オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『マッドハッター』 作者:亀 / リアル・現代 ファンタジー
全角4052.5文字
容量8105 bytes
原稿用紙約12.95枚
私こと×××には重大な欠陥があった。重大な欠陥は、始めから私をジャンクにするのではなく、徐々に私をジャンクにしていった。それは、生き地獄のようなものだった。徐々に徐々に私の一部をかすめ取って行く。
 
 1、セーラ服は襟が容赦なく飛ぶと、妃っぽくなる。

 紺のダッフルコート。赤と黒のチェックのマフラー。黒皮の手袋。メタルフレームの眼鏡。
 あいつは―――名前を忘れた―――そんな格好で私の目の前に立っていた。
 制服のスカートが風に揺れる。昔懐かしいセーラー服姿で私はあいつと対峙している。スカートとハイソックスから露出した膝が寒い。
 まだ、一月の下旬だ。寒くて当たり前だった。
「よぉ」
 黒皮の手袋に包まれた片手を上げて、あいさつと呼べないあいさつをした。眼鏡の奥の瞳からは、何も真意を汲み取ることは出来なかった。
「あぁ」仕方がないので、私もあいさつと呼べないあいさつを返した。
「久しぶりだね。元気だった?」
 ―――久しぶり。そう、確かにあいつと会うのは久しぶりだ。なのに、私はあいつの名前も、あいつが何者かも分からない。記憶が歪んでいる。でも、私はあいつを知っているし。あいつは私を知っているようだ。
「まぁ、元気と言えば元気だな……。お前は?」
「うん? そうだねぇ。うん、元気かな」あいつは曖昧に微笑んだ。見覚えのある表情。
「そうか」
「それでね。今日は話があって来たんだ」そう言って、あいつは一歩前に進み出た。マフラーが揺れる。
「どんな?」
「どんな話だと思う?」
「質問に質問で返すのは良くない傾向だな。ちゃんと答えろ」
「ひひひひっ」
 痙攣するように声を震わせて、あいつが嗤った。相変わらず気味の悪い嗤い方だ。
 一月の青空は驚くほどに澄み切っていた。大気も痛みを覚えるほどに冷たい。風が吹いた。セーラー服のままマフラーもコートも着ていない私に、いくら晴れているとはいえ、それは寒過ぎた。奥歯がガチガチと鳴る。反対にコートを着込んだ、あいつは暖かそうだ。
「1、チュッパ関連 2、ボディービルダー 3、手足 4、愛について さぁ、どれだと思う?」
 また、あいつが一歩前に進む。黒い指が四本、前に提示される。
「大穴で2」
「おしい。残念、ハズレー」
「じゃぁ、正解は何だ?」
「正解は3の手足についてでした」
 黒皮の手袋が青空に舞った。私の目の前には、あいつの立てられた四本の指があるハズだった。そこには、何もなかった。コートの袖からすっぱりと、あいつの手が消えていた。また、一歩進む。あいつが目の前に立つ。
「分かる? そう、見えないんだ。安心して、見えないだけでちゃんと指はある
し動くよ」
 ほら、そう言ってあいつが私の手を掴んだ。感触がした。幾ら感触のする手を見ても、何もない。だが、触れられているという感触はある。あいつの手は冷たかった。
「そう………だな。確かにお前の手はあるな」
「うん。でね、一つお願いがあるんだ」
 ぎゅと、あいつの手が私の手を握る。そこには何も見えないのに。
「かえして……」
 耳元で囁く。
「元は全部僕のものなのに、君が一部を持っていったから。たった、それだけで
こんなことになったんだ……」
「………何を言っているのか、見当が付かないんだが」
「うん。別に見当もつかなくていいよ。これは僕の問題で、本来なら君に全く関係ない話なんだ。そう…、君は僕に返してくれさえすればいい」
 私は寒くなる。気温が下がるという意味ではなく、もっと他の意味で、私は寒くなる。
「ねぇ、返して。これがないと僕は僕を保っていられないんだ」
 手首を掴まれる。
「ねぇ、お願いだから返して。かえして、かえして………」
「離せッ!」
 あいつの手を振り払い、突き飛ばす。メタルフレームの眼鏡が地面に落ちた。
「かえして」
 そこには、僕がいた。





 私こと×××には重大な欠陥があった。重大な欠陥は、始めから私をジャンクにするのではなく、徐々に私をジャンクにしていった。それは、生き地獄のようなものだった。徐々に徐々に私の一部をかすめ取って行く。かすめ取って行く物は実に様々で、昨日の起床時間だったり、今日の午後二時の湿度だったり、私の2年間の記憶であったり、視力を0、1だったりした。目に見えるものから、見えないものまで様々なものを私からかすめ取って行った。
 何時の事から、私は欠陥が『私』になろうとしていることに気が付いた。それはすなわち、私が欠陥になり、欠陥が私になることだった。だが、それは無理なことだった。私は欠陥があるからこそ私であり、欠陥は私があるからこそ欠陥なのだ。私は欠陥がなければ成立せず、欠陥もまた私がいなければ成立しなかった。私と欠陥は、良く言えば共存であり、悪く言えば寄生だった。漸くそのことに気が付いたのは、欠陥が私の半分ほどをかすめ取った時だった。
 そして――――一月の下旬の青空の下で私は初めて欠陥と相対した。
「ねぇ、怒らないの?」
「何が」
「僕が君から色々なものを取ったこと」
「怒るも何も、それは始めからお前のものであり、私のものだ」
「ふぅん。ジャンクになるのに?」
「ならない」断言する。
 何故か私は、欠陥と共にベンチで缶コーヒーを啜っていた。私は両手で、暖かいコーヒーを包みながら話を続ける。隣では欠陥が不振な顔で私を見ていた。
「私は欠陥―――つまりお前あっての私であり、お前―――欠陥は私あっての欠陥だからだ。私はお前がいなければ存在は出来ず、お前は私がいなければ存在出来ない。つまり、どちらかが欠けても私達は存在できない。お前が私からかすめ取ってジャンクになると言うなら、元々私達はジャンクだ。そして―――これからもジャンクだ。ジャンクがこれ以上ジャンクになることなんてないさ」
 一息に言い切って、コーヒーを飲む。微かに甘い。パッケージを見ると微糖だった。ブラックにすれば良かったと、後悔をする。
「屁理屈だよ、そんなの」
「そうだ、屁理屈だ。だが、そうしないと私は私でいられないし、お前はお前でいられなくなる」
「……………君は僕を恨んでいないの? 僕がいなければ君は取られずに済んだんだよ。それに、こんな歪んだことも起きずに済んだ」
 コーヒーを飲み干す。
「そうだな。けど、私はこれで良いと思っている。不都合は多々あるが、利点はない。けど、愉快だろう?」
「愉快?」
「そう、愉快だ。途方もなく、な。非生産的で効率が悪く、尚かつメリットが見当たらない。けれど、無意味ではない。愉快じゃないか。あぁ、別にお前にこの共存を強制しているわけじゃない。お前は現状に不満をもっているようだしな。必要とあらば、全部持って行っても構わない。それで、お前が満足するならな」
 ベンチから立ち上がる。そろそろ、戻らなくては不味いだろう。
「どうして、そんなにメリットがないことが愉快なの?」
 欠陥の両手に包まれたコーヒーはまだ空けられていなかった。勿論、両手とも黒皮の手袋をしている。不思議そうな顔で欠陥が私を見上げる。
「何の訳にも立たない、メリットなんか一切ない、非生産的な、けれども、無意味じゃないことが好きなんだ。いや、正確にはそういうニンゲンが好きなんだ。犯したいほどにな」
「………えげつない」
「多分、お前にもそんな所がある。少なくとも半分ぐらいはな」
「否定はしないでおくよ……」
「じゃ、私はもう行くぞ。そろそろタイムリミットみたいだからな。あぁ、そうだその前に一つ」
 欠陥は怪訝な顔をした。その瞳にも青空が移り込んでいた。
「手が見えないと何かと不便だろ。貸してやるよ」
 ぴりぴりと左手の皮を林檎を剥くように剥がす。コツが分かると以外と簡単に剥けてくれる。私の左手はあっという間に、筋肉の模型のような手になった。紐状になった手の皮を欠陥に投げつける。ついでに、缶もゴミ箱に投げ入れる。甲高い音を立てて缶がゴミ箱に落ちた。
「ねぇ、一つ聞いていい?」
 欠陥が缶と皮を握ったまま言う。
「うん?」
「何で君は女の子じゃないのに、セーラー服を着ているの?」
「シュミと実用を兼ねている。それじゃな」
「君は本当に僕で、僕は本当に君なのかなぁ」
「さぁな。それは私にも分からんよ。もしかしたら、根本的に間違ってるかもしれないしな」
 空を見上げる。澄んだ手が全く届きそうにない青空だった。冬の空はどうして、こんなにも高いのだう。絶望はしないが、悲観は出来る空だった。
「ありがとう」
 振り向くと、ベンチの上に空いていない缶コーヒーが置いてあった。欠陥の姿はそこにはもう、ない。だが、皮は持って行ったようだ。お陰で、私の手は暫く使いものになりそうにないが。
「あぁ。私も、ありがとう」
 何がありがとうなのか、欠陥はどこに行ったのか、結局私と欠陥は同じなのか、疑問は多い。けど、それを聞くのはあまりにも無粋だ。
 空に手を伸ばしてみた。届く気配は全く無い。
「ひひひひひっ。届く訳ないな」
 愉快だ。空に手は届かない。伸ばすだけ無駄な行為。それでも、意味はある。そこが、私には愉快で堪らない。
「いつまで、こんな所でクソ気味の悪い笑い声を上げてるんですか?」
「あぁ、シモン。見てくれ、手が届かない」
 いつの間にか、私の隣には真っ青な旗袍を着たシモンが立っていた。ちらりと盗み見ると、目付きの悪い眼と目が合った。
「なに今更逝かれたこと言ってやがるんですか? そんなの餓鬼でもしってる常識ですよ」
「だよな。所で、シモンここ何処だ?」
「その能天気さは本当に尊敬しやがりたいです」
「否定しているのか、肯定しているのか良く分からない言い方だね」
「小生は否定も肯定もしないですよ。……バカにしてるだけです」
「ひひひひひっ。お前の致命的な欠陥はその口の悪さだな。……………それで、お前がここまで来るっていうことは危険ということだな」歩き出す。目の前には真っ暗な穴が空いている。穴の底は見えなかった。
「さっさと仕事しやがれです」
 シモンがそう言ったのが聞こえた。それから、私は嗤いながら穴に落ちた。スカートが風を受けて膨らむ。
 さて、仕事の前にこの左手をどうにかしなければ…。

2010/02/08(Mon)10:18:33 公開 /
■この作品の著作権は亀さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして亀です。ここまで読んで下さってありがとうございます。
ちなみに、名前の由来は書く事が亀のように遅いからです。

誤字脱字などありましたら、教えて下さい。
よろしくお願いします。


最期になりますが、セーラー服は亀の個人的な趣味です。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 格好もさる事ながら、欠陥との会話は不思議な感じで面白かったです。ただ、ここまでだとよく分からないので、これから何か仕事に向かう様なので、序々にでも見えてくればいいなと思います。
であ続きを楽しみにしています♪
2010/02/09(Tue)17:00:360点羽堕
文矢といいます。
拝読させてもらったので感想を。

この短さじゃ、いまいち分からないというのが正直な感想です。
ジャンク感想の部分は、羽堕さんのように、不思議な感じがして面白かったのですが、それ以外の設定はどうも、ありがちな感じがして……
ただ、上手く書けば面白くなりそうなので、続き楽しみにしています。
2010/02/10(Wed)06:12:110点文矢
合計0点
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除