではないか。妙に彼の心にシンクロしているものを感じ、彼女は不思議に思った。しかし、その感覚を否定しようとも思わなかった。似ている。近しい。そう感じているからこそ、言いたい。伝えたい。
「さっきも言いましたが――バカが、うつったんですよ」
「そんな……赦せるのか、君は……」
 顔を覆っているたわしの面で、彼の表情を窺うことはできない。しかし、やり切れない感情を吐露するその姿を通し、助手が見た憎しみの正体はサンタの姿ではなかった。もっと、もっと広い範囲の"現実"のように思えた。
「そりゃあ人間への憎しみはあります。ですがね……あのバカに、シリアスは通じないんですよ。この世のこと、様々な形で在る理不尽。それを打ち破るのは、きっと、あの人のような、愚直なまでの信念、つまり、バカさなのでしょう」
「そんな……そんなっ!」
「それにこのままじゃ、せっかく途中でクビにならずに長い間働いたっていうのに、あのバカのせいで給料減らされてしまいます。助けてやる代わりに給料上げてもらわなくっちゃ、ふふ」
 茫然と立ち尽くす二人に、彼女は、トナカイの姿で笑って見せた。
「それじゃ、みなさん――ちょっと早いですが、メリークリスマス。ちょっくら空へ、サンタさん迎えに行ってきます」
 そう言って、空の彼方へと駆けて行った。
「……行っちまいやした」
「……なんだよ、それ」
 たわしは、膝をついて頭を抱えた。
「ワケがわからない。命を賭けてプレゼントを取り戻そうとするサンタも、本当に空を飛んじまったトナカイも……。まさか、本当に……居るのか?」
 彼の心になかった存在。ずっと欲していて、しかし手に入らなかった、そんなひとかたの、夢。
「子供に夢を与える、トナカイに引かれて空を飛ぶ"本物"のサンタが……」
「そりゃあ……」
 トナカイもとい助手のオッサンは、空を見上げた。
「あの人たちがいなきゃ、クリスマスなんて日、カレンダーに存在しないっすよ」


「こ、こを…は、ず、せば……よし! 取れた! プレゼント袋外せた! あとは降りるだけ! 降りる……だけ……」
 下を見て、俺は溜息を吐いた。
「いや、助けが来るまでこれにしがみついてればいいんだって! そうそう、助けが来るまで……に、爆発しないわけはなさそうだ……爆破までのタイマーが付いてるが、針が0になるまで、あと三分ってところか……」
 さすがの俺も、この時ばかりはお手上げだ。
 参ったね、こりゃ。どうしようもない。楽観的になりすぎたな。常識ってちゃぶ台が、頭の中でひっくり返っちまった。ま、悪いことじゃあないか……周りはバカばっかだったが、結局俺もその一人だったってことだ。そいつぁ、悪いことじゃない。俺は喜劇が好きだからな。
 ロケットから身体を離し、ぐんぐんと上昇していくロケットを見守った。
「さらばロケット。星になれ」
 落下しながらかっこつけた瞬間だった。
 ロケットが、眩い光と熱波、轟音を伴って爆発した。
 あっぶねえ……気まぐれで飛び降りといて正解だったとは……なんたる幸運。しかし、どうするか。プレゼントの袋を抱き込みながらスカイダイビングとは間抜けだ。パラシュートもない今の状況。これじゃあ死ぬ。気まぐれで稼げた寿命は数十秒ほどか。
「まぁ、悪くない人生だった」
 サンタという、"現実の壁を越えた事象"である自分が、果たして人間と同じ意味での"死"を迎えるかどうかはわからないが。
 消滅、という意味合いでは同じかもしれないな。
 それは、なんだか寂しい、とそう思ってしまった。
「ところがどっこい。コンテニューです」
 聞き覚えのある、感情の起伏を感じられない声がした。
 と同時に、俺はふかふかのソファに着地していた。信じられない座り心地だ。落下していたというのに、まるでここに吸いつけられたかのように、身体にフィットする。衝撃の一つも感じなかった。一体何だろう、とまわりを見渡す。
 それは、ソリだった。
 サンタがトナカイを駆る、あのソリだった。
「えっソリ!? 俺がローン組んで買いながらもトナカイが居なかったために使用することのなかった柔らかソファ付きソリ! な、なんだ、どうなってるこれは、どうなって……あれ? 今そういえば助手の声しなかったか?」
「いいえ、してませんよ」
「いやいやしてるし」
「私はトナカイなので違いますね」
「いや、この声は助手に間違いな……い……ん? え? トナ……カイ?」
 こちらに顔を向けて話しかけている存在。それは、まごうことなきトナカイだった。あのオッサンのことじゃない。立派な角と、雄々しい脚を持った、あのトナカイだ。
 な、何故トナカイから助手の声が……。
「ふふふ、その驚いた顔。傑作ですよ。……さぁ行きましょうサンタさん。私の価値の高さというものを、存分に味あわせてあげますよ」
「な……おいおいおい……は、はは、はははははっ……こりゃもう、笑うしかないね。こいつはもう、笑いながらジングルベルだ」
 ま、いっか。
 きっとそういうことなんだろう。
 そういうことがどういうことなのか、なーんてのは無粋ってもんだ。
 クリスマスは、奇跡が起こる日なんだからね。なんでもありなんだよ。

 そうして俺たちは、気持ちよく空を舞った。

「まんまと命を救われましたねサンタさん」
「まんまと命を救われちゃったよ、助手に」
「サンタの命を救った優秀な助手改め優秀なトナカイ。新聞の一面を飾る記事になりそう。これは給料審査が楽しみです」
「まぁ今日までの暴言の数々の分給料は差っ引くけどな」
「一方器のちっちゃいサンタさんは新聞に写真さえ乗らず、サンタ(無職)と表記されるのでした」
「バカ言え。子供の夢を守った男だぞ」
「私はその男を守った女です」
「『あの』助手に我慢をし続け遂に仕事をさせた俺の勝ちだ」
「『あの』サンタさんに我慢し続け遂にここまで仕えた私の勝ちです」 
「トナカイになっても口の減らないやつだ」
「当たり前です、トナカイだって口の数は変わりませんからね」
「こりゃ一本取られた」
 助手はかすかに笑った。初めて見る笑顔だった。
 人間ではなく、トナカイの姿だったけれど……いい笑顔しやがるじゃねえか、って思った。その顔が見たかったんだよ、俺は。お前を選んだ時からな……。
「見ろ、イルミがこっからでも見える」
「何若者ぶって略して……ルミ?」
「ん?」
「あ、いえ……多分、気のせいです。それにしても綺麗ですね……」
「ああ……」
 俺は満足しきっていた。そして安心しきっていた。もうこれで全て終わりだ、と。全てがまとまって、これでキレイなエンディングだと……。
 そういえば、とふと思い出した。
 色々な騒動で忘れていたけど、今って何日だったっけ……。
 携帯をいじってみる。
 そこに表示された日付は――12月23日。
「……焦らずともよかったのか……?」
 まあいいか。とにかくプレゼントは戻ってきたことだし……。
 しかし、毎度のことながら時間感覚がわからなくなる。これが、サンタという存在となった自分のデメリットとも言えるものだが……まあいいや。
 ソリの後部に乗っているプレゼント袋に手を伸ばす。空を舞っている間に漏れていないかを確認しようとした。
 ずっしり詰まっているのが分かる袋。重量もかなりのものだ。帰り道に背負って歩いたときは、随分買ったものだなあ、と苦笑交じりに満足感に浸ったもんだ。危うくぎっくり腰になりそうだったが。
 ワクワクしながら袋の口を開く。ここまで長かった。しかし、ようやくこのプレゼントで詰まった袋が俺の手に……。
「……ん?」
 開いた瞬間目に飛び込んできたのは、プレゼントの山なんかじゃなかった。
「なっ!?」
「サンタさん?」
「なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!」
 
 そこにぎっしり詰まっていたのは、目にまぶしい程の煌めきを持ったルビー、サファイア、ダイヤモンドなどの宝石の数々だった。 
 
 
 第二話「サンタはアホを否めない」

 1.

「どういうことか、説明してもらおうか」
 プレゼントの入った袋を、たわしの入った袋にすり替えられ、珍道中の末にようやく元の袋を取り戻したと思ったら、中身は子供たちに贈るおもちゃではなく、何故かダイヤやエメラルドなどの宝石類だった……というのがこれまでのあらすじだ。
 仰天し、混乱し、その末にむかっ腹の立った俺は、即座にみんなの待機していたビルの前に降り、問答無用で怪盗たわしの胸倉を掴んでいた。
「な、なんだ? プレゼントを取り戻したんだろう? 何で僕胸倉掴まれてんの? 何で今にも殴られそうなの!?」
「うるせー! たわしの次は宝石だと? 突然金のかかる悪戯に切り替えやがって!」
「は? 宝石?」
 あんぐりと口を開くたわし。……何だ? まるで「何言ってるんだお前」みたいなこの表情は。
 同じように首をかしげている助手とトナカイ。運転手は袋を覗き込み、驚愕に目を見開いていた。
「……これ、本物ですか?」
 呆然とする運転手の横から、助手も袋を覗き込む。普段は無表情の助手も、流石にこれには驚いたようで、口を手で覆っていた。
「た、たぶん本物ですよ、これ……。ガラスには無い煌めきです……」
「うおっ、ほんとだ、すげえ! すげえ光ってる! うわ、すげえっすね!」
 語彙の少なさを丸出しにしているアホなオッサンを尻目に、助手は呆れたように溜息をもらしていた。 
「たわしさんも随分お金かけますね……。まあ、こんな大きなビルを所有するくらいですから、無駄にお金持ちだなあとは思ってましたが」
 建物といい、内装の無駄な手の込みようといい、助手の言う通り金持ちなのだろうこいつは。しかし、袋にぱんぱんに詰まる量の宝石を所持してるとは……あれ? でも、なんか矛盾しないか? そもそもこいつがサンタを恨む理由って……。
「ぜ、全然話が飲み込めないんだけど……中身、違ったのか?」
「ぜんっぜん違うわ! ターゲットが子供じゃなくてお母さんになってるだろこれ!」
「そんな……僕は知らないぞ! お前の家から盗み出した袋はそれだ! すり替えたりもしてない!」
「んなバカなことがあるか! ちゃんと昨晩おもちゃを助手と共に買いに行って、その場で袋に詰めたんだ! 総本部に自費の分を徴収するための領収書だってちゃんとあるぞ!」
「コスいなサンタ……」
「うるせえ! こっちもカツカツの中子供たちの夢を守るために頑張ってんだよ! オラ、さっさとプレゼント出せ! 今すぐに出すなら、お前を殴らず、プレゼントとこの宝石を持って帰るだけにしとくぞ!」
「別に僕のじゃないから構わないけどちゃっかり宝石も持って帰るんだな……」
「僕のじゃない、てまだしらばっくれんのか! もう怒ったぞ! もれなく慰謝料もコミコミだ!」
「お前ただ金欲しいだけだろ! やっぱサンタはクソだ! 一度でも見直した僕がバカだった!」
 ギャーギャー喚き合う俺とたわし。話はずっと平行線だった。
 その場の流れを変えたのは、突如として響き渡る甲高いブレーキの音だった。何だ、とそちらに目を向けると、黒塗りの"ちょっとでも傷をつけたら死ぬまで粘着されそうな"車が三台程並び、中からトナカイみたいな風貌の男たちが飛び出してきた。
「ようやく見つけたぞワレェ!」
「逃げられると思ったんかゴラァ!!」
 先ほどまで騒いでいた俺とたわしも、流石にこの時は顔を青くして固まった。
 え? ナニコレ?
 俺だけじゃなく、こいつもそう思っていたことだろう。
「ねえ、トナカイくんトナカイくん。この人たち、君のお友達かい?」
「え? 知りやせんよあっしは。あっしみたいな草食系男子トナカイがこんなヤクザみたいな人たち知ってるわけないでしょうが」
「一回鏡見てみ? トナカイじゃなくてオオカミ映ってっから」
「え? マジっすか? どれどれ……ってサンタさん、違うじゃないっすかー! キムタク映ってますよキムタク」
 なんてバカみたいなこと言ってる間に囲まれてしまった。もはや胸倉なんて掴んでる時じゃない。サムズアップだサムズアップ。とにかく話し合おう。俺は前世がノーベル平和賞受賞者ってレベルの平和主義者なんだ。
「と、とりあえず説明してください。ね? ね?」
「聞きたいのはこっちの方じゃ! オレたちを騙してタダで済むと思ったんか? アァン? 例のブツを渡せや!」
 だ、騙す? 騙すも何も、こっちはむしろ騙された方なんだけど……ああっ、そんな睨まないで睨まないで。トナカイじゃないが、うんこ漏らしそう。
 それにしても例のブツってなんだ? この人たち、何言ってるの。
「お、俺たちは何も知らないですよ! ただの一般ピープルです! アナタ方と関与する人生なんてほんの微塵も送ることのないような善良な一般市民ですよ!」
「んなワケあるかぁ! オレたちみたいな裏社会の人間には分かるんだよ。間違いなくそいつなんてドブに片足突っ込んでる人間だろうがっ!」
 やーさんが指を指したのはトナカイだった。あー、うん。それには俺も同意見。でもこいつが片足突っ込んでるのはドブはドブでもただの排泄水です。
「言ってくれるじゃないっすか。その度胸だけはあっしも認めますよ。しかし運が悪かったですねアンタら。アンタらが敵にまわしてる御仁はただの人じゃねえ。この人を見て、その晩夢に見ないやつはいないですぜ」
 何無駄な煽りしてんだこのクソトナカイ!! Vシネに影響されすぎだから! 俺そんな凄いやつじゃないから! せいぜい子供の夢にしか出られねーから!!
「くっ、気をつけろテメーら! こいつ、只者じゃねえ。この寒空の下、裸みてえな恰好で居るなんて……イカレてやがる。軽く人を五、六人は殺してる顔してやがるぞ」
「ふっ、確かにあっしは知らず知らずのうちに人を殺してたみたいですがねえ……。あっしもやりたくてやったんじゃないんですよ。ただ……我慢できなかっただけっす」
 それウンコの話じゃねーか!! 何それっぽく野糞の話してんだこのオッサン!! 
「おい、チャカ出せ! 何が飛んでくるかわかんねーぞ!」
 やべーよ凄い警戒されちゃってるよ。言っとくけどそのオッサンから飛び出るものなんてウンコしかないからね。
 いくつもの銃口がこちらに向けられる。いやほんと何なのこの状況。なんでこうなったの。さっきまでの茶番みたいなノリはどこいったの。
「さーてサンタさん。こっからどうしますかい。ぶっちゃけ冷や汗が止まりませんよあっしは」
「状況を掻きまわすだけ掻きまわして何言ってんのお前!?」
「いや、サンタさんなら目からビームとか出せるんじゃないかと思って」
「お前の中で俺はどんな存在になってんだ! サイボーグじゃねえんだよ俺は!」
「まじっすか。それまじで言ってるんすか。ヤバいじゃないっすかそれ。今にも殺されそうっすよあっしら」
「今気づいたの!? 今も何も最初から殺されそうな雰囲気だっただろうが!」
「まじっすか、やべえなこりゃ……。うし、とりあえずウンコしてこいつらを殺――ああ、だめだ、そうしたらサンタさんまで俺のウンコの餌食にっ、くそっ、どうしたらいいんだ俺はぁっ」
 トナカイは一人で勝手にアホスパイラルに陥って頭を抱え、うずくまってしまった。世界で一番アホな生物は何だ、と聞かれたら俺は間違いなくこのオッサンを指差すだろう。
 ヤクザたちは徐々に距離を詰めてくる。絶体絶命だ。何故かもわからないのに命の危機に瀕している。一体、どうすれば――。
 と、その時だった。頭上から、怒声が轟いてきたのだ。
「貴様ら! 我々ノものヲ横取りするつモりかッ!!」
 声の方に目をやると、ビルの明かりに照らされた幾人かの影が見えた。
「恥を知レ、愚か者どモめ!」
 所々たどたどしい日本語が耳につく。なんだ? 今度は一体何のお出ましなんだ?
「何だテメーらは! まさか、天功社の差し金かッ!」
「貴様ラこそ何ダ。どこノ猿ダ。どうしテ我々の獲物ヲ狙う」
「お前らの獲物だァ? そいつは元々オレらのもんだっ」
「何ヲ言ってルんだ、こノ黄色イ猿は。話ニならんぞ」
 ヤクザと謎の一団がにらみ合っている。何だかよく分からないが、たぶん逃げるなら今しかない。
 一番最初に動いたのは運転手だった。やけに静かだと思っていたら、やつも好機を窺っていたらしい。一目散にタクシーに乗り込み、エンジンをつけた。
 俺とトナカイが同時に走り出す。気付いたヤクザが銃をこちらに向けたが、トナカイがパンツから銃を取り出し、威嚇射撃をしてそれを止めた。
 タクシーが動き出し、ドアが開く。トナカイが跳びこむように乗り込み、続いて俺も乗車した。
「畜生逃がしたっ」
「まだ例のブツも、女もこっちに居る! 捕まえろ!」
 運転手がアクセルを踏み込み、いまだに動けずにいる助手の近くへと車を走らせる。
「くっ、車がっ」
 ヤクザたちは迫ってくるタクシーに怯み、その場から離れようとする。
「助手!」
 ハッとした助手が、此方を見据える。そして、固まっているたわしの手を引いてこちらに駆けてきた。たわしも連れてくのか? と一瞬思ったが、すぐにその考えを打ち払う。そこまで悪い奴じゃないようだし、それにこんなとこに置き去りにしていくのも後味が悪い。俺は駆けてくる助手とたわしに手を伸ばした。タクシーが、動きを緩めた。
「早くっ!」
 もうすぐ――というところで、助手の動きが止まった。ヤクザに腕を掴まれたのだ。
「助手ッ!!」
 外へ飛び出そうとしたが、トナカイに止められた。
「ダメです! サンタさんまで捕まってしまう!」
「わっ、わかってる、だけど――いや、そうだ、トナカイ! あいつを撃て! 助手を捕まえてる奴を!」
「む、無理っすよ!」
「何でだよ! お前のその銃で……」
「コレ、ただ発砲音がするだけのオモチャなんすよ! 相手を怯ませるくらいしかできないっす!!」
「なっ……それじゃ助手を助けられないじゃないかっ。くそっ、運転手! もっとタクシーを寄せられないのかっ!」
 タクシーは徐々に浮遊を始めていた。
「そんなところまで近づいたらヤクザたちがタクシーに乗り込んでしまいますっ! もう飛ばなければっ!」
「そんな……。くそっ、助手ッッ!!」
 彼女と目が合う。助手は――たわしを蹴り飛ばし、こちらへ寄こした。ヤクザたちは血相を変えてたわしを捕まえに掛かったが、咄嗟にたわしを掴み上げた俺の手の方が速かった。トナカイも協力して、そのままたわしをタクシーの中へ引きずり込んだ。
「待って!! まだ助手さんがっ!!」
 たわしがもがき叫ぶが、助手が捕まったまま、タクシーのエンジン音は増していく。浮遊するだけで動かないタクシーに、ヤクザ達が近づいてくる。
「もう限界です! 急上昇しますっ!」
「助手――――ッ!!!」
「助手さん!!!!」
 俺とたわしは同時に叫んでいた。助手は、ただじっとこちらを見つめていた。いつもの無表情。だけど、嫌な感じがそこにはあった。
 ドアが自動で閉まり、タクシーは空へと飛んでいく。
 俺は窓に張り付いて、捕まる助手から目を離さなかった。
 その、諦めたような顔が、心を揺さぶってならなかった。


「くそっ、どうして……」
 やがてその姿が見えなくなったころ、俺は目の前の椅子に拳を沈めた。
「なんだって、こんなことに……助手さん……」
 たわしもまた項垂れていた。
 何がどうしてこうなってしまったのか。まったく理解が及ばない。俺はただのサンタだ。だというのに、何故こんな厄介な奴らにばっかり追われる羽目になる? 俺が持っていたのは、プレゼントが詰まった袋だ。ただそれだけだ。それがいつの間にかたわしに変わっていて、取り戻したかと思えば今度は……。
「……なあ、もしかすると、さ」
 たわしが、小さく呟く。
「これが、原因なんじゃないか?」
 その腕に、袋があった。宝石の詰まった袋。
「それが、原因……?」
「さっきも言ったけど、これは僕が用意したものじゃない。僕は君の家に忍び込んで袋を取り換えた。たわしの袋と、そしてこの袋を」
「……俺の家にあった時から、袋はこんなだったのか?」
「中身は見なかったけど、僕はそれ以降入れ替えたりもしてないし、ずっと見張っていたから誰かに入れ替えられたということもない」
「そんなバカな。俺が袋にプレゼントを詰めたのは昨夜だぞ? そんな短い間に入れ替わるはずがない」
「でも実際入れ替わってる。なあ、君は昨日ちゃんと確認したのかい? 寝る直前まで、細かく」   
 そう言われると正直自信はない。実は袋の中身なんて、家に着いてから一回も確認しなかったのだ。
 外国から取り寄せたおもちゃを入れたのは昨夜より前だが、それ以外のおもちゃは、買ったその場で袋に詰めていた。これには助手も「非効率だ」と呆れていたが、なんか、こう、楽しいじゃないか。店を回る度にどんどん袋がプレゼントで膨れていくのを見るのは。まあ、だからこそ周りからは不審な目で見られていたが……。
 その場で袋に詰めていくことで、漏れがないのを防ごうとしていた意図ももちろんある。一個ずつメモにチェックを入れていき、袋が膨らんでいった。つまり、俺は買ったその時しか袋の中身を確認していない。
「け、けどよ、俺はそれから押入れにいれるまで、俺と助手で袋はちゃんと確保してたんだ。こんな宝石と入れ替わる時なんて……あ」
「おい、どうした」
「い、いや……まあ、一度離れた時があった。あったのはあったが……助手に見張らせていたからな、入れ替わるなんて……」
「でも事実袋の中身は変わってるんだ。どこかで何かあったはずだ」
「お前があのビルの中で袋を間違えた、或いは悪意を持って入れ替えたっていうのが一番しっくりくるんだけどな」
「けれど」運転手が話に入ってくる。「もしわざと入れ替えたとすると、もっとワケがわからなくなりませんか? 宝石とプレゼントを入れ替える理由がわかりません。こういうことをサンタさんに言うのは難ですが、価値が高いのは断然宝石です」
「そこはサンタへの恨みつらみだろ」
「だとして、もしあのままロケットが袋を乗せたまま爆発していたとしたら、怪盗たわしさんに有益なことなんて何一つないんですよ」
 ……そう言われてみると確かにそうだ。ただ宝石を街にばらまくだけの結果しか生まれない。結局プレゼントは無事なわけだから、サンタへの嫌がらせにはならず、損をするのは自分だけなのだ。
「……だとすると、お前の言っている通り、たわし袋と入れ替わる前に既にプレゼント袋は……」
 だったら、現在ここにある袋は一体何なんだ? こいつの正体が読めない。
「ヤクザらしき人物と、もう一つの、恐らく外国人であろう集団。その二つがあそこに現れた目的は、たぶん同一だ」
「……俺たちの手にあるコレ、か?」
 確かにそうとも思える。だが、何か釈然としないものがある。
 何故助手は捕まった?
 やつらもこの袋を狙っていたようだが……。同時に、助手に注意を向けていた気がする。
「ともかく、こいつがこっちの手に在る限り、僕たちは狙われるわけだ」
「いつの間に"僕たち"になってるんだな。さっきまで敵同士だったのに」
「そうも言ってられないじゃないか。僕も、そして君たちもこの袋と関わってしまったんだ。もう一蓮托生だろ?」
 図々しい奴だ。よくものうのうとそんなこと言えるもんだな……。
「それに……助手さんは僕を逃がして捕まってしまったんだ。その責任は、取りたい」
「……そうかよ」
 なんだろう。どうしてかはわからないが、こいつ、何か助手に対してこだわりというか、一物抱えてるような気が……。
「それにしても、一体これからどうしやす? 助手さんはさらわれ、プレゼント袋はいずこやら。手にあるのはおっかない人たちに狙われる財宝のみ、って感じっすか」
「……そうだな。ネガティブな要素ばかりだ」
 トナカイもたわしも溜息を吐く。先ほどの騒動で心身ともに疲労困憊なのだ。それは俺も運転手も同じ。
 だけど……。
 助手が、捕まった。
 あいつが、捕まりやがったんだ。
 何だか胸糞悪い。あいつは口を開けば悪態ばかり、クリスマスで果たすべき職務へのモチベーションも低く、おまけによくわからんがトナカイという職を放棄して助手をしている。だけど――どうしても、引っかかるんだ。あの笑顔が。あの時見せた笑顔。あれは……悔しいが、いいもんだった。俺は、あれを見て、「こいつと居てよかった」と思えたんだ。そして、別れ際に見せたあの顔。あの、全てを諦めた顔。あれは、よくない。気に入らない。あんな顔、させたくない。少なくとも、俺という未来のスーパーサンタと一緒に居る時は、あんな顔、させるわけにはいかない。
 そうだ、俺はサンタなのだ。子供たちの夢を叶える、笑顔を守る、サンタなのだ。
 巡り巡ればみんな子供だ。見てみろ、このタクシーに乗っているアホどもを。みんな大人とは思えない。子供よりもアホな奴ばっかだ。それはこの場に居ないあいつだってそうさ。あいつもアホだ。散々愚痴言っといて、最後にはトナカイという正体を見せて俺を助けやがった。本当にアホだ。まったくアホばっかりで頭が痛くなる。
 だけど――俺は、なんだかんだ、そんなアホな奴が、認めたくはないけれど、大好きなんだ。
「運転手。どっか安心して眠れる場所はないか」
「は? ええと、突然どうしたのです?」
「何はともあれもう夜中だ。行動するにしても眠いし暗いしどうにもならん。とりあえず寝たい。すべては明日の朝からだ」
「はあ。まあ私も不当な罪で追われる身。いくつか隠れ家はありますが」
 全然不当じゃないけどな、それ。
「だったらそこに連れてってくれ。明日は早いからな。寝れるだけ寝とかねーと身体がもたねえ」
「ね、寝るって……。随分呑気なやつだな、お前。明日になったからって、これからどうするんだよ」
「あ? おいおい怪盗たわしさんよ。やっぱお前アホだな。これからどうするなんて、さっきお前らが散々言ってたじゃねーか」
 そうだ。やるべきことは、火を見るより明らかなのだ。
「手にあるおっかない財宝でおっかないやつらに追われる。だったら、それをやつらに返してしまえばいい。プレゼントとこの財宝が入れ替わったなら、こいつの本当の持ち主がその入れ替わったプレゼントの方を持ってるだろ。そして助手がさらわれた。だったら――取り戻すんだよ。それを、一個一個やってくんだ。迅速に、かつ正確に。なんてったって、明日はクリスマスイブだ。一日で全てやり通さなくちゃならない。こんな財宝、クリスマスにはそぐわない。プレゼントがなきゃ、サンタの意味がない。助手が居なくちゃ、プレゼントを届けられない。すべてが芋づるみたいに繋がってて、どれか一個でも成し遂げりゃ他もついてくる。だから、大丈夫だ。何せ俺らにゃ財宝の袋っていう、蔦がある。だから、大丈夫なんだよ」 
 それは、自分自身に言い聞かせる言葉だった。焦ってるし、参ってるし、正直もうどうしようもならないんじゃないかって思ってたりもする。
 でも、強がるしかない。
 どうにかなるんだって。案外うまくいくもんさって。思うしか、ないんだ。
「――すみません、ちょっと、いいですか?」
 運転手はカーステレオのつまみを指差していた。
「今、気になることをラジオが……」
 頷くと、運転手はラジオの音量を上げた。 
『――であり、昨夜都内の宝石店"ニコライ"を襲った窃盗グループは……』
 強盗に関するニュースをやっているようだ。
『監視カメラには、従業員を銃で脅している男と、大きな袋に宝石を掻きいれていく複数の男の姿が映っており――』
 皆、あるワードで顔色を変えていた。
 大きな袋。
 掻きいれられた宝石。
 自然と、たわしの腕に抱えられた皮袋に視線が集中した。
『連日の強盗事件に対し、大規模な検問を引いた警察は、不審な男を逮捕し、その男が国際指名犯の――氏であることが分かりました。――氏は国際的窃盗グループ"ホイスヒェン"のメンバーでないかと思われ……』
「そ、そういや今日検問ありやしたね……あれは、そういうことだったんすね」
「ええ。警察が探していたのは私でも、トナカイさんでもなかったということです」
 ニュースは尚も続いていたが、アナウンサーや専門家の"ホイスヒェン"に対しての感想くらいで、それ以上有益と思われる情報はなかった。
 次のニュースに移った時、運転手が音量を下げる。
 車内に、沈黙が生まれた。
「窃盗団は、"昨夜"宝石店を襲ったらしい……」
 たわしが、その沈黙を静かに破る。
「そして、袋が入れ替わったのは昨日……」
「極め付けは、犯人が国際指名犯。つまり、日本人じゃないってことだ」
 先ほどビルの上に現れた人物。彼らは、"堪能ではない日本語"を話していた。そして、我々のものを横取りにするつもりか、とも言っていた。我々のもの、それは即ち……。
「そういえばさっき宝石店の名前を言ってたな。確か……」
「都内の宝石店『ニコライ』だ」たわしが応える。「今場所を調べてみよう」
 たわしがスマホを取り出し、その店の場所を調べて俺にスマホの画面を向けた。
「お前が昨日プレゼントを買ったデパートは、この周辺にあるか?」
 スマホを覗き込む。俺がプレゼントを届ける予定の一つである"真宿区"の地図が表示されていた。
「ああ……ここだ」
 デパートの部分をタップする。『サトルヌス』というデパート名が、そこに表示された。
 サトルヌスとニコライは、間に道路を二つ挟んだ位置関係にあった。
「そう遠い距離じゃない。むしろ近いじゃないか。てことは、やっぱりこの宝石の入った袋は……」
 みんながたわしの言葉に頷く中、俺だけがいまいち納得できずに唸っていた。
 この袋が、その窃盗団、ホイスヒェンのものである可能性は高い。というか、ここまで状況証拠があるとそう考える方が自然だ。
 まあそれはいい。
 だけど、何故入れ替わった?
 俺は確かに、用を足す為に(ついでに大きい方だ)30分程プレゼント袋から離れた。
 だけど、その30分、袋は助手に預けていたのだ。
 俺が戻ってきた時、確かに袋は助手のもとにあった。
 俺は袋を持って助手と共に帰宅、その後就寝し、"俺が持って帰った袋"は侵入した怪盗たわしによってあのバカみたいな袋と入れ替えられた。
 そして、たわしから袋を取り戻したと思ったら、中身は宝石の詰まった袋だった、というわけだ。
 つまり、
 1.店を回りながら袋にプレゼントを詰める→2.詰め終わった袋を助手に預け、トイレへ→3.助手と合流し、彼女から袋を受け取って帰宅→4.怪盗たわしにより、たわし袋と入れ替えられる→5.取り返した袋は宝石の詰まった袋だった。
 と、こういうことだ。
 俺の主観で言えば、プレゼント袋が入れ替わるタイミングは2と4しかないが、たわしの証言を信じるならば、2の時点で袋は入れ替わっていたということになる。
 一体、何があった?
 俺の居ない30分に、どんなことがあれば窃盗団の宝石袋と入れ替わることになるんだ?
 頭を抱える中、タクシーは降下を始めた。どうやら隠れ家に着いたらしい。
「鍵を渡しておきます。サンタさんたちは家で寝ていてください」
「……? お前はどうするんだ」
「どうするもなにも」運転手はふっと笑った。「窃盗団がわかったとして、アジトを見つけなければ意味がないじゃないですか。それに、助手さんの安否が気になります。そちらも併せて調べなければ」
「お前……」
「私に任せてください。盗聴盗撮は私の十八番です。必ずや朝には吉報を届けると約束しましょう」
「手段はともかく、お前がそこまでしてくれるとは……しかし、何故だ? 正直、お前には関係ないことだぞ?」
「フッ、サンタさん。関係ないなんてこと、ありませんよ」
 一瞬、運転手がかっこよく見えた。
「私は助手さんのパンティーを見たのですから。責任は取らないといけません。でしょ?」
 ほんと一瞬だけだった。
 でもまあやる気になってくれてるみたいだし。
「ま、ほどほどにな」
 今は藁にもすがりたい思いなのだ。
 こいつのど変態さに、今は期待するしかない。
 
 
 そうして隠れ家にいざなわれた俺たちは、アジトを探る運転手を見送って床に就いた。
 まさか怪盗たわしなんていういかがわしい奴との騒動の果てに、マジもんの窃盗団と対峙することになるとは……。
 袋が入れ替わったのは昨夜だ。
 しかし、何故宝石店を襲った窃盗団の袋と、デパートで買い物をしていた俺たちの袋が入れ替わったんだ?
 やつらの袋と俺たちの袋。その行方が交差するに至った原因は……。
 それに、気になることがもう一つある。
 助手をさらったヤクザな連中は何だ?
 一体何故助手をさらったんだ。
 やつらも宝石が目当てなのか?
 例のブツ、と言っていた……。
 そういえばほかにも何か言ってたな……。
 例のブツと女……。
 それに天功社とか……。
 それは……一体……。
 窃盗団とあいつらは……。
 何の関係が……。
 …………。 
 よほど疲労がたまっていたのだろう。俺はすぐに眠りに落ちていった。
 それは、街中を巻き込む大騒動を前にした、束の間の安らぎだった。


 2.

 視界に映る無数の煌めき。俺はすぐに夢の中にいるのだと気付いた。
 都会に比べると規模の小さいイルミネーションで彩られた街。きっと地方の街なのだろう。人通りもそこまで多くなく、明るいビル群もすぐに途切れ、暗い平地が遠く向こうまで伸びている。
 そんな地方の街を、俺は女性と歩いていた。
 音はない。ただ映像だけ。女性は親しげに俺に話しかけていて、とても楽しそう。俺と女性は腕を組み、寄り添うように歩いている。聖夜の一幕。何の変哲もない、ただのカップル。微かな幸せ。程よい温かさ。
 度々見る夢の一つだ。
 夢の中にいる自分は、いつもこの女性と一緒に居た。
 いつも幸せそうに、並んでいた。
 でも……これは、ただの映像だ。
 俺にとっては、他人の思い出に他ならない。
 懐かしさもなく、寂しさもない。
 俺はサンタ。
 それ以上でもそれ以下でもない、ただのおとぎ話の存在――。


「サンタさん、起きてください」
 という、運転手の耳元での囁きで目を覚ました。なんつー不快な目覚めだ。おかげで眠気が吹っ飛んだ。
「おお、運転手……首尾は――」
 思わず息を呑んだ。
「おまっ、血だらけじゃねーか!!」
 俺の声で、トナカイとたわしも目覚める。そして二人とも運転手の姿を見て目を見開いていた。
「なっ、君どうしたんだよそのケガ!」
「えっ、運転手さん生きてるんすか? その傷で生きてるんすか?」
 額からは大量の血が垂れており、衣服はぼろぼろで、どこもかしこも傷だらけで血まみれだった。
「生きてなければこうしてここにはいませんよ。さっ、まずは朝ごはんにしましょうか。そうしなければまともに頭が働きませんからね」
「いやその前に手当て手当て!」
「あ、サンタさん気付きましたか……。私、おしりでの経験は初めてだったのですが、あれほどの刺激を感じるものとは……おかげで血まみれですよ、おしりが」
「いや全身血まみれだけど!? っていうかお前何してきたんだよ!」
「まあ情報を聞き出すために体の交渉をしたのと、色々と交渉するために体の交渉を……」
「体の交渉しかしてないのに何でそんな血まみれ!?」
「サンタさん、知らないんですか? 夜の遊戯には、生きるか死ぬかのギリギリの境界線で行うとてもリスキーかつインモラルなSMというのが……」
「あーうるせえうるせえ! 耳が腐る!! とにかくはやく手当てを! トナカイ!」
「わっ、わかりやした! とりあえずボラギノールとってきやす!」
「おう! しっかり中まで注入できるタイプを――ってアホか!! 最初に治すの痔じゃなくて身体!!」
「しっ、しかし、ここまで出血するたぁ、この切れ痔、一刻を争いやすぜ!」
「おめーはケツ主体でしか物事を判断できねーのか! さっさと救急箱持って来いアホ!」


「ふう、やはり朝の食事は体が生き返るようですね」
 今にも死にそうな身体で、運転手はのんびりとそんなことを言っていた。先ほどまで応急処置をし、運転手を包帯ぐるぐる巻きにしたのだが、彼はケロっとした顔でキッチンに入り、「動きづらいですねえ」と言って自ら包帯を外して料理をしていた。
 そうして食卓に並んだ料理達。しかし、俺らはそれを青い顔で見つめていた。
「な、なあ、これケチャップだよな」
「ええ。やはりオムレツにはケチャップ一択ですよ」
「お、おい、僕のサラダにかかってるドレッシング、なんか妙に赤くないか……?」
「んー、ケチャップじゃないですかね?」
「運転手さん。あっしの味噌汁、何か赤いんすけど」
「ケチャップですね」
「「「…………」」」
 俺たちはそれ以上その"ケチャップ料理"に箸を向けることができなかった。
 とりあえずトナカイにトーストを焼かせ、朝飯を済ませた。
「……さて。私の昨晩の成果ですが」
 運転手はモーニングコーヒーと共に、本題に入った。
「過程は様々な苦難があったのですが、企業秘密な部分もあるので、割愛させていただきます」
「お前そんなあくどい手使ったのか……」
「そんなことはありません。裏の世界に詳しい人たちと"交渉"して情報を聞き出しただけです」
 交渉、ねえ……。
 トナカイが尻をさすって鎮痛な面持ちをしていた。
「彼らホイスヒェンは各国の経済的、政治的重鎮とも切っては切れない関係にあるようです。なので中々逮捕に至っていないのでしょう。先日捕まった人物はただ単に切り捨てられただけの男のようです。まあそれはさておき、彼らと関係のある人物に頼んで面会する機会を設けて頂きました。まあその人は少々サドスティックな所もあるのでなかなか骨のある交渉でしたが」
 けがの原因はそれか。そこはあまり聞きたくないな……。
「そうして面会にまで持ち込めたのはよかったのですが……」
「何か問題があったのか?」
「当然のように向こうの要求は『袋を返せ』の一択でした。私はそれを『袋を交換すること』で了承したのですが、向こうは首を振り、『それは出来ない。袋を勝手に奪ったのはそちらであるし、こちらにも面子がある。お前たちの袋の中身は慰謝料としてもらう』とのことでした」
 俺は思わずため息を吐いてしまう。
「無茶苦茶だ」
「ええ。一方的過ぎる話し合いでしたよ」
「しかし……」たわしが首をかしげる。「向こうにある袋は、おもちゃの入った袋だろう? あちらだって中身は確認しているはずだ。そんなおもちゃに固執する理由はなさそうだが……」
 確かに、そうだ。本人がこう言ってはアレだが、あの袋にはおもちゃしか入っていない。無論、最初に言った通り、唯一無二のレアものも含まれているのだが……。その転売が目的だとしたら、随分とちっちゃい窃盗団サマだ。
「それと問題がもう一つ」
「……助手か?」
 運転手は申し訳なさそうに頷いた。
「助手さんをさらっていった男たちとホイスヒェンは無関係だそうです。むしろ聞かれましたよ。『お前たちは何をした』とね」
「俺だけは清廉潔白だ」
「あっしだってそうっすよ!」
「おいおい、僕もそうだぞ」
「私なんて言うまでもなく」
 トナカイ、たわし、運転手から順に、公然わいせつ罪、窃盗罪、強制わいせつ罪の前科アリ。おいおい、犯罪者のオンパレードじゃねーか。
「まあその話は置いといて、だ。どうするかね。助手に関しては別のアプローチから探すとして、問題はホイスヒェンだ。ええわかりましたって素直にコイツを返すわけにもいかんだろそれじゃ」
 ただこちらが損をするだけだ。ぶっちゃけ宝石なんて、"俺のような存在"にはなんら未練もないが(……本当だよ?)、これが重要なカードである今は手放すわけにはいかん。財産にするつもりは毛頭ないが(いやマジでホントだって!)、カードとしての価値を持つ間は失うことは許されないのだ。
「ならもう盗り返すのが一番じゃないか?」
 怪盗たわしが投げやりに言う。しかし運転手は首を振った。
「向こうは大規模な犯罪組織ですし、何より手を汚すことをためらわないような残酷な人たちです。日本では従業員が無抵抗で降参しているのでまだ事例はないのですが、他の国では反撃しようとした従業員が何人も殺されています。昨日助かったのも、状況が状況だっただけです」
「おいおいマジシリアスじゃないか……」
 打つ手なし、なのか? 
 重い雰囲気になる中、運転手があっけからんと言った。
「まあ、昨晩のうちに侵入経路は確保したのですが」
「……は?」
「いえ。立ち寄ったついでに、目を盗んで各所に色々と妨害グッズを仕込んでおいて一回侵入してみたんです。そしたら呆けるほどに上手く行きまして。監視カメラの映像を向こうに感知されずにクラッキングすることが出来たので、再びそれを行えばなんなら今からでも侵入できますが」
「さっきと言ってることがまるで違うじゃねーか。つーかお前何者?」
「いえ、只のタクシー運転手である私に出来るのは、あくまで侵入することだけです。袋は厳重な監視の元で保管庫に安置されているようで、盗むことは不可能でした。何せ監視カメラを止めたとしても部屋の前に四六時中三人の監視役がおり、例え彼らを倒せたとしてもかなり厳重なロックが掛かっていて、クラッキングもおちおち出来やしません。一応その部屋に至るダクトもあるのですが、部屋自体に無効化不可能な幾つもの赤外線が張られていて、ダクト経由で行ったとしても捕まるのがオチかと」
 どう考えてもただのタクシー運転手にできる話じゃないんだが……。
「……施設のマップはあるかい?」
 たわしが運転手に問いかける。心なしか、その声が弾んでいるように聞こえた。
「私お手製のものなら」
「そして監視カメラもクラッキングできる、と?」
「赤外線と保管庫のロック以外ならなんとか」
「だったら、行けるかも」
 たわしが、自信に満ちた表情をしていた。
「え、マジで?」
 昨日の茶番っぷりを思い出して不安になる。
「ああ、マジだ」
 顔はたわしのお面で隠されているので、表情は確認できなかったが……。
「蛇の道は蛇、ってね。なにせ僕は、怪盗たわし、なのだから」
 多分、やつは笑っていた。


 俺はサンタである。
 夢を馳せる子供たちに夢を届けるのが仕事であり、彼らの笑顔にやりがいを覚える、善意に溢れた聖なる職業だ。
 だというのに……。
「ねえ、何このモジモジ君みたいな恰好。すっげえだせーんだけど」
「うるさいな。これが怪盗の正装みたいなもんだぞ」
 俺は今、全身黒いタイツ姿で、ひょっとこの面を被っていた。
「いやいやいや、お前の服装は普通じゃん。何で俺だけこんなんなの。特にこのお面とか必要性を全く感じられないんだけど」
「僕だってしてるだろ、怪盗たわしの証である、たわし仮面を」
「じゃあ何で俺ひょっとこなの? 何の証なの? ドジョウすくいが上手い証なの?」
「お面のことは気にするな。ただ持っていたのがそれだっただけだ。よし、準備はいいな? ちゃんと僕が開発したたわしを発射できるたわし銃も持ってるな?」
「いや持ってるけどさ。なんでたわしなの? つーかお前含め、たわしを冠するものが多くて紛らわしいんだけど。たまに『たわし』って言われて、『え? どれ? 人の方? そのものの方? それとも被ってるお面の方?』ってすごい混乱するんだけど」
「僕は存在自体がたわしのようなものだからな。たわし、と指したらそれは僕の全てを指しているということだ」
「なに存在がたわしのようなものって。結局お前はなんなの? 台所を磨く用途で生まれてきたの? 台所のだっちゃんなの?」
「おい。その黒歴史に関することをこれから一度でも口に出したらこのたわしで撃つからな」
「だからこの"たわし"で撃つって、どのたわしだよ? お前なの? それともそのお面なの? どっから出てくるの? しかもたわしを発射するんでしょ? もう訳わかんない。何でたわしからたわしが出てくるんだよ。もうたわしでなくていいじゃん。銃がたわしで出来てるのは百歩譲るとしても、そこからたわしが出てくる必要性って? っていうかたわしって何? たわしってどんな存在?」
「おい、たわしのゲシュタルト崩壊が起こってるぞ」
「もう一個一個呼び方変えろ! お前含めてややこしいんだよ! よし、決めた! お前はこれからただの怪盗な! そして俺たちが持ってるのは銃――だと本物の銃と混同するから、よし、タワガンだ。エアガンみたいな感じで。で、お前のお面はタワシマスク! 洗う用途で使う物だけたわし表記を赦す!」
「怪盗って。個性も何もないじゃないか」
「俺だってサンタだし、トナカイもトナカイ、運転手とか助手なんてもう個性の欠片もねーだろ。紛らわしいけど俺らは俺ら以外のサンタや運転手は出てこないからいーの! これからも出る予定はないからいーの!」
「何言ってるんだお前は」
「たわしまみれのお前とは違うってことだ。よし、そんなわけで……これからどうすんだっけ?」
「おい。さっき説明しただろう」
 俺たちは今、渋冶区の路地裏のポリバケツの中に身を隠していた。彼らのアジトがあるのは意外にも人通りの多い渋冶区の一角にあった。雑多なビルに紛れて、普段は中華料理屋として店を出しているらしい。俺たちの目的は、その地下にある。彼らの本拠地はその中華料理屋の入ったビルの地下に造られているそうだ。
「換気目的で作られたダクトに潜入し、お宝を盗む。それだけだ」
「いやそれだけで理解できるわけねーだろ。『野球は打って走って取る、それだけだ』とか言ってるようなもんだぞ」
「野球なんて誰でも知ってるだろ。ルールくらいふわっとわかるだろ。それと同じだ」
「わかるか! 野球なめんな! つか野球と窃盗を一緒にすんな!」
「僕にとってはキャッチボールするような感覚で物を盗むんだけどな」
「こえーよ。お前マジでこえーよ。サイコパスだサイコパス」
「そこらの主婦だって軽い気持ちで万引きするじゃないか」
「その軽い気持ちで家庭が崩壊するんだよ。万引き、だめ、絶対」
「というか何の話だったっけ?」
「だから盗む過程の話!!」
 狭いポリバケツ内で言い合いするものだから息が切れてしょうがない。
「しょうがない。面倒だが説明してやろう」
 こいつ、ぶっとばしたい……。
「僕らの耳には運転手が作った小型無線がある。これは僕、サンタ、運転手、トナカイ、それぞれと通信ができる優れものだ。トナカイと運転手は別行動で、ホイスヒェンと交渉を行い、注意をひきつける。向こうから合図が来たら、頭上にあるダクトから侵入する。僕が先に下まで侵入し、足場を作っておくから、お前はそれを頼りについてくるんだ。下まで降りたら、まず監視カメラを無効化する。そう長くは持たないから、手早くポイントAに向かう」
「ポイントAって?」
「ポイントBに繋がるダクトが通じている部屋だ」
「ポイントBって?」
「ポイントCに繋がるダクトが通じている部屋だ」
「ややこしいな……。とにかく保管庫に通じる中継地点、ってことだな」
「そうだ。そしてポイントDに向かったら、あるタイミングで監視カメラを復活させる」
「そんなことして大丈夫なのか?」
「ああ。ポイントDは保管庫に通じてるからな。僕はポイントDから保管庫に移動。そしてサンタ、君はポイントDをこっそり抜け出し、ポイントEにて待機。そのタイミングで監視カメラを復活させ、監視カメラに映るんだ」
「……は?」
「いわば囮だ。後々重要になってくる。君はそこで気が狂ったように叫んで走って回り、周囲の注意を引きつける。その間に僕は保管庫にてブツを奪取。そしてダクトを再び潜り抜け、離脱する。作戦完了だ」
「オイ待て、俺が脱出する手筈が全く説明されていないんだが」
「君は……まあ、頑張れ」
「何そのずさんな計画!? 全然後先考えてないじゃん!!」
「いや、これが重要なんだ。僕らが盗んだと向こうに思わせては意味がない。相変わらず追われることになるからな。しかし、怪盗ひょっとこ仮面が盗んだとなれば話は別だ。『くそ、ひょっとこ仮面が盗みに入った! お手上げだ!』と向こうは思い、苦渋を舐めることになるだろう」
「苦渋を舐めるの俺!! 普通に捕まるわ! っていうか何だよひょっとこ仮面て! んなアホな怪盗いるわけねーだろ!」
「ひょっとこ仮面は僕らの界隈では有名人だ。知らぬ間に現れ、知らぬ間にドジョウをすくって消えるらしい……」 
「ドジョウをすくって消えるって何!? 何を言い表してるんだか全然わかんねーんだけど!!」
「要するにブツを持って消えるということだ。その様があまりに見事なことから、『奴がまたドジョウをすくっていきやがった』と噂されている」
「ただアホみたいに踊って帰るだけに聞こえるんだが……」
「まあそんなわけで君がその怪盗ひょっとこに扮してくれれば作戦は成功だ。いやはや、偶然ひょっとこのお面を持っていてよかった」
「偶然ひょっとこのお面を持ってることがまず意味わからんが、それ以上に俺がどう生きて帰ってくればいいのか全くわかんねーよ!!」
「大丈夫だ。その姿でドジョウすくいを見せれば、まずやつらは怯む」
「まあ一瞬そうなるよね! だって意味わかんないもん! 突然家にやってきて、突然ドジョウすくいやられたらぽかーんてするもん! ぜんっぜん状況を掴めないもん!」
「まあとにかくお前はドジョウすくいをしながら帰ってくれば問題ない」
「問題ありすぎるわ! そんなアホな真似をして成功するんだったら最初っからドジョウすくいしながら入るわ!」
「な、なるほど、その手があったか……今からでも遅くない。よしサンタ。中華料理屋の正面からドジョウすくいをして入って行け!」
「誰が行くか!! 確実に不審者扱いされてとっ捕まるだけだろうがっ!」
「ふむ……ドジョウすくいが上手くいかないと考えると、お前が生きて帰ってこれる可能性は果てしなく低くなるな」
「だから最初っからそう言ってるだろうがっ! 何で上手くいくと思ったの? 何でそんなアホみたいな考えが浮かぶの!?」
「まあその時はそのタワガンに頼るんだ。タワガンがあれば上手くいくだろう」
「すっげえ万能なアイテムみたいに言ってるけどこれただたわしが発射されるだけなんでしょ!? それでどうするの? 壁を磨くの?」
「なるほど。清掃員を装うということか。頭いいなお前。ナイスアイデアだ」
「うるせーよ! 何で清掃員が全身タイツでおまけにひょっとこの面つけてんだよ! 清掃員装えるわけねーだろ! ただの精神異常者だわ!」
「しかし他にどうする? お前はどう生きて帰ってくるんだ?」
「だからそれをここまで長々と聞いてるんだよ俺はっ!!」
「しっ、運転手の合図が来た。行くぞ」
「えっ、嘘でしょ? こんなずさんな計画のまま行くの? 俺死ぬじゃん。ぜってー死ぬじゃん! オイ待てコラ無視すんなっ!!」


 とある中華屋にて。
 スーツを着た黒髪ロンゲの二枚目な男と、下はパン一でロングコートを羽織った筋肉質なおっさんの二人が、奥のテーブルに座っていた。二人とも緊張しているのか、そわそわと落ち着きがない。おっさんに至ってはしきりに腹を押さえている。
「う、運転手さん……どうしやしょう……」
「緊張してもしょうがありませんよトナカイさん――なんて、言える立場でもないですがね。さっきからありとあらゆる箇所がカッチンコチンですからね。もうそりゃ見事にカッチンコチンですよ」
「そうですかい……あっしは逆ですね。こりゃ液状化してやす。今にも噴き出しそうで、うううううぅぅぅ、腹がぁぁぁ……」
「ああっ、私も今にも噴き出しそうです! ああっ、このままでは、ねばりけの強いマグマがっ、爆発的な噴火がっ、私の鐘状火山がっ!」
「ぐぁぁぁぁぁっ、あっしの盾状火山がぁぁぁっっ!」
 ツッコミ不在の恐怖。それを、二人を前に立ち尽くす男たちが味わっていた。
「お前ラ、何ヲ言ってるんダ……?」
 彼らは皆日本語のおおよそはマスターしている。しかし、眼前の二人が何を言っているのか、全く理解できない。いや、理解してはだめだ、と本能が訴えている。
「交渉ヲしに来タのだろウ? もっと静カにしたらどうダ」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、なるほど、それは一つの真理ですね。動なる快感と静なる快感……後者は私にとって、未だに未知の世界です」
「おかしイ、日本語が通じナいぞ……」
「そんなことはどうでもいいんすよ!! トイレはないんですか!? この店にッ、トイレはッ、無いんですかァァァァッ!!」
「こんナ人を殺しソうな目でトイレの有無ヲ問う奴は世界で初めテ見たゾ……」
 彼ら――ホイスヒェンの男たちは二人を前にしてただただ困惑していた。昨夜、片方のスーツの男が交渉をしに赴いたことは知っている。というか取り囲んでいたので一部始終その行動は知っている。しかし、昨日はこんなではなかった。こんな、頭のネジが外れるどころか基盤そのものが腐っているような行動をする男ではなかった。"例のブツ"を取り返すことはおろか、手にした宝石類まで手放さなくてはならなくなって発狂しているのだろうか。本気で彼らは目の前の男――運転手に謎の恐怖感を覚え始めていた。
「とニかく場所ヲ移動しよウ。ここデは目立っテしょうガなイ」
「いヤ、今日は店ヲ閉メている。ボスが決めタことだ。オレたちニそれを覆ス権限はなイ」
「その通りだ」
 どこからともなく、威厳を持った低い声が響いてくる。
 運転手とトナカイは、表情を改めてその声の方へ視線を移した。
「下手に地下へ潜らせては何をしでかすかわからん。あれを求めるということは、そういうことだろう」
 頭髪をオールバックで固めた、トナカイ以上にがたいのいい、巨人に見まごうばかりの巨漢が、ぬっとホイスヒェンの下っ端たちの後ろから現れた。彼らは道を開け、ボスであるその男に頭を下げる。異様な光景だった。
 男が椅子に座ると、そのテーブルの周りをホイスヒェンのメンバーらが取り囲む。下手な動きでもしたら蜂の巣にされる、と運転手は感じた。
 ……それにしても、プレゼント袋如きで随分な警戒網である。一体……?
「さて。ここに来るという事は、例の物を引き渡すということだろうな?」
 有無を言わさぬ威圧。運転手が昨晩歯が立たなかったホイスヒェンのボス、高重幹の登場に、運転手は一瞬怯んだ。しかし自らの役目は、この男と、その部下たちの注意をこちらに向ける事である。負けてはいられない。
「例の物、というと……?」
「とぼけるな。我らから貴様が愚かにも盗み出したものだ」
「なるほど。私は罪な男ですね。それほどに貴方がたの心を掴んでいたとは」
「何を言っている」
「わかっております。私も昨日、貴方がたと会う為に未知の経験をし、そういう世界があることを知ったのです。それは、今まで味わうことのない感覚でした。それまでは生理的嫌悪、及び倒錯に対する恐怖を感じていた私でした。しかし、気付いたのです。性の王を目指す私にとって、それは避けて通れぬ道であると――」
「宝石の話だ。長々とそんな下らないことを続けるつもりはない」
「えっ、私の尻の話ではないのですか?」
「宝石の話だ」
「ああ、尻子玉の話ですね?」
「宝石の話だ」
 まるで動じない。運転手はまるで自分が岩と話している気分に陥った。
「……くっ、岩との性交渉など、只の角オナではないかっ」
「宝石の話に戻せ。貴様ら、見たところ宝石の入った袋を持っていないじゃないか。何のつもりだ。死にたいのか?」
「宝石なら別の場所にあります。私たちは、貴方がたと交渉に参ったのです、色んな意味で」
「交渉できる立場だと思っているのか?」
「搾取されるだけというのは趣味ではないのです。すべてはギブアンドテイク。世の中の常です」
「それが常であると感じているのならば、お前は平和な世界に生きている。ここがそうではないことがわからなかったのか」
「そうでしょうか? では貴方がたを庇護する方々は一体どういう役回りなのでしょう。貴方がたはあの方々から搾取しかしていないとでも?」
「あれと貴様らは違う。決定的にな。人間の程度が違うのだ」
「人間の程度とは何で決まるものなのでしょうね。それは人によって違う。貴方にとって、それは金でしょうが、私にとっては金など、最低限の文化的生活を送れれば、それ以上は必要としません。最低限の文化的生活、というのはもちろん性生活も入ってくるわけで――」
「それ以上不必要なことを言ってみろ」
 高が右腕を上げた瞬間、取り囲む部下たちが拳銃を運転手らに向けた。
「最低限は愚か、生活そのものができなくなるぞ」
「私は一切不必要なことは言っていないつもりなのですがね」
 運転手は卓上の茶を、静かにすすった。 
「私が貴方がたと会えた理由、それが貴方がたのスポンサーがたとの個人的交渉によるもの、と本気で思っていますか?」
「……どういう意味だ」
「私が普通のタクシー運転手だとして、一晩でそんな大物らとアポが取れると思いますか?」
「フッ……思ってないさ」
 高が右手を下げ、部下たちは拳銃を懐にしまう。
「だからこそ、これほどに警戒しているんだ。貴様がただの道楽者だったら、こんな数、ここに集めるわけがない」
「でしょうね。随分と買ってくれるものだと思っておりました」
 運転手と高が静かに睨み合う中、トナカイはただただ混乱していた。
「ちょ、運転手さん。なんすか。なんなんすかこの感じ。あっしすごい場違いなんすけど」
 耐え切れず耳打ちする。運転手も、同じように小声で返した。
「そんなことはありません。トナカイさんが居る事で場が引き締まってますし、私のケツも引き締まっております。貴方の存在なくして今の時間はありません」
「えっ、そうっすか? 確かになんかみんなあっし見て顔を強張らせてますけど。それと予め言っておくとあっしのケツはずっと緩んでます」
「貴方は重要なファクターなんです。決して口を開かず、ついでに肛門もがっちりと閉じて、毅然とした態度で腕を組み、取り囲んでいる彼らを舐めるように見つめていれば問題ありません」
「な、なるほど、わかりやした」
 トナカイはバカ正直に言われたことを実践した。筋肉隆々とした腕をがっしりと組み、舐め回すように高の部下たちに視線を躍らせる。そして肛門括約筋をきゅっと絞った。
(お、おイ。あの男、たダもんジャないぞ)
(オレたちが何カしでカした瞬間、きっト思いモ寄らぬ行動ヲしてくルに違いなイ)
(絶対に早まるナ。いザとなったラ逃げだス準備をしテおけ。オレニはわかル。あレは、人を軽く七、八人は殺しテる顔だ)
 トナカイは知らず知らずの内に、高の部下らに形の見えない恐怖を与えていた。
「何を話していた」
 耳打ちで良からぬ策謀を巡らせていると思ったのだろう。高が警戒していた。
「いえ。こちらの話です。ただ彼が教えてくれただけですよ。『準備は整っている』とね」
 周囲のざわめきが増した。トナカイは先ほど言われた通りに口は開かず、相変わらず彼らを睨んでいたが、「あれ? あっしそんなこと言ったっけな?」と心の中で首をかしげていた。
「準備、だと?」
「貴方は知らなくて良い事です。ですが、『準備は出来た』んです。ただ、それだけですよ」
 高が違う国の言葉で部下に命令を出した。頷いた彼は慌てて地下へと走っていく。
「どうしたんですか? 慌ただしいようですが」
「いや何、少し地下暮しで疲れている者らに陽の光を浴びさせてやろうと思ってな」
 なるほど、街の周囲を警戒させる、ということか。運転手は物事が上手い方へ転がったと小さく胸を撫で下ろす。
「それはいい。じめじめとしたところに閉じこもっていては心までカビてしまう。まあ、ですが、外は危険がいっぱいですよ。安全な巣とは違い、外敵が存在するのですから」
「安心するといい。我らを食い殺す外敵など、この日本には存在しない。この日本こそ、人間を怠惰へ向かわせる一つの巣だ。いわば我らはぶくぶくと肥えた平和ボケどもに寄生し、その脂肪をいただく寄生虫かな」
「さあ、どうでしょう」
 運転手は再び茶をすする。彼らは、何も気づいていない。
「世の中には、寄生生物に寄生する、超寄生生物というものが存在するらしいですよ」
 その寄生虫は、今体内へと入ろうとしているだろう。
 まあしかし、それだけでは不安も残る。
 一応、"知り合い"に声を掛けてはいるのだが。
 釣れるか、否か。
 すべては賭け。どうなるかわからない。
 しかし――それがどうしようもなく、楽しいのだ。
 先がどうなるかわからないからこそ、この世は楽しい。
 そうでなければ、彼は、自身の宿命に耐えてはいない。
「いやはや、私はやはりただの道楽者ですよ」
 高が睨みつける。運転手は笑う。
 はてさて、この博打、一体誰が勝ちを得るのか……。



 3.
 
「しっ、死ぬかと思った」
 最初のダクトを潜り抜けた時、俺は肩で息をしていた。
「まだポイントAにも達していないんだが」
「あんな急降下するとは思ってなかったんだよ! くそっ、トナカイじゃないが漏らしかけたぞ」
 ダクトに入った瞬間、身体が垂直に下へと落ちて行ったのだ。てっきり急な角度の滑り台程度のものだろうと思っていた俺その時すべてを後悔した。
「ちゃんと着地点は作ってやったんだから文句言うなよ」
「何が着地点だ……ただの座布団だったじゃねーか」 
「それ以上に大きなものなんて、邪魔になるだけだろ。ほら、さっさと行くぞ」
 運転手の『準備はできた』という言葉を合図に潜入した二人。先はまだまだ長い。
 天井を伝う狭いダクトを、這うように進んでいく。
「あまり大きな声を出すなよ。すぐにバレるぞ」
「わかってる」
「ポイントAはもうすぐだ。僕が先に様子を見てくるから、僕が良いと言ったら降りてくるんだぞ」
「ああ」
 地図を見ながら進んでいる怪盗とは違い、俺はただ彼の誘導に従うのみだ。彼に命を預けてると言ってもいい。ただ、その命は計画通りに動けばポイ捨てされる運命なのだが。 
「じゃ、行ってくる」
 ポイントA地点まで到達し、怪盗が先に部屋へ降りていく。サンタはダクトの網からその様子を見守った。
 運転手によればこの地点が一番警戒が薄いらしい。そもそも何もない部屋なのだそうだ。作ったは良いが持て余している、ということなのだろうか。
「よし、いいぞ」
 その言葉に従い、俺も怪盗が降りたダクトの出口へ向かう。そうして降りようと思ったのだが……。
「……なあ、これ、頭から落ちない?」
 ダクトの出口は、部屋の天井にあった。
「僕が大丈夫だったんだから平気だろ」
「え? そんな理屈? それで安心しろってこと?」
「いいから早く来い。いつ見回りがくるかわからないんだ」
 ええいままよ、と俺はそのまま降りた。
 そして、見事に顔から着地した。
「お、お前……やっぱりこうなったじゃ……いって、口内炎出来ちゃった」
 それでも口内炎一つで済むのだから、やはり割と丈夫な体である。……そういや、運転手もなんだかんだ怪我を負ってもケロっとしていたな。もしかして、あいつも……。
「おい、行くぞ」
 怪盗は考え込む俺に構うことなく部屋のドアを開け、そこから廊下の様子を窺った。
「運転手は上手くやってるみたいだ。ここには誰もいない」
 天井で監視カメラは動いているが、既にハッキング済みらしい。バレないようにダミーの映像を流しているそうだ。
「よし、行くぞ」
 廊下に出てすぐのところのダクトが、ポイントBに繋がるらしい。またあの埃臭いところへ行くのか……。
「しかし、行くしかないんだよなぁ……」
 怪盗がすいすいと入って行ったダクトへ、自分も続いた。
 しかし、俺は本当に作戦通り事を起こさなくちゃいけないんだろうか。
 何ともモチベーションの上がらない。怪盗はともかく、自分が成功するビジョンが浮かばない。
 たどり着くまでに何か考えなければ……。
 考えながら進んでいたからだろうか。
 怪盗が止まっているのに気付かなかった。
「んごっ」
 柔らかいものに顔がぶつかった。なんだ、怪盗のケツか。気持ち悪い……。
「おっ、おまっ、人の尻に何してるんだっ」
 怪盗は何でか狼狽していた。
「お前もあの運転手みたいな変態なのかっ!?」
「はぁ? んなわけねーだろ。俺は健全だよ、健全。つか何でそんな反応なの。むしろこっちが怖いんだけど」
「いっ、いや、なんでも、なんでもないよ。ああくそっ」
 何だ? いまいちよくわからん反応だな……。
「何で立ち止まったんだよ。何か問題でもあったのか?」
「いや、監視カメラの映像をハッキングして、こちらでその映像を見れるようにしているんだが……ポイントBに、人が居るんだ」
「マジか」
「ああ。一向に動きそうにない」
「監視か……運転手によれば、この経路と作戦ならまず居ないだろうって話だったが……」
「何か一心不乱に行ってるんだ。一体何やってるんだろう、これ……」
「ちょっと見せてみ」
 たわしから端末を受け取る。
「どれどれ……?」
 見てみると、確かにそこに人が居た。後姿なのでよくわからないが、何か一心不乱に行っている。……なんだ、この動きは。右へよいよい左へよいよい。何か藁で出来た微妙にカーブのできた板のようなもので懸命に踊って……ん? そうか、これ、踊ってるのか。頭に手ぬぐいを巻いて、半被のような物を着て、足袋を踏んで右へよいよい左へよいよい。何かをすくうかのように腕を振って、こっちを向いてそのひょっとこのお面を見せ――。
「ってひょっとこ!? それにドジョウすくい!?」
「おお、僕らの前に怪盗ひょっとこが来てたんだな」
「いやっ、えっ!? マジで居たの? マジで居るの!?」
「いやーマジかー。どうしようか、気まずいね」
「いや気まずいねとか呑気に言ってる場合!? 気まずいというか明らかにまずい展開だろこれ!!」
「そうだね。どうしよう。とりあえず挨拶しとこうか」
「いやいやいや、なんでそうなるの。っていうか何で知り合いに会っちゃったみたいな穏やかな雰囲気なの」
「怪盗ひょっとこは寛容な人物であることで評価が高いんだ。同業者と会うとすかさずドジョウをくれるらしい」
「だから何なの? ドジョウをくれるから何なの?」
「ある人は逃亡中にドジョウを頂いて助かったって話してたよ」
「ドジョウをもらってどうしたの? それを逃亡の何に生かせたの?」
「ある人はレア物のサイン入りドジョウを貰って、宝なんて忘れて帰っちゃったらしい」
「怪盗ってアホしかいないの? アホしかなれないの?」
「う〜ん困ったなあ。ひょっとこの顔を潰すわけにはいかないし」
「いや潰せよ。そこは宝物を巡って争えよ!」
「そういうわけにはいかないよ。怪盗飲み会で会ったら気まずいじゃん」
「お前ら飲み会なんてやるの!? 怪盗なのに!? 何なの? 大学のサークル!?」
「あ、いつの間にかどこかに行っちゃったみたい。今の内に行こうか」
「……そうだね」
 なんつーアホな状況だ……。
 緊張感もあったもんじゃない。
 俺たちはポイントBに降りたち、再びダクトへ潜ってCへと向かった。再び狭いダクトを進む――と、再び怪盗のケツに頭をぶつけた。
「あひゃっ! ま、またか! また僕のおしりにっ!」
「いやこっちのセリフだわ。なんなの。また何かあったの。声かけてくんない。俺としても不本意極まりないんだけど」
 怪盗はぶつぶつ文句を言いながら、端末をこちらに回してきた。
 今度は何だ……と端末を見ると、
「うへ……」
 そこに映っていたのは、二人の外国人――ホイスヒェンの連中だった。
「今度は真面目にピンチだな……」
「ああ……一応想定はしていたが」
 怪盗が腰に手を回し、タワガンを掴むのが見えた。
「えっ、いやいやいや、それでどうすんだよ。まさかあいつらに向けて撃つつもりか?」
「それしかない」
「それしかないって、そんなんであいつらをどうにかできるつもりか? せいぜい怒らせること関の山だろ」
「おいおい、何のためのたわしだと思ってる」
「物をピカピカにするための用途しか思い浮かばねーよ!」
「あいつらをピッカピカにしてやるぞ……!」
「かっこいいと思ってるかもしんないけどただアホなこと言ってるだけだからねお前」
「じゃあどうするっていうんだ! 僕らにはタワガンしかないんだぞ!」
「いやむしろその装備だけでよくどうにかできると思ってたな。ひのきの棒で魔王に挑むようなもんだからねそれ」
「しょうがない、経験値を稼ぎに行くか。とりあえずちゃんとタワガンは装備画面で装備しとけ。持っているだけじゃ意味がないからな。よし、スライムを狩るぞ!」
「ものっそい錯乱してるな……」
 運転手らの時間稼ぎもそう長くは続かないだろう。どうにかして状況を打破しなければならないのだが……。
「くっ、やはりタワガンで突撃するしかっ」
「やめろっつに」
 いよいよ怪盗が混乱の果てに無謀な手に出そうな時だった。
「ん?」
 ポイントCに異変が見られた。画面に映る二人が一点を見据え、緊張をその顔に滲ませ始めたのだ。
 なんだ? 何が起こっている……?
 その画面端から、何者かが現れる。
 俺は、固唾を呑んでその光景を見つめた。
 そうして現れたのは――
 ドジョウすくいを踊る一人の男だった。
「こいつ何してんの?」
 ひょっとこ仮面は狂ったように右へ左へと踊り続けている。ホイスヒェンの二人も、そして俺も、ただただ混乱することしかできなかった。
「え? こいつ何? 何してんの?」
 今ひょっとこ仮面を見ているすべての人間の感想だろう。
 ホイスヒェンはただただ困惑して固まっている。ひょっとこ仮面はお構いなしに躍り続け、そしてやがてその部屋から消えていった。
 ホイスヒェン含め、その挙動を眺めていた俺も目をぱちくりする。
「え……何しにきたの、あいつ」
 監視の連中もハッと気が付いたのだろう。無線に手を伸ばし、報告を入れようとした、その時だった。
 彼らの口に何かが複数、目でとらえられないスピードで投げ入れられ、その二人はそのまま昏倒した。
「なっ!」
「おい、どうした。何があったんだ?」
「い、いや、俺にもよく……。ただ、監視の二人が倒れたってことくらいしか」
「そうなのか。それは好都合だ。それを返してくれ。潜入を続行するぞ」
 え、マジでか。このよくわからん状況で進むのか?
 一抹の不安を覚えつつ、怪盗のケツについていった。
 そうしてダクトを潜り抜け、ポイントCに着いた。監視役の二人は相変わらず気を失って倒れていた。
「しっかし一体何が……ん?」
 その二人の口を覗き込んだ時、俺は口をあんぐりと開けて呆けることになった。
「……ドジョウ?」
 二人の口にはそれぞれ大量のドジョウが詰まっていた。
「こ、これは……怪盗ひょっとこ仮面の秘技の一つ、ドジョウスプラッシュか!」
「え、何そのだっせぇ必殺技」
「敵に痺れ薬を仕込んだドジョウを呑ませる技だ。すごいな……飲み会の席である怪盗が言っていたが、こうして目の当たりにすると圧巻だ。ファンが多いのも頷けるよ」
「ああ、そう……」
 それ以上その話を進めたら脳がアホに浸食されそうだったので一方的にそれを打ち切った。
「とりあえずこれでポイントDに迎えるわけだな。例の作戦実行までいよいよもうすぐか」
「ああ。僕が赤外線を怪盗の技能で見事に掻い潜り、そして君は監視の襲撃をまあなんとかして掻い潜る」
「俺の掻い潜り方ふわっとし過ぎてない?」
「ここまで来れたんだ。僕は認めるぞ。君には怪盗の素質がある」
「素質もなにもここまで来れたの運が良かったとしか思えないんだが……」
「いざとなったらタワガンを頼れ。それが君の命綱だ」
「こんなタコ糸みてーなか細い命綱見たこともねーよ」
「よし、話もまとまったことだし急ぐぞ! 目標は目の前だ!」
「マジで言ってんのか……」
 もうツッコむことにも疲れてしまった。
 いざとなったら降伏して命だけは助けてもらおう……。そんで隙を見て逃げ出してみるしかないな。
 捕まるわけにはいかない。
 ここでプレゼントを取り戻しても、まだ終われないんだ。
 待ってろ助手。
 あんな顔、二度とさせねーからな。
 

 目を開けると、暗闇が広がっていた。
 彼女、助手は既視感を覚え、嘆息する。この暗闇、絶望は、今まで幾度と味わってきたものだった。
「結局、こうなるんですね」
 何度も裏切られてきたサンタという存在。そこに現れた初めて見るサンタらしきサンタ。彼に、彼女は希望を見出した。また羽ばたけるのかもしれない。夢のような存在と、夢のような奇跡を起こせるかもしれない。そう、信じた。
 しかし、現実はこうだ。まるでこの暗黒がお似合いだとでも言われているかのように、彼女に差した一筋の光は暗雲に閉ざされた。
 自分が何故こんなところに囚われているのかは知らない。だが、きっと、どんな道筋を辿っても、不幸しか訪れないのだ。慣れ親しんでしまった諦観の念に、助手は苦笑を漏らした。
 手と足に錠を付けられ、動くこともままならない。埃っぽい小さな一室に置かれているようだが、暗すぎて出口がどこに在るのかも知れない。これは、楽しみにしていたクリスマスの特番を見るのは叶わなそうだ、と彼女は思った。
 しばらく無音と暗闇の中に居たが、どこからか騒がしい声と慌ただしい足音が響いてきた。何だろう。表では一体何が……。
 その時、正面から眩い光が漏れた。ドアが開けられたようだ。
 暗い人影が、コツコツ、と近づいてくる。
「あーら、起きていたのん?」
 気色の悪い口調。顔を上げると、片目を眼帯で覆った、とんでもなく化粧の濃い、金髪トサカの"男"が居た。筋肉隆々の身体。だというのに紺色のレオタード。寒気のする光景だった。
「ウフフ、アナタも災難ねぇ。"アナタ"が、こんな目に遭うなんって」
 ……何だ、それは。
 このオカマは、自分を知っているのか?
 しかし、だとするとこれは……。
「ねえ、どんな気分? 暗闇に捕えられて。絶望しかない檻に"再び"閉じ込められて」
 まさか……。
「ウフフ。その顔。そそるわぁ。気付いちゃった? 知ってるの、アタシ。"アンタたちが、何者なのか"をね。しかも、"アナタが、どういうヒトだったのか"というのもねん」
 先ほどとは違う意味で寒気を感じた。
 それは――恐怖。
 彼女はすぐに察した。目の前のこの男は……危険だ。この男は、今まで自分を苦しめてきたモノと同じ類の――いや、それよりも更にタチの悪い、"絶望"だ。
「そんなに怖がらないでほしいわぁ。そこまで震えられちゃうとね、アタシ、すっごく……感じちゃうの」
「な、なにを……言って……」
「だーいすきなのよ、こういうの。たまんないのよ。ずっと待ってた。やっと来てくれた。これはチャンスなの。とてつもない快楽の、チャンスなのよ」
 彼は、腰から一振りのナイフを取り出し、刃をぬるりと舐めた。
「……! そ、そのナイフ……」
 助手には見覚えがあった。
 そう、確か、このナイフは、あの時……。
「大丈夫。今すぐに殺しはしないわ。それじゃ、もったいないもの。アタシね、ちゃーんと熟れる時まで我慢して食べるのが好きなの。我慢したら我慢した分だけ……その味は濃くなる。快楽という味は、焦らして焦らして……腐り落ちる一歩手前は一番イイのよ」
 助手の前に、男が何枚かの写真を落とした。そこに映っていたのは、サンタたちの姿だった。
「彼ら、アナタのためにすんごい頑張ってるわよぉ。多分、もうすぐここも勘付かれるでしょうねぇ。まったく、大した善人よ、カ・レ」
「サンタ、さん……」
 あの、バカ……。
 何で? どうして? 彼女の心が揺れる。ぐちゃぐちゃに、かき回される。
 光が、生まれてしまう。
 闇に閉じこもっていれば、まだ平気だったのに。
 だめだ、生まれては。
 目の前に、大きな邪悪がある今。
 絶対、だめなのに……。
「ねえ、カレ恋人なの? アナタとカレってデキてるの? だとしたらすごいロマンチック。クリスマスに、愛する女を命を賭けて助け出す。あらーん妬けるシチュエーションだわぁ――でも、ね」
 サンタの映る写真に、ナイフが突き刺された。
「カレ、殺すわ。そうした方が、実はもっと熟してくれるものね」
「や……めて……」
 心から振り絞った懇願。
 それだけは、だめだ。
 あの善なるバカな魂が失われてしまうのは。
 やっと生まれた光が。
 闇の螺旋を、終わらせてくれる希望が。
「うふふふふふ……仕方がないのよ。アナタは、そういう運命なのだから」
「ま、待って……」
「大丈夫よ。事態が進んだら、また会いに来てあげる。もぉっといいことをしてあげる。だから……楽しみに、待ってなさい」
 男は、不吉な言葉を残して去って行った。
 助手は、唇を強く噛み締める。
 やっぱり、ダメなんだ。
 自分という存在は。
 在っちゃ、いけないんだ。
 諦めよう。
 諦めるんだ。
 今までだって、そうしてきたじゃないか。
 諦める。
 慣れてるんだ。
 でも……。
 私は……。
「サンタ……さん……」
 でも、彼だけは。
 どうか、それだけは……。
 深い闇の中。
 根源となる映像が、その脳裏に過る。
「……ルミ……」
 それは、温かい記憶。そして――冷たい記憶の始まり。
 彼女の心から、次第に光は失せていった。
 

 4.

 目をつぶり、深呼吸して、精神を落ち着ける。俺は狂ってない。俺はあるがままの現実にいる。そうだ。よし、じゃあ瞼を開けてみよう。俺はゆっくりとその目で現実を見据えた。
 ――十人くらいの怖い人たちが、俺に向けて銃口を向けていた。
 ああ、やっぱ夢だ夢。こんな現実あり得ないもん。ハリウッド映画でさえこんな絶体絶命な状況ないよ。あったとしても絶対死んでるよそいつ。そうだよね、絶対死ぬよねコレ。
「なんで……」
 俺は頭を抱えた。
「なんでこうなった!?」
 ポイントEにて。
 一歩も動けず、手に在るのはタワガンだけ。
 まじでコレ、どうしろと?

 
「あいつは上手くやってるかな……」
 天井からワイヤーを吊るして保管庫に潜入している怪盗たわしは、ぼそっと呟いた。
「まああいつのことだ。うまくやってるだろう」
 深く考えるのは止した。精神衛生上よくない。
 さて、先ほども説明したように、たわしはポイントDを通り抜け、プレゼント袋が安置されている保管庫にやってきている。今頃はポイントEにて騒動を起こしているであろうサンタに注目が向いていることだろう。監視カメラのクラッキングは先ほど切り上げたのだから。
「それにしても、よくもまあこうも厳重にするものだな。心配性なのか、あいつらは」
 国際的窃盗団を名乗るにしては、通路などの守りが薄すぎる。まあ、だからこそのこの赤外線の数なのだろうが……。
 たわしの顔を覆っているたわしマスクはただのお面ではない。様々な盗みに役立つツールが入っており、赤外線を視認することができるのもその性能の一つだ。
「まるで網だな」
 運転手が音を上げるのもわかる。しかし、自分は怪盗。怪盗たわしなのだ。その矜持の見せ所は、まさに今である。
 ワイヤーを伸ばし、そろりそろりと少しずつ下降していく。赤外線センサーはそれぞれ動いており、数秒だけ大きな間が空く時がある。そこを掻い潜り続け、袋までたどり着ければ勝ち。一ミリでも自分の身体にそれが触れてしまえば負け。一瞬一瞬が闘いだ。
 素人ならば音を上げるだろうが、たわしには怪盗としての自信と誇りがある。かつて、幼い頃、憧れの人物に教わった様々な技術がある。
「カイにいちゃん、元気かな……」
 その姿がふと頭に浮かんだ。優しい笑顔と、頼りがいのある大きな背中。もうぼやけてしまっている記憶だけども、決して忘れることの出来ない暖かな日々。
 次に浮かんだのは助手の顔。
 やらなければ。
 なんとしても、取り戻さなくては。
 正直このプレゼントの袋なんてどうでもいい。だけど、懐かしい記憶と、助手の顔と、そしてあのバカなサンタの姿――一つ一つのファクターが、その身を動かす。
 赤外線を必死に掻い潜っていく。過去とは違う。何も出来ずいじけていたあの頃とは。
 目の前をセンサーが横切っていく。耳のそばを、肩を、複数のセンサーが縦横無尽に駆け巡り、肝を冷やしていく。
 それでも、手を伸ばす。恐怖に打ちひしがれていては、何も手に入れることが出来ない――敬愛する、怪盗の師匠が言った言葉だ。楽しめ。スリルを楽しめ。こんなつまらない世界だけど、その瞬間は生きていることを実感できる……。師匠は、そう言っていた。
 たわしは笑った。
 そういえばそれは、漫画の引用だった。あの人が、好きだった漫画の……。
「……よし!」
 袋は、もう目前にあった。
「盗った!!」
 そうして掴んだ袋。あとは戻るだけだ、とワイヤーを引き戻そうとする。
 そこで、気づいた。
 自分の身体よりも太いこの袋。
 どうやって、センサーをくぐらせればいいんだ?
「……なるほど」
 もうこうなったら、腹をくくろう。
 怪盗たわしは、何の臆面もなく、袋を担いで赤外線の網目に飛び込んでいった。

 
 ところ変わって運転手とトナカイの二人。もはや時間稼ぎは不可能と判断し、宝石の譲渡を行っていた。袋はタクシー内に置いていたので、トナカイがそれを取りに行く。しばらくして、彼は袋を担いで戻ってきた。少し、彼のコートが膨らんでいたのだが、そんなことよりも皆袋に視線を集中させていた。
「中を改めろ」
 高に命令された部下が、袋の口を開け、頷く。
「間違いナいです」
「うむ……しかし、貴様らどうやってこれを奪ったのだ? しかも、代わりにあんなものを置いていくなど……」
「それはこちらの方が聞きたいくらいです。私たちは奪ったのではありません。いつの間にやら袋が入れ替わっていたのです」
「いつの間にやら入れ替わる? そんなはずはない。……そうだな?」
 同意を求められた部下が頷く。
「我々ハ、警察からノ逃亡の中、宝石を隠シたのだ。ツマり、隠し場所ヲ暴かナい限リ、宝石を持っテいくことはナイ」
 隠し場所を暴いたということは故意に持って行ったということ……そう言いたいのだろう。
「ではその時どこに隠したのです? もう宝石はそちらに渡し、我々の袋もそちらの手にあるのです。それくらいは、聞いても構わないでしょう?」
 部下は高に顔を向けた。高が頷き、彼は口を開く。
「とあるデパートの裏の路地だ」
 デパート。運転手の頭に閃く言葉があった。
「そのデパートの名前は……サトルヌス、ですか?」
「そうダ、盗んダ貴様らが一番知ッテいるダロう」
 それは誤解なのだが、もはや解くのもめんどくさい。
「袋を持って行った方はどちらですか?」
「オレだガ」
 高の後ろから部下の一人がぬっと前に出てくる。
「袋を持って行った際の状況を教えて下さい」
「状況も何モ……指令通リ、袋はポリバケツの前ニ置いてアった。ダから、オレはソレを持ち帰ッタ」
 その言葉に、隣の男が反応する。
「ポリバケツの前……? オレはポリバケツの中に入れタぞ……?」
「中……? しかシ、袋は間違いナク、ポリバケツの前ニ……おお、そウだった! あの時、袋ノ周りニ妙な連中ガイタんだ! 確か……暗くてヨく見えなカったガ、白髪ノ男と、ソレからもウ一人……。もう一人はベンチでウトウトしテいたが、モう一人の白髪はソワソワとシテ袋ヲ見張っテいた。オレは袋ヲそいつらに取らレタと思イ、監視していた白髪の男ガ席を外しタ隙を見て、ソレを奪取したんダ」
 白髪ともう一人……運転手の頭に浮かぶそのコンビは、サンタと助手くらいしかいない。
「ということは……やはり、貴方がたの勘違いじゃないですか。きっとそのポリバケツ前にあった袋が我々の袋で、きっと貴方がたの袋はそのままポリバケツにあったのですよ」
「う、グ……し、しかシ、貴様ラがあの宝石ヲ持ッテ帰り、我が物トしていた事には変わりナイ!」
 なんて乱暴な言い分だ。周りのホイスヒェンのメンバーも若干引いていた。要するに、この男の勘違いで状況はややこしくなったのだ。しかし高は何食わぬ顔で、
「しかし約束は約束だ。貴様らのブツも我々が貰っていくぞ」
 と厚かましいことを平気で口にしていた。
 しかしなるほど、袋が入れ替わった理由はあっさりするほど簡単な理由だった。二つの袋は、同じ時間、同じ場所にあったのだ。ホイスヒェンがまずサンタたちのプレゼント袋を持っていってしまい、サンタたちはその場に残った宝石の袋を持っていった。ポリバケツの中にあった、その袋を……。
「ううむ……」
 どうしてだろう。何だか釈然としないものを運転手は感じていた。何か、状況が似つかわしくないというか、若干の違和感がある。その違和感の正体がつかめず、彼は眉をひそめた。
 ひょっとこの面をつけた不審な男が地下に現れた、という連絡を高が受けたのは、その直後のことだった。
「……貴様らの手の者か?」
「何のことです?」
「ふざけたお面をつけた男だ」
「そんな仲間、我々には居ません。と言って、信じてもらえるかどうかは貴方がた次第ですが」
「怪盗ひょっとこ仮面の噂は聞いたことがある」
「ではその人なんじゃないですか?」
「だが、貴様らが奴に袋の回収を依頼した可能性もある」
「そんなところまで疑い出したらきりがないと思いますがね。今のままじゃそこのトイレが詰まっても『お前らの陰謀だな』と言われてしまいそうです」
「トットイレッ!!??」
 突然トナカイが立ち上がった。その鬼のような形相に、周囲の高の部下たちは命令も待たずに銃口を向けていた。
「なっ、なンだ、突然っ」
「気をつけロ、主に疑イをかけラれ、逆上してイるのかもしれなイ」
 自分がこの男の主だと思われているのか、と運転手は思わず苦笑してしまう。主は自分ではない。彼の主は今、必死に地下を駆け巡っている。
「安心してください。彼はトイレに行きたいだけです」
「……なんだと?」
「先ほどから下しているようでして。お許しが頂ければトイレへ向かわせてほしいのですが」
「その隙に何かするつもりじゃないだろうな」
「失礼な! 貴方正気ですかっ!? あっしが、今のこのあっしが、ウンコを出す以外何かする余裕があるとでもっ!?」
 高に詰め寄りそうな勢いでまくしたてるトナカイを、運転手が何とかとどめた。
「すいませんが、トイレ関係の話は彼を激昂させます。監視でもなんでもつけて構いませんので、どうぞ彼をトイレに行かせてあげてください」
「ちょ、運転手さん、気が触れているんですか!? あっしのウンコ中に人をそばに立たせる、ということは、その人間の死を意味しますよ!?」
 周囲がざわめく。
「な、どういウことだ?」
「トイレというのは何カの比喩ナのか?」
「いヤ、それ程にクサいというこトなんじゃ……」
「静まれ」
 高が周囲を睨みつける。
「……トイレは向こうにある。入口に見張りを付けるから妙な真似はするんじゃないぞ」
「ええ、ありがとうございやす。あっしもウンコをするだけと約束しましょう。だから、そちらもドアを開けて中を覗くなんて危険な真似はよしてくだせえ。警告はしときやす。あっしのウンコは……殺人的クサさっす」
 高に監視として選ばれた部下は、目を見開いて十字を切っていた。
「連れのトイレが終わったら帰るつもりでいるのですが……」
「侵入者が貴様らと無関係であると証明されない限り、帰すつもりはない」
 やはりそうなるか。
 だが、計画通りではある。
 どちらにせよ、彼らと関わった時点でこれからの生活の保障はないのだ。例え作戦通りの"第三者の犯行"に見せかけても。
 ならばどうするか。それは無論――ここで一切の禍根を断つ。それしかない。
 宝石は譲渡した。
 ならばあとは中に潜入する彼らに任せ、自分たちは自分たちに出来る事をしよう。とはいえ、もう手は打ってあり、あとはまた他人任せなのであるが。
 その時、彼の無線にとある報告が入った。それは、サンタでも怪盗でも、ましてやトナカイでもない。
「げほっ、ごほっ」
 運転手は突然咳き込み、ポケットからハンカチを取り出し、口を覆った。
「……すみませんね、昨日の傷がいまだに」
「ここへやってきた時、貴様は傷だらけだったな。一体何をした」
「ちょっとばかり交渉を」
「交渉?」
「ええ」
 運転手は口をハンカチで覆ったまま頷いた。
「交渉というか、釣りというか……餌をばらまくだけばらまいた、というとこでしょうか。――トナカイさん。もう、我慢しなくていいですよ。"全て、出してください"」
 高が警戒し、部下に命令を出そうとした瞬間だった。
 トイレが開け放たれたかと思うと、そこから途端に白いガスが部屋中に噴き出した。
「なっ、なん――げほっ、ごほっ、目がっ、咽喉がっ!」
 用意しておいた催涙ガス。トナカイがトイレに籠るフリをしてロングコートに忍ばせておいた装置を組み立てて設置、発動させたのだ。運転手は即座に懐からガスマスクを取り出し、顔に装着して煙の発生源、トイレへと駆けた。
 時間はあまりにない。
 換気され、ガスが薄くなってしまえば即座に打って出られる。
 トイレの前で目を覆いながらうずくまっている監視をまたぎ、トイレへ飛び込んだ。ガスの吹き出ているボンベを蹴り出し、トイレの窓から脱出を試みようとする。
 しかしそこで、彼の身体は止まった。腕を、後ろから何者かに掴まれたのだ。
「逃がサなイぞ……」
 先ほどうずくまっていた監視だった。充血した目を光らせ、此方を睨みつけている。
「貴様は、殺しテやる……」
 銃口を向けられる。この近距離で避けるのは不可能だった。
 ふう、と運転手は溜息を吐いた。
 これが快楽、もとい、道楽を求めて足を踏み込み過ぎた者の末路か……。
「運転手さん!!」
 しかし、彼の運命はそこで終わりではなかった。
 天井から何者かが監視の上に落ちてきたのだ。
「ぐぁっ!」
 監視はそのガタイの良い誰かに勢いよく踏まれ、その場で気絶した。
「運転手さん、無事ですかい!」
 トナカイだった。脱出しているものと思ったが……。
「トナカイさん! 助かりました。しかし、何故天井に?」
「え、だって出口ってあそこっすよね?」
 トナカイは頭上を指差す。そこには天井裏へと続く排気口があった。
 運転手は思わず吹いてしまった。
「トナカイさん。出口はそこの窓です。天井裏へ行っても何もありませんよ」
「えっ!? マジっすか!? あ、そういえばそう言ってやしたね……ひゃー、危ない危ない」
 ガスマスクでその表情はわからないが、随分と呑気な声でそんなことを言っていた。
 しかしその呑気さに今回は救われた。
「さっ、出ましょうトナカイさん。祭りも佳境です」
「うぃっす! 今度は間違えませんよ!」
 何とかその場を抜け出し、外へ出た。もうそろそろ、ガスも換気された頃だろう。
「しかしこれからどうするんすか? サンタさんたちはまだ中ですし、それに俺らもすぐ奴らに追いつかれますぜ」
「安心してください」
 運転手は中華料理屋の裏手に回り、トナカイを誘って物陰に隠れた。そのすぐ横を、幾人ものチンピラたちが通り過ぎていく。
「あ、あれ? あの人たちゃ……」
「見た事あるでしょう?」
「え、ええ。それも、昨晩に」
「先ほど餌をまいておいたんです。あらゆるSNSや掲示板などに」
「餌?」
「例の袋は、ホイスヒェンが持っている、とね。他にも昨日交渉させていただいた方にも、複数の組に向けてリークしてもらいました。渋冶の中華屋で、その袋を奪った者たちとホイスヒェンとで交渉が行われている、と」
「ってこたぁ、あの人たちゃ……」
「ええ。それを妨害するために殴り込みをかけにいったのでしょう」
「……あれ? つまりここ近辺にはホイスヒェンとあのおっかない人らが居るってことっすよね? これ、さっきよりあっしらにとってヤバい状況になってません?」
「いえいえ。飽くまでも彼らの目的は"例の袋"です。ホイスヒェンも必死に抵抗するでしょうから、私たちなぞに構ってる暇はないでしょう。何より、こうすることで、彼らの素性がわかりますからね」
「食いついてここまで乗り込んできたってこたぁ、その交渉した方の通じている組の一つ、ってことっすか」
「それだけじゃありません。彼らは素性を明かし、その方に詳しい情報提供を依頼していたみたいです。先ほど、その報告が来ました。彼らがどこの組の者なのかという謎は、もう解けています。あとは……」
「サンタさんたちの帰りを待つこと、ですね……」
「いえ、もう一つありますよ」
 運転手は無線をある人物へとつなげた。
「あっ、昨晩はお世話になりました。相変わらず素晴らしいテクをお持ちで……え? ああ、もちろん大丈夫です。手筈通り、例の店で乱闘騒ぎを起こせたので、"別件逮捕"は出来そうですよ。――ええ、証拠品である宝石もそこにあります。いやあ、政治家が絡んでいるから動きづらかったでしょう。ですが彼らとは私が交渉しておきましたから。後は存分に手腕を振ってください、"署長"さん」
「……ええと?」
「さて、これでホイスヒェンに関しては一網打尽でしょう。あとは……」


 絶対絶命の危機に陥っている時、突然施設内にサイレン音が響き渡った。
「なっ、この音ハッ」
「保管庫ニ何者かが侵入シたのかっ!」
 ……えっ? バレてる!? あいつ、あんな自信満々だったのにしくじったのかっ!?
「お、オい、それダけじゃなイぞ! 交渉相手ニ、逃げらレたらしい! しかモ、昨日の猿どモが乗り込ンで――」
 見事に彼らは混乱していた。二つも三つもトラブルが重なり、何をどうしていいのかわからなくなっている。
 こ、これは、逃げるチャンスじゃないか!?
 俺はすかさず横っ飛びに包囲を潜り抜け、そのまま全力で走り出した。
「あっ、待テ!!」
 すかさずホイスヒェンが追いかけてくる――と思ったら、鋭い発砲音が響いた。
「止マれ! 次は当てル!」
 おいおいマジでか!?
 コレにはさすがにビビッたが、尚更止まれない。俺は右に伸びた通路に飛び込み、物陰から追っ手に向けてタワガンを構えた。少しの目くらましにでもなってくれたらそれでいい。
 チクチクとする引き金を、ためらいなく引いた。
 予想以上の反動があり、尻餅をついてしまうほどだった。そして、その直後、目の前が突然白一色に染まる。
「――!?」
 それが目を焼かんばかりの発光だと気づくのに、少々時間が必要だった。
「こ、こレは……閃光弾かッ!!」
 ホイスヒェンの連中のうめき声が聞こえた。あれ、おかしいな。コレ、たわしが飛び出るだけのおもちゃじゃなかったの? 少しの目くらましどころか目くらましそのものじゃんコレ。
 この隙に逃げれればよかったのだが、いかんせん向こうと同じくこちらも視界を奪われているというプラマイゼロといった状況なのである。怪盗たわしの意図が読めない。何でコレのことちゃんと教えてくれなかったの? ……いや、あいつのことだ、ただ単に忘れてただけなのかも……。
 直撃を食らった向こうに比べれば、視界が戻るのは少し早い。通路の輪郭をつかめるほどに視界が回復したのち、俺は走り出した。とにかく追っ手から逃れなければならない。逃げて逃げて、逃げて……あれ、俺、一体どこに逃げればいいんだ?
「くそっ!! ほんっとにノープランじゃねーかっ!!」
 地図もなければプランもない。
 今すぐ適当に俺を放り出した怪盗たわしをぶん殴りたい。――と、そこで良いことを思いついた。
「そうだ、俺も保管庫に戻って、そこから通路を遡れば……」
 あそこにさえ行ければあとはトントン拍子に出口へと行ける。あそこに行けさえすれば……。
 しかしやはり問題が出てくる。地図がないという最大の問題が。
「居たゾ!!」
 いくら悩んでいても道は開かれなければ敵も追ってくる。
 マジでどうしよう、この状況。
 とりあえず通路の影から追っ手を確認し、もう一発閃光弾を打ち込もうとした。
「!!! 撃っテくルぞ! 目を塞ゲ!!」
 追っ手の足が止まる。俺はもう身構えて引き金を引いていた。
 パスッ、という軽い音がした。反動は無に近かった。
「え?」
「ン?」
 何かが追っ手の一人にぶつかり、ぽとんと床に落ちた。
 それは、たわしだった。 
 見まごう事なく、たわしだった。
 俺はもう我慢できずタワガンを地面に叩きつけ、何度も何度も足蹴りしていた。
「ナ、何かヨクわからンが、相手ハ今無防備ダ!!」
「行ケ! 行け! 突っ込メェェェェ!!!」
 逃げろ――と後ろへ振り返るが、行き止まり。
 やばい。
 マジで絶対絶命だ。
「ちょ、待って! マジで! 話し合おう! 平和的解決が一番だ!」
 しかしやつらの足は止まらない。銃を構え、こちらに突っ込んでくる。
 万事休すかっ!?
 
「――悪蔓延るところに我在り、正義を執行せんと魂震える」

 突然、くぐもった低い声がその場に響く。
「ナ、何だッ?」
「!! 上ダッ!」
 ホイスヒェンの連中が上を向く。俺もつられて天井を見上げた。そこに、一つの黒い影が。
「我、正義の怪盗ひょっとこ仮面なり! 不埒で野蛮な盗人共よ! 天罰を受けるがいい!」
 ひょ、ひょっとこ仮面!?
 天井から舞い降りたのは、カスリの上衣を着込み、豆しぼりを頭に巻いたひょっとこの面の男――ひょっとこ仮面だった。腰かごをゆらし、ザルを肩に担いでいる。その姿は……先ほどの気合の入った口上とは打って変わって、あまりに間抜けである。
「ナっ、何だコノ不審者ハっ!」
「凄イぞ、見るダケで不審者ト分かル。マルで場違イ、いヤ、気違イだッ!」
 ホイスヒェンの連中もうろたえてしまっている。そりゃそうだ。俺まで訳がわからず棒立ちしてるくらいだし。
「フン、悪辣な盗人共め。この正義の権化とも言える姿を見て恐怖していると見える」
 いや、ただただ混乱してるだけなんだけど……。っていうか盗人呼ばわりしてるけどお前も怪盗だろ。
「ナ、何が何だカ分からンが、妙ナ面ヲ揃っテ付けテいル辺リ、コイつらは仲間ダ!」
「捕まエろ!」
 体勢を整え、再び銃をこちらに向けるホイスヒェンたち。ひょっとこ仮面は怯む様子もなく、彼らを睨んでいる。
「無粋な玩具を向けおって。いいだろう。相手になってやる」
 ひょっとこ仮面が、ザルを肩から下ろし、ホイスヒェンの連中に向けた。
 まさか、どじょうすくいをするつもりか……? と不安になっていると、
「フンッ!!」
 その掛け声と共に、何かがザルから飛び出て行った。
 それがホイスヒェンに当たった瞬間、
「ミギュェッ!?」
 彼らは、身を震わせたかと思うと、バタバタと倒れていった。
 ……え? な、何が起こったの?
「必殺、どじょう撃ち」
 ひょっとこ仮面は満足そうにそう言い放つと、飛び出ていった何かがザルへと戻っていった。目を凝らしてよく見れば、それはドジョウだった。ドジョウとザルは細いケーブルのようなもので繋がれている。何なんだろうな、この小学生が自由帳に書き殴った落書きみたいなアイテムは……。
「不思議か?」
 まじまじと見つめている俺に、ひょっとこの面が向く。同じ面を被っているとはいえ、ひょっとこのインパクトは強いな……。
「ドジョウスブラッシュは君達も道中で見ただろう。あれは、私の腕に装着されたドジョウマシンガンから放たれる、痺れ薬を仕込んだドジョウによって相手を気絶させる技なのだが、このドジョウ撃ちもそれと似た要領でね。ザルに付けられた有線のドジョウを発射し、相手に付着させた後、強い電気ショックを与える技なのだ。ドジョウスプラッシュよりもこちらのほうが威力は高い。彼らが起き上がるのは明日になるだろうな」
 ……ということらしい。聞き流してしまったので俺はよくわからん。
「君達がここに忍び込むことは分かっていた。悪辣な者達から、盗まれた品を取り戻そうとしていたのだろう?」
「ま、まあそうだが……」
 忍び込むことは分かっていた? 一体なんで……。
「まさか私の真似をして潜入するとは思いもよらなかったが……。ともかく、正義を以てホイスヒェンという悪辣な輩に勝負を挑む姿勢を、私はいたく気に入ってね」
「は、はあ」
「そんなわけで、君達を助けてあげようと思った。と言ってもせいぜい見張りを眠らせるくらいにしようと思ったのだが……まさかこんなに派手にやらかすとは」
「それは俺じゃなく相方のほうに言ってくれ……」
「ほう。こんな大胆かつ無謀な手を考えたのはたわし君かね。まったく、あの子はしょうがない子だ……」
 たわしを知ってるのか? って、そういえばなんか飲み会やらなんやら言ってたなあのアホ。それにしても、何だか言い方に……いや、気の所為か。
「まあ、いい。私が出口まで君をいざなってあげよう」
「え、マジで?」
「うむ。先ほど保管庫を覗いたが、どうやらたわしくんはどじょうをすくって行ったようだ。あとは君がここから脱出出来れば万事解決ということだね」
 どじょうをすくって……? あ、ああ。要するにブツを持っていったってことか。たわしといいこいつといい、怪盗はどいつもこいつもややこしいな……。
「では付いて来い。ザルにあげられる前に脱出するぞ!」
 ザルにあげられるって何? とツッコミたかったが、そう言ってられる余裕もないので、とりあえず目の前の不審者についていくことにした。
 しっかし、同業者とは言え、しくじったやつを助けてくれるとは……。見た目はハメを外した酔っ払いにしか見えないが、意外といいやつなんだな……。
「おお、そうだ。忘れていた。これをやろう」
 そう言って、ひょっとこ仮面は俺に何かを差し出した。走っている最中だったので確認もせず手に取る。
「うえっ! な、なんだこのヌメヌメとしたものは……」
「どじょうだ! 大事に使いたまえ!」
「いや、だから一体何に使うのコレ!?」
 やっぱりただのアホなのかも……。


 5.

「こっちだ!」
「うひぇぇぇぇぇっ!!」
 俺、サンタの逃走劇はまだ続いている。
 あれから増援は更に増え、銃弾飛び交う中、俺は全力でひょっとこ仮面の後ろを走っていた。
「ちくしょう、まだなのかよぉっ!」
「もう少しだ、気張れ!」
 と言われても、横を通り過ぎていく幾つもの銃弾の音を耳にしては気張るどころか今にも腰が抜けそうだ。
 ああ畜生ッ。適当な作戦考えた怪盗タワシッ! ぜってーぶん殴ってやる……!
「よし、あそこを右に曲がれば目的の部屋だ!」
 曲がり角まで10メートル。
 一瞬、気が抜けてしまったのが仇となったのか。
「んぐっ!?」
 左腕に、鋭い痛みが走った。視線をそちらに向ける。左腕から、どくどくと血が流れていた。
 撃たれた……。
 燃えているかのような熱さと、視界がぼやけそうになるほどの激痛。
 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
 角へ飛び込み、腕を抑える。幸い、ひょっとこは前に集中していてこちらの様子に気づいていない。
 傷を見られたら、面倒だ。後々、面倒になる。
 腰のホルダーに掛けておいたハンドタオルを取り出し、腕の血を拭ってから傷口を巻いて止血する。自分の身体のためではなく、他人の意識のために。
 部屋に入ると、ひょっとこが手早くドアのカギを閉めた。と、その時俺の左腕に気付いたようで、
「むっ、撃たれたのか?」
 と心配そうに問いかけられる。俺は首を振った。
「ちとかすっただけだ。問題ない」
「……出口まで辛抱してくれ」
 ひょっとこは俺の腰を叩いてそう言い、ドジョウ型の銃を取り出して換気扇に向けた。
「何その銃」
「後々お前の役に立つかもしれない、素晴らしいドジョウ銃だ」
「は?」
 ひょっとこは訝しげな俺を気にもせず、引き金を引く。すると、ドジョウの口から更に小さなドジョウが顔を出し、発射された。怪盗という人種は自分をモチーフとした銃を持たないといけない宿命でもあるのだろうか。
 と、呆れながら見つめていたのだが、着弾した瞬間に想像以上の勢いで爆発した。換気扇どころかその周囲の天井まで、粉々となって床に舞い落ちていた。
 あんぐりと口を開ける俺。ひょっとこは何事もなかったかのように天井に空いた穴へ鉤の着いたロープを投げ入れた。
「登れるか?」
「お、おう……」
 色々とついていけない……。
「では急ごう。頑丈なドアのようだが、そう長くはもたないだろう」
 ドアは何度も発砲されているようで無数のへこみが出来ている。アジトのドアは随分と厚く作られているようだ。普通のドアだったら蜂の巣になってるだろう。
 ひょっとこが天井に上り、俺もそれに続いた。ひょっとこがロープを回収し、室内にまきびしを幾つも投げ入れた後、俺たちは狭い通路を這っていった。
「実はこのアジトに忍び込むときに少し工事をさせてもらってね。外まで一本で行けるルートを確保した」
「おいおいほんとに何でもありだな……。てかそんな手際いい工事できんだったらあんたコソ泥なんてやるよりドカタになった方がいいんじゃないの」 
「コソ泥なんて呼ばないでくれたまえ、恥ずかしい。私は正義の怪盗、ひょっとこ仮面だ」
「そっちの呼び方がよっぽど恥ずかしいと思うんだが……」
 無駄口を叩きながら進んでいくと、ひょっとこが工事したという荒っぽい通路が現れた。ドリルかなんかで掘り進めたようで、全身タイツの俺にはごつごつとしていてあちこち痛い。左腕の痛みは、その時点でもう消えていた。
 そうやって、這って登ってまた這って……もぐらのような気分になってきた時、ようやく光が見えてきた。
「もう少しで出口だ。最初に私が出て安全を確かめる。大丈夫だったら合図するから待っていてくれ」
 そう言って、ひょっとこは光へ飛び込んでいった。一人になった瞬間、俺は腕に巻いていたタオルを解き、その場に捨てた。ついでにひょっとこの面も捨てておいた。もう被る機会もないだろうし、被る気も更々ない。
「いいぞ」
 しばらくして、ようやく合図か来た。いよいよ外の空気を吸えるのか……。
 外の光がまぶしい。しばらく光に目を慣れさせてから、俺は穴から飛び降り、中華屋の路地に出た。
「ふう……なんとか出れた。ありがとな、ひょっとこ……ん?」
 その場に、ひょっとこの姿はなかった。
「……なんだったんだろうなぁ、一体」
「――サンタ!」
 路地の向こうから、今一番殴りたい奴が走ってくる。そのままぶん殴ってやろうと思っていたのだが。
「逃げるぞ!」
 そんな暇もないようだ。
 たわし野郎は、後ろにおっかない人を何人も連れていた。
「何でそうお前は面倒なことを持ってくるのかな!?」 
「無駄口叩いてないで走るぞ! 運転手に連絡しておいたから、タクシーが来るまでの辛抱だ!」
「うるせえ! こっちは腹に据えかねてるんだ! 走りながらでも文句言ってやる!」
「文句だと? 見ろ! お待ちかねのブツはちゃんと取り戻したぞ!」
 確かに、怪盗たわしは肩に大きな皮袋を担いで走っていた。
「おおそうか! さすが怪盗――なんて言うと思ったか! お前おもっくそバレてんじゃん! めっちゃサイレンなってたじゃん! 俺を囮にしてスマートに逃げるんじゃなかったのかお前は!」 
「そのつもりだったが止むを得ない事情が出来てな。赤外線をかい潜り、袋にたどり着くことには成功したんだが……」
「袋が大きすぎて、赤外線を潜れなかった、とか言うんじゃねーだろうな! そんなわけないよなぁ? めっちゃドヤ顔で『蛇の道は蛇、ってね。なにせ僕は、怪盗たわし、なのだから』とか言ってたもんなぁっ!?」
「怪盗たるもの、例え罠に引っかかっても、ブツさえ持ち出せば勝ちなんだよ」
「その結果がこの逃亡劇だろうが!! 俺なんて撃たれかけたんだぞ!!」
「むっ……そう言われてみれば左腕が血まみれじゃないか! 大丈夫なのか?」
「あ、やべ……。い、いや、これはちょっとかすっただけだ」
「にしては随分タイツが血で汚れてないか?」
「いや……鼻血出ちゃって、それ拭いただけだから」
「そんなバカな――」 
『見つけました。サンタさん、たわしさん。今隣に並びます。ドアを開きますから飛び込んでください』
 ナイスタイミングで運転手の無線が入った。クラクションで追手を威嚇して散らせ、隣に車体を並べてくる。後部座席のドアが開き、運転手が中から声を張り上げた。
「今です!」
 まずたわしから座席へ飛び込み、俺もすぐに続いて転がり込んだ。ドアが閉まる。
「こんのっ、喰らえ!」
 たわしがタワガンを取り出し、追手に向けて引き金を引いた。そんなん撃ってもどうにもならんだろ、と思っていたのだが、追手に放たれた弾は着弾と共に煙を吹き出し、彼らの視界を遮った。
「は? 煙幕?」
「タワガンは弾がランダムでね。発光タワシ、煙幕タワシ、爆発タワシの三種類が仕込まれてるんだ」
「それ先に言ってくんない!?」
「いや、でも君のにはただのタワシしか入ってなかったし……」
「オイどういうことだそれは。何で俺のタワガンだけポンコツなんだ」
「あ、でも念のため一個だけ発光タワシも入れといたよ。役に立ったでしょ?」
「発光するやつはね!! 後はただのポンコツだったけどね!!」
「……そういえば、傷口は大丈夫なのか? 撃たれたんだろう?」
「だ、だからただのかすり傷だっての。ほら、見てみろよ」
 怪盗たわしに、撃たれた左腕を見せた。
「傷口……塞がってる、のか」
 染みついた血さえなければ、撃たれたことも分からないくらい、綺麗に傷は塞がっていた。
「う、うむ……なら良かった……。あんな適当な作戦で酷い怪我されたら、流石に罪悪感が湧くからな……」
「おい、適当な作戦てわかってたのかコラ。殺す気かコラ」
 やっぱいっぺん殴っとこうかコイツ……。
「まあまあ。生きて戻ってこれたのです。袋も無事でしたし、とりあえず今はみなさんの無事と、袋を取り返したことを喜びましょう」
「そうっすよ! あとは助手さんを取り戻すだけです! その手がかりも運転手さんが掴んでくれたみたいですし!」
 トナカイの言葉に、怪盗たわしが驚く程の反応を示していた。
「助手さんが!? どこにっ、どこに居るんだ、助手さんはっ!」
 トナカイに掴みかかるほどの勢いでたわしは問い詰める。
「い、いやっ、あっしは知らなくてっ、運転手さんがっ、ちょっ、たわしさん落ち着いて!」
 ぶんぶんと激しく揺らされてトナカイはたじろいでいた。
 ……昨日から感じていたが……どうも助手への態度に違和感を覚えてしまう。何だ、この反応は。助手に対して、何か思い入れでもあるのか? 確かに助手はたわしを助け、捕まった。その罪悪感はあるのかもしれない。だけど、どうも……なんか……"まるで、助手を前々から知っていたかのような"……それも、"特別な仲であったかのような"……そんな印象を受ける。それは、あくまで俺の受けた印象であるし、そもそも"たわしと助手が知り合いなんてあり得ない"し……。う〜ん、俺の気のせいか?
「それでっ、運転手! 助手さんは、どこに――」
「……すみませんが、それをお話している暇はまだなさそうです」
 運転手の声色が変わった。
 と、その瞬間、タクシーの左側のサイドミラーが弾け飛んだ。
「なっ!!」
「追手です。それも……」
 運転手はバックミラーを睨んでいた。
「あれは……高ですか!」
 俺も振り向き、後方へ視線を向けた。
「よくも……よくもやってくれたな! 愚かな劣等民族共が!!」
 黒塗りの車から、オールバックの巨漢が身を乗り出し、銃をこちらに向けていた。
「お、おいおい何だあのデカブツは……」
「ホイスヒェンの親玉高重幹です。しかし、まさか焚きつけたヤクザとの乱闘を潜り抜けてくるばかりでなく、ボス直々に打って出てくるとは……」
 高という巨漢が、髪を逆立たせて叫ぶ。 
「このオレをここまで愚弄するとはなあっ!! 舐めたやつらだ……舐め腐ったやつらだ……! 許さん……許さんぞォォォォッッ!!」
 高の握る銃が、火を噴く。
「う、撃って来たぞ! おい、とべねーのか!」
「飛ぶには燃料が足りません! くっ!」
 運転手がハンドルを大きく切り、反対車線へ移って銃弾をかわした。
「ちょ! 運転手さんっ、前っ、前っ!!」
 トナカイが前方を指差し、裏返った甲高い声を上げる。目の前に、トラックが迫っていた。
「わかってます!」
 間一髪のところで、再び元の車線に戻る。直前でハンドルを切ったらしいトラックは、歩道に突っ込んでしまっていた。
「おいおい……っ。なんかとんでもないことになってんぞ……」
「安心してください。歩道には誰も居ませんでした」
「運ちゃんも無事だと良いんだが……」
「それよりもまず自分たちの無事を祈ってくださいっ!」
 再び高が銃を放ってくる。後部の窓ガラスが砕かれ、車内に舞った。
「ぬああああああっ! 死ぬっ、死ぬぅっ!」
 俺もたわしも頭を抑え込んで身を縮めた。
「ふう、随分後ろが見やすくなったものですね」
「いやあ、まるでいつも見てるドラマみたいっすわぁ」
 そんな中、何故か運転手とトナカイはむかつくほど平然としていた。なんだこいつら、アホすぎて現状の理解も出来てないのか? 
「ところでいつこのドラマの撮影終わるんすかね? ガラスの破片でコート破けちゃって隙間風が入るんすけど。マジ寒いんすけど。カットまだっすか、カット」
「ってほんとに現状理解できてねーのかこのアホウンコ漏らし!! 一切合財全部現実だわ!! リアルタイムで殺されかかっとるわ!!」
「え、それまじっすか。まじっすか。あ、やべ、ウンコ漏れそうになってきた……てことはこれマジでヤバい展開ってことっすね……」
「お前の危険のシグナルなんでウンコなの!? 何で頭じゃなくて腸で危険を判断すんの!?」
 てツッコんでる間にも撃たれてるっっ!!
 蛇行運転で弾をどうにか避けようとしているが、いくつかはもらってしまっている。このままだとマジで死ぬぞっ。
「このままではジリ貧です。こちらも打って出ましょう」
「つっても俺の手にあるのなんてこのポンコツタワガンぐらいだぞっ!! 精々十円傷をつけるのが関の山なんだけどっ!!」
「たわしさんのタワガンでしたら煙幕、爆発、発光が出来るんですよね? そちらで何とか目くらましをお願いしますっ!」
「い、いや、無理だっ。アジトで結構使っちゃって、最後の弾はさっき使ってしまった!」
「マジかよっ! クソッ、こうなったら最後の嫌がらせで十円傷をつけまくって――」
 と、腰のホルダーに掛けたタワガンに手を伸ばしたところで、
「……ん?」
 それが、違う何かに入れ替わっていることに気付いた。
「こ、これは……」
 見てみれば、それはひょっとこが換気扇を壊すのに使っていたものと同じドジョウ銃だった。何やら付箋が貼られており、一言書かれている。
『一発限りの威力マシマシドジョウ銃だ。いざという時に使いなさい。弾は別に渡してあるだろう。捨ててはいないね? 〜正義の怪盗ひょっとこ仮面より〜』
「なっ! あいつ、いつの間にこんなもんを……?」
 ドジョウ銃って、あのアホみたいに火力のあるやつだろ……? え? 弾? そんな恐ろしい爆弾みたいなの……。
「ってまさかっ!」
 ポケットにしまっていたヌルっとしたドジョウを取り出す。え、コレが弾なの? コレが爆発するの?  
「ど、どうしたサンタッ!?」
 固まっている俺を不思議に思ったのだろう。たわしが心配そうに俺の肩を揺らした。
 揺さぶられながらも高の車に目をやる。奴は、運転しながら弾倉を取り換えていた。
 ……畜生、チャンスだ。
 どうしようもなくアホな銃。
 どうしようもなくアホな展開。
 どうしようもなく……
「あぁぁぁぁ! ちくしょうっ! ホントなんてクリスマスだっ!」
 銃なんて撃ったこともない。撃つ日が来るとも思ってなかった。だってサンタだし。
 ほんと、何やってんだろうな、サンタの俺。ロケットにしがみついたり、空舞ったり、窃盗団のアジトに侵入したり、カーチェイスしたり……。
「慣れない環境に、鬱憤は溜まりに溜まってんだ」
 高が、銃を構えているこちらに気付いた。
「いい加減、スッキリさせてもらうぞ!」
 弾は一発。
 外せば終わり。
 リセットボタンはなく、
 プレゼントも、
 そして、あのクソ生意気な助手も、取り戻せなくなる。
 だったら――。
 んなもん、ここで決めるしかねえじゃねーか!!
「運転手!! 車を安定させてくれ! 一発で決める!」
「さすがサンタさんっ。あまりのカッコよさに濡れそうです! 大丈夫、運転は任せてくださいっ」
「トナカイ! 俺の身体を支えていてくれ!」
「かしこまりやしたっ。例えウンコが漏れたとしても、サンタさんをがっちり掴んでやす!」
「怪盗たわし! 銃の照準を手伝えっ。そしたら今までのことはチャラにしてやる!」
「ふんっ、グチグチ言われるのも癪だからなっ、手伝ってやる!」
 俺たちはアホのチームだ。アホを取り戻すために、アホみたいに命張って、アホなクリスマスを迎えようとしている。
 アホすぎて、もうアホがゲシュタルト崩壊を起こしてるくらいだ。多分、俺もアホなんだろう。そして、あの高とかいう暴走巨漢野郎。あいつもきっとアホだ。 
 けど、な。
「な、何だそれはァァァァァ!!」
 アホはアホでも、性悪なアホってのはよろしくない。
「我が国の模倣でッッ! 文化を騙る貴様らにィィィッ!! 本物のこのオレがァァァァァァッ!!」
 アホは、喜劇を生むものだ。
 シリアスを生むアホには、ご退場願おう。
「本物でも怪盗でも窃盗団のボスでもねえ、テメーはただのッ――」
 そうして俺は、
「うすぎたねえコソ泥野郎だァァァァァ!!」
 引き金を引いた。
 ドジョウを模した弾は、スルスルと泳いでいき、車とキスをした。
 恐怖に顔をひきつらせ、車から飛び出す高を見届けた直後、俺の視界は真っ赤な爆炎で埋め尽くされた。
 
 ――そうして高の車は、びっくりするくらい空に舞い上がっていった。


「……何で俺のクリスマスはこんなダイハードになってんだろうか」
「ウィルスミスもびっくりなクリスマスでしょうね」
 カーチェイスを終えた俺たちは、脱力して束の間の平和を味わっていた。
「……んで、運転手。助手を連れ去ったやつらの検討はついたんだったよな」
「ええ。見事に釣れましたよ。あのヤクザたちの正体は、見越組。関東圏でも幅をきかせている大きな組の一つです。本拠地も調べが付いてます。あとは彼らが何故我々を狙ったのか、という因果関係さえ掴めれば、交渉の余地も出てくるかもしれません」
「そう、だな。あ、そうだ。運転手、天功社って、知ってるか?」
 天功社というワードを出した時、何故かたわしが肩を震わせた。
「え……天功、社……? な、何で、天功社?」
「ん? お前知ってんのか? いや、さ。あのヤクザたちが俺たちを襲った時、確かそんなことを言ってたんだよ。ホイスヒェンの連中に向けて、『天功社の差し金か』ってさ。だから、きっと何か関係があるんだろうと思って」
「天功社……まさか、そんな……」
 たわしは、ぶつぶつと言いながら頭を抱え出してしまった。
「お、おい、たわし?」
「だったら……あいつらは……あいつらが助手さんをさらったのは……」
 その時、座席からゴロッと袋が転げ落ちた。そういえばプレゼントを取り戻したのを忘れていた。俺は袋を拾い上げ、膝の上に置く。兎にも角にも、早朝からの奮闘でプレゼントの方は戻ってきたのだ。今は昼。助手を何としても夜までに取り戻す。でなければ、頑張ってこいつを取り戻した苦労が……ん?
 感慨深く袋を触っていた時俺は違和感を覚えた。何だ、コレ。おかしい。全然、ごつごつしてない。何か、手触りが妙に柔らかい気がする。
「おい、たわし」
「……なんてことだ……僕は……助手さんに……」
「たわしったら!」
「――えっ? あ、ああ、な、なんだ?」
「間違いなく、コレは保管庫から盗ってきた袋だよな? 違う袋を持ってきた、なんてことはないよな?」
「そんなことはない。ちゃんと保管庫に潜入したし、そもそも袋はそれ一つしかなかった」
 だとしたら、俺の勘違いか? 皮袋は結構分厚いから、そこまで細かい感触は分からない。もしかしたら、プレゼントの梱包とか、あるいはぬいぐるみのせいで柔らかく感じているだけなのかも……。
「そんなに不安なら中身確かめるのが早いんじゃないっすか?」
「あ、ああ、そう、だな……」
「失礼なやつだ。せっかく僕が死にそうな思いをして盗ってきたものを」
「いや死にそうな思いしたの俺だからなマジで」
「ともかく開けてみろ。きっと僕への感謝で開いた口が塞がらなくなるはずだ」
「お前好きだねその台詞……。さて、じゃあ開けてみますか……」
 恐る恐る口を縛る紐を解く。はてさて、今度こそ、プレゼントとご対面――
「……え」
 俺は、その光景を見て固まってしまう。
 ナニコレ。
 ワケワカンナイ。
 デモ、コレ、完全ニ、"アレ"ダ……。
「どうしたんすかサンタさん? なんでノーリアクションなんすか?」
 トナカイが不思議そうに覗き込んでくる。
「ん?」
 トナカイは、首をかしげながら皮袋に手を突っ込み、"それ"を取り出した。

「なんすか、この"袋詰めされた白い粉"は」


 
2016/10/19(Wed)19:46:30 公開 / 湖悠
■この作品の著作権は湖悠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 みずうみゆうです。クリスマスの為に短編でも書こうと思って、卒業とシャウトの片手間で書いていたのですが、いつの間にか原稿用紙200枚を越える長編になっていて、主人公のサンタのように思いもよらない展開の数々に振り回され続けておりました。。
 
 10/19 2-5更新。
 長らく更新せず申し訳ございませんでした。環境が激変したのもあって、半年もの間沈んでおりました。既に3話の後半まで書き終わってはいたのですが、どうもPCと向かい合う体力がなく……。ようやく現在の環境に慣れてきて、「やべ、更新ずっとしてない!!」と慌てて続きを投稿した次第でございます。未完にはしたくないので、今後もゆっくり更新はしていきたいと思います。しかし……このペースでクリスマスに完結できるかなあ……?
 というわけで、半年かかってしまいましたが、第二話完結です。第一話もひどいものでしたが、第二話も随分とひどいものになってますねえ。
 はてさて、次回第三話から風呂敷を畳んでまいります。何故プレゼントは入れ替わってしまったのか。何故助手はさらわれたのか。サンタとは何者なのか。ぜひぜひ最後までお付き合いください。
 ではでは。
この作品に対する感想 - 昇順
こんばんは。作品読ませていただきました。確か、かなーり昔にも、クリスマス作品を読ませていただいたような。
何で「たわし」なのか良く分かりませんが、「子供たちがみんなたわしを欲しがってるってことじゃないんですか?」辺りからの掛け合い、面白いですね。「私がタワシが」って言うのは、昔の明石家さんまのギャグを思い出しました。
全体にこのノリ、何かに似てるなと思って考えてみたら、あれですね「ギャグマンガ日和」だ。なかなか面白かったんですが、このテンションで300枚ってのはすごい。ボケと突っ込みの泥沼で、一向に事件が解決しそうに思えないのは、気のせいでしょうか。
残念ながらあと2時間ほどで12月25日も終わりますが、良いクリスマスをお過ごしくださいね。
2015/12/25(Fri)21:48:210点天野橋立
 天野橋立さん≫
 ご感想ありがとうございます!
 かなーり昔にもご感想いただいておりました。たしか幸せ屋の短編ですね。あちらもトリック、キャラ、結末を一新してどちらかというとミステリ風味にプロットを練り直しております。恐らく来年投稿すると思うので、どうぞよろしくお願いいたします。
 俺も何故「たわし」なのかはよく考えずに書いておりました。後々それに関するエピソードも明かされますが、基本的にこのノリでずっと突っ走ってます笑 長大化してしまったのも、思いつく限りの掛け合いを詰め込んでしまったせいです。おかげさまで悪ノリが過ぎるところが多々ありますが……最後まで楽しんでいただけると幸いです。
 クリスマスももう2時間を切り、今年もいよいよ終わりに近づいておりますが、どうぞ来年もよろしくお願いいたします。
 ではでは。
2015/12/25(Fri)22:17:570点湖悠
 拝読しました水芭蕉猫ですにゃん。
 読んでる途中何度かふふふ。ぐふふふと気持ち悪く笑ってしまいました。何だろう謎の面白さがありますね。下ネタは好きなので喜んで読んでおります。前途多難なメンバー過ぎてなんかもう、主人公不憫だなおい!! と。ちなみに助手のイメージが何か眼鏡少女なんですけど、どうなんですか? 眼鏡はナシっすか!? 天野さんの感想で、あぁ確かにギャグ漫画日和!! と思うとそれっぽいイメージで話がとんとん拍子に進みますね。たわしとわたしのさかさま手紙とか、ヤのつく自由業風トナカイとか、ていうかこれ本当に300枚行くんですか!? 私にはこのノリは続けられぬので、素直に羨ましいです。次回も楽しみにしております。ありがとうございました。
2015/12/25(Fri)22:57:200点水芭蕉猫
 水芭蕉猫さん≫
 ご感想ありがとうございます! いやはや、笑っていただけたようで嬉しい限りです。もう、書いている間は楽しいのですが、書き終ると「何コレ……大丈夫かなコレ……」と不安になるばかりでしたので。下ネタはまだ序の口でして、次の話で暴走し始めるある人物の下ネタが自分でも引くくらいなので心配な限りです……。助手ちゃんのイメージは俺も眼鏡少女ですね。できればジト目。無表情でボケ続けてるイメージです。自分的には銀魂とギャグ漫画日和の影響を強く受けていると思います。あとはマイナーですがぼくのわたしの勇者学かなぁ。書いている時は「とにかく個性を!」とキャラを作っていたのですが、登場させた途端もう喋るわ喋るわ。本筋に行きたいのに全然行けない状況です。全体でギャグとシリアスの対比は7:3くらいで進んでいきます。まず100枚超えたあたりでようやく本筋に入るので……何ともまどろっこしい小説です笑 どうぞ最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
 ではでは。
2015/12/26(Sat)00:11:480点湖悠
感想が遅くてすみません。初め、うわ〜このノリで続いてくって最後まで読めるかなあと思ったのですが、いつの間にか読み終わっていました。本部から、ちゃんとしたトナカイがくるって。。の辺りの、トナカイ色々がかなりツボでした。でも、こういう笑える展開って、頭でどんどん進みますよね。こうなったりして、ああなったりして。。。くくく!とか一人で笑ったりしてね。これ漫画になったら、もっと面白く読めそうですね。来年も、笑いネタ満載でぜひ!お待ちしてます。
2015/12/30(Wed)23:31:190点えりん
えりんさん>>
感想ありがとうございます!
どうしてもノーマルなトナカイにしたくないなあて考えていたら、とんでもなくアブノーマルなトナカイがやってきてしまいました。コンセプトとして、「ギャグ漫画のよさをどう小説に落とし込むか」があり、それを試行錯誤しながら挑んでおりまして、小説ならではの、小説だからこそ、というギャグをむむむむむ、と考えております。どうぞ来年もその試行錯誤を見守っていただければ幸いです。それでは、よいお年を。
2015/12/31(Thu)17:58:050点湖悠
拝読しました水芭蕉猫ですにゃん。
運転手は逮捕するべき。これ鉄則な(おい)そんなわけで更新分を読んだのですが、マジで運転手は逮捕すべきだと思うんだ(迫真)なんというか、コイツは生かしちゃいけねぇような気がする。でも逮捕してもコイツなら自力で刑務所から出てきそうだよね。トナカイは何か子供の給食時間に喋らせたら鼻から牛乳吹き出す子が続出しそうな……。助手のクールさはツッコミじゃないんですね!! ツッコミひとりしかいなくてサンタ可哀そう!! でも笑えるぞ!! 一番笑ったのは「口と心は真っ黒ですが、私が席の下から覗いた感じでは下は雪を思わせる白色のパンティーでしたね」のセリフだったり。車の後部座席でスマホつかって読んでたので親に変な目で見られたよ。怪盗たわしも何かアレですし……。
 さて、三組四人は別々の部屋に入りましたが、これからどんな酷い(褒め言葉)事が起こるのか楽しみにしております。
2016/01/02(Sat)19:58:450点水芭蕉猫
 水芭蕉猫さん>>
 ご感想ありがとうございます。そしてあけましておめでとうございます。
さて、やはり運転手は逮捕ですよね。もう申し訳なさでいっぱいですよ。トナカイがコロコロの下ネタとするならば、運転手はヤングアニマルですからね。理性が動物並みの男ですよ、ええ。どちらが書いててノるかというと、まあどちらもノッてしまうのが情けない話ではあるのですが笑 助手はクールというか、俗世にあまり興味がない感じなんですかね。ただテレビ見てごろごろしてたい怠け者さん。サンタはもうツッコミで喉枯れそうですね。作中一番の功労者ですよ。しかし彼の珍道中はまだまだ続く……。
 一番笑ってくださったのは運転手のその台詞でしたか! それはご家族と居る間だとだいぶ気まずい思いをされそうな……笑 
 三つに分かれた部屋で相当酷い展開が待っております……。さすがにお叱りを受けるんじゃなかろうかというとても下らなく下品な内容ですが、どうかご容赦を……。
 ではでは!
2016/01/05(Tue)00:05:080点湖悠
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
 これは酷い(褒め言葉)下ネタ大好きですので、ネタ的には全く平気でした。というか、トナカイ大丈夫か? 鋼の肛門なのか? そして運転手は鋼の×××なのか、単なるMなのか理解に苦しむところでしたが概ねアリでした。あとサンタさんはそろそろ泣いていいよ。あと助手との間に何があったのかが気になりますね。怪盗タワシの正体とかも一応気になるところ。サンタと助手は某イラストサイトネタみたいなS○Xしないと出られない部屋に放り込んで反応が見たい気がします(おい
 以下、重箱の隅ですが文量的には多いのに、展開的にはあんまり進んでないので欲を言えばもうちょっと欲しいかなと思いました。それからギャグがちょっとパターン化されているような……面白いんですけれどね。普通に読んでて笑いますけど、このノリが三百枚となると……大丈夫なのか? と心配になってしまいます。
 それでは次回楽しみにしておりますね!!
2016/01/09(Sat)21:41:080点水芭蕉猫
 水芭蕉猫さん≫
 ご感想ありがとうございます。
 猫さんのセーフゾーンに入っていてよかったです……。ボイスドラマの脚本では思いっきり却下されました(当たり前)。トナカイは既に酷い痔持ちなので今さらでしょう。運転手は……俺もわかんないっす笑 サンタと助手の関係や、たわしの正体が掘り下げられるのはまだまだ先なのでどうかお待ちください。サンタと助手はお互いドライっていうか、色恋に全く興味のない二人ですからねえ……。サンタも助手もひたすら拒んで、喧嘩の応酬がずっと続くと思います。完結させたらそんな小話も書いてみたいですね(え)
 そもそもボイスドラマの脚本として書いたのが今作なのですが、その脚本部分に当たるのがこの第一話でして、第二話からの話は小説に書き直すに当たって、「会話劇ではなく、もっとスケールの大きいストーリーを作ろう」と思って追加した部分なのです。なのでどうしても第一話は、話全体の序章部分になってしまって……。ギャグも、これからもガッツリ続きますが、第二話で話が動き始め、第三話はシリアス全開となる予定ですので、ネタ切れになることはない……と思います。第二、三話は飽きさせない展開を作るために頑張りますので、どうぞこの拙作をよろしくお願いいたします。ではでは。
2016/01/11(Mon)01:08:360点湖悠
 拝読しました水芭蕉猫ですにゃん。
 いやー、笑った。台所のだっちゃんで結構笑ってしまいましたわ(笑)何かもう、本当にしょうもない人たちですね。というかたわしのサンタを憎む理由が、何か少し同情してしまいそうになりましたが、アルカイックスマイルの辺りで噴き出してしまいましたよ。後ろで母親がめっさ不審な目で見てますよ。どうしてくれるんですか。
 そして何気にトナカイが酷い出自でびっくりしました。半分くらいそうだろうなぁと思ってましたが、やっぱり人間ですか。あと運転手がちょっとかっこいい。どうした運転手。
 前回はネタ切れかな? って思ってたのですが、撤回します。面白かったです。次回も楽しみにしております。
2016/01/27(Wed)22:12:121水芭蕉猫
 水芭蕉猫さん≫
 ご感想&得点評価ありがとうございます。たわしの過去のテキストは真面目にくだらなさを練って書いたものだったので、笑って頂けてとても嬉しいです。ええ、本当にしょうもないやつらですよ笑 お母さん……! どうか不審な目なんてなさらず、穏やかな……そう、アルカイックスマイルで見守ってください……!
 トナカイは完全に巻き込まれというか、ある意味一番の被害者ですね。何でか派遣された先でウンコ漏らしたり、ケツにたわしツッコまれたり……あれ、自業自得かな。運転手は実は一番かっこいいのです。エロが絡むとまるでダメですが、かなりハイスペックな男なんです。そのハイスペックさもほぼエロのおかげなのですが……。二話から最後まで、運転手がかなり活躍しますので、どうぞご期待ください。
 いやはや、挽回できてよかったです。次で第一話は終わりますが、まだまだ続きますのでどうぞ最後までお付き合いください。ではでは。
2016/01/27(Wed)23:10:440点湖悠
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
ついに来ましたね!! 真トナカイ!! 薄々どころかまるで気が付かなかった猫です。まさかねぇ。まさかトナカイだとは思わなかったです。何か色々酷い目にあってたみたいですね。可哀そうに。トナカイって角が抜けてもまた生えてくると思ってたけど、頭部にも打撃があったのかしら? だとしたら可哀そうだね。またサンタを信じようとするのも良いですね。
で、サンタよ。凄くかっこよくキメたと思ったら、プレゼントの中身が大変なことになっているじゃないか!! まさか換金して買いなさいってことではあるまい。これからどうなってしまうのか、わくわくしながらお待ちしております。
2016/02/10(Wed)21:36:000点水芭蕉猫
 水芭蕉猫さん≫
 ご感想ありがとうございます。本当のトナカイは助手ちゃんでした、というオチが第一話の締めくくりでございます。とはいえオッサンのトナカイの方と混同してしまうので、助手ちゃんは変わらず助手ちゃん呼びでお願いいたします。クリスマスに希望を失っていた人たちがサンタの雄姿に再び希望を見出す、なんてプロットで書いてたつもりなのに全然違うことになってしまいました。第二話では奪い奪われ撃ち撃たれの大騒動!! ……に、なる予定です。二話では運転手と怪盗たわしが活躍(?)致しますのでどうぞ温かな目で見守ってあげてください。
 ではでは。
2016/02/13(Sat)05:20:060点湖悠
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃあ。
お、今回の話はアクションですね!! 相変わらずトナカイの変態ぶりもアレですが、怪盗たわしよ。何故プレゼントの袋を奪った後すぐに中身を確認しなかったんだ!!! というわけで、今回の没収は怪盗たわしですね。君は楽屋裏で一回休みしてきなさい(おい
この中で一番怪しいのは実は助手ちゃんだと思ってるんですがどうでしょうね。でも、サンタさんがプレゼントを救出するときあんなに頑張っていたので助手ちゃんではないと信じたいです。はい。助手ちゃん、今回逃げ遅れてしまいましたけど、大丈夫ですよね? あんなことやこんなこと(おい)みたいな事態にはなってないと信じてますよ?
 ギャグとしては、今回笑いどころちょっと少な目でしたね。まぁギャグは挟むと本編が進みませんから仕方ないのも解るんですけどね。
 それではにゃ!!
2016/02/21(Sun)21:17:220点猫丸
 猫さん≫
 ご拝読ありがとうございます。今回はアクションです! 今回の役回り的に、物語の進行に関係ないのがトナカイくらいなので、彼くらいしか自由に動かせず……その結果彼のボケ具合がさらに進行してしまうという結果に……。たわしもアホなんです。「よっしゃ! 目的の物は奪ったし寝るぞ!」という感じのアホです。まあそんな彼も、今回は活躍(?)するのでご期待ください。
 助手ちゃんは……。ちょいちょいさらわれた助手ちゃんの動向も書いてるんですが……。うーん、ここは何とも言えないです。ただ第三話だと色々と大変なことに……。
 トナカイしか自由に動かせなかった&助手さらわれるというシリアスな動きもあって、今回はギャグ少な目ですね。次回はもちょっとアホなみんなが見れますが、穏やかだった一話と比べるとやはり少な目ですかねえ。先ほど3−4を書き終えたのですが、ちょっと一話と空気が違い過ぎて、どうしたもんかと頭を悩ませてます。ギャグとシリアスのメリハリって難しい……。
 ではでは。
2016/02/22(Mon)04:10:070点湖悠
こんばんは。自動車運転免許の更新を終えて一息ついた木沢井です。平日に休みを取れるのが変則勤務のいいところ。

こ い つ ら と思いながらの一気読みでした。サンタ氏どんまい。ひと段落したら彼の愚痴を聞きつつご飯でも奢ってあげたいですね(笑)。話題を振ったら止め処なく語ってくれそうですし。
たわし編(勝手に命名)で終幕…… と思いきや、あとちょっとだけ続くんじゃよという展開は予想外でした。この物語が終わる時、果たしてサンタ氏は胃に優しい物以外を食べられるんだろうか。そして三十分余の空白の時間に、助手はどうしていたのか……

と、今後の展開が気になる一方、『仮に私がそんな痴漢行為に及んでいたとして、 (以下略)という台詞には少し違和感がありました。運転手には痴漢をしているという自覚がないのだとしたら、『そんな』という言葉は使わないのでは、と思ったのです。この部分がなければ、問題なく通るのではないでしょうか。

以上、鳥ではないので後を濁して去る木沢井でした。昨年のクリスマスイブ? 友達(♂)と二人でイケメン過ぎるゴリラを見に行っていましたが、何か?
2016/02/25(Thu)22:22:050点木沢井
 木沢井さん≫
 免許の更新お疲れ様です! 実は俺も更新の期限が迫ってるんですよねえ……うぐぐ、めんどくさい……。
 タイトルに違わずアホな話で申し訳ありません……。ボケの大津波はまだまだ続きます。サンタ、頑張れ。ついでにボケの大津波が終わった後も、さらなる心労が彼を苦しめることに。サンタ、マジ頑張れ。
 今考えるとたわし編で終わっても良かったなあとも思うのですが、色々と描けていなかった設定を表に出せる機会や、キャラを掘り下げられる機会を得たので、もうちょっとサンタとともに頑張ろうと思います。
 なるほど。自分では気付けないポイントでした。文章力の弱さが恥ずかしいです。次回更新で直しておきたいと思います。
 お読みいただきありがとうございました! 昨年のクリスマスイブはバリバリ就活していましたとも! ではでは!
2016/02/26(Fri)01:06:040点湖悠
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
あ、何かどんどんハードボイルドな路線に行っている気がする!! 相変わらずの運転手ですね。というか、サンタ以外が皆犯罪者という衝撃でもないけど事実がしっかりと突きつけられている感じがグッドですね。もじもじ君スタイルでひょっとこ姿のやりとりとか笑ってしまいました。流石たわし。トナカイたちとホイスヒェンは何をしてくれるのかな。と思いながら見ていたら、さすがにホイスヒェンの方はボケてくれませんね。もう少ししたらボケるのかしら。ともあれ、プレゼントの袋奪還作戦、上手くいけばいいですね!! 助手のことも心配だし、次回もたのしみにしております。
2016/03/09(Wed)23:07:400点水芭蕉猫
こんばんは。桃エキス入りのいろ〇すの桃要素に首を傾げている木沢井です。

サンタ、どんまい。彼にはこの一言に尽きますね。人生に何があれば人はサンタになるのか、そして性犯罪者と盗人という面子に囲まれることになるのか…… 果たしてサンタは、そして助手は、それぞれ無事に再会できるのでしょうか。
次回の展開、楽しみにしています。

以上、夜勤に備え夜更かしをしている木沢井でした。PCも大事ですが、湖悠様もお大事に。
2016/03/10(Thu)01:21:030点木沢井
猫さん≫
段々と運転手はシリアスになってきます! 結構有能な人なのですがいかんせんスケベなものでして…笑
サンタ以外犯罪者というのは推敲時に気付いたことでした。やべえなこのパーティ。ひょっとこ云々のところは気付いたらたわしがボケまくってました。基本ボケるキャラはいつの間にかシーンが出来上がっているので不思議です。その分私はサンタと一緒に苦労するのですが…。
さすがにホイスヒェンはボケられませんでした。こいつらまでボケたら本格的にストーリーが停滞してしまう…笑 次回は助手視点の話になります。一体助手は誰に捕らわれたのが……どうぞお楽しみに。
近々、予備のパソコンが届くので、そちらから次回を投稿させて頂きます。できるだけ早く投稿したいと思っています。
ではでは。
2016/03/28(Mon)20:51:120点湖悠
木沢井さん≫
桃の飲料水と言えば桃の天然水なみずうみゆうです。御感想ありがとうございます。
一体彼がどうしてサンタになったのか。これからの描写で薄々判然としてくると思います。シリアスな描写は苦手ですが頑張りたいと思います…。
助手の救出がメインとなり、段々とギャグが薄れて行きますが、どうぞシリアスもお楽しみ頂けると幸いです。パソコンは結局のところ治らなそうなので前使っていたパソコンから投稿することになりそうです。届くまで時間が掛かりますので少々お待ちください。
ではでは!
2016/03/28(Mon)20:57:260点湖悠
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
怪盗どじょう。なんだこれは。なんだこれは(大事なことなので二回言いました)何か活躍してるんだかしてないんだかよく解らない怪盗どじょうに笑いつつも、なんだか事態はただならぬ方向に来ていますね。というか、助手の前に現れたこのオカマっぽい人な何なんだ。や、まぁ何となくこうかなーとは予想がついているのですが、この予想が当たるか外れるかは胸の内にしまっておきます。今回のラスト付近から一気にシリアスになりましたね。この後の展開が気になるような、主に運転手やトナカイのせいで気にならないような……まぁともあれ次回も楽しみにしております。
そして卒業とシャウトが書きあがりってことで、そっちもわくわく楽しみにしておりますね!!
2016/04/04(Mon)22:45:270点水芭蕉猫
水芭蕉猫さん≫
お読みいただきありがとうございます。
もう僕もなんだこれは、という困惑に至っております笑 たわしといい、ひょっとこといい、何で出てきたんだろう。オカマっぽい人、あまり情報は出していないつもりなのですが、でもバレバレかもしれませんね。ある人物を物語の根底に繋ぐ一つの線です。つまりシリアスです。オカマキャラを駆使してもう少しギャグに持ってきたかったのですが……。
卒業とシャウト、推敲が終わりました。とりあえずもう一週間ほど置いて再び推敲して投稿しようと思っております。お読みいただけると幸いです。
ではでは!
2016/04/10(Sun)20:46:140点湖悠
 いつものように読み始めるのが遅い水芭蕉猫ですにゃん。拝読しました。
 途中まで、ギャグ控えめやなー。今回はシリアス回か? って思ってたのですが、怪盗どじょうが出てきたところから空気が変わりましたね。どじょうスプラッシュの所で笑いました。あと、最後のどじょう、マジでどうやって使うんだろう。タワガンは意外と普通にガンになっててびっくりしましたよ。えぇ。それからトナカイと運転手が意外と真面目にやっていることにもビックリです。というか、凄いキャラだったんですね。彼ら。
 ところで、助手が今回出ていなかったのでちょっぴり心配になってきました。
 次は出るかな? 出ますよね?
 それでは次回も楽しみにしております。
2016/05/11(Wed)22:14:480点水芭蕉猫
水芭蕉猫さん>>
お読みいただきありがとうございます。レスが遅くなって申し訳ございません。
最後のどじょうが意外と……な役割を持っております。トナカイはともかく、運転手は結構有能なのです。煩悩さえコントロールできればカッチョイイやつなのですが……。あ、トナカイはただのポンコツです。
助手はなんというか、平行して描くとかなりシリアスというか、胸糞悪い感じになってしまうんで……汗 次回登場するとしても匂わせる程度の登場かと思います。
ではでは!
2016/05/23(Mon)16:27:260点湖悠
[簡易感想]セリフが多すぎる気がします。
2016/07/02(Sat)18:30:580点Lurraine
Lurraineさん
ご感想ありがとうございますー! 元々SSを小説化したこともあり、会話文が多い仕様となっております……。今後地の文は増えていきますのでどうかご容赦を……。
お読みいただきありがとうございました!
2016/10/19(Wed)19:36:090点湖悠
合計1
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除