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『Live Style』 作者:TAKE / ショート*2 恋愛小説
全角2412.5文字
容量4825 bytes
原稿用紙約7.15枚
片想いの成就です。二人のこれからは、読者の想像にお任せします。
 来年一月末に大学受験を控えた十月の塾帰り、夜九時二〇分を少し過ぎた頃。
 気まぐれにいつもと違う道を通って家路に着いていると、街の喧騒に紛れて音楽が聞こえて来た。アコースティックギターと、倍音の利いた声。
駅舎の入り口付近に人だかりがあった。演奏されているのはよく知れた曲のコピーで、ミディアムバラードの調子に乗せて人々の体が微かに揺れている。
 人に囲まれた中心に立っていた男には見覚えがあった。一昨年卒業した部活の先輩だった。
 次の曲で終了らしい。僕は彼のオリジナル曲が演奏されていた約五分間、人だかりに紛れていた。
 最後の音を街が吸い込み、彼は頭を下げ、人々は購入した彼のCDを手に散ってゆく。
 その場が閑散とした風景に変わった頃、彼は僕に気付いた。
「お久し振りです。客、結構居ましたね」
 インディーズレーベルに入って、最近有線でたまに曲が流れるようになったと、彼は誇らしげな表情で言った。
「ギター、貸して貰ってもいいですか?」
 弾けたっけ? そう言いながら、先輩は仕舞いかけていたものを僕に渡してくれた。
 受験勉強が始まる前は友達とギターを抱えて遊んでいた。オリジナルも数曲あるが、披露した事はなかった。
 僕はCadd9コードのストロークから始まるオリジナル曲を弾き語った。初めて人前で、しかも外で歌うそれは、友達から恋人になった二人が、遠距離恋愛を経て再会する物語を、爽やかな雰囲気のアップテンポで表現したものだった。
 段々と調子が出てきて、気が付くと周りに再び人だかりが出来ていた。曲が終わり、先輩と同じく頭を下げて拍手を貰うと、僕は先輩にギターを返した。彼も小さく拍手し、持ち歌の数を訊いてきた。
「曲が付いてるので、六つですね。歌詞から作る方なんです」
 お開きだと察した人々は、一人また一人と、街灯りに溶けていった。
「ずっとここで演ってるんですか?」
 週に一度だよ。他は近所のライブハウスなんかで、時間の空いた日にな。そう彼は言った。
「また来ますね」
 先輩は軽く右手を上げ、僕達は別れた。


 朝、僕は電車の前からニ両目、一番目のドアに乗り込む。三駅目で、同じドアからその子は乗ってくる。右手で風に乱れた前髪を直し、化粧っ気の無い小さな顔に際立つ、周りの女性より倍近い大きさの目を友達に向けて話しながら。
 名前も知らない。言葉を交わした事も無い。関係性など無に等しいのに、いつしか彼女を意識する様になっていた。
 彼女は僕よりも手前の駅で友達と降りてゆく。肩甲骨辺りでなびく髪を目で追う。手の中にある参考書の内容が頭に入らなくなる。
 帰りの電車も同じだった日が何度かある。その時彼女は一人だった。隣に座る事が出来たのに、僅か数センチの隙間にビロードのカーテンが引かれたような感覚があり、結局彼女に向けて声を出せない。そんな自分を心の中で殴る。

 毎週、先輩の歌う日にはあの道を通る様になった。時間的に丁度最後の曲で、終わるとしばらく近況を話し、僕が一曲だけ弾き語る。辛気臭い現実を払いのけて、束の間悩みを忘れる。恋や学や、友とのいざこざも。
 八度目にそこへ訪れた、つまり丁度二ヶ月が立った頃だった。ギターの側面に取り付けた、アンプと接続するピックアップに不具合が起こったらしく、最後の曲は生音にオフマイクでの演奏となった。この頃には僕が演奏するのを待っていてくれる観客も居た。僕は三本指で寿司を摘む形にピックを持つ。これで力が加わり易くなり、街の喧騒に負けない程度に大きな音が出る。
 音は濃密な漆黒の空に溶けてゆく。

 一番のBメロに差し掛かった時、それは不意に僕の視界へ飛び込んできた。
 朝の彼女が立っていた。
 驚き、裏返った声を誤魔化す事は出来なかった。小さな笑いが起こり、僕も苦笑いしながら、そのままサビへと繋ぐ。彼女もクスクスと笑っていた。
 曲が終わると、人々は日常へと帰ってゆく。同時に僕や先輩にも日常が訪れる。短くて儚い時間。
 彼女も群集に紛れて消えていた。


 それから一週間と三日後、相変わらず僕は彼女に声を掛けられず、向こうも僕の顔が分かっている筈だが、以前と変わらず友達と車内で話していた。
夜、電話が掛かってきた。先輩からだった。通話ボタンを押すと、電話の向こうの彼は上気した様子だった。
 落ち着いて聞けよと、「そっちが落ち着いて下さい」とでも言いたくなるような口調で彼は話した。
 有線で曲を聴いていた大手事務所の社員が、一度メジャーへ向けて前向きに話し合いたいとレーベルに連絡してきたそうだ。その曲は、僕が作った詞に先輩がコード進行を乗せたものだった。ありがちな話だが、奇跡だと思えた。
 出来ればお前にも会いたいってさ。そう彼は言ったが、受験生なので優先順位を考えると、期待には応えられそうに無い。その旨を告げると、彼は納得した様子だった。
 付け加えるように先輩が僕へ告げたのは、僕が意識している彼女の存在が、彼にもあの夜に分かっていたという事だった。
 先輩は大事な言葉を、これからへ向けて言ってくれた。

 本気で何かしたいと思ったらな、ゼロから何もかも自分で動くんだ。その為に必要なタイミングだって、待つんじゃなくて作るんだよ。始めるのは全て自分、神だとか運だとかは関係ないんだ。今までそうしてなきゃ、俺に今回みたいな機会は来なかったよ。

 次の日、その言葉を胸に携えて電車に乗り込んだ。
 三駅目でドアが開く。彼女が友達と乗ってくる。
 ここで躊躇えば、この先に再び茫漠とした時間が訪れる。そう思った。
「おはよう」意を決して、僕は言った。
 彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。友達に見せるものと同じだった。
 おはよう。
 明るいブラウンの瞳に一瞬、ポカンとした僕の間抜けな顔が映る。彼女はあの夜と同じ調子で僕を見つめ、二言目を紡いだ。

 やっと話せたね。
2009/09/05(Sat)10:50:43 公開 / TAKE
■この作品の著作権はTAKEさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何人かの友達が読んだのですが、大抵「実体験なのか」と訊かれます。
事実なのは中学からギターを弾いている事と、電車で乗り合わせる気になる女の子が居た事だけで、片想いが成就する事もありませんでした(泣)
この作品に対する感想 - 昇順
作品を読ませていただきました。作者のメッセージにあるように実体験的な雰囲気を持った作品ですね。たしかにトントン拍子でいい方向に進みすぎる部分にフィクション的なものは感じますが、全体としては現実感を持たせたままラストを迎えた印象を受けました。特にラストがいい雰囲気を持っていますね。ただ、ギターコードなどの表記は不要だと思います。私も弦楽器はやっているからある程度は分かりますが(ギターではありません)、基本的に読者の全てが楽器に触れているワケではないことを踏まえて書いた方がいいと思いますよ。では、次回作品を期待しています。
2009/09/27(Sun)23:54:070点甘木
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