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『過去の泉』 作者:東雲しの / 未分類 未分類
全角1079文字
容量2158 bytes
原稿用紙約3.75枚
湖畔の見えるホテルで、二人の男女が最後の旅への準備をはじめた。偶然と過去の罪を二人は乗り越えていく。
美しい湖畔の見えるイギリスのホテルで、二人の男女が紅茶を飲んでいた。
湖畔には夏の山々が映し出され、窓から通り過ぎるさわやかな風が二人を包み込んでいた。
決して二人は若いわけではなかった。そして夫婦でもカップルでもなかった。
 しかし彼らを見て怒る人は誰もいなかった。ただ彼らは、最後の旅に出発する準備を始めたのだ。

 彼らは若きころを思い出していた。いや、幼い、そういったほうが正しいのかもしれない。
彼らは幼馴染だった。家は近かったし、学校も同じ。趣味は二人とも読書で、そこそこ運動も出来た。
唯一違ったのは身長と性別だけ。それゆえぶつかり合うことも多かった。二人は恋人ではなかったが、
お互いを愛していた。恋愛でも友情でもなく、もっと深い愛でつながっていた。

 しかし、男は大学時代それを壊してしまった。とても残忍なやり方で。死よりずっと残酷だった。
女は彼に絶望した。そして彼女は彼から長い間離れていた。彼女は結婚し、子供もできた。
彼も結婚し、家庭を持った。しかし彼らはお互いを愛し続けていた。

 そして、彼らはこのホテルで再会した。彼女は日々の疲れを取るためにバカンスでやってきていた。
彼はパーティーのゲームの副賞を利用するために来ていた。
「ひさしぶりね」
再会して先に分かったのは彼女のほうだった。彼女は自分の来月に生まれてくる孫のために、
靴下を編んでいた。小さくさわやかなクラッシクがロビーに流れていた。
彼は彼女が誰なのかに気づいたが、何も言えなかった。
忘れかけていた罪が彼の心を締め付ける。
「お元気でしたか?」
微笑みかける彼女に彼はうなずいた。
「それはよかったわ」
悲しい夢が、湖畔に落ちていく。

 彼は話し始めてた。今までの人生を。自分の罪を隠すために。
「もう、いいのですよ」
彼女は静かだった。ただそれが彼にとっては恐怖だった。
「私は、あのとき……」
彼女はまた微笑んだ。紅茶を口にする。
「神は私に彼を愛することを禁止したのだと思いました」
彼は紅茶のそこで溶けきっていない砂糖を見つめた。
「しかしそれは違ったようです」
彼は顔を上げた。
「私は幸せな人生を歩みました。しかし私はどんな人間も、あなた以上に
愛することはできませんでした」
彼女はまた紅茶を飲み、口を閉ざした。
「僕は、どんなに幸せの中にいても、君と一緒にいた時間以上に幸せな時間は
なかったよ」
紅茶を飲み干し、彼女は言った。
「あなたもはやく飲んでください。いきましょう」
彼は紅茶を飲みきり聞いた。
「どこへ?」

「私たちの行くべき場所へ」

それ以降二人を知る人はいない。
2010/04/18(Sun)14:31:04 公開 / 東雲しの
■この作品の著作権は東雲しのさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
わかりづらいかもしれませんが、イギリスの空気が出ればいいな、と思います。
この作品に対する感想 - 昇順
 イギリスの空気を出そうと試みるならもっとイギリス的な小道具を散りばめたほうが良かったかもしれませんね。紅茶にしても、アフタヌーン・ティーとかハイ・ティーとかにすればそれっぽいですし。周囲の人ももう少し詳細に。(例えばちょっとあざといけれど、ロンドンタイムズを読むお腹の出た中年男性、とか) ホテルにしても、そこが安宿か高級かでがらっとイメージ変わりますし。あと、ホテルのどこで紅茶を飲んでるのかという描写があればいいですね。
2010/04/18(Sun)17:54:150点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 二人が再会した瞬間や、二人で紅茶を飲むまでの流れなどが書かれてあったら良かったかなと思います。だけどロンドンの霧に包まれた様な、そんな雰囲気は出ていたような気はします。でも湖畔のホテルでしたね。
 あえてなのかもですが、文章の途中で改行が入っているような所が何カ所かありました。
であ次回作を楽しみにしています♪
2010/04/19(Mon)16:27:570点羽堕
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