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『長い髪は濡れているのだった。【輪舞曲】』 作者:模造の冠を被ったお犬さま / リアル・現代 恋愛小説
全角17755.5文字
容量35511 bytes
原稿用紙約52.55枚
 web上に公開された一作の小説が、楽土家を揺るがす。楽土家三男香三は大切な人を守れるのか。【輪舞曲】企画参加小説です。
 長い髪は濡れているのだった。







 義務教育ではないはずの高校に通うのは、そうしなければ履歴書を書けないから。
 就職難のこの時代に中卒で家を飛び出そうなど、無謀もいいところだ。そう判断するだけの冷静さは、余裕はまだあった。三年はずぶずぶと長い。気を張っていなければ、すぐにだらしなく緩む。こんな僕でも、最低限の矜持は手放せなかった。
「ご飯ができました」
 楽土家に鈴の声が響き渡る。アナウンスをする杏さんは、もう家族同然だ。
 楽土家の長男は完璧に育った。全国模試でトップだったわけでもインターハイで優勝したわけでもないが、定期テストがあれば必ず五指に入ったし部活の大会では常にエースだった。パーフェクトというものは一位ではなく、一位ではベストにしか過ぎない。パーフェクトというものは、それに関わるものをより良くする。環境は良好になり、優れた能力はさらに飛躍的に伸び、底辺を底上げする。同じクラスになれば偏差値が上がり、弱小だったバスケ部は地方大会まで進出し、自然と周りは穏やかに華やかになる。非の打ち所のない。完璧とは楽土家長男金一なのだ。
 楽土家の次男は屈折して育った。なにを手がけてもどう足掻いても長男と比べられ、較べられ、競べられ、やがて努力を放棄した。完璧の長男は次男に考えうる限り適切に接したが、それすら疎ましく感じるほど屈折してしまった。次男のなにかが劣っていたわけではない、なにが足りなかったわけでもない。周囲は兄弟を比較することが悪かったのだと気付きやめようとしたが、その頃にはもう遅かった。次男の反抗した態度に、つもりだった善意は敵愾心に変換された。いつしか次男には「よくできた長男とは正反対の」という接頭語が付くようになった。楽土家次男銀二は出奔した。
 楽土家の三男は適度に育った。上ふたりの兄とは歳が離れていたので、長男と比較されることはなく、次男からやっかまれることもなかった。金一兄さんは尊敬できる人物で、勉強はもちろんスポーツも遊びもすべて教えてくれた。両親や先生よりもっているものが豊かだった。間違いなく良い影響を受けている。銀兄ぃとは仲が良かった。それは、思えば同じ兄をもった同士だと思われていたからかもしれない。誤解されやすいが、銀兄ぃは金一兄さんが嫌いなわけではない。だから金一兄さんとの付き合いをやめろと三男に強制したことなんてないし、悪口を言っていたこともない。銀兄ぃの言葉を借りれば「俺が悪い」。自分を「悪」とした銀兄ぃは消えた。それを一番悲しんでいたのは、家出を最初に気付いた金一兄さんだ。その次に悲しんだのが、大泣きした楽土家三男香三、僕だ。
 大根のおひたしに、春巻き、ひじきの和え物が食卓に並ぶ。
「香くん、おいしい?」
 湯気の立つご飯と味噌汁を運び終えると、杏さんは持参のエプロンを畳んでバッグに収め、食卓に着いた。
 僕はひじきに添えられていた、えんどう豆をごくり呑み下した。
 ひとの咽喉をくすぐるような声、大きな瞳はまっすぐこちらを見ている。笑いながらまばたきをして、睫が跳ねる。
 大根は汁にたっぷりと浸り、融け出してしまいそうだった。
「おいしいです」
 よかった、と手を合わせてよろこぶ。それはいただきますの合図でもあったようで、五本の長い指が魔法仕掛けのように箸に吸い付いた。味噌汁の椀を手にすると口元に寄せる。白い咽喉がわずかにへこみ、戻ることでそれが食事をしているとわかる。
「杏ちゃんの料理はますます上手になってるね」
 父さんは上機嫌だ。
「おいしくなってますか。うれしい」
 杏さんの弾んだ声が食卓の上で踊っている。
 金一兄さんはなにかに気付いたように箸を止める。
「この前のときと味付けが変わっているね」
 こともなげに言ったが、僕にはどう違うのかわからない。
「前のときはちょっと甘すぎたから、お母さんにみっちり教えてもらったの」
「そうだったかな、甘すぎると感じたことはなかったが。われわれから見れば完璧でも、細かな罅を見逃さずにたゆまぬ研鑽を積んでいるんだな」
 感心したようにううなずく父さんは、僕と一緒でわかっていなかったみたい。
 母さんが出かけている今日など、母さんが夕食を用意できないときに、杏さんがうちに来て夕食を作ってくれることがある。美人で明るく、金一兄さんともお似合いだ。父さんは冗談半分本気半分に「まだ結婚してなかったのか」なんて言ったりする。
 こっそり教えてくれた金一兄さんの打ち明け話によると、もう何度かプロポーズをしているらしい。普段ははきはきした受け答えをする杏さんも、プロポーズのときだけは照れたように「待って」と誤魔化してしまうのだとか。できすぎるぐらいできたカップルに見えるけど、なにか不安や不満があるのだろう。
 リビングのテレビはニュース番組を放映している。観ているのは父さんで、寝っころがりながらときどき「どう思う?」と金一兄さんに意見を聞く。これが楽土家の日常風景だ。金一兄さんは杏さんと後片づけをしながら、的を射た意見を端的にしゃべる。金一兄さんらしいな、と思いながら僕はそれを横目に、化石ケータイから買い換えたばかりのiPhoneを弄っている。
 こんな日常がうまくゆくはずがない。日々の中でひずみが貯まり、やがてひずみはエネルギィとなって暴走する。三年という期間。この間に箍が外れれば、完璧の長男にも止められない、屈折の次男がなんとか抑えた衝動で、中途半端な僕が楽土家を薙ぎ倒す。
「そのサイト」
 両肩が無様なぐらい飛び跳ねた。杏さんの頭が僕の手元を覗き込んでいる。
 いつの間にか水音はやんでいた。金一兄さんもソファに腰掛けている。
「ごめんなさい、勝手に見て。それ、ホップステップでしょ」
 iPhoneはディスプレイが大きく、パソコン用の画面でwebページを見ることができる。頭越しに見えたらしい、ホップステップの独特なデザインのwebページは一目でそれとわかってしまう。
「香くん、小説書いたりするの?」
 インターネットは魔窟だ、そんな云われ方をする。そのとおりだと思う。魔とはわからないもの・不明なもの。今まで、無料で小説を読めるなんて考えたことがなかった。図書館は知ってるが、それだって市が買っている本だ。web上には小説投稿サイトなるものがあり、そこでアマチュアの小説家が書いた小説が無料で読める。そのサイトのひとつが、ホップステップ。小説家は読んで感想をもらうために、読者は小説を読むためにホップステップに訪れる。インターネットという最新の技術でありながら、出版社も書店も挟まずに作家と読者が直接対話できるレトロの場所だ。
「いいえ。僕は読む専門です」
 いくぶんか落胆した様子を見せるが、それでも熱は冷めない。杏さんの熱いまなざしが金一兄さんではなく僕に注がれている。
「小説が好き?」
 僕の部屋には教科書以外の本がまったくないから、読書が趣味とは思われなくても仕方がない。読み始めると昼夜を忘れてしまうので銀兄ぃの部屋に置いてあるのだ。銀兄ぃが熱心な読書家で、僕はその影響を受けて小説が好きになった。もともとある銀兄ぃの蔵書に加え、僕が買い足したために、銀兄ぃの部屋は本と本棚で埋め尽くされている。僕が小説投稿サイトにはまったのは、本を置くスペースがなくなったからともいえる。





 無限の空間がある。そこにはありとあらゆるすべてがある。僕はそこにアクセスできる。
 言葉は座標。物語を引き寄せる引力をもっている。物語は点つなぎゲームのように言葉を結んでできてゆく。五次元の空間を、無数の線が縦横無尽に張り巡らされている。僕の存在はインパルスとなって線を伝う。物語は火花になって中空に映し出される。あっという間に終着点。
 僕の読書速度はめっぽう早いらしい。じっくり読みたい派の銀兄ぃは「ちゃんと読んでるのか」と訝しげな顔をしていた。僕に言わせれば、なんでそんなにゆっくり読めるのか。本を読んでいながら、本は読んではない。銀兄ぃのように、読書中にページをめくる手を休めることはない。鍵盤を叩かなければ音が生まれないが、音楽を作るのは鍵盤でないのと同じ。本は設計図、言葉通りに物語を組んでゆくだけ。
 小説を読み終えたばかりの僕は感受性が剥き出しの状態になっている。小さな物音ひとつで、それが誰でなにをしているのかわかる。本に埋もれたこの部屋で音が聞こえる範囲、楽土家で起こっているがっさいを今の僕は把握できる状態にある。
 父さんは一階のテレビで西部劇のDVDを見ている。悪党がヒロインに向かってガトリング砲を連射する。主人公はその間に入って何発もの銃弾を受ける。ティッシュペーパーを一枚引き出した父さんが洟を拭く。ヒロインが叫ぶ。
 衣擦れ。金一兄さんが杏さんの肘に触れる。杏さんのまばたき。長い髪が金一兄さんの右腕に当たる。右手は杏さんを抱き寄せる。長めのキス。金一兄さんはほっと溜息を漏らしてはにかむ。杏さんも微笑んでいる。見つめ合ってもう一度キスをする。
 母さんが帰ってきた。玄関を開ける。
 過敏な耳にiPhoneを装着した。「愛して、愛されなくて、この想い、届かなくて」空々しい歌が脳味噌を掻き混ぜる。耳に這入り込んだ雑音とiPhoneを投げ捨てて耳を押さえる。毛細血管の中を血液がごうごうと流れている。
 トランス状態の持続時間は読書時間の半分だというのが、これまでの計測結果だ。長い間トランス状態にあるためには、直前に倍の準備時間が必要となる。それと、一度読んだことのある小説ではトランス状態には入れない。おそらく、僕の頭の無限空間にすでに物語の完成品が置いてあるからだろう。
 そう。
 僕は本を読みたくて読書していたのではない。隣の部屋でなにが起きているのか盗み聞きするために読書していたのだ。
 見苦しくて情けない。盗み聞きできたところでそれは楽しいものなどではなく、胸を締め付け心を切り裂くのだとわかっているのに。それでも聞かずにいられない。
 これは好奇心か──違う。金一兄さんがなにをしているのか、杏さんがなにをされているのか、それを知りたいわけではない。知ったところで僕はなにもできない。僕は金一兄さんも杏さんも好きなんだ。お似合いのカップルにはずっと幸せであってほしい。
 僕はきっと、僕ではない僕に期待しているんだと思う。金一兄さんと杏さんの情事を聞いて、ひずみが大きくなって殻を破るとき、僕は自分を制御できなくなる。僕は、大好きなものを自分の手で元に戻せなくなるまで破壊する。なにも手に入れないまま、もっているすべてを手放すのだ。
 「小説を書いたりするの?」。小説を、書いたり、するの? たった三語、それだけで物語はできあがっている。言葉と言葉をつなげてやるだけいい。小説を書いたことのない僕が小説を書いてみようと思った。
 小説はすぐに完成した。夏休みの課題で残った原稿用紙に思い付きを手遊びで書き始め、足らなくなったから新しく買い、完成したら二百十二枚になった。物語なんてなかった。ただ破壊、破壊、破壊。それだけだった。暴走しそうになるエネルギィを小説に注ぎ込んでいたのだ。小説を書こうと思ったのは、そうしなければならないほど僕のひずみは危険域に入っていたからかもしれない。僕の欲望は文化的に昇華された。
 まさかホップステップに投稿しようなんてことは思わなかった。杏さんの一言がよみがえったから小説を書いてみたが、自分の痴態を晒しただけの小説なんて誰にも見せられるものではない。
 昼休み。暇をもてあましてホップステップを巡回する。小説投稿サイトに載せられるような小説は、短編にも満たないものが多い。長いものであっても連載形式をとって、いっぺんにたくさん載せるということはほとんどない。短い時間でも二、三作品はすぐに読み終わる。
 アマチュアばかりの小説投稿サイトの小説でも「この人の小説は面白い」と感じる人はいる。夏目棗さんとあG2さんなんかは僕の好みだ。
 夏目棗さんは古くからホップステップにいる常連さん。柔らかな物腰の人で、ほかの作家や読者にも多大な支持があり、小説も人気を博している。書いているのは全作品とも恋愛小説。確かな筆致で克明に描かれる登場人物の心情は、まるで知り合いのような現実感を帯びていて思わず共感してしまう。
 あG2さんはここ最近になって二日に一本投稿というペースで精力的に活動しているのでそのイメージで上書きされやすいが、彼もまた昔からホップステップにいる。ジャンルはショートショートでその内容は時代物からミステリ、ごてごてのファンタジィなど多岐にわたる。一風変わった性格なのでほかの作家と衝突することもあるが、書いている小説はだんぜん面白い。
 夏目さんの新作が投稿されていた。タイトルは覗き見。これまでの王道な恋愛小説とは毛色が違いそうだ、と期待を込める。
 一ページ。
 二ページ。
 三ページ。
 四ページ。
 五ページ。
 六ページ。
 iPhoneを操る手が止まる。
 血の気が引いた。ふと捉えた人影がどこかで見たことがあるなと感じつつ、それが鏡であることを気付けなかったときのような気味の悪さ。
 この語り手は、僕だ。僕の見た光景、僕の思った感情、僕の願った夢想。家族構成も日常風景も言葉遣いも細かな癖も、まるで知っているかのように僕の視点で書かれている。おそらくこの先は、僕のトランスも精確に書き出しているのだろう。覗き見として。僕の欲望も劣情も書かれているに違いない。
 僕でも、僕ではない僕でもない、誰でもない夏目棗というペンネームの誰かによって、箍が外れる前に終わらされてしまった。ホップステップは杏さんも利用している様子だった。読めばすぐにこれが僕だとわかるはずだ。小説を削除するのは書いた本人かホップステップの管理人しかできない。本人に言えるはずはなく、管理人に訴えるにも理由と証拠が必要だ。

 名前 king
 感想 お前は誰だ

 と、感想欄にそれだけ書き殴る。
 書き込んで現れた言葉を読む。書き込んだそのままの言葉が一字一句間違いなく表示されている。お前は、誰だ。たった二語の物語。さっきまであんなにカッカしながら書き込んだのに、冷静になって読み返している僕がいた。
 誰なんだろう。夏目棗とは誰だ。
 金一兄さんなら僕の行動や考えを透写できてもおかしくはない。僕の覗き見がばれるとしたら金一兄さんにだろうと思っていた。だが金一兄さんは周りに迷惑がかかるような形で告発したりはしない。それに、金一兄さんは小説に手を出さないはずなのだ。銀兄ぃは金一兄さんの手の届かない場所に逃げるために部屋で小説を読み耽るようになり、それがわかっている金一兄さんは銀兄ぃと比較させないために読書をしなくなった。楽土家から銀兄ぃがいなくなって小説を解禁したとしても、夏目棗は銀兄ぃの家出前から小説を投稿していた。
 もしかして、杏さんか。杏さんはホップステップを知っているようなことを仄めかしていた。僕がホップステップを見ていることも知っていた。でも、杏さんだってそんなことをするような人とは思えない。
 父さんや母さんは機械音痴だからホップステップに投稿するなんて、ハムスターがオルガンを弾けたってできっこない。
 手の中のiPhoneが空気を割る。心臓が飛び出るかと思った。この着信音は電話だ。コールが責めるように鳴り続ける、鳴り止まない。硬直した身体が動かせるようになって指を伸ばしたところで、切れた。電話番号は見たことのない番号だった。
 続けざまにiPhoneが振動する。ディスプレイに映し出されたメールの件名が僕の目を一気に醒ました。

 銀二より





 金一兄さんは間違えない。
 テストで必ず満点をとるのは問題に正解しているだけで、賢明ではない。そうではなく、人生の局面でどう考えどう行動すればいいのか、その限りにおいて金一兄さんは確かな選択を常にしてきた。金一兄さんが金一兄さんたるゆえんだった。
「おかえり、香三さん」
 ただいま、と応える。銀兄ぃからメールが届いたことを報告しようとしたが、「見てほしいものがあります」と機先を制されてしまった。金一兄さんはいつだって僕の話を最後まで聞いてくれるので、銀兄ぃからのメールはなによりも大切だとわかっていても話に割り込むことができなかった。
「これなんだけれどね」
 そう言って手渡されたのは分厚く膨らんだ茶封筒だった。無言で開封の許可を仰ぐ目配せをして、紐を解く。中に入っていたのは原稿用紙、すわ破壊衝動に任せて書き殴った自作小説が見つかったかとうろたえたが、そうではなかった。
 自作小説は自作小説でも、金一兄さんの自作小説だった。
「読んでもらえるかな」
「ここで、ですか?」
 できれば読む前に報告をしたい。
「香三さんならすぐに読めるでしょう。面白くなかったら途中でやめていいよ」
 金一兄さんは狭山茶の準備をしている。これでは退くに退けない。ペンネーム金田一の小説八洲装束を読み始める。
 盆に急須と湯飲みを載せた金一兄さんが席に着く。
「どうしました。つまらなかった?」
「読み終わりましたよ」
 さすがですね、と驚いたように言う金一兄さんを、鋭敏な感覚で観察する。金一兄さんが茶が注ぎ終わったところでトランスが切れた。
「面白かったですよ。うどんのようにつるりと読めました」
 お世辞ではない。深い教養に裏打ちされた豊かな語彙が、ゆったりと自然につながっていて言葉のつながりにストレスをまったく感じない。文豪が書き上げたような芸術作品にも似た趣がある。内容はポップなもので、ちょっと風変わりな主人公が日本全国で友達を作ったり、お金を摩ったり、派手にドンパチをやらかして回るエンターテイメントになっている。普通に書けば文体と内容が反発しそうなものだが、主人公の突飛な行動が硬めの文章で描かれることでおかしみを誘うように計算されてできていた。
「途中、猪苗代湖で蜃気楼に出会いますよね。その篇はそこで終わっていて、次の篇は何事もなかったかのように始まってます。ほかの篇では、すべてとは言いませんがある程度はメッセージ性が明確になっているのに、この篇だけ曖昧な印象でした。読み落としている部分があったでしょうか?」
「いいや。蜃気楼の回だったからね。そういう終わらせ方をしてみたんです」
 さらりと答える。どうにも腑に落ちず宙ぶらりんなままだ。金一兄さんの説明としては珍しいが、時間をおいて再読してみれば納得してしまうだろう。
「短篇をつないでゆけばいつまででも連載できそうですね。ラストは決まってるんですか?」
「書き終わった分はそれですべて読んでもらいましたが、これで全体の八分の一です。終わらせるには、終われるだけのエピソードを書いておかないと終われない」
「同じ設定から書かれた、どこから読んでも読める金太郎飴短篇集だと思ってました。壮大な仕掛けが隠れていそうですね。続きが書けたらまた読ませてください」
「そうですね。まだ他人には見せられるものではありませんし。でも、完成した暁には小説投稿サイトに載せてみようかな」
 湯飲みを置いて、睨むように僕を見る。
 そうきたか。金一兄さんが自作小説を持ち出してきたのは、僕に感想をもらうためではなく、僕を告発するためだった。原稿用紙百枚を超えているのも、ずばり囮だろう。
 金一兄さんはホップステップで覗き見を読んでいて、それを僕が書いたと思っている。いや、僕が書いたと疑っている、というのが正しいか。「今はまだ知らない」が、近いうちにホップステップを見に行くから「覗き見を削除しなさい」と言っているのだ。原稿用紙百枚は本でいえば短篇に過ぎないが、web上の小説としては大作の部類に入る。告発のためだけに書かれた小説ではないだろう、覗き見が掲載されたのは今日だからそんな時間はない。もともと書いていた自作小説を利用したのだ。
 もし僕が夏目棗だったら、金一兄さんが覗き見を「今はまだ知らない」ことにどれだけチキンハートを撫で下ろすだろう。口先だけだとわかっていても、その可能性を残しておいてくれるだけでショックが和らぐ。気の迷いで投稿したが間一髪で助かったと思っていたことだろう。まともに糾弾しなくても、冷や冷やさせることで反省を促す。この遠回りに告発するやり口こそ、金一兄さんらしい。
 遠回りなのは証拠がないからではない。鉄壁の証拠があったところで金一兄さんは同じように僕を告発する。兄弟をしていればよくわかる、金一兄さんは無用な衝突を回避するように生きている。人生の局面における選択を与えられるのは自分ひとりだけではない。大勢がひしめき合って同じ道を行かなければならないときがある。ひとりが正しくても総意が正しい道を選ばないときもある。そんなときは、間違った道に寄り付かないように仕向けるのだ。進入禁止の看板を立てたりはしない。小石を転がしておくような、そんなつまらないことで人の判断は左右され、感覚に頼った判断は議論を待たずに決定する。下手に看板があれば真偽について議論が起こるだろう、それは金一兄さんにとって無駄なのだ。
 だけど困ったな。杏さんがホップステップの話をするとき一緒にいたから、読んでいるかもしれないとは危惧していたが、僕が覗き見を書いたと疑われているなんて考えていなかった。僕が夏目棗だと思われているのならば銀兄ぃのメールを読ませられない。読ませるわけにはいかない。
「金一兄さん」
 ん、と眉根を寄せた。改まった呼びかけに、次に謝罪が飛び出すのではないかと想像したみたいだ。金一兄さんの告発は謝罪をされないための告発、謝罪をされても困るのだ。
「いつから小説を書き始めたんですか?」
「書いたのは先週末です。構想は一ヶ月かかりましたね。杏さんが熱心な文学少女で、その影響です。『金一さんは絶対に文才ありますから』と言われて、すっかりその気になってしまったんだろうね」
「杏さんも小説を書くんですか」
「よく知らないな。ベストセラーになってるこれこれが面白いよ、などそんな話をすることはありますが。僕が小説に興味を持ち始めたのは最近なんです。小説を書いているのを知っているのは、彼女を除けば香三さんだけです」
 金一兄さんは杏さんに覗き見を読まないように手を打っているんだろうか。打っているんだろうな。「彼女が読む前に早く削除しろ」と目が訴えている。残念なことに、僕では削除できないのですよ金一兄さん。
「ホップステップを知ってますか。そこに投稿するといいですよ」
「ありがとう。彼女もその名前を出していましたね」
 金一兄さんはもう一度、八洲装束を読んだことに礼を言い、僕は自分の部屋に戻った。
 この時代に、どうして僕たち兄弟は自作小説をわざわざ手書きでしたためているのだろう。やはり似ているということか。なんだか馬鹿馬鹿しくなってくる。
 銀兄ぃの衝動は僕以外にも引き継がれていたんだ。そして、その衝動はすでに決壊している。今は余震が起きている状態で、この後に本震がやってくる。どうしよう銀兄ぃ、僕まで連鎖爆発してしまったら。
 僕はお守りでも握るように、iPhoneを強く握り締めた。

件名:
 銀二より

本文:
 お前、kingだろ。

 ビビッた?
 電話通じないからメールしてみたんだが。
 デーモンさんから返ってきたら、また電話するよ。呼び出しはされてたみたいだから。

 なにから書けばいいんだ。
 お久しぶりですね、とか?
 書かなきゃいけないんだろうな。これで書いたってことにしとけ。

 俺のことは心配すんな。これでも稼ぎ頭やってんだ。
 東京にきたらお前ひとりぐらい置いといてやれるぞ。
 俺のことはどうでもいいんだ。
 お前を心配してる。
 来いってのは冗談じゃない。一時的にならお前を養える。ずっとは保障しないが。
 一緒に住むのが嫌ならマンションでも探してやる。

 俺は兄貴みたいに頭良くできてないんでな。率直に言う。
 逃げろ。

 ホップステップの覗き見を読んだだろ。
 悪趣味な小説だ。
 きっとお前から見ても完璧だったんじゃないのか?
 俺ですら気付けたほどだ。

 あの感想を書けるのは楽土家三男香三さんだけだ。
 前からkingはお前じゃないかと思ってたがな。
 趣味がわかりやすいんだよ。

 夏目棗が誰だかわからなかったか?
 知らなければ知らんほうがいいが、知らんままだともっとヤバいことになる。
 予想ぐらいはできてんだろ。
 信じたくない気持ちはわかる。でもそいつだ。間違いない。
 俺のときと同じなんだ。

 俺の言いたいことわかるだろ?
 俺の弟なら。

 困ったことがあったら電話しろ。
 できれば困ったことになる前に電話しろ。
 戦えはしないが逃がしてやれる。



 このメールは僕に勇気をくれる。銀兄ぃはきちんと東京で生活していて、僕を見守っていてくれる。
 僕はiPhoneのアドレス帳から電話をかけた。
「もしもし、杏さん。恋人の弟です。金一兄さんに内緒で僕とデートしてください」





 Clairvoyance。それは秘密を丸裸にする一方的なレンズ。
 ふたりが交わす愛の中に捻じ込む視線。肌が触れ合った箇所を確かめるように肉は赤く染まってゆく。目が顔が身体が、熱をもって泣き出すように蕩け出す。逞しい腕が崩れそうに柔らかな腰を抱く。痛いほどの愛撫はまるで関節などないように、肌の表面を覆い尽くす。息ができないぐらい深く長く唇を重ねる。長い黒髪が汗で肌に貼り付いている。混じり合うように身体をくねらせて離れない。求めてやまない。
 目の奥を電撃の痛みが奔った。夥しい数の本に埋め尽くされた本棚が、僕を問い詰めるように見下ろしている。知ることのなにが罪だろうか。血迷う言い訳などに知識の権化は動じない。真理探究に善悪など意味はない。ならばなぜ悔悟する。心の奥底に潜むものどもを理解の光の下に晒すことのほうがお前にとって重要なのではないのか。お前は目を背け、忘れようとしている。
 脳に火が点きそうだった。声が脳髄を焼いている。
 暗い影の裏側に隠そうとするな。見晴らしのよい知識の台座に据え、仔細を観察するとよい。知識を結びつけて才知が実る。見えすぎる視界はお前の目を曇らせている。奏でよ、真理を。

 夏目棗の覗き見は、どこか演劇調な様相で書かれていた。僕の超聴覚は透視能力に書き換えられ、内心の葛藤はまるでカンニングしてきたかのように丸写しだった。
 読まないわけにはいかなかったから、途中までしか読んでいなかった覗き見を最後まで読んだ。もう教室には誰も残っていない。グラウンドで金属バットがボールを弾く音がここまで響く。
 学生鞄に教科書もノートも入れず、代わりにマイケル・ハートのマルチチュードを忍ばせておく。決戦は今日。時間は空けてもらっているから、あとはファミレスででも呼び出して、来るまでの間に本を読む。決戦には万全の体調、万全のトランス状態で臨む。到着するまでにどれだけの時間がかかるかわからないが、長くなればなるほど交渉は僕に有利に働く。ゆっくりと遅れて来るがいい。
 校門を出たところで、
「香くーん。お誘いありがとう。香くんから誘ってもらえるなんてびっくりしちゃった」
 がっつり首を極められた。
「ふっふーん。あっ、作戦失敗って思ってる。だーれが人のふんどしで相撲をとりますか」
「土俵です」
 息が苦しい。
「そうとも言う」
 杏さんの格好は明らかに異常だった。艶のある長い黒髪は三つ編みにしているし、縁の赤い眼鏡は似合っているがおもちゃのよう。まばゆいハイソックスに磨かれたローファを履き、そして完全無欠のセーラー服だった。
 服装を見ていることに気付くや、ふん、と胸を張る。
「なんの真似ですか?」
「なんの真似って。女子高生以外のなにものにも見えますまい。私服と学生服じゃ、悪い大人が可愛い男子高校生を摘み食いしてるように見えるでしょう。だから香くんに合わせてあげたんじゃない」
 あれ、知り合いに浮気だとばれないように人相を隠しているのではないのか。
 しなを作って腕に絡みついてくる。
「なにをしてるんだ」
 肩に頭まで乗せてしな垂れかかってくる。
「見られてる見られてる。クラスメイトだったぞ。どう説明するんだ」
「説明できないよねー。お兄さんの彼女ですなんてねー」
「確信犯か、この二十五歳」
 金一兄さんの前とはえらい違いだ。
「香くん、このレストランに行ってみたかったんだけど」
 戦う前から負けている、そんな気がした。電話をした時点でそれが開戦の合図だと認識すべきだったのだろう。やる気があっても覚悟が足りていない。
 ファミレスではないレストランには、電車を乗り継がなければならなかった。店内に入ってすぐに場違いだと確信した。少なくとも、見た目が学生カップルの僕たちが食事をするような場所ではない。
「話はなあに?」
 客も店員も、レストラン中の視線を集めている。こんなところで声を荒げることなどできない。
「場所を変えませんか」
「友達がね、婚約記念にここで食事したんだって。コース料理がおいしかったらしいよ。もう、堂々としてなさいな。変に意識するから注目を集めるんです。いざとなったら私が免許証を提示するから」
「事態がややこしくなるので、それは絶対にやめてください」
 僕まで男子高校生コスプレしていると思われかねない。
 楽しそうだなあ。金一兄さんの前でももっとはっちゃければいいのに、と思う。
 僕が基本的に家族でも敬語でしゃべるは金一兄さんの影響だし、銀兄ぃがぶっきらぼうなしゃべり方をするのも金一兄さんから反発してのことだ。金一兄さんの影響力は計り知れない。杏さんは未だに、恋人である金一兄さんの前で地を出せないでいるのではないのか。
 金一兄さんは争いを良しとしない代わりに、本人も気付かないように意思を捻じ曲げさせている。だからゆがむ、銀兄ぃのように僕のように。
 メニューはフランス語で書かれていて、日本語のルビもない。ウェイタには無理を言って注文した後もメニューを置いておかせてもらった。
「どうせ、覗き見のことでしょう?」
 このままのらりくらりと話をかわされると覚悟していたが、意外にも相手から核心を突いてきた。予想外の行動の連続にこちらのペースに引っ張り込むことができない。
「どうだった、面白かった? 最初におかしな感想を書く人がいたから、なかなか感想が伸びなくて困ってるんだ。あの感想を書いたのって香くん?」
 自分が夏目棗だと早々にばらしてくる。証拠なんてないから、逃れようと思えばいくらでも逃れられるのに。
 挑発する様子もなければ謝罪する様子もない。一体、なにを考えているのかわからない。
「金一さんがね、私がkingじゃないかってしつこく訊いてくるの。私じゃないって言ってるのに。それで、それだけしつこくした後に『ホップステップは見ないでくれ』だって。見ない訳ないよ」
 自分たちの情事が明細に描かれた小説を彼女に読ませたい彼氏などいない。ああ見えて、金一兄さんはどんなときも全速前進全力疾走。心配しているひとを小馬鹿にした態度は許せない。
「完璧ってなんだと思いますか?」
「禅問答?」
 僕は応えない。
 オードブルはグラスに入っている。
「そうだね、完璧なんてないんじゃないの。完璧主義じゃなくて完璧なんでしょ。いたとしたら神さまだよね。なんでもできて、なんでも知ってる。だけどさ、そんな人間は現実いない。人間はどこかに必ず傷がある。欠陥がある。人間では完璧になれない。完璧は小説の中にある。こんなところでどう?」
 まるで自分が完璧、ではないにしろ良い人を演じることに諦めて疲れたような口振りだった。
「僕の完璧は金一兄さんです」
「ブラコンだね」
 そう言って笑うが、僕を見てすぐに頬を引き締める。僕の顔は思ったより強張っているようだ。
「一時のベストではなく、永遠のベター。自分ひとりのみならず、周りの関係までより良くする。誰も彼も見境なく、なにもかも諍いなく。すべてが一段繰り上がって幸せになる。杏さんにうちの金一兄さんはもったいないぐらいです」
 よくも言ってくれたな、と杏さんは笑いながら怒る。
「みんなを幸せにするんだったら。それなら銀二くんはいなくならなかったでしょ」
「銀兄ぃは東京で楽しく暮らしていますよ」
「そんなことない。置手紙さえ残さなかった銀二くんが今どうしているか、香くんにわかるわけないじゃない」
「それは金一兄さんの言ったことでしょう。僕と銀兄ぃは仲がいいですからね。今でもメールでやり取りしています」
 自分でも不思議なほど、するりと大法螺を吹いた。メールタイトル銀二より以降、こっちからあっちにもあっちからこっちにもメールが飛んだことはない。勝負を賭した、というやつだ。
「銀二くんが幸せなら、嘘でもいーや。禅問答に答えたんだから、小説の感想を言ってくれてもいいんじゃないの? kingの感想ってホップステップでも評判なんだよ」
 真剣勝負をあっさりかわされる。
 僕の独白を書かれた小説に、僕が感想を述べるのか。いつから交換条件になっていたのだろう。一言で言うと、やりたくない。
「僕は夏目棗さんのファンでした」
「あら、ありがとう」
「投稿されていたのを見て、期待して読みました。覗き見、とは今までにない後ろ暗いタイトルですね。中身もいつもと変わっていました。いつも巧みな描写でリアリティを引き出していましたが、覗き見はもっと肉迫するリアリティがありました。雰囲気もこれまでの夏目棗さんのものとは違っていて、言ってしまえば空想的な雰囲気だったものが、生臭いどろどろした空気をまとっていました。理想を求める小説から地に足が着いた小説になった、とでも言うか。今までの書き方をする夏目棗のファンでしたが、夏目棗の新境地も期待しています」
 まだ一口しか飲んでいないスープを下げられてしまった。
 杏さんは腕を組んで身体を前後に揺らしている。安物の椅子だったら、がたがたと鳴り響きそうだ。
「なにその『僕は部外者です。関係ありません』みたいな感想」
 相手はホップステップで馴らした常連さんだから、金一兄さんのときみたいないい加減な感想ではなく真面目に考えたのだけど。
「どう? この主人公のモデルとして。及第点くれる?」
 悪びれた様子の見えない言葉の軽さに面食らう。杏さんが軽い調子で自分が夏目棗であるとばらした理由がようやく理解できた。僕にとってはひた隠しにしてきた忌むべき感情を俎上に載せられた、金一兄さんにとっては恋人との情交を無残に描かれているのだが、書いた張本人にとっては僕たちを小説のモデルに使ったとしか思っていない。罪悪感など、「許可を得る前に書いてごめんね」程度なのだろう。
 僕の口は魚料理を貪り食っていた。
「及第点どころか、満点です」
「そうでしょそうでしょ。覗き見の中では香くんに透視能力をあげたけど、本当に透視能力をもってるのは私」
 そうなんですか、とパンを齧る。
「私の透視能力のすごいところはね、ものを透視するだけじゃなくて、人の心を見通すことができること。透写。だから香くんがなにを考えているのかだってすぐにわかっちゃうんだから」
 表情を隠すように開いたメニュー越しに、
「金一兄さんの、じゃなかった。金田一先生の八洲装束を杏さんも読んだんですよね。どうでした?」
「八洲装束? テクニックは冴えてるけど、見所はそれだけ。もっと面白みがあると期待してたのに、頭でっかちな小説だったね」
「猪苗代湖篇はどうですか?」
 そんな話あったっけという顔をしているので補足する。
「主人公が湖上にできた蜃気楼の中に消えていく篇です」
「ああ、あれ。どういう解釈をすればいいのか、視心術を扱える私に答えを訊こうって言うの? 難解に見せかけた話だったから無理もないけど、それはできない相談。だって意味なんてないもの」
「金一兄さんは八洲装束を読ませることで、僕と杏さんの読解力を試していたんです。気付きませんでしたか?」
 メニューから顔を上げると、「なにを言ってるんだ」という顔をしている。
「同じ主人公が同じ自己紹介からはじめるから、読者も同じスタート地点から始まるのだと思い込まされますが、八洲装束には一貫した物語がありました。金一兄さんの用意した原稿用紙は短篇ごとに時系列をアトランダムに並べていた。まだ文字になっているのは全体の八分の一らしいが、ヒントはそこかしこにありました。猪苗代湖篇は八洲装束の最後を締めくくる短篇です」
 これは大法螺ではない。八洲装束の短篇内での言葉は芸術的につながっているのだが、短篇ごとの物語の線はぷっつり切れていた。金一兄さんの言うように八洲装束がひとつの物語であるならば、切られた線と線を結ぶまだ見ぬ短篇が間に挟まっていなければならない。金一兄さんに確認するまでもない、これは事実だ。
「そんな、試すような真似をして。金一さんはなにを知りたかったっていうの」
「透写できませんか? 深い意味はないでしょう。こんなことは戯れに過ぎない。いくつか用意された仕掛けのひとつ。ライバルを探すためかもしれませんね、金一兄さんと肩を並べて競い合える好敵手が今はいなくなってしまったから。いやいや、金一兄さんがそんな驕ったことをするとは思えない。だったら『理解されたかった』っていうのはどうでしょう」
「理解を、されたかった」
 その感情は深遠なる思考を湛える金一兄さんに限ったものではない。誰にでもある感情、言い換えるなら、愛されたかったのだ。
 自分に興味をもってくれる人ならば、八洲装束を読み解いてくれるだろうという、甘い期待。
「理解されたかった、だって。香くん言ったね、金一さんが完璧だって。ベストじゃなくてベター。誰も分け隔てなく、みんなが平等に幸せになる。金一さんにとって、私もみんなかしら。恋人も家族も赤の他人も、ぜんぶまとめて同じ? 金一さんにとって恋人ってなに。私である必要があった? ほかの人たちとなにが違うの? キスをする人。肌を重ねる人。将来、結婚する人。結婚して妻になったら、なにが変わるの? 婚姻手続きをするだけ? 家事をする人。子供を産む人。役割が与えられるだけなの? それだけの違いじゃないでしょ。私である理由が欲しかった。特別が欲しかったの。恋人って特別な関係でしょ。特別扱いして欲しいかったの。特別扱いしてよ」
 いま一度、杏さんは心に溜めていたものを言葉にして吐き出した。
 覗き見は、僕が書いた自作小説と同じように破壊のエネルギィで書かれたのだろう。僕がエネルギィを逃がすために書いたのに対し、杏さんは小説で思いの丈を真っ向から相手にぶつけた。金一兄さんは気付かなかったが、隠すつもりはなかったのだ。気付かれなくて、気付かれないまま教えなかった。真っ向からぶつけて気付かれなかった屈辱が口を閉ざしただけなんだ。
 金一兄さんだって、覗き見を書いたのが杏さんである可能性をまったく考慮しなかったはずはない。ただ覗き見の放つ底意が黒々と立ち籠めていて、恋人を信じたかっただけ。
「私、金一さんを振ることに決めた」
 まるで自分に関係ないことのように小ざっぱりと言う。
 こんなとき女性をどう落ち着かせればいいのかわからない。引き止めたかった。
「分不相応だもんね。ジコチュー女はどっかに消え去ればいいんだ」
 自己卑下して姿を消した銀兄ぃを思い出す。僕はどれだけ悔い自分を責めたことか。僕は大泣きしたんだ。
「冷静になって考え直してください。謝って済むならいくらでも謝りますから」
「香くんが謝ってもねえ。ね、香くん私と駆け落ちしない?」
「僕なら杏さんを特別にできますか」
「香くんは普通の男の子だからね、絶対できる」
 自信満々に言い放つ。
 どんな根拠なのかさっぱりわからないが、杏さんを見るとできるような気がする。僕は杏さんが好きだ。
「杏さんは僕のことが好きなんですか」
「うん」
「銀兄ぃでもなく」
「そう」
「金一兄さんでもなくて」
 こくり。
「僕がどう答えると思います?」
「私の視心術によると、目の前にいる美人の手をとって誰も知らない土地へ旅立とう、と決意している」
 それは夏目棗の書いた夢物語の小説のあらすじだよ。
 さあ、間違えない金一兄さんならどんな運命を選ぶだろうか。
「僕が言った八洲装束の解釈を金一兄さんに話してみてください」
「そんなこと、いまさら……」
「きっと、杏さんを特別にしてくれます。弟の僕が保障しましょう」
 僕はこの言葉を、杏さんのように説得力をもって言えるだろうか。
「僕は仲の良い金一兄さんと杏さんが好きなんです」
 僕の言葉に他人の決意を曲げるだけの力はあるか。
 僕が見守る中、杏さんは立ち上がり、
「はああ」

 服を脱ぎだした。

 えっ!
 好奇からの衝立になるべく、杏さんを背に立ち上がる。しかし杏さんはお構いなしにスカートを下ろし、とうとう下着姿になってしまった。刺激的な、黒地に赤いリボン。なに観察してるんだ香三。
 ウェイタは注意したものか注視したものか、判断できずに突っ立っている。
 客のほとんどが夫婦か恋人で助かった。相方の前で鼻を伸ばすわけにもいかず、固まったようにぐっと堪える紳士ばかりだった。女性のほうが容赦なく、僕の背後に視線を向ける。
「お待たせ。座りなよ弟くん」
 ピンクのヘンリーネックのシャツにパーカジャケット、膝丈パンツに着替えて何事もなかったように平然と座っている。
「健全なレストランのド真ん中でストリップをはじめないでください」
「脱いだんじゃなくて着替えたんだ」
 途中までは同じだ。
「ウェイタ、デザートが届いてない。至急求む。甘いものが食べたい」
 女王のように横暴に指示する。立ち尽くしていたウェイタは回れ右して、厨房へ走って行った。周りの客たちも、自分の役割に帰ってゆく。
「なんだったんですか、いったい」
「頭が高い。姉の御前であるぞ」
 姉。
 金一兄さんと結婚すれば、杏さんは姉になる。なんて甘酸っぱい響きなんだろう。
「私は香くんが教えてくれた秘密で金一さんの特別の座に就こうとは思わない」
 杏さんはデザートスプーンをぐっと握った。
「まず殴る。そして喧嘩する。最終的には、堕落させる」
 その相手がこの僕であるかのように睨め付けられる。
 芝居がかった様子で腕を振っている。だが目は寸分も笑っていない、本気だ。
「香くんの大好きな完璧兄さんを凡人に堕としてやる。文句あるか」
 異存ない。
「どうか兄をよろしくお願いします」
「任された」





 夜更かしをして眠い。
 父さんはとっくに出社して、母さんも今日のシフトは朝からだったから出かけている。
 金一兄さんは昨日から帰ってこなかったようだ。そんなことは初めてだった。
 のろのろと着替え、玄関を開けると金一兄さんがいる。
「おはようございます」
「あ、ああ。おはよう」
 挨拶さえぎこちない。挨拶は人間関係の潤滑油、の標語を実直に守る金一兄さんとは考えられない鈍い反応だ。
「父さんたちはいるかな」
「もう会社に行きました」
 金一兄さんの後ろに、隠れるような佇まいなのに存在感たっぷりと杏さんが控えていた。
 杏さんの長い髪はしっとりと濡れていて、以前にも増して艶っぽい。僕たちは金一兄さんに聞こえないように挨拶する。
 おはようございます。姉さん。
 おはよう。弟くん。
 腰で小さくサムズアップしている。僕も小さく親指を上げた。






2011/04/13(Wed)12:58:23 公開 / 模造の冠を被ったお犬さま
http://clown-crown.seesaa.net/
■この作品の著作権は模造の冠を被ったお犬さまさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 輪舞曲、企画まとめ者の模造の冠を被ったお犬さまです。
 すでに二作品、二人の方が企画小説を書き上げてくださり盛況のようでうれしいです。

 この小説はこれから企画に参加しようとしてくださる方たちの参考に「ならないように」書きました。
 企画は「同じ設定で書きながら個性が表れる描写を楽しむ」ものですが、すでに指摘があるように私は描写に重きを置く書き手ではないのです。正直に言いますと、参考になるような小説が書けないのです。
 企画を立ち上げたのは、自身が書けないゆえに、勉強をさせていただこうという気持ちからです。プロの小説から学ぶこともできますが、それぞれ別の書き手の書いた同じ場面をずらっと並べれば描写の違いが一目瞭然で、わかりやすい。そんな私的満足のもとに企画を立ち上げました(理想と比べれば企画の設定が緩すぎましたが、設定がきついという意見が多数なのでこれが限界でしょう)。私と同じ興味でなくとも、なんらかの形でこの企画を楽しむ方がひとりでも多くいたら良いなと思います。

 【長い髪は濡れているのだった。】はいかがでしたでしょうか。
 この企画にしか使えない趣向として、設定が決まっていることを利用して逆に物語を撹乱するということをやってみました。おかげで枚数が嵩みましたが、それでもこの枚数に収まったことが自分自身で驚いています。
 作中で語り手がふたつの小説に感想を述べていますが(自作小説を含めれば三つだが、これはカウントせず)、ひとつ目が小説を書いたことのない読み手のオフでの感想、ふたつ目が登竜門での感想を意識しています。オフだと、相手が前にいる気安さから小説の解釈を質問して終始する傾向があります。こういった感想の場合、先に自分の解釈を話してから訊いて欲しいものですが、相手は書き手の立場になったことがなく、書き手がどんな感想を欲しているのか伝わりにくいものです。
 このテーマで書いておいてなんですが、この小説の登場人物たちにもモデルがいます。ですが、今の登竜門にはいらっしゃらない方なのでばれることはないでしょう。参考にしているのは「どんな小説を書くのか」だけで性格などは私自身のパターンです。夏目棗が自分の理想を小説に書いているのは【ゴールデンバットは仙人の香り】の影響を受けた結果です。流されやすいです。
 難産な小説でした。でも、なぜか私が悩み苦しむほど小説は評価が低くなるようです。感性でするりと書ければよいのですが、小説を書けば書くほどそれができなくなってくるのが悩みの種です。感性は下手に使うと減ります。
この作品に対する感想 - 昇順
 読みましたakisanです。
 
 中盤まで怒涛の吸引力がありました。ただ解決編ともいうべき主人公と兄の恋人のデートあたりから崩れたと自分は思いました。ここまでからみつく展開にしたのに、なにか最期で物足りないような――うん自分の書いた企画小説も同じような感想があがりましたね(笑)
 
 それと、随分ややこしい兄弟ですね。この兄弟は根底がそっくりだから、みんな直接対決をおそれている。しかも敬語を使うという他人行儀の壁を一枚通してでないと生の感情に触れてしまうのが怖くて会話にいたらない。長男は完璧というより玉虫色の無難な生き方を選ぶ。おそらく私服は無難なシャツやジーパンばかりなのでしょう。彼は理解者が欲しかったというが、能力が高いゆえの天才特有の精神的孤立ではなくて、彼女がいうように本当にただの頭でっかちであった。なぜなら長男はさらに上のステージへ上がることをせずに、自分が今いるところに留まったまま――つまり自分自身の限界に対しても、対決をしなくなっている。これも無難な選択。自分も周囲も傷つけないように事を荒立てないようにと。
 そして次男は対決をおそれて家から逃げ出してしまった。しかも弟に危機を告げるのもかなり遅いタイミング。メールの内容も「お前も逃げろ」と逃げることを進めてしまい、弟に対決をうながさない。
 三男は長男の彼女を呼び出すところまではよかったが、やはり自分の長男に直接対決を挑むことがない。
 そして兄弟だけではなく、長男の彼女まで遠まわしに自己主張してくる――彼女は最期に対決を選びましたが、他の兄弟たちはなんだか一生このままな気がしてきます。
 曖昧な笑みを浮かべる日本人たちが「こちらの気持ちを察しろ。事を荒立てるのは恥なんだよ」と道化芝居しているような気味の悪さを感じました。ディスってるわけじゃなくて、よくぞここまでねっとりした納豆みたいな物語にできるなぁという感想です。
 でもそうなると不思議なのは、この長男と彼女、どういう経緯で付き合ったんだろうか、ということです。長男は後天的に相手を察する能力を得て、根回しによって衝突を避けるタイプで、彼女は先天的に相手を察することができて、仮面によって自分すら偽ることができる。無難な選択をするはずの長男が、なにを間違ってこんなリスキーな彼女と付き合おうと思ったのか。どちらかというと自分はこの長男と彼女が付き合うまでの過程が気になります。いったいどんなイベントがあって付き合ったんだろうかと。
 ――と長くなりましたが、兄弟について色々考えてしまう物語でした(長くなった考察は読んだ印象から思うがままに書いたものなので、設定や意図したものとはずれている可能性が大いにあります)
 
 最期に。25歳にセーラー服を着せたのは趣味ですか? それともなにか意図があったのでしょうか?
2011/04/13(Wed)21:04:061akisan
 こんにちは。

 企画した当人が投稿なさるのにはかえって勇気が要ったのではないかな、と思います。大役ごくろうさまでした。(という言い方はちょっと変かな)

 ああ、お犬様さんの小説だなあ、と感じました。ここまで確固たる個性を持ってらっしゃるのはうらやましいです。しかしご自分の世界から抜け出したくても抜けられない、とも言えるのかもしれません。その辺をどう考えてよいのか、僕にはよく分かりません。

 いつもそうなのですが、お犬様さんの小説に出てくる人間は、僕にはいずれも人間のように見えません。なにかちがう生き物――というか、生き物じゃない別なもののように見えます。
 しかし、そう思っているのは僕だけなのかもしれません。
「人間ってこういうのじゃないだろ」とつぶやいてみたところで言葉は虚空に消えてゆくのでしょうか。僕にはよく分からんようになりました。

 僕の目に見えている人間と、お犬様さんの目に見えている人間とは、きっとまるで違うものなのでしょうね。

 大変興味深くはあるのですが、おもしろかった、とは、やはり申せません。僕には分からない言語で書かれた、僕には分からない物語でした。こんな感想で申し訳ない。
2011/04/13(Wed)22:40:450点中村ケイタロウ
とても面白かったです。スクロールする手が止まりませんでした。本当は2ptつけたかったんですが、企画者に2ptはどうかという心のブレーキがどこかでかかってしまったので1pt。すみません。これが企画でなければたぶん2ptをつけていたと思います。
どこか奇妙で、でも純粋、そのバランスが絶妙だと思いました。こういう話、私好きなんですよね。ちょっとよしもとばななを思い出しました。そのバランスが。バランスだけですけど。
文章もきれいで、描写が苦手ってウソでしょ、って感じです。設定の消化も完ぺき……というのは当然といえば当然かもしれませんが、これは誰だ、という謎とき部分がストーリーの核心へとスムーズにつながっていてドキドキ感もありとても楽しめました。うーん、ますます自分のが出しにくい……。
と、絶賛しつつ気になった点も。他の方も触れておられましたが、杏とのデート以降、彼女のキャラにやられたのかそれまでの三兄弟の悩みがどこいっちゃったの、というふうに思えました。トーンもシリアス調から軽妙なラブストーリー風に変わって、私はどちらも好きなのですが、ちょっとした落差を感じました。
ところでメールの内容からすると銀二は夏目棗を金一と考えているようにも思えたのですが、違うのでしょうか。なんかこの銀二が一番真面目な感じで、それゆえ杏と対比するとますます痛々しいなあ。三兄弟の今後の関係はどうなるのか、色々想像させられました。
最後に繰り返しになりますが私はこの話が大好きです。できればこういう小説をお犬さまがどんどん発表して頂けると嬉しいです。素敵な話をありがとうございました!
2011/04/14(Thu)18:14:451玉里千尋
すごいなあと思うよな本当。すごいよお犬様。こんな、ええ、この感じ、小説を読んだ感じが、しました。これが小説なんだなと。世界観で満たす空腹感、こういうのとても魅力的です。小説がひとりの女性に見えたもの。
 切り取ってきた日常性の中で意識というものだけを具現化させたような登場人物達は、思念として動いているようで、へえ、後は中村ケイタロウさんの言うとおりでごぜえます。

 小説が完璧なのかもしれない、となっておりましたが、そうなのかもしれませんね。完璧を目指して、僕らは日々文字を入力しているのかもしれないです。ただ、完璧じゃなくてもいい、まあ、完璧を必要としないのも一つの完璧なのでしょうか。
 そう考えるとこの入力という文字も、力を入れるという意味が浮き出てきて、僕らを完璧に近づけるのかもしれません……もう分かりません。
 ただお犬様の世界を見て、なんだかとても幻想的な気持ちになれました。
 
2011/04/14(Thu)18:45:491水山 虎
これこそ、努力、勉強を続けてきた人間が成し得るモノ。
神夜さんの作品が、万人向けのわかりやすい作品だとすれば、こちらは人を選び、ある程度の知識を備えた人間でなければ楽しめない作品となっている。何度も熟読して、グーグルのお世話にも何度かなったけれど、それでも作品に見合った感想を私程度では書けそうもない。ただ一言、よくがんばったね。残念なのは、この作品を最後まで読んで、かつきちんとした感想をかける人間が登竜門にどれだけいるのか。またこういうタイプが好みではない人間も多いという事が残念ではある。素晴らしい作品には違いない。
2011/04/14(Thu)19:03:101毒舌ウインナー
 なんだか分不相応な評価に戸惑ってしまいます。ありがたいけれどね。
 恥を忍んで親に読んでもらったところ、ラストを喧嘩別れだと読み取っていました。……親だからなんだろうか。

>akisanさん
 いわゆる本格ミステリの事件篇はグロで読み手の関心を引っ張れますが、解決篇はどれだけ快刀乱麻を絶つがごとく鮮やかに終わらせることが重要だと思っていています。ミステリの満足感を決定するのはどちらかといえば、この解決篇の魅力です。対してミステリの手法だけを借りる小説の場合、謎の解明は物語のスパイスに過ぎず、謎であることの魅力に胡坐をかいていてはいけない。私はミステリに傾倒していたこともあり、謎の解明だけに重きを置くようなところが残っているようです。もっとキャラの内面を探り、それにふさわしい物語を紡いでいけるようになりたいと思っています。
 akisanさんが書いてくださったキャラの感想は、書いた私でも設定していない部分があり楽しんで読めました。面白かったです。長男彼女の出会いについては、もともと彼女は仮面で偽るような人間ではなかったが長男と付き合うことによってそれに合わせようとする人格が生まれ、その人格が極端になってくるときバランスをとる形で羽目を外す新しい人格が生まれたという設定はどうでしょうか。
 セーラー服は脱がせるものです。おニャン子クラブがいくら抵抗しようと、そういう定めをもって生まれた衣服なのです。

>中村ケイタロウさん
 抜け出せない癖というのは「比べられ、較べられ、競べられ」のような言葉遊びでしょうか。こういった表現は私自身は親しんでしまったので気になりませんが、気になる方は気にしそうなので注意します。
 私は視力が低いので眼鏡で矯正しています。きっと中村ケイタロウさんの視界とは画質も色彩も違うでしょうけれど、同じものを見てまったく別の像を結ぶことはないでしょう。私だって、普通の若い娘さんが突然ストリップするとは思いません。そんな世界だったら、私は家に篭って小説なんて書いていません。
 これは人と出会って人を学ぶべきときに漫画や小説を読み耽ってその登場人物で人間を知ったつもりになった、人間経験が浅い人間が書いた小説です。

>玉里千尋さん
 私は登竜門のポイントを他作品と比較するということはしていませんけれど、企画まとめ者が高ポイントをもらっているのは確かに見ていて気持ちのいいものではないなと想像できます。ポイント評価は不要にしたほうが良かったかもしれませんね。
 akisanが解決篇と呼ぶパートの会話で、楽土家兄弟の懊悩は実はすべて解決してしまっています。少なくとも私が意識しているキャラの問題は残っていません。解決したことを「解決した」と説明することもできましたが、物語の余韻を作ってゆく中では不要と思い書くことをしませんでした。
 銀二のメールについては、夏目棗の正体を知っている風でありながら明言を避けたのでそのような解釈も可能です。こういった書き方をすると、「お前が書いたのになにとぼけてんだ」みたいなことを言われてしまいますね。私はこの小説を書いている最中でも誰が誰であるのかは曖昧にしておこうと思いながら書いているので、完全正解はありません。
 よしもとばななは私もきっと読んでいるはずなのです。けれど、さっぱり思い出すことができません。図書館に行って借りてきます。

>水山 虎さん
 とある作家が「小説とはカオスを書くもの」と書いていました。そうでない小説はたくさんありますし、まったく反対意見がないわけでもないのですが、そうかもしれないと思わせる力がこもっていました。
 私の小説もまだまだカオスが書ける域には達していませんが、水山 虎さんの感想を読んでこの言葉を思い出しました。多少はカオスに近づけているのでしょうか。

>毒舌ウインナー
 まさか登竜門で神夜さんと比肩される日がこようとは考えが及びもしませんでした。まさかまさか、あの類稀なる小説脳には百年経っても辿り着けませんよ。
 読めない言葉があったでしょうか。おかしな物語を書いている自覚はありますが、「本当に頭の良い人間は誰にでも理解できる文を書く」が私の文章を書く際の方針なので、失敗をしてしまったようです。
2011/04/16(Sat)08:03:040点模造の冠を被ったお犬さま
 なんか、お犬様さんの小説には二度コメするのが恒例になってますな。だっていつも感想に対して微妙に反問で答えて来られるんだもの。

 たしかに、同訓異字を使った言葉遊びは僕の趣味じゃない(ブッキッシュすぎるし、音声言語としての日本語の生理に反している気がする)ですが、それは単なる僕の偏見です。そういうことを申したのではなく、もっと全体に横溢する「お犬様感」のことを言ったのでした。文体もそうだし、キャラクターもそうだし、論理の運びもそうだし、もうね、ほんとにね、何もかもですね。

 網膜がまったく違う像を結ぶことはないでしょうが、意識がまったく違う図を描くことはあるでしょう。レストランのストリップのような極端な振る舞い(演出としても違和感ありすぎですが)はまあともかくとして、こころの動きやら、言葉遣いやら、そして何よりも「ゲームの理論」みたいに互いに出し抜きあう折れ曲がったしち面倒くさい人間関係。全て僕にとっては異質なものです。それに、全ての人物に糸がついていて、一人の人形遣い(=お犬様さん)が操っているのが見えるような気もします。
 あとで気づいたんですが、この異質感は、僕が推理小説に対して抱くものに似ています。前にも申しましたが、僕は推理小説というものが一切読めない(理解できない)のです。
 まあ、そういう片寄った読者の言うことですので、気になさらないでください。人間経験が浅いのは僕とて同じです。僕の人間観なんて、「人間なんてララーララララ」以上のものではありません。

 せっかくの二度コメですので、脱字のお知らせを一つ。

>僕が基本的に家族でも敬語でしゃべるは

 形式名詞が抜けとるですよ。
2011/04/16(Sat)10:17:230点中村ケイタロウ
 こんにちは。作品読ませていただきました。
 なるほどなあ、と思いました。「模造の冠を被ったお犬さま 」なんていうものすごいペンネームを付けていらっしゃるのは伊達ではないですね。ここまではっきりとスタイルを持っておられるというのはすごい。読む側に好き嫌いは出てくるでしょうけども、ここに一つの独特な世界が作り出されていることは誰しも認めずにはおれないでしょう。変な言い方ですが、「自分はそこそこ物を知っている」と思っている人ほど、この作品については何か語らずにはいられなくなるんじゃないか、そんなことを思ったりしました。
 さて、さすがに企画者さん本人ですから、課題のクリアについては言うことはなさそうです。この杏といういかにも怪しげな女の子を中心に、結局はみんな振り回されてるだけなんじゃないか、という展開も楽しんで読めました。前半部と、レストランのシーンのトーンの差は僕も感じました。そこを単に「軽妙なラブストーリー」としてしまうのを避けるために、あの唐突なストリップのシーンでバランスを取られたのかなと思いますが、いかがでしょうか。成功している、とは言い切れない気はしますけれども。
 中村ケイタロウさんのおっしゃることは良く分かります。人物造形的には、つまりこれはライトノベルなんですよね。書き手が「世界観」の下に「キャラクター」を「設定」して、コントロール下に置いて書いた小説、という感じです。文学として読み始めると、その辺りが違和感として引っかかるのかも知れません。
 しかしこの企画、予想を上回ってレベルの高い競作になってますねえ。成功だと思います。
2011/04/16(Sat)12:09:451天野橋立
今気づいたけど、私だけ呼び捨てだ! ち、ちくしょう! なんて器のちっちゃい奴だ!
神夜さんとは全く正反対の作品を書く方なので、当然一生神夜さんに並ぶ事はないでしょう。
企画を出された時もそうですが、とにかく分かり辛いんです。だから読後感は疲労感のみでした。
難解だが、これだけのものを書くのはそれなりの努力を積み重ねてきた証なので、評価1とさせて
頂きました。作品を楽しめたかといわれれば答えはNOです。これで楽しめたらそれこそ評価2ですよ。
私は案外甘い評価を下す人ですから。ただ糞みたいな作品には、完膚なきまでに毒を吐くだけで。
私には漢字すら読めないものもあったし、意味がわからないものもたくさんありましたよ。
一般の方とズレているので、○○賞みたいのは取れたとしても、売れる作品はこのままでは絶対に
かけないでしょうね。

せっかくの二度コメですので、誤字のお知らせを一つ。

>感心したようにううなずく父さんは

「う」が一つ多いですよ。
2011/04/16(Sat)12:19:590点毒舌ウインナー
どうも、鋏屋でございます。投稿されてすぐに電車内で読んでいたのですが、なかなか感想をしたためる時間が取れないのと、感想が書きづらかったので遅くなってしまいました。すみません。
嘘偽り、はたまた義理などではなく、素直に大変面白く読ませて頂きました。中盤から一気に引き込まれ、あっという間に読み終わってしまったですw

ただ、これは私の、つーか私だけだと思うんで、あまり真面目にと言うか、深く考えないで読んで頂きたいのですが…… たぶん私もハッキリと言えない。つーか私の少ない引き出しでは表現の仕方がわからないと言うのが正直なところですがね。
正直ね、クラ殿らしくないと思ったんですよね。どこがどうと言われるとホント困るんですが……(アホでスミマセン:汗)たぶんこれがクラ殿じゃなかったら2Pt付けてたと思います。
物語としてはとても良くまとまってて読みやすく、読み手の期待というか、興味をそそる内容でした。でも、他のクラ殿の作品と比べてまとまりすぎている、というかなんだろ? 『薄い』と言った印象でした。あの読者を煙に巻く様な独特の表現や流れが感じられなかったです。水仙殿の感想をチラ見して「いやいや、クラ殿のカオスはこんなモンじゃないぜ?」とか突っ込んでしまったですw
お話が全体的に、『みんな結構頭抱えてるみたいだし、私が言い出しっぺだし、とりあえずこんな感じで書いてみたらどうだい?』って思って書いた物語のような感じがしてしまいました。ああもう、こんな事書いてしまうから感想書きづらかったんだよなぁ……(じゃあ書くなよw)
いや、とても面白くて好きな部類のお話なんですけどねw ホント、何となくですよ、ただ漠然とそう思っただけ何です。
鋏屋でした。 
2011/04/16(Sat)19:24:411鋏屋
 ども、お久しぶりです。本当にお久しぶりです。rathiです。

 独特な言い回しは素直に凄いなぁ。途中まで感じられた仄暗くてジトッとした空気感はなかなか真似が出来ないと思います。
 面白い。面白いが、何となく中途半端な感じも否めなかったり。ホラーでもなく、サスペンスでもなく、メッセージ性があるとも感じられませんでした。文学……と呼ぶにも、あと一歩足りないような気がします。まぁ、この辺は完全に個人的な趣味と価値観からの感想なので、あまりに気にせずに。

 ではでは〜
2011/04/17(Sun)13:29:281rathi
 私も13日に拝読したのに、感想を書くのが遅くなってしまいました。どういう風に感想を書くものか考えて何度も書き直してしまって。言いにくいことがある、とかじゃなくて、どう感想を書いても嘘になるようで、思ったことをそのまま書くために苦労していたんです。

 中村さんが二度目の感想で「すべての人形に糸がついていて、一人の人形遣い(お犬様さん)が操っているのが見えるような気も」と書かれているのを見てちょっとびっくりしました。私も以前から模倣の冠を被ったお犬さまさんの作品は、頭の中で映像におこすと、糸のついた人形たちがあの独特のイントネーションで話し、劇をするのが見える感じがするのです。
 その感じは、 好きな時はものすごく好きなんです。以前に書かれた「くびき りんね」なんて、生き物(かつて生き物だった)同士とはとても思えない会話だからこそ恐ろしい一つの事実に向かっていき、最後に知りたくない、よく知っていることを突きつけられる感じがするのだし、人形劇には人形劇の良さがあり、人形劇にしか表現できないものがあると思います。
 でも、この作品においては、ごめんなさい。人形劇では表現するのが難しいものを人形劇であらわそうとされたように、思います。


 人間というのはそういうものじゃないでしょう、と、私も思います。中村さんの言葉をお借りしてばっかりですけれど。うーん、なんて言えばいいんだろ。杏さんと主人公は同一人物なんじゃないでしょうか。同一人物が二人ならんで、会話によく似たものをしているようにしか見えないんです。金一兄さんも銀次さんも存在しないデフォルメされた何かのようだし、レストランにいた他のお客たちもみんな、「その他大勢」という名前のクローンが大量にいるだけのような気がします。お父さんにいたってはインテリアの一部なんじゃないでしょうか。それともこれは人物の姿をした何かを、物語の形に隠しているだけで、普通の物語だと思って読んではいけない、特別な解釈の必要なものなのでしょうか。だとしたら、頭の悪い私ではよくわかりませんでした。
 普通に読んでも良い物語、という前提で感想を進めます。どうして話したことがそのままの意味で相手に伝わっているのか(主人公と杏さんの会話は凄すぎます。突然「完璧とは何か」と質問を振られた時、あぁなるものでしょうか。文章のやりとりならともかく、あれは会話です)、どうして人間が育てられた通りに育つのか(生まれ持った個性、というのは無いんでしょうか。環境や育て方は性格に大きく関わりますが、育成ゲームじゃあるまいし、金一兄さんと銀兄ぃは、他の価値観を知らないんでしょうか。世の中にあるたくさんの価値観が見えないんでしょうか。自分の考えというものは育たなかったのでしょうか。子供ならともかく、大人になった今でも?)非常識を目の当たりにした時、どうしてその場に外れた行動を取ってしまうものがいないのか(全員が常識的、ということではありません。非常識を目の前にして、どうして全員が同じ、物語の進行上楽な行動を取るのでしょう。例えば、ストリップを始める杏さんはお手洗いいけよとは思いますがまぁ良いとしても、主人公もしくはレストランの従業員が止めない、主人公は立ち上がって盾になるくらいならとにかく止めるでしょう、従業員だってその瞬間はびっくりして動けなくとも、かけるものを持ってくるだの、追い出すだの、責任者を呼んでくるだのするはずですし、あるいは他のお客の中に席を立ってその場を離れるもの、不快の意をあからさまに示す男性、知らん振りをしたり、ただおっとりと困惑する女性、面白がって笑い物にする、写真を撮る、などの行動をとるものが、そのすべてはいないでしょう、でも、いずれもまったくいないという状況が、私にはどうしても考えられません。どんな年齢層でも、経済状況でも。配偶者がいるならなお更かも)。なんだか不気味だと思います。
 

 それでもこれだけの強烈な物語で私の弱いおつむをぐわんぐわんにかき回しながら、でも最後まで楽に読ませてしまう筆力は、やっぱりすごいなぁと思いました。物語は難解だけど、文章自体は読みやすかったです。企画の消化も大丈夫だと思います。企画の内容を知らない人が読んだとき、ちょっと判りにくいかなぁ、とは最初思いましたが、このくらいなら大丈夫かも。


 うまく感想が書けなくてごめんなさい……。「書き手が欲しい」感想というものにはなってはいないと思いますが、できるだけ思ったことをそのまま書くよう努力したつもりです。
 それでは失礼致しました。
2011/04/17(Sun)13:34:310点夢幻花 彩
 こんばんは、模造の冠を被ったお犬さま。上野文です。
 御作を読みました。
 歯に衣着せず受けた印象を書くならば、
『この小説はこれから企画に参加しようとしてくださる方たちの参考に「ならないように」書きました。』
 というのは嘘じゃないか? と。
 このお題で、この書き方で書けるのは俺だけだ! という誇りというか咆哮のように感じられました。
 ……悪い意味じゃないです。これまで私が読んだ貴方の物語でも、飛びぬけて気を使って書かれてます。既作品において散見された、理解を、読み手との物語の共有を最初から拒み、自身の物語世界を愛でるのではなく、真剣に開かれた物語を書こうと挑まれてる。
 物語の展開自体は、「あ、やっぱりお犬さまの小説だわ」と、独特の流儀を楽しみましたが。
 でも、私にはそのように受け取れたスタイルの違いが、私にはひどく衝撃的で、面白く、興味深かったです。
2011/04/17(Sun)20:19:540点上野文
 余震→予震。

>中村ケイタロウさん
 だって、中村ケイタロウさんの感想はいつもわかるようなわからないような感想なんですもの。
 私なりにいろいろな文体模写をしてきましたが、この小説で使っている文体がいちばん書きやすく、また成功しやすい文体なので身につきました。これ以外だとリズムが狂ったように感じられるのです。
 キャラクタ作りはまだよくわかっていません。というのも、キャラの魅力というのがいまひとつぴんとこないのです。人間ひとり分の情報量を作り出すには、私は人間を知らなすぎました。だからどうしても奇妙にデフォルメされた形になってしまいます。
 論理は、まさに意識の違いということなのでしょう。小説なのでご都合主義はあるものの、この状況のときにこんな行動を採るというのはもちろん私エンジンで動かしています。私はゲームが好きです。いつも七面倒くさいことを考えています。
 感想を読みますと、私の小説はいつも「お犬様感」臭くなっているはずなのですけれど、それでも小説によっては楽しんでいただいているように思えるときもあって不思議です。中村ケイタロウさんは以前、これを素材の良さといいました。今回はテーマといえるようなテーマがなかったのが敗因でしょうか。

>天野橋立さま
 透明少女の模造の冠を被ったお犬さまです。よろしくお願いします。
 なんだかまるで私が頭の良い人に喧嘩を売ってるみたいに書かれていますけれど、私自身が物語をよくわからなくてうまくケりをつけられないから読み手の方に収束を委任してしまっているのだと思います。みんなの頭が良ければ私は愚者です。それがわかっていても、私はいつまで経っても決着をつけられそうにないから、いつまで経ってもこんな人を無闇に考え込ませるようなものを書き続けるでしょう。
 彩さんの感想にも書いてありました。設定は本当に消化できているでしょうか。「Aはその噂を否定しない」の項に反しているはずです。本物の挑発をして感想のお礼を終わります。

>毒舌ウインナーさん
 申し訳ありません。足りなかった尊称を加えて改めて呼びなおします、毒舌ウインナーさんさん感想ありがとうございました。akisanさんにも敬称を忘れている箇所がありました。ごめんなさい。
 努力を認めてくださり感謝いたします。毒舌ウインナーさんも大衆に迎合するタイプではないので売れるようになるまでには大変な努力が必要となりそうですね。

>鋏屋さん
 私には鋏屋さんの感想が「今までと違って上手にまとまっている」という褒め言葉に見えるのですけれど、まとまらないほうが良かったのでしょうか。
 「とりあえずこんな感じで書いてみたらどうだい?」というより「私だったらこんな感じに書けるぜヘヘン!」って気持ちで書きました。あんまり企画の縛りがキツイキツイ言われるから、縛りのさらにその上を飛んでみたかったんです。

>rathiさん
 今回は全体の統一したイメージを使わなかったことが、rathiさんが中途半端に感じた原因ではないかと思っています。
 感想欄でたびたび交わされる問題篇(シリアス篇)と解答篇(ラノベ篇)の分け方は私が意識して書いたものではありませんでした。ひとつの物語を思いつくときというのはなんの脈略もなく出てくるので、物語全体に統一感を醸し出すというのは難しいです。

>夢幻花 彩さん
 「お父さんにいたってはインテリアの一部なんじゃないでしょうか。」なにこれ、彩さんにはこんなユーモアセンスがあったんですか。私は噎せてしまいました。
 特に難しい解釈やメタファがあるわけではない、普通の物語です(そこからなにを見るのも読み手次第だと思います)。完璧問答はおかしかったでしょうか。完璧というものについて過去に思考していれば、あとはそれを手繰り寄せるだけなので、あの会話はじゅうぶん可能だと思うのです。私がおかしいのでしょうか。とっさのとき、人はほかの人と同じ行動を真似てしまう傾向があります。大勢の人間がいる建屋の中で異常が起きたとき、非常口が複数あってもひとつの非常口に殺到したという実験結果があります。
 と、特殊な例で言い繕っても納得させることはできなさそうです。できたとしても、それは小説内でやり遂げておくべきです。私のなにが下手を打ったかといえば、彩さんに物語内のリアリティレベルを誤認させてしまったことでしょう。まさか超感覚が出てくるような小説で、物語の終盤までそこまでのリアリティを保っていられるとは思いませんでした。これは不覚です。

>上野文さん
 確かにその通りかもしれません。これは鋏屋さんへのレスポンスでも書きましたけれど、「こんな感じで書いてね」より「ここまで来てみろオラッ」って感じですテヘッ。
 私のお犬様感が開かれていましたか。自分では特に意識していませんでした。もしかしたら、ゆっくり書いたことが良かったのかもしれません。早く書けなかっただけなのですけれど。次に書くときは感性に頼らずに書いてみようかしら。
2011/04/19(Tue)00:19:220点模造の冠を被ったお犬さま
 えっ、そ、それむせるとこなんですか。そして私、そんなにユーモアセンスの無い人間だと思われてたんですか……確かに無いですけど、センス。ふとんがふっとんだ。 

 完璧について考えてたことがあって、自分の中に答えがあっても、そんなにぽんと出てくるものかなぁ……。あぁいうこと考えてる人って常日頃どうでもいいことまでいろいろ考えてるから、ぎゃくに「待ってました」とばかりにつらつら意見を述べるのは難しい気がします。ていうか相手がどういう解答求めてるかわかんないから、もっとさらっと答えるか、先に相手の答えをきくと思うんですよね。少なくともわたしはそうです。頭の良い人は違うのかな。なんか、杏ちゃんの返答デスノートの夜神月みたいだなと思ったんです(あれ、リアリティー0だと思っている子です。死神とかノートのことじゃなくて、主人公の存在が。頭悪いしあんな寒いやつがモテる訳ない)
 一つの非常口に殺到するのはリアルでしょう。私だってその場にいたら「あれも非常口だよねえ」と思っても同じ非常口に走ってく気がします。だって誰もいないんだもん。
 でも、その場の全員やばいなーとか思いながらも、誰一人一歩もその場を動かなかったら、あるいは全員が「こんな異常が起こった!」ってツイッターとかブログに書きこみ始めたらそれは不自然ですよね。ていうか怖い。世にも奇妙な物語みたいになっちゃうよ。


 うー……すみません、本筋からずれた、どうでもいい筈のとこにやたら食い付く性分なのです。でもでも、超感覚が出てくるような小説こそリアルであってほしい、と思っています。あ、先に申しあげますけどこれはただの好みの話です。どんな不思議なことでもおかしなことでも起こせる創作の世界で、その世界なりのリアリティが無かったら、何をしても「小説だから」で片付いちゃいます。不思議なことはあって当たり前で、まったく不思議じゃなくなるじゃないですか。不思議なことを不思議と思えない不思議な小説に、一体なんの意味があるんですか。って、思ってる派です。これそういう小説じゃないですけど。
 あくまで「わたしはこう思いました」っていう、それだけの感想だとお伝えしたかったのです。ごめんなさい。

 

 設定の消化。否定、してるようでしてないように見えるんですけど……してるの?

 
2011/04/19(Tue)01:11:450点夢幻花 彩
模造の冠を被ったお犬さまさん、こんにちは。作品読ませていただきました。何度か模造の冠を被ったお犬さまのお話は読ませていただいた事はあったかと思いますが、こうして感想を書かせていただくのは多分初めてではないでしょうか。私の記憶が確かであればです。
輪舞曲の企画立案者が書かれた作品です、投稿出来るかどうかわかりませんが、参加の意思がある以上は、感想を書かない訳にはいきませんね。
昔、中学くらいの頃でしたか、国語の教師に言われた事があります。「読書感想文は作品を何度も読み返さないと書けないよ」と。その言葉を聞いて、私は元々好きじゃなかった読書感想文が更に嫌いになりました。初読みのインスピレーションで書くから感想なのであって、何度も読み返して書く事は単なる作業に過ぎないじゃないか。そう思いませんか?などとその時の教師に言えるほど肝が据わった生徒でもなかったので。
そんな私の感想です。どうかお手柔らかに。
この杏さんあっての金一兄さんと言う感じで、とても似合いのカップルだと感じて微笑ましく最後を読ませていただきました。ただ、杏さんに比べ金一兄さんの描写が少なく、金一兄さんの完璧さという個性があまり見えませんでした。それに、主人公が完璧だと言う度に、金一兄さんの完璧さにひずみが出来る感じがしました。成績優秀だとは思うが人間的には卑屈な生き方ですよね。
なぜ、主人公は杏さんと戦おうとしたのでしょうか。戦うという言葉がどうもしっくりきませんでした。この時点で杏さんが何を企んでいるのか主人公はどのように思っていたのでしょうか。この辺りの繋がりが良く理解出来ず、つまづきました。その点で、今回、私はこの感想を書く事について、読書感想文ではなく、作業を強いられた感じがしました。その一点だけが惜しいです。

2011/04/19(Tue)14:30:280点オレンジ
遅くなって申し訳ないです。ようやっと読ませて頂きました。
しかし感想の前にひとつ。毒舌ウインナーさん、おい馬鹿やめろ、この方と自分を比較するような口調で名前を出さないでくれ、こっちの器の浅さが明確に露見するだろうが。ここにはもう何人か、自分の名前を出すと神夜自身が爆死する可能性が発生する人がいるからマジで勘弁してくれw
さて。とりあえず皆様の感想を先にさーっと読ませてもらって、「登場人物が人間に思えない」というのが凄く印象的で、どういうもんなのかと読み読み。なるほど。これは素直になるほどとしか言えなかった。ピンク色伯爵さんが「小説を書く上で、自分がキャラを操っている」とかそういうことを自らの小説の返信欄で書いていた気がする。これはそれに近いようで、まったくの別物だった。なんだろう。人。確かに人なんだけど。すんげえ無機質な人。感情の突起が描写で感じられないからだろうか。ニトリか何かのCMで、マネキンが喋ってるようなCMなかったでしたっけ。あれのミステリ版を見ているかのようである。
ただ、すげえなこれ、と素直にそう思う。自分は貴方とはまるで違うタイプの小説を書いていると思います。心情感情が無くては、自分は小説を書けません。だから自分は、この異質の小説に対して「すげえな」と関心するしかない。自分はそれ以上の深い言葉を吐くことができない。
しかし序盤の吸引力が凄かったが故に、中盤以降の突き放し具合も凄かった。自分の陳腐な頭と感性では、最後までこの世界に身を埋めることが出来なかった。申し訳ない。
ところで、この企画って凄いですね。人の頭ってこうもイメージが違うもんなのか。あの設定からここまで別方向へ進めるのか。幽霊出て来たりおっさん出て来たり、これは何だ、よくわからんがすげえもんが出て来た。あっれ。普段書いてるもんの違いなのかな。あの設定見た瞬間から素直な物語しかイメージつかないんだけど。実に興味深いです。
いつにも増してよくわからんことばっかり書いてる。たぶん貴方の得たい感想なんて一つもなくて申し訳ないです。なんて言葉にしていいのか、本当にわからんのです。
2011/04/19(Tue)16:59:080点神夜
 感想返しをしていると頭がオーバヒートします。

>夢幻花 彩さん
 私ってそんなに変なんだ。「震度6なう」ってツイっちゃうぐらい変なんだ。
 超感覚が出てくるような小説こそリアルであってほしいってのはその通りです。私がどうかしていました。ひとりひとりの「わたしはこう思いました」をなんとかまとめて胸に残しておきたいと思っています。
 約束は破るものだと思っていますけれど、自分で作ったルールぐらいは守りたい。アクロバットさせれば「A自身はその誤解を解こうとしていない」の設定を消化できています。でも、アクロバットしたところで「私は『小説投稿サイト』を利用し始める」を消化できていないことに気付きました。詰めが甘かったです。

>オレンジさん
 感想を嫌々書く必要はないですよ。
 オレンジさんは小説を読み解く能力が高すぎたのかもしれません。読書感想文はそれを書く元になる推薦本なるものが決まっていて図書館で予約待ちになっていたことを思い出します。大人たちが子供たちになにを感じ取らせたいのか推理して読むと、それはそれで面白いですよ。国語といえど、できるだけ数値化しやすいものを学ばせようとしますよね。
 私は小説を登竜門に公開すると、その小説に対してもっている愛着をリセットして付き合い直しています。オレンジさんの感想を読んで、もう一度リセットしないとこの小説を捉えきれないのではないかと思いました。いままで金一兄さんと杏さんがお似合いだという感想も、香三が戦うことを疑問視する感想もありませんでした。そうだなあ、戦うというより対決するという書き方のほうが良かったかもしれません。香三はけじめを付けたかったのです。

>神夜さん
 なにをおっしゃる神夜さん。最近はV狸さんも小説を投稿しないので、もう登竜門の天下を獲ったも同然ではありませんか。特に意味なくヨイショする私。
 神夜さんは他人の感想を読まない人ではありませんでしたか。人は変わりますね。小説の登場人物は私の指示に従ってもらわないと困ります。でも紙の上とはいえ人間ですから、私の考えにも及ばないことをしますし、そうでなければ人間を書いたことにならないと思います。私も変わっているのです。
 無機質な人間というのは私にはショックです。神夜さんの言うCMはオーマイキーですか? 私としてはこれでも心情描写に力を入れているはずなのです。なにがどうなって神夜さんにこの感想を書かせたのかわかりません。どうせ私は変です。変ですよーだ。「あの設定からここまで別方向へ進めるのか」って気持ちもわかりません。私にはこれが、設定に素直な普通の物語なのです。
 変だ変だと言われて自分が変だということに気付き、自覚をしました。でも、どこが変なのかいまだにわかりません。
2011/04/21(Thu)02:08:430点模造の冠を被ったお犬さま
遅ればせながら拝読しました。水芭蕉猫ですにゃーん。
読んだのはだいぶ前なのですが、再読でも苦にならなかった辺りやっぱり上手いんだろうなぁ。うん、私にとっては面白かったです。こういう敬語のやりとりというか、表面のつるっとした人形的やり取りは好きです。参考にならないって書いてますが、結構参考にしてました。ほかの方のもですが、この企画のネタを潰す順番がどうにもよく解らなくて……。
私、杏さんが金一さんに惚れた理由が知りたいぜ。金一さんは確かに完璧だけど、何だろうかなー。深い所でものすっごい闇を抱えていそうな気がする。杏さんくらいならそれに気づけるはずなのになーとかとか。香三さんはお犬さまと似てる匂いがした。うーん、上手い感想が思い浮かばないけど、何か面白かったです。
2011/05/04(Wed)23:03:441水芭蕉猫
 傀儡師、犬。

>水芭蕉猫さん
 参考になってしまいましたか。チッ。なにか聞こえました? 気のせいですよ。
 そうですね。金一兄さんが、相手を無意識のうちに洗脳することを、杏さんは気付いてしまって、しかしそれは人形を操るような支配的なものとしてではなくて、自分のこともよくわかって導いてくれるものだと思って付き合った、という物語はどうでしょう。闇は自分の中にも似た形であるものだから、目を背けたのかもしれません。
 読んでくれてありがとうございました。
2011/05/04(Wed)23:44:580点模造の冠を被ったお犬さま
 模造の冠を被ったお犬さま様。
 御作を拝読しました。
 早速感想。思ったとおり書きます。気分を害されたのなら謝ります。
 中盤まで非常に吸引力がありましたが、香三君が杏さんをデートに誘ったあたりから若干の息切れを感じました。おそらく貴方のプロットにおいて精密に調整されていなかった部分がそこだったのではないかなと思います。オチとしてはややおとなしめでしたね。序盤が非常に良かっただけに惜しく感じました。親指立てて作戦成功ってのは女性的なかわいらしさがあり、この物語の『筆圧』にはミスマッチだったように思えます。
 細かいですが『弾んだ声が踊る』弾むと踊るが被っているような違和感がありました。これならば弾むように踊るとした方が良いような気がしました。
 面白いかどうかと言われれば間違いなく面白く、「さすが企画者!」と座布団一枚追加といきたいところなのですが、イベント中ということもあり採点が厳しくなっているピンク色です。しかしこのレベルをお前が書けるのかと問われたのなら、笑顔でNOと答えます。ラストの丸く収まった感がなければ1点どころか2点入れていたと思います。
 しかし天才っているもんだなあ。貴方の作品に触れたのはこれで初めてだったのですが、格の違いというものを見せつけられた気分です。これは情熱がなければ書けない。
 以上、ピンク色伯爵でした。
2011/05/08(Sun)23:08:330点ピンク色伯爵
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