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『姉貴と俺の異世界探険記』 作者:GF / 異世界 ファンタジー
全角3354文字
容量6708 bytes
原稿用紙約10.2枚
俺の姉貴は鬼である。……いや、性格の話だ。そんな姉貴と、異世界に飛ばされる? これは冗談のようで、本当の話だ。

 プロローグ

 事の始まりは、臼井真由美だった。
 要するに、俺の姉貴である。現在、高校二年生の十七歳。バストは自称Dカップの、まごうことなき俺の姉である。
 姉貴を一言で言い表すならば、鬼だ。いや、別に身長が二メートルを超えているとか、いつも棍棒片手に歩いているとか、そういう訳ではない。
 弟の俺が言うのも何だが、姉貴は美人だ。学年美人コンテストで断トツ一位になるのだから、身内びいきな訳でも、ましてや俺がシスコンだとかそういう事ではない。あくまで客観的に見て、美人の部類に入るのだ、ということである。
 腰の辺りまで伸びたつややかな黒髪に、愛らしい顔立ち。まるで、本に出てくるどこかの国の姫様みたいだ。
 天は二物を与えない、なんて言葉があるが、姉貴はどうやらそれには当てはまらないらしく、勉強も学年トップ。模擬試験では全国区の常連だ。更に、人当たりもよく人間関係も良好。
 近所では有名な気難しいおばあちゃんが、
「ヤガミ君は、いいお姉さんを持って幸せだねえ」
 なんて、ニコニコ顔で俺に言っていたので、姉貴のコミュニケーション能力は同じ年の奴らよりも、頭一つ抜けているのだろう。
 当然、そんなカリスマ的女子高生を、イケメン軍団(主にサッカー部とか、バスケ部のキャプテン)が放って置く訳がなく、一時期は一月で十五人に告白されたとか、されてないとか。
 とにかく、傍から見たら非の打ち所がない、カリスマ的人物なのである。
 しかし、しかしだ。
 俺は知っている。姉貴は単に、猫をかぶっているだけなのだ。俗に言う、世渡り上手というやつなのである。
 その本性というのが、前述したとおり鬼なのである。
 具体的に、どの辺りが鬼なのかと言えば、まず第一に、当然の如く家事は全部俺任せだ。
 うちの両親は、仕事の関係で一年前から海外に出張している。ま、仕送りもあるし、流石に海外の学校に行く気にもなれず、俺と姉貴は家に残る事にしたのだが、それが失敗だった。俺も海外に逃げるべきだったのだ。
 家事の話だったな。臼井ヤガミこと俺の一日は、朝の五時に起きる事から始まる。
 まずは二人分の弁当を作る。栄養バランスと味を高いレベルで両立させた、ヤガミスペシャル弁当である。
 どのくらいの高レベルかと言うと、たぶん、一流の主婦もこの弁当の質の高さを見たら、俺に尊敬の眼差しを向ける事だろう。
 この領域に達するまで、三ヶ月かかった。いや、包丁を握り始めて、僅か三ヶ月でここまで上達した、と自慢すべきところなのだろうか。
 そもそも、俺は弁当作りには反対だった。朝早く起きるのが辛いし、昼飯は学食かパンですまそうと思っていたのだ。
 が、姉貴は
「駄目よ、そんなの。お金がかかるし、最近は食品メーカーも信用できないわ。自分で作った方がよっぽど安全で美味しいと思わない?」
 とか言って、すぐさま却下。
 じゃあ、交代で作ろうと俺が妥協案を提案したのだが……
「ヤガミ。あんた、確か手先は器用だったわよね? プラモデルとか、よく作ってるし。んじゃ、明日からよろしくね」
 姉貴は太陽みたいな笑顔を振りまいて、俺の肩をぽんと叩いた。何がどうなってそうなったのか、俺は全く理解出来なかったね。だが、確かな事が一つだけあった。
 俺に拒否権は、ない。
 それから、あれよあれよと俺の意思などまるで関係なく、兄弟二人だけの共同生活のルールは、徐々に決まっていった訳で。
 洗濯は俺が担当になった。理由は、年頃の男は、パンツくらい自分で洗った方がいいから、とのこと。
 姉貴のブラジャーを干していたら「興奮する?」とか言ってきやがった。ふざけんな。
 掃除全般も俺の担当。掃除をすると、心も綺麗になるのよ。絶対、将来の為になるから、あんたやりなさい。私? ふふ、もう十分綺麗よ。
 その時の姉貴の笑顔は、とても怖かった。笑顔なのに殺気が出るって、どういう事なんだろうね。で、俺はただ黙って頷く事しか出来なかったのである。
 その他、夕食の料理、買い物、ゴミだし、肩もみ、お茶組み、客が来た時の対応、セールスマンの対処……。
 気付いたら、俺は主夫になっていた。これで子供の世話でも出来れば、完璧である。
 で、姉貴の家庭内での仕事はというと。
「お金の管理は、私がするわね。あんたに預けると、ゲームとか漫画とかに使っちゃうでしょ? ま、お小遣いはちゃんとあげるから、それでやりくりしなさい。……あ、バイトするなら、給料の九割を家に納めてね。くれぐれも、脱税しないこと。わかった?」
 俺にノーと言える勇気はなかったね。
 ちなみに、姉貴は合気道二段、剣道三段のバリバリ武道派である。逆らったところで、軽く腕を捻られるのが落ちだ。下手したら、木刀で頭をかち割られてしまうかもしれない。
 そう言う訳で、俺は今日も今日とて姉貴の尻にしかれているのである。全く、一年早く先に生まれただけで、どうしてこうも差が出来てしまうのか。理不尽な事この上ない。
 でも、俺は姉貴の事は、別に嫌いじゃなかった。
 めちゃくちゃな人だけど、正義感は強いし、小さい頃は色々守ってもらった記憶がある。小学生の時は、俺をいじめていた奴らを仕返しにとボコボコにしてくれたし、遊園地で迷子になった時も、泣きじゃくる俺の手を引いて、迷子センターまで引っ張ってくれた。
 まあ、そういう面もあるから、俺はあんまり強く言えないし、このままでも良いかなと洗脳されつつある。
 さてさて、本題。
 どこから話せばいいのやら――そうだな、やっぱり、一から話す必要があるよな。
 始まりは、姉貴が押入れの奥から発掘した、一本のゲームソフトだった。日曜日、特に外出する用事もなく、家で漫画を読んでいた俺に、呼び出しが掛かったのは午後二時前後だったと思う。
「暇だし、ゲームやらない?」
 一応、疑問系ではあるが、姉貴の要望を拒否しようものなら大変な事になるので、俺は頷いて姉貴からソフトを受け取った。
 ハードはスーパーファミコン。これまた、随分とレトロなゲームを持ってきたものである。表面部分に、デフォルト化された戦士と魔法使いが並んでいた。一昔前のデザインだった。九十年代前半かな?
「押入れに入ってたの。あんたが買ったんじゃないの?」
 記憶にない。俺は首を横に振った。
「まあいいや。キャラが可愛いし、ちょっとつけてみてよ」
 俺はスーファミの電源を入れた。
 すると、オープニングもタイトルもなく、いきなり砂嵐画面となった。やがて、画面の下部にメッセージウインドウが表示される。
『あなたは、選ばれし勇者ですか?』
 続いて、選択肢。はいかいいえの二択だ。
 俺はこの時点で、嫌な予感がしていた。いくら何でも、メーカー名の表示やタイトルをすっ飛ばして、ゲーム開始場面になるのはおかしいと思ったのだ。
 そのことを姉貴に告げると。
「よくある手法よ。いいから、早く先に進めて」
 少し迷ったが、俺は仕方なく、はいを選択する。ここでいいえを選ぶと、即バッドエンドだと思ったからだ。
『ヤガミ……あなたの名前は、ヤガミですね? ――勇者ヤガミ。あなたは予言通り――このエクシアの地に――』
「え?」
 思わず、俺は声を出してしまった。怖い物など何もない、といった風の姉貴も、珍しく驚愕の表情を浮かべていた。
 次の瞬間。画面から光がほとばしった。俺の視界は一瞬で白に埋め尽くされ、ふ、と体から力が抜ける。
 そして、俺の意識は途切れた。


 俺は今、ロールプレイングゲームに出てきそうなファンタジーな服を着て、ぎらりと銀色に光る剣を持ち、見知らぬ大地に立っている。
 隣には、いかにも魔法使いといった風の格好をした姉貴がいる。
「ねえ、ヤガミ。私、この世界嫌いじゃないかも」
 俺はため息をついた。
 これは嘘じゃない。全部、本当の話なのだ。


 最初に言ったとおり、事の発端は姉貴なのである。
 もしもあの時、姉貴が押入れにあったゲームを見つけなければ――いや、もしかしたら、それは姉貴の意思じゃなくて、運命だったのかもしれないけれど――。
 それでも、俺はあえて言おう。
 こんな事になった所為は、姉貴にあるんだ、と。
 

プロローグ ―了―
2008/12/15(Mon)20:22:53 公開 / GF
■この作品の著作権はGFさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。GFと申します。
これからよろしくお願い致します
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
出だしとしては面白かったと思います。ヤガミは「完全にシスコンじゃね?」とツッコミを入れたくなりますがw今の所の流れは、まだよくある感じなのかも知れません。が、文章もとても読み易くて入り込みやすかったです。これからが楽しみです。細かい事ですが「デフォルト」ではなく「デフォルメ」でしょうか?
では続きも期待しています♪
2008/12/16(Tue)17:14:290点羽堕
こんばんは、GFさんの作品を拝読しました。
タイトルはええと『姉貴と俺の異世界探険記』でしたね。プロローグのみですので詳しい感想などは割愛します。
個人的な印象としては主人公と姉の関係が現実的にありそうで好ましいですね。
ただ、この手の物語は『ブレイブストーリー』と似るものがありますので、これからどういう工夫をこなすのかが問題になってくると思います。そこは楽しみにしている部分ですね(笑
それと今回のプロローグですが、タイトルに『姉貴と俺の』と入れているくらいですからお姉さんの台詞をもっと増やしてほしいですね。主人公が姉の全部を語るのではなく、姉と主人公の会話から少しずつ姉の実態が読み取れるような形だと、読者も先を読みたいという惹かれる気持ちになっていくと思います。つまり、一人称の台詞が少し多かったかなと感じました。
では、第一章となる部分に期待を込めて――応援しています。
2008/12/18(Thu)01:16:440点フラッターエコー
作品を読ませていただきました。ヤガミもモノローグは面白かったし読みやすかったですよ。物語の方はまだ冒頭だからなんとも言えませんが、設定的にはよくあるパターンなのでどれだけ個性を出せるか楽しみにしています。では、次回更新を期待しています。
2009/01/03(Sat)00:38:270点甘木
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