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『セラフィンゲイン 第29話』 作者:鋏屋 / リアル・現代 ファンタジー
全角150348文字
容量300696 bytes
原稿用紙約439.35枚
インナーブレインという画期的なシステムで創造された仮想世界で繰り広げられる新時代の体感ロールプレイングゲーム『セラフィンゲイン』そこで、英雄として称えられる傭兵魔法剣士『漆黒のシャドウ』のプレイヤー影浦智哉【カゲウラ・トモチカ】は、現実世界では、ほぼ毎日のように秋葉原に通う全くさえないヲタクダメ大学生。友達の数は片手でお釣りが来る。彼女居ない歴=人生。二次元以外の女性と話すと極度のどもりで上手く喋れない持病の持ち主。何をやってもついてない、自分に自身が無く、言いたいことも言えないそんな彼が唯一自分以外になれる場所、それがデジタル仮想世界『セラフィンゲイン』だった。
これまでのあらすじ
 仮想体感ロールプレイングゲーム『セラフィンゲイン』で、半ば超人的な強さの凄腕の傭兵『漆黒のシャドウ』のプレイヤー景浦智哉は、現実じゃ彼女どころか友達すら居ないヲタクダメ大学生。
 同じく『セラフィンゲイン』で最強と噂される美貌の女魔導士『プラチナ・スノー』こと世羅浜雪乃は、なんと智哉と同じ大学に通う同級生だった。
 学校内で出会った2人は雪乃の持ちかけで『セラフィンゲイン』で新たなチームを作る事になるが、その話を聞いていた智哉の同級生、兵藤マリアは「自分も入れろ」と智哉に迫る。マリアはビジュアル最高性格最悪の女子、通称『ビジュアル系悪魔』だった。しかもセラフィンゲインは初心者。だが、どうにも断れない智哉は初心者である彼女もチームに入れる事を渋々承諾する。
 さらにスノーこと雪乃の知り合いオカマガンナーの『マチルダ』 超無口な本物坊主の『サモン』 切り裂き狂の二刀流使い『リッパー』 そしてなんちゃって黒人の槍使い『サム』も加えチーム『ラグナロク』を結成する。
 目指すは『最強』狙うは『伝説』という大きな目標を掲げ、意気揚々とスタートするシャドウ達だったが、初心者である『ララ』ことマリアの暴走や、サムのおおボケのおかげで思うようにいかず苦難の連続だった。
 何とかお荷物だったララのレベルも上がり、チームの連携も取れてきたチーム『ラグナロク』だったが、ある日クエスト中に別のチームから攻撃を受ける。
 システム上あり得ない別チームから攻撃を受け、翻弄するメンバー達。そして混乱の中不可解なチームバトルへと発展する。
 慣れないプレイヤーバトルに苦戦するチーム『ラグナロク』
 その時、スノーは正体不明の呪文を発動する。だがそれは1年前にシステムサポート側からプロテクトを掛けられ使用できなくなったハズの『禁呪』だった。
 その危険性と『禁呪』に指定された経緯を知るシャドウは、「何故使えるのか」とスノーにその理由を詰問し、スノーがシステムの制作者達『使徒』ではないのかと疑う。
 だがスノーはそれを否定。そして『使徒』であった人物を知っていると語る。その人物の名は『鬼丸』
 シャドウはその名前を聞いて動揺する。なぜならスノーが『使徒』だと告げた『鬼丸』という人物は、かつてシャドウが所属していたチーム『ヨルムンガムド』のリーダーにして伝説の最強魔法剣士だったからだ。
 彼から譲り受けた愛刀『童子切り安綱』を握りしめ、その切っ先をスノーに突きつけたまま動けないでいるシャドウの脳裏に、かつて自分を『仲間』と呼びシャドウ自身『友』と感じていた男の笑顔がよぎる……


一応あらすじを大まかにまとめましたが、この作品を初めから読もうなんて思ってくださる方は過去ログ『-20080730』にあります。
続いて11話までが過去作品に行ってしまったため、ここから読まれる方のために簡単な登場人物紹介と用語集を乗せておきます。

★ ★ ★ ★ ★
セラフィンゲイン登場人物

景浦 智哉【カゲウラトモチカ】男
本編の主人公。キャラは魔法剣士『シャドウ』LV37
別名、『漆黒のシャドウ』後に『漆黒の大鴉【ブラン】』と呼ばれる事になる。
セラフィンゲインでは超人的な強さを誇り、愛刀『童子切り安綱』という太刀を振るう凄腕傭兵だが、リアルでは彼女居ない歴=人生、知り合い以上友達未満の友人関係しか築けていないオタクダメ大学生。しかも女子の前では緊張して極度などもり症が出て会話にならない持病を持つ。しかしリアルで『シャドウ』と呼ばれると、セラフィンゲインでの自分のキャラである『シャドウ』を演じてしまう仮想二重人格者。自分がセラフィンゲインで『英雄』であることをその存在意義とし、仮想世界で『狩り』を続けるプレイヤー。


兵藤 マリア【ヒョウドウマリア】女
キャラは武闘家【モンク】の『ララ』 Lv1スタートで現在Lv17へ。後に『疾風の聖拳』と呼ばれる事になる。
アメリカ人の父を持つハーフで智哉と同じ大学に通う超美形の女子大生。類い希なる容姿を持ち、智哉曰く「神の手による美貌」と賞されるが、その性格は悪魔的サディストで完全自分中心主義者。アメリカ陸軍突撃隊に所属する父からマーシャルアーツを学び、その腕前は横須賀基地内でも屈指の腕前。その美貌により通う大学のミスコンでは2年連続のダントツ優勝に輝き、当然周りの男から交際を申し込まれるが、その男達をことごとく病院送りにした事から、通称「ビジュアル系悪魔」と呼ばれる。
セラフィンゲインではLv1で、最上位の『クラスA』のフィールドに立つという快挙? をやってのけ、なおかつLv1で上級セラフ『ゲノ・グスターファ』のパンチをヒットさせるという、ある意味『伝説』をつくる。


世羅浜 雪乃【セラハマユキノ】女
キャラは魔導士の『スノー』でLv39。白銀の魔女『プラチナ・スノー』の通り名で知られる最強クラスの魔導士。元々魔導士の成長が遅い事もあってか、Lv30を超えた魔導士自体滅多に居ないという貴重キャラ。
セラフィンゲインでは冷徹・冷静沈着な彼女だが、リアルではしゃべり方の遅いおっとりとした女の子。美形なロリ顔を持ち、アニメのヒロインがそのまま現実になったような超絶美少女。盲目であるが時折それを感じさせない仕草をし、智哉の脳をしばしば溶解させる。リアル、仮想のどちらにも多くの謎を持つミステリアスな少女である。
智哉やマリアと同じ大学に通っており、学食で偶然智哉達と出会い、彼女の主催でチーム『ラグナロク』を結成する。


マチルダ 本名、真藻鳥 竜平【マモトリリュウヘイ】中性
弾丸に魔法を封入した特殊な『魔法弾』を砲撃する『撃滅砲』と言う武器を操る巨漢のガンナーでLv27。通称『ドンちゃん』
後に『千里の魔神』と呼ばれる。
その巨漢とフランケンのような顔立ちにもかかわらず、ニューハーフと言う事から『二丁目ドズル』と智哉に賞される。
新宿2丁目にキャラ名と同名のクラブを経営しそこでの源氏名も同じ。キャラ名はお店の宣伝も兼ねているらしい。
戦闘時において自分たちの仲間の動きを読み、相手に確実にヒットさせる『予測射撃』のセンスは一級品でチームを後方から援護する。その容姿に似合わず仲間内のイザコザには非常に気を遣う。ただいま恋人募集中とのこと。


サモン 本名 庚庵【コウアン】男
回復と守護、及びサポート魔法を得意とする僧侶【ビショップ】でLv27。後に『沈黙の守護神』と呼ばれる。
ゴルゴ13のデューク東郷似の現職の曹洞宗僧侶。セラフィンゲインではほとんど言葉を発しない地蔵キャラだが、リアルでは結構しゃべり、また聞き上手で話し上手。
リーダーであるスノーのサポートに徹し、チーム内では彼女の副官的立ち位置。回復系と守護系の魔法を全て修得し、その熟練度もマスタークラスでチームにとっては欠かす事の出来ない存在。
あまり自分の考えを述べる事が苦手のようだ。


リッパー 本名、織我貴 臥璃雄【オリガキガリオ】男
セラフィンゲインでは不人気な『双斬剣』またの名を『ダブルブレイド』という2本1組の剣を使う二刀流の戦士でLv26。肉を切る感触に快感を覚える性癖があり、一度スイッチが入ってしますと一心不乱に相手を切り刻む凶戦士になってしまう事から、後に『狂気の白刃』と呼ばれる。
リアルで父親が経営する『織我貴精肉所』の2代目で、幼い頃から父親の手伝いで食用肉を捌いているうちに快感を覚えてしまったらしい。普段町を歩いている最中でも肉を切りたくなる衝動が出てしまい、それを押さえるのに自分の皮膚を切り痛みでその衝動を抑える事もしばしばというリアルでも危ない奴。


イーグルサム 本名、エポックビル・アンダーソン・JR 男
通称サム。後に『暗黒の大鷲』と呼ばれるが、この呼び名はシャドウの『鴉』と被るので智哉は『サル』と呼ぶ事もしばしば。
セラフィンゲインでは、その扱いにくさと熟練度の成長スピードが遅い事から、リッパーの使うダブルブレイドと同じく不人気装備『槍』を使う黒人の『槍使い【ランサー】』でLv28。
槍はLv25を超えると攻防一体のスペシャルスキル『ジャンプ攻撃』を使える事が出来、そこまで成長した槍使いは珍しく、かなり貴重なキャラ。
リアルでは耳が悪くほとんど音が聞こえないにもかかわらず、DJをやっている。
日系のクオーターだが、智哉曰く『どう見ても日本人の遺伝子が混じってない』と言われるほど容姿が完璧な長身の黒人。一見するとNBAの選手のようだが、生まれてから一度も日本を出た事が無く、英語が一切喋れない。そのくせ和製英語を会話の端々に交ぜるので胡散臭いことこの上ない。腕は立つのだが余計な事をしてシャドウ他メンバー達を翻弄するお調子者のトラブルメーカー。チーム内の立ち位置はレベルの低いララの護衛でしかも彼女に惚れている。


オウル【梟】 本名 屋敷戸 拓也【ヤシキドタクヤ】男
秋葉原のゲーム・フィギアショップ『耳屋』の角野卓造似の店主でセラフィンゲインの古参のプレイヤー。シャドウと同じ傭兵で職業はドンちゃんことマチルダと同じくガンナー。
かなりの情報通で色々な方面に不思議なパイプを持ち、時々智哉に情報や助言を与える。智哉にセラフィンゲインの存在や傭兵に誘ったのもこの人。智哉の過去やかつての『鬼丸』を知る数少ない存在。


鬼丸 本名、ナイショ 男
かつて、シャドウやサムが在籍していたチーム『ヨルムンガムド』のリーダー。Lv40を超える最強魔法剣士で伝説の『太刀使い』
智哉を『仲間』と呼び、リアル、バーチャルひっくるめても友達の居ない智哉自身『友』と慕った人物。『ヨルムンガムド』の解散を期に、その愛刀『童子切り安綱』をシャドウに託し行方不明になる。その行動、素性共に一切が謎に包まれている伝説の剣士。
スノーこと雪乃と何らかの関係があるらしく、彼女の言葉から、セラフィンゲインの創造者の一人『使徒』である事が判明する。


カイン 男
前にスノーが主催していたチーム『アポカリプス』の前衛を努めていた戦士。シャドウも一度傭兵時代に一緒にクエストに参加したので顔を知っている。
『アポカリプス』最後のクエストで、接続干渉事故『ロスト』を起こし、意識が戻らないMIA『未帰還者』となってしまったはずだが、前回のクエストでどういう訳か『セラフ』としてチーム『ラグナロク』に攻撃を仕掛けてきた。


基本用語

『インナーブレインシステム』
仮想世界セラフィンゲインの核となる接続システム。微弱な電気信号による大脳気質への直接喚起で被験者の脳内にプログラムされた疑似空間を投影し、被験者があたかも現実に体感しているかのような認識を持たせる仮想領域体感システム。
本来は全く別の目的の為に開発された装置であるが、現在ではネットワーク型体感ロールプレイングゲーム、セラフィンゲインにのみ利用されている。


『ブレインギア』
セラフィンゲインに接続するためのリクライニングシート型の装置。下に揚げる『ウサギの巣』の地下に設置されている。

『ウサギの巣』
世界中にあるセラフィンゲインの接続端末のこと。とは言ってもその場所は公開されておらず、口コミや知っている人間からの紹介などでしかその場所を探す事が出来ない。智哉達は秋葉原にある端末から日々アクセスしているが、近い所では渋谷にもあるらしい。


『ターミナル』
接続したプレイヤーが最初に転送されるセラフィンゲイン内の町。


『沢庵』
ターミナルにあるレストラン。店内の内装が洋風なのに名前が致命的に間違っており、開発者達のネーミングセンスを疑わざるを得ない。レストランなので当然スタミナ回復のための食事も可能だが、プレイヤー達のミーティングや待合所として利用される事が多い


『狩り者の寝床』
セラフィンゲイン内でのプレイヤーのためのプレイベートルーム。HP回復の為のベッドや集めたアイテムを収納するアイテムBOXなどが設置されている。


『ネスト』
本来の名前は『待ち人の社』と言い、プレイヤー同士の待ち合わせに用意された施設だったが、いつの間にか成り行き上発生した職業である『傭兵』達の集まる傭兵待機所になってしまった。傭兵を雇いたいチームは此処に立ち寄り、直接交渉して雇う事になる。


『セラフ』
セラフィンゲインに出現する怪物の総称。その種類は様々で小型、中型、大型と大きく分けて3タイプあるが、同名のセラフでも個体によって若干の違いが見られる。また形状、生態の違う亜種なども複数確認されており、細かく分けると数百種類になる。
種類によって強さが違い、その強さによって出現するクエストも違いプレイヤー達は自分のレベルにあったセラフを狩り経験を積む事になる。
ちなみに『セラフ』は天使、『セラフィンゲイン』は造語で【天使が統べる地】と言う意味がある。


『リセット』
プレイヤーとセラフィンゲインの接続を強制的に切断する緊急脱出コマンドの事。デッド【死亡】判定にならない重傷を負って動けなくなったり、何らかのシステム障害に巻き込まれ行動不能に陥るなどのいわゆる『手詰まり』な場合の時に使用されるが、その判断がプレイヤー個人に委ねられている為、身勝手なリセット選択によりチーム内の揉め事になるケースが多い。


『ロスト』
セラフィンゲインとの接続が切れても意識が戻らない接続干渉事故のこと。ロストした場合、自分や他者への認識が不可能になり、意識喪失のまま病院のベッドに眠り続ける事になる。ロストした人間をプレイヤー達の間では、現実世界の戦争で行方不明になった兵士になぞらえてMIA【未帰還者】と呼ぶ。


『ブロックエントリー、オープンエントリー』
クエストの受注スタイルの事。ブロックエントリーはアクセスしたエントリーに他のチームが介在出来ないようアクセスブロックが掛かったエントリースタイル。オープンエントリーは別チームの介在を許可したエントリースタイル。
一般的なチームクエストの場合は先に挙げた『ブロックエントリー』を選択する。『オープンエントリー』は他チームとの交流を目的として設けられたスタイルなのだが、もっぱらチーム同士のイザコザを解決するための『チームバトル』の手段として使われるのと、傭兵を雇う場合によく使われる。


『使徒』
セラフィンゲインの開発者達の俗称。『使徒』とは本来の呼び名ではなかったが、セラフィンゲインという名前と、13人居たという噂からそう呼ばれるようになった。名前はおろかどんな人物達だったのかも全く公表されていない。またその存在自体確認されておらず、噂の域を出ない謎の存在。


『コンプリージョン・デリート』
一年半前、鬼丸が使用してセラフィンゲインのサポート側から使用禁止としてプロテクトが掛けられた『禁呪』に指定された魔法で、但し魔法と言ったが厳密に言うと魔法ではなく『強制削除コマンド』という外的プログラムである。このプログラムを作った人間がサポート側の監視の目を交わすため魔法のような形態を取っている。
第11話でかつてのチームメイトであるカインに襲われ、パニックに陥ったスノーがこの呪文を発動させてしまう。過去にこの呪文を体験し、その危険性と禁呪になった経緯を知るシャドウは、これを行使できるスノーを『使徒』ではないかと疑うが、スノーはプロテクト解除のパスワードを自分に教えた『鬼丸』こそが『使徒』だと語る。


『聖櫃』
クエストNo.66、『マビノの聖櫃』というクエストの通称。未だかつて誰もクリアした事がない難攻不落クエスト。セラフィンゲインのシンボルマウンテン『マビノ山』にあるフィールドでそこの最深部にある『聖櫃』というエリアを目指す。その『聖櫃』に行けさえすればクリアなのか、それともそこに居るかもしれないセラフを倒す事が目的なのか全くの謎。過去に数多くのチームがこのクエストに挑んだがいずれも全滅するかリセットを余儀なくされた。かつてシャドウも鬼丸と共にこのクエストに挑むが全滅した経験がある。



『童子切り安綱』
シャドウの持つ二尺六寸(刃渡り80cm)の太刀。現実世界に同名の太刀が存在し、そちらは国宝認定品。その昔京都の町を暴れ回った酒呑童子の腕を切り落としたとされる伝説の名刀。かつてシャドウが在籍していたチーム『ヨルムンガムド』のリーダーにして当時最強と言われたレベル40オーバーの魔法剣士。そして伝説の『太刀使い』である鬼丸から受け継いだ武器。『ウサギの巣』ロビーに設置してある端末で検索しても出てこない超レアアイテムとのことだが……


『愚者のマント』
シャドウの装備する漆黒のマント。傭兵時代に参加したクエストで足りない報酬の代わりにゲットしたレアアイテム。普段は黒色だが、頭から被ると周囲の背景に同化する『擬態』の効果が付加された魔法のアイテム。下に着る防具に制限があり、あまりAC値が高い物は装備できないデメリットがあるが、食らう攻撃魔法を軽減する効果がある。


『携帯電話』
セラフィンゲインにアクセスするプレイヤーの標準装備品の携帯型端末。セラフィンゲイン内での仲間との交信に使われる。他にもステータス確認機能、アイテム閲覧機能、オートマッピング機能などを標準装備する優れもの。外観は現実世界の物とほとんど変わらず、ダイヤルボタンもあるが、基本的に番号をダイヤルして通信を行うことはない。なのに何故ダイヤルボタンがあるのかは謎。シャドウ曰く『形が携帯だからカッコが付かなかったのでは』とのこと。ターミナルにあるショップで好みの色に配色変更が可能。

★ ★ ★ ★ ★ ★




第12話  クラブマチルダ


 連日の仮想世界での行動で完全に夜型にシフトされてしまっている僕の体は、単位の危うい講義であるにもかかわらず僕の意志に反し『そんなの関係ねぇ!』とばかり活動を停止しようとする。
 基本的にクリアーな脳であっても耳To耳へと直接スルーしていくのだから、ほぼ徹夜に近い状態なら耳に入ることすらしないのはもはや当然といえる。今の僕ならのび太君より先に寝れますよ、きっと。
 そんなこんなでとりあえず講義を乗り切った僕は、月末に提出期限の課題をクリアーするため資料を探しに新宿にある本屋へと向かった。
 今日は月一回の大型サーバメンテナンスがあるためセラフィンゲインはお休み。この数週間ほぼ毎日アクセスしていたのでちょうど良い休みになった。確かに楽しいんだけど連日の平均睡眠時間約3時間つーのはうっすら命削ってる気がして正直怖かったのよマジで。
 電車に乗り込み運良くドア側のはじっこに空席を見付け座ることが出来た。サラリーマンの帰宅時間とは若干ずれているせいと、逆方向ということもあってか、車内は比較的空いていた。
 僕は車窓の流れる町並みをぼうっと眺めながら、昨日のスノーの言葉を思い出していた。

『そう、鬼丸が使徒なのよ……』

 僕にとっては衝撃的だった。未だにちょっと信じられないけど……
 僕らセラフィンゲインのプレイヤーは他のプレイヤーのリアルでの事をほとんど知らない。基本的にリアルでどんな事やってるか、どんな人間なのかなんてあっちじゃ関係ないし興味もない。現実がどうあれ、セラフィンゲインではキャラのパラメータが全て。だからこそすべからく平等なんだよね。だから当然リアルの鬼丸を知らない。
 でも何で雪乃さんは知っていたんだろ? リアルで鬼丸と会った事があるんだろうか……?
 本来プレイヤーのリアルでの事なんてどうでも良いんだけど、何となくスルー出来なくて考えてしまう。セラフィンゲインで出会ったたくさんのプレイヤーの中でも、やはり鬼丸は僕にとって特別だったんだ。
 鬼丸というプレイヤーは一言で言うなら『理想的なプレイヤー』だった。その卓越した戦闘能力もさることながら、冷静な判断力と分析能力。的確なポジション取りと絶妙な攻撃タイミングの取り方。メンバーの能力に応じ有利で高配当なクエストを選択し、仮にその日の稼ぎが意に添わなかったとしても、不利となれば速やかに引きこれをセーブする。そこには奇を衒った作戦や強引な行動は無く、あくまで基本に忠実。
 他のチームが無理をしてあえなく死亡者を出し、または全滅していく中で、鬼丸に率いられた僕たちのチームは安定した経験値を積み上げ確実にレベルアップしていった。
 少し無理かなぁ? って思える事でも鬼丸が『大丈夫』と言えば大丈夫な気がしてくる、鬼丸にはそんな絶対的な安心感と人を惹き付ける不思議な魅力があった。
 きっとリアルでもエリートとしての道を歩んでいたんだろうって思っていたけど、まさか使徒だったなんて…… その鬼丸がなんでプレイヤーとしてフィールドに立っていたのか…… どう考えても理解できない僕は、やっぱり凡人なんだろうなぁ。

 情報量が圧倒的に少ない今、雪乃さんと鬼丸の関係なんてどう考えても判るわけないし鬼丸のリアルでの事なんて知る事は出来ない。もう考えるのやめよう。
 そう思い僕は鞄からipodを取り出した。その時電車が揺れ、コードに引っかかっていたパスケースが落ちた。こぼれた銀色のカードが電車の床を滑り、向かいの席の前に立っていた人の踵を軽くノック。うわっ! 何となく嫌な予感がする。だってさ、その人見るからにヤバそうなティーンズなんですもの……
 踵まで滑ってきたその銀色のカードをその人は拾ってしげしげと見ると、くるりと向きを変えこちらに歩いてくる。
 妙な形のしたシルバーリングを中指と小指にはめた左手をつり革のリングにかけ、右手で僕が落としてしまったカードを差し出す。
「コレ、アぁンタのだろ?」
 鼻と唇に大きさの違うリングピアス。それに喋ったときにチラッと見えたけど舌にもなんか刺さってる。どう考えても邪魔な前髪に対してアンバランスな両サイドの刈り上げと生え際が黒い人造のブロンドヘア。何となく『漏らしてる?』って聞きたくなるような微妙に下げ気味のズボンを引きずりながらその人は俺にそう聞いてきた。
「ああ、あ、ど、どうも……」
 確実に僕の人生では良い事では交わらないであろう人種だけど、とりあえず拾って貰った訳だからお礼は言わないと……
 そうどもりながら一応の礼を言いつつ手を伸ばしたらひょいとカードを引っ込めもう一度僕のカードを見る。
「アぁンタ、プレイヤーなんだ」
 そう言いながら僕の方を見つつにやりと笑う。この銀色のカードは確かにセラフィンゲインのプレイヤーを示すエントリーカードだけど、コレはプレイヤー登録をした者だけしか手に入れる事は出来ない訳で、コレを知っているのは同じプレイヤーだと言う事。つまりこの色毛虫にたいなデーハーな人もプレイヤーつーことなのかな?
「ええ、ま、まあ、い、い、一応……」
 例によって例のごとく、どもりまくりの言語。もうさ、この時点で舐められてしかるべきなんだなぁと痛感。情けないけど……
「実わぁ、俺もプレイヤーな訳よぉ。奇遇だねぇ」
 案の定プレイヤーだった。いったいどの辺りが奇遇なんだか教えてほしいけど……
 とりあえず僕のカードを受け取り一応の礼と感謝の言葉を述べると、気分を良くしたのかその若者は僕の前に立って話をしてきた。話してみるとそんなに危ない人じゃないみたいだ。セラフィンゲインでのクエストの話題やアイテムなんかの話題で意外に盛り上がる。やっぱり、人間見かけじゃ判断出来ないんだね。
「いやぁ〜、勉強になるわぁ〜 俺そこまで考えてなかったわ〜」
 クラスAで割と有名なクエストの攻略ポイントを教えてあげて嬉しそうにうなずく彼。ちょっと鼻が高い僕。実に気分がいい。なんだかん言ってたけど、セラフィンゲインのプレイヤーに悪い人は居ないね。同じ話題なら、こんな真逆なスタイルの人種でもこうして分かり合えるんだよ、ママン。
「ねえぇ、ちょっと耕治ぃ、何やってんのよぉ〜」
 セラフィンゲインの話題で盛り上げってる僕たちに、向かいでさっきまで非常識にも車内で携帯電話で話してたギャルが声を掛けてきた。
 ロリのはいったボンボン付きのドピンクな髪飾り。普通でいればまともな小顔なのに妙にぼかしたチークでウーパールーパーみたいに見える頬。よせばいいのに『これでもかっ!』と引いたアイラインは、まるで3日間の徹麻雀を今さっきあがってきたようなクマを目元に演出していてむしろ不健康そうに感じる。
 制服を着ていなければ『もしかしてピエロのアルバイト?』と聞きたくなる様な女子はどうやらこの彼の彼女のようだった。
「おおう、ワリィなミサミぃ〜」
 そう言って彼女の方を抱き寄せて弁解する彼。あはは、類は友を呼ぶって言うけど、女子も呼ぶみたいだねぇ……
「コイツはミサミィ。俺の彼女なんだ。結構イケてるだろ?」
 やべぇ、どうしよう。ツッコミどころ満載だけど同意求められちゃったよ、あはは……
 この娘のスッピンがどうだか判らないけど、ほぼ毎日最高のビジュアルを持つ美少女2人と一緒にいるわけだから他の女子が色あせてしまうのは仕方ないよね、実際。
 とりあえずリアクションを求められているようだし、何か言っとかないとあとがやばそう……
「け、け、けっこう、ま、マニアックな趣味の彼女だ、だ、だねぇ」
―――――
 嫌な沈黙と冷え切った空気が辺りを支配する。
 やべぇ、やっちまった。つい口が滑った……
―――――が
「ねぇ耕治ぃ〜 この人ぉ、あたしに気があるみぃたあぃ? あたし口説かれてね?」
「えぇ? マジぃ? ミサミはカワユイからなぁ〜」
――――――馬鹿で助かった……
「まあ、此処でこうして知り合ったのも何かの縁。実はちょっと頼みがあるんですよ〜セ・ン・パ・イっ!」
 いやぁ、縁なんて物は1ミクロンも感じないんだけど、センパイなんて呼ばれるとちょっと気分がいい。人から尊敬やら敬愛なんて物からはめっきり遠い僕だけにこそばゆさを感じるわけで…… 良いじゃないの。話だけでも聞いてあげましょ。
「俺もかれこれ半年くらいやっててさ、そこそこチームのレベルも上がってきて稼げるようになってきたんっすよ。でも最近ちっとばかりツキに見放されちまってアクセス料も払えない始末なんっす」
 ああ、わかるなぁ〜、アクセス料高いもんね。大物狩ってレベルアップとリザーブで次回のアクセス料を賄うのが基本なんだけどバランスが悩み所なんだよな。
「俺、こんなんだし、バイトもクビになっちまってセラフィンゲインで生計立ててる様なもんなんっす。まあ、何つーの? 俺にとっちゃ死活問題ぃ?」
 えっと……働けば良いんではないかと……
 つーかセラフィンゲインで生計立てるつープランが根本的に間違っている気がするのですが……
「そこでだ、アぁンタにカンパを頼みたいつー訳よ」
 ――――へっ? なんで?
「こうしてうち解けてフレンドになっちゃったわけだし、かわいそうな後輩を救ってくださいよ〜 セ、ン、パ、イっ!」
 最後に微妙な怒気を込めて顔を近づける彼。
 ははは、コレってひょっとして……カツアゲ?
 気が付くと彼の横にはさっきの彼女の他に、いつの間にか似たような若者が2人、両脇を固めている。いずれも頭はともかく体力と腕力は有り余ってそうなお兄さん達……
「な、な、なんで、ぼ、ぼくが……」
「何この人ぉ〜 超どもってるんだけどぉ〜 ウケルぅ」
 そう言ってケラケラ笑うピエロッ娘。ううっ、此処でも天然ラップ機能発動かよ。お前だってマリア見たらひっくり返るぞ、きっと!
「だって、アンタ傭兵だろ?」
 この言葉に、僕は一瞬息が止まった。僕が傭兵だって知っているのか?
「前にさ、俺ネストに行ったときアンタ見た事あんだよ。真っ黒な服にくそ長い太刀ぶら下げててさぁ。変な眼鏡掛けてっけど間違いねぇ。アンタ傭兵だ。それもとびきり腕が立つな……」
 知ってて声を掛けたって訳か…… ただ単にアホなだけでは無いみたい。自分で言うのも何だけど僕はリアルとのギャップが激しい。普通はリアルで会っても僕がシャドウなんて気が付かないだろうと思っていた。気が付く人なんて身体的理由で耳のいい雪乃さんぐらいなもんかと思っていたけど……
「アンタは傭兵だ。いっつも弱小チームに足下見て法外な報酬をふっかけてはウマイ汁吸ってんだろ? アコギな商売してんだからさぁ、俺達にカンパしたってバチあたらねぇだろう?」
 誤解も良いトコだ。僕は自分の能力以上の報酬を要求した事はない。お前達こそアコギだろうがっ! こんな半端な連中がセラフィンゲインで食っていけるレベルであるわけが無い。カツアゲで食っているって言った方が正しい表現だろっ!
―――――安綱が欲しいぃっ!!!
 今痛切にそう思う。安綱があれば、こんな連中5秒で戦闘不能にできるのにっ!!
 仮想世界で半ば無敵の強さを誇る魔法剣士でも、現実は三流大学に通うヲタクダメ大学生。相手は知能は別にして、体力と腕力は有り余ってる10代の血気盛んなストリートヤンキー。人数は4倍だが近接戦闘能力比はこちらのざっと6〜7倍。いや、ひょっとしたらそれ以上かも……
 おまけにフィールドはエスケープ不能の電車内。立ってる相手に対して座っている僕は地形効果の補正もない。やっぱり僕ってリアルじゃこういうキャラなんだよね……
「黙ってケツのポケットの物出したら痛い目だけは見ないで済むよぉ」
 そう言って左手を僕の前に差し出す彼。両脇を固める手下1と2は、あの独特な上下目線を繰り返し、時折「ああぁ?」だの「っんだコラぁ?」と言った意味不明な言葉を連呼しながら僕を威嚇する。
 とりあえず目を見るのはよそう。こういう人たちは何故か目を見られるのをやたらと嫌う習性がある。
「ねぇ、早くしてよぉ〜 あたし達これからカラオケ行くんだからさぁ〜」
 そう言ってにっこり笑う隣の女子。よく見ると所々歯が溶けてるんですけど……
 絶体絶命。半ば諦め掛けて手を尻に回したとたん、上の方から別の声が掛かる。
「あれ? カゲチカ、何やってんの?」
 ガタガタとうるさい電車内でも良く通る美声。普段は耳を貸してはいけない悪魔の囁きにしか聞こえないその声も、今は天使の歌声に聞こえるのは何故だろう。
 視線を上げると、確認するまでもなく『神の美貌』がそこにあった。
 ビジュアル系悪魔、マリア様降臨ですぅぅぅ!
 「ああっ!?……」と声を荒げて振り返るイカレ兄ちゃん達も、一瞬みとれて言葉を失う。そりゃそうだ。マリアの美貌はちょっと突き抜けてるからね。
「なに、あんたら。あたしの連れになんか用?」
 瞬時に場の険悪な異様ムードを察知して好戦的に言葉を吐くマリア。さすが格闘悪魔、こういうノリにはいち早く反応する。極めて頼もしい反面、情けないなぁ、僕。
「なんだぁ? てめぇは」
 一瞬登場したマリアにみとれていた中央の人造ブロンド兄ちゃんがマリアを睨む。が、しかし、マリアの後方から影のように覆い被さる人物が居た。
「なぁに? あら、もしかしてシャドウ?」
 完全に女性の服なのに全くそう見えない体躯と顔。確実に緑色の将校服の方が似合いすぎるほど似合うだろう思われるその人物は、リアルでも確実にその存在感を周囲に知らしめていた。いや、むしろリアルの方が強烈!
 唖然とした顔で固まる3人+女子1人。マリアを見た後のこの精神的衝撃は計り知れないね、きっと。
 その後ろからぬぅっと現れた紫色の法衣を羽織ったお坊さん。そしてスーツを着た小柄な男。
 マチルダにサモンにリッパー。いやしかしサンちゃんってばホントお坊さんなのね。
 いや、あっちでも濃いメンバーだけど、リアルでも濃いね。ドンちゃんなんてほとんど変わらないじゃん、まじで。むしろリアルじゃ会いたくなかったけど、この状況に至ってはこれほど頼もしい知人たちは居ない。
「あら〜坊や達。あたしの友人に何かご用かしら」
 そう言って4人に近づくマチルダ。秘孔でも付きそうな勢いで指をボキボキと鳴らしながら、泣きたくなるような異様な笑顔で近づく巨漢のオカマなんて他人事だけど怖いですまじで。4人は蜘蛛の子散らす用に血相変えて飛び退き、電車が駅についてドアが開くやいなや、転がるようにホームに転がり出るとそそくさと階段を駆け上がって消えてしまったのだった。
 少しだけ彼らに同情する。こんな連中に囲まれたら、僕ならきっとその場で気絶します。
「アンタさぁ、一応成人なんだからあんなガキにカツアゲされてどーすんのよ。ったく、ほんとシャドウの時とは真逆なんだから……」
 ごもっともです。でもマリア、君ほど好戦的にならなくても大抵の事態は解決するのではないかと……
「み、み、皆さ、さん、ど、どうして?」
 この4人がセラフィンゲインでならともかく、リアルで一緒にいるのかが不思議でならない。僕抜きでOFF会ですか?
「あたしのお店が明日新装でね。リッパーとサモンは常連だったから1日前だけど開店祝いに招待したの。ララちゃんは偶然電車でバッタリ。ララちゃんはあの美貌でしょ? すぐに判ったわ」
 偶然って、マジかよ。そんでもってその電車に僕も偶然乗っていたって訳ですか? そんな都合のいい偶然ってホントにあるのだろうか。だいたいマリア、お前今日バイトじゃなかったっけ?
「ドンちゃんの話聞いたら、なぁんか楽しそうだからあたしも行く事にしたのよ。バイトはさぼり!」
 オイオイ、お前目当ての客も多いのに大丈夫なのか? つっても指名率高いからクビにはならないだろう。美形って得だよなぁ。
「それにしても、ほんとシャドウってあっちとリアルじゃ大違いなんだね。あの『漆黒のシャドウ』がこんなカワイイ学生だったなんて驚きだわ」
 そう言って肩をバンッと叩いて笑う2丁目ドズル。あのスイマセン、あなたにカワイイって言われるのは非常に微妙なのですが……
「ねぇ、アンタも行かない? 『クラブマチルダ』雪乃居ないけど『リアルラグナロク』パーティーよ」
 ははは、やっぱりね、そう言うノリだったもんね。でもさ、確かドンちゃんの店ってニューハーフバーだったよね。ヤンチャな若人から助けて貰ったのはありがたいんですけど、正直○ノフスキー粒子大量散布の最大戦速で逃げ出したい気分です……
 そんな僕の気持ちは完全に黙殺され、つーか僕の意志とか合意とかはいっさい考慮に入れないマリアに半ば連行されるように、僕は新宿2丁目つーアメージングゾーンにあるというドンちゃんの店に行ったのだった。  

☆  ☆  ☆

 つー訳で新宿2丁目の『クラブマチルダ』に到着。
 課題用の本を探しに行かなくては、と一応の抗議をしたのだが
「あたしもまだだから大丈夫。アンタがあたしより先に課題出すなんて千年早いわ」
 つーマリアの意味不明なジャイアン論法で強制延期となりました。課題出すにもお前に合わさなきゃならんのか、僕は。
「さあ、みんな入って」
 そう言ってドンちゃんはドアを開けて店にみんなを招き入れた。店内は予想に反してわりかしまともな内装だった。新装したてって事もあってすげー綺麗だし。
 僕たちが中にはいると、カウンターに集まっていた女性? 達がこっちを向いた。
「ママ、遅い〜っ!」
 口をそろえて抗議するホステスさん達。いやホスト? この場合どっちだ? 
「あら、リッちゃん、来てくれたのね〜 サンちゃんもおひさしぶり〜」
 微妙な声音で近づいてくる3人のホステス……? もういいやホステスさんで。声を聞くと確かに男性っぽいんだけど外見は女性そのもの。顔もドンちゃんがドズルなだけに想像が飛躍してたけど、普通に女性に見える人ばかり。最近のニューハーフ業界は凄いなぁ。
「あら、ママの知り合い?」
 一番手前の金髪の人が、僕とマリアを見てそうドンちゃんに聞いた。
「そうそう、大切なお友達なの。だから招待しちゃった」
「ママのお友達なら大歓迎よ〜っ、今日はサービスだから楽しんでって。でも、今度はお客さんで来てねっ」
 そう言って僕にウインクする金髪美人。ホントに女の人じゃないんですか?
「あら〜 こっちの彼女すっごい美人じゃない!?」
 続いてマリアを見て奇妙な声音のトーンが上がる。確かに天然物じゃ希に見る美貌の持ち主だからね、中身悪魔だけど。
「マリアです。お言葉に甘えて来ちゃいました」
 そう言って頭を下げるマリア。何か楽しそう。マリアってばこういう時ってホント可愛いんだけどなぁ。普段極悪なのに。
 ワイのワイのと店の中央にあるテーブルに案内される僕たち。
「じゃあちょっと着替えてくるわね〜」
 と言って店の奥に消えるドンちゃんと他三名のホステスさん。どうやら店の衣装に着替えて出てくるみたい。
「結構面白そうなお店じゃない。改装したばっかで綺麗なのもあるけど」
 マリアが店内を見回してそう感想を述べる。うん、確かに想像してたよりまともな店みたい。ドンちゃんがアレなだけに、08のサ○ダース軍曹みたいな人や、ラン○・ラルみたいな人が女装して出てくるんじゃないかってビクビクしてたよ、実際。
「2人とも良く来るの?」
 マリアは向かいの席に座ったサンちゃんとリッパーにそう声を掛けた。
「ああ、俺はたまにだけどね。サモンはこの店に来る客や、さっきの連中相手に説法説いたりしてるんだ。コレが結構評判でさ」
 そのリッパーの言葉に苦笑いをするサモン。
「いやぁ、私はただ単に話を聞いてあげるだけですよ。まあ、修行で知り得た知識なんかを混ぜてアドバイス的な事はしますが……」
「へぇ〜」
 マリアがそう言ってサモンを見ると照れくさそうに坊主頭を撫でる。リアルじゃ普通に喋るんだね、この人。僕とは逆な訳か。ちょっと羨ましい。
「で、でも、な、な、な、んでハンドルネ、ネ−ムなんですか?」
 僕の問いに妙な顔をするリッパー。
「なんだお前、そのしゃべり方は?」
「ああ、彼ね、リアルじゃ極度などもり症なのよ。緊張したり女の子の前だったりすると旨く喋れないの。だから言ったでしょ、シャドウとは真逆だって」
 と、マリアの補足説明が入る。いいから、余計な事言わなくて。
「マジかよ? ネストじゃ最強っていわれる傭兵『漆黒のシャドウ』がこんなしょぼい学生ってのだけでも驚きなのに、緊張すると旨く喋れない奴だったなんて、ははっ! こりゃ傑作だ」
 だからリアルで顔合わせるの嫌なんだよな。くそ〜、アンタだってリアルじゃ猟奇犯罪者の一歩手前じゃないかっ!
「いやなに、俺達知り合ったのはあっちだったから、そのままリアルでも自然にハンドルで呼ぶようになっただけさ。あっちでリアルネームを呼ぶのはタブーだけど、こっちでハンドル使っても変じゃねぇだろ。あだ名みたいなもんだし」
 そんな話をしていたら、奥から着替え終わったドンちゃん達が出てきた。
「お待たせ〜っ!」
 その声を聞き振り向いた僕は度肝を抜かれた。
 パッつんパッつんの連邦軍の女性士官のコスプレを纏ったフランケン……じゃなかった、傷のないドズル中将がそこにいたからだ。巨体にはち切れんばかりの衣装が、どことなく悪党を前にしたケン○ロウを彷彿とさせるんだけど……
 何の悪夢だ、コレ。絶対衣装間違えてるよ……普通の感覚の持ち主だったらまず間違いなくドン引きだって。
 さらに続いてさっきの金髪美女と他2名も、同じく連邦軍の女性制服を着ている。
 まさか……
「セイラで〜すっ!」
「ミライで〜すっ!」
「フラウで〜すっ!」
 あはは、やった、やっちまったよ……
「どう? うちの看板『木馬ガールズ』よ」
 アホかっ! オカマコスプレバーだったのか、ここ……
「ねえねえ、アンタもこっちにきなさいよ〜」
 そうセイラさんが店の奥のテーブルに声を掛ける。えっ!? 僕ら以外に店に誰か居たの? ふと見ると奥のテーブルに誰か座っている。怖い、全く気配を感じなかったよ。
 するとその人が立ち上がってこっちに来た。恐らくカツラだろうグリーンのロングヘヤーを両肩口で結い、妙な衣装とマントを羽織って口元はヴェールで覆っていて顔がよく見えない。何か微妙に薄気味悪いんですけど……
「彼女はララァちゃん。占いが趣味なの。彼女の占い良く当たるのよ〜」
 ララァってオイ……
「う、う、占い?」
「ああっ、時が見えるっ……」
 いや、見なくて良いです…… 時とか見る前に今の自分を見つめ直そうよ。
 するとララァさんは僕の隣に無理矢理座ると袖から水晶玉を取り出して僕を見つめる。
「綺麗な目をしているのね……」
 連日平均睡眠時間3時間で睡魔に毒された目が綺麗なわけあるかっ!
 つーかその台詞、男の声で言われても怖いだけです。
 あのね、あっちはニュータイプ。でもってアンタはニューハーフ。言葉似てるけど全然別物ですから。
 ただ皆さんそこそこ綺麗なので、変な道に迷い込みそうな悪寒がするが、僕の場合マリアを見慣れてしまっているせいか、かろうじて変な方向に行かなくて済みそう。あいつの美貌が免疫になっているのか。
「とりあえず何か飲み物作ろうか」
 とセイラさん。ふと目に入るお品書きを手に取りメニューを確認。店の名前や皆さんの源氏名同様、あっち系の名前の付いた意味不明な品物が並んでる。あのさぁ、この『マ・クベの壺焼き』ってどんな料理なんだ?
 こうして、『クラブマチルダ』新装開店祝い兼、チーム『ラグナロク』オフ会は微妙なノリと異様な雰囲気の中進んでいった。
 また明日も寝不足になりそうだ……


第13話 伝説の剣士


 奇妙なノリと異様な雰囲気、それにこの濃すぎるメンバーで『クラブマチルダ』新装開店&『ラグナロク』オフ会はリーダー不在のまま進行していった。オカマさん達ならではの面白い話や、ドンちゃんのカラオケ十八番らしい、エンドレス『哀戦士』なんかをBGMに盛り上がっていた。オカマさん達ってもっと怖いのかと思っていたけど、みなさん気さくで楽しい。いや〜僕も久しぶりに楽しい時間を過ごしてます。こんな楽しいならお客としてきても良いかもね。
 そんなこんなで騒いでいたのだが、さすがに4時間ほどぶっ通しで騒いでいたので少々疲れが出てきたようで酒のペースが落ちてきた。
「マリアちゃん、お酒強いわね〜」
 と、ドンちゃんが感心したように言う。そうなのだ。マリアはさっきからまるで水のようにウイスキーをロックで飲んでいるのだが、顔色、行動、しゃべり方など全く変化がないのである。若干ナチュラルハイかなぁ〜って感じもするが、ほとんど変わらない。悪魔って人間の飲む酒は効かないのだろうか?
「ああ、あたし横須賀のベースで12の頃からバーボン煽ってたから。それで強くなったんじゃないかな?」
 海外じゃどうか知らんけど、日本じゃそれ犯罪だから……
「今じゃパパより強いかもっ」
 オイオイ、マリアの親父さんって突撃隊だろ……現役の兵隊さんより酒の強い女子大生ってどうなのよ、実際。
「しかし、ララはリアルでもそれほど変わらないのに、シャドウはホント別人だな」
「よ、よ、よけいな、な、お、お世話です、す」
 僕の返答にまた笑うリッパー。身体的な事を話題にするんじゃない。
「それはそうと、この前のスノーの天パリ具合凄かったわね」
 ひとしきりカラオケを歌ってすっきりしたドンちゃんが、テーブルにあった水割りを一気に飲み干してそう言った。あの、それビールじゃないからさ……
「ああ、私も彼女のあんな姿を初めて見る。あの常に冷静な彼女があれほど動揺するとはな」
 サモンさんもホントあっちとは別人のように喋るのね。同じ言語系に変化が見られるところに親近感が沸くんだけど、社会的、世間的にはサモンさんの方がまともですね。哀しいけど……
「俺もだよ。あんなスノーは初めてだ。リアルじゃどうか知らんが、あっちじゃスノーはクールで有名だからな……」
 リッパーの言葉にドンちゃんとサモンさんも頷いてる。確かに言葉使いといい、ギノクラブを瞬間冷凍する辺りといい、クールと言うより寒怖いんですけど。
「へ〜、そうなんだ。リアルじゃちょっと天然入ってるっぽいキャラなんだけどねぇ……」
「えっ!?」
 マリアの言葉に3人がびっくりしたように反応する。なんだ?
「って、マリアちゃん、リアルでスノーに会った事あんの!?」
 へっ? なんだそれ?
「会った事あるもなにも……だってあたし、リアルで誘われたんだもの。あたし達と同じ大学の同級生よ。あれ? みんな会った事ないの?」
 オイマリア、誘われたのは僕っ! 横からクビ突っ込んで問答無用で無理矢理はいったんだろっ! お前はっ!
「無い。つーかあの端末でリアルスノーに会った事ある奴なんて居るのかな?」
 とリッパー。ええ? ちょっと待って。いくらなんでもそれはないでしょう?
「スノーってほら、超高レベルな女魔導士じゃない。それにあの顔でしょ? 結構コアなファンが居るのよ。それでどうしてもリアルで会いたいなんて思う連中も多いんだけど、まだ誰もリアルでスノーに会った事がないの。結構有名な話よコレ」
 知らない。初耳だ。まあ、僕たち傭兵はその手の話はあまり伝わってこないのも事実なんだけどね。でもさぁ……
「でもさ、ウサギの巣のロビーで待ってれば良いんじゃない? ほらスノー美人だし、すぐ見付かるっしょ」
 そう、マリアの言うとおり。確かに僕みたいにギャップが激しい奴でも、今日みたいに判るんだから。ただ、カツアゲのターゲットにされるのは勘弁して欲しいけどね。
「確かにララの言うとおりの事をやった奴も多い。だけど成果はゼロ。それらしい女は見付からなかったそうだぜ」
「ふぅ〜ん、でも変ね……あの顔で、しかも目が見えないんだもん、誰かに付き添って貰わないと無理な気がするんだけど……」
 そうそう、雪乃さん目が見えないんだよ、絶対目立つと僕も思う。
「目が見えないっ!? マジで?」
 マリアの言葉にまたしても驚く3人。あっ、そうか。セラフィンゲインでは目が見えるからなぁ。知らないのも無理ないかも。
「そうよ。彼女盲目なの。なんだ、みんな知らなかったんだ」
「知らなかったわ……」
 ドンちゃんがぽつりと呟いた。
「でもそうするとララの言うとおり、確かに変だ。目の見えない女なんて一発で判りそうなもんだ。なのに誰も端末で見かけた事がないなんて……」
 ロビーで見かけた事がないって言うのは絶対変だ。セラフィンゲインはウサギの巣からしかアクセスできないはずだ。別の場所の端末からアクセスした場合、別サーバでのクエスト参加として表示が異なるハズ。だけどスノーの表示はあの端末からの物だった。ひょっとして凄い『変装名人』なのか?
「確かに『目が見えない』ってんじゃあの美貌だ。変な事を考える連中もいるだろうからその辺りを気遣って変装するって事も考えられるけどなぁ……」
 リッパーがそう言ってグラスを煽った。まあ、リッパーの言う事も一理あるかな。でも雪乃さんの身体的な傷害を考えると、こうまで完璧に隠蔽するのは不可能だと思うんだよ。
「謎の多い女性ですからね、スノーは」
 そう言うサモンさん。あっちじゃスノーの傍らに無言で控える従順な『副官』みたいな立ち位置の彼も雪乃さんのプライベートには興味ありそうだ。
「オッケー! 今度リアルで会ったら聞いてみるわ」
 そうかる〜く締めくくるマリア。ホントか? 何となくそれって『聞いちゃヤバイ』系の質問ぽいんだけど……
「ところでさぁ、カゲチカ。この前スノーが言ってた『鬼丸』ってどんな奴なの?」
「おっ、そうだ。それそれ。『使徒』だったって奴だろ? 俺も聞いてみたい」
 マリアの言葉にそう食いつくリッパー。いきなり振らないでほしい。ウーロン茶こぼしちゃったじゃないか。
「なな、な、んだ、き、急に……」
「あたしも聞きたいわ。当時『最強』って呼ばれたプレイヤーでしょ? 会った事はないけど結構有名だったのよね」
「私も聞いた事がある。彼個人の強さの他に、彼に率いられたチームは安定したレベルアップを約束されると……まさにカリスマアルファだ」
 そう言って迫るドズル顔のオカマ&お寺の和尚さん。こ、怖いってマジで。
「い、い、いや、ぼ、ぼ、ぼくは……」
 異様なプレッシャーで言語障害がピークに達する。マチルダさんっ! 近いっ! 顔近いって!!
「ああ、もうっ、まどろっこしいわね……あっそうだ。ねぇ、鬼丸って奴の事、聞かせてよ『シャドウ』?」

――――カチリ

 マリアの言葉を聞いたとたん、僕の頭の中でスイッチが入った。
「俺は昔の話はしない主義なんだ……」
 そう言って『俺』は眼鏡を外した。『漆黒のシャドウ』に眼鏡は似合わないだろ。
「あれ? どうしちまったんだ? コイツ」
 不思議そうに俺をのぞき込む3人。だから近いって!顔っ! 眼鏡を外したせいで輪郭がぼやけるが、逆にそれの方が良い。
「上手くいったわね。彼、シャドウって呼ばれると現実側でもあっちのキャラを演じちゃう性質があるのよ。コレでまともにじゃべれるハズだわ」
「か、変わってるわね……」
 まったく、ララの奴、人を珍獣みたいに……
「なあシャドウ、鬼丸ってどんな奴なんだ? スノーとはどういう関係なんだ?」
「スノーと奴の間に何があるのかなんて俺は知らん。こっちが聞きたいぐらいだからな……」
 そう言って俺はテーブルのグラスを口に運ぶと一口飲んだ。あれ? コレウーロン茶じゃねぇじゃん? やべえ、これウイスキーだった。あっちじゃビネオワ食らっても全然平気なのに、現実の酒は抵抗値ゼロ。頭がポワーンとしてきた。
「じゃあさ、アンタとその鬼丸ってどんな関係なのよ? そんなぶっきらぼうに言わないで話してよ、シャドウ〜」
 そうララが聞いてくる。別にお前に関係ないだろう? 
 ―――が、しかし……なんだ……別段隠す必要もないか……
「……別にこれといって面白い話ではないぞ……」
 何で話す気になったのか俺自身よく分からない。たぶん、それほど酒が回っていたのかもしれない。
「鬼丸は俺が以前居たチームのリーダーだったんだ……」
 ぼやけた視界に見えるグラスの氷が溶けるように俺の記憶も溶けかけ、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。

『何言ってんだよシャドウ。仲間だろ? 俺達……』  
 極上の笑顔でその男は俺を『仲間』と呼んだ……

☆  ☆  ☆

「シャドウっ――!!」
 名前を叫ばれ、反射的に右腕をガードしたが間に合わず全身がバラバラになりそうな衝撃とともに吹っ飛ばされる。瞬間的に立てた太刀の刃は、激突の衝撃で木っ端みじんに砕け散った。
「ウグゥッ!」
 受け身も取れずに山肌に叩き付けられ、背骨の軋む痛みと、恐らく折れたであろう肋骨の激痛で思わずうめき声が出た。痛みも忠実に再現されるこのシステムの完成度の高さに、このときばかりはつばを吐きたくなるよ。
 動けない俺に、尚も追撃すべく鎌首をもたげる『雷帝』アントニギルス。縄張りを荒らされた事への報復と、豪奢な右角を折られた事への怒りで殺す気満々で俺を睨む。こりゃ、ダメっぽいなぁ……
 とどめの一撃とばかりに、雷帝と呼ばれる古龍はその息吹を吹きかけるべく大きく息を吸い込む。デッドを覚悟して目をつむった瞬間。誰かに胸ぐらを捕まれ投げ飛ばされる。続いて肺まで焦がしそうな熱風と、再び地面に背中を打ち付けた衝撃で思わずむせ返る。
 うっすらと目を開けると、木々達が炎で一掃され辺り一面焼けこげた大地が露出し、目の前に首を切られて絶命したアントニギルスの胴体が横たわっていた。
 体中が痛くて、痛みの無いところを探す方が難しい。生きているのが不思議なくらいのダメージだったが、激痛に耐えながら何とか状態を起こそうともがくが上手くいかず、崩れ落ちるように仰向けに倒れた。装備していた太刀を杖代わりにと思ったが、先ほどの一撃で折れたのを思い出しため息をつく。
 命数が尽き掛けていたのにもかかわらず、ケチって修復処置を行わないまま装備していた自分の迂闊を呪い舌打ちする。
「だから出発前に装備を点検しろって言ったんだよ……」
 ひっくり返った俺の足下からそう声が掛かった。視線を移すと目の前に手がさしのべられた。
「立てるか?」
 血糊で真っ赤に染まった皮のグローブに包まれた右手を差し出しながら、その男はそう俺に聞いた。見ると彼の左腕の肩から下が無かった。
「お前を放り投げたときな、少しばかり間抜けな避け方をして奴のブレスに持ってかれた。俺の左腕一本、大きな貸しだぜ?」 
 泥と血をこびりつかせた頬を歪ませながら、その男は極上の笑顔で俺に言った。
「何でそこまでして……」
 俺のその言葉に、その男は困った顔をしてため息をつく。
「ウチの交戦規定を忘れたのか? 全員で戦い、全員で帰還する。お前が欠けるとコレに反するだろう?」
「だからって……あの場合、アンタなら無傷でしとめられただろう……俺にかまわず攻撃するべきだった……」
 そう言う俺に、その男はまた困ったような顔をする。
「何言ってんだよシャドウ、仲間だろ? 俺達」
 そう言って俺の左腕を掴み引き上げる。ヨロヨロと立ち上がる俺の腕を自分の肩に回すと、「よっ」と声を掛けて歩き出す。失った左腕の痛みなど微塵も感じさせない確かな足取りだった。
 仲間。
 此処のみならず、現実世界でさえ言われた事のない言葉。リアルで知り合い以上友達未満つーくらいの人間関係しか居ない俺にとって、その言葉は正直こそばゆかった。
「鬼丸……」
「とりあえずマトゥに回復して貰おう。まだケアの1,2回ぐらいは掛けられるはずだ。それから帰還だ。今回はみんな結構やられたから帰還も危ないけどな」
 俺のそんな呟きを無視して鬼丸はそう言った。
「そうだな……アンタ左手ねぇし……」
 何か言わなければと思い口を開くが、口をついて出たのは思っていた事とは別の言葉だった。
「はぁ? 装備無いよりマシだろ、実際」
 呆れたように言う鬼丸の顔は、何故か笑っていた。
 左腕を失って激痛を我慢しているのは額ににじむ脂汗でよく分かる。なのになんでそんな顔が出来るんだ? アンタ……

☆  ☆  ☆

「格好いい男ね〜 惚れちゃいそう」
 俺の語る鬼丸にそう感想を漏らすマチルダ。よく『男気に惚れる』つーのはあるが、きっと違うよな、あなたの場合……
「腕一本と引き替えにチームメンバーを助けようなんて普通しねぇよな。それにしても雷帝を一振りで狩るつーのはどういう手品だよ、マジで」
 とリッパーが感嘆の声を漏らす。
「当時鬼丸のレベルは40を超えており、ソロでやっても確実にそれなりの成果を揚げて帰還できたはずだ。なのに何故かあいつはチームに拘った」
 そう、俺だけじゃない。当時あのチームにいたメンバー全員にあいつはそうだったんだ。「鬼丸の強さは剣技だけじゃない。魔法攻撃も高レベルな魔導士と遜色がなかった。なにせ魔法剣士であるにもかかわらず、制限付きだが『メテオバースト』を行使できるたのだからな」
「そりゃすげぇ。この前スノーが使った奴だよな、たしか……」
 リッパーの言葉とともに息を飲む一同。先日のクエストで雷帝アントニギルスを消し炭にした威力が脳裏をよぎる。
「魔法剣士である俺が言うのもなんだが、アレを行使できる魔法剣士なんて、後にも先にも鬼丸ぐらいなものだろう」
 魔法剣士は一種の万能キャラである。前衛攻撃を前提とし、『回復魔法の効果にやや見劣りするビショップ』であり、『制限付きで若干威力の弱い攻撃魔法を扱う魔法使い』が魔法剣士である。今揚げた職業の特性を少しずつ掻い摘んで成長していくだけあって成長率はすこぶる悪いが、高レベルになればなるほどソロで行動しやすいキャラクターだ。
 俺が早いウチから傭兵としてやっていけたのもこの職業のおかげと言っても良いだろう。傭兵はアクセス料以外は装備から回復に至るまで、基本的に一切を自前で考えなければならない。自前でとなると魔法剣士は実に勝手が良い。ましてや撤退戦では当然殿を努めなければならず、そう言った場合でも一人で回復魔法を行使できる分、生還する確率は高くなる。ちなみに俺がリーチと攻撃範囲にアドバンテージを持ち、しかも攻撃の繋ぎ方次第で連続攻撃が可能な太刀を主要装備に選んでいるのもそう言った意味合いも含んでいるわけだ。
 確かに万能ではあるが、およそ本職であるビショップや魔導士には及ばないハズなのだが、鬼丸の魔法攻撃は魔法剣士のそれを遙かに超えていたのだ。
「だが、鬼丸は個人戦闘力が高いだけでは無い。分析力、チームの統制力、それに伴った判断力も高くリーダーとしての資質をも兼ね備えた、まさにパーフェクトプレイヤーだった。現に鬼丸に率いられた俺達のチームは見る見るレベルが上がり、わずか2ヶ月でメンバー全員が20オーバーになった」
 天才。まさにその言葉がぴったりな男だった。俺達も鬼丸の期待に頑張って応えていたと思う。俺を含めたメンバー全員が彼の信仰者であり、彼の言を信じて疑わなかった。鬼丸が退けと言えばどんなに有利な状況でも退き、一見不可能と思える場合でも、鬼丸が出来ると言えば出来るんだろうと思った。実際そうだった。
「無能なリーダーに率いられて連日数人の死亡者を出して帰還する他のチームを後目に、俺達『ヨルムンガムド』は全員帰還という困難な課題を幾度もクリアーして強力なチームへと成長していったんだ……」
 俺はそこで言葉をいったん切り、テーブルのグラスを取って再び中身を口に含む。またウイスキーだったがもうどうでも良かった。
「噂通り、凄い奴だったのね。鬼丸って……」
 そうドンちゃんがぽつりと呟いた。どうでもいいけど目が恋する乙女のそれになってるんですけど……
「でもさ、そんな凄いチームにいたシャドウがどうして傭兵なんかになったのよ。その鬼丸ってのと喧嘩でもして抜けちゃったの?」
 とララがまっとうな質問をよこした。いや、お前じゃないから……
 喧嘩か……それならまだ修復の余地が有ったのかもしれない。あれ以来鬼丸とは会っていない。今どこで何をしているのかも判らない。リアルは知らないし、セラフィンゲインでも鬼丸の姿を見かけた事はない。もうとっくに引退したのかもしれない。伝説とまで言われた最強の魔法剣士は忽然とその姿を消したのだ。
「端末のランキングで毎週1位を獲得し、最強とまで言われた俺達は満を持して、あの難攻不落のクエスト『聖櫃』に挑んだ。鬼丸もクリアーを望んでいたし、メンバー全員がクリアー出来るのは自分達だと信じて疑わなかった。そうして意気揚々と挑んだ『聖櫃』で、あの事件が起こった……」
 俺の脳裏にあの時の記憶がゆっくりと蘇ってくる。忘れようとしている記憶ほど鮮烈に残って仕舞うのは何故だろう。思い出したくもないものほど、よりはっきりと……
 

第14話  鬼丸


 クエストNo.66『聖櫃』への挑戦は苛烈を極めた。山道での戦闘は大した物ではなかったが、『聖櫃』へと続く通路でのセラフの攻撃は凄まじかった。まさに過剰殺傷【オーバーキル】と言った設定だ。
 チーム全体のレベルが上がり、端末でのランキングも上位の常連となり『俺達は最強だ』などという自惚れのような物も芽生え始めていた俺達の自負心は一切合切吹き飛ばされた。絶え間ないボスクラスの攻撃。狭い通路というフィールドでのポジション取り。限定されてしまう退路への不安。それら全てがマイナスの思考へと導く材料になり、俺達は疲弊していった。ただ一人を覗いて……
「サムがやられて前衛戦力が落ちた。マトゥの魔法力も残り少ない。レイスの魔法はまだ余裕有るが、此処じゃ大きな魔法は使えない……」
 このクエスト3匹目の大型のボス級セラフである『グルダ・シャンク』という古龍種を狩り終えたところで前衛戦士のリオンがそう漏らした。ハアハアと肩で息をしているのは、戦闘直後だからと言うだけではないだろう。
「なあ鬼丸、リセット『撤退』しよう。これ以上は無理だ……」
 そのリオンの言葉につかの間の沈黙が辺りを支配する。彼の後ろにいるビショップ【僧侶】のマトゥ、ウイザード【魔導士】のレイス、それにガンナー【砲撃手】のライデンも口には出さないがリオンと同意見なのは顔を見れば明らかだった。
 かく言う俺も客観的に見て、現状ではリセット『撤退』も致し方ないと考えていた。現実ランサー【槍使い】のサムがデッドし直接的攻撃力が低下している。加えて度重なる大型セラフの挟撃で回復に裂ける魔法力も残り少ない。もう一度今のような大型セラフの攻撃を受けたら全滅しかねない状況だった。
「レイスが得意な『爆炎系』の魔法も、こう狭い通路じゃこっちまでダメージ食らうから使えない。アンタの『メテオ・バースト』も同様だ」
 リオンの意見はもっともだった。派手で強力なダメージをもたらす『爆炎系』と呼ばれる魔法は此処のような狭い通路で使用すると、味方にまでダメージを与えかねない。こういった場所では『雷撃系』か若しくは『冷却系』の魔法が適しているのだが、レイスは主に『爆炎系』を好んで使っており、『冷却系』は使用頻度が少なく熟練度は最低レベルだった。
 セラフィンゲインでのスキルは基本的に使えば上昇する『熟練』システムだ。コレは武器だけではなく魔法にも当てはまる。使えば使うほど威力が上がっていくが、反対に使わないと、いくらキャラクターレベルが上がってもその武器、魔法は最低レベルにとどまる事になる。
 まんべんなく使用して全体的にスキルを上昇させるのが理想的なのだが、全ての武器、魔法を『達人級』とは行かないまでも『上級』レベルまで引き上げるのには膨大な時間がかかる。そのためどうしても『偏った』上昇、若しくはそれに『特化』したキャラにならざる終えない。現実世界でも『一流の野球選手』が同時に『一流のサッカー選手』になる事は出来ないのと同じで、極めて現実的な上昇システムなわけだ。
 いつもの鬼丸なら、こんな状況には至らないだろう。サムが危険になる前に退却しているはずだ。しかし、今日の鬼丸はいつもとは違っていた。攻撃も力押しが多く無理をしていると言う場面が多く感じられる。そう、どこか『焦り』の様な物があった。
「あと少し……もう1ブロック先に『聖櫃』がある……」
 鬼丸はそう呟きながら一同を見回した。その顔には明らかな失望が浮かんでいる。
「シャドウ……お前も同じ意見なのか?」
 振り返り俺のそう声を掛ける。何かにすがるような、この屈強な戦士にはおよそ似つかわしくない目をしていた。俺は彼のこんなまなざしを見るのは初めてだった。いや、見たくはなかったと言う方が正しかった。
「俺は……アンタの決定に従う」
 俺はそう言って目をそらした。状況を客観的に見て、此処で前進するのは無茶だと言う事は俺も感じている。恐らく鬼丸もそんな事は判っていただろう。あの鬼丸の事だ、判らないはずがない。
 だが、どんなに冷静な人間であろうと、ミスはするだろうし迷いもする。時には計算を度外視しても己の感情に従い行動したいときもあるだろう。俺達はAIじゃない。確固たる感情を持ってこの世界に挑むプレイヤー、『冒険者』なのだ。それはこの最強と呼ばれた戦士も俺達と同じなのだと、俺はこのとき初めてそう思った。
 鬼丸は俺を『仲間』と呼んだ。俺はアンタをそう呼んだ事はない。そう呼べるだけの実力が俺にはまだ無いからだ。いつの日かアンタと肩を並べて戦える様になったら、俺も躊躇無く『仲間』いや『友』と呼ぶだろう。だからそれまで、アンタの期待には応えたいと思う。たとえそれが勝算のない戦いだとしても、俺はアンタと共に最後まで戦う。それが実力のない俺を『仲間』と呼んでくれたアンタへの俺なりの答えだった。
 たかがゲーム。現実に死ぬ訳じゃない。
 だがこの仮初めの世界で、たとえ復活の約束された『死』であっても、仲間を見捨てず、また裏切らない。鬼丸がいつも言っていたそれらの事は、この世界で特別な感情移入をして生きる俺のような者にとっては大事な事だったのだ。
「そうか……」
 俺の答えを聞き、鬼丸は静かにそう答えた。
 その時、俺達のいる場所から数メートル先で何かが吼えた。通路を渡る咆吼に鼓膜が悲鳴を上げる。一同は瞬時に視線を移す。見ると薄暗い通路の先にギラギラとした眼光が浮かんでいる。それはグルグルと咽を鳴らしながらゆっくりと俺達の視界に姿を現した。
 黄金の鬣をなびかせ俺達を睥睨するその顔は獅子のそれ。しかし胴体は鬣と同じ黄金色の鱗に覆われた龍族特有の体で、その尾もまさしく龍族の物なのだが3本あり、各々が独立して動き奇妙なうねりを演出していた。
「『マンティギアレス』……しかも雌もいやがる」
 そのセラフの後方から銀色の鬣を持つ色違いの龍の姿を確認し、一同が息を飲む。
 この獣とも龍とも付かないようなセラフは幻龍種と呼ばれかなり稀少な存在だった。大抵は雄、雌のどちらかで出現するが、希に今回の様な『夫婦』で出現することもある。強力な冷却ブレスを吐き、非常にどう猛。炎系の魔法には弱いが雷撃系の魔法はその首廻りの鬣が避雷針のような役割をして吸収されてしまう。体長は8m前後と比較的小柄だがそれなりに俊敏で、特に雄雌のつがいの時には高度な連係攻撃を仕掛けてくる。さらに各々が独立した形で動く奇妙な3本の尾は、時には攻撃、時には防御と多彩な用途に変化させるやっかいな代物だった。
「まずいぜっ、バックアタックだ」
 リオンが吐き捨てるように言った。バックアタックとは呼んで字のごとく、後方からの攻撃のことだ。直接的な攻撃力の乏しい後衛にダイレクトに攻撃を食らう事になるので致命打になりやすく非常に危険な状態だった。
 広いフィールドならともかく、この狭い通路でコレを食らったら回避は難しいが、幸い今回は敵から若干の距離があるため何とかなりそうだ。この距離で会敵した幸運に感謝したい気分だ。
 直ぐさま腰の剣を抜いて前に出るリオンに続き、太刀を引き抜き前に出ようとする俺を鬼丸が止めた。
「何故だ、鬼丸?」
 鬼丸は俺のその質問には答えず、いきなり俺の胸ぐらを掴むと思いっきり後方に放り投げた。俺はいきなりのことで何がなんだか判らず受け身も取れないまま後方の通路の壁に叩き付けられた。
「なっ……!!」
 咽を捕まれ無理矢理放り投げられた衝撃と叩き付けられた背中の痛みに息が詰まり言葉にならなかった。
 蹲る俺に振り向きつつ一瞥を投げる鬼丸の口元に、うっすらと笑みが浮かんでいるのを俺は見た。いや……見てしまった。
 見る者を虜にしそうな、あの極上の笑顔とは似ても似つかない笑み。俺の知っている鬼丸という男が、決してしないだろうと思われる冷たい笑みだった。
 直ぐさま鬼丸は呪文詠唱に入った。凄まじい早さで硝化される意味不明なスペル【コマンド】使う魔法のほとんどが回復か魔法剣の俺には到底何の呪文なのかは検討が付かないが、それは今までに聞いた事がないフレーズのスペルだった。その鬼丸の詠唱に呼応するように通路の天井に虹色に輝くドーム状の傘が現れる。そして唐突にその詠唱がやんだ。鬼丸は手にした太刀を、まるで魔導士の装備である『杖』【ワンド】の様に高々と掲げ大きな声で最後の発動条件である呪文名を叫んだ。
「コンプリージョン・デリート―――――――――っ!!」
 響き渡る鬼丸の声。そして……

 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンっ――――――!!

 腹の下をゴリゴリとローラーか何かで敷かれているような重苦しい音と共に通路全体がブレた。まるでフィールド全体が身をよじっているような揺れ。先ほどまで七色に輝いていた光のドームは2体のマンティギアレスや後衛のメンバーはおろか、通路そのものを飲み込み、今は極彩色の明滅を繰り返している。
 他のメンバーがどうなったのか、鬼丸はどうなったのか、そもそも何が起こったのか全く判らないまま、狂ったように揺れる世界の中で、俺は意識を失った。
 どれくらい意識を消失していたのか判らないが、俺は目を開けて周囲を見回した。立ちこめる砂埃から考えて恐らく時間にして数秒。俺は腰にある太刀を確かめて起きあがった。
「なっ……なんだこりゃ……!?」
 俺の立っている通路の数メーター先が真っ黒な『空間』になっていた。俺達が此処まで来るのに歩いた通路、さっきまで幻龍2体とメンバー4人が対峙していた場所は、まるで墨汁を落としたような真っ黒な『穴』がぽっかりとあるだけになっていた。その『空間』だけそっくり『えぐり取られた』状態。まさにそんな風景だ。
 そして、その『穴』の縁に鬼丸が立っていた。
「鬼丸、今のはなんだ? みんなはどうなったんだ?」
 俺は背中からそう声を掛けた。現象前の鬼丸の行動から考えて、この状況は鬼丸が作ったと考えてまず間違いはないだろう。
「消したのさ……全部」
 どことなく軽い感じの鬼丸の声。
「消した?」
「そう、消してやった。セラフもろとも……予定ではもう少し行けるかと思っていたんだが、まあいいさ」
 振り向きもしないまま、鬼丸は俺にそう答えた。
「此処まで来たらあとは俺だけでも何とかなるから。『ガーディアン』や『他の連中』が気づいてももう遅い……」
 ガーディアン? 他の連中? いったい何の事だ?
 だが、今の言い方からして鬼丸は故意でメンバーを巻き添えにしたのだろうか?
 いや、そんなはずはない。人一倍『仲間』に拘っていた鬼丸に限って―――だが
「もう一度聞く。あいつらはどうなった?」
「だからぁ、消したんだよ、俺が……」
 そう言いながら振り返った鬼丸は何故か笑っていた。あの極上の笑顔で。
「アレは魔法じゃないんだ。『強制削除コマンド』っていってね、このセラフィンゲインのプログラムを強制的に削除【デリート】するコマンドなんだ」
 強制的に削除するコマンド? いまいち意味がよく分からない。
「いいかい、この世界は全てがプログラムで出来ている。俺達が此処で目にする物、体感する物全てだ。『コンプリージョン・デリート』はこれらプログラムを初めから『無かった事』として削除する事が出来るのさ」
 まるで出来の悪い生徒にかみ砕いて説明する教師のような言い方だった。
「俺達プレイヤーの意識もこの世界に転送された時点でデジタル化されプログラムに組み込まれる事になるから『コンプリージョン・デリート』のデリート対象になるわけ。プレイヤーの意識も初めから『無かったこと』となるのさ」
「それは……つまりどういう事だ?」
「分からないか? つまり『ロスト』だ。肉体は接続室にあるのに意識だけ『削除』されるんだぜ? 『入れ物』があっても『中身』が無きゃダメだろ、普通」
 そう言ってまた笑う。
 鬼丸の言っている事が本当なら、あの4人は通常のデッドではなくなる。恐らくセラフィンゲインの接続が切れた今でも、接続室のベッドで覚醒しないまま眠り続けているだろう。恐らく永遠に……
 何がそんなに可笑しいんだ、アンタ。4人もロストさせておいて……
「な、何故だ……あれほど仲間に拘ったアンタが何故……」
 鬼丸は太刀を引き抜き、ゆっくりと近づいてくる。俺はじりじりと後ずさり、とうとう通路の壁際まで後退した。もう後がない。
「俺はどうしても『聖櫃』に行かなくちゃならないんだ。悪いな、シャドウ……」
 そう言って鬼丸は安綱を逆手に持つと渾身の力を込めて地面に突き立てた。それと同時に俺の右足に激痛が走った。
「―――――っ!!」
 あまりの痛さに声が出なかった。見ると鬼丸の愛刀である安綱が俺の右足の甲を貫き、深々と地面に突き刺さっていた。思わず片膝を付いて蹲る。
 すると鬼丸は痛みにこらえて震える俺の腰から俺の太刀である『細雪』を引き抜いた。
「俺は先に行く。その安綱はお前にやるよ。代わりにコレを貰っていく。じゃあな、シャドウ」
 そう言って立ち上がるとくるりと背を向けて鬼丸は歩き出した。
「ま、待ってくれ鬼丸っ……」
 痛みをこらえてそう言うのが精一杯だった。俺は必死に安綱を引き抜こうともがくが、安綱はビクともしなかった。右足を切り落とそうにも自分の太刀は鬼丸が持っていって仕舞った。
「鬼丸っ! 何故なんだ……俺達は仲間じゃなかったのか? 『ヨルムンガムド』はどうなるんだっ!」
 俺は激痛にもだえながら、悠然と歩く鬼丸の後ろ姿にそう問いかけた。
「解散さ……当然だろ? メンバーが半分以上居なくなったんだぜ?」
 つーか、アンタが消したんだろうが!
「ここに来るまでにはどうしてもチームでなければならなかった……一番手っ取り早く結束を強化できる手段として『仲間』つーのが最適の殺し文句だ。仲間を必要とし、また自分も仲間から必要とされているつー感覚がさ、人を惹き付けるにはうってつけなんだよ。冷めたリアルじゃ引かれる様な事だけど、此処に集まってくる連中は意外にそういう仲間とか戦友なんつー物に飢えている」
 鬼丸はそう言うと歩みを止め、振り返った。いつものあの人をたまらなく惹き付ける笑顔が、話の内容とのギャップに今は背筋が寒くなる。
「シャドウ、それはお前も同じだ。俺以上に『仲間』に拘っていたのはお前方じゃないのか? いや、違うか。『拘りたかった』と言った方が良いのかもな。リアルじゃ友達居ないだろ? お前」
 だから……なんだってんだよっ!
「マビノ山のこの『聖櫃』に続く通路は特殊なフィールド設定になっている。此処に来るには戦闘能力よりもむしろ『動機』つーか『意志』みたいな物が重要なんだ。チームとしてのね。だから俺は『仲間意識』をそれに利用したのさ。『信頼出来る仲間』が居れば『クリア出来る』つー様なニュアンスをメンバーに刷り込むために……それなりに戦闘能力も必要だからこのレベルまでお前達を育てるのに苦労したよ、マジで」
 それじゃ、今まで一緒にやってきた事は全て嘘だったって事かよ。左腕をちぎられてまで俺を助けてくれたあの時も、痛みをこらえて肩を貸してくれながら歩いた時も……それに今さっきだって俺を投げ飛ばして……

『何言ってんだよシャドウ、仲間だろ? 俺達』

 あの時のあの極上の笑顔が蘇る。違うっ! 違うだろっ、鬼丸、てめえっ……!
「じゃあ何故俺を消さなかったんだ?」
 俺のその問いに鬼丸は少し悩んでいるようだった。
「さあ……あの時の事は俺でもよく分からない……体が勝手に……」
 今までの明朗な言葉ではなく、少し言いよどんだ呟きだった。終始笑みが絶えなかった鬼丸の表情が、その時だけ奇妙に引きつっていたようだった。だがそれも一瞬の事で、鬼丸はくるりと背を向けるとまた歩き去っていった。
「もう行かなきゃ……シャドウ、その安綱はお前が持っていてくれ。お前は恐らく――――だ。使えるだろが――――しろ。そしていつか――――俺を――――になれ。じゃあな、お前ならもしかしたら俺の唯一――――だったかもな」
 去りゆく鬼丸の声がよく聞き取れなかった。ちきしょう、なんて言ったんだ?
 足から来る痛みで考えが上手くまとまらない。安綱が突き刺さった右足が、さっきから情けないほど震えていて痛みを倍増させている。おまけにさっきから耳の奥で耳鳴りがする。くっそっ、なんだってんだっ!
 そして鬼丸の姿が見えなくなってしばらくたって、痛みにこらえつつ、ふるえが止まらない右足と安綱を呪いながら俺はリセットを告げた。

☆  ☆  ☆

「その後俺は端末で他の4人がMIA【未帰還者】になったのを知った。サムは先にデッドしていたので無事だった。あれから鬼丸がどうなったのかは分からない。表示板から鬼丸の名前が無くなっていた。まるで初めからそんな奴は存在しなかった様な感じで、全てのデータが消去されていたんだ」
 そう言って俺はテーブルのウーロン茶を一口飲んで続けた。
「奴の言うとおり、チーム『ヨルムンガムド』は解散。俺とサムは『オウル』つー古参のプレイヤーの勧めで『傭兵』になった―――ってオイっ!!」
 嫌に静かなんで辺りを見回す。
 リッパーとドンちゃんはテーブルの上に突っ伏して撃沈。マリアは腕組みしながら船漕いでるし、サモンさんの姿は見えない。そういやさっきトイレに行ったきり帰ってこねぇ……
 お前らな……っ!
 人に散々話せがんでおいて寝オチするって人としてどうなのよ? オイごるぁっ!!
「あなた、その彼にもう一度会いたい?」
 不意に横から声が掛かり度肝を抜かれました。あの、その気配殺したステルスモードで側にいるのは止めましょうよ、心臓に悪いから……
 『木馬ガールズ』はとっくに帰ったからてっきりこの人も帰ったのかと思っていたんだけどまだ居たんですね、ララァさん。
「もう一度彼に会ったら……どうする? ウラミハラサデオクベキカ?」
 どうやら僕の昔話に最後までつき合ってくれたのはこのララァさんだけだったようだ。全く関係ない話なのに変わった人だ。
「えっ? あ、あ、い、いや……」
 恨む……ちょっと違うかな。全然恨んでないって言えば嘘になるけど、それでも復讐だの恨みを晴らすだの考えた事は一度もない。ただ……
「う、恨んでなど居ない……り、り、理由、を、き、き、聞か、せ、せて欲しい」
「ふ〜ん、つまんない答えだね〜」
 余計なお世話です。つーかアンタさっきから何やってんの?
「占なってんの、あなたの事」
 そう言って水晶玉の上に手をかざして行ったり来たりさせている。怪しい……すこぶる怪しい動作だ。水晶玉には全く変化がないんですけど……
「あなた、近いうちに会うわよ、彼と」
「へっ?」
「再会するみたい。それもそう遠くない未来に……」
 マジで? あなたといい、その水晶玉といい、さっきのいかにも系の動きといいどうにも胡散臭いんですけど。さらに緑色のカラーコンタクトを入れた瞳で僕をのぞき込むララァさん。近い、近いって! もしかして僕に気があるんですか!? ヤバ怖いから離れてくれっ!
 不意に右手を僕の顔の前へ差し出す。
「な、な、なんですか?」
「占い料、初回5千円のところ、キャンペーン中につき3千円。ラッキーね、あなた」

 ――――金取るのかよ……



第15話  雪乃と智哉


 週明けの月曜日。先週末はセラフィンゲインがメンテナンスだったためアクセスしなかったんだけど、その代わりにクラブマチルダでの一件があったため日曜は二日酔いで1日中家で寝てるつーもったいない休日の使い方になってしまった。
 この前買ったDVDBOXの全38話を一気鑑賞する予定だったのに……
 吐き気と頭痛で苦しみ、3日経った未だに気分が悪く、さらに眠い。出来れば今日は午前中の講義をパスしたいけど、今までの出席率から考えると貯金を全て使い果たしているはずで、恐らく1教科も落とせない。二日酔い、いや三日酔? のせいでアクセスしてないのに寝不足になっているにもかかわらず、重たい体を引きづりながら勉学に励む僕って……二宮金次郎さんみたいだ。
 いや、単に自分がいい加減が招いた結果です、ハイ……スイマセンでした。
 しかし時間が経つにつれて徐々にからだが回復し、講義後半からやっとまともな体調になり、お昼には食欲も出てきたので今日は学食人気No1のオムライスでも食べちゃいますか、とカウンターで注文。
「オムライス1つ」
「オムライス1つ」
 ―――?
 僕と同時に隣の人の注文がハモる。あれ? この声は……
「あれ? 今の声、もしかしてカゲチカ君ですかぁ?」
 少しスローリィーなしゃべり方だが、それが持ち前のロリ顔とマッチして脳がとろけてしまいそう。あっちでのクールな印象ばかりを目にしているので、たまに見るこのギャップは破壊力満点! 盲目の超絶美少女、雪乃さん登場。
「カゲチカ君もオムライスですか? 気が合いますね。ここのオムライスおいしいですよねぇ〜。私大好きなんですぅ〜」
 あのね毎度の事だけど、僕はトモチカだから、つーツッコミもこの際スルー。
 もうね、超 激 萌 えっ!
 スイマセン、最後の『大好きなんですぅ〜』ってトコ限定で、もう一回言ってもらえませんか?
「お昼一緒に食べませんかぁ? あ、もちろん迷惑じゃなければですけどぉ……」
 そう言って子猫のような目で僕を見上げる雪乃さん。
 か、か、可愛いすぎだっ! そんな目でみつめないでくれぇ〜っ! いや、実際は見えていないんだろうけどさ……
「めめめめ迷惑だなんて、ぜ、ぜぜんぜ、ぜん…… もももも、モーレツに、ギギ、ギザお、おおおkで、でですっ!」
 もうダメぽ…… 脳が溶けて人の言語を忘れてしまいそう。迷惑つーか、むしろ幸せ感で死にそうつーか……
「ほんとうですかぁ? よかったぁ、うれし〜」
 そう言ってオムライスの乗ったトレイを受け取り、にっこり笑う雪乃さん。

 周 り に お 花 が 咲 き ま し た!

 自分の分と雪乃さんのトレイを両手に持ち、テーブルに向かう。緊張でぎこちない足取りになる。すると左側に妙な抵抗を感じる。なんだ?
 見ると雪乃さんが僕の上着の裾を掴んでいるではないですか――――っ!!
「すいません。ちょっと一緒に歩くとリズムが掴めなくて……」
 恥ずかしそうに呟く雪乃さん。いやもう全然オッケーですぅ! 袖と言わず腕なり肩なりどんどん掴まってくださいっ!! いっそのこと腰にこう、腕を……

 お 花 満 開 で す!

 運良く窓際の4人がけのテーブルをゲットし、向かい合わせで座る事に成功。オイオイ、コレって端から見たら付き合ってるぽくないか?
「いつもはお弁当を研究室で食べるんですけど、今日は持ってこなかったんですぅ。私、目が見えないから学食って苦手で…… でもたまには学食も良いですね。カゲチカ君に会えたし」
 そう言って嬉しそうに『いただきま〜す』とオムライスを食べ始める。
 僕に会えた―――? ああ、あ、あのそれって……
 イカンイカン! そんなはずがあるわけないっ! 希望的都合妄想はやめよう。何となく体に悪そうだ……
「あれ? そう言えば今日はマリアさんと一緒じゃないんですか?」
 思い出したように質問する雪乃さん。アレと1セットで考えるのはやめてください。
「2人は付き合ってるんですかぁ?」

 ―――――はいっ!?

 冷てーっ! 思わず水をズボンにこぼしてしまった。いきなり何言い出すんだコノヒト!
「いいい、いや、マ、マ、マリアとは、たた、たまに一緒に、なな、な、なる事が、おお、お、多いだけで……」
 そんな事、天地がひっくり返ったってあり得ない。確かに超が付くほどの美人で、容姿だけでいったらマリアが彼女だったら最高だろうけど、あの悪魔と付き合うなら命と忍耐力がもう2ダースほど無いと無理だろう。僕の場合は鑑賞するだけでお腹いっぱいだし、そもそもヲタな僕があんな超絶美形とつり合う訳がない。
「あっちでも凄い仲が良さそうに見えたから、私てっきりそうだと思っていました。そうかぁ……ふ〜ん、そうなんだぁ……」
 彼氏と彼女じゃなくて、『王様』と『家来』、『犬』と『飼い主』若しくは『奴隷』と 『主』って感じか。あっちじゃ僕のが先輩だしレベルも違うからああだけど、リアルじゃ確実にマリアが上。
「やっぱり美味しいですねぇ、このオムライス」
 そうっすか? 僕はマリア以外の女子と2人でお昼を食べるなんて母親ぐらいしか経験無いから緊張しまくりで味が分かりませんよ……
 それにしても、なんか妙に楽しそうだな、コノヒト。
 味はともかく、一通りオムライスを掻き込み2人共食べ終わったところで、不意に雪乃さんが呟いた。
「前回のクエストは……ごめんなさい。私、パニクッちゃって……」
「あ、いいい、い、いや、ももも、もうす、す、すんだこと、だし」
 突然の謝罪にびっくりして動揺する。そんな顔して謝られたら倒れちゃいますよ、僕は。
「それに、『鬼丸』のこと…… 知りたいですよね? 私と鬼丸のこと」
 そう言って少し悲しそうな表情をして俯く雪乃さん。セラフィンゲインで最強と謳われる白銀の魔女、プラチナ・スノーの時とはかけ離れた弱々しい仕草だった。
「鬼丸は…… 」
「カゲチカー! あれ? 雪乃も一緒?」
 雪乃さんの言葉を遮ったのは、天使の美声か悪魔の囁きか……
 ものすげータイミングで登場したのは言うまでもない、神の美貌を持つ悪魔、ビジュアル系悪魔兵藤マリア降臨。いや、堕天と言った方が良いかもしれない。礼によって普通の女子のざっと3人分の栄養補給量に匹敵する量のランチを乗せたトレイを持って立っている。
「ハイハイ、カゲチカ、ずれたずれた〜」
 と言いながら食事の終わった僕を無理矢理隣の席に移動させ、僕らの了解も取らぬまま席に着くマリア。他者の了解なんてマリアには関係ない。自分の思うようにやる。まさにジャイアン思想の持ち主なのだ。自分を取り巻く環境が全て自分中心に回っていると本気で考えているらしい。
 続いてトレイに満載の料理をテーブルに広げ出す。ハヤシライスにカレーうどん、カツサンドにゴボウサラダ。コレに温泉卵とゼリーってお前……
 相変わらず凄い量だ。どんな構造してるんだ? アンタの胃袋。
 そう言えば前に『ラーメンっておかずだよね?』って真剣に同意を求められた事があるし、一緒に行ったファミレスではグラタンとピザをおかずにハンバーグドリアとペペロンチーニ食ってたもんなぁ……
「こんにちはぁ、マリアさん」
「こっちで会うのは久しぶりね、雪乃」
 雪乃さんはマリアに対して『さん』付けなのにマリアは呼び捨て。まあ、コイツの場合出会って数秒で呼び捨てだったけどね。まあ僕なんか、まだ一度も本名で呼ばれた事がないんですが……
 しかしいいタイミングで現れるな。くそっ、肝心な部分で話が遮られてしまった。
「2人して仲良さそうにしてたから話しかけるのにちょっと考えちゃった。雪乃ってもしかしてカゲチカみたいなのがタイプなの?」
 何言ってんだよマリア。タイプ以前に目が見えないだろうが!
「なっ……!?」
 絶句する雪乃さん。
「あ、でも雪乃は『シャドウ』の時しか見てないからね。『シャドウ』の時は確かにコイツもまんざらじゃ……」
「な、何言ってるんですか!? 違いますよっ!」
 ――――いや、そこまで完璧に否定しなくても……
「あっ、いや、カゲチカ君ごめんなさい、違うんです、そ、そうじゃなくて…… 今も偶然会っただけで、それを狙って学食に来たんじゃなくて…… ってそんな事じゃなくて、あの、チ、チームメイトとしてですね……」
 と慌てる雪乃さん。言ってる事がよくわからん。
「や、やあねぇ、冗談よ、ジョ ー ダ ン!」
 雪乃さんの慌てっぷりに少し動揺してマリアがそう答える。確かにえらい慌てぶりだった。
「もう…… やめてくださいよぉマリアさん」
 そう言って落ち着きを取り戻した雪乃さん。いつものスローなしゃべり方に戻っている。何だったんだ? 今の。
「あ、あの、そ、そ、それで、お、おお、鬼丸との事は……」
 とりあえずさっき聞きそびれてしまった話を聞きたくて、僕はそう雪乃さんに聞いた。マリアのせいで中断されてしまったからね。
「ああ、そうでしたね。ただ此処では何ですし、午後の講義が終わったら私の家に来ませんか? それの方が話が早いですし、見せたい物もあるので」
 マジで!? 雪乃さんの家にご招待ですかっ!?
 人生で初めて女子の家に招待されたよ、ママン。恋愛シュミレーションとかで良くあるシュチで、プレイしながら『現実こんなのありえねー!』とかってゲームにツッコミ入れてたんだけど、まさか自分の身に起こるなんてっ! 見せたい物ってアレかなぁ? 卒業アルバムとかでさ、部屋でこう2人で眺めたりして…… よし、ここは数々の恋愛ゲームで培った経験を総動員して…… そんでもって……
「もちろんマリアさんも一緒に。マリアさん予定は大丈夫ですか?」
 ――――ゴメン、ちょっと違う世界にアクセスしてたよ……
 そりゃそうだよな、2人きりってどう考えてもあり得ない。まあ、やっぱり現実には無いよな、あんなシュチエーション。
「大丈夫よ、今日バイトないし」
「じゃあ4時半に校門の前で。私登下校は車なんで、皆さんも乗せて行きますから」
 車で送り迎えかよ……
 でもまあ目が見えないんだし当たり前か。しかしあの容姿で車で送り迎えなんて、まるでアニメに出てくる『お嬢様』を連想させるなぁ。運転手付きのリムジンだったら凄いけどね。
「それじゃあ私は戻ります。カゲチカ君、お昼楽しかったです。マリアさんもまた後で」 そう言って雪乃さんは席を立ち歩いていった。ふと隣のマリアを見ると、あれほどあった料理がもうほとんど無く、残すところ温泉卵とゼリーだけ。どんなマジックだ!? マジで。
 温泉卵をほぼ一口で平らげ、デザートのゼリーにスプーンを運びつつ、マリアがぽつりと呟いた。
「それにしても、リアクション判りやすかったわねー雪乃」
 ――――何の話?
「ま、相手が気づかないんじゃ意味ないか……」
 そう言ってゼリーを口に入れると、僕を見つめながら顔を近づけてくる。オイっ! 何だよっ! 顔近いって!
 マリアの美貌を見慣れている僕でも、こうも至近で見られたら耳から煙りが出る。やべっ、意識飛びそう……
「ホント、困った奴よね、アンタって」
 ため息混じりそう言ってまたゼリーを食べ始めるマリア。
 意味わかんねーし。そもそも悪魔のお前に言われたくないつーの。


第16話  世羅浜家


 放課後、僕とマリアは校門にいる雪乃さんと合流した。挨拶もつかの間、すぐに1台の車が校門に横付けされる。
 ――――車ってコレですか!?
 クライスラー300ツーリングリムジン
ははは……ホントに運転手付きリムジンだったよ……
「いつもはもう少し小さい車なんですけど、電話で『友人も一緒に』って言ったらコレで来ちゃったみたいで……」
 てっきりお母さんなんかが迎えに来るものだとばかり……
 僕の横で同じように唖然としているマリア。ちょっとリアクションが浮かびませんよ、マジで。
 すると運転席から中年の男が降りてきて雪乃さんに言う。
「お待たせいたしました。雪乃様」
 様付けですか……現実にいるんだね、こういう漫画みたいなお嬢様って。
「運転手の折戸【オリド】さん。こちらは私の友人で、カゲチカさんとマリアさん」
「折戸です。どうぞ、お見知り置きのほど」
 そう言って丁寧に頭を下げる折戸さん。つられて僕とマリアも深々と低頭。運転手さんに深々と頭を下げられる経験なんてある訳無いのである。一般庶民の典型的な反応。
「さあ、お二人とも乗ってくださぁい」
 と僕らを先に促す雪乃さん。車内は乗り込むときに「おじゃまします」と家でもないのに言ってしまうのも無理のない広さだった。
「雪乃ってセレブだったんだ〜」
「やめてくださいよぉ、そんなんじゃないですよぉ……ただ父が事業をやってて、それで……」
 なるほど……しかし謙遜してるがセレブには変わりないよね。この車1台で、きっとウチの実家のカローラなら4台は買えるよ、たぶん。
「事業って……何やってるの? 雪乃のお父さん」
「えっと、いろいろやってます。初めは医療機器のメーカーだったんですけど、今ではコンピュータからバイオテクノロジー関係。化粧品や医薬品、最近では軍需の方にも進出しているみたいで…… グループ全体ではちょっと私には……」
 ははは……わかんないくらいやってる訳ね。こりゃ筋金入りのお金持ちだわ。
 世羅浜……あれ? どっかで聞いた事があるような……
 大学を出発して20分ほど走り、車は閑静な高級住宅街のを走り抜けていった。そして一件の屋敷の門の前で停止した。自動的に門が開き、僕たちを乗せた車が敷地内に吸い込まれていく。
「おっきな家ね〜」
 とマリアが当たり前の感想を漏らす。いや、家つーのには限界があるだろ。お屋敷って言った方が言いレベルだよ。
 車は良く手入れされた洋風の庭園を左右に見ながら少し進み、程なく停車した。少ししてドアが開けられ、先ほどの運転手、折戸さんがさっきと同じように低頭しつつ僕たちが降りるのを待っている。
「お疲れさまでした」
 いやいや、疲れなんか全く感じませんでした。むしろずっと乗っていたいつーか……
 僕たちは車を降り、屋敷の玄関に向かった。
 西洋風の『洋館』という言葉がぴったりの外観は周りの木々達に守られるように、重厚な雰囲気を醸し出していて、来訪者をビビらせるオーラを纏っていた。程なくしてその外観にこれまたマッチした大きな木製の框ドアが開き、中から初老の男が現れた。
「お帰りなさいませ、雪乃様」
 先ほどの折戸さんと同じように深々とお辞儀をする品の良い眼鏡のロマンスグレー。
「ただいまです。在志野【アリシノ】さん。こちらはさっき電話で話したカゲチカさんと兵藤さん」
 そう言って雪乃さんは僕たちを紹介してくれた。
「兵藤です。おじゃまいたします」
「か、か、カゲチ、チカでで、です」
 違うだろっ! 景浦だろっ! 何自分で間違ってるんだ、僕は。ヤバイ、緊張で言語障害が通常の2割り増しだ。おまけに自分の名前さえまともに言えないとは、なさけなや……
「ようこそおいで下さいました。ミスマリア。雪乃お嬢様から伺っております」
 そう言って僕らにも会釈をする。でもさっきの折戸さんに比べてちょっと冷たい感じがする。って思っていたら、すーっと僕の前まで来て顔をのぞき込む。
「そして、あなたがカゲチカさんですか……」
 はいっ? あ、いや、ホントは景浦智哉って言うんですけどね……
「雪乃お嬢様から伺っていた方とはずいぶん印象が……しかしなるほど……」
 そう言うと在志野さんは、まるで僕を品定めでもするかのように観察する。あ、あの、目が怖いんですけど……
「ちょ、ちょと在志野さんっ、何言ってるんですか? 失礼ですよ」
 と雪乃さんが割って入ってくれた。僕この人苦手かも……
「これは失礼いたしました。どうぞこちらへ」
 雪乃さんの言葉を受けすぐに僕に謝罪すると、在志野さんはくるりと回れ右をして屋敷内に入っていった。何だったんだ? 今のは……
「ごめんなさいね、カゲチカ君。在志野さんも悪気が在ったわけではないんですぅ」
「あ、ああ、い、い、いえ、べ、ベベ、別にぼ、ぼぼ、僕は……」
「でも……」
 そう言って雪乃さんは少し考えてこう言った。
「あんな嬉しそうな在志野さん久しぶりです。カゲチカ君の事、気に入ったのかなぁ……」 えっ? 今のがですか!? 1ミクロンもそんな風には見えませんでしたけど……むしろ嫌われた感MAXだった気がするんですが―――
 そんな事はさておいて、僕たちは雪乃さんに続いてお屋敷の中に入っていった。
 玄関を抜け、吹き抜けのロビーを横切り、僕たちは客間に案内された。いや〜もうね、「ここ日本?」って聞きたくなるような雰囲気だよ。大体客間に暖炉がある友人宅なんて、僕の人生には縁がない物と思ってました。そもそも靴ってどこで脱ぐんだ? マジで。
 きっとアレだな、お風呂はライオンの口からザ〜ッてお湯が出てるんだろうな……
 初めての女子の家デビューがこんなお屋敷って……出来ればもう少し一般的なケースでデビューを迎えたかったです……
 緊張しまくりでソファーに座り雪乃さんを待つ僕とは裏腹に、マリアは客間を歩き回り部屋の中を見学して回っている。まあ、コイツに緊張って感覚はないのかもしれない。
「しかし凄いわね〜 雪乃ん家」
 そう言って暖炉をのぞき込むマリア。
「あたしもこんな家の娘に生まれたかったなぁ」
 確かにそれは僕も同感だが、君がセレブだったらさらに凄い事になってるだろうね。なんせ悪魔ですから……
「この絵……こっちの小さい女の子は雪乃よね。隣の男の子はお兄さんかしら?」
 そう言ってマリアは暖炉の上に飾ってある油絵を眺めていた。
 小さい頃の雪乃さんの肖像画か……どれどれ……
 背景は此処の庭だろうか。大きな木の下に立つ少年と、その横に座る小さな女の子が花の首飾りを掲げはしゃいでいる。木々からこぼれる木漏れ日がまぶしいのか、傍らの少年は目を細めながらも極上の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
 この女の子は恐らく雪乃さん。鼻筋と大きな瞳にぷっくりとした唇は面影が残ってる。はぁぁぁ、子供の頃から可愛かったんだねぇ。
 そして隣に立つ男の子も整った顔立ちの美少年だった。鼻筋から目にかけてが雪乃さんに似ている気がする。確かにマリアの言うとおりお兄さんかな―――――あれ?
 なんか、誰かに似ている気がする。あ、いや、雪乃さんじゃなくて……
 そこへ先ほど会った在志野さんが入ってきた。
「紅茶をお持ちしました」
 そう言いながらソファー前のテーブルに僕とマリアの分のティーカップを並べた。
「あの、この絵って……」
「ああ、幼い頃の雪乃様です。そちらで座ってらっしゃるのが雪乃様で、隣にいるのがお兄さまの朋夜【トモヤ】様です」
 やはり雪乃さんのお兄さんだった。絵から判断すると2,3歳上なのかな?
「とても仲の良いご兄妹でありました……」
 そう言って目を細める在志野さん。さっきは冷たい印象だったけど、こういう表情も出来るんですね、この人。と思った瞬間、在志野さんはまた僕を舐めるように見ていた。
「カゲチカさん……でしたか? あなたは雪乃お嬢様とは、その……どういった関係ですか?」
 はいっ?
「あ、た、たた、た、ただの、と、とと、友達で、でで、ですけど……」
「ただの友達……ですか? 本当に?」
 そう言って僕の顔をのぞき込む。反射する眼鏡レンズの向こうに見える瞳がまるで蛇のよう……ぜ、絶っ対気に入られてない気がするんですけどぉ〜!
「そうですか……それでは、お二方とも、ごゆっくりおくつろぎ下さい」
 そう言って在志野さんはお盆を持ちつつ客間を出ていった。無言のプレッシャーから開放された僕は一息つくとその場にしゃがみ込んでしまった。僕、あの人マジで苦手です。
「お待たせしましたぁ」
 そこへ雪乃さんが客間へ入ってきた。
「ねえ雪乃、この絵に描かれてるの雪乃とお兄さんなんだって?」
 入って来るなりそう聞くマリア。お前って常に直球勝負だな。
「ええ……兄の朋夜【トモヤ】です……」
 どことなく悲しい臭いを含んだ声だった。その声に何となく僕は判ってしまった。さっきの在志野さんの言葉も過去形だったしね。
「亡くなったの?」
 マリア……お前ストレートすぎるだろ、マジで。
「1年半前に……病気だったんです。10歳の時発症して、それからはずっと車いすでの生活でした。私は目がこんなですし、絵を見る事は出来ませんが、この絵は兄がまだ病気を発症する前に描かれた物だと聞きました」
 兄は病気で妹は盲目か……お金持ちって言ってもままならないことがある。いくらお金があっても不幸な人もいるって事なんだ。
「カゲチカさん、兄の顔を見て気が付きましたぁ?」
「えっ?」
 雪乃さんの言葉にもう一度絵の中の少年を見る。
 そう、さっきから誰かに似ている気がするんですけど……
「あなたは兄に会っています。兄もあなたを良く知っていました。実は私は以前からあなたの事を兄から聞いて知っていたんです。ただ、同じ大学だとは思ってもいませんでしたけどぉ……」
 雪乃さんの言葉の後半は聞こえていたけど、正直頭の中には入ってきていなかった。
 絵の中から僕を見つめる少年の、見る者を惹き付けるこの極上の笑顔……
 忘れるはずがない。わずかに残る面影よりも、このたまらなく人を惹き付ける笑顔を。この笑顔に『俺』は何度励まされ、癒されたのだろう……そして最後に俺を裏切ったこの笑顔……

「鬼丸……!」

「えっ? この人が?」
 俺の呟きにマリアが驚いてそう言った。
「スノー、鬼丸はお前の……」
「ええ、私の兄なのよ……シャドウ」
 スノーの言葉に、俺は二の句をつなげる事が出来なかった。
 初めて会ったときに感じた得も言われぬ感覚。俺を見つめる瞳。
 スノーに会い『あいつに似ている』と言ったサムの言葉。
 『コンプリージョン・デリート』の解除コードを知る訳。
 鬼丸が『使徒』だと断言する根拠……
 その全てに納得がいった。
 1年半前、あの聖櫃に消えていった鬼丸が、もうすでにこの世にいない? しかも10歳の頃から煩っていた病魔に冒されて死んだ? あの無敵の鬼丸がか?
 安綱を振るい、およそ魔法剣士では行使できない高位魔法を操り、常に俺達の遙か高みを行っていた最強の戦士。その戦いぶりは見る者に絶対的な『強者』を印象づけ、圧倒的とも言える強さを誇っていたパーフェクトプレイヤー。
 忘れようとしても、どうしても脳裏から離れない彼の後ろ姿とあの笑顔。仮想世界とはいえ、あれほどの男が病気でこの世を去ったという事に、俺はどうしても信じられない思いだった。
 じゃあ何故あいつはあんな事までして『聖櫃』を目指したんだ? 自分が『使徒』であるにもかかわらずチームまで主催して……
「なあスノー、あいつは……鬼丸は何故あそこに行かなければならなかったんだ? あの後あいつは聖櫃に行ったんだろ? あそこには何があるんだ? 教えてくれ、スノー」
 恐らく……鬼丸は自分の命があとわずかだと知っていた。1年半前? 俺達が聖櫃を目指し、あの鬼丸の凶事で全滅したチーム『ヨルムンガムド』の解散。そして鬼丸の行方が判らなくなったのもその頃だ。あいつは本当に病気で死んだのか?
 様々な憶測が脳内を駆けめぐる。そんな俺の考えを打破する様に、雪乃さんはスノーの声で答えた。
「判ったわ。私が知っている情報を全てあなたに教えてあげる。まあ、今日はそのために来て貰ったんだし……」
 そこでスノーはいったん言葉を切り、深いため息を吐いた。
「カゲチカ君、あなたには知っていて貰いたいの。私たち兄妹の事、兄『朋夜』のこと。そして、『インナーブレインシステム』と『セラフィンゲイン』が生まれたその訳を……」
 鬼丸のことを話しているときはスノーだった雪乃さんだが、そう言ったのは紛れもなく『世羅浜雪乃』だった。その声はどこか悲しげな声で、僕はただ頷く事しかできなかった。
 僕と雪乃さんの会話の中に何かを感じ取ったのか、マリアでさえいつものストレートな質問を躊躇している様子がうかがえる。
「地下に行きましょう。お二人に見せたい物があるんです」
 雪乃さんはそう言って僕たちを案内するべく、振り向いて客間の入り口へと歩みを進めた。
 地下室があるのか……なんか秘密基地みたいだな。
 しかし、見せたい物っていったい何なんだろう。それにセラフィンゲインが生まれた訳ってなんだ? 鬼丸はシステムの開発者の一人『使徒』だった。その開発者側の人間に連なる雪乃さんはセラフィンゲインの開発に関わっているのだろうか?
 謎の多いセラフィンゲイン。その秘密の一端を、僕とマリアはこの後知る事になる。雪乃さんと『使徒』である鬼丸の純粋な『思い』と共に……


第17話  『想い』


 屋敷の地下は地上の趣のある内装と違って殺風景だった。どことなくヨーロッパ風の石壁をイメージしていたのだけれど、階段から通路に至までの壁はコンクリートの下地に白い塗料を吹き付けただけのシンプルなもので、床のタイルもさることながら、どことなく病院を思い出す感じだった。
 階段を下り、ほんの数十メートル先に一枚のドアが見えた。天井から浴びる蛍光灯の光に照らし出されたその扉は壁や天井と同じく白で統一され、一見するとドアなど無いように見えるが、左中央部に配されたテンキー付きの端末が、此処が何らかの出入り口である事を訴えているようだった。
 何かマジで秘密基地みたいだ。どことなく『ウサギの巣』の地下に似ている気がする。「ちょっと待ってくださいねぇ」
 雪乃さんはそう言ってテンキーを素早く叩く。その盲目という事を感じさせない動作は、此処を何度も利用している事を物語っている。って当たり前か、自分の家なんだし……
 程なくして「ピーッ」という電子音と共にロックがはずれドアが開いた。
「どうぞ、入ってください」
 そう言って雪乃さんは僕たち2人を中へと招き入れた。
 中は畳10畳ほどの大きさで、壁に沿って至る所にコンピュータ端末が設置してあり、どこかの研究室のような様相を呈している。
 その並んだ端末やモニター、それらの向こうにある壁には夥しい数のメモ用紙やレポート用紙が非道く乱雑に貼り付けられ、部屋をさらに狭く見せている。
「此処って……」
「此処は、兄の研究室でした……」
 ララの呟きに雪乃さんはそう答えた。
 研究室……確かにこの壁やパソコンに貼り付けられたメモには、僕の頭じゃさっぱり理解不能の数式や単語などが書き殴られていて、チラッと見るだけで脳が溶けてしまいそうだ。アニメや漫画なんかで見る『研究室』そのもののように見える。
 でもさぁ、アニメとかじゃ大抵こういうところで何かやってる人って『マッド』系が多い気がするんですけど……
 そんな事を思いながら部屋をくるりと見回し、部屋の奥で目がとまる。そこに意外な、それでいて、僕が良く知っている物に似た物体を発見した。それも2つ……
「ゆ、ゆゆ、雪乃さん、あ、あ、あれって……」
 僕の反応を予想していたのか、雪乃さんは落ち着いた声で答えた。
「ええ、ブレインギアです。ウサギの巣にある物より古い型なので若干形は違うハズですが、機能は同じ物です」
 確かに雪乃さんの言うとおり、少し形が違うが、あの得体の知れないコードなんかがへばり付いたヘッドギアといい、正面にモニターが設置されたリクライニングシートといい、間違いなく僕たちプレイヤー達をセラフィンゲインへ誘う『揺りかご』―――ブレインギアだった。
「そっか、雪乃はここからセラフィンゲインにアクセスしてた訳ね。道理でドンちゃん達がリアルの雪乃を知らない訳だ」
 なるほど、確かにマリアの言うとおりだ。自分の家からアクセスしてたら、ウサギの巣のロビーで張ってたって見付かるわきゃない。鬼丸が『使徒』なら自分の家にブレインギアがあってもおかしくないし、その妹である雪乃さんがそれを使うのも道理だよな。
「ええ、私はここからアクセスしています……もうおわかりだと思いますが、インナーブレインシステムは此処で開発されました。そしてセラフィンゲインの元になったプログラム『エデン』も……」
 プログラム『エデン【楽園】』? 元になったてことは原型って事か?
 初期のプログラムの名前が『エデン』……何ともまた洒落た名前だこと。
「そして、その最初の被験者が私だったんです」
 てことは雪乃さんが記念すべきプレイヤー第1号なわけだ。すげ〜!
「きっかけは私が兄に言った一言だった……」
 雪乃さんはゆっくりと語り始めた。
 インナーブレインの開発―――それは不自由な体を持った兄妹のただ純粋な『想い』からだったんだ……

☆ ☆ ☆

 兄は10歳までは健常者でしたが、私は物心付いたときから光を持たなかった。記憶が定かではないですが恐らく生まれつき……声と気配、触れる感触と臭いが、私が周囲を確認する手段でした。
 父はほとんど家には居なかったので判りませんが、母は私を可愛がってくれたと思います。でも小学校に通い出す年齢なって、相応の自我が芽生えてからは、それはどこかよそよそしく、同情めいた気がして私をいらだたせました。愛情と言うより哀れみ……それが自分の被害妄想だと気が付いたのはもっとずっと後でしたが……その母も私が14の時家を出ていきましたけど。
 そんな自分に、心の底から無条件に愛してくれたのは兄でした。兄は私に優しく、寛大で私をいつも気にしてくれました。私も兄が大好きでした。
 私が小学校に上がる頃、兄にこんな事を漏らしました。

『お兄さまの姿を見てみたいな……』

 ホント、ただなんの気もなしに言った、たわいもない一言―――
 私は自分の目が、恐らくは一生光を見ることはないことを知っていましたし、それについてはもう諦めていましたから、本当にそれが叶うなんて考えてもいなかったんです……
 でも……兄はそんな私の浅はかな願いを真剣に受け止めてくれました。

「判ったよ雪乃、俺が絶対にその願いをかなえてやるからな。スゲー勉強して、必ずお前の願いを叶えてやる」

 私のそんな素朴な願いを、兄はまるで自分の人生の課題のように受け止め、力強くそう答えてくれました。私は兄のそんなところがたまらなく好きだったんです。
 兄は幼い頃から頭が非常に良かったんです。いえ、ただ『頭が良い』では済まないレベルでしたね。まさしく天才でした。私のその言葉を聞いてからはさらにその頭脳をのばしていきました。元々の天才がさらに努力するんですから、その上昇力は驚異的です。小学校では兄に算数や理科などを教える教師がいなくなりました。
 父は兄のその才能を喜び、財力で各方面から独自に分野別の天才を兄の家庭教師として招き兄に付けました。もう兄にとって義務教育はただの枷にしかなりませんでした。
 そんな折りに、兄は病気を発病しました。
 体の筋肉が急激に衰えていく難病でした。右手と、かろうじて首から上が動くだけで、兄は車いすで生活するようになりました。
 ですが幸い脳細胞は病気の影響は受けず、むしろ健康だったときよりも冴えているような感じでした。
 そんな難病に冒されながらも、兄は前向きで常に私の事を気に掛けてくれました。

「雪乃との約束、守らなきゃならないからな」

 いつも兄はそう言って笑っていました。私には声しか聞こえないけれど、兄がどんな顔をして笑っているのか判る様な、そんな声だったと思います。
 それから兄は父に頼んでこの地下に自分専用の研究室を作り、独自の研究開発に没頭しました。兄の病気が発覚した時は愕然としていた父も、兄の頭脳が健在な事を確認すると積極的に支援し、各方面から兄をバックアップする専門家を招き、兄に付けました。
 当時、兄に協力していた人は7人でした。兄を含めたこの8人が最初の『使徒』です。
 そして開発計画を立ち上げからから8年目にして、今の『インナーブレインシステム』原型となる装置が完成しました。何度目かの実験の後、安全性が確認できた段階で、正式に私と兄が被験者になりました。
 私たちはそのシステムで仮想空間に入り、そこで私は初めて兄を自分の目で見る事が出来たんです……

☆  ☆  ☆

「あの時の兄の笑顔は忘れられません。私たち兄妹は初めて普通の人のようにお互いを認識する事が出来たんですよ」
 雪乃さんはそこでいったん言葉を切り、目をつむっていた。恐らくその時の事を思い出しているんだろうなぁ。
 しかしインナーブレインシステムの開発の裏に、そんな秘話があったなんて思いもしなかった。ただ単純に体感ゲームとしての装置としてしか考えていなかったもんね。雪乃さんの『お兄さんを見てみたい』つー想いと、鬼丸の『妹の願いを叶える』つー強い意志が今のインナーブレインを作ったんだねぇ……ええ話や〜
「良いお兄さんね、朋夜さんって……」
 とマリアがしみじみと漏らす。悪魔の君でもその辺りは理解できるんだね。てっきり人間の愛情なんかは理解出来ないもんだとばかり……
「ええ、素晴らしい兄でした。兄はこのシステムを医療に応用するつもりでした。私たち兄妹のような境遇の人でも、このシステムを使えば、愛する人の姿を見て、その手に触れて、その声を聞く事が出来る。兄はそんな人たちのメンタルケアやリハビリに利用するつもりだったみたいです」
 なるほど、確かにセラフィンゲインでは、身体的に不自由な人でも健常者と同じに活動する事が出来る。そう考えると雪乃さんの言うとおり、そう言った利用方法に使用する事が出来るはずだ。
「そんな考えもあってか、兄はそう言う人たちが利用できる楽園になればと願いを込めて、このシステムに連動する空間プログラムを『エデン』と名付けたんです」
 プログラムエデン。確かにそう言った境遇の人達からすればこのシステムは『楽園』と呼ぶにふさわしい物だ。さっき聞いたときはこ洒落た名前だと思ったけれど、その話を聞いたらこれほどマッチするネーミングはないように思えてくる。センスがいいね、鬼丸。
「でもさ雪乃、何でそれがあんな戦闘ゲームになってる訳? 今の話からすると真逆な気がするんだけど」
 マリアの言うとおり、そうなんだよね。インナーブレインシステムは現時点ではセラフィンゲインでしか利用されていないはず……確かに今言った様な利用法が現実となれば、画期的なケアが出来るんじゃないか?
「そう……アレは兄が当初考えていた利用方法ではありません」
 急に話方が暗くなった雪乃さん。あれ? どうしたんだろう?
「インナーブレインシステムとエデンの完成を見た父は、それを自分の会社の利益に繋がる活用方法を考え、兄に命じました」
 利益になる活用方法? 医療関係でも相当な利用価値があるし、画期的なシステムだからかなりの利益的価値があると思うけど……
「父はこれを……もっとも儲かるビジネス。『軍事』に利用する事を思いついたのです。当時父はその分野にも進出し始めていて、何か画期的なアイデアを模索していました。そこで兄の作り上げたシステムを応用することを考えたみたいです」
 えっ? 軍事利用? 仮想体感システムにどんな軍事的価値があるってーの?
「兵士達の戦闘訓練と戦術方法の構築・検証……このインナーブレインシステムを使えば、実際に兵士を死なせることなく、より高度で実践的な訓練が可能になります。それに伴った戦術の検証や想定される攻撃に対しての対応策とその実践など、その利用価値は医療などとは比べ物にならないと父は言いました」
 コンバットシュミレータへの転用か……
 現在僕たちがやっている『セラフィンゲイン』は、まさに『現実』と遜色ないリアリティーがある。その目にするリアルな風景だけじゃない。頬に受ける風や温度。臭いや口にする食料の味。傷ついた時の痛みや死の恐怖……
 アレはまさに『もう一つの現実』と言っても差し支えない現実感を伴ったまさに『仮想現実』だろう。前に雪乃さんが言ったように、脳を媒体としたこれほど完成された仮想領域体感システムは他にはないね、多分。
 確かに雪乃さんのお父さんが言うとおり、理想的な訓練システムかもしれない。
「でもさ、それとオンライン体感ゲームとどういう関係があるの?」
 マリアの疑問はもっともだ。コンバットシュミレータならインナーブレインと仮想空間プログラムですでに完成されているはず。ゲームにする意味が分からない。
「実施テストです。より高度なシステムにするには膨大なテストが必要です。セラフィンゲインは様々なプレイヤーが行動する事により、そこで発生した不具合や問題点などを対処してより完成度の高い仮想空間を作りだしているのです」
 なるほど、僕たちプレイヤーにプレイさせることでシステムのテストをしている訳か。
「そして二つ目……父はこちらが本命でした」
「本命?」
「当時父にはもう一つ開発対象がありました。高性能なAIの開発です」
 AI? 高性能AI開発にセラフィンゲインが関わっているのか?
「高性能なAIを作り出すためにはより多くの人間の思考をシュミレートする必要があります。恐らく父の目的は軍事的な目的としますから、なるべく好戦的な人間の思考を蓄積する必要があった様です。戦闘状態の人間の心理面から導き出される行動……より多く、多種に渡った人たちの心理データ、行動データを抽出し蓄積させること。これは兄の考えていた医療利用では出来ないことです。そこで父はセラフィンゲインを利用してそれを集めることを思いつきました。セラフィンゲインが『ファンタジーロールプレイング』の形態を取っているのは、より様々な層の人の思考を集める為にもっとも人気のある種類のゲームだからです。
 そしてセラフィンゲインにはそのプロトタイプが実装されています。セラフの出現率やその攻撃力の強弱。NPCの行動や会話対応、さらにはフィールド環境やクエストレベルの微妙な変化……あの世界におけるそれら全ては、そのAIによって管理されています。自己学習能力があるので、自分でデータを収集して検証し、判断します。もうかなりのレベルまで成長していて、今では創造者であり管理者でもある『使徒』の指令を『拒否』する事もあるそうです」
 知らなかった……僕達プレイヤーはAIが管理している『箱庭』で狩りをしている訳か……こういうのなんつーの? 釈迦の手のひらって奴?
「プログラム『メタトロン』……そのAIの名前です」
「メタトロン? 何かどことなく可愛い名前ね」
 とマリアが口を挟む。可愛い? そうか? 僕は一瞬トランス○ォーマーを連想しちゃいました。そんなマリアの言葉に、雪乃さんはクスリと笑いながらこう答えた。
「メタトロンとは天使の名前です。7人の大天使の1人で『契約の天使』または『天使の王』と呼ばれ『神の代理人』の称号を持ち、大天使長ミカエルをも凌ぐ天使と言われています」
 天使の王メタトロン……その名前を冠したAIに統合管理されたこの世ならざる仮想世界……まさにセラフィンゲインは『天使が統べる地』って訳だ。
「話を戻しましょう。あの世界はメタトロンによって管理されていて、管理者にも手が出せないエリアも少なからず存在します。カゲチカ君なら知っているんじゃないですか? そんな存在意義が判らないエリアを」
 そう言えば確かにある。『なんのためにあるのか判らないエリア』が。
「た、た、たとえば、ス、ス、『スローンズ大聖堂』とか……あ、あと、に、『西の荒野』とか……ケ、ケ、ケ、『ケルビム・タワー』とか……」
 『スローンズ大聖堂』は一応クエストフィールドなんだけどセラフが出現しないし、『西の荒野』は身を隠す物が全く見あたらない荒野がウンザリするほど果てしなく広がり、中・上級のボスセラフが徘徊する危険地帯で、おまけにマップが無いのでベーステントから離れすぎると迷って帰れなくなる。『ケルビムタワー』は石造りのバカ高い塔で、確か20層のフロアがあるんだけど、出てくるセラフが雑魚ばかりでボスが存在しないクエストフィールドだった。
 他にもよく判らないエリアがあるが、代表的なのはそんなところかな。
「ええ、いずれも初期段階では存在しません。メタトロンによって後から創られたフィールドです。そして……あの『聖櫃』も『使徒』には手が出せないフィールドなんです」
 そうか、あの過剰な殺傷設定も、前に鬼丸が言ってた『特殊なフィールド設定』も全てそのメタトロンというAIによる物だったのか。しかし何故?
「あ、あ、あの、ゆ、ゆ、雪乃さん。せ、せせ、『聖櫃』って、い、い、いったい……」
 『聖櫃』は僕が今挙げたフィールドとは明らかに違う。なんつーか、試されてるような……
 セラフィンゲインは平等に勇気が試される場所―――
 痛みや死の恐怖を勇気で乗り越えて初めて受ける賛美と称号。猜疑や打算、信義と情熱、喜びと悲しみ、絶望と恐怖……それら人間の様々な感情が混ざり合い溶け込んだ魔女の鍋。
 プログラムの開発者である『使徒』達の意向を拒否し、あの世界を管理し続ける、天使の名を持つ人工知能が、僕たちプレイヤーを試みる訳とは?
 前に『沢庵』で雪乃さんは言った。
 過剰殺傷に設定されているのには、そこに秘められた意味があると……
 あの鬼丸が仲間をロストさせてまで目指した『聖櫃』には何があるんだろう?
 
 
第18話  魔女の目的


「以前兄が言っていました……」
 僕の問いに、雪乃さんはゆっくりと答えた。
「あの『聖櫃』は恐らく、セラフィンゲインのシステム領域だと……あのクエストNo,66『マビノの聖櫃』は、システム領域に行くための唯一のゲートなんだそうです」
 セラフィンゲインのシステム領域……つまりあの世界のコアとなる部分てことだろ? プレイヤー側からアクセス出来ちゃうってちょっとまずくない?
 そんな僕の心の中の呟きを見透かしたかのように、雪乃さんは話を続けた。
「兄の考えは多分間違っていないでしょう。その証拠に管理者である『使徒』達はあのクエストを削除しようとしました。ですが、さっきも言ったようにあのフィールドは、メタトロンによって外部アクセスを切断されていて削除出来なかったようです」
「でもさ、その『メタちゃん』とか言うのも変わってるわよね。だってものすごく頭のいいコンピュータなんでしょ? だったら何でわざわざ自分の所にこれる手段を残しているのかしら?」
 『メタちゃん』ってお前……
 マリアの出会って直ぐのそう言うところは、どうやら人間だけが対象じゃないらしい……
「メタトロンがどういう思考を元に『聖櫃』を残しておくのかは判りません。ですが、これはあくまで推測ですが……」
 雪乃さんはそこでいったん言葉を切り、少し考えながらこう答えた。
「メタトロンは人間の思考や行動を蓄積し学習する為に実装されたプログラムです。あのクエストでメタトロンは我々プレイヤーを試しているのかもしれません」
「試す? 試すって何を?」
「明確な意志を持って挑む者達……その者達に過酷な試練を与えた場合の集団意識、その心理と行動選択データをサンプリングするために……」
 雪乃さんの言葉が頭の中で反響する。そう言えばあの日、鬼丸が似たようなことを言っていた気がする。

『此処に来るには戦闘能力よりもむしろ『動機』や『意志』みたいな物が重要なんだ。チームとしてのな……』

 互いに信頼しあい挑戦するチームに過剰なまでの試練を与え、プレイヤー達を試す。過酷な条件下に置かれた人間の心理を探りデータを蓄積させる創られた天使。
 恐怖に駆られ身勝手な行動で仲間割れを起こすチーム。目的達成のため裏切り、また自分も裏切られる……全滅寸前のチームなんてどれも似たような物だ。メタトロンがあの世界を管理しているのなら、そんな人間の行動なんて他でいくらでも観てこれただろう。それでもなお、人間を試そうとする心理ってどんなんだろう? あの世界を統べる者にとって、それにどんな意味があるのだろう……
「兄がシステム領域を目指していたのは確かです。でもそこで何をしようとしていたのかは、今となっては判らない……兄が何の目的でそこを目指したのか、聖櫃で何があったのか、私はどうしても知りたい」
 そういうと、スノーは深い息を吐いた。
「兄の意識は、恐らくまだセラフィンゲインに存在している。現実世界での肉体は消滅しても、意識データとしての『朋夜』はまだあの世界にとどまり続けている……」
「まさかそんな……何を根拠に?」
「私にはわかるの。兄妹だからなのかもしれないけど……あの世界で、兄の気配を感じるの。兄はまだ、あの世界に居る……」
 それはいつも冷静で論理的なスノーの答えとは対照的な、根拠のない、それでいて確信めいた答えだった。超が付くほどの天才的頭脳を持ちながら皮肉にも半身をもがれた運命を呪い、絶望の果てに自分の肉体に見切りをつけ自ら創造した世界に意識だけを補完させる……現実世界で羽をもがれた使徒が、この世ならざる世界で本物の天使になる……か。
 ファンタジーじゃあるまいし。と思う反面、どことなく否定できない気分がある。俺の場合、兄妹であるスノーとは違いもっとシンプルな考え『あの鬼丸が意識が戻らないまま死ぬわけがない』という思いだけだ。現実側に意識がないまま逝くつーのが鬼丸らしくない。あいつが現実側に不在なのなら、あいつが居るべき場所はあの世界以外考えられない。それほどあの世界での鬼丸は強烈な個性を放っていたんだ。
 ゲーム内にデジタルデータとして転送された被験者の意識が、現実世界の肉体が無くなってもサーバ内残留し続ける……
 あの世界でロストした未帰還者達が、現実側に肉体を残したまま意識を消滅させた結果なら、その逆もまたあり得るのではないだろうか?
 自分の肉体に限界を感じていた鬼丸が、あの世界にとどまり続けることを望んだとしても不思議はない。
 セラフィンゲインは天使が統べる地……そういう奇跡には事欠かない。鬼丸は何らかの方法でそのAIと邂逅し、あの世界にとどまる方法を見いだした……
 はたまたそのAIと契約でも交わしたのかもしれない。なにせ『契約の天使』なんていう名のAIなんだし……って何考えてんだ? 俺は……
「それが私が『聖櫃』を目指す本当の理由……」
 そう言って雪乃さんは僕を見る。毎度の事ながら、どう考えても見えているとしか思えないその瞳には少し不安の色が伺えた。
「ごめんなさいカゲチカ君。『最強チームを作る』なんて言ってホントはそんな動機で……その……なんか、だましたみたいで……」
「い、いい、いや、ぼぼ、ぼ、僕は、べ、べべべつに……」
 雪乃さんがスノー化が解けたのにつられて僕のシャドウ化も解け、自分の意志とは無関係にまるでバトルDJのテーブルの様に勝手にスクラッチを決めまくる僕の言語にノーリアクションで見つめるちょっと潤んだ瞳。そんな目で見つめられると僕の方こそごめんなさいっ!!
「いいじゃん、そんなの。あたしもカゲチカもそんなの抜きで楽しんでるんだし。それにさ、雪乃の目的は『ラグナロク』の目的でしょ?」
 そう言って笑うマリア。相変わらずのその軽さは別にして、そのことだけはマリアが正しい。確かに『伝説の最強チーム』という言葉にブルッときてチーム入りを決めたけど、今ではそんなの抜きにして単純に『楽しい』からだ。
「マリアさん……」
「そんな顔しないでよ〜 『仲間』でしょ? あたしら。きっと他の連中も同じだと思うよ。ねえ、あんたもそうでしょ、カゲチカ?」
 ―――仲間
 かつて僕にそう言って笑った男の妹に、さも当たり前のような顔をして同じ言葉をかけるマリア……少しだけおまえに感謝するよ。
 鬼丸、あんたに言えなかったけど、あんたの妹は紛れもなく仲間だよ。
「よし、そうと決まればなんかやる気出てきた。今日も暴れるぞぉ!!」
 と、およそ年頃の女の子が口にしないだろうと思う言葉を発して妙な気合いを入れるマリア。『がんばるぞ!』とか『やるぞ!』じゃないんだね、君の場合。
「よし、とりあえず秋葉へゴー!」
 と妙なテンションで拳を掲げた後、急に思い出したように僕の方を見た。
「―――と、その前におなか空いた。駅前でパスタとクラブサンド宜しく!!」
 そう言ってとびきりの笑顔で僕の右肩を叩く栗毛の悪魔。その宜しくって何っ?
「前回のEXPみんなレベルUPに回しちゃったじゃない? 装備の補充考えたらアクセス分ぐらいしかリザーブなくてさ、キャッシュにしなかったのよね。それにあんたには色々貸しがあるじゃない?」
 ちょっと待て。なんだその貸しって? ガイドもこなしたし初回のアクセス料もそうだけど、最初の頃のデッド&リスタートの分も僕が立て替えてまだ返してもらってないぞ!? そもそも仮想世界にもかかわらず毎回沢庵で暴飲暴食を繰り返すおまえの飲食代を誰が払っていると思ってるんだっ! どう差し引いても、貸しはあっても借りはないだろっ!!
「ちっさいわねぇ〜 細かい男は嫌われるよ。仲間でしょ〜? ねえ、雪乃?」
 そう言って同意を求められた雪乃さんは微妙な微笑み返しでスルー。
 ―――今さっきちょっとだけおまえに感謝した自分が悔しくて仕方ないよ……
 

 そしてその日のアクセス後、おなじみの沢庵46番テーブルに集まったメンバーに、スノーの家で聞いた真相を皆に掻い摘んで説明した。後で聞いた話だがスノーはこの46番テーブルを年間で指定契約してるらしい。そんなことが出来るなんてのも知らなかったが、いったいどれだけの経験値を支払ったんだろうか……
「なるほどね。どおりでスノーにリアルで会わないわけだぜ。家からアクセスしてんだもんな。しかし目が見えないってのは驚いたぜ」
 と言いながらリッパーはしみじみとスノーを見た。確かにこの世界じゃスノーは完全な健常者だから無理もない。もっともスノーの話から言って、それを目的に開発されたといっても良いシステムな訳だし。
「それにしても…… 一目兄の姿を見てみたいっていう妹の願いを叶えるために、病に冒されながらもそれに応えようとする兄の姿…… ううっ…… 良い…… 良い話じゃなぁ〜い」
 そういいながらチ〜ンと涙を流しつつ鼻をかむドンちゃん。顔と体に似合わずモーレツに涙もろいらしくのっけからこんな感じで説明する俺たちは逆に驚かされた。心は乙女と言うけどさ、他の要素が真逆なだけギャップに驚くと言うより、もう何かのギャグなんじゃね? という疑いすら沸いてくるね。つーか、むしろギャグであったほうがいい気がするのは俺だけだろうか。
「鬼丸が『使徒』だっただけでもサプライ〜ズだったのにプリティ・スノーがまさかそのプリティ・シスターだったとはね。ミーもベリーにサプライ〜ズね。これってアレか? トウダイ・モトクラ・シーってやつかYo」
 ちげーよっ!! 
 だいたいなんだよ『シー』って! 『ア・バオア・クー』じゃあるまいし。変なとこで区切るなっ! 諺なんて覚えんでいいから。悪いことは言わん、おまえは無理に頭使うな。ただでさえ残り少ない大事な回路がショートするぞ!
「ま、目的地が一緒な訳だしいいんじゃね?」
 と軽くリッパーが呟く。まあ、おまえの場合は切り刻めればいいわけだしな。サンちゃんは相変わらず無言のお地蔵さんを決め込んでいるが、その表情は反対の色が見えない。基本スノーの優秀な副官的立場を貫いているようだ。
 とりあえず黒いサルはほっといて、一応皆納得といった表情だった。
「みんな…… ありがとう」
 そう言って立ち上がり一同に感謝の礼をするスノー。
「な〜に言ってんのよスノー。……もぐもぐ……さっきも言ったでしょ?……もぐもぐ……みんな仲間だって」
 もはや習慣となりつつある無意味なアクセス直後の食事を堪能しつつララが言う。あのな、とりあえず食うか喋るかどっちかにしろっ
「つーかなぜ食う? なぜ頼む? リザーブすっからかんのくせしてっ! おまえどうせびた一文払う気ねぇだろっ!」
「人聞きの悪いこと……もぐもぐ……言わないでよ。ツケよ、ツケ。セラフ撲殺してたんまり稼いだらちゃんと色つけて返すって……もぐもぐ……」
 撲殺っておまえ…… 一応女子なんだからもう少し言葉選べよ……
「それにあんた傭兵時代に結構稼いでたんでしょ? かわいい後輩の、しかもこんなかわいい女の子に何も言わずに奢ってあげるぐらいの渋い男であってほしいわね」
「アクセス直後の馬鹿げた食事を、しかも毎回こんなアホみたいな量食う後輩のどこがかわいい後輩なんだっ! ギャル曽根だってもうちょっと遠慮するぞっ! スタミナ満タンな上リアルで腹も膨れねぇつー無意味な食事代に経験値払う身にもなれっ!」
 俺の声をBGM代わりに黙々と空き皿を量産するララ。こいつ全く聞いてねぇな……
 そんなに食いたきゃドンちゃんの店で『マ・クベの壺焼き』でも食えっての、自分の金で!
「ううっ…… スノー、あたしに出来ることなら何でも言ってね。あたし一肌でも二肌でも脱いじゃうから」
 涙を拭いつつスノーにそう宣言するドンちゃん。愛すべき仲間意識なんだけど……
 でもドンちゃん、一肌脱ぐって比喩だからね? 間違ってもホントに脱いじゃだめだよ? 俺そんなの目撃したら当分悪夢でうなされそうだから
「で、今日は何を狩る? なんかウズウズしてきてとまらねぇんだけど」
 そう言いながら双斬剣をくるくる回すリッパー。足をそわそわと動かして落ち着きがなくなってる。礼の発作がまた始まったらしい。全くどいつここいつも訳わかんねーよ。一応戦闘集団なんだぜ? 俺らは……
「クエストNo.87『岩山に潜む驚異』にしようと思うんだけど……」
 と言うスノーの言葉に一同うなずく。約一名は相変わらず意味が分かっていない。
「おお、ララも『ドンペリ』狩りに挑戦するレベルまできたわけね」
 リッパーがしみじみと呟く。
 クエストNo.87『岩山に潜む驚異』とは岩山フィールドに生息する『レオガルン』というセラフを狩るクエストでクエストレベル6に相当するハイレベルなクエストだ。
 クエストレベルは基本的にはこのレベル6が最高位に当たり、このNo.87の他に3つのクエストが存在する。このレベルのクエストをクリアすることがプレイヤー達のいわば目的といっても過言ではなく、これをクリアすることで『上級者』と周囲から認められるわけである。ただし目標達成時の獲得経験値も破格だが、出現するセラフも5以下のクエストとは桁違いに強力かつ凶暴で生半可なチームでは確実に全滅。月刊ランキング3位以内のチームでさえ100%全員帰還は難しい。
 ちなみに鬼丸が消えたとされる難攻不落の代名詞、クエストNo.66『マビノの聖櫃』レベル6のクエストではない。『聖櫃』はランク外としてレベル表示はされていないのだ。この点だけを考えても『聖櫃』は特別なクエストである言える。
 さて、リッパーが言った『ドンペリ』だが、これは『レオガルン』の通称。レベル6のセラフだけあって当然その強さは折り紙付き。体長は7〜10m。見た目はでっかいペリカンのようで愛嬌があるのだが、怒り状態に陥ると巨大なくちばしがまくれあがり内部の骨格が露出し悪魔さながらの面相に変化する変わったセラフだ。
 普段の状態でもかなりの攻撃力を保持しているが、怒り状態になったらその攻撃力が2.5倍に跳ね上がる凶悪さを誇る。しかも『プロテクション』の魔法と同等の効果を持つ『波動』という特殊能力を行使し、さらにまくれあがったくちばしから発せられる奇妙な『鳴き声』には一時的にプレイヤーの体を硬直させてしまう『竦み』状態に陥らせる効果を持つ。
 そしてなんと言っても痛いのが脇をウロチョロする『雛』どもだ。『レオガルン』単体でもやっかいなのにコイツには、前に紹介したボスサイこと『ゲノ・グスターファ』と同じく子供が4,5匹くっついてくるのだ。通称『チビカン』正式な名称は『ガルン』と言い親である『レオガルン』の後に続いててくてくと登場する。見た目は親と同じ姿をしているが大きさは2回りほど小さく3m程度。攻撃力は親ほど強力ではないものの、嘴を駆使した強力な攻撃は健在でクエストレベル2〜3程度なら十分ボスセラフとして通用するほどだ。おまけに若干数値の低い『波動』も体得していて、数が多いだけにやっかいなことこの上ない。さらにこいつらは戦闘が始まって一定時間経過すると親である『レオガルン』が卵を産み、それがふ化すると復活するという極悪イライラオプションまであってとっても『ウザス』なセラフなのだ。卵はふ化する前にコンスタンスに潰しておかないと、ほっとけばどんどん増殖して手がつけられなくなってしまうのだが、親である『レオガルン』の対処に追われて思うようにつぶせないのが現状。有効な戦法は卵を生む際に完全に動きが止まり無防備状態になるのでその時を狙って集中攻撃するというもの。
 ただ、親である『レオガルン』の経験値も多いが、ほぼ無限に増殖する『ガルン』もまたそこそこの経験値を獲得できるので、旨く立ち回れば良い『稼ぎセラフ』であることから高価なシャンパンの銘柄にかけて『王』【ドン】のペリカンつーわけで『ドンペリ』と呼んでいる。
 また巣であるエリアまでも当然のように他のセラフが出現し、そのどれもがそこそこ強いので、いかに無駄な戦闘をさけ消耗を押さえて巣にたどり着けるかがキーポイントになるわけだ。
 あれからララも数回のクエストをこなし、もう少しで最初の障壁である『レベル20』に手が届くところまで来ているが、このレベル6のクエストは正直ララにはキツイのでは? と言う思いが強い。確かに他のメンバーはレベル6で『稼ぐ』実力のある上級者ばかりだが、このレベルまでくると下手に他人のフォローに回る余裕がなくなってくるからだ。クエストレベル6に挑戦するのはレベル20を越えてからでも遅くはないと俺は思う。
――――が
「たっくさんもらえるんでしょ? 経験値! 何より『ドンペリ』ってのが気に入ったわ。良いじゃんそれっ! それにけって〜い!」
 と、テーブルの料理をきれいに片づけたララは大はしゃぎだった。リザーブを使い果たし、最近バイトも休みがちで今月ピンチって言ってたもんなぁ……ララ。目の中で¥マークが泳いでるのが見えるようだ……
 本人がこうだから仕方ない。レベル6の洗礼を受けてみるのも良いかもな、コイツの場合…… よし行って来いや! 大零界へっ!!
「じゃあ決定って事で良いかしら?」
 とリーダーであるスノーが皆に一応の了解を取る。一同頷き異論がない様子。
「あたしもなんか燃えてきたわ〜」
 とドンちゃんが妙な気合いを入れる。怖いっ、怖いからっ、それっ!
「オ〜ケ〜 ミーもクーッってやっちゃうよ〜 そうそう、日本じゃペリカンはベイビーを運んでくるハッピーバードなんだよねー!」
 だまれサム、そりゃコウノトリだろ! 見た目だけのインチキ外人なんだからいちいち外人ぶるな。だいたいなんだその「クーッ」って? 飲んだら言っちゃうか?
 そんな馬鹿なサムのコメントを最後に、俺たちはテーブルを立った。確かに俺も早く『聖櫃』へ行きたいのが正直なところだ。スノーの言うとおり鬼丸の意識が、未だこの世界に残留しているのなら、どうしても会わなければならない……
 多少ララにはキツイ戦闘になるだろうが、このメンバーで挑むのだ。俺とリッパーが先手先手と動き機先を制すればララにかかる負担は軽くなる。それになんと言ってもいざとなればスノーが居る。彼女の『メテオバースト』を2,3発当てればほとんど『チビカン』は始末でき、しかも波動で多少相殺されようが『ドンペリ』の体力も大幅に削れるだろうからそれほど心配しなくても良いかもな。
 そんなことを考えながら、俺も傍らに置いてあった安綱を手に取って立ち上がり、沢庵の出口へと向かった。
 だが……
 エントリー先のフィールドで俺たちを待っていたのは、そんな安易な考えを持って挑んだことを後悔したくなるような『死闘』だった……


第19話 『契約の天使』


 いつも通り沢庵を離れて、各々消耗品の購入をすましエレメンタル・ガーデンの噴水前に再び集合した俺たちはスノーの「エントリー」のかけ声とともにクエストにアクセスした。
 一瞬の意識の消失と得も言われぬ浮遊感を味わいながら、不規則に明滅する歪んだポリゴンに視界を支配されつつ、足の裏に感じる確かな接地感を待つ。フィールド転送時のこの何とも言えない気持ちの悪さ『転送酔い』は何度経験しても慣れはしない。まるでたちの悪い安酒を空きっ腹であおった後のような巡りの悪い思考で、爪の先まで感覚が戻るのを感知しながら、俺はゆっくりと目を開けた。
 頬に感じる乾いた風にマッチした、荒涼感漂うこの岩山フィールドは…… ってあれっ?
 目に飛び込んできた風景に、転送酔いでかき回された脳が悲鳴を上げ一時的に思考が停止する。そんな自分の脳みそを叱咤し記憶にある岩山フィールドの風景とかけ離れた景色に脳が必死に検索、照会作業を繰り返す。どこだ? ここ……
「おい、どこよ此処……?」
 と追い打ちをかけるように呟くリッパー。
 少し青みがかった大理石のような光沢のある石が敷き詰められた床が広大に広がり、それに輪をかけて馬鹿高いドーム上の天井に描かれた宗教画の天使達が俺たちを見下ろしている。一切の照明設備が見あたらないのに、まるで陽光の下にいるような暖かい明るさは、天井自体がうっすらと発光しているからで、それがこの天井いっぱいに描かれた絵をより神秘的な神聖さを演出していた。
「此処って……大聖堂?」
 そう呟いたドンちゃんの言葉と、俺の脳内の検索結果の照合が同時だった。
 ああそうだ。間違いない。俺も過去に何度か足を踏み入れたことがある。クエストNo.37『聖画の詩』の舞台、『スローンズ大聖堂』だ。
「おいスノー、クエスト間違えたのか?」
「馬鹿言わないで、私がレベルいくつだと思っているの?」
 俺の問いにそう冷たく返す白銀の魔女。まあ確かに……
 クエスト間違いは初心者にはよくあることで、クエスト発注時に違うクエストNoを申請してしまい、クエストタイトルなどをよく確認しないでエントリーしてしまうことが多いが、上級者はまず間違えない。
「じゃあ転送エラーじゃね?」
「ええ、恐らくね…… サポート呼び出してみるわ」
 リッパーにそう返しながら、スノーは懐から純白の携帯を取り出し耳に当てた。サポートコールをかけるようだ。
「転送エラー…… でも変じゃない? 何で転送先がベースじゃないのかしら?」
 とドンちゃんが首を傾げる。そうなのだ。俺もさっきからそう思っていた。
 普通エントリーの場合、プレイヤー達はそのクエストの出発地点である『ベーステント』に転送されるはずなのだ。そこをすっ飛ばしていきなりメインのフィールドに転送されるなんてのは聞いたことがないし、むろん経験したこともない。
「……あれ?」
 そんなことを話している俺たちの隣で携帯の画面をのぞきながらスノーが怪訝そうな顔をする。どした?
「おかしいわね、サポートに繋がらないんだけど……」
「圏外なんじゃね?」
 アホか、リアルじゃねぇんだぜ? 此処の携帯に『圏外』があるわけねぇだろっ。
 とりあえず俺も携帯を取り出してコールしてみる。
「―――あれ? 俺のも駄目だ……サム、お前は?」
 俺の言葉に促されサムも携帯でコールをかけるが、数秒耳に当て大げさに両手を上げ首を振る。
「あたしのも駄目みたい…… あ、そうそう、ねえ見て見てっ♪ あたし迷彩色にしてみたの。かわいいでしょ?」
 と俺やサムに習って同じようにコールを試していたララが相変わらず場違いな声で自分の携帯を見せびらかす。
 あのなララ、ウッドランドパターンの迷彩柄が『可愛い』かどうかつーのも微妙だが、今はそんな場合じゃないって事、判らないかなぁ? ねえマジでさぁ?
「この前のサーバメンテの影響かしら? 仕方ないわね…… 一度リセットして再エントリーするしかないわ。各自リセットして再度噴水前に集合よ」
 用を成さない携帯を仕舞いながらスノーがそうみんなに指示を出す。
「じゃあ私から…… リセット!」
 そう言って目を閉じるスノー。しかし―――
 リセット宣言をしたにもかかわらず、スノーには何の変化も見受けられない。
「……? おかしいわね……?」
 首を傾げつつスノーは再度リセットを宣言するが一向にリセットが掛かる気配がない。
「おいおい、マジかよ……」
 そんなスノー様子を不思議に思ったリッパーもリセットを試みるが結果は変わらず、その様子を見ていた他のメンバーも各々リセットを試したが、俺を含め誰一人成功しなかった。
「サポートとの連絡も取れない、リセットも不能…… ってじゃあ俺たちは閉じこめられたって訳か? マジで? どーすんだよ!?」
 リッパーが呆れたように言う。
「ねえシャドウ、どうなってるの?」
「わからん。こんな事は初めてだ。サポートの件もそうだが、リセットが掛からないなんて聞いたことがない。なあスノー、あんたどうだ?」
 自分自身何が起こったのか判らないのでララの問いに俺が答えられるわけもなく、俺はスノーに話を振った。
「私にも判らない……エントリーも間違いなくNo,78を申請したはずなのに……」
 そう言って考え込むスノー。俺より確実に詳しいスノーですらこうなのだから俺が判るはずないじゃん。
「此処にこうしていても始まらん。最悪はタイムアウトまで待つしかないが、幸い此処はセラフが出現しないフィールドだ。確か出入り口が有ったはずだから外に出てみよう」
 俺がそう言うと、とりあえずやることもないので他のメンバーも一応装備を点検し移動を開始する。
 とその時――――
「アハハハッ! 驚いちゃってる? 驚いちゃってる感じですかぁ?」
 とおよそ場違いな子供の声が耳を打った。俺たちは一斉に声がした方を見やる。
 すると100mほど先に白いワンピースを着た少女が立っているのが見えた。年の頃は10歳程度か、頭にはなぜか大きめの麦わら帽子を深めにかぶり、黒髪のロングヘヤー以外は帽子のつばで表情どころか顔まで判らなかった。
「女…… の子?」
 俺の横でララが首を傾げる。そう、確かに見た目は女の子。けど今の声は男の子だったよな?
「なに? あの子……」
 声が掛かった瞬間に体が反応してすぐに攻撃態勢を取ったドンちゃんが警戒を緩め、手持ちの撃滅砲をガチンっとならして床石に突き立てる。
「ようこそ、僕の遊び場へ。みなさんがとっても面白いので特別に招待しちゃいました〜 驚かしちゃってゴメンね〜っ!!」
 ぱちぱち〜っと両手を叩いて拍手する女の子。やはりどう聞いても男の子の声にしか聞こえず、その見た目とのギャップがちょっと不気味だ。
 しかし、招待した? なに言ってんだ、コイツ?
「ねえ、あの子もリセットできなくなっちゃったのかな?」
「いや……」
 ララの質問に俺は答えを見いだせなかったが、そもそもオープンでエントリーしてないはずだから他のプレイヤーじゃない。それにさ……
「ララ、注意しとけ。あいつぜってー変だ」
「えっ? 何で? 可愛い女の子じゃない。同じプレイヤーだったら一緒に出口探した方が良くない?」
「女の子…… そこが問題なんだよ」
「はぁ?」
 俺の答えにララが意味が全く分からない様子で聞き返す。お前、利用規約とルールーブック全く読んでねぇだろ。
「セラフィンゲインでのプレイヤーキャラクターの容姿はリアルのそれと基本的には変わらない。選べるキャラに亜種人類もないしな。性別も同じだ。よってリアルでの本人の容姿がそのまま反映される……判るか?」
「じゃあ子供の姿って事は、単純にプレイヤーは子供って事でしょ…… あっ、そうか!」
 ララもようやく俺が言わんとしていることが判ったらしい。良くできました。
「そう…… 加えてセラフィンゲインの登録権は知っての通り18歳以上だ。EXPの換金制があるからな。つまりセラフィンゲインに子供の姿をしたプレイヤーなんぞ存在しないはずなんだ」
「じゃああの子はセラフって事? あ、それかNPCかも?」
 ララの質問に俺は答えを返せなかった。俺はこれまでに人語を話すセラフにはお目に掛かった事がない。魔法を使う知能の高いセラフも居るが、あくまで『知能が高い』という表現にとどまる程度だ。
 ララも言ってたNPCも考えられるが、この場所、しかもこのタイミングで出現するとも思えないし、確かにセラフィンゲインのNPCに組み込まれているAIが知能が高いといっても、此処まで明確に会話出来るとは思えない。ましてやプレイヤーを明らかにこっちをからかう口調はAIでは無理な気がする。『パラドックストーク』を仕掛けるまでもない。コイツはアレ達とは別物だ。
 じゃあ、コイツはいったい何なんだ?
「あれ? シャドウ。その顔は僕がプレイヤーじゃないって判っちゃってる感じ? まあでもそうか、こんなカッコだしね」
 そう言ってその女の子はすうっと帽子のつばをあげ、その顔を露わにした。
 子供らしい歯並びの整った小さな歯を覗かせて微笑むぷっくりした唇と、すっと通った鼻筋。そして濃くも薄すぎるでもなく引かれた眉の下の大きな瞳。ニコッと笑いかけたなら、大人なら何でもしてあげたくなるような愛くるしい少女の顔だった。
「なぜ俺の名前を知っている?」
「アハハ、キャラ名だけじゃない。君のことなら何でも知ってるさ。『ヨルムンガムド』の事とかね。でもね、君だけじゃないよシャドウ。他のメンバーみ〜んな。この世界で僕が知らない事なんてな〜んもないんだ」
 そう言ってカラカラと無邪気に笑う少女。声のギャップもそうだが、話の内容も濃くてギャップの差が激しく何とも不気味だ。
「だから、何なんだよお前はっ!?」
 俺とのやりとりにイライラしたのか、リッパーが苛立ちを露わに少女に向かって怒鳴る。しかし少女の方はまったく動じずマイペースで返す。
「そう怒らないの。やだなぁ、切り裂き癖のある人は。まだ判らない? 鈍いねぇ…… スノーはそろそろ気が付いたんじゃないの?」
 そう言ってスノーを見る。俺も少女を警戒しつつスノーに視線を移す。
「――――!! まさか……まさかあなた……!?」
 少し考えた後、スノーの表情が驚愕の表情になる。なんだ? スノーコイツ知ってんの?
「メタトロン……!?」
 何だって!?
「ビンゴ!! さっすが『使徒』の妹だけの事はあるって感じ。頭の回転がはやーいね」
 自立学習型高性能戦術AI『メタトロン』
 『契約の天使』はたまた『神の代理人』なんつー大仰な名前を冠した作られた人工天使。この『天使が統べる地』という名の世界を支配する統治者がこの少女ってわけかよ!
「もともと僕には固有の姿が無いからね。つまんないから自分で何個か作ってみたんだ。中でもこの姿は結構お気に入りなのさ♪ イケてるでしょ? シャドウ」
 そう言ってメタトロンはくるっとその場で回転する。ひらひらとワンピースの裾がなびいてなんともかわいらしい。
 あ――、一応言って置くがロリでもなければショタでも無いぞ俺は。
「やかましい。この世界を統括管理するAIのお前が俺たちに何のようだ?」
 このわけのわからん状況で、もしかしたら最悪の敵になるかもしれない相手にいつまでも話のペースを握られているわけにはいかない、つー傭兵時代に覚えた交渉セオリーに従い、俺は少々ぶっきらぼうに答えた。
「あー、酷いなその言い方。差別だよ さーべーつっ! そんなこと言ってるけど君たちだって今はただの『プログラムデータ』じゃんか。セラフィンゲインは『すべからく平等』なんでしょ? それは何もプレイヤーだけに当てはまる物じゃないと思うんだけどなー」
 そう言って口をふくらます少女。その動作一つ一つが本物の少女のそれを完璧に模していて可愛らしく、それがかえっていちいちかんに障る。お前ホントに何しに来たんだよ?
「まあいいや。僕はね、君たちに凄い興味があってさ、結構前から注目してたんだ。それで今日は僕自ら会いに来たってわけさ」
 ふくれっ面だった表情が急に明るく無邪気な笑顔に変わる。ころころ変わる秋の天気のような表情がまるで本物の人間の子供のようだ。前にスノーが『進化するAI』みたいなことを言っていたが、その成長の精度に驚かされる。AIって此処まで出来る物なのだろうか?
「君たちさいこーだよ。知ってからずっとトレースしてたんだけど楽しませてもらってる。僕の見てきたどのチームよりも奇抜で楽しくて、何より強い…… 戦闘能力もそうだけど、戦術や連携、いや結束力って言うのかな? 各人の練度に差があるけど、チームとしての完成度はかなり高いよね」
 高評価されてるってのは気分いいけど、それだけ分析されているって事は、逆を言えば俺たちの戦闘パターンはバレバレってわけね。もしコイツと最悪戦闘になったらやっかいなことになるな…… 他の連中も恐らく同じ事を考えてるだろうな。
 そう思いながら他のメンバーを横目に見る―――――が
「い、いや、それほどでも……ハハ」
「ば、ばか、そんなんじゃねぇって……」
「でも、あたし昔から『やれば出来る子』だったし……」
「いやいや、参ったね…… ミーに惚れちゃ駄目だYo〜」
「わ、私はリーダーとして、と、当然の行動をしてるだけで……」
「…………」

「一人残らず照れてる場合かぁぁ―――――――――――っっ!!」

 サムやララは別にしてもスノー、お前まで何赤くなってんだよっ!
 おいサンちゃん! アンタ何うつむいて鼻の頭とか掻いちゃってんの!?
「アッハハハハっ! それっ、それが良いよね〜 やっぱり君らさいこーだよ。ずっと退屈だったけど君らのおかげでホント楽しい。感謝したいぐらいだよ」
「「「いやいやいや、どういたしまして〜っ!」」」(一同礼)
 死ね―――――――っ! みんな死んでしまえ――――――――――っ!!
「お前ら気は確かかっ!? 相手はもしかしたら最悪の敵になるかもしれないんだぞっ!」
 ラスボスに褒められて舞い上がってるチームってどうなのよ、ねぇっ!?
「日頃から人に褒められる人生を送ってないだけに、褒め殺しに弱いわねウチって……」
 おいちょっと待てスノー、ちょっぴり赤い顔して何冷静に分析してんの? あんただってキャラ変わってたやんけっ!
 俺さぁ、今ほどリセットしたいって思ったことねぇよまじで。できないけどさぁ……
「まあそのお礼もかねてさ、こんなプレゼントを用意してみました〜♪」
 そう言って右手を高々と挙げる少女姿のメタトロン。するとその後方の空間がゆっくりと歪み、空間を構成するプログラムが悲鳴を上げるようにバチバチと音を立ててポリゴンを弾けさしていく。
 細かくバラバラになったポリゴンがやがて中心部へと収束していき、8m〜10m程度の物体を出現させていった。大型ボスセラフがこの空間に出現する前兆である。大型セラフの実体化はそうそうお目にかかれない現象だ。俺も久々に見るが、その大きなオブジェクトを苦もなく出現させてしまうシステムの底力に驚嘆の息を漏らさずには居られなかった。
 細かな輪郭がハッキリしてきたところで、一度空間全体が身震いしたように揺れ、地響きのような獣のうなり声を聖堂全体に響かせながら、その怪物は明らかな敵意をその瞳に宿しつつ俺たちを睥睨した。
 超人ハルクのような緑色の肌の覆われたムキムキ筋肉の上半身をさらけ出し、戦車でも一発で叩き潰せそうな巨大なハンマーを掲げ周囲を威嚇する巨人。おまけにキングコングみたいに凶暴そうな類人猿系のお顔が二つも付いてるよ……
 なんだこのセラフ? こんなの見た事ねぇぞ?
「『バルンガ・モーフ』って言ってね、次回のバージョンアップ、バージョン2.4に登場予定のレベル6セラフなんだ。ベータ版のデータベースから連れてきたんだよ。どう? なかなかカッコイイでしょ?」
 自分の足下の少女の紹介コメントに返事をするかのように、凶悪そうな口元からよだれを垂らして喉を鳴らす双頭の巨人。なまじ体が人間なだけに、その姿はある種狂気ささえ伺える。理性のかけらもない双眸が敵意の色を帯びてにらむ視線に、俺は身震いする思いだった。見るからに激ヤバそうなセラフを前に、他のメンバーもさっきまでのおちゃらけた気分が嘘のようにゴクリとつばを飲む気配が伝わってくる。
「気に入ってくれたぁ? 実践テストも出来るし、君たちの実力もはかれる。まさに一石二鳥って感じぃ。さあ、思う存分戦って、退屈な僕に見せておくれよ。スペクタクルってのをさっ♪ イッツァショータイム!!」
 明らかに場違いな声での開戦宣言を合図に、少女の後ろに控えた双頭の巨人がずいっと前進を開始した。
 くそ〜 情報の全くない未知の6セラフとなんてやりたかないがしょうがない。それにあいつをどうにかしないとこっから出られそうにもないし…… やるっきゃねぇかっ!!
 このくそガキ、お前にしか懐きそうにないその危ないペットやっつけられてほえ面掻くなよ。つーか泣かす。ぜってー泣かしてやる!!
 心の中でそう毒づきながら、俺は安綱を握る両手に力を込めた。



第20話 『虚構の囚人』


「ウォォォォォ―――――――――っ!!」
 馬鹿でかい聖堂全体がびりびりと震える様な吠え声を発しバルンガ・モーフは俺たちを威嚇した。まるで心臓を素手で握りしめられたような感覚で一瞬息苦しくなる感覚を味わう。間違いなく『竦み』というプレイヤーへの状態異常効果を付加させたセラフの特殊技能『ハウリング』だ。
 幸い俺は『虚勢』というスキルを拾得し、ある程度そのスキルレベルが高いため耐性があるが、それでも一瞬呼吸が止まるほどだ。レベルの低いプレイヤーはアイテムの『耳栓』を装備していても確実に一時的な行動不能に陥って仕舞うだろう。
 俺もこれほど強力なハウリングは久しぶりだ。あのクソガキっ、とんでもねぇセラフ連れてきやがったな……
 軽い舌打ちを吐きつつ、俺は周囲のメンバーに目を走らせる。前衛のリッパーとサムは苦い顔をしてはいるが硬直したのは一瞬らしく問題はなさそう――――が、若干一名竦みきってるキャラが居た。
「ララっ! にげろっ!!」
 どう考えても無理なのは判りきっているが思わずそう叫んだ。急激なレベルアップをしているが、キャラレベルと体力上昇以外に経験値を割ける余裕が無いつーのがことが辛いとこ。こういう場面ににわか仕込みが露呈するのはいわば必然といえる。
「あっ……ああっ……!」
 釣り上げられた鯉のように口をパクパクさせて声を絞り出そうと必死のララ。俺は舌打ちしつつ竦みによるステータス異常で声も出ない様子のララに向かってダッシュを開始する。その俺の行動を察知したのか、緑色の巨人は手にしたハンマーの矛先をララに向けた。
 野郎こっちの意図を察知しやがった。知性の欠片もない顔の割に知能が高いらしい。コイツはやっかいだ。
 巨大な鉄のかたまりが大気を裂いて襲いかかる音に肝を冷やしつつ、間一髪ララの手首をひっつかんで地面を蹴った! 背後で大質量の物体が唸りをあげて通り過ぎる気配に背筋を凍らせつつララを抱えたまま受け身を取ったと同時に、強烈なインパクトを伴った地震のような揺れが大地から伝わってきた。ハンマーの大きさが大きさだけに威力もすさまじい。あんなのまともに食らったら相当なダメージだ。
「おい、ララ! しっかりしろっ!!」
 俺はそう言って未だ焦点の定まらない瞳を泳がせているララの頬を2,3度叩いた。
 まさかお前……
 俺は嫌な予感がしてララの耳を覗き込む。すると思った通り茶色がかったゴムのような物体が耳に詰まってるのを見てその場にへたり込みそうになる。お前な……
 とりあえず俺は急いでその物体を耳からほじくり出したと同時に、放心状態で空中を散歩していたララの瞳に意志の光が戻る。
「ララっ! こりゃ何だっ!!」
「あ……シャドウ…… 何って……耳栓だけど?」
 と目をパチクリさせて答えるララ。なんだその「それが何か?」みたいな表情は!
「一番安いのじゃねえかっ! 出発前にあれほど『スーパーイヤー』にしとけっていったろうがっ!!」
 今回ショップに一人で行かせた俺が馬鹿だった……
 前に挙げた耳栓にはクエストレベルによって数種類の耳栓が用意されている。強力な『ハウリング』を発するセラフには当然安物では役に立たない。今言った『スーパーイヤー』は最強クラスであるレベル6セラフの強力なハウリングの効果を80%〜90%減殺出来、しかもその効果はハウリング効果限定でメンバー間の会話や周囲の音などには全く影響がないつー優れもので、俺のように『虚勢』スキルを拾得していない、もしくは拾得しててもスキルレベルを上げていないプレイヤーにとってはレベル6クエスト挑戦の必需品と言っていいアイテムなのである。
「だってアレ超高いじゃん。それにショップのおじさんも『これは良いもんだよ、これで装備はバッチリだ』って言ってたもん!」
「アホかっ! ありゃNPCだぞ、そんなもんAIの定型句に決まってるだろーがっ! あの店の全ての商品にその台詞付けて売っとるわボケっ!!」
 気付くだろ普通…… ドラ○エとかやったことねーんかお前。
 イテテっ……やべえ、マジで胃が痛いんだけど。このチームが伝説になる前に、俺が仮想世界で初めて胃潰瘍になった人類って伝説作りそうだ……
 モーレツに目眩がしそうな気分を深いため息とともに吐きだし、腰のポーチから『スーパーイヤー』を取り出しララに渡す。スゲー前に使ってて入れっぱなしにしてたの思い出した。
「えっ? 何これ、くれるの? ラッキー♪」
 目をきらきらさせて喜ぶララ。
「馬鹿野郎、貸すだけだ。いくらすると思ってんだ!」
 俺がそう言うとボソっと「ケチくさっ」とほざきながら耳に詰めた。あ、お前なんだその目はっ! 間違いなく『借りパク』するつもりだろっ!
 そこへまた先ほどのようにドンっという豪快な音と共に地震のような衝撃が伝わってきた。やっべっ! こんなところでララとドリフってる場合じゃなかった。
 音のする方を見るとサムとリッパーが斬りつけているのが見えた。
 リッパーが果敢にも高速で接近しダブルブレイドで斬りつけるが、バルンガモーフはその巨体に似合わず俊敏な動きで交わし、また巧みなハンマー捌きでリッパーの攻撃をはじいている。
 サムも距離を取ってリッパーの攻撃により生まれた隙を付いて槍を突き入れるが、表皮をかする程度で有効なダメージは皆無のようだ。
「くらえぇぇぇっ!!」
 後方からドンちゃんが撃滅砲を3連射。すさまじいリロードスピードだ。そのうち爆炎系呪文『フレイガノン』を封じ込めた魔法弾が1発バルンガモーフの右の顔に命中し爆炎があがる。それを見たララが「さっすが〜!」と歓声を上げた。
 確かに流石だ。しかし、あの神業のような予測射撃を行うドンちゃんが牽制に3発を使わなければならなかったのだ。あのセラフの機動性は尋常じゃない。このセラフ、ハンパねぇぞ。
 すると頭上から意味不明な呪文が聞こえてきた。魔法弾の着弾であがった煙でよく見えないが、間違いなくバルンガモーフの頭から発せられる声だ。
「魔法まで使えるのかよっ!!」
 思わず口に出た。この機動力と攻撃力に加え魔法まで行使できるなんて思わなかった。なんてセラフだ。しかもスペル中もハンマーをブンブン振り回し俺たちを寄せ付けない。
「サンちゃんっ!!」
 呪文の長さに戦慄を覚えた。長さやフレーズから言って恐らく上級呪文だ。まともに食らうつもりはないが、あれだけの機動力を保持したまま魔法を行使できるセラフだ。回避したとこで万が一にも接近されて至近で食らったらただじゃすまない。
 だが、そこは上級者。俺の考えと同じだったらしく敵が詠唱に入ったと同時に自分も詠唱に入っていたようだ。
「プロテクション!」
 サンちゃんの声と共にメンバー全員の体がほんのりと輝く。ほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、前方からバルンガモーフの濁った声が響く。
「フレイストォームっ!」
 『フレイストーム』だとっ!?
 驚愕で思考が吹っ飛びそうだったが、考えるより早く体が反応して後方に飛ぶ。次の瞬間目の前で3つの大きな火柱が地面からそそり立ち、まるで生き物のようにその身をよじらせてのたうち回る。2度ほど地面を蹴り距離を稼いだにもかかわらず、皮膚がひりひりするほどの熱風を浴びて思わずマントを被る。
 あっちー!! まさかこの距離でフレイストームを浴びるとは思わなかったぜ……
 フレイストームは爆炎系の上級呪文だ。超高熱の巨大な火柱があがり荒れ狂う様は、まさにストーム【嵐】の名に相応しい破壊力を保持している。爆炎系最上級である『メテオバースト』には及ばない物のその破壊力は強力でレベル3,4程度のボスセラフならノーダメージでも一撃で屠る威力で、上級魔導士が最後のキメ技として使うもっともポピュラーな上位呪文だった。
 火柱の隙間を縫うように視界の隅で何かが凄いスピードで上空に飛び上がるのを見た。すかさず上空を睨むと長い得物を携えた人型が上昇していくのが見えた。
 サムのジャンプ攻撃だ。恐らくフレイストームの発動した瞬間に回避し、そのままジャンプ攻撃に転じたのだろう。絶妙なタイミングだ。普段行動がサルのそれだが腐っても上級者。あいつもやるときはやるもんだ。
 空中でクルリと回転し向きを変え、馬鹿高い天井を蹴って槍を構えてミサイルのように急降下するサム。いっけー!!
 だが、その瞬間巨大な影がサムの背後に覆い被さった。下にいるはずのバルンガモーフが降下するサムの背後で体をひねる。一瞬その二つの狂気の口元が吊り上がり笑ったように見えた。
 次の瞬間、バルンガモーフはその手にした巨大ハンマーで空中にいるサムを、まるで虫を落とすようなしぐさでたたき落とした。
「サム――――――っ!!」
 悲鳴のようなララの叫びが鼓膜に突き刺さる。俺は声も出せず驚愕に打ち据えられていた。そんな馬鹿なっ!?
 派手な音と共に聖堂の壁に突き刺さるサムを後目にバルンガモーフを睨む。地上に戻ったバルンガモーフは勝ち誇った様に雄叫びを上げ、弱まった火柱の向こうで両腕を頭上に掲げていた。
「あ、あいつ俺たちの行動を読んでやがるぜっ!」
 吐き捨てるようにリッパーが叫んだ。
「攻撃を読む? いや違う。違うぜリッパー……それだけじゃない。あのセラフ、今とんでもねぇ事をやってのけた……」
 俺は自分の考えをゆっくりと言った。ホントは言いたくない。現実に認めたくない事なんだよ……
「―――どういう意味だ?」
「あのセラフ……サムを誘いやがった」
 声に出した瞬間、それは確信に変わった。間違いない。先のフレイストームはフェイント……それを回避してサムがジャンプすることを読んでいたんだ。
「相手の攻撃を完璧に予測することは難しい。だが、先手で伏線を張れば行動は限定される。あいつはフレイストームを使い次の行動の選択肢を少なくしてサムがジャンプ攻撃に出る確率を上げたんだ」
 さっき笑ったように見えたのも錯覚じゃない。あいつは確かに『笑った』のだ。自分の張った罠にまんまと嵌った獲物にほくそ笑んだのだ。
「まじかよ……!」
 リッパーがごくりとつばを飲む。信じられないと言った様子だ。
 俺だって同じ気持ちだ。いくら知能の高いAIと言っても所詮はプログラムだ。戦略レベルでなら話は分かるが、データに基づいたある程度の攻撃パターンの予測はできとしても今のように後手の攻撃行動を誘導するような高度な戦術を瞬間的に採ることが可能なのだろうか……
 そこにあの場違いな声が掛かる。
「さっすがはシャドウ。するどいね〜 その通り。あのセラフは君の言うとおりフェイントを使ったのさ。サムはまんまとそれに引っかかったって訳〜♪」
 いつの間に移動したのか、少女姿のメタトロンは先ほどサムが撃墜された天井付近をふわふわと浮遊していた。飛べるのかよ…… 何でもアリだな、あいつ。
「うるせぇ、パンツ丸見えで見下してんじゃねぇ!」
「アハハハッ ずいぶん余裕じゃんか。でもそこが君たちの良いトコなんだよね〜」
 いちいちカンに触る。そっちこそ余裕ぶちかましやがって……
 とりあえず攻撃の意志はないみたいだから無視しよう。ムカつくから。
「なんだよ〜 あからさまにシカトすんなよ〜」
 いったい何なんだよお前!
「じゃあ、少しだけシャドウの疑問に答えてあげるよ〜 きっとバルンガモーフの秘密知ったら驚いちゃうよん♪」
 俺の疑問? あの化け物の秘密? なんだそれ?
「どういう意味だっ!?」
 とりあえずそのあたりは聞いておこう。
「君のことだから大方『フェイントなんて言う高度な戦術がAIに出来るのか?』なぁんて疑問が頭の中に渦巻いちゃってるんでしょう?」
 まったくもってその通り。まあ、お前つー例があるが、たかがセラフにそこまで高コストなAIを使うとは思えない。しかし、あのセラフの知能の高さはAIのそれじゃ無いように思える。
「君の想像通り、セラフのAIではあの行動は不可能だ。君たちから見て僕はどうだい? 人間にみえるかい? こんな僕でさえ此処までくるのに膨大な人間の行動データの蓄積が必要だった……」
「何が言いたい?」
「ハッキリ言うよ。この僕でさえ、今のバルンガモーフのような瞬間的な戦術の応用は無理なんだ。君たち人間のそうした突発的な行動は僕たちで再現するにはまだ何年も掛かるだろうね」
 あっさりと認めやがった。そうだろう、人間様の頭の中はそんな簡単な構造じゃねーんだよっ! リアルじゃあまり役に立ってくれないけどな!
 先ほどからコイツの話に合わせて行動を停止しているバルンガモーフを睨む。その隙に目の端でサムの様子を覗くとサンちゃんが回復魔法をかけていた。
 ちょうど良いインターバルだ。会話終了後、即座に戦闘になっても何とかなりそうだ。考えながら再びメタトロンに視線を戻す。
「はんっ? 最高のAIであるお前が無理じゃあのセラフはどうなんだよ? ありえねぇだろ? 不可能じゃねぇか」
 俺のその答えに空中の少女はクスクス笑っていた。まるで大人になぞなぞを仕掛ける本物の子供のような仕草だ。
「それが出来ちゃうんだなぁ〜 ある物を使えば♪」
「ある物? 何だそりゃ?」
「じゃあヒントだ。この世界にはい〜ぱい集まってくるだろ? その材料がさ」
 集まってくる材料? うむぅぅ……あ〜ムカツク! なんだあのとぼけた顔っ!
 
 ――――――――!!

 一瞬、ある考えが頭をよぎった。そんな馬鹿なと思いつつ、否定しきれないその思考が頭をもたげていく。そして俺はそんな考えを振り払うように空中に浮かぶ少女の顔を見た。
 その顔は笑っていた。その瞳を輝かせてわくわくした表情で。きっと『その答えにたどり着くぞ』といった確信をもって……
「お前……まさか……?」
「その顔は判っちゃったぁ? 判っちゃった感じですかぁ?」
 カラカラと笑う無邪気な笑顔を凝視し、俺はそれが正解だと気づき愕然とした。そして沸々体の芯からとわき上がる衝動を自覚する。
「おいシャドウ、判ったのか? あのセラフの秘密が?」
 横にいたリッパーが俺を見る。
「プレイヤーの意識……恐らくあのセラフには俺たちと同じプレイヤーの意識がインストールされているんだ……」
 俺は声を絞り出すように答えた。
「ピンポーン♪ 大正解〜」
 そう言ってぱちぱちと拍手を送るメタトロン。クソガキっ、てめぇ……っ!!
「ってことはあのセラフはプレイヤーキャラなの?」
 とララが俺に問う。いや違う。恐らく……
「ロストプレイヤー……未帰還者か?」
「そうさ。前に一度君らにぶつけてテストしたんだ。覚えてる?」
 カイン達のことか。あれもコイツのしわざだったってわけかよ。俺はちらりとスノーを伺う。スノーは一言も発せず口を真一文字に結び少女を見上げていた。ローブの端からちらりと覗くワンドを握った手がわずかに震えているように見えた。
「ホントはテストともう一つ目的があったんだけどさ〜 そこの白いお姉ちゃんが反則技で消しちゃったから失敗しちゃったんだ」
 あの時の光景が脳裏によみがえる。確かに奴の言うとおりテンパったスノーが禁呪のはずの『コンプリージョン・デリート』を発動させ、強制削除させちまったんだ。
「まあ、あれはまだ試作段階だったからいろいろと不具合があって上手くいかなかった。人の姿だと理性が留まろうとする意識が強すぎて行動が制御不能になっちゃうんだよ。そこで筐体を変えて純粋な戦闘意識だけを抽出してAIのプログラムに割り込ませてみたんだけどこれが思いの外上手くいったのさ。高度な戦術を選択できるだけの知能と理性のバランスが肝だったね」
 まるで夏休みの自由研究を説明するような口調で狂った研究を説明するメタトロン。
 てめえぇ……!
 何度死の恐怖を味わいながらも再びフィールドに立つ冒険者。
 当人の性格や人間性、その他たくさんのリアルでの事を抜きにして、この世界に接続し続け、凶暴な驚異に立ち向かうプレイヤーの勇気だけは……それだけは俺たちプレイヤーが等しく誇れるものだ。
 志半ばで倒れ、夢の世界で彷徨うことを余儀なくされた未帰還者達もそう感じながら戦ってきたはずだ。それが潰え、たとえただの蓄積データになってしまったとしても、その戦友達の勇気には敬意を払うべきだ。この仮初めの世界で、いや、嘘であふれたリアルもひっくるめて、この世界で何度も死と再生を繰り返すプレイヤーの勇気だけは本物なんだ。
 俺はそんな戦士達を侮辱する行為を許すことは出来ない……

 あいつは、そんな散っていった戦友達の魂に唾をはきやがったんだっ!!

 俺は沸き上がる得体の知れない衝動にかき立てられるように安綱の刃先を無邪気に笑う少女に向けた。
「クソガキ……俺はお前を許さない……」
 俺は不思議なほど静かに、この世界を統べる天使にそう宣言した。

 
第21話 『魔女の矜持』

 俺は安綱の切っ先を空中に浮遊する少女に向け、そのあどけない顔を睨んだ。
「はは…… 大した威圧感だ。プログラムである僕がプレッシャーを感じるとはね。流石と言ったところか……」
 そう言ってメタトロンは乾いた笑いを漏らした。心なしか先ほどより邪気が弱まったように感じる。AIであるコイツにそんな人間らしい『感情』の様な物があるのかわからんが、知ったこっちゃ無い。どうにもコイツは許せそうにないんだよ。
「まあいいさ、何にせよこの戦闘である程度はハッキリするからね」
 ハッキリする? なにがだ?
「どういう意味だ?」
「いやなに、こっちの話だよん。そんなことよりつよ〜いでしょ? 僕のチューニングしたバルンガモーフは。大丈夫? 見たところ有効打はまだ1度も無いみたいだけど。頑張らないとやられちゃうよ〜?」
 雰囲気が変わったのも一瞬のことで、またさっきのようなふざけたしゃべり方で俺たちを挑発する。
「あの野郎、人間様をオモチャにしやがって…… なんかスゲームカつかね?」
 とリッパーが呟く。奴も俺と同様の気持ちらしい。珍しく意見があったな、俺たち。
「同感だ。何とかあのふざけたあいつをぎゃふんと言わしてぇ……」
 リッパーに狂おしく同意。同じプレイヤーとして、そこはなま暖かくスルー出来ない部分だよな、まじで。
「あたしも聞いてて腹が立ってきた。人の道に反してるわ。若干それてるあたしが言うのもなんだけど」
 ははは…… ドンちゃんのはさ、人の道でもオカマ道だけどね。
「ん――― いまいちよく分からないんだけどぉ…… ここは拳で解決する方向で……」
 おいララ、どんな方向だ、それ? つーかここはって限定しなくても、いっつもそうだろ? お前の場合。
「昔ミーのグランマが言ってたネ…… 左のケツ叩かれたら右のケツも出せって…… こうなったらノーマーシーね。100倍にしてリターンざんすっ!!」
 サム…… 気持ちは分かるが意味がわからん。何だケツって? そもそもお前のばあちゃんお前が生まれる前にとっくに天国でバカンスしてるだろっ! 会った事ねぇって言ってたじゃねぇかっ!
「私も腹に据えかねる…… 魂を救済する者として見過ごせない冗談だ」
 さ、サンちゃんが喋った! って当たり前か。別にしゃべれないわけではないし。確かにリアルで現職の僧侶なだけに、魂を弄ぶような所行はスルー出来ないんだろうね。
「私も一人のプレイヤーとして…… いいえ、この仮想システムの開発に携わった者として、そしてその原型を『楽園』と名付けた兄の想いを汲む者として……」
 スノーが静かにそう言葉を紡ぐ。少し下を向いていたフードと下ろした前髪で隠れたその美貌がゆっくりと顔を上げ、その瞳に確固たる意志の光をたゆらせて。
「私は……」
 そう言いかけ、ちらりとメンバーに視線を回した。その瞳に若干の迷いの色が伺える。
 しかし、その瞳の色に答えるように皆一様に頷いた。
 大丈夫だ。皆お前と同じ気持ちだ。俺たちは『仲間』だ。そしてお前は俺たちのリーダーなんだから。良いぜスノー…… 言ってやれっ!
「私のチーム『ラグナロク』は絶対お前になんか負けない。絶対お前になんかに膝を屈しない。そして、絶対お前を許さないっ! お前が私たちのどんな姿を期待しているのかは判らないけど、きっと期待には応えない。応えてやらない。たとえデッドする結果になったとしても、誰一人逃げない。たとえ最後の一人になっても最後まで戦い抜くわっ!」
 『神の代理人』の称号を持つ大天使の名を冠するこの世界の支配者に、高々とそう宣戦布告するスノー。先ほどまで覗かせていた迷いの色は微塵もなく、その決意を秘めた美貌にはある種の神々しささえ伺える。
「そうそう、その意気だよ―――あ、そうだ、一つ忠告しとくけど此処では君のれいの反則技は使わない方がいいよ? このフィールドは通常システム外の閉鎖プログラムだから、何が起こるか判らないよ。まぁ、無理にとは言わないけど……」
 反則技? 『コンプリージョン・デリート』のことか…… 確かに奴の言うとおりシステム領域に近いこの空間なら極めて危険な行為だ。しかしスノーの答えは簡素だった。
「忠告なんて無用よ、アレはもう使う気はないから」
「そうかい。まぁそうだよね。みんなまとめてロストなぁ〜んて嫌だもんね。よ〜し、それじゃそろそろ2回戦といきっまっしょ〜!!」
 相変わらず場違いな声音で戦闘再開を告げるメタトロン。その言葉を合図に、あの地鳴りのような雄叫びを上げ、バルンガモーフがずいっと前進し始めた。
 この世界でロストしたプレイヤーのなれの果て。そんな同情めいた思いが一瞬脳裏によぎるのか、スノーは顔を強ばらせ、ごくりと唾を飲む。
「迷うなよ、スノー。確かに奴は元プレイヤーだったかもしれない。だが、あの状態ならそれこそ哀れってもんだ。せめて同じプレイヤーである俺たちの手で消してやろう…… 少なくとも俺ならきっとそう願う!」
 それはスノーだけじゃなく、俺自身にも向けた言葉だった。それが正しいのかなんて判らない。判るわけがない。今言った言葉だって、実際に自分であったら恨まない自信はない。たかがゲームで、もしかしたらその人の人生を自分が終わらせてしまうのだ。迷わない方がどうかしている。だが、俺のような特別な感情移入でこの世界に生きる者にとって、散っていった戦士達の意識を弔う事は、俺たちの義務のように思える。だから俺は躊躇しない。俺はこの世界では畏敬の視線を浴びる黒い大鴉、『漆黒のシャドウ』なのだから……
「……うん、そうだね…… ありがとう、シャドウ」
 そう言って頷くスノー。少し寂しそうに目を伏せるその顔。やっべぇ、こんな時になんだが……むちゃくちゃ可愛いんですけどっ!
「よしみんなっ! チーム『ラグナロク』反撃開始っ!!」
 そう言ってスノーは後ろに下がり、ワンドを立てて呪文詠唱の準備に入る。同時に俺は安綱を構え直すと高速移動に移った。するとほぼ同時に左からリッパーが飛び出すのが見えた。
「リッパーっ! 接敵時間に気を付けろよ! 奴はAIコントロールじゃない。動きを読まれるとカウンター食らうぞっ!」
「んなこたぁ、わかってるよっ! 俺をなめてね?」
 相変わらず口の減らない奴だ。そう思ったとき後方のスノーから指示が飛んできた。
「リッパーは左翼から移動しつつ攻撃して攪乱、くれぐれもヒットアンドウェイに徹すること。シャドウは右翼から攻めつつ飛び込むララを援護っ! サムは牽制しながら隙を見てジャンプ。ドンちゃん、狙えるなら顔を狙ってっ! 倒せずとも目を潰しておいて損はないはずよ。サンちゃん、前衛に『ケイトンド』をお願い」
 メンバーに惚れ惚れするような的確な指示をとばし、呪文詠唱に入るスノー。流石は鬼丸の妹だ。指揮者としての資質はあいつに勝るとも劣らない。信義と打算でやっていた傭兵時代では味わえない高揚感に酔いつつそんな思いが胸を走る。すると全身がぽわっとほのかに光り、太刀を握り疾走する体に力がみなぎる。
 サンちゃんの援護魔法『ケイトンド』の効果だ。『ケイトンド』は攻撃力を一定時間上昇させる援護魔法でチームメンバー全員をその対象にする。前衛メンバーにはありがたい魔法だった。
 バルンガモーフはその狂気の四つ目をランランと輝かせ、手にした巨大ハンマーを振りかぶり接近するリッパーめがけて振り落とした。
 その行動を予測していたリッパーが、するりとハンマーを交わし丁度奴の膝あたりを手にした二振りの双斬剣で数回斬りつけた。人間同様真っ赤な体液を霧散させ、バルンガモーフがたまらず吠える。すると緑色だったその体が見る見るに銀色に変わっていった。
 体皮色が変化するのか? なんだそれ?
 一瞬そんな疑問がよぎったが、俺はかまわず跳躍して渾身の力を込め安綱を袈裟切りに振るった。間髪入れずの絶妙なタイミングだったが、バルンガモーフは驚異の反射を見せ、左腕でガードする。
 なろっ! 腕ごと切り落としてやるっ!!
 そう心の中で吠え、俺はかまわず安綱を叩き付けるように振り切った。
 だが、安綱から伝わる手応えはまるで堅い金属に斬りつけた様な感触で、鐘突きのような甲高い音を立ててはじかれてしまった。渾身の力を込めたせいか、その反動も格別で、両手首に痛みを伴ったしびれが走る。
「何だと!?」
 銀色に変色した奴の腕は安綱の必殺の刃をいとも簡単にはじいて見せたのだ。
 あの高強度を誇るダイノクラブの甲羅でさえ、小枝を凪ぐような手応えで両断する切れ味の安綱の刃が歯が立たないなんて……まさか物理攻撃が通じないっ!?
 いや待て。さっきのリッパーの一撃は確かに通じたはずだ。
 弾かれると同時にとっさに身をひねって着地しバルンガモーフから距離を取り、頭の中で矛盾する思考を繰り返す。
 するとその後ろからジャンプ攻撃を仕掛けるサムと、それに続き飛び込むララの姿が見えた。相変わらずスピードだけはピカイチだな。
 俺はすぐさま呪文詠唱に入る。飛び込むララが狙い打ちにあわない為の牽制だ。
「ボルトスっ!!」
 バルンガモーフの顔に向けて付きだした左手から青白い電撃が球状になって飛んでいくと、バルンガモーフの顔面に直撃した。大したダメージではないが目眩ましとしては十分な効果があったらしくバルンガモーフは片手で目を覆いぐもった声を漏らした。
 それと同時にサムの槍が首に当たるが、俺の安綱同様甲高い音を立てて弾かれた。しかし続いて奴の腹にヒットしたララの爆拳に、バルンガモーフは溜まらずうめき声を上げ片膝を付いた。どうやらララの爆拳は有効なようだ。
 元々モンク特有の爆拳は堅い表皮に関係無く、対象の内側に体内で練った気を送り込み内側から破壊する打撃技だ。刃物が通じない表皮でもそれをスルーしてくれるララの爆拳が有効なのは道理だな。
「ララっ! もう一発いけぇっ!!」
 俺の叫びに反応してララは片膝を付いたバルンガモーフの前で構え直し、流れるような動きで両手で円を描きながら右拳を腰高に引きつつ深呼吸する。
「いくわよ〜っ……」
 宣言なんてしなくて良いからさっさとやれっ――――!!
 ララが地面を蹴り、バルンガモーフめがけて飛び込む。
「爆拳、金剛龍激掌――――っ!! 」
 片膝を付いたバルンガモーフの懐に飛び込んだララは叫びと同時に繰り出した右掌躰が奴の腹に当たった瞬間、バルンガモーフはその巨体が2メートルほど後ろにふっとばされ、悶絶して体をくの字に折り曲げ地面に突っ伏した。
 すげぇ、あの巨体を素手で吹っ飛ばすのかよ……
 モンクには今ララが使った様な『溜め技』がいくつか用意されている。体内で気を練る必要があるため若干初動が遅くなるが、練る時間が長くなるほど大技が使える。
 モンクと言うキャラ自体あまり選ぶプレイヤーが居ないので俺もモンクの大技を観るのは初めてだ。だいたいゲームとはいえ限りなく現実に近い体感なんだから、化け物相手に素手で挑もうなんて思わないよな、普通。
 それにしてもララの奴、怖いぐらいにキャラが嵌ってる。あいつのためにあるような職業だな、モンクって。
 ララの攻撃で突っ伏したのもつかの間、バルンガモーフはゆっくりと立ち上がった。多少ダメージを与えたようだが致命傷とまでは行かなかったようだ。爆拳特有の『内部破壊』の影響か、口から一筋の血を流し俺たちをにらみ返す。
 不意にまた体の色が銀から元の緑に変化した。
 俺はもう一度安綱を握り直し、再度攻撃を仕掛ける構えに入った。とその時、後方からドンちゃんの声が響く。
「みんなーっ! 避けてよーっ!!」
 ドンちゃんの宣言に続いてスノーの美声が響き渡る。
「メテオ・バースト―――っ!!」
 よっしゃー! 爆炎系最上級呪文メテオバースト。スノーのキメ技発動だ!
 スノーの美声の尻に、ゴンゴンと唸るような音を立ててバルンガモーフの頭上に大きな火球が出現。その灼熱の火の玉が逆落としにバルンガモーフに襲いかかった。
 ドンちゃんの声に反応しすぐさま距離を取ったはずだが、それでも尚顔がひりひりするほどの熱風をまき散らし、すさまじい爆風にさらされる。
 うっすら目を開けて爆心地であるバルンガモーフが居た場所を観るが、未だに灼熱の業火に包まれ奴の巨体を確認できない。敷き詰められていた床石は高温にあぶられシチューの様になってるし…… 流石は30オーバーの魔導士が唱える最強呪文、相変わらずスゲー威力だ。
「……やったか?」
 俺の隣に退避してきたリッパーが呟く。
「さあ、奴もレベル6セラフだ。一発じゃどうだか…… だがこの威力だ。相当なダメージのハズだ」
 リッパーの言葉に俺はそう答えた。だが俺のその言葉は次の瞬間完全に否定される結果となった。
 あの地鳴りのような咆吼と同時に、未だ溶岩のような床を踏みしだきつつ、爆炎の中からバルンガモーフが現れた。さっきと違うところは、今度は緑や銀ではなくオレンジ色の表皮に変わっており、その他は特に変化もなく無傷だった。
「まっ……まじかよ……」
 リッパーが驚愕の表情で呟く。
 確かに無理もない。アレを食らって無傷とは…… おまけにあの色…… まさか?
「あははっ! 凄いだろ? 僕の造ったバルンガモーフっ!」
 そこへあのすっとぼけたぼくっ娘口調が響く。
「防御属性を変更出来るのかっ!?」
「その通り〜! 正規版はランダムに変わっていくからその都度攻撃方法を変えていけば攻略は可能なんだけどぉ、それじゃつまんないじゃん。それに『彼』にはロストプレイヤーの意識をインストールしてあるじゃない? だから彼の意志で自由に変更できるようにしてあげたんだよ〜ん」
 こんのやろ〜っ!! よけいなオプションつけやがって!!
「ララちんの攻撃は基本打撃系だけどぉ、爆拳は無属性だから防ぎよう無い。でもまだレベルが低いから大したダメージじゃないもんね。ふふっ どうする? 白いお姉ちゃん。頼みの綱の最強呪文を防がれちゃったら打つ手なしって感じですかぁ? あははっ」
 そうからかうように笑うメタトロン。一方うつむき杖を握りしめるスノー。ローブのフードに隠れ表情はここからでは分からないが、杖を握りしめた手が震えているように見える。クソガキの言う通り最強呪文が通じないのがショックだったんだろうか。いや、スノーだけじゃない。こりゃ俺たちもやべえぞ。
「―――な……」
 するとスノーがなにやらぼそりと小声で呟いた。
 んっ? 何つった?
「えっ? 何?」
 メタトロンも聞こえなかったのかそうスノーに聞き返した。

「舐めるな―――――――っっ!!!!」

 突然スノーの絶叫が聖堂内に響き渡った。その声に一同驚いて言葉を失う。あの無口で無表情のお地蔵キャラであるサンちゃんでさえ驚いて1,2歩後ずさったほどだ。
「あったまきたわっ! 見せてやろうじゃない!! 30オーバーの魔導士、『プラチナ・スノー』実力をっ!! 」
 そう言って手にした杖を横にかざすスノー。
 ははっ、やべぇ。スノーがキレた……
 どうやら今のメタトロンの言葉が、彼女の矜持を傷つけたらしい。
 真っ白い杖が横になりスノーの手を放れ、すぅっと空中に浮かび、丁度スノーのおでこ当たりの高さで停止した。両手の指が各々同時に動き空中に不可解な光の文字を描いていく。
 なんだ? こんな呪文知らねぇぞ?

『becoming the signpost that leads me... with the god's technique wise men in the nether world that becomes lively wail about darkness……』
(暗黒の慟哭に息づく冥界の賢者達よ、その神の御技を持って我を導く道しるべとなれ……)

 呪文詠唱に入ったスノーの援護のため、安綱を構えなおした俺の耳に、通常魔法では無い詠唱が流れてきた。
「コマンドライン【言語変換詠唱】!? ベーシックスペルかよ!」
 思わず声が出た。それに反応して隣のリッパーが聞いてくる。
「なんだそれ?」
「旧ヴァージョンで使われていた魔法形態だ。詠唱とその複雑な行使方法、それにプレイヤーの精神に掛かる負担の大きさから今じゃほとんど使用されなくなったんだ」
 セラフィンゲイン初期の魔法は全てこのような『人語』で詠唱される魔法だった。だが、その複雑な詠唱を唱えることと、プレイヤーの体、特に精神に掛かる負担が大きく、またその個人の精神力によって威力や効果に大きな差が出ると言う問題があったため、今俺たちが使う『半自動入力詠唱』に変更になったのだ。
 確かに人間の言語で詠唱するので聞こえに響きが良く、より早く、正確に唱えることを要求される事があたかも本物の魔法使いの様だと言うことで古参のプレイヤー達からは好評だったのだが、新バージョンが安定した『半自動入力詠唱』に移行したのを機に次第に使われなくなったのだった。
 古くからプレイしている魔導士キャラは、現在のバージョンでもこの魔法を使用可能だが、バージョン2以降に参入したプレイヤーキャラには設定されていない。もちろん俺も使用できない訳だ。
 現在俺たちが使っている第2世代魔法と比較してもだいたい同じ様な魔法が多いが、中には現行魔法では設定されていない効果を発揮する魔法もあり、新規と古参との不平等感があるのでサポート側も完全以降したいのだが、古参プレイヤーの根強い要望で現在も消されずに残っている。
 俺も魔法に携わるキャラだからその存在は知っているが、どのような魔法が生き残っているのか、正確なところは分からない。だが、メテオバースト上回る威力の魔法が存在するとは考えにくい。スノーは一体どんな魔法を使うつもりなんだ?
 しかし普段の半自動詠唱ではすさまじい速さで呪文を消化するスノーだが、この呪文は詠唱スピードが遅い。やはりそれだけ複雑なプロセスを踏む魔法なのだろう。言葉と同時に空中に描く光の文字を紡ぐ指の動きがその複雑さを物語っている。
 宙を舞う光の文字…… 
 その光に照らし出され、歌うように言葉を紡ぐ美貌の魔女の姿……
「シャドウっ!! 援護はどうしたのっ!!」
 絶叫のようなドンちゃんの声と同時にこ気味良い発射音が響き、続いて爆発音と咆吼が耳を打った。
 ちっ! 俺としたことがつい魅入っちまった……
 軽い舌打ちを吐きつつ、俺は安綱を下段に構えつつバルンガモーフに向け疾走した。
 射程にとらえると同時に、下からすくい上げるように安綱を振るう。左翼からタイミングを合わせてリッパーが挟撃を試みるが、巧みなハンマー捌きでことごとく弾かれる。
 くそったれがっ!!

『――――It is good according to my calling commanded in this true name …… I am ω and an α ……. 』
(―――この真名において命ずる、我が呼びかけに応じよ…… 我はオメガであり、アルパである……)

 三度目の斬撃を弾かれた時点で不意にスノーの詠唱が止み、俺は距離を取ってチラリとスノーを見た。
 宙に浮いて制止していた杖が空中でクルリと向きを変え、スノーの鼻先で今度は縦に制止する。
 早くも負担が掛かっているのか、目を閉じたスノーの眉間から一筋の汗が光り、表情がかすかに歪む。
 スノーは目を閉じたままゆっくりと杖をつかむ。すると彼女の周囲を回っていた光の文字が四方にはじけ飛び、彼女の前と左右に3つの大きな魔法陣を形成する。
 光の魔法陣に照らし出され、不可視の力が下から風のように這い上がり、彼女のローブがまるで風をはらんだようにその裾をはためかせている。
 そして手にした杖を床に突き立てると同時にその閉じていた瞳を開き、最後の発動コマンドである呪文名を叫んだ。

『ディメイション・クライシス―――――――――っ!!』

 絶叫にも似た白銀の魔女の美声が聖堂全体に響き渡った。
   


第22話 堕天使の鼓動


 スノーの声が響き渡った瞬間、彼女の周囲に展開した3つの魔法陣が強烈な光で明滅し、各々その中心部に細かなポリゴンが収束されていく。
 まるで巨大な何かが地中からゆっくりと浮上してくるような錯覚を見る者に与える。
 空間テクスチャーを構成する周囲のポリゴンを浸食しながら、まるでそれらを自らを形作る糧としているような、そんなまがまがしい光景に俺は魅入っていた。
「すげぇ……!!」
 多重召還魔法……
 使われなくなった第1世代魔法の典型。1人で複数の魔法を同時に行使できる唯一の手段。その複雑な行使方法、そして何より複数の魔法を同時にコントロールする際の術者に掛かる精神への負担の大きさから、一時は『禁呪』に指定することも検討されたと聞く。
 術者の精神力に依るところが大きいが故にその効果が安定せず、発動前に術者が意識を失い接続が絶たれるなど、数々の問題を抱えながらも初期プレイヤーーの強い要望で今に伝わる旧世代魔法……
 収束した細かなポリゴンが徐々にその空間に定着し、俺たちが狩るセラフとは明らかに別種の『異形』を魔法陣に出現させていった。
 その中心に立つスノーは歯を食いしばり、正面のバルンガモーフを睨む。恐らくすさまじい精神負担に耐えているのだろう。
 そして今や完全にその姿を実体化させた異形の者達各々が、口々に呪文名を放った。

『メテオバースト―――!!』
『ゼロブリザラス―――!!』 
『ボルトバイン――!!』

 『メテオバースト』は言わずもがな。『ゼロブリザラス』は冷却系最上級呪文、マイナス273度の絶対零度の冷気で物質を形作る原始の活動を停止させる。『ボルトバイン』も最大級の落雷を軽く凌駕する高電圧の雷をたたき込む雷撃系最上位魔法と、3呪文ともその系統では最大の威力を誇る上位魔法で、どれも通常魔導士がキメ技として使用するレベルのものだ。普通の術者なら単発でも相当の魔法力を消耗するであろう魔法を、複数の召還生物を呼び出して各々に行使させその同時発動を可能にする。
 召還時の『ディメイションクライシス』の発動と、召還した3体の召還生物をこのフィールドに実体化させ、同時にコントロールする精神力と魔法力ってどんなだよ……?
 恐るべし、白銀の魔女『プラチナ・スノー』…… 
 レベル30オーバーの、いやもうすぐ40に手が届く魔導士の底力に戦慄すら憶える。
 なまじ声と顔がロリ全開なだけに、そのギャップが怖すぎる。
 灼熱の火球が爆発し、絶対零度の冷気が空気を氷結、雷がその膨大なエネルギーをまき散らし周囲の大気をプラズマ化させていく。
 鼓膜が裂けるほどの轟音と共に、異なるベクトルで移行するエネルギーの渦に翻弄される空間テクスチャーをどう表現すればいいかわからない。
 いかにバルンガモーフが防御属性を変更しようとも、同時に異なる特性の、しかもその属性最大の物理エネルギーに抗えるとは思えない。奴のその特性を瞬時に見抜きこの魔法を選択したスノーの判断力も驚嘆に値する。流石は鬼丸の妹、兄に勝るとも劣らない頭脳だ。
 3つの魔法がバルンガモーフに直撃し、3体の異形の召還生物が細かなポリゴンを弾けさせて霧散し霞のように消失した瞬間、糸が切れた繰り人形のようにその場にへたり込むスノー。
「スノーっ、大丈夫っ!?」
 彼女の傍らにいたドンちゃんとサンちゃんがスノーに駆け寄った。
「……だっ、大丈夫よ…… ちょっと、目眩が…… しただけ……」
 肩で息をしつつ口元にうっすら笑みを浮かべてそう応えるスノーだが、その顔色は悪く、額ににじむ汗が魔法行使の精神負担の大きさを物語っていた。
 尋常な負担でないことはスノーの表情から想像に難く無い。その幼さを残す美貌が少しやつれて見えるのは錯覚じゃないだろう。いったいどれほどの集中力を要するのか見当も付かないが……
 サンちゃんの肩に手を掛けながら、彼女の装備である杖を床についてゆっくりと立ち上がるスノーが、大業を成し終えて皆に微笑みを漏らした。
 いやはや……
 先の宣言通り、白銀の魔女の実力、しかと見せていただきました。すげーもん見せてもらったよ。オープンエントリーのチームバトルじゃ、絶対敵に回って欲しくないキャラだぜ…… 
 同じチームでよかった〜俺♪
 そんなことを考えながらスノーに声を掛けようとした瞬間、耳を疑いたくなるような声が俺の鼓膜を叩いた。

『ボルトバインっ!』
 
――――――えっ!?
 その声と同時に轟音が響き、視界を真っ白な閃光が支配する。続けて電撃特有の衝撃が体を駆けめぐり、全身の血液と脳が瞬時に沸騰したような痛みを伴いながらすっ飛ばされた。突然のことで声も出ない。
 飛びそうな意識の中、自分の体に設置感が無いのを自覚しつつ攻撃されたことを悟った。あり得ないという思考がぐるぐると頭の中で回転し、不覚にも受け身さえとれずに壁に背中を叩き付けられたところで、ようやくぐもったうめき声が口をついた。
「ぐはぁっ!!」
 口の中に充満する血と、鼻を刺激するプラズマ化した大気特有のオゾン臭をその声と共に吐きだし、未だにしびれを伴いプレートメイルに鬱陶しく帯電しスパークする電気をまとわりつかせながら上体を起こす。
 さっきからチカチカと目の前を行き交う光に視界を占領されながらも、目を凝らして辺りを伺う。恐らく直撃は免れたものの、至近距離で数万ボルトの落雷を浴びたせいで鼓膜が役に立たず、周囲の音まで拾うことは出来ない。
 笑う膝に鞭を入れ、奇跡的に飛ばされなかった右手の安綱を杖代わりにヨロヨロと立ち上がり、ようやく回復しかけてきた視力でさっきまでスノー達がいた場所に目を凝らす。 するとまだうっすらと煙を上げ、蹲る白いローブが見えた。彼女のトレードマークであるその純白のローブは所々裂け、端々に無惨な焦げ跡を残しまるでボロ雑巾のようだ。
 恐らく直撃したであろうがそこは高レベルキャラ。まだ意識はあるようで、ガクガクとよろけつつ上体を起こそうとするが上手くいかず、その場で再び床に転がっていた。
 直撃したスノーの傍らにいたサンちゃんも、数メータ先で転がり蹲っている。さらに周囲を見渡すと、メンバーが皆同じように横たわりもがいているのが確認できたが、ララだけがぴくりともしない。
「ララぁっ!!」
 そう声を掛けるが横たわるララの反応はない。ただし消滅せずにいることからデッド判定は免れたのは確かなようだ。先にサンちゃんが掛けてくれたプロテクションの効果がきいてるのだろう。
 俺は未だにしびれを伴い震える両手で安綱を握り直し、敵の方を向いた。
 今も尚回復しないで明滅を繰り返すラグったポリゴンの中で、その怪物は仁王立ちで俺達を睥睨していた。
 くそったれっ……!!
「そ……んな……な、なんて……セラフ……なの……!?」
 そう呻くスノーの声が聞こえる。さっきの電撃に伴う轟音で鼓膜が悲鳴を上げているせいもあるだろうが、その声が震えて聞こえる。
 あれだけの攻撃的エネルギーの直撃を受けきり、絶命せずに、あまつさえ間髪入れずにカウンターを仕掛けてくるなんてありえねぇだろ、実際っ!!
 だが、流石に奴もあれだけの魔法攻撃を食らって無傷とはいかなかったようだ。
 体の所々が無惨に焼けただれていて、さらに左側の顔は原型をとどめておらず、完全に溶解しかろうじて炭化した肉片が申し訳程度にこびりついていた。
 体の表皮は抜けるような青色に変化しており、恐らくは冷却に対抗する属性防御に移行しているようだ。奴は受けるダメージを天秤に掛け、氷結で行動不能に陥る事を恐れ、属性防御でそれに対抗し残りをプロテクションで緩和したのだろう。
 にしても、その防御性能もさることながら、あの瞬時にその判断を下せる奴の思考に驚愕する。
 対してこちらは全くの無防備での最強電撃呪文の直撃。体力に若干の余裕のある前衛の俺でさえこんな有様だ。先のプロテクション効果がかろうじて持続していたが、かなりのHPを持って行かれた。後衛であるスノーやサンちゃんなどは基本的に打たれ弱い。もう一度同じ攻撃を食らえば全滅は免れないだろう。
 やべぇ、万事休すだ。
「すごーい! 凄い生命力だよバルンガモーフっ!! 同時魔法を食らった瞬間は流石にヤバイかなぁ〜と思ったけどアレを凌ぐなんて驚きだよ〜」
 情けない悲鳴を上げている鼓膜に、あの人を食ったような声が響く。
 自分で創っておいて何いってやがるっ!
「流石の君たちも、もう無理っしょ? 立ってるのはどうやらシャドウだけみたいだし」
 そう言ってククっと喉を鳴らすメタトロン。
「もう一撃で全滅だね、たぶん。残念だよ、僕も『君は恐らく』って思っていたんだけどなぁ…… 仕方ない、そろそろフィニッシュに行っちゃおうか?」
 悔しいがあいつの言うとおり、全滅は免れないだろう。朦朧とする意識の中、半ば条件反射で安綱を構えたが、全く勝てる気がしない。だが、最後に一太刀でも食らわせてやりたい。そう思いながら歯を食いしばって安綱を握りメタトロンとバルンガモーフを睨む。
 そういや開戦前にスノーが言ってたっけな。『最後の一人になっても戦い抜く』って…… ははっ、その一人が俺になったってわけかよ…… ちっ、玉砕は趣味じゃねぇが、スノーとの約束だ。仕舞いまでつき合ってもらうぜ、相棒。
 そう右手の愛刀に心の中で声を掛ける。だが、次の瞬間いきなり痛みを伴った耳鳴りが俺の鼓膜を襲った。

――――――――――――っ!!!

 まるでどでかい中華鍋で脳髄をひっぱたかれているような感覚に思わず膝をつく。ちっきしょうっ! なんだってんだっ!!
 どんどんでかくなる耳鳴りに呼応するかのように、今度は安綱を握る両手が小刻みに震えだした。
 これはっ!? あの時の……っ!?
 数週間前、メタトロンが操ったロストプレイヤー、元『アポカリプス』メンバーのカイン達に襲われた際に起きた現象と同じだ。
 そう、俺の手が震えているんじゃない……
 俺が握るこの太刀、『童子切り安綱』が震えているのだ。
「ああっ…… がっ……あぁっ……」
 脳髄を襲う頭痛と小刻みに震える両手で上手く言葉が出ない。
「始まったか……やっぱりね。もう一押しってところかな……」
 メタトロンはそう呟き、バルンガモーフに顎で合図を送る。野郎何する気だ?
 膝をついて動けない俺を後目に、バルンガモーフはゆっくりと前進し、足下に転がる標的を掴み上げる。
 ララだった。
 意識が無いララを、まるでオモチャの人形のように掴み上げ、その焼けただれた顔に近づける。どうやら奴は自分の受けたダメージを判断して標的の優先順位を決めたようだ。ララが先ほどの戦闘で属性防御を無効にした敵であることを悟り、先に潰しておこうという魂胆らしい。その証拠に一番手近に転がるリッパーには目もくれない。
「うううっ……!」
 煤だらけだが色あせないララの美貌が苦痛に歪む。握る力を徐々に大きくしているようだ。野郎、遊んでやがる。ララをなぶり殺すつもりかっ!?
「やっ…… やめろっ……!!」
 ララの苦痛に歪む表情を目にした瞬間、俺の中に爆発的にある感情が膨らんでいく。
 憎悪
 信じられないくらいその感情に支配されていく反面、もう一方で自分でも何故これほどまでにと不思議に思う。
 くっそ…… 動けっ…… う ご け――――――――――――っ!!!
 そう念じれば念じるほど、反対に頭痛と震えに伴う体の硬直が強くなる。もがく俺をよそに、バルンガモーフはララをつかむ手に力を込めていく。咳き込むララの口元に血がにじむ。
「きィ、さぁ、むぁ―――――っ!! ララちんに何さらしとんじゃぁぁぁぁぁっ! ボケェ―――――っ!!!!」
 その瞬間ものすごい雄叫びを上げてサムが跳躍した。ララの苦痛の表情にサムがキレたらしい……が、もしもしなぜゆえ関西弁?
「やられっぱなしてのは我慢ならねぇんだよ、イチプレイヤーとしてよぉぉぉぉっ!!」
 跳躍したサムと同時に傍らで転がっていたリッパーも双斬剣を構えバルンガモーフに突進する。もしかしてリッパーもララにホの字なのかぁ?
「双斬剣技、桜花――狂喜乱舞ぅぅぅぅ―――――――っ!!」
 リッパーの体が駒のように回転し無数の必殺の斬撃を繰り出しながら、ララを握るバルンガモーフに突進する。
 双斬剣―――ダブルブレイド使いの大技『桜花狂喜乱舞』
 俺も見るのは初めてだ。元々双斬剣自体、不人気装備なだけにあまり目にする機会がないのもその要因の一つだが、これが繰り出せるまでレベルを上げたダブルブレイド使いがほとんど居ないのが正直なところ。恐らく秋葉の端末ではリッパーぐらいだろう。
 二人の攻撃がバルンガモーフに当たる直前、奴はその体の表皮を銀色に変更した。
 恐らく武器による攻撃の無効化……
 サムとリッパーの攻撃が奴の体に当たった瞬間、鉄を打ち鳴らすような甲高い音が響く。
 ――――やはりっ!!
 『ウオォォォォォォ―――――――――っ!!』
 バルンガモーフは雄叫びを上げ、サムとリッパーを空いた腕でなぎ払う。
 サムはスノーやサンちゃん、マチルダが蹲る後方に、リッパーは俺のすぐ傍らに墜落。続いて……
「グラビデイトンっ!!」
 バルンガモーフから発せられた呪文名と同時に、体にものすごい圧力が掛かった。
 くっ……そっ!
 範囲効果魔法『グラビデイトン』
 対象物の周りに力場を作り出し、その範囲の重力を何倍にも増幅させる魔法で、下位魔法の『グラビィ』で約10倍、『グラビデイトン』では約20倍の重力力場が対象に襲いかかる。
 頭の上から強大な圧力が掛かり脊髄が軋む。まるででかい手で地面に押さえつけられている様だ。足の関節が悲鳴を上げ溜まらず膝をつく。
 他のメンバーも地面にひれ伏し圧力に耐えている。
「うぐぅぅぅ……! ち……きしょ……う……っ!!」
 その女に…… 『マリア』手を出したら……っ!
 何が凄腕だっ! 何が英雄だっ! 仲間も救えずっ! たった一人の女も守れずにっ!!
 憎い!
 奴が憎い!
 奴を造ったあのふざけた天使が憎い!
 い……や……
 今、動けない俺自身が……

 い ち ば ん に く い っ !!

 俺の感情がどんどん憎悪に浸食されていく。まるで大きな画用紙が端から黒いクレヨンで塗りつぶされていくような感覚だ。なぜここまで憎むのか、なぜ自分自身を憎むのかわからない。得体のしれない憎しみに支配される中、そんな意識が脳裏を掠めた。その瞬間、まるで閃光のように記憶がフラッシュバックされる。

『お前、一人か?』
 カウンターの隣に座る深紅の鎧を纏った男
『俺は鬼丸。お前名前は?』
 その男は俺にそう尋ね笑いかけた。その極上の笑顔に一瞬見とれてしまう
『俺は―――――』

『何言ってんだよシャドウ、仲間だろ? 俺達』
 そこに差し出される、血糊で真っ赤に染まった皮のグローブに包まれた右手

『―――その安綱はお前が持っていてくれ。お前は恐らく【ガーディアン】だ。使えるだろが用心しろ。そしていつか……俺を滅ぼす剣になれ……お前はもしかしたら、俺の唯一の……』
 寂しげな笑顔を浮かべ、その唇が次の言葉を形作る

―――仲間 だった かもな―――

そう言い残し遠ざかる深紅の背中

 鬼丸……お前は……俺になに……を?

―――――カチリ

 その時、俺の中のどこかずっと奥の方で、何かが繋がる音がした……

《脳波一致、Pf.tomotikaであることを装備Yasutuna承認。
 同調値起動レベルをクリアー…… 全活動プログラム、ノーマルからガーディアンに移行します……》

 突然、頭の中に電子音声独特の無機質な声が流れる。
 安綱を握った手の震えがいっそうその勢いを増し、それに呼応するかのように耳鳴りが酷くなって鼓膜がその役目を果たそうとしない。にもかかわらず、確かに聞こえるその声に、それが鼓膜を介さず直接脳に流れてくる事を悟る。
 しかしその脳は相変わらず断続的に襲う頭痛で悲鳴を上げ、さらに全身に掛かる圧力が体の自由を奪う
 くっそ……なんだっ……こ……れっ?

《システムガーディアン、アクセス開始…………》
《……………………エラー》
《再試行…………アクセス成功。続いてプログラムダウンロード……》
《ロード率、60%……70……80……90……ダウンロード完了》
《起動スタンバイ……》

 次々と流れ込んでくる無機質な声音の意味不明な単語。何に繋がるプロセスか全く分からないが、一つプロセスが実行されるたびに頭の神経が焼き切れるような激痛が走る。意識があるのが不思議なくらいだ。いやもうね、いっそのこと気絶した方が楽ってやつ!?
 ま、まじ死ぬって……!!

《―――――Starting The Lucifer mode…… 》

 今まで切りたくとも切れなかった意識が、頭に響くその言葉と同時に一瞬消失する。
 意識が、細胞が、いや、俺という存在を構成する全ての物が、一切合切根こそぎはぎ取られ一カ所に凝縮される感覚……
 右手に握る安綱に……
 さっきまでこれでもかとばかりに襲っていた頭痛はどこかへ吹っ飛び、さんざん鼓膜を苛め抜いていた耳鳴りがファンファーレに変わる。猛毒のようにじわじわと浸食していた憎悪は反転、代わりに突き抜けるような快感と狂気がこみ上げ俺の中で爆散する。
 脳神経を繋ぐニューロンというハイウェイを、狂気と歓喜の電気信号が光の速さで爆走し、それを知覚した俺の全ての細胞が歓声を上げて沸き立ち、心臓フル回転で全身の筋肉にどす黒い血液を送り込む。

 わははははははははは――――――――っ!! やべえやべえやべえっ!!!!
 体は未だに痺れて動けねぇのに、やばいくらいに楽しいんですけど――――っ!!

 先刻まで全く勝てる気しなかったけど、今じゃ全然負ける気がしない。体に蓄積されたダメージで関節が悲鳴を上げているにもかかわらず、そんな考えが頭を支配する。
 属性防御? 未帰還者の意識? そんなの関係ねぇって……

 だってさぁ……
 なぁんもかんも『消して』しまえばいい話でしょ?

「おおおおおおおおおおおおっ――――――――!!」
 溜まりに溜まった歓喜と狂気を声と共に吐きだす。それと同時に足下から吹き上がる不可視の圧力に羽織ったマントの裾が翻った。
「シャ……ドウ……?」
 何かに怯えたような誰かの声がかすかに耳に響くが、そんな事はもうどうでも良い。
 歓喜と狂気……そして爆発的に膨れあがる破壊衝動。それら全てが入り交じった目でバルンガモーフを睨むと、時折ザリっとしたノイズのように像がぼやけ、視界にある物全てが数字や記号に見える。まるで写りの悪いデジタル映像を何度も見せられているようだ。
 何度か瞬きしてふと足下に視線を落とす。
 聖堂の壁からにじみ出る仄かな光に照らされて足下に落ちる自分の影。舞い上がるマントがまるで開いた翼のようだ。
 いや……背中に何枚もの大きな翼を生やした人……人に似て非なる物の姿。
 「明けの明星……」
 空中を漂うクソガキがぽつりと呟いた言葉がかすかに鼓膜を振るわせる。
 あん? 何だそれ?
 するとブンっと安綱が鈍い音を立てて唸った。今や完全に俺の一部に、いや、俺そのものと言っても良いような感覚のその二尺六寸の黒光りする刀身が仄かに濡れているように見える。それはまるで獲物を前に涎を垂らす獣の様だ。
 わかったよ、まあそう焦るなよ安綱【俺】……

 さあ、この世ならざるこの世界で、今宵も『狩り』を始めよう


第23話 『安綱を振るう者』

 右手に握る安綱が跳ね上がり、それに引きずられるように、俺の体は前へ進み出る。
 その瞬間、蓄積されたダメージで全身に鋭い痛みが走る。先刻まで襲っていた頭痛や体の震えは消えたが、ボルトバインを食らったダメージによる痺れとグラビデイトンによる加重力が全身にのしかかり、脊髄や腰、膝や足首の関節が悲鳴を上げているにもかかわらず、その歩みを止めようとはしない。
 押さえようのない破壊衝動が思考を支配し、『敵を消し去る』という意識だけが鮮明なビジョンとなって脳内を駆けめぐる。まるでそれが、自分が生まれてきた意味であるかのように俺を急かす。

 使命…… そう、使命なんだ……
 この世界の不具合を是正する……
 システムを浸食するバグを……
 私と私に似た全ての物を消去するため……
 それが、我の存在意義……

 不意に頭の中にまた先ほどの無機質な音声が響く。
《ペインリムーバー機動……》
《β-エンドルフィン増大……イプシロンオピオイド受容体結合……》
《神経伝達抑制率82%……痛覚遮断……脳負荷26%に上昇……》
《ペインリムーバー機動により、接続同調率低下……》
《診断……モードランニングレベル問題なし……》
《プログラム干渉リミッター30%解除……システム続行》

 頭の中で音声が響き続ける間も、俺は突き動かされるようにバルンガモーフに向かって進んでいく。ふとその狂気に満ちた奴の双眸と俺の視線が絡んだ。
 その瞬間、全身を蝕んでいた痛みが霞のように消え、頭上からのしかかっていた加重力の力場がゆるみ体が軽くなった。
 よっしゃー! なんだかよくわからんが、やれる、これならやれるっ!! 
 俺は疾走に移った。そして次の瞬間自分のスピードに驚愕した。
 尋常なスピードじゃない。この世界に充満する大気が空気なのか分からないが、肩口を切る気流の音が鼓膜にハッキリ伝わる。
 瞬きする一瞬で、俺はバルンガモーフに肉薄すると床を蹴り跳躍した。虚をつかれたこともあるだろうが、明らかに遅すぎるバルンガモーフの反応を尻目に、俺は体を捻りながらララを掴む奴の腕に、渾身の力を込めて安綱を振るった。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 武器による物理攻撃を無効にするであろうその銀色の腕が見えない訳じゃない。だが何故か俺はそれが『斬れる』と確信出来た。そう…… この世界で、この安綱【俺】に斬れない物などあるものかっ!!
 安綱の刃が奴の皮膚に食い込み、そのままその下に脈動する筋肉繊維を骨ごと両断する独特の感触が両手に伝わり、快感が全身を駆けめぐる。
 やべっ、これじゃリッパーと変わらねぇじゃん―――――っ!!
 今や完全に同化した様に感じる安綱の刃からダイレクトに伝わる狂気の感触に酔いながら、握力を失った指の隙間から、こぼれるように投げ出されたララの体を抱き留めると同時に床に降り立った。
 一瞬遅れて耳を劈くバルンガモーフの叫びが聖堂全体に響き渡り、俺の傍らに奴の切り落とされた腕がドンッと落ちて転がると、切断面からチリチリとテクスチャーが剥がれ、細かな破片のポリゴンをまき散らしながら消滅していく。
 バルンガモーフに目を移すと、痛みを感じるのか失った左腕の傷口を押さえのたうち回っていた。
 奴のその傷口からは体液が吹き出るわけでもなく、押さえた手の指の隙間から、切り落とされた腕と同じように、キラキラとしたポリゴンが空中に霧散していくのが見て取れる。
 俺はすかさず呪文を唱え、ララを腕に抱えたまま左手を付きだして呪文名を吐いた。
「メガフレイアっ!!」
 迸る閃光と轟音を纏い、大きな火球が超スピードで俺の手の平から打ち出されると奴の傷口に直撃し、バルンガモーフは吹っ飛ばされた。
 俺は安綱を床に突き立て、担いだララをゆっくりと床に寝かせるともう一度バルンガモーフに目を移す。
 見ると奴は右手で傷口を押さえて床に蹲り呻いていた。メガフレイアが直撃した傷口は焼けただれ、押さえた指の隙間からうっすらと煙が上がっているが、先ほど見た消滅現象は止まっている。
 思った通りだ…… ククっ、そう簡単には消さねぇよ……
 そう心の中でほくそ笑み、俺は床に突き刺さった安綱を握り再度バルンガモーフに向かって構え直す。さっきまで散々手こずっていたバルンガモーフが、今や一回り小さく見える。
 弱ぇっ! 弱すぎんぞお前はっ!! いや、つーか強すぎんぞ俺っ!! 笑いがこみ上げてくる。可笑しさMAXだ!!
 心の中で急かす何かに突き動かされるように、いや、右手に握る安綱に引きずられるように俺は蹲るバルンガモーフに突進を開始した。俺の接近を感知した奴は切断された左腕の痛みを堪えつつ、残った右腕で床に転がるハンマーを握ると予備動作無しで横凪に振るう。唸りを上げて迫るハンマーを俺は安綱で迎え撃った。
 大きさやパワーを考えても、到底受けきることが不可能な安綱の刀身は、受けるどころか、その手に持つハンマーをまるで粘土細工のように両断し、綺麗に分離した奴の得物は先ほどの右腕同様ポリゴンを弾けさせながら消滅していった。
 バルンガモーフはすぐさまそのハンマーから手を放し、すっと飛び退くと呪文を口走る。
「ギガボルトンっ!!」
 空いた右の手の平から閃光と共に電撃が迸る。
 普通なら絶対回避できないタイミングと距離で放たれたその電撃は、確実に俺の体をその射程に捕らえていた。俺はとっさに左手でそれを凪ぐように振り払った。
 バルンガモーフが放った電撃は、まるで見えない障壁に遮られたように四方へ分散し、その飛び散った稲妻を床に走らせる。
 こんなもん、避けるまでもねぇっ!!
 バチバチと帯電する左腕を無視して、俺はその魔法攻撃に毛ほどの抵抗も感じないままバルンガモーフの懐に入り込み、下からすくい上げるように安綱を斬り上げる。
 左腕を切り落とした時と同じように、銀色の皮膚の上からにもかかわらず、さほど抵抗を感じずに空いた奴の右腕をそぎ落とし、やはり先ほど同様沸き上がる『快感』に身を震わせる。
 先に切り落とした左腕同様、細かなポリゴンの破片をまき散らしながら消滅する右腕を見下ろし、絶叫するバルンガモーフの声をBGMに、呪文を行使する。
「フリザルドっ!!」
 瞬間的に氷結する右腕の傷口。転がりのたうち回るバルンガモーフの巨体……
 そのどれもが笑いの壺を刺激し、無意識に口元が吊り上がるのを感じる。
 やべぇ、楽しすぎる……
 押さえきれない快感がこみ上げ、俺の腹筋を圧迫する。口元が緩み、漏れ出す含み笑いが高笑に変わるのにそれほど時間は掛からなかった。
 俺の高笑が響き渡る中、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的で残忍な『解体』がその場で披露される。安綱で切断されるパーツはことごとく消滅し、その消滅現象を止めるためだけに行使される攻撃魔法……
 俺の手に握る安綱がその切れ味を誇示する度に絶え間なく響き渡る絶叫。属性防御など全く無視したその切れ味。やがてその属性防御すら行使できなくなり、出現時のあの緑色の表皮変わった四技の無い体。削がれた両耳の次に標的となった下顎にフレイアを食らった段階で、バルンガモーフはほとんど動かなくなり、ヒクヒクと痙攣する肉塊と化していた……
 時間にして2分と少々……
 あれほど俺達を手こずらせ、全滅寸前まで追いつめた怪物は、俺のブーツの下で呼吸すら滞る肉片と化していた。
 奴の四技を切断し肉を削ぐ度に得も言われぬ快感が全身を貫き、それが次の行動を加速させる。まじ楽しすぎ……っ!
 さて次は…… 目でも行っときますかぁ?
 ひゅーひゅーと笛のような音を焼けただれた顎下から鳴らしているバルンガモーフの顔をつま先で引っかけ無理矢理こちらを向かせる。そこに並ぶ若干潤んだように見える赤い瞳の下瞼に、俺はゆっくりと安綱の刃を添えた。
「シャドウ――――っ!!」
 悲鳴のような女の声が背中から掛かり、俺は振り返った。
 見るとボロ雑巾のような、煤けた衣服を纏う女が手にした杖にすがるように立っているのが見える。
「や、やりすぎだよ……」
 オイオイ、何言ってんだよ…… 俺たちさっきまでこいつに全滅させられそうだったんだぜ? でも、まあいいか。そろそろコイツもリアクション限られてきたしな。フィニッシュと行こうか。
 俺は安綱を下瞼から離し、今度はその刃を首に添えた。
「フンっ、じゃあな……」
 俺はそう呟くとバルンガモーフの太い首に添えた安綱の刃を引いた。骨格を切断する際のわずかな抵抗感を右手に伝えながら、バルンガモーフの頭がごろりと床に転がる。
 一瞬びくっと痙攣した奴の体は、やはり他のパーツと同様、細かくポリゴン化したテクスチャーを撒きながら霧散する頭の後を追うように消滅していった。
 そこに、この凄惨な場面に似つかわしくない場違いな拍手ととぼけた声が響いた。
「いやはや…… 予想以上の戦闘能力だよ〜 漆黒のシャドウ。あれほど手も足も出なかったバルンガモーフが、覚醒したとたんにまるで子供扱いだ。全く、君ら……!?」
 メタトロンの言葉が終わらないウチに、俺は空中に浮遊する奴に向かって跳躍した。
 余裕かましてんじゃねぇ、狩りはまだ終わってねぇんだよっ!!
 一瞬で奴の傍らに接近した俺は全身をバネのようにしならせ身を捻り、右手に握る安綱を振るう。俺の行動を予測していなかったであろうメタトロンは、驚愕の目を見開きつつも、瞬間的に身を捩り回避行動に移る。
 右手に伝わる微妙な手応えを残しつつ奴の傍らを行き過ぎると、まるで羽織った『愚者のマント』の裾に縋り付くように、白く小さな腕が宙を舞った。
 先ほどのバルンガモーフを解体したときと同じよう、斬られた腕がチリチリと消滅していくのを視界の隅に捕らえながら目の前に迫った壁画を蹴り、再度メタトロンに向かいその体を加速させる。
「ちっ!!」
 驚きとも、呆れとも取れる舌打ちを吐き俺を見るメタトロン。その瞳がランと金色に輝く!
 やべぇっ!! とっさにそう判断して愚者のマントを左手で持ち上げる。
「ボルトバインっ!!」
 聖堂に響く少年の声と同時に弾ける閃光と衝撃っ!! 
 先ほど俺達全員を行動不能にした威力の電撃魔法攻撃だが、何故か痛みは感じず、しかし襲いかかるその衝撃に勢いを殺された俺は失速し、あえなく床に落下。鬱陶しく細かにスパークする電撃を鎧に纏わせつつ床に着地した。
「全くぅ、人の話を聞きなよぉ〜」
 目の前をパリパリと跳ねる青白い電撃を左手で追い払いながら奴を見ると、いつ装備したのか、自分の身の丈に届きそうな細身の剣で自分の肩口を切断していた。その切断した二の腕の破片が弾けて消滅するのを見ると頬を膨らまして文句を垂れる。
「やれやれ、せっかく作ったお気に入りの体が台無しじゃないか…… どうしてくれるんだよぉ〜」
 ホント、姿形は普通の…… いや、標準以上の可愛らしい少女なだけにその仕草は微笑ましいのだが、腕を自ら切り落とすというその行為が異常すぎる。深く被った麦わら帽子が嫌にその異常さを増幅させるファクターになっている気がする。
「君ら『アザゼル』ってのはどうしてこう節操がないのかな……」
 そう言いながら、メタトロンは千切れた腕の肩を上下に動かすが、その切断面に変化は見られない。
「ん…… やっぱり再生はかからないか……」
 再生ってお前…… しかしアザ……? なんだそれ?
 俺はそんなことを考えつつ、未だに空中を浮遊するメタトロンのスカートの中…… じゃなかった。顔を睨む。
「あれっ? その顔…… なんだ、やっぱり彼から聞いていないのか……」
「彼? 彼って誰だよ?」
 俺のその答えにメタトロンはクスッと笑ってこう言った。
「誰って…… 決まってるだろ? この世界の創造主、そして君の持つその『童子切り安綱』の初代持ち主さ」

―――――な……んだっ……てっ!?

「おいクソガキっ! てめえ鬼丸を……」
「『知っているのか?』なんて聞かないでくれよ? 僕はこの世界の管理AIだ。知ってて当たり前だろ」
 言われてみれば確かに、この世界を管理するAIがその創造主たる鬼丸を知るのは道理だが、その鬼丸が俺に何を教えなかったのかが見えてこない。
「鬼丸がなんだってんだよ。そのアザなんとかって何のことだっ!?」
 俺は安綱を中断に構え、跳躍の準備に入りつつ空中のメタトロンを見据えた。
「まあ、順に教えてあげるよ」
 そう言ってメタトロンは右手に握る細身の剣を肩に担ぎ、にっこりと微笑んだ。
「『人間を含む動物は電気で動いている』って話し、聞いたことある?」
 メタトロンはそう問いかけながら、スゥっと静かに降下すると俺の数十メートル先に着地した。
「人間は様々な情報データを電気信号に変換し、ニューロンって言う神経細胞を使ってその信号を伝達して各器官との情報のやりとりをしている。脳から出た電気信号はパルス電圧としてニューロンを伝わりシナプスと呼ばれる隣のニュ−ロンとの接点に達すると、今度は化学物質による伝達方式に切り替えられ次のニューロンに必要な情報を伝達する。この一連の作業を繰り返して必要な器官に必要な情報や指令を伝えていく。
 このシナプスは送られてきた膨大な量の信号を足し算や割り算みたいな簡単な計算をして、合計電圧が一定の値を越えた時初めて次のニュ−ロンに向けてパルス電圧が発信されるしくみになってる。最終的にはそのプラスやマイナスの電圧を含んだ分子であるイオンが細胞から分泌されて各器官に刺激を与え、それに反応して生命活動が起こるわけ。これが『電気で動いている』って言われる所以だよ」
 かなりかみ砕いて説明しているのは奴のしゃべりで分かるのだが、この時点で今の説明の3分の2は俺のメモリーからスルーしている。
「この情報の伝達の仕組みはコンピュータと非常によく似ている。媒体が『半導体』か『タンパク質』かの違いだけ。コンピュータがトランジスタの集合体なら、脳は神経細胞の集合体な訳だからね。扱う信号も片方は『0か1』の電気信号で、もう片方も『基本的な電子素子』……ね? 共通点が多いんだよ。
 鬼丸…… 世羅浜朋夜は此処に目を付けた。
 インナーブレインシステムは大脳皮質に電気信号、正確には低周波を当ててこのシナプスで行われている電圧計算を操作し、分泌されるイオンの種類や量を押さえ、代わりに生成される科学物質を調節して帰っていく電圧パルスを変更させ被験者の脳にダミーの情報を送っているんだよ。分かりやすく喩えて言うならTVアンテナの線にビデオのアンテナ線を割り込ませて偽情報を見せているって感じかな」
 やべえ、マジでわかんなくなってきた。もう良いいんじゃね? やっちゃうかオイ?
「ただし、人間のニューロンを伝わる電圧パルスは、コンピュータの電子回路や光通信伝達と比べても比較にならないほど遅い。秒速100mか、良いトコ150mぐらい。だから人間はそのニューロンとの接合点であるシナプスの量と膨大な神経のネットワークでスピードの遅さを補っているんだ。これはアレだよ、複数のコアを持つCPUで最近やっとこ出来るようになった『並列分散処理』って奴だよ」
「余計なことは良い、俺が聞きたいのはそんなことじゃねぇ」
「まあ聞いてよ〜 全く…… せっかちだなぁ」
 そう言ってまた頬を膨らますメタトロン。コイツには恐怖という物がないんじゃねぇかな? 今の安綱【俺】なら確実にお前を殺れるんだぜ? たぶん。
「このニューロン同士の接合点であるシナプスは、普通の成人男性では1ニューロン辺り平均約8000個有ると言われている。しかし、君の場合、此処に外部からの操作で加えられた電圧が掛かると、その数が一気に倍以上に膨れあがるんだ。単純に情報を出したり入れたりする入り口が増えるから脳に帰っていくパルス電圧の数値変化が大きくなる。普通に考えたらニューロンが許容オーバーで意識まで届かずにフリーズするだろうね。でも君の場合ここで面白いことが起こるんだよ……」
 そこで奴は俺を舐め上げるように一瞥し続けた。
「普通なら許容オーバーなはずのニューロンが、シナプスが増えた瞬間にその太さを増すのさ。当然太くなればそれだけ大容量の情報を円滑に意識に伝えることが出来る。電圧が上がっても問題な無しってわけ。まあシナプスが増えるのも普通に考えれば異常だけどね。でもって、過電圧でもフリーズしなくなった君の脳がこの世界でどういう事を引き起こすかって言うと……」
 そう言ってメタトロンは「ははっ」と呆れたような乾いた笑いを吐いた。
 オイオイ、呆れたいのはこっちだぜ。さっぱりわかんねぇ話しなんだからさ。
「意識側から放たれる強い思考が逆流する…… 『こちら側』にまで干渉する様な強いパルスを発生させ送り込んでくるんだ。恐らく無意識に……」
 えっと…… つまりそれって…… どういうこと?
「え〜っとつまり、分かりやすく言うとね、君はこと、この『電脳仮想世界』って言えばいいのかな? 此処に限っては、ある程度自分の都合の良いようにプログラムに干渉出来ちゃうってことだ。ある程度ってのがミソだけど……」
 ―――――はぁ?
 ってことはなんだ……俺はこの世界を自分の都合のいい『台本』に書き換えられるって訳? ありえねぇ…… そんなのぜってー嘘だっ!!
「馬鹿言ってんじゃねぇっ! そんなこと出来る訳ねぇだろっ!? じゃあ何か? この世界じゃ俺が望めば『無敵のスーパーマン』になれるって訳か!? いい加減なこと言ってんじゃねぇよ! 現に俺はさっきまで大ピンチだったじゃねぇか。デッド食らった事だって何回もある。もしお前が言うように都合良くプログラムを変えられたら、そんなことにはならんだろううがっ!」
 あり得ない。被験者であるプレイヤーの意志で勝手にプログラムを変更出来るなんてできっこない。そもそもセラフィンゲインは外部からのアクセスは一切受け付けない強固なプロテクトが掛かっているし、その兆しが有れば鉄壁のセキュリティを誇るサポート側の監視網に引っかからない訳がない。第一、もし俺がそんなおかしな脳の持ち主なら接続前の適正チェックで弾かれているはずだ。
「だから言ったじゃ〜ん、ある程度だって。基本的なルールは変えられないんだよ。プログラムの変更って言ったって、ちょっとしたことなんだ。たとえば…… ダメージが軽減して死亡判定が甘くなったり、パラメーターが一時的に上昇したり、受けた魔法効果が減少したり、本来ならその程度さ。う〜んと、例えばねぇ…… あ、そうだ。シャドウは自分の死亡率って憶えてる?」
 死亡率? 別段気にして見たことはない。実務ステータス以外はまず見ないからな。
「クエスト受注に対してのデッド回数の割合だよ。普通のプレイヤーで大体平均して3割弱、君ぐらいのキャリアとレベルを持つ上級キャラでも良いトコ2割弱だ。それに比べてシャドウ、君の死亡率はどのくらいだと思う?」
 メタトロンはそう言って目を細めにんまりと笑う。
 えっと…… わかんねぇ……
「6.7%だ……」
「そんな……! あ、あり得ないわ」
 メタトロンの言葉に、俺の後ろで蹲るスノーが呟いた。
 えっ? そうなの? 知らなかった…… レベルが上がったら皆似たようなもんかと思っていた……
「そう…… 白いお姉ちゃんの言う通り、君ほどの戦闘経験を重ねていて自己損失が1割を切るなんてあり得ない。明らかに異常な数値だ。あ、そうそう、脳とシステムの同調率も信じられないくらい高いね。普通は良いトコ30%から40%。高くても50%を越えることは少ない。でも君の場合、平均して60%を越え、高いときは80%に達する。ね? この辺のことだけ見ても君が特別だって事がよく分かるだろ? 君の脳はまるでこのデジタル世界で活動する為にあるみたいだ。言い方を変えれば、この電脳世界に適合した『進化した脳』って感じかな。でも同調率が此処まで高いと受けるダメージや、特にデッド時のフィードバックはかなりヘビーなはずだ。レベルが低いときは相当きつかったんじゃない? もしかしたらそれが影響し、脳内で一種の『防御本能』が働いて無意識のうちにデッド判定が変更されるのかもしれないね」
 死亡率は別にしても、他人のシステム同調率なんて知るすべがないから気が付かなかった。確かにクソガキが言うように、デッド時は未だに胃の中身をリバースする。でも、それは皆同じなんだとばかり……
「実は君の様に脳の電圧パルスが異常値で同調率が高い人間は他にも居る。1万人に1人とかそのぐらいの割合で…… 彼はそれについて色々研究していたみたい。彼が言うにははそんな特殊な脳を持つ人間の因子を『アザゼル』、そしてその因子を持つ者達を『ガーディアン』と呼ぶそうだよ」
「ガーディアン……」
 そう言えば、前に鬼丸が聖櫃に向かう通路で言っていた…… そして俺の前から去っていく時も、あいつは確かに俺をそう呼んだ。お前はガーディアンだと……
「アザゼルってのは旧約聖書の『エノクの書』に出てくる堕天使の名前さ。アザゼルは人間を監視するグリゴリ【神の子】隊の天使だったにもかかわらず、人間の女性を愛し、その女性に天界の知恵を授けて仕舞ったが為に神の逆鱗に触れ天界を追放され悪魔になったって言われてる。その因子が何でそう呼ばれるのか、そしてその因子を持つ人間を何故『ガーディアン』と呼ぶのかは僕にもわからない。彼もそれについてはわからないみたいだった……」
 メタトロンはそう言いながら肩に担いだ剣の切っ先を俺に向けた。
「そしてその『アザゼル』因子を持つことが『ガーデイアンシステム』にアクセスするための第一条件だそうだ」
 ガーデイアンシステム。そういやさっき頭の中で響いていた鬱陶しい無機質な電気音声が、なんかそんなことを言ってたような気がする。
「ガーデイアンシステムはアザゼル因子を持つ被験者の脳を完全にサポートするプログラムなんだって。ただし、そのアクセスにはもう一つ条件がある」
「他の条件?」
「君の持つその太刀…… 『童子切り安綱』がそれだ」
 俺は手に握る安綱に視線を移す。微妙な角度で反り返り、その刀肌にうっすら濡れたような光沢を放つ二尺六寸の黒刃。
 確かに、前にカイン達未帰還者のチームに襲われた時も、そして先ほどのバルンガモーフと戦った時も。そして今尚まるで自分の体の一部、いや俺そのものの様な感覚もこの妖刀がきっかけだった気がする。
「その『童子切り安綱』は元々このセラフィンゲインには存在しない装備なんだよ。だから僕もその安綱には手を加えることが出来ない。どうも不可視属性のデータみたいだ。よって端末のデータには当然乗ってない。『アザゼル』因子を持つ者の専用装備って彼は行っていたよ。僕にとっては目障り極まりない存在だけどね」
 どおりで端末の検索に引っかからないわけだ。ホントに激レアアイテムだったってわけか……
 しかし創造主たる使徒の指示さえ拒否可能なこのAIが手出しできないアイテム…… 何かものすごく得体の知れない、『ヤバイ物』を使ってる気がしてきた。
「普通のプレイヤーが通常で使用するなら、ちょっと切れ味の良い太刀なんだけど、君たち『アザゼル』因子を持つ者が使うと同調率に比例してその攻撃力が跳ね上がる。恐らくそれで『因子を持つ、持たない』を判断しているみたいだ。しかもガーデイアンシステムの管理下に置かれるとその刃には禁呪『コンプリージョン・デリート』と同じ効果を持つ『イレーサー』機能が付加され、より効率的に対象のデリートを実行できるらしい」
 先ほどから斬ったもん全てが片っ端から消えていくのはそのためか…… なるほど言われてみれば確かにコンプリージョン・デリートより安全で効率がいい。 
「そして…… これが一番重要な機能、ガーディアンシステムとその安綱がある本来の目的。いや、意味と言っても良い。それが今の君の状態、対アザゼル因子殲滅戦闘形態『ルシファーモード』を起動させることが出来るってことだ」
 せ、殲滅って…… おい、ちょっと待て!
「まてコラっ! 今の話じゃ俺だってそのガーディアンって奴なんだろ? なのになんで俺がその因子を持つ人間を消さなきゃなんねぇんだ? おかしいじゃんか」
 俺の目の前のその少女は、手にした剣を向けながら目を細めクスッと微笑んだ。
「さあ? そんなの僕は知らないよ。そもそも何のために存在するんだかわからないんだし……」
 メタトロンはそう言って肩をすくめる。
「何でもその安綱はアンテナみたいな役割もあるらしいよ。『アザゼル』因子を持つ者が装備するのが大前提だけど、その状態で『アザゼル』因子を持つガーデイアン。若しくはそれに似た存在を感知すると、それに反応して殲滅プログラムが起動するらしい。しかし面白い趣向じゃないか。因子を持つ者の手によって同一の因子を内包する存在を駆逐する…… ウフフっ まさに共食いだね♪ 
 ―――あれぇ? 何そんな嫌そうな顔してるだよぉ〜? あっちの世界じゃ良くやってるじゃん。でもって僕はその為に作られここに居るんだよん。でもさ、このガーデイアンシステムとそれに連動するルシファーモードを考えた人間は絶対Sだよ〜 しかもドSだねきっと♪」
 いや、そんな嬉しそうな顔してそう言うお前も相当Sだ。AIに性格があるかどうかは知らんケド……
「ここまで話せばもうわかると思うけど、彼…… 鬼丸も君と同じ『ガーディアン』だ。もっとも、その安綱を使いこなす時点で確定してることだけどね」
 まあ確かに。今の話を聞くと、あれほどこの安綱を使いこなしていた奴が、そのガーディアンってのであることは間違いないだろう。だが……
「でも何故彼は、そのアザゼル殲滅装備である『童子切り安綱』を君に託したんだろうねぇ? 僕はそっちに凄い興味あるんだけど……」
 そう言いながら、ククっと喉を鳴らし目を細めるメタトロンが、俺の疑問を口にしていた。


第24話 『マリアと智哉 初めての朝』

 そう、何故鬼丸がこの童子切り安綱を俺に託したのか…… あいつは俺に何を望んでいたのだろう。アザゼルとかいうよくわからん因子を持つ人間を『狩る』為の装備。そういう道具であることを鬼丸は知っていた。知っていて尚それを使い続け、自ら『仲間』と呼んだ俺にそれを託した。
 仲間……
 果たしてあいつが俺をそう呼んだのは、俺があいつに感じていた感情と同じ意味だったのだろうか? 自分と同じ因子を持つ人間…… つまり『同族』という意味だったんじゃないのか? 
 同族を狩る…… その行為をあいつはどう感じて使っていたんだ? 
 あの人を虜にさせるような笑顔の奥に、あの少年のような純粋な光に満ちた瞳の奥から、どんな気持ちで俺を見ていたんだ……?

『――――そしていつか、俺を滅ぼす剣となれ……』

 鬼丸……
 アレはどういう意味なんだ?
 スノーが言ったように、本当にアンタの意識がこの世界にあるのなら、教えてくれ…… 俺に何をさせたいんだよ?

 そう考えた瞬間、また頭の中にあの無機質な電子音声が流れてきた。

《目標殲滅確認…… プログラム干渉リミッター復旧……》
《ペインリムーバー機能停止…… 神経伝達抑制解除……》
《痛覚復旧します…… フィードバックショック防御》

その声が終わった瞬間、意識が反転した。一瞬の意識の消失…… そしてその後右手に握った安綱に奪われていた様な感覚の俺の意識が一気に自分の体に戻ってくる感覚に全身が硬直する。脳みそをスプーンぐいぐいと掻き回されている感じだ。脳に電気ショックを食らったらきっとこんな感じかもしれない。
 数秒間の硬直と全身い走る痙攣に苦しんだ後、体の感覚が戻ったと思うと今度は体中の関節に鋭い痛みが走ると同時に重苦しい疲労感と虚脱感に襲われその場に倒れ込んだ。
「うあぁぁぁぁぁ……っ!!」
 自分でも恥ずかしくなるような声が口から漏れる。
 痛て、痛てぇ―――――っ! なんだよこれ―――――っ!?
「シ、シャドウっ!?」
 驚いたようなスノーの声が飛ぶ。先ほどのダメージでそのほとんどのHPを消耗したのか、杖にすがるようによろけながら立ち上がるスノーの姿が視界の端に見える。
「あははっ、 フィードバックだよ。ルシファーモードはその戦闘力を引き出すため同調率を極限まで高めるからね。システムの制御下にある戦闘時ではその殺人的な機動を実現するために恐らく大量の脳内麻薬が分泌されて痛覚をある程度遮断しているんだろうけど、蓄積される負担が消える訳じゃない。普通じゃない量のパルス電圧が行き来したせいで脳が一時的にパニックに陥っているんだよ」
 全身を駆けめぐる痛みで呻く俺を後目にカラカラと笑いながら場違いな声でそう説明するメタトロン。このドM野郎がっ!!
 しかし俺ってばこっちのプログラムに干渉できる人間なんだろ? なのに何でこんなに苦しまなきゃなんねぇんだよっ!!
「さて、色々収穫もあったし、そろそろ帰ろっかな……」
 メタトロンはそう言ってまたフワリと浮き上がった。
「て、てめえっ…… 待て…… コ…… ラ……っ!」
「フフンっ 今の君じゃ勝ち目無いよぉ? つーか満足に動けないじゃん」
 片腕を無くした事など気にもせず、余裕の笑みを浮かべる少女の目が冷たく光る。
 確かに今の俺じゃどうにもならん。悔しいけど……
「それにさ、聞きたいことは本人に聞けば? どうせ来るんでしょ? 聖櫃に……」
「やっぱり鬼丸は…… お兄様はまだあそこに……!?」
 すがるようなスノーの声が痛みで声も出ない俺の質問を代弁する。鬼丸は…… いや鬼丸の意識は、やはりスノーの推測通り、まだこの世界に残留しているのか!?
「うん、居る…… と言うか、彼の意識はこのセラフィンゲインの…… 聖櫃にある」
 メタトロンはハッキリとそう断言した。
「でも、そこにたどり着くには試練を乗り越えなければならない…… 君たち全員の意志の元に…… それがこの世界のルール」
「ル、ルール?」
「そう、ルールだ。僕はこの世界に挑む者達に常に最大限の要求をする。君たちから見れば偽りの世界…… 虚構の世界…… だがそこに『可能性』という真実を探し求める探求者に試練を与える者。人を試みる…… それが我が存在意義」
 不意にメタトロンの声音が変わり、やつの背中にチリチリと細かな光が収束していく。
「故に我は問う、この広大なフロンティアで、ひとかけらの『真実』という可能性を探し求める者か? と…… 今までも、そしてこれからも……」
 歌うように紡ぐメタトロンの言葉に呼応して背中の光が収束し、何枚もの純白の翼が姿を現す。その光は高い聖堂の天井に描かれた天使の姿を浮かび上がらせ、その中央に浮かぶ片腕の少女にひれ伏しているかのように見える。
 『天使の王』メタトロン……
 神の代理人の称号を持つその名前を冠したこの仮想世界を支配する人工知能…… 造られた天使……
「勇気を示せ! 挑め! そして求めよ! それがこの世界に挑む為の条件だ。有限の中に無限を読み、虚構の中に有を探す…… さあ、探求者達よ…… その持てる力と知恵と意志、そして最大限の勇気を持って挑んでくるがいい!!」
 そう高らかに宣言し、少女の姿をしたメタトロンは霞のように空中で霧散していくその姿が消えるのが早いか、俺の意識はゆっくりと深い闇に墜ちていった……
  
☆ ☆ ☆ ☆ 

 頭の中で銅鑼が鳴っている……
 がぁぁん…… がぁぁん……
 目の前に広がる風景はウサギの巣の地下の接続室に続く廊下だったり、誰もいない大学の学食ロビーだったり、沢庵だったりする…… 銅鑼が鳴るたびにその風景が変わり、まるでできの悪い8mm映画を巻き戻して何度も見せられている様な感覚になる。
 僕は場面が変わるたびに「誰か居ないかー!」と大声を上げるが返事はなく、さまよい歩き始めるとまたあの馬鹿げた銅鑼が鳴り、場面が切り替わる。
 そんなことを何度か繰り返しているうちに、僕はこれが夢なんだと気づいた。
 夢の中で僕は、安綱の握りに違和感を感じてイライラしたり、腰のポーチに本来仕舞ってあるはずの携帯がない事に気づいて焦ったり、ショップで体力回復のアイテムを何個買ったかを必至に思い出そうとしていた。
 そうして何度目かの場面の転送を繰り返し、ふといつの間にか大理石敷き詰めた大きな長いトンネルの床に立っている自分に気が付いた。
 このトンネルには見覚えがあった。
 ここは1年半前、僕が最後に鬼丸を見た場所…… クエストNo.66『マビノの聖櫃』に続く古代遺跡の通路に間違いなかった。
 不意に背後から強烈な殺気を感じ、僕は手にした安綱を構えて振り返った。
 目前に迫った白刃をかろうじて受けると、妙に澄んだ音を響かせ、鼻先数センチの距離で狂気の刃が止まった。
 僕はその刃の先を睨み、愕然とする。
 血のように赤い深紅の鎧を纏い、不適に笑う鬼丸の顔がそこにあったからだ。
 僕は「鬼丸っ!」と叫ぶが、鬼丸の耳にはその声が届いていないのか、全く返答をしないまま、2撃、3撃と攻撃してくる。
 僕はそれをかろうじて受けつつ後退する。
 夢であるはずなのに妙にリアルに伝わる斬撃の衝撃と、ひりひりと皮膚を圧迫する炎のような殺気に当てられ、僕は慌てた。その際、足下に転がっている小石に足を取られ思わずバランスを崩してしまった。
 そんな隙を鬼丸が見逃すわけはなく、鬼丸は渾身の斬撃を繰り出した。
 肩口に食い込む鬼丸の刃が妙に冷たく感じるのを不思議に思いながら、僕と鬼丸はもつれるように倒れ込んだ。
 床に背中がたたきつけられ、一瞬息が詰まる。鬼丸は僕に体を預けながら覆い被さるように倒れ込んだ瞬間、僕は目をつぶった。
 時間にして数秒……
 体にもたれかかる鬼丸はピクリともしないのを不思議に思い、僕は目を開けた。
 僕に覆い被さった赤い鬼丸の鎧の背中から、黒い安綱の刃が生えてるのが見えた。そして安綱を握る右手の指に、ぬるりとした感触を感じ、慌てて手を放す。
 鬼丸の脇の下から自分の手を持ち上げ見ると、装備した黒い皮のグローブが何かで濡れ、さらにその黒さを際だたせていた。
 僕は勢いよく鬼丸の体を持ち上げ「鬼丸っ!?」と、何度目になるかわからない名前を叫び鬼丸の顔を見た。

 ――――!!

 その瞬間、僕は言葉を失った……
 その顔は、紛れもなく僕の顔だった。
 何かとてつもなく辛いことがあったように、その僕の顔は苦痛に歪み、生気の失ったその目が僕を見つめていた。
 その目を見た瞬間、喩えようもない恐怖が全身を這い回り、僕は絶叫した!!
 その瞬間、僕はその絶叫と共に自分の部屋のベッドで目を覚ました……

☆ ☆ ☆ ☆

 目を開けると見慣れたいつもの自分の部屋の天井が見えたのに少し安心した僕は「ふうぅ」と深いため息を吐いた。良かった…… これは夢じゃなさそうだ。
 それにしても嫌な夢を見た…… たぶん昨日のあのわけのわからん戦闘のせいだ…… いや全くエライ目にあったなぁ。
 痛てててっ――――!
 体を起こそうとして腰に力を入れた瞬間、全身に痛みが走った。体中の関節が力を込めるたびに悲鳴の大合唱! もうね痛くないところ探す方が難しいって感じ。
 あまりの痛さにいったん力を抜き、もう一度枕に頭を戻す。
 これってアレかな? 昨日の戦闘のフィードバックかな? そういやフィードバックがキツイってあのメタトロンが言ってた気がする。これまでにも何度か腕だの足だの腫れ上がったことはあるけどここまで酷いのは初めてだよまじで。そんだけ昨日の戦闘が異常だったって事か…… しかしこんな状態で良く部屋までたどり着いたモンだよまったく……
 でも、こんなコトしてる場合じゃない。ただでさえ単位が足りないんだよ僕はっ! もう一日もスルー出来ないトコまで追いつめられているんだ! 這ってでも行かないと留年するのは確実なんだよー!!
 そう思って無理矢理体を引き起こそうと布団の中で手を付いた瞬間……

―――ムニュっ!

 なんか妙に柔らかくて暖かい物体を感知した右手…… なんだ?
「ううぅん……」
 ――――? なんだ今の……?
 とりあえず眼鏡、眼鏡とお約束の往年のやすし師匠のネタを一人で繰り広げ布団をオープン……

 ―――――――――――――――――――!!!!!!!!?

 この瞬間、僕の思考は太陽系を越え、銀河の彼方『椅子感樽?』へ…… あわわわわぁぁぁ!
「……まったく、何よ朝っぱらから五月蠅いわねぇ……」

 ビ、ビ、ビジュアル系悪魔、マ、マママ、マリア様降臨(下着バージョン)っっっ!!!

「お、お、お、おおお、おま、おまま……っ!?」
 ダメだっ! ダメダメっ! 無理無理無理―――っ! 言語が、いや、声が…… いやいや、それ以前に呼吸が出来ない!! だからスマ―――ンっ! 電波で感じ取ってくれっ!!

 何やっとんじゃおまえはぁぁぁぁ――――――――――!!!!!?

「寝言で『鬼丸ぅ! 鬼丸ぅ!』って叫んでたら今度はいきなり絶叫し出して…… それが終わったら勝手に人の乳揉んでまた絶叫? 勘弁してよね」
 そう言って「ふあぁ」と欠伸をする下着姿のビジュアル系悪魔…… ダメだっ! 全く思考が追いつかないっ! 僕ってまだ夢見てるのかっ!? 
 夢なら覚めないでくれ――――っ! って普通なら思うトコだけど、コイツの場合は夢でも金取るって間違いなく――――っ!!
 驚愕の表情のまま壁にへばりつきフリーズしている僕を見て、ふと何を思ったのかマリアはにんまりと笑い、急にシナを作り枕に頭を預けて布団でその少々大きめの胸を隠す。
「昨日は…… 激しかった……… ね♪」

 ブチン

 そのマリアの言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中で何かが切れました……
「えっ!? ちょ、ちょっと待って、冗談よ冗談っ!! あんた何もう一回寝てんのよっ! オイっ! こらぁっ! カゲチカっ!! 待てコラっ……!!」
 そんなマリアの声をBGMに、ビシバシ叩かれる両頬の痛みも空しく、僕の意識は再び暗い穴の中に墜ちていく。
 あはっ、アハハ…… お花、お花がさいてるよ……♪

☆ ☆ ☆ ☆ 

「ちょーっと童貞君には…… (ゴシゴシ)刺激が…… (ゴシゴシ)強すぎちゃったかなぁ〜…… (ゴシゴシ)」
 洗面所からマリアが歯を磨きながらそう言う声が聞こえる中、僕は朦朧とした意識の中、とりあえず着替えてベッド横のテーブルの上にある奇妙な物体と対峙していた。
 普通に『出血死するんじゃね?』ってぐらいの鼻血を出したせいか若干貧血気味。二次元以外の女の子の下着姿など、確実に生で見たことない童貞ヲタ野郎には、いきなりのマリアの生ランジェリーは刺激が強いを通り越して、もはや体に毒でしかない事がよくわかりました……
 マリアが自分の歯ブラシをいつ用意したのかまるで検討が付かない。つーか昨日メタトロンが消えてからの記憶が全くないことに今更ながら気が付いた僕も僕ですけど……
 未だ全く思考が追いつかない。ここ僕の部屋だよねまじで?
 そう思いながらテーブルの上の物体を眺める。
 かろうじて耳が付いていることからこれが食パンだという判断が付き、そこから導き出される回答を吟味すると、これが食べ物だと言うことは何となく推理できる。
 しかし、その間に挟まった物が僕の理解を遙か斜め上を行く姿形をしていて、それがこの物体が「果たして本当に食べ物だろうか?」という不信と猜疑を増幅し、さっきから本能的に手に取ることをためらっている。
 記憶では、僕の部屋の冷蔵庫には卵とハムと牛乳しか入っていないハズなんだけど、この微妙に焦げアトの付いた食パンに挟んである物は、そのどれとも一致しない。あの食材を使って何を創造したんだこの悪魔は?
「あ、あ、あの…… ま、ま、マリア…… こ、こ、ここ、これって……」
 とりあえず恐る恐る聞いてみることに。
「ああ…… (グジュグジュ…… ガラガラ〜 ぺっ!) あたし特製のハムエッグトーストサンド。見た目は悪いけど味は…… まあ、食べれると思うから」
 オイっ! 少なくてもそこは「味は保証する」とかって台詞にしてくれよ頼むから……
 つーかハムと卵かよっ、これ!?
 いったいどう調理したらこうなるんだ? ある意味すげぇ 手品みたいだよまじで!?
「横須賀のベースじゃ割とメジャーな料理よ…… それ……?」
 うそつけー! しかもなんだ今の微妙な間と最後の『?』はっ!!
 そもそも何が『あたし特製』だっ!! 絶対名前の尻に『悪魔風』とか『魔界風』とか付くだろコレっ!!
「しかしカゲチカってラッキーね。こんな可愛い女の子が下着姿で添い寝してくれて、あまつさえ手料理の朝ご飯まで作ってくれるんだから。今日で運使い果たしちゃったかもよ〜」
 ドライヤーの稼働音に乗って、弾むような声のマリアの言葉が聞こえてくる。
 何が運だよ、呪いの間違いだろ……
「昨日は大変だったんだから。あたしは瀕死だったから良く憶えて無かったんだけどぉ、あんたあのキングコング倒して気を失っちゃったんだって。ウサギの巣出た後もなんか朦朧としちゃってさ…… 仕方ないからタクシーでここまで連れてきたやったの。感謝しなさいよ〜」
 まじですか!? 1キロバイトも憶えてないんだすけど……
「そんで〜 あたしも帰ろうと思ったら終電もうなくってさぁ…… 仕方ないからここに止まったって訳。みんな心配したけど、どうせあんた、どうひっくりがえっても女の子襲う勇気なんてあるわけないしさぁ…… それにスノーから聞いたら、なんかあんた、あたしを必至こいて助けたって言うじゃない? だからお礼に添い寝してあげたのよん♪」
 ジーザスっっっ! なんで記憶にないんだよっ!! ボクノバカバカバカ――――っ!!
「これでアンタへの貸しはチャラね〜♪ 乳揉みは想定外だったけど…… まあ特別サービスって事にしといてあげる」
 ……やられた。それもまんまと……!! 
 くそ〜っ! かろうじて残ってるのは先ほどのブラ越しの乳の感触のみ…… ああぁ…… 詐欺だよこれ、確実に。
 思いっきり自分を呪いながらテーブルを眺める。滲んだ涙に歪む視界にぼんやり映る皿に載ったマリア自称『食べ物』と言う物体……
 あのさ、添い寝は別にしても…… この朝食は拷問に近い。俺に死ねと……?
 まあ、少しでも食べないと後が怖そうなので一口だけかじってみることに……

 がりっ!!

 『香ばしい』を遙かに通り越してもはや炭化しているような卵焼きと思われる物体にかじりついた瞬間、確実に卵ではない食感が前歯に伝わり、恐る恐るそれを舌で確認する。
 甘い……
 あいつ…… 卵焼きに角砂糖使いやがった……っ!!
「どう? おいしい?」
 洗面所からひょいと顔を出しそう聞くマリア。その表情っ! 確かに可愛いんだけどさ……っ!?
 今の質問でハッキリした。コイツ自分で食ってないよたぶん…… 頼むから味見してくれっ!!
 下を向きながら涙を堪えて口の中の物を嚥下する僕をどう見たのか、マリアは「ふふっ♪」と笑いながらまた洗面所に引っ込んだ。
「さっさと食べちゃいなよ〜 じゃないと遅刻だからね〜」
 ダメだ、コレは拷問なんてレベルじゃない。死刑執行だ……! 
 ああぁっ! 光が見えるよ、ママン……
 ほとんど丸飲みで僕はその残りを胃の中に落とした。コレで寿命が半年は短くなったな、きっと……
「マ、マ、ママ、マリアは、た、た、たた食べべ、べ、ないのか?」
 とりあえずそう聞くと、スゲー答えが返ってきた。
「えっ? ああ…… あたしは駅前でターキーサンド食べるから気にしないで〜」
 お、お、お前ってやつはぁぁぁぁ!! 人にこんな物体Xを人に食わしておいて自分だけ……っ!?
 心の中で、僕は栗毛の悪魔にそう呪いの言葉を吐いた。


第25話 泣きキャラ


「ああ……」
 ため息にも似た声を漏らしつつ、僕の隣で吊革につかまったマリアは首を2,3度回した。そのたびに天然物のしなやかな栗毛がさらさらと肩口を舞い、朝の陽光を浴びて光っている。
 朝のマリアショックが完全に抜けきらないまま、僕はマリアとともに家を出て駅に向った。朝の宣言通り、駅前のサンドイッチ屋でターキーサンドを2個も買ったマリアは、ホームで電車を待つわずか2,3分の間に買ったターキーサンドをセロのマジックみたいに消し去り電車に乗り込んだ。2個目の半カットなんてほぼ一口だったぜ?
 僕はどうも朝食べたハムエッグトーストサンド(魔界風)のせいで全く食欲が沸かなかった。その僕に「アンタ小食ねぇ」と意外そうに声を掛けるマリアは、きっとその小食を招いたのが、さっき自分の作った食べ物が原因なのでは? という可能性など1ミクロンも疑ってないんだろうなたぶん……
 そんなことを考えながら、隣でまた首を回しているマリアを見た。
 薄い緑のノースリーブの上に白いブラウスを着込み、その上からモスグリーンの生地の薄い軍用ジャケットを羽織っている。きゅっと締まったウエストから程良く突き出たヒップライン。その下にすらりと伸びた足を包むブートカットのアイスウォッシュジーンズの裾からベージュのパンプスが顔を覗かせている。
 中に着ている服から考えて偉くちぐはぐな印象を受ける男物の軍用ジャケットなのだが、173cmというモデル並みの高身長もあって、違和感なく着こなすどころか、かえってマリアのワイルドな美しさを際だたせている。見慣れているはずの僕でさえ見とれて目が離せなくなるよ。
 いや、コイツの場合容姿が突き抜けてるから何を着ても服の方が勝手に合ってしまうと言う方が正しい表現かもしれない。中身の容姿が良ければ服などどうでも良いつー典型だな。顔もルージュと眉引いただけのほとんどすっぴんなんだぜ?
「ブラ付けて寝たからなんか首とか肩とか痛〜い。アンタと添い寝するからと思って付けてたんだけど、やっぱり外しておけば良かった……」
 オイ、マリアっ! 声っ! 声がでかいってまじでっ!!
 マリアのそのぼやきに、僕らの前に座る若いサラリーマンと大学生がマリアに熱い視線を投げかける。続いてその隣で慌てる僕に視線を移した瞬間、殺意すら伺える嫉妬の目で睨む。確かにこんな超美形の女子の隣で、あまつさえ親しそうに話す男が僕みたいな明らかにヘタレで秋葉ファッション装備のヲタ全開野郎なら『てめえふざけんなよっ!』って気持ちになるのも当然だけど……
 いや、前だけじゃない。この車両の僕らの周りにいる男性ほとんどが、マリアと僕に温度の違う視線を投げてくる…… マジでめちゃ怖ぇぇっ!!
 この次マリアが妙なこと言ったら、まともな体で電車降りられる自信がない。マリア、頼むから誤解されるような事は喋らんでくれっ!!
 あのね皆さん――――っ! 僕はマリアの彼氏とか恋人とかじゃ断じてありませんからっっっ!!
 そんな嫌すぎる気分でつり革に掴まりながら電車の揺れに身を任せつつ、ふとあることを思い出した。
 さっきのターキーサンド…… 奢らされなかったな? あれ? そういや昨日の経験値ってどれだけ出たんだろ?
「あ、あ、ああ、あのマ、マリア、き、きき、き、昨日の、け、経験値、ち、って?」 僕のその質問に、マリアは思い出したように言った。
「ああ、そうそう、昨日の経験値ね。凄かったよ〜 みんなレベル上がったし、あたしは20越えて…… スノーなんか40だよ。あたしは3分の1ぐらいキャッシュにしちゃった。今月厳しかったから助かった〜♪ メタちゃん良いトコあるじゃんって感じ」
 良いトコって…… お前昨日握りつぶされかけてたんだけど、あいつのペットに……
 にしてもスノーがとうとう40か…… ララもレベル20越え。皆一通りレベルアップしておつりが来る稼ぎってことは、こりゃあ期待できるよ僕も♪
「……でも、アンタはかわいそうよね〜 一番活躍したってのに経験値ゼロなんだもん」

 ―――――え゛っ? 
 ゴメンちょっと良く聞こえなかった。
 今 なんて 言った デスカ?

「ターミナル戻ったらアンタだけ転送されて来なくてさぁ、ほらあたし向こうじゃ気絶状態だったじゃない? だから詳しいことはよくわからないんだけど、スノーが言うには、アンタどうもあのキングコング倒して倒れたんだって。そしたらそのまま接続切れちゃったらしいのよね〜」

 な、なな、何じゃそりゃぁぁぁぁ――――――っ!?

「ほら、戻ってこないと入らないじゃん? 経験値。みんなで『まぁ仕方ないか』って事になって均等割。フィールドの関係上コンプボーナスは無かったけどすんごい稼ぎでびっくり! ほとんどアンタが倒したのにねぇ、ほんっとわかいそ〜♪」
 ま、まじで!?
 あ、ありえねぇ…… あんだけ苦労して倒して、さらにリアルでもこんだけ痛い思いしているのに獲得経験値ゼロ……!? ま、まさに、ほ、骨折り損の……ああぁ 
 朝のショックも凄かったけど、今の話しもショックでかいや。しかもこっちはすげーリアルなダメージだ…… はは、あははは……
 あのさマリア、どうでもいいけど心なしかちょっぴり嬉しそうに聞こえるのは僕の気のせいかい?
 聞けば昨夜のタクシー代もマリアが払ったらしいが、日頃から「人の金は使うの好きだけど自分のは嫌」つー全く以て自分勝手な事を公言してはばからないマリアが、自分の金でタクシー代を払い、さらにそれを僕に請求しないなんて……
 いったいどんだけ貰えたんだよチクショウっ!!
 今の話しでさらに痛みが倍増した体を呪いながら、僕は電車の揺れに身を任していた。

☆ ☆ ☆ ☆

 午前中の講義中は例によって例のごとく睡魔に襲われながら講義を聴くのだが、今日はさらに体の関節と筋肉の痛みにも襲われ居眠りすら出来なかった。たまに眠気に抗えずこっくりと船をこぎ出すたびに筋肉痛と関節痛が同時に体中をかけずり回り、その激痛に耐えなければならず寝るどころの騒ぎではなかったよ。
 そんな拷問のような午前中の講義を終え、僕は痛みの残る体を引きずりながら学食ホールに向かった。
 朝食べた例のトーストサンドのおかげで未だに胃に異物感が残っていたのだけれど、生命維持の観点から考えても昨日の昼からの食事がアレだけっていうのがとてもヤバイ気がして、とりあえず軽いところでスパゲティーナポリタンをチョイスした。
 だってほら、とりあえず人間の食べ物を食べておかないと怖いじゃないですか、背中に黒い羽とか生えてきそうで……
 とりあえずそのナポリタンを乗せたトレイを持って、僕はカウンターを離れ空いているテーブルを探しにホールに向かった。
 歩くたびに走る痛みのせいで、まるでマイケルジャクソンのロボットダンスのような奇妙な歩き方で他の学生達が食事しているテーブルの間を歩いていると、前方から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「カゲチカー、コッチコッチ〜!」
 前方11時の方向に激しく手を振る美女一人…… マリアだ。
 僕はまた痛みを堪えつつ、その奇妙な歩き方で墜ちそうになるトレイを慎重に支えながらマリアに近づいていった。
 いつもの事だけど4人掛けのテーブルに並べられた料理の量にウンザリする。相変わらずすげぇなお前は…… 四川料理のフルコースかっ!? 4人掛けのテーブルが小さく見えるわっ!!
 マリアの向かいには雪乃さんが座っていた。あれれ? 今日はお弁当なのに学食なんですか?
「こんにちはカゲチカ君。お昼ご一緒させてくださぁい」
 そう言ってにっこり微笑む雪乃さん。ああ、ギザカワユス…… 痛みが一瞬和らぐ気がするよ〜 いやもうこちらこそって感じですよ〜♪
「さっき3号館のトイレの前で会ったからお昼一緒に食べようって誘ったの。いいからアンタもさっさと座りなよ」
 なあマリア、勧めてくれるのはありがたいんだけどさ、この満漢全席みたいなテーブルの上で僕のトレイをいったいどこに置けと?
 仕方なく僕はマリアのトレイに自分の持ってきたトレイを重ね、皿を詰めて何とかナポリタンを置くスペースを確保しつつマリアの隣の席に着いた。
 ふと見ると雪乃さんの手元に広げられたチューリップ柄のピンクのナフキンの中央に可愛らしく鎮座する小さなお弁当…… 雪乃さんのイメージピッタリだよ〜 お弁当まで可愛いんだねまじで。
「うわ〜ちっさいお弁当。雪乃そんなんで足りるの?」
 ……いや、確かに小さいけど、君は規格外だから……
「私小食なんですよぉ〜 コレでも今日はちょっと多いかもって感じです」
 コレでも多いってのも規格外な気がするなぁ…… でも女の子って感じで良いんじゃないッスか? マリア基準にしちゃダメですよ〜 胃袋魔界にリンクしてるんですから。
 とりあえずマリアの「いただきま〜す」の声と共に僕らは食事を始めた。
「そうそう、カゲチカ君ごめんなさい、昨日の経験値。あのバルンガモーフ倒したのカゲチカ君なのに。私凄く申し訳なくて…… リーダーなのに全然役に立たなかったし……」
 本当に申し訳なさそうに箸を置きそう言いながら目を伏せる雪乃さん。や、やめてください雪乃さん、そんな顔されたら僕の方こそ泣きますってっ!
「い、い、いいや、もも、もういい、いですよ。デ、デッドした、ぼ、ぼぼ、僕も、ま、まま、マヌケ、な、なんです、か、から」
 もう今更言ったって仕方ないし、文句言ったってレベルが上がる訳じゃない。リザーブだってまだ余裕あるから大丈夫です、気にしないでくださいよ〜
「あっ、それに大丈夫でした? あの後ちゃんと帰れたんですか?」
 そうか、雪乃さんは自分の家からアクセスしてるから知らないのか……
「ああ、それなら大丈夫(もぐもぐ) あたしが連れて帰ったから(もぐもぐ)」
「えっ?」
 再び箸を持った雪乃さんの手が止まった。なんかとっても嫌な予感がするのは僕の気のせいデスカ?
「そしたら(もぐもぐ)終電無くなっちゃってさぁ(もぐもぐ)仕方ないからカゲチカの部屋に泊まったってわけ(もぐもぐ)」
 話しをしている最中も関係なく食事をするマリア。さっきから箸を持ったまま完全に固まってる雪乃さんに気づかずに2枚の皿を綺麗さっぱり処理し、次の皿の料理に手を付けながらさらに話を続ける。相変わらずすげースピードだ。なんかカジノとかでトランプ配ってるディーラーみたいだ。
 でもマリア、ちょっと待て。なんか様子がおかしいよ。なあオイっ! と僕はマリアの袖を軽く引っ張った。
「ちょっ、何よ〜? でね、聞いてよ雪乃〜 コイツったら寝言で『鬼丸ぅ』なんて叫んで五月蠅いったらありゃしないの(もぐもぐ)同じ布団で寝てる身にもなって欲しいモンだわ全く(もぐもぐ)」
 引っ張る僕の手を振りほどき、雪乃さんを全く見ずに食事をしながら一方的に話すマリア。また余計なことをっ!!
「お、同じ布団……!」
 そう呟いた雪乃さんの手から箸が落ちてカランっと変に乾いた音が鳴った。
 あ、あの…… 雪乃さん? なんかエライ誤解してませんか?
「い、い、いいや、ゆ、ゆ、ゆき、ち、ち、ちち、違っ……」
 ヤ、ヤバイっ! 全然言語が出てこないっ! 誤解ですっ 誤解ですからねっ! ぼ、僕はマリアとは何にも無いですからねっ!!
「それにコイツどさまぎであたしの胸まで…… あれ? どしたの雪乃…… ああっ!?」
 ここで初めて雪乃さんの異変に気づき、何を思ったのか驚いた声を上げるマリア。いまさら何に気づいたか知らないけどお前なぁ!
「む、胸…… 胸をなんですかぁ?」
 顔を下に向け、完全にフリーズしながらそう聞く雪乃さん。顔が見えないのでその表情が全くわからないのと 奇妙に震える声のトーンが嫌すぎる!
「あ、ち、違うの雪乃。あのね、あたし達は雪乃が考えている様な事なんて全然無いの」
 と必死に弁解するマリア。コイツのこんな姿は初めて見たよ。僕も何か言いたいのだけれどどう頑張っても言葉が出ないので、マリアの隣で赤べこの置物のように首を縦に振るしかないのがもどかしいが仕方ない。マリア頼んだぞっ!!
「私の…… 考えてる様なこと…… って?」
「いやだからそのなに?…… ベッドで上になるとか下になるとか…… 入れるの入れないのとか…… アレとかナニ……とか?」

 ブ―――――――――っっ!!
 思わず吹いた。
 お前馬鹿か――――っ!! 何でそんなに生々しい表現するんだよっ!?

「ひ、ひどいよカゲチカ君…… この前『つき合ってないって』……」
「い、い、いや、あ、ああ、あの……っ!」
 こんな状態で僕に言葉なんかしゃべれるかぁっ!
 マリアのアホっ!! 完全に誤解されてるじゃんか――――――っ!!
「ううっ…… 私って童顔で子供っぽいし…… うえっ…… マリアさんみたくセクシーじゃないし、胸だっておっきくないから…… 二人して私を笑ってたんだぁ……」
「あ、あのね雪乃、そ、そんなんじゃないから…… まあ添い寝して胸揉まれたってのは事実だけど……」
 お前状況考えろっ! どう考えたって火に油注いでるだけだろそれっ!?
「や、やっぱり……ヒック…… じ、事実なんだぁ……」
「ちょっ、ちょっとカゲチカっ! アンタ何とかしなさいよっ!! アンタにも責任あるんだからねっ!!」
 そう言って慌てるマリア。オイなんだよその責任ってっ!? そもそも君が踏んだ地雷でしょーがっ!!
 そうこうしているうちに雪乃さんの体が小刻みに震えだした。まさか……!?

「うえぇぇぇぇぇ―――――――――――――――んっ!!!!」

 いきなり雪乃さんはテーブルに突っ伏して泣き始めた。思わず奇妙な中腰で固まる僕とマリア。周りの学生も食事を中断してこっちを見ている。
 ええっ? 雪乃さんこういうキャラなの――――――っ!?
 ってか普通泣く!? 何で泣く!? 僕にはさっぱり意味がわかりませんっ!!
 突っ伏したまま大声で泣く雪乃さん。時折「やっぱり子供なんだー!!」とか「カゲチカ君のぶぁかぁ――!!」とか、あとなんだかわからない言葉を連呼しながら泣き続けている。それを必死になだめる僕とマリア。
「あのね雪乃、ねえ聞いてっ、聞いてってばっ! あ、そうだ、ほ、ほら、あたしのマンゴープリンあげるよ〜っ! ちょっぴり中古だけどおいしいよ〜っ! ねっ?」
 アホかっ!! 幼稚園児あやしてるんじゃないんだぞ! しかも中古ってオイっっっ!!
 その後約5分間、僕とマリアは泣きじゃくる雪乃さんをなだめるべく、あの手この手を使って奔走する羽目になった。

☆ ☆ ☆ ☆

 そして5分後……
「もう…… マリアさんやめてくださいよぉ〜」
 どうにか事情をマリアに説明させ、僕とマリアの間にはチーム仲間と友人って事以外に特別な関係は一切ないと言うことを納得してもらった。そして5分後にはコレこの通り、すっかり元に戻った雪乃さんが、ニコニコしながらお弁当の残りを食べている。さっきの惨劇から一転、まるで泣きわめいた事など無かったかの様なご機嫌モードだ。
 いやマジでもっそ疲れたんですけど……
「もう…… 勘弁してよ雪乃ぉ」
 そう言ってさっき雪乃さんにあげるって言ってたマンゴープリンを食べるマリア。あのさ…… いや、もういいやべつに。
「あたしがこんなヘタレでキモオタで根性なしでゲーマーでむっつりで二次コンで萌えゲーにツッコミとか入れてて童貞で『右手が恋人です』って地でいってるような天然ラッパーなヘタレとつき合うわけないでしょ?」
 マリアおまえ…… 確かに否定できないけど言い過ぎっ! つーかヘタレ2回も言ったし!!
「う〜ん そうですよねぇ♪」
 はい雪乃さ〜ん。そこ嬉しそうに納得するトコと違うでしょっ!!
 しかしそれにしても雪乃さんが泣きキャラだったとは知らなかった…… あっちじゃ冷徹な絶対零度の魔女って言われる『寒怖キャラ』なのに、リアルじゃ『萌え泣きキャラ』だなんて誰も想像できないだろうなぁ……
「あ、そうだ、ねえ雪乃、あたしもレベル20になったし、雪乃も40になったじゃん? それに一人を除いてみんなレベル上がったんだしさ、お祝いにパーティーしない?」
 一人除いてってわざわざ言うな!
「パーティ…… なんか良いですねそれ♪」
 と雪乃さんが嬉しそうに言う。パーティーかぁ…… そういや沢庵でもビネオア飲んでワイワイ騒いでる連中も結構いるよなぁ。でも僕だけレベルも経験値も上がってないつーのが悲しすぎるよ、トホホ……
「じゃあ、沢庵のいつもの46番テーブルで……」
 と段取りを考え始める雪乃さんの言葉を遮り、にんまりと笑うマリア。お前ナニ考えてるんだ?
「ノンノン、違うよ雪乃。リアルでやるの。リアルラグナロクパーティー第2弾♪」
「それって…… オフ会ってことですか? でも第2弾?」
 またやるのカヨ…… ってことは当然場所はまた例のあそこか……
「前にね、ドンちゃん達と電車でばったり会ってさ、その場のノリでドンちゃんの店で盛り上がった事があったの。ホントはお店の新装開店祝いだったんだけどね」
 そうそう、そんなこともあったな。あの後僕は二日酔い…… いや三日酔いでボロボロだったんだよ。
「わぁ、楽しそうですねぇ♪ やりましょうかオフ会」
「そうそう、サムも呼んでさ。あ、でもサムの連絡先知らないや…… ねえ、アンタ知らないの? 前に同じチームだったんでしょ?」
 あのねぇ…… 僕たちプレイヤーは基本リアルじゃロビー以外では会わないんだよ。傭兵なんかは特にそうだ。ロビーですら会いたくない。
 何故かって? そりゃ決まってるじゃん。契約料に不満があったりしてイザコザになったりしたら、面が割れてりゃリアルでやられちゃうでしょ? リアルでもそれなりに喧嘩強かったらまだ良いけど、僕なんか特にリアルじゃこんなんだもの、連日カツアゲのターゲットにされるに決まってる。だいいち、あっちでもあんなにアホな奴、リアルでなど会いたくもないよまじで。連絡先なんて知るわけないじゃん。
「し、し、知ら、な、な、ない」
 と僕は簡単に言った。つーか知ってても言いません。
「あ、でもあの人なら知ってるかも……」
 そう呟く雪乃さん。いやいやいや、良いんです、良いんですよ雪乃さんっ! 余計な気を遣わなくてもっ!!
「マジで? だれだれ? その人連絡付く?」
「はいたぶん…… 兄の古い友人で、たしか『オウル』ってハンドルで傭兵やってるハズですぅ。凄い情報通で、あの人だったらひょっとしたら知ってるかも……」
 オウル!? 雪乃さんあの『耳屋』のマスター知ってんの!? しかもあの親父が鬼丸の古い友人? マジですか!?
「へ〜 あれ? でもどっかで聞いたことがある気がする……」
 そう言って首を傾げるマリア。そういや前に『マチルダ』で飲んだとき僕が話した気がするが…… あの時寝てたもんね、人に話せがんでおいてお前はっ!
 それにしてマスター、ホントに顔が広いな。セラフィンゲインでも情報通で通ってるけどリアルでも不思議なパイプを持ってるんだねぇ。
「まいっか。それじゃちょっと聞いてみてよ雪乃」
「はい、後で連絡してみます。それで…… いつにします?」
 そう言う雪乃さんに、マリアはきょとんとした顔で答えた。
「いつって…… もちろん今日に決まってるじゃない」
 即日決行カヨっ! お前いくら何でもそれは…… だいいち、ドンちゃんの都合もあるだろっ!
 しかしマリアはそんなこと全く気にせず、鞄から携帯を取り出し電話を掛け始める。
「―――あ、ドンちゃん? あたしララ―― あはははっ―― え? 今? 今ね学食でシャドウとスノーと3人でお昼〜 でね、3人でオフ会やろうって話になったの―― うんそう―― 今日お店平気?――」
 嬉しそうな声で電話をするマリア。ドンちゃんもいきなりじゃ無理だろ?
 そう思って見ていたら一通り話し終わり電話を切った。
「ドンちゃんトコOKだって♪ 時間は6時から」
 そういってピースサインをしながらウインクするマリア。コイツのこういう行動力つーか決断力つーか…… ホント何つー自分勝手な性格なんだろ。流石は魔界の住人だ。
「マリアさんすご〜い! あっという間に決めちゃったぁ……」
 そう言って拍手せんばかりに尊敬のまなざしを送る雪乃さん。
 何そんな見えない目をキラキラさせてんですか雪乃さんっ!! こんなのただの自己中じゃんよーっ! あなたやっぱりズレてませんか?
「雪乃はオッケー? あ、もちろんアンタに拒否権無いからね、カゲチカ」
 あ、そね…… つーか僕ってお前に拒否権発動できたことってあったっけか?
「はい、もちろん! 私こういうの初めてなのでワクワクしますぅ♪ あ、そうだ。私の家の車でみんなで行きませんかぁ?」
「いいの? やった! じゃああたしちょっと買い物あるから…… 5時に雪乃ん家に集合って事でいい?」
「はい、お待ちしていますぅ!」
 そうニコニコしながら答える雪乃さん。またあのお屋敷に行くのか…… あの眼鏡の執事さん苦手なんだよなぁ。絶対嫌われてる気がするんだもん。
 しかし今日はかえって寝ていたかったなまじで。からだ痛いしさ…… 体ポンコツで経験値スルー、さらには強制ソロモン送りカヨ……
 せっかく買ったナポリタンだけど、一口目でなんか一気に食欲無くして食べたくない。
 なあマリア、コレ食べるか? 中古だけど……


第26話 『ねことメイド』


 午後の講義が終わり、約束の時間までまだだいぶあるので僕はいつものように秋葉原のゲーム・フィギアショップ『耳屋』に向かった。
 あのマスターが鬼丸と古くから知り合いだったなんて知らなかった。マスターに会ったらそのあたりのことを聞いてみよう、なんて思っていたのだが、あいにくマスターは留守だった。あの崩れたバンドマンみたいな店員さんの話では、関西の方に商品の買い付けにに行ってて2,3日は戻らないとのことだった。
 まあ仕事じゃしょうがない。とりあえず僕は全フロアを1時間半ほど掛けて散策し、そのまま雪乃さんのお屋敷に向かった。

 2度ほど電車を乗り継ぎ、駅から7,8分歩いて僕は世羅浜邸の門の前にたどり着いた。
 この前は車でスルーしたので感じなかったのだが、近くで見ると結構で背の高い門だったんだね。左手の石造りの門柱には御影石を彫り込んだ表札が掛かり、右手の門柱には赤いランプの光る監視カメラがまるで威嚇するように僕を睨んでる。そのレンズが、あの老執事さんの眼鏡みたいに見えて、僕は背中が少し寒くなった。何となくモニター越しであの執事さんがニヤリと笑っている姿が脳にリアルに浮かぶのが嫌すぎる。
 いや〜それにしてもスゲー家。建物が門から見えやしない。門から玄関ドアまで大股3歩行ける僕の実家とは比べる気にもなれないよ。
 さて…… これから僕にとってコレまでの人生で5本の指に入る最高クラスの緊張を強いられる儀式をしなければならない。それは……

 女の子の家のインターホンを鳴らすっっ!!

 基本的に緊張するとまともに喋れない僕は、『女の子の家』とかって限定しなくてもインターホンを鳴らすこと自体ほとんどしない。だって相手が出た後がどうにも喋れないんだもんよ。インターホンの意味がないでしょ?
 普通でも確実に怪しまれるのに、それが女の子の家のインターホンなんて、言葉どころか呼吸さえまともに出来るか自信がない。インターホン越しに「ハアハア」してる野郎なんて、普通に通報されるイメージしか沸いて来ないよな……
 しかしマリアのやつ、よりにもよってなんで雪乃さん家で集合にしたんだよっ!? あいつ絶対僕苛める為だけにそうしたに決まってる。くっそ〜!
 とりあえず僕はおずおずと震える人差し指をインターホンのボタンに近づけた。ヤバイ、心臓がまるでドラムロールみたいにバクバクだ。
 指がボタンまで1Cmのところで止まり、そっから前に進みませ〜んっ!! だ、ダメッス、無理ッスっ! 女の子の家のインターホンなんてっ、しかもこんな僕の想像の遙か斜め上を行くセレブお嬢様邸の呼び鈴なんてっ、ATフィールド以上の障壁だっつーの―――っ!!

「ワンワン、ワンっ!!」

 おわぁぁぁっ!!
 背後で突然発生した犬の吠え声にビビったと同時に伝わる人差し指の確かな感触。続いてスピーカーから流れる電子音……
 お、お、押しちゃった!
「こら、バウちゃんダメでしょっ!」
 振り向くと白いグレイハウンドのリードを引っ張るいかにもセレブなおばさまが、なおも「グルルルゥ!」と僕を威嚇する愛犬を叱っていた。
 今にもお尻に食らいつきそうな勢いで、興奮して涎と一緒にご自慢の牙をその口元から覗かせる姿を見て門にへばりつく僕。あわわわわっ!!
 見た目華奢そうな細い腕でぐいぐい引っ張り、ようやく僕から愛犬を引きはがすことに成功したセレブマダムは「ごめんなさいね、いつもはおとなしいんですけど……」と言いながらお散歩に戻って行った。去り際に何度も僕を振り返り、負け犬を見下す目で僕を見るグレイハウンド。く、食い殺されるかと思った!
 しかし、犬にまでガン付けられるとは…… 人以外にカツアゲされる日もそう遠くないかもしれないな、僕の場合。
『どちら様でしょうか?』
 犬のプレッシャーから開放され呼吸を整えたのもつかの間、目の前のインターホンから若い女性の声が聞こえてきた。ヤバイ、そうださっきボタン押しちゃったんだ! 心の準備が全く出来てないのにいきなり超高い飛び込み台に乗せられたリアクション芸人の心境だ。うわ、なんか膝がカクカクしてきたよ。
『どちら様でしょうか?』
 ともう一度同じトーンで聞かれ、このまま走り出して逃げたい心境に駆られる。いやいやいやっ、成人になってまでピンポンダッシュなんかできるかっ!?
「あ、ああああ、あ、あの、か、かかか、かげ、かげげ、う、うら、ち*;s@‐&∀ういw……!」
 どなたかわかりませんがごめんなさい中の人っ! こんな状況では、僕にはもうナメック語しか話せないんです―――っ!! と心の中から必至にテレパシーを飛ばす僕。届けっ! 僕の念波っ!! 
 すると『少々お待ち下さい……』の言葉の後にプツっと通話が切れた。
 あれ? まじで通じちゃった!?
 いや待て、まだワカラン。いきなりわらわらとマト○ックスのエージェントみたいな強面黒服集団に囲まれるって事態も考えられる。いやもしかしたら警察に通報とかだってあり得るだろう。つーか、今の僕の返答なら普通に考えてそっちの方が遙かに可能性高くね? やっぱり今からでも遅くないから逃げようかな……
 そんな不安一杯で門の向こうを眺めていると、屋敷に続いているであろう石畳の道の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。少し歪んだ眼鏡の蔓のせいで若干ピントが合わなくなっているレンズ越しに目を凝らして見ると、どうやら女性のようだった。
 さっきのインターホンで受け答えていた人かな? なんて思って見ていると、なんとその人は秋葉でよく見かける例のあのコスチュームを身につけているではないですか!?
 すげーっ! リアルメイドさんだぁぁぁ!! 僕は初めて見るよ〜
 そのメイドさんが門の前まで来ると、「キイィ」と言う音と共に大きな鉄格子の門がゆっくりと奥に向かってひとりでに開いていった。
 門が完全に開ききったところで、そのメイドさんはすぅっと僕の前まで進み、流れるような動作でお辞儀をした。
「ようこそおいで下さいましたカゲチカ様。わたくし、雪乃様のお世話をさせて頂いております。使用人の疾手【ハヤテ】ともうします。雪乃様がお待ちです。どうぞこちらへ」
 と言って僕を招き入れた。僕はそんな彼女に見とれながら「は、はは、はい」と当たり前のようにどもりつつ門をくぐった。やっぱりまともに名前を呼ばれないのはもう仕方がないので軽くスルーしよう。きっとこの人も『カゲチカ』ってのがホントの名字だと思っているに違いない。雪乃さんに至っては、今更本名は名乗れない域まで達してる気がするしな。
 長いストレートの黒髪に、長いまつげに飾られた少しきつめの目元。すぅっと伸びた鼻梁と小さな唇。来ている服は紺の西洋風メイド服なのに、全体的に日本人形のような印象を受ける顔立ちが良い意味で相手にギャップを与えてくる。マリアや雪乃さんレベルではないが、普通に世間一般では美人と言われる属性だな。『綺麗なお姉さん』的な。
 175cmの僕より少し低いぐらいの、女性としては高い部類に入る身長もさることながら、すらりと伸びた背筋で歩く姿に、どことなくキャリアウーマン的な『出来る女性』をイメージしてしまう。
 そんな彼女の後ろ姿を眺めながら歩いていると、不意に背後に妙な気配を感じて振り返った瞬間、僕は凍り付いた。
―――――――っ!?
 ゴメン、思考が追いつかないっ! なんでこんなのがここにいるんデスカ!?
 頭真っ白で固まる僕の数センチ先に、とてつもなく大きな猫…… じゃねぇ…… 確かに猫科だろうけど、断じて世間一般で言われている『にゃんこ』じゃない動物が喉を鳴らして立ってる。こ、コレに比べれば、さっきのワンちゃんなんて子犬だよまじで――――っ!?
「あ、ああ、あああ……」
 思わず声が震えるのも無理無いって! なんだコレっ!? 
 固まってピクリとも出来ない僕の気配を感じたのか、前を行く疾手さんが振り返った。
「あら? ダメじゃないジブリール。お客様に失礼ですよ」
 疾手さんがそう言うと、その動物はチラリと彼女を見てからすぅっとその場に座り込んだ。すると疾手さんは何の躊躇もなくその動物の頭を撫でた。その動物は目をつむり、気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
 えっ? なにこれライオン? いや違うか。虎じゃないし、ヒョウか!?
「体に似合わずとっても臆病なので、いつもは知らない人が来ると隠れちゃって出てこないんですけど…… カゲチカ様が気になっちゃったのかな?」
 元来動物好きなのか、そう言って顎とかをムツゴロウさんみたいにぐりぐりとまさぐる疾手さん。時折口元から覗くご立派な牙が、その動物愛に少しだけ水を差してる気がするのは僕だけですかね……? 確かに動物だけどコレって実際は『猛獣』とかにカテゴライズされてませんか普通に?
「は、は、疾手さん、ここ、こ、コレって、な、なななんで、すか?」
 どもりながら震える声でそう聞くと、疾手さんは少し考えこう答えた。
「ねこ…… ですよ」
 ああ、猫ね……
 
んなわけあるか――――――いっ!!

「い、いや、あ、ああ、あの猫、に、にしては、そ、そそ、その、お、おお、大きさが……」
「……大きな、ねこ、です」
 すげぇよコノヒト…… 言い切っちゃったよ。
「何か問題でも?」
「い、い、いや…… べ、べ、別に……」
 ツッコミどころが満載すぎて何からつっこめばいいかわかんないつーのもあるけど、その疾手さんのクールすぎる視線と、彼女の横にお座りしている『大きなねこ』の喉から時折聞こえる「ぐるるっ」つー声の前には反論不能ですぅぅっ。
 実家の隣のミイちゃんは普通に抱けますよ? とか、絶対「にゃあ」って鳴かないでしょ? とか、磯野なにがしさんのオープニングじゃないけど確実にお魚じゃなくお肉くわえて逃げるんでしょ? とか、コタツで丸くなる以前に入らないよね? とかそういう一般的なツッコミはぜ〜んぶ飲み込んどきますね♪ うんOKコレは猫。
 そう、とっても大きな ね こ! 
 お腹が空いてないことを祈りつつ、そういうことにしておこう。
「はいジブリール、お客様にご挨拶♪」
 疾手さんがそう言うと、そのジブリールと呼ばれた動物はその場で顔を上下に動かす。まるで頷いてるみたいだ。
「カゲチカ様、お手を出してくださいますか?」
 その疾手さんの言葉におずおずと震えながら右手を差し出す僕。『お手』でもするのかと思っていたら……

――――――ぱくっ

 はいぃぃ――――――――――――――――――――――っ!?
「あ、あわ、あわわっ だ、だ、だずけっ……!!」
 見事に口に収まる自分の右手を見て気が遠のく…… やべっ 意識が……っ!!
「あらあら、ジブリールったら…… そんなに気に入ったからって失礼ですよ」
 あんた落ち着き払って何いってるんですかっ! そこは『あらあら』とか言う台詞と違うでしょ――――っ!! ぼ、僕の手っ、僕の手がぁぁぁぁっ!!
――――――あれ? 痛くない?
 そう思った瞬間、その『大きなねこ』は口を開け、僕の手を開放した。僕は完全に腰を抜かしてその場に崩れ落ちる。あは、あはは…… ちゃ、ちゃんとあるよ、僕のおてて……
「いつもは『お手』をするんですが、この子…… カゲチカ様の事をとっても好きになっちゃったみたいです。申し訳有りません。家の者意外の人にいきなり『握手』するなんて思っていなかったものですから……」
 今のが握手!? そんな紛らわしい握手があってたまるか――――っ!?
 そもそも握手はハンドtoハンドだろっ!? ハンドtoマウスなんて握手聞いた事ねぇよ、普通に食われるのを覚悟しちゃったじゃんよっ!!
「ね、ジブリール。この方は雪乃様の大事なお客様なのです。ご飯なら後で持っていってあげますから、あちらでミカールと遊んでらっしゃい」
 疾手さんがそう言うと、ジブリールはぺろんと舌で口の周りを舐め、名残惜しそうに僕を見つつ立ち上がり、クルリと向きを変えると、広大な庭の奥に姿を消していった。
 今ので確実に寿命が年単位で縮まりました……
 それとね疾手さん、軽くスルーしましたけど、今何かものすごく妙な言い回しに聞こえたんですが…… 『ご飯』とかいう単語をここで出すのはやめて下さいっ! 普通に怖いですからっ!!
 とりあえず、抜けた腰をなんとか根性で持ち上げ、未だに震える膝を叱咤して、背後を警戒しながら疾手さんについて歩き、僕は以前訪れたあのお屋敷の前にやってきた。
 すると玄関の大きな扉が開いて、あの眼鏡の執事さんと一緒に雪乃さんとマリアが出てきた。マリアの奴、先に着いてたのか。
「これはカゲチカ様、ようこそおいで頂きました。再びお会いできて嬉しゅうございます」
 その言葉とは裏腹にちっとも嬉しそうに見えない顔で眼鏡のレンズをキラリと光らせつつ、深々とお辞儀をするアリシノ執事長さん。蛇対蛙の構図でカチコチに緊張して引きつった笑顔とぎこちない動作で僕もお辞儀を返す。前回同様絶対歓迎されて無い雰囲気満載だ。
「途中珍しくジブリールが顔を見せまして……」
 と、さっき出会った『大きなねこ』と言い張る動物の件を、アリシノさんに簡単に報告する疾手さん。
「ほう、それは珍しい。ジブリールが…… そうですか」
 そう言ってまた僕を見るアリシノさん。今はハッキリと嬉しそうですねっ! 前に雪乃さんが教えてくれた『嬉しそう』とは確実に違う意味でしょうけどっ! 絶対僕のこと嫌いだよコノヒト。
「ジブリールは雌なのですよ。カゲチカ様は男前でいらっしゃる。にしても動物までもですか…… なかなかにお手が早いようで…… あ、いやこれは失礼」
 すいません、なんか言葉の端々に妙なトゲを感じるのですが……
「遅いよカゲチカ。集合10分前に着いてるのが男としてのマナーでしょ?」
 と開口一番文句を垂れるマリア。君の口から『マナー』って言葉が出ると違う意味に聞こえるから不思議だよ。
「わざわざ来てくださってありがとうございます、カゲチカ君」
 そう言ってマリアの隣でにっこり笑う雪乃さん。あれー? なんか大学で会う雰囲気とちがうんですけどーっ! 僕の視線をそのエスパー的な探知能力で感じ取ったのか、雪乃さんは恥ずかしそうに呟いた。
「えへへ、美由紀さんに頼んでちょっとおめかししちゃいました……♪」
 大きめのチェックプリントのチュニックの上からファー付きフードの白いブルゾンを羽織り、茶色のカラータイツとスエードのブーツがかわいらしさを強調してる。化粧なんてしなくても断然可愛いその顔には、下地の良さを生かしたナチュラルメイクが施され、普段でさえ破壊力有るロリ顔がその威力を数倍に高めている。そんな雪乃さんが恥ずかしそうにハニカムもんだから、僕の脳はトロトロな訳で…… 連邦のモ○ルスーツは化け物か……っ!?

 お め か し さいこーっ!!

「雪乃様に喜んで貰えて私も嬉しいです」
 萌え苦しむ僕の後ろで、そう疾手さんが答えた。美由紀さんって疾手さんの事なのか。そっか、さっき雪乃さんのお世話係って言ってたっけ。
「ガゲチカ様、何か問題でも?」
 とずいっと一歩前進して僕に質問するアリシノさんの声に、脳内のお花畑が一瞬にして凍り付いた。
「あ、あ、あの、も、、もも、萌える、つ、つ、つつーか、そ、その……」
 やべぇ、口が滑ったっ! なに言ってんだ僕っ!?
「萌え? 『萌え〜』ですか? ほう…… 雪乃様に?」
 あわわわ……っ ゴメンナサイっ! もうほんっとゴメンナサ――――イっ!!
 銀縁の眼鏡の奥から覗く眼光だけで僕の動き完璧に停止させる。まるでのど元に安綱を突きつけられてる気分だよっ! この前のバルンガモーフより確実に怖えぇーっっ!!
 と、そこへ上品そうなエンジン音と共に1台の車が滑り込んできた。そちらの方にアリシノさんが視線を移したおかげで、ようやく恐怖の呪縛から解放された。
 ま、まじであと数秒で心停止するところだった……
 実際に途中から呼吸まで止まっていたのでとりあえず酸素を補給し、目の前に止まった車を見て心の中で「おおっ!」と歓声を上げた。僕って意外に車って好きなんだよね。
 バンデン・プラ・プリンセス 1300 Mk-2
 前に乗ったクライスラーより2回りほど小さいけど、上品なワインレッドのピカピカボディーに荘厳なグリル、フォグランプが配されたフロントマスクがどことなくロールス・ロイスを思わせる。そういやたしか『ベビーロールス』って言われてたっけ、この車。前に雪乃さんが言ってた『普段乗ってる小さい車』ってたぶんコレのことだろう。
 しかし『バンプラ』かぁ…… 名前もプリンセスだし正真正銘のセレブお嬢様な雪乃さんにはとっても似合ってる気がする。だってこのサイズで『ショーファードブリン』【おかかえ運転手付き】を前提に設計されたんだぜ、コレ。
 不意に運転席から穏和そうな中年男性が降りてきて、僕らにお辞儀をした。世羅浜家の運転手、折戸【オリド】さんだ。
「これはカゲチカ様、ようこそおいで下さいました」
 その言葉に車に魅入っていた僕は慌てて低頭した。アリシノさんと違ってこの人は本当に人の良さそうな笑顔で接してくれるから僕もほっとしますよ。
「さあ雪乃様、それにお二方もご乗車下さいませ。あ、カゲチカ様は恐れ入りますがナビシートの方へ……」
 そう言って助手席側ドア2枚を開けてくれる折戸さん。遺伝子レベルまで一般市民な僕は、運転手さんにわざわざドアを開けて貰って車に乗り込むなんてまず無いから逆に緊張してしまう。あ、いやもうドアぐらい自分で開けますからっ! 右足と左足、どっちから先なんだ!?
 そんなアホな事を悩みながらそそくさと車に乗り込む。少し遅れて雪乃さんとマリアが後部座席に乗り込むのを確認すると、折戸さんは丁寧にドアを閉め、運転席に乗り込みギアを入れた。
「行ってらっしゃいませ」
 と言いながらお辞儀をするアリシノさんと疾手さんを後にして、僕らは新宿二丁目のクラブマチルダに向かった。
「ねえ雪乃、さっき言ってたジブリールって何なの?」
 と後部座席でマリアが雪乃さんに聞いた。
「ああ、家で飼ってるねこですぅ。2匹居てもう片方が雄のミカール。とっても可愛いんですよ〜 兄も凄く可愛がってて。普段はお庭で遊んでるんですけど、臆病なのでお客様が来ると隠れて出てこないんですよ。だからあの子が家の者以外の人の前に出てくるなんて凄く珍しいんです。きっとカゲチカ君のことが気になっちゃったんでしょうね〜」
 そう嬉しそうにニコニコ話す雪乃さん。僕としては『餌』として気になったんじゃないことを祈るばかりです。しかし可愛いかどうかは別にして、そもそも『匹』って単位で数えないですよねアレ。
「え〜、あたし見てないよ〜 でもあんな大きな庭だったらねこちゃん達ものびのびしてるんだろうな〜 あ〜あ、見たかったなぁ」
 いや、見なくて正解だよマリア。きっとお前の想像している『ねこ』とはかけ離れてるから。疾手さん一緒じゃなかったら、今こうして座っていない気がするよ僕は。でもお前の場合素手で撃退しそうだけどな。
「ね、ね、ねね、ねこ、で、です、かね?」
 いや、ほらとりあえずそのあたりは軽く聞いておこうと思ってさ。
「え? ねこですよ? 私は目がこんななので見えないですけど…… ちょっと大きなねこって美由紀さんが言ってました♪」
 そうだった。雪乃さん目が見えなかったんだよね…… 『ちょっと』って表現、凄く巾があるもんね。確かにねこ科だろうけど間違いなく『にゃんこ』じゃない。ひょっとしたら雪乃さんは一般的な『ねこ』って知らないんじゃないか?
「なんて種類のねこちゃんなの?」
「えっと確か…… あれ? なんでしたっけ、折戸さん」
 そう運転席でハンドルを操作する折戸さんに聞く雪乃さん。そう振られた折戸さんは優しい口調で答えた。
「私はペンシルベニア・クーガーと聞いております」
 そんなにこやかな顔で、さも当たり前のように…… やっぱりこの人も少し変わってます。僕は今ハッキリとそう思いました。
「へ〜 あまり聞かない名前ねぇ。今度見せてね♪」
 そりゃ聞かねぇよ普通。つーかもう『クーガー』って時点で『ねこ』じゃねぇこと気付よマリアっ!! 
「ええもちろん。今度ゆっくりいらしたら遊んであげて下さいね。あの子『鬼ごっこ』とか『かくれんぼ』とかが凄い好きなんですけど、私がこんななんで相手してあげられないから…… きっと凄く喜びますよ♪」
 雪乃さん、それってジブリールが鬼役なら『遊び』じゃなくて確実に『ハンティング』になりませんか? そんな命がけな遊びは遠慮しますよ僕は。
 しかしピューマだったんだあれ…… またあの家で苦手な存在が増えた。
 それにしても一般庶民にはセレブなお宅訪問は疲れるよなぁ……


第27話 「鴉と鷲」


 世羅浜邸から30分ほど車を走らせ、僕らは新宿2丁目にあるクラブマチルダに到着した。ここまで乗せてくれた折戸さんにお礼を言って僕らは車を降りた。
「いえいえ、おやすい御用ですよ。それでは雪乃様、お帰りの際はご連絡下さい。お迎えに上がりますので」
 折戸さんはそう言って雪乃さんと僕らにまで丁寧にお辞儀をして運転席に乗り込むと走り去っていった。う〜ん、変わってる世羅浜家にちょっぴり染まってるけど本当にいい人だなぁ、折戸さんって。
「さあ雪乃、ここがドンちゃんの店、『クラブマチルダ』よ」
「わ〜 なんかわくわくしますぅ♪」
 マリアの言葉に応じて目を輝かせながらお店を見上げる雪乃さん。毎度の事ながら、もうホント見えてるとしか思えない仕草だよ。
 僕ら三人が店のドアに手を掛けた瞬間、後ろから声が掛かった。
「ヘイヘイヘ〜イ! キュートなレディ〜スにマイ・ブラザ〜ボ〜イっ!!」
 アホな台詞で振り向かなくてもわかる。だいたいいつからあんたのブラザーになったんだよ僕は……
「あ、サムだ〜! サムってホントに外人みたーい!」
 マリアの声に少し興味が沸いたので僕も振り返った。
 ジャマイカだかどこだか良くわからん七色のグラデーションTシャツにダウンのロングコート。8ボールのロゴが入ったキャップに首から提げた大きめのヘッドホン。僕の実家の台所に垂れ下がっているすだれのようなドレッドヘヤーを鬱陶しくまとわりつかせたのっぽの黒人がそこにいた。
 想像通りというか…… ニューヨークとかで道ばたで座ってたら間違いなくヒッピーだなお前は。しかもそのヘッドホン、コードの先が繋がって無いんだけど……
「フゥ〜っ! ララち〜ん、リア〜ルでもエキサイティングなセクスィーガール!! 突然『オウル』から連絡有ったときはどうしたものかとシンクしたけど、カムしてグーだったYo!」
 うぜぇ…… あっちでもウザイがリアルじゃウザさが2割り増しだ。さらに声もでかい。サムが何か喋る度に道行く人が振り返る。一緒にいたくないよまじで。あのさ、会話もそうだけど、何で事あるごとに奇声を上げるんだ?
「ウッホ、ブラザ〜ってばリアルも別の意味でブラック! ってかヲッタックぅ!」
 やかましいっ! ほっとけサルっ!! なんだその『ヲタック』って!? だからリアルじゃ会いたくないんだよ。特にコイツとだけは……っ!
「ああ、その声はサムさんですね、こんばんは〜」
 と律儀に挨拶する雪乃さん。
「わおっ! ユーはプリティースノー? Ho〜w キュートアンドベリーベリープリティーガールね♪ ……ホワッツ?」
 そう奇妙な声を上げ、サムは雪乃さんの右手に握られた白い杖に目を止めた。不意に黙ったサムに雰囲気を感じ取ったのか雪乃さんが答えた。
「私、目が見えないんですよ……」
 そう言って少し恥ずかしそうに微笑む雪乃さん。うわ〜可愛いすぎるっ! オイサムっ! 少しは察しろよ、雪乃さん困ってるじゃんかっ!
 しかしサムはもう一度「ホワッツ?」と聞き返す。あれ? と思ったが…… あ、そうだ思い出した。コイツ確か……
「ま、ま、マリア、さ、さ、サムは、み、み、みみ耳が、わ、わわわ悪いん、だ」
「えっ? そうなの?」
 そう、コイツ確かリアルじゃすげえ難聴なんだよ。前に聞いたことがある。なのに何故かクラブDJやってるんだよ…… どうやってやってるんだかさっぱりわからないんだけどな。
「スノーはねーっ! リアルじゃーっ! 目がーっ! 見えないのーっ! わーかーるーっ!!」
 マリアはサムの耳元ででかい声で叫んだ。サムもようやく聞こえたようで何度か頷いた。
「オーケー、オーケー。アンダースタンドだよララちん。ちょっとモーメントプリーズね……」
 そう言ってサムはポケットから何かを取り出し、耳に挟んだ。
「コレでノープロブレムね♪」
 そう言ってサムが耳に挟んだのは補聴器だった。お前…… そんなのあるなら常時装備してろよ……
「オ〜ウソーリー、プリティー・スノー。ユーのアイがルック出来ないなんて知らなかったYo〜 ミーの愛でユーのアイをあげた〜いネ!」
 とくだらないことをのたまいながら、乾いた笑いをするサム。やはり呼ぶべきではなかった……
「とにかく中に入りましょ」
 そのマリアの言葉に僕たち4人は店に入った。
「いらっしゃ〜い♪」
 入ると同時に例の『木馬ガールズ』が僕らを出迎えた。すでに店のコスチュームに着替え終わってるところを見ると、どうやら準備をして待ってくれていたらしい。
「マリアちゃーん、おひさしぶり〜」
 金髪美女(?)セイラさんがそう言いながらマリアに抱きついた。性別が微妙だが、ビジュアル的には問題なし。そういや前回来たときも結構良く喋っていたよなこの二人。どうやら仲良しになったみたいだ。
「わおセイラ、元気してた〜? 今日は約束通りお客として来たよ〜」
 マリア、お前やっぱりこの人ですら、もう呼び捨てなんだ。すげぇな、相変わらず。
「う〜んとサービスするから楽しんでって。あら? うわ〜、こっちの彼女もすっごい美少女じゃない!?」
 マリアの隣に立つ雪乃さんを見て、セイラさんがその微妙な声音を数オクターブ上げた驚きの声を上げる。いや無理もない。マリアと雪乃さんはちょっとあり得ないほどの天然美貌の持ち主だからね。
 そこへぬうっと現れた巨体。このクラブマチルダのオーナーママ。マチルダことドンちゃんだ。相変わらず全く似合ってない連邦軍女性士官のコスプレが、今にも引きちぎれそうなほどパッツンパッツンで登場。
「いらっしゃ〜い…… あら? あなたもしかしてスノー?」
 ドンちゃんが雪乃さんを見てそう質問した。
「はい。初めまして、世羅浜雪乃ですぅ。今日は突然だったのにオフ会の場所を設定して頂き、ありがとうございますぅ♪」
 そう言いながら雪乃さんはぺこりと頭を下げた。その可愛らしい姿にドンちゃんも驚いているようだった。
「いや〜ん雪乃ちゃん! 可愛いさが留まることを知らないわよ! もうマッハいくつよ? て感じ♪」
 あのねドンちゃん、気持ちもわかるし、言いたいことも何となくわかるけど、『可愛い』度はたぶん『マッハ』じゃ表せないと思ワレ……
「この子もママの知り合いなの?」
 そう言ってマリアと雪乃さんに群がる木馬ガールズ。口々に『可愛い〜!』を連発するコスプレオカマ軍団と、取り残される僕とサム。まあ、仕方ないよなこの場合。
「なかなかエキサイティングなクラブネ〜 ミーは気に入っちゃったYo」
 そう言って店内を見回し、店内に流れる『シャアが来る』の曲に合わせて妙なリズムを取るサム。鬱陶しいから少し離れて欲しい。
 あれ? そういやたしかもう一人居たよね、ここのホステスさん。
「私をお捜し?」
 いきなり耳元にそう声を掛けられ一瞬息が止まる。おわぁぁぁあっ!!
「また会えたわね。あ、そうそう、当たった? 私の占い」
 だからそのステルスモードで接近するのはやめて下さいララァさんっ! 心臓止まったらどうするんですかっ!? その相変わらずの怪しい衣装も胡散臭さに拍車を掛けてるんですから。
「その顔じゃ当たらずとも遠からず…… まだ鬼丸さんには会えてないみたいね」
「あ、ああ、い、い、いえ、も、もも、もうすぐ、あ、あ、あ会う、か、かかかも」
 どもりながらそう答えると、ララァさんはフッと笑って顔を近づけてくる。
「意識が永遠に生き続けたら拷問よ…… 私はあなた達二人の間に居たいだけ……」
 だからいちいちアッチの台詞をこじつけなくても良いですってっ! そもそも最初から鬼丸と僕の間にあなたは気配すら存在してませんから。
 すると、ララァさんの後ろにもう一人女性? が居るのに気づいた。この店の従業員さんみたいだからたぶんこの人もオカマさんだろう。黒いストールを羽織って腕を組み、顔は皆さんと同じく綺麗なんだけど、ちょっと高圧的な視線を投げかけてくるのが少し怖い。誰だろうこの人。そんな僕の困惑した表情に何かを感じ取ってくれたのか、ララァさんはその人を紹介してくれた。
「ああコレ、私の友達のハマーン。先週からこの店で働いてるの」
 ハマーン……
「何がコレだこの俗物が! そもそも私とお前がいつから友達になったのだ。私に友はいらん、人は生きる限り1人だからな。そう思わないか少年?」
 ははは…… だから同意を求めるなって。また変なのが入荷してるよこのお店……
「いつもこんな感じだから気にしないで。声帯いじって声まで変えたのに男口調なの。オカマなのに『男っぽい』っていうちょっと変わったオカマね。ちょっとややこしいから『男口調の直らないオカマ』でいいわ」
 えっと…… 元男で女になって男の真似…… あれ? それって女性になった意味あるんですか?
「違うぞララァ。何度言えばわかるのだ。私は『男口調の直らないオカマ』じゃ無くて『男口調の女性になりたいオカマ』だ。このハマーン、見くびって貰っては困る!」
 言葉にすると微妙な違いだけど、この人にすれば地球圏とアステロイドベルト以上の開きがあるらしい。僕の脳内メモリーには普通に『変なオカマ』とインプットされました。
「なかなかミステリアスなレディーだね」
 あのなサム、レディーじゃないと思うぞたぶん。つーかこの人相手に普通のリアクションするお前も凄いけどね。
「こんなんだけど評判良いのよ。今じゃハマーン目当ての客も多くて。でもなぜか8割方女性客なのよね」
 ああ、それ何となくわかる気がする…… あれだ、宝塚みたいな感覚なのかもしれない。
「ちょっと待て、私は普通に男が好きだぞ! 人を変態を見るような目で見るんじゃないっ!!」
 女性に好かれるのは男としては普通だけど、そもそもオカマって時点で…… いや、もう考えるのよそう。正直頭痛くなってきたし。
 そこに店の奥から僕らを呼ぶ声がした。
「よう、先にやってるぜ」
 見るとスーツ姿のリッパーと法衣を着たサモンさんが早くも飲み始めていた。この前来たときも思ったんだけど、そんな法衣姿でジョッキ煽って良いんですか? サモンさん……
「さ、さ、さ先に、つつ、つ着いて、い、いい、いたん、で、ですか?」
 どもる僕の言葉にリッパーはニヤリとして答えた。
「ああ、俺達もさっき来たトコだよ。ちょっと早かったんで、悪いと思ったんだが先に一杯やらせて貰ってたんだ」
 そう言ってリッパーは残りのビールを煽った。
「私も今日はここに来る予定は無かったんですが、リアルでスノーに会うってことで来てしまいましたよ」
 そう言って坊主頭をさすりながら苦笑いをするサモンさん。チームの副官としてはやはりチームリーダーのリアルの姿を見てみたかったんだろうね。
 そんなことを思いつつ、僕とサムは2人の前に座った。続けてテーブルにマリアと雪乃さんがやってきた。
「ああ、リッパーにサンちゃん。先に来てたんだね〜 はいはい2人ともお待ちかね、この娘がリアルスノーの雪乃だよ〜♪」
 そう言ってマリアは雪乃さんを二人に紹介した。
「こんばんはリッパーにサンちゃん。世羅浜雪乃ですぅ♪」
 そう言ってにっこりと微笑みながらお辞儀をする雪乃さん。2人とも雪乃さんの可愛さに一瞬言葉を無くしたようだった。
「あ…… ああ、こっちじゃ初めましてって事になるか。しかし本当に目が見えないんだな……」
「ええ。でもその分耳はいいですよぉ。一度聞いた声は忘れませんし」
「それになんつーか、その…… いや、何でもない……」
 そう言い淀んでリッパーはジョッキに口を付ける。雪乃さんの可愛さに動揺しているみたいだ。もしもしリッパー、そのジョッキもう空ですよ? リアルに動揺してませんか?
「さて、みんな揃ったことだし、改めて乾杯と行こうじゃない」
 そう言ってドンちゃんがジョッキやグラスを回す。
「やっぱこういう場合はリーダーよね」
 とマリアが雪乃さんに乾杯の音頭を促す。
「そりゃそうよね」
「当然じゃね?」
「ええ、もちろんですね」
「フルコ〜ス、オフコ〜スネ!」
「じ、じ、じじゃあ、ゆ、ゆ、ゆ雪乃さん……」
 一斉に一同雪乃さんを見る。何故か木馬ガールズやララァさん。それにハマーンさんまでも一緒にグラスを持って雪乃さんの言葉を待っていた。雪乃さんは少し照れたように笑いながら
「では……」
 少し目を閉じてから再び目を開くと、手にした杯を掲げた。
「チーム『ラグナロク』オフ会を開催します。みんな、乾杯っ!!」
「「かんぱ〜いっ!!」」
 雪乃さんの乾杯にみんなが復唱して杯を掲げ、続いて皆一斉に手にした杯に口を付けた。ドンちゃんなんか中ジョッキをほとんど一飲みだったよ?
 しかしなんか今の、まるでクエストのエントリー宣言みたいだったな。雪乃さん声スノーだったし…… まあ、そんなこんなでリアルでの『ラグナロク』オフ会が始まった。

 雪乃さんの乾杯から30分ほどで、テーブルに用意されていたオードブルの約3分の2がマリア一人のせいで無くなり、それに輪を掛けてドンちゃんとマリア、それに木馬ガールズの3人プラスサムの6人はアルコール消費量がハンパなかった。マリアなんか常に口がもぐもぐ動かしビールで流し込んでるし、ドンちゃんはほぼ一飲みで空の中ジョッキを量産し続け、木馬ガールズとサムは生ビールが底をついたので途中からハイボールにスイッチしたのだが、カウンターの向こうにいるクランプさん(源氏名)つーバーテンダーさん1人では、到底作るのが追いつかず、ついには作成量を消費量が大幅に上回るという緊急事態で、仕方なく「何で私が……っ!」とぶつぶつ言いながらもハマーンさんも手伝う羽目になった。
 あのさ、マリアやサムは良いとして、ドンちゃんと木馬ガールズは普通に従業員だよね? そりゃこういう水商売なんだから客の酒を飲むのはわかるけど、量考えませんか? さっき追加で生樽を買いに行ったララァさん、まだ帰ってこないよ?
 従業員がこんな状態なので、カランってドア鐘鳴らして一般客が入ってきても誰も気が付かず、仕方なく僕が案内しようとするが、案の定どもりで言葉が伝わらず店内をチラッと見ては渋い顔して帰っていく始末。流石にヤバイと思ったのでハマーンさんに対応をお願いしたのだけれど、この人、ドア開けて覗くお客さんに片っ端から『来たか、俗物どもっ!』とか『こんな時に来た己の身を呪うがいいっ!』ってな具合のアッチ風の台詞で暴言吐くもんだからやっぱり帰っちゃう。もしもしハマーンさん、あなた『お客』って言葉の意味わかって喋ってますか?
 これじゃ僕が対応しても一緒なので、結局『本日貸し切り』の札をドアの外に書けることになったわけですが、ホントにハマーンさんってここのホステスさんなんだろうか? どっか他の店が送り込んだ潜入工作員とかじゃね? この人に客の出迎え対応させてたら3日で閉店を余儀なくされる気がするんですけど…… 普段どんな接客してるんだろ?
 追っかけ始まったカラオケでは、ドンちゃんの『哀戦士』から始まりサンちゃん、リッパーと流行の歌を歌い、サムの『橋幸雄』は別にしてもマリアの歌声には驚いた。スゲー歌上手いんだもんよ! あいつ歌手でも食っていけるんじゃね?
 そして、なんと言っても雪乃さんの『黒田節』には驚いた! 目が見えないので歌詞を全て暗記しているらしいが、こんな萌える黒田節を聴いたのは、僕は生まれて初めてです! 雪乃さん、反則っすよそれ……
 え、僕ですか? 僕はどんな歌も全てラップになり、そのうち「あたたたた……」とケンシロウみたくなって、もはや断じて歌と呼べる代物ではなくなるので、ワンフレーズ20十秒でマリアが強制スキップしました。僕はカラオケ嫌いなんですよ……
 最初の乾杯のビール以降、終始ウーロン茶のハズなんだけど、店内の異様な熱気で顔回りが熱くなったので、僕はメインテーブルから離れ、隣のテーブルのソファーに腰を下ろした。腰掛ける際に未だに関節が痛むけど、朝よりだいぶ良くなったみたい。やれやれだよ。
 メインテーブル脇では、今度は木馬ガールズがキャンディーズの『年下の男の子』を歌い出し、皆手拍子でリズムを取っていた。ビジュアル的にはOKなんだけど、声が…… ミライさん、歌詞も微妙な上に、こっちに投げキッスするのはやめて下さい、背筋が寒くなるからっ!
 そんな妙な悪寒を感じながらウーロン茶をすすりつつ眺めていると、サムとハマーンさんが近寄ってきて僕の隣に座った。
「ヘイブラザ〜 モッコリあがってないね〜」
 それを言うなら『盛り上がってない』だろ! 余計なモン付けるな、意味が違っちゃうでしょっ!
「どうした少年? ガンダム30周年なのに出番のない大物声優みたいな顔して」
 どういう顔だよ…… つーか本人聞いたら怒りますよそれ? そもそも20歳すぎた僕に少年は無いでしょう?
「い、いい、いや、き、きき、今日は、ち、ちょっと、つつ、疲れてて」
 いやマジ疲れるよ今日は。楽しいけどね。
「ヘイ、時にブラザーシャドウ。やっぱり鬼丸は『聖櫃』にいるのかい?」

 カチリ

 サムに呼ばれた名前に反応し、僕の頭の中でスイッチが入る音がした。
「ああ、奴の意識は『聖櫃』にあるそうだ…… あそこを管理するクソガキが言ったんだから間違い無いだろうな」
 『俺』は眼鏡を外して蔓を畳むと静かにテーブルの上に置いた。
「あれ? オイ、どうしたんだ少年?」
 と俺の変化に驚いて隣に座るハマーンさんが訪ねる。
「ああ、気にしないでくれ。いつものことだ」
 そう言ってグラスに口を付けた。あれ? これウイスキーじゃん! またやっちゃったよ…… 眼鏡外すとダメだな。
「か、変わってるな、少年…… ああ、ちなみにその水割りは私のだが……」
 げげっ! ハマーンさんのだったの!? ……まあいっか。
「悪いな…… 出来ればもう一杯作ってくれないか?」
「あ、ああ、わ、わかった。ちょっと待っててくれ」
 そう言ってハマーンさんは席を立った。ゴメンナサイね、こうなっちゃうと、どうも性格まで変わっちゃうみたいなんですよ。
「そうか、鬼丸はやっぱりまだいるんだ、あの世界に…… ユーは彼に会ってどうするつもりなんだい?」
 前に同じ事を誰かに聞かれたな…… 
「そうだな…… 最近は聞きたいことが増えちまった。何故俺達を裏切ったのか。何故そうまでして『聖櫃』を目指すのか。そこに何があるのか。何故俺に『童子切り安綱』を託したのか…… 」
 そう言いながら空いたグラスに残る氷を眺めた。曲面の硝子の向こうに、鬼丸の笑顔を見る。するとハマーンさんが、俺の頼んだ水割りを持って戻ってきて、僕の隣に座ると同時にグラスを俺の前に静かに置いた。
「なあ、ブラザーシャドウ。もし鬼丸がミー達の知るかつての鬼丸じゃなかったら…… ユーはどうするネ」
 サムはいつになく真面目に聞いてきた。コイツがこんな顔を見るのは久しぶりだ。
「……どういう意味だ?」
 俺はサムが何を聞きたいのかわかっていながらそう聞いた。もしかしたらハッキリ聞かれるのを避けていたのかもしれない。
「ボケはミーの役だ。ユーには似合わない。彼が『敵』としてミー達の前に立ち塞がったらってことさ…… ユーの考えを聞いておきたい」
「そしたら間違いなく戦うさ、俺達全員で。なあシャドウ?」
 いつの間にか向かいの席にリッパーが座っていた。
「いくら伝説のプレイヤーだからって、俺達全員を相手じゃ……」
 リッパーがそう言いかけたとたん、サムが急に大声で笑い出した。元々声が大きいせいか、その声は店内中に響き渡り、他のメンバーも驚いたようにこっちを見た。
「HAHAHA…… いやソーリー、面白いジョークだったんでつい…… HAHAHAっ!」
 そう言って尚も含み笑いをするサム。俺は黙ってそんなサムの姿を眺めていた。
「おいサム、てめえ何がおかしいんだよ!」
 リッパーがそうサムに文句を言う。
「HA〜 ナイスジョ〜クだリッパー。ユーにジョークのセンスがあるとは思わなかった」
「どういう意味よサム」
 と今度はドンちゃんがサムに質問する。
「ミー達全員で戦えば…… なんなんだい? 鬼丸を倒せるって? それがジョークじゃなくてなんなんだYo〜」
 サムは前に集まったメンバー全員の顔を見てさらに続けた。
「言わせて貰うとネ、ミー達全員束になって掛かったって鬼丸には到底及ばない。絶対に勝てないネ。まあ知らないから無理もないけどネ。そんな妄想は知らないから言えるわけだから」
「いくら何でもお前……」
 尚もそう反論するリッパーの言葉を遮り、サムは話し続けた。
「鬼丸はね、ソロでレベルシックスを連続で4回もクリアできるんだよ? しかもノーダメージでね。彼の戦闘力はレベル40オーバーとかってキャラパラメータだけの話じゃない。もっと別の…… ミー達のイマジネーションの外にある何かだ。ユーならわかるだろう、シャドウ?」
 そう言って俺に視線を向けるサム。奴の言葉に静まりかえり息を飲む一同。俺はサムの言葉に無言の答えを返す。すなわち肯定だ。奴の言うとおり、鬼丸の強さは単純にレベル40オーバーのそれじゃない。恐らく……
「この前の話じゃ鬼丸は例の何とかっていう特殊な脳の持ち主って話だから、恐らくそれなんだろうネ。唯一勝機があるとするなら…… ブラザーシャドウ、彼と同じようなスペシャルな脳を持つユーと安綱だYo」
 そう言ってサムは手にしたグラスを煽った。
「そっか、同じ力を持つあんたなら勝てるって訳ね。なるほど」
「ノンノン、ララちん。そうじゃない。まともに戦えるってだけだYo ソロでやり合ったらたぶん勝てないネ。ブラザーシャドウのアレと、ミー達全員の連携を取れた攻撃をして、初めて互角かどうかってトコだネ」
 マリアの言葉にそう返して、サムは俺の方を向いた。
「そこでだ、ブラザーシャドウ…… 改めてユーに聞こう。ユーは戦える…… いや『斬れる』のかい、鬼丸を? その刃に触れる同族を確実に消し去る装備『童子切り安綱』で」
 いつになく真面目なサムのまなざしを、俺は真正面にとらえた。
 もし鬼丸が敵として俺達の前に現れたら…… 考えたくないが、あのロストプレイヤーの意識をインストールされたバルンガモーフと戦った今なら、その可能性は決して少なくないだろう。サムの言うとおり、鬼丸の強さはハンパない。通常の俺達じゃ鬼丸には太刀打ちできないだろう。だがサムは、そう言う奴の強さとは別の意味で俺に戦えるかを聞いたのだ。

『―――お前はもしかしたら、俺の唯一の 仲間 だった かもな……』

 俺が最後に見た鬼丸の姿が脳裏によみがえり、奴の最後の言葉が、俺の鼓膜にこびりついて剥がれない…… こんな状態で俺は…… 俺は奴を斬れるのだろうか。
 そんな心の動揺を誤魔化すかのように、俺はサムの言葉に答えた。
「愚問だな…… 俺を誰だと思っているんだ? 無用な心配だ。叩き斬られたいか? サム」
 それほど怒気を込めたつもりはないのだが、俺の横に座るハマーンさんが一瞬びくっと震えたのを感じる。サムは別段気圧された風でもなく、薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「フフっ…… 期待以上のアンサーだよブラザーシャドウ。久しぶりにファンタスティックなトークを堪能した。オ〜ケ〜、ミーは持てる力の全てを使ってユーを援護しよう」
 そこでサムはいったん言葉を切り、再び続けた。
「だがもし…… ユーの刃が土壇場で迷う様なことがあれば、ミーの『グングニル』はユーの背中に風穴を開ける。努々忘れないことネ」
 そう言って俺を見るサムの目からは覆いようのない殺意が迸っていた。このときばかりは普段のボケをかますサルではなく、傭兵時代の異名『黒い大鷲』に相応しい気配を纏っていた。やはりコイツも『セラフィンゲイン』にその魂をも魅せられたプレイヤーだと、改めて思った。
「フンっ、上等だよサム、やれる物ならやってみろ。何なら今から秋葉に行って相手をしてやろうか?」
 俺も久しぶりに傭兵時代に戻ったような感覚でサムの殺気を跳ね返すべく言葉に怒気を込める。面白いじゃねぇか、お前がその気ならいつだって構わないんだぜ? そういやお前とは本気でやり合ったこと無かったよな?
「やめとくよ、ブラザーシャドウ。ミーはユーのことを気に入ってるんだYo〜 それに『マビノギの四分枝篇』の伝説の大鴉【ブラン】対ギリシャ神話の大鷲【ゼウシス】じゃ客引きの見せ物としてはマイナーすぎるネ」
 そう言って首を竦めるサムは、いつものとぼけたサムだった。サムはもう話したいことは全て話したと言った様子で「ミーはもう一曲歌うネ!」と言いながらマイクを取りに席を立った。全く…… 相変わらずつかみ所のない男だな、お前は。どこまで本気なのか全くわからない。
 すると、今まで隣で黙っていたハマーンさんが、不意に僕に微妙な視線を投げかけてきた。え、何?
「少年、眼鏡を外すとなかなかいい男だな。初めて見たときは、なよっちい奴だと思ったのだが、今のお前はなかなか渋くて私好みだ…… なあマチルダママ、この子お持ち帰りで構わないか?」
はい―――――――っ!? あなた何言ってるの―――――――っ!?
「ダメに決まってるでしょ――――がっ!!」
「ダメに決まってるでしょ――――がっ!!」
 とマリアさんと雪乃さんの声がハモった瞬間
「ただいま〜っ! ママ見て〜 酒屋さんで福引き券貰ってやったら旅行券5万円分当たっちゃった〜 私やっぱりニュータイプ…… あれ? どしたのみんな?」
 ララァさん帰還。片手に生樽、片手に福引き賞品の旅行券を掲げて固まっている。
「ララァちゃん、タイミングバッチリ。やっぱりあんたニュータイプよ♪」
 そう言うドンちゃんに「え? えっ?」と困惑気味に一同を見回すララァさん。福引きやってたんだ、道理で遅いと思ったよ……
「さて、生樽も届いた事だし、仕切直しといきますか」
 そんなドンちゃんの宣言に「わ〜っ!」と歓声を上げる木馬ガールズ。マチルダさんの答えを聞きそびれてしまったハマーンさんは「空気読め、愚民めっ!」と吐き捨てつつララァさんを一瞥して渋い表情をしていた。一方何か言ったはずのマリアと雪乃さんは、まるで何もなかったかのような顔をしてうつむき、静かにグラスを傾けていた。あれ? 今なんて言ったんだっけ?
 それにしてもドンちゃん、まだ飲むんデスカ……
   

第28話 『魔女の仮面』


 クラブマチルダでのオフ会の後、僕たち『ラグナロク』は数回のクエストをこなし、いよいよクエストNo.66『マビノの聖櫃』に挑むこととなった。
 一番レベルの低いララも、フィールドクラスAのレベル6クエストクリアで見事生還を果たし、晴れて上級者になった。いやー、初アクセスから約1ヶ月半でレベル6クエストクリアから生還するなんてたぶんララが初めてだ。確かにチームのメンバーの強さも桁違いだが、何よりララ本人の資質に寄るところが大きいね。
 リアルでも『格闘家』としてのセンスはあるんだろうけど、セラフィンゲインでは、リアルの肉体的な『性能』は一切反映されないはずだ。だが、ララはそれを覆して見せた。普通に考えてあり得ない。このまま成長したら、史上初の『モンクのソロプレイヤー』になるかもしれない。僕も冗談でマリアを『ビジュアル系悪魔』なんて呼んでるけど、もしかしたら、マリアは本当に『人間』じゃないのかもしれない……
 あ、でもマリアが例の『ガーディアン』じゃないことは確か。僕の持つ安綱がマリアに反応しないのが何よりの証拠。やっぱり、あの底なしの胃袋も含めて、ホントの悪魔なのかもしれないな……
 まあ、そんなララのことはさておき、僕たちは満を持して、あの難攻不落の代名詞、『マビノの聖櫃』に挑むことを決意したのだった……

「リッパーっ! 後ろだぁっ!!」
 俺の怒鳴り声に反応し、まるで鞭のようにしなりながら、唸りを上げて迫る銀色の尾の一撃を間一髪で交わしたリッパーは、即座に地面を蹴って跳躍した。
 馬鹿っ! それじゃ次が交わせないっ!
 俺はそう心の中で舌打ちし、瞬間的に視線を横に飛ばす。視線の先には、2本の尾に執拗に攻撃されて迂闊に懐に飛び込めないララが居た。ララも頑張ってはいるが、近接攻撃が主体なキャラだけに、こうも鞭のような長い尾の攻撃を乱舞されると捌くだけで精一杯なようだ。
 と、そこへ後方から放たれた魔法弾が着弾した。直撃した敵の首回りを飾る鬣が瞬間的に凍り付き、まるで教室の黒板を引っ掻くような不快な絶叫が迸り、幻龍種『マンティギアレス』はリッパーを追撃する機会を失って大きくよろめいた。
 いつもながら惚れ惚れする着弾タイミングだ。ドンちゃんの予測射撃はまさに神業と言っていいな。
「スノーっ! やめろっ!!」
 俺は視界の隅にとらえた純白のローブ姿の魔女にそう怒鳴りつけた。手にした杖を掲げ、呪文詠唱を始めようとしていたスノーが、杖を持ったまま硬直し俺に視線を移した。
「でも……っ!」
「よせ、スノーっ! 魔法はもう使うなっ!!」
 俺はスノーの言葉を遮り、そう叫んだ。ここまで来るのに冷却系の高位呪文を連続使用したせいで、かなり魔法力を消費しているはずだ。元々冷却系と雷撃系の魔法は爆炎系に比べ魔法力の消費が大きい。比較的に下位の冷却・雷撃魔法でセラフの行動を抑制し、前衛による直接攻撃でとどめを刺す方法で、この聖櫃に続く通路を突破するというスノーの基本戦略に乗っ取って行動してきたが、いかんせん遭遇するボスセラフの数が多かった。以前鬼丸と挑んだときよりも確実に多い。どうやら挑むチームレベルに対応しているようだ。
 ここから先は何があるかわからない。予想される聖櫃内部での戦闘を前提に考えるなら、もう彼女の魔法は使用できない。少なくともメテオバーストクラスを3,4発…… 先日のバルンガモーフの様な防御属性を変更するセラフに対処するには、少なくとも旧魔法である『ディメイションクライシス』を放てる魔力は残しておきたい。俺の『ルシファーモード』の発動条件がいまいち不明確な今は、スノーのあの呪文が唯一の切り札だ。この時点では、彼女の魔法無しで切り抜ける他にない!
 俺のそんな思考に答えるかのごとく、続いて何かが天井から急速に飛来するのが見えた。その手に神槍『グングニル』を構え、まるで獲物をとらえる本物の鷲のごとく急降下する黒い大鷲、サムだった。
「キエェェェェェッ!!」
 と、相変わらずの奇声を上げ、後頭部に矛先を突き立てる。相変わらずその奇声に何の意味があるのか、いやそもそも『奇襲』であるジャンプ攻撃に、何故奇声を上げるのか全く持って理解できないが、サムはまんまと龍族共通の弱点である『延髄』にその刃を突き立てた。
 俺は先ほどよりもさらにでかい鳴き声に鼓膜を痺れさせながら、尚も未練がましく振り下ろされた、獅子のような大きな前足の攻撃を安綱で弾いた。
 それを最後に、俺に弾かれたその前足は二度と地に付けることなく、マンティギアレスは、その後ろに横たわるもう1体に折り重なるように、ゆっくりとその身を横たえていった。
 俺は安綱の刃に付着したマンティギアレスの体液を1振りで払い落としつつ、肩で息をしながらリッパーに声を掛けた。
「はあっ…… リッパー、接敵が、長すぎるって……」
「ああ、今のは、ちょっと、危な、かった……」
 俺と同じように肩で息をしつつ、こめかみにしたたり落ちる血をぬぐいながらリッパーが答える。1体目で負傷した事にも起因しているのか、珍しく自分のミスを認めるリッパーも、いつもの軽口を吐く余裕もないようだ。確かに余裕なんてありはしないだろうな。やはりここはハンパ無い……
 かく言う俺も、つがいのマンティギアレスの前に倒したレオガルン戦で、2度の嘴攻撃を食らい、HPを大きく削られた。すかさずサンちゃんに掛けて貰った回復魔法でHPは全快近くまで回復しているが、相次ぐボスセラフの挟撃で体力とスタミナを回復する暇がなく、攻撃に隙が生じているのも確かだ。サンちゃんの回復魔法もこの先にある『聖櫃』が未知なだけに、温存しなければならず、今度ダメージを食らったら自前の回復液で回復するしかないと言う現状だ。
「だいぶスタミナを消費してるネ、シャドウ」
 そう言いながらサムが俺の側にやってきた。所々に血が滲む腕で槍を担いでいる。細かいダメージが蓄積しているはずだが、当の本人はケロっとした顔で笑っている。コイツ、疲れるって事知らないのか? 
「連戦、だからな…… さっきちょっと無理したし」
 俺はそう答えながら安綱をさやに戻し、ポーチの干し肉を千切って口の中に放り込んだ。
「確かに、マンティギアレスの首を一降りで斬り落とすなんて見たこと無いわ」
 とドンちゃんが撃滅砲をリロードしつつ寄ってきた。
 そうなのだ。つがいで現れたマンティギアレスのうち、1体目は俺が安綱で首を切り落としたのだ。
「確かにグレートだったネ。まるで鬼丸みたいだYo〜」
 サムの言葉に俺は答えなかった。確かにさっきは自分でもビックリだ。安綱の切れ味も凄かったが、何より自分の反応に驚いた。やはりコレは……
「ガーディアンシステムの影響…… もしかしたら、この前アクセスしたことにより、シャドウの脳がシステムに、よりダイレクトに反応できるよう同調率を上げて対応しているのかも……」
 スノーが俺を見ながらそう呟いた。確かにあり得る話だな……
「鬼丸の強さが、今なら理解できるな……」
 俺は口の中の干し肉を飲み込むと、スノーにそう言った。
「だが、確かに戦ってるときは良いんだが、一戦闘終える度に体力とスタミナをごっそり持って行かれる。こう連戦が続くと回復が間に合わない」
 それにさっきから体中の関節が鈍く痛み出していた。前回経験したあの『ルシファーモード』ではないものの、明らかに俺の現状ステータス以上の動きと反応速度だ。脚力と腕力にたっぷりパラメーターの数値を振り分けてはいるが、オーバーワークであることは間違いない。狂戦士【バーサーカー】の寿命は短い物と相場が決まっている。反則技には、それなりにリスクがあるってわけね……
 ここまで来るのに俺達が倒したボスセラフは6体。そのうち2体はレベル6セラフだ。この先にある聖櫃でも、恐らく何かある。こりゃあまたリアルで筋肉痛で動けなくなるかもな……
「でもここまで、誰も欠けることなく来たぜ。マジ凄くね? 俺達」
 とリッパーが呟く。
「ホント、ララちゃんも頑張ってるし」
 そう言いながらドンちゃんはララを見る。が、当のララは……
「うん(もぐもぐ) あたし(もぐもぐ) やれば出来る子だし(もぐもぐ)」
 と、持ってきた弁当を頬張りながら答えた。沢庵で売ってる携帯食料『特製沢庵弁当』なんて、買う奴がいるとは思わなかったよ。ネーミングも微妙だし……
 確かに体力回復の効果があるけど、あれってほとんど洒落で売ってるんだぜ? 経験値に余裕があるならレベルアップに回すとか考えねぇのかお前……
「みんな、見て……」
 ララのそんな姿に呆れていたところに、スノーの声が掛かった。見るとスノーが、奥に続く通路の先を見ている。俺達はスノーに引きずられるようにその視線の先を追った。すると馬鹿高い天井の通路が続き先に、大きな扉のような物が見える。
「あれってもしかして……!?」
 ドンちゃんがごくりと唾を飲み込みそう呟いた。
「ええ、恐らく……」
 ドンちゃんの質問に最後まで答えずに、スノーもまた息を飲む。
 横幅は6メートル前後、上部が丸みを帯びてアーチ型になっていて、その上端はこの高い天井にほとんどくっついている。未だかつて、ここまでたどり着いたプレイヤーがいないだけに、その形状すら謎だった『開かずの扉』
 青銅のような、若干青みがかった不思議な光沢を放つその表面には、海に浮かぶ島の上空から、優しそうな微笑を浮かべながら見下ろす、何枚も重なる大きな翼を広げた天使が彫刻され、まさに『天使が統べる地』と言う名を持つこの世界の最終地点に相応しい、荘厳な気配を纏いながら俺達を見下ろしていた。
「さあみんな、行きましょうか。伝説を創りに……」
 そう言ってスノーはメンバーに視線を移す。
「と言っても、私は兄のことを知りたかったってのもあるんですけどね……」
 スノーは少しおどけてそう言い、ぺろっと小さく舌を出した。
 ううっ、可愛い! 萌えすぎだろ――――――っ!?
「何言ってんの、スノーの望みは『ラグナロク』の望みでしょ?」
 弁当を食べ終わり、満足顔のララがそうスノーに声を掛ける。
「そうよ、今じゃあたしは、最強だの伝説だのって方より、スノーの目的の方が優先になっちゃってるんだからぁ〜」
 情に厚いドンちゃんだけに、確かにそうかもしれないけどさ、その顔でうるうるするのはやめてくれ。普通に怖いから。
「ミ〜は楽しめればグーYo〜 ララちんと一緒に笑い道極めれば本望ネ」
 ソロで極めろそんなモン。オフ会で俺に質問した人間と同一人物だとは思えねぇよマジで。
「う〜、やべえ、ゾクゾクしてきた〜っ! 何か出たら、のっけから全開モードで斬りまくらなきゃ治まんねんじゃね? この感じ」
 そう言って手にした双斬剣をくるくる回すリッパー。切り裂き狂なのはもう仕方ないけど、ちゃんと回りを見ろ。さっき自分で認めたのにまだ懲りねーんかお前は!
 スノーの傍らに、まるで従者のように控えるサンちゃんも、何か言いたそうにしているが、「むっ……」と声を漏らすだけで無言で頷いていた。いやあのさ、普通に喋れば良いんじゃないかと……
 全く、ここまで来てもよくわからんメンバーだな。だけど、俺、このメンバーでチームを組んで良かったと思っているよ。確かに皆少々変わっているが、仲間だという事をここまで意識したことは、今までなかったのだから……
 みな一応の装備の点検を終え、通路の向こうに見える扉に歩き出す。俺はその後ろ姿を見ながら、そんなことを考えた。
 リアル、バーチャルひっくるめ、胸を張って友達と呼べる存在なんて居なかった俺が、人生で初めて本当の意味で『仲間』を得た。喩え仮想の世界でも、共に死線をくぐり抜けてきたこのメンバーは、リアルで軽く言われる友達じゃない。
 たかがゲーム仲間だろ? って言う人は少なくないだろう。
 ああそうだ。確かにその通り。でも俺は逆にこう聞いてやる。じゃあそれが本当の死じゃなかったら、痛みや死の恐怖をわかってて、自分のために命を張ってくれる仲間がお前にはいるか? 襲い来る、身の竦むような恐怖の中で背中を任せられる仲間が、あんたにいるのかってな。
 リアルで普通に暮らして、世間や周囲に流されて、ただ単調に過ぎていく毎日を生きている中じゃ、まず得られない仲間が俺には居る。必要とされ、また自分も仲間を必要とする。『信用』なんて安っぽい言葉じゃない。機能としての絶対の『信頼』
 リアルでどんな形容詞で飾り立てた『友達』を表す言葉をささやかれても、この世界で、現実世界での地位や名誉、立場やコンプレックスなんか一切関係なく、襲いかかる脅威に共に立ち向かう仲間からの『任せろ!』の一言には敵わない。
 スノー、あんたには感謝してる。あんたに誘って貰わなかったら、このメンバーには出会えなかったのだから……
 だからこそ、俺はどうしても鬼丸に会わなければならない。

 喩え もう俺の知る あんたじゃなかったとしても な……

「よし、俺達も行こうぜスノー」
 俺は干し肉に続けて回復液を飲み下し、乱れた愚者のマントの留め金を直しながらスノーにそう声を掛けた。どうやら俺を待っているようだった。ん? どした?
「ねえシャドウ…… 聖櫃に入る前に、あなたに話しておきたいことがあるの」
 スノーはこの世界でのみ視力を持つ、その澄んだ瞳で俺を見る。
「……言ってみろ」
「この前ドンちゃんのお店でサムに、あなたが答えていた事。もし、本当に鬼丸が現れたら、確実に『消滅』させて欲しいの。敵であろうが、そうでなかろうが、あなたの持つその太刀『童子切り安綱で」
「スノー……」
 俺を見るスノーの目には、固い意志の光が宿っていた。
「本当は私がやるつもりだった…… 私の『コンプリージョン・デリート』で……」
 安綱に掛けた俺の左腕をそっと掴み、うつむきながら続ける。
「システム領域に近い聖櫃で、アレを使えばどんなことになるか…… 恐らく私や、その時聖櫃内にアクセスしているメンバーの意識も、削除される可能性が高い事は想像できたわ。でも…… 聖櫃に行くには、どうしてもチームでなければならなかった。私は、みんなを巻き添えにするつもりだったのよ……」
 左腕から伝わる振動に、スノーが少し震えているのがわかった。下を向いてうつむいているからその表情まではわからない。
「じゃあお前ははじめからそのつもりで、このチームを作ったのか? お前の兄である鬼丸の意識を消すために、メンバー全員をロストさせる事になるのを覚悟で……!」
 俺は声に怒気を込めた。おいスノーっ! それじゃ鬼丸と変わらねぇじゃねえかっ!!
「ええ…… そうよ。私にはどうしてもここまで来れる、仲間意識の強い『チーム』が必要だった。そして、どんなに窮地に陥っても、決して仲間を見捨てない傭兵『漆黒シャドウ』をメンバーに欲しかったのも、その目的のため…… 初心者であるマリアさんをチームに入れたのだって、あなたの彼女だと思ったから。彼女がいれば、より結束が強まるだろうという計算があったから。大学の学食で、あなたに会ったのも偶然じゃない…… 私はあなたが同じ大学だと言うことを前から知っていた。知っていてあなたに近づいた。あなたと安綱をどうしても手に入れるために……」
 俺の脳裏に、雪乃さんと初めてあったあの時のことが蘇る。

『それがあそこでの貴方の存在理由だから。貴方は逃げない……』

 あの時、妙に澄んだ瞳が、なんだか俺の心の中を見通されてるみたいで目をそらしたのだ。だがスノーは俺の心を見通そうとしていたのではなかった。ただ冷静に俺を観察し、俺の反応を伺いつつ、仲間に引き入れる為の計算を働かしていたのだ。
「ロストしたプレイヤーって、見たことある? ベッドで天井を見つめたままぴくりともしない。手を引かれて歩いていても、まるで人形のように表情を凍らせて、ただ引かれるまま…… 放っておいたら食事も取らずに、ただベッドで天井を見つめるだけ…… まるでOSのインストールを待つコンピュータ…… 意識を封入されるのを待つ素体の様な『人間』達…… 私は目が見えなくて良かった。そんな姿の兄を見たら、私はきっと壊れていたかもしれない…… 意識がないまま肉体が滅んで、体を焼かれて墓の下に収まっても、墓に手を合わせる残された私にとっては、それはあまりにも空しい儀式でしかない。あのお墓の下に眠る兄は、兄の抜け殻だけだもの……」
「だったらっ! そんな気持ちを味わったスノーなら! そんな人間を増やすだけの行為をやろうとする自分自身に、何も感じなかったのかよっ!!」
 俺のその言葉に、スノーはビクッと体を震わせた。
「……好き だったの。私は兄を 愛してたの…… 妹としてじゃなく、一人の女として……」
 下を向きうつむくスノーの顔から何かがしたたり落ち、俺の腕を掴む手のローブの袖に薄いシミを作る。
「前から薄々は感じてた…… 何となく意識しだしたのは私が中学生の頃。そして実験的にアクセスした『エデン』で初めて兄を見たとき、それは確信に変わった。ああ、やっぱりそうだったんだって…… でも同時に、絶対言えない事もよくわかった。兄は私を当たり前に『妹』として愛してくれていたんだって気が付いたから。
 それでも良い…… 喩え妹としてでも、兄が私にくれる愛情は嘘じゃないから。喩えそれが虚像の世界であっても、私に向かって微笑んでくれる笑顔は、私だけにくれた宝物だもの…… 私はそれで十分だったのよ。
 でもそんな兄が、人形のような姿で逝くなんて、私には絶対受け入れられ無かった。あの兄が、私が愛し、私を愛してくれた兄の死が、あんな不完全な死であって良いはずがない。あれは兄の…… いえ、人の死じゃない! 私はそう思って、兄の意識が無くなった最後のクエストを調べたの。
 兄が執拗に聖櫃を目指していたのは知っていたし、兄の『聖櫃はこの世界のシステム領域ではないか』と言う言葉を思い出して、私は兄の体から抜き取られた意識が、まだこの世界にあるんじゃないかって思ったの。もしそうなら、兄の意識を弔うのは、妹である私の役目、それが、私が兄を好きだった証…… 半身不随で普通の人間らしい生き方を送れなかった兄に、せめて人間らしい『死』を迎えさせてあげたかった……」
「だからって…… 仲間を巻き添えにしても構わないって話じゃない……」
 スノーの震える涙声に、俺は努めて冷静に言った。スノーの話は同情できる。でも、それに巻き込まれる人間には、当たり前だが罪はない。他のメンバーにだって、兄を失うスノーのように、残される人間はいる。悲しみが増えるだけの行為に他ならないのだから。
「あなたの言うとおりよ、シャドウ…… でも私にはこれしか考えつかなかった…… 考える度に怖くなって、みんなの笑顔を見る度に、胸が張り裂けそうになって、そのたびに、あの時のカインみたいに、抜け殻の様な兄の顔が脳裏に浮かんできて私を苦しめた。そして眠れない夜が増えていったわ。まるで何かの罰みたい……
 そんな気持ちを誤魔化すために、私は『絶対零度の魔女』の仮面を被り続けた。心に魔法を掛けて、冷血にすることで私は自分を保つようになった。今じゃもう、どちらが本当の自分かわからないぐらい」
 その言葉に俺は沢庵でのスノーを思い出す。みんなと笑いながらテーブルを囲み、皆相応に盛り上がっているのに、何故かその場にそぐわない冷たくて寂しそうな目は、そんな彼女の気持ちを表していたのかもしれない。
「でも、私は自分が思っていたよりも全然弱かった。いいえ、弱くなったって言った方が良いかもしれない。あの日リアルであなたと会ってから…… あなたやマリアさんと親しく過ごすようになってから、私はどんどん弱くなった。リアルだけじゃない…… 私は今まで土壇場でリセットしそうになる仲間を躊躇無く凍らせてきた…… 同じチームのメンバーからでさえ『絶対零度の魔女』と畏怖の念を込めて呼ばれていた私なのに……
 学食で、あなたと初めて2人で食事をした時、私はチームを作った目的を…… 自分が『魔女』であることを忘れた…… あなたの袖を掴んだ指の感触、あなたの声、あの時食べたオムライスの味…… ほんの些細なことで、地獄に堕ちても良いとさえ思っていた決心が、簡単に崩れていくのを感じた。その後マリアさんにからかわれて、私は自分の感情の変化に情けないほど動揺した。顔を覆うずれた仮面で声も出ないほどに……」
 うつむき、肩を振るわせながら話を続けるその姿は、味方からも恐れられる彼女の異名『絶対零度の魔女』のそれではなかった。
「あのバルンガモーフと戦う前に、あなたが言ったこと…… 憶えてる?」
「ああ、憶えている」
 あのとき、ロストプレイヤーの意識を強制的にインストールされたバルンガモーフに攻撃を仕掛ける際に、思い詰めた表情で固まるスノーに掛けた言葉。

『―――せめて同じプレイヤーである俺たちの手で消してやろう…… 少なくとも俺ならきっとそう願う!』

「あのバルンガモーフが、私には兄に見えた。それがたまらなく怖くて、私は逃げ出したくなった…… その時、あなたが言ってくれた言葉に、私は思い出したの。この世界に残存する兄の意識を消すのは、妹である私の義務なんだと…… 幼かった私が兄に言った一言が、兄をこの世界に縛り付ける原因なら、それはやっぱり私の責任なんだと思った。
 でももう私には出来そうにない。あなたやララ、リッパーやドンちゃん、サンちゃんにサム…… みんな私の目的のために付いてきてくれた。『伝説のチームを作ろう』なんて方便で、私が兄に会うためだけに聖櫃を目指しているってわかっても、みんなは私を『仲間』だって…… そんなみんなを巻き添えになんて、取れ掛かった仮面が支えて息も出来ないような今の私には、絶対に無理……」
 そう言うとスノーは顔を上げ、俺を見た。あふれる涙の奥に、透き通った悲しい色の瞳に俺の顔が映り込んでいる。
「だからお願いよ、シャドウ! 鬼丸を…… 兄の意識を、完全に消去して! 今の私には『コンプリージョン・デリート』は使えない。あなたの安綱だけが、みんなを巻き込まずに、兄の意識を消せる唯一の手段なの。今更こんなお願いなんて言えた義理じゃないこともわかってる。出来ることなら私がその安綱で兄を斬る…… でも安綱は『ガーディアン』じゃなきゃ使えない、あなたじゃなきゃガーディアンシステムにアクセスできない!
 気に入らないなら、その後で私も消して。どのみち『聖櫃』でコンプリージョン・デリートを使えば、術者だって無事じゃ済まなかったはず、覚悟してた事…… むしろあなたの手で消してくれた方が私は……」
 そう涙ながらに哀願するスノーの震える腕を、俺は右手でそっと放した。
「……もういいよ、スノー。あんたの言いたいことはよくわかった。俺が何とかする。ただ、敵だったらアレだけど、そうじゃなくて現れた場合は、あいつがそう望んだらって条件付きだけどな」
 反則だよスノー。あんたにそんな顔してお願いされて、断れる男がいたら会ってみたいよまじで。
「それに、あんたを斬るつーのも却下だ。俺の太刀は、何故か女を斬れないようになってるのさ」
 俺はちょっとキザっちく答えた。リアルの俺がやったんじゃ、絶対引かれる以前に、言葉にならないだろうけど、ここでの俺じゃアリだろう? 
「シャドウ……」
 俺の答えに、スノーは泣き濡れた顔できょとんとして俺を見る。
「この前、ドンちゃんの店で、サムにはああ言ったが、実は俺にも迷いがある…… あいつが敵として俺達の前に現れたとき、あいつを斬ることが出来るのか、正直自信がない。でも、あんたの今の話を聞いて、何となく決心が付いた。みんなをロストさせるわけにもいけないし、何よりあんたが『兄殺し』をするとこなんて見たくはないさ。もっとも、『ルシファーモード』になっても、あいつに太刀打ちできるのかつー方が先だけどな」
 そう言って俺は笑った。いやなに、スノーの顔が近いしさ……
「ゴメンね…… 友達だったあなたが、辛くないわけないのにね……」
「兄妹よりマシだろ。それにサムに刺されるのは願い下げだしな。なに俺は元傭兵だ。やっかい事には慣れているさ」
「なら私は、全力であなたをサポートする。私の全ての魔法を駆使してあなたの道を作るわ、シャドウ……」
 そう言ってスノーは涙に濡れた顔を近づけてきた。あわわっ! 顔近すぎるでしょっ!!
「で、でも傭兵を雇うには契約料がいる。当然腕利きは契約料も桁違いだ。俺の契約料は高いぜ、何せ俺は一流だったからな」
 潤んだ瞳のスノーの顔がやたら近く、俺は動揺を隠すようにそう軽口を吐いた。やべえ、まだクエスト中なのに、気絶どころか接続が切れそうだっ!
「経験値以外は取り引きしない…… 初めてあったときにそう言ってたね」
「ああ、だが今回は特別だ」
 スノーは涙を拭いながら、不思議そうな顔で俺を見る。ああ、なんて可愛いんだろう……
「沢庵でビネオワ…… つきあえよ? スノー」
 俺のその言葉に涙を拭うスノーの顔が一瞬ぽかんとし、続いてゆっくりと明るくなった。
「うん、ありがとう…… シャドウ」
 そう言いながら微笑むスノーの笑顔は、かつて『友』だった男が俺にくれた、あの極上の笑顔によく似ていた。
「おーい、何やってんのーっ!」
 とそこに、もうすでに扉の前に移動したララが大声で叫ぶ声がした。
「さあ、行こうぜスノー、あいつに会いに」
「ええ、そして全てを知るために」
 そう力強く言うスノーは、なんだか前より柔らかくなった気がするのは気のせいだろうか?
 それにしても、また一つ鬼丸に会って、やることが増えちまったな。聖櫃にいるなら待っていろよ鬼丸。もうすぐ会いに行くからな!
 俺はそんなことを心の中で呟きながら、通路の先に見える馬鹿でかい扉に向かって歩いていった。


第29話 『そして聖櫃へ』


 俺とスノーが扉の前間で来ると、ララが文句を言ってきた
「なにやってたの、2人とも〜 あれ? スノーなんか目が赤くない?」
「え? あ、いや、その……」
 と狼狽するスノーの言葉を遮り、俺はすかさずマリアに答える。
「さっきの戦闘で目にゴミが入ったんだとさ、そんでゴロゴロするから見てくれって言うから見てやってたんだよ、なぁ?」
 そう言う俺を、また少し潤んだ目で見るスノー。オイオイ、だからそんな目で見るなって……
 みんなに言う必要なんてないだろ? 俺とあんたで話は付いたんだし。俺は誰にも言うつもりはない。動機が何だったにしろ、スノーは別の道を選択した。もう仮面を被ることをやめたんだ。捨てた荷物の中身なんか、今更みんなに話したところで経験値1ポイントの得もない。世の中知らない方が良いことの方が、案外多いもんさ。
「ふ〜ん…… そうなのスノー? ホントはシャドウにセクハラとかされて泣かされてたんじゃないのぉ〜? 胸とかお尻とかこう……」
「するかアホっ!」
「そ、そんなことないですよっ!!」
「ホントぉ〜? なぁんか ア ヤ シ イ んだけど?」
 と尚も微妙なアクセントでツッコミを入れるララ。おいスノー、あんたもそこで赤い顔するなっ! 余計誤解されるでしょっ!! つーか、ララもそうだが、なんだお前らその微妙なまなざしはっ!!
「いくらスノーが可愛いからって、泣かしちゃ男が下がるわよシャドウ。それにスノーも今時お障りぐらいで泣いちゃダメよ? 安売りはダメだけど、今の時代女もたくましくなんなくちゃ。オカマのあたしが言うのも何だけど……」
 おいドンちゃんちょっとマテコラっ!
「オ〜ノ〜 同じメ〜ンとして、ミ〜はベリ〜悲しいネ。ムッツ〜リは世界共通で嫌われるYo〜 もっとオ〜プンでプリーズ!」
「うるせぇ! 黙れサルっ!!」
 背中から槍で突かれる前に、今ここで叩き斬った方が確実にいい気がする!
「つーかやっちまったモンは今更しょうがなくね? 減るもんでも無えだろうし……」
「リッパーてめぇ……っ!」
 とそこへララがまた余計な事を口走る。
「あら、あたしの時はリアルでもちろん請求してるわよ? この前は助けて貰ったからサービスだったけど……」
「ユーはリアルでララちんに、いったいどんなコトしてるか―――っ!?」
「知るかボケっ! ララっ! お前もいい加減にしろ!!」
 それにスノー! あんたも少しは反論しろっ! 何クスクス笑ってんだよっ!!
 するとスノーは、目にうっすらと涙を浮かべ、微笑みながら答えた。
「みんな、ありがと…… 私、間違いを犯さなくて良かった……」
 スノーそこ違―――――うっ! 気持ちはわかるが、そこで涙とか見せな―――――いっ!!
「「―――――シャドウっ!!」」
 全員の非難の声が、俺ただ一人に向けられた。

 お前ら全員ロストしてまえ――――――――――――――っ!!!!

 スノーの疑惑を隠して、逆に俺のセクハラ疑惑が浮上…… なあスノー、俺リセットして良いか……?
「さて、そろそろ踏み込もうじゃない、未知のフィールド『マビノの聖櫃』へ」
 と、アホな騒ぎをドンちゃんが締める。いや、そもそもあんたの言葉で、俺の疑惑が加速したんだが、またここでそれをつっこむと、いつまで経っても中に入れない。
 非常に納得行かないが、ここは口をつぐんでおこう。
「じゃあみんな、準備は良い?」
 スノーが双声を掛けると、皆一様に頷いた。いよいよ、俺達は難攻不落の代名詞、『聖櫃』にたどり着いた初めてのチームになる。数々のプレイヤー達の思いを拒み続けてきた未知の扉が、今開かれる。
「チームラグナロク、『聖櫃』に突入します!」
 スノーはそう宣言し、俺達はその大きな扉を内側へ押し開けた。

☆ ☆ ☆ ☆ 

 扉の内側に入った瞬間、俺達はまばゆい光に包まれ、俺は目を閉じると同時に意識を
喪失した。足に接地感が無く、まるで自分が水の中ににでもいるような浮遊感味わう。
 瞼を開けようとするのだが、薄目を開けるだけで、失明しそうな強烈な光が瞳を襲い、たまらず目を閉じる。酷い耳鳴りが鼓膜を支配し、外部の音を拾うことが出来ない。天地が全く判らず、墜ちているようにも、上昇しているようにも、はたまた停滞しているようにも感じる奇妙な感覚に襲われ、手足を遮二無二動かしながら、半ばパニックに陥った頭で近くにいるはずのメンバーを確認しようとするのだが、叫ぶ自分の声さえ出ているのかが判らない状態では確認のしょうがない。
 ターミナルからフィールドに来るまでの『転送』の感覚に近いが、こうも激しい耳鳴りと不安定な浮遊感覚に襲われたのは初めてだった。
 もしかしたら、このままロストするのではないか? という恐怖が頭をよぎった瞬間、俺はざらつく床に膝を突く感触を憶え、心底安堵しながら目を開けた。そしてようやく開けた視界に広がる光景に、俺は息を飲んだ。
 そんな馬鹿な……っ!? 
 自分の目の前に広がる風景に、俺は脳内でそう詰問する。全てが自分の脳内に、デジタライズ技術で投影された偽りの視力を、このときばかりは本気で疑う。
 そんな俺の顔の前を流れる、風に舞った物体を無造作に掴み、震える手で広げてみた。
 萌え系美少女の絵がにっこり笑って『キメ』ポーズをする足下に、タイトルにかぶせる様に『本日入荷!!』と書かれたポップ文字が踊っている。
 それは俺も知ってる美少女系パソコンゲームの宣伝チラシだった。
 すると俺のすぐ後ろで、俺と同じような驚きを声に出す者がいた。
「うそだろっ!?」
 振り向くと、リッパーが周囲を見回し、驚愕の表情でそう叫んでいた。いや、リッパーだけじゃなく、他のメンバーも例外なく、みな驚いた顔であたりを見回していた。
 そしてその後ろに、あの荒涼感漂う倉庫のような建物と、ほんの1時間ほど前にくぐった、見覚えのある鉄製の扉が目に入る。
「な、なんであたし達、リアルにいるのよ……!?」
 ドンちゃんの震える声に、ようやく俺も自分の目を信じることが出来る。
 綺麗な黄昏色に染められた建物とアスファルト。ロリが入ったキャラクターが描かれた同人系チラシが、所狭しと貼られた電柱。3階建ての建物の向こうに頭だけ見えるのは、去年オープンしたアキバトリムだったっけ?
 あの通路で、確かに『聖櫃』だと思われる扉を開けて、そこに足を踏み入れたハズの俺達は、今セラフィンゲインの接続端末がある『ウサギの巣』の前にいた。
「ねえ、コレってどうなってんの?」
 とララが俺に聞いてきた。
「わからん…… 俺にも何がなんだかさっぱりだ」
 悪いが俺に聞くな。コッチが聞きたいくらいだぜ…… あれ? 俺、今さ……?
「ホワット? ミ〜達知らない間にリセットしたか〜い?」
 相変わらずとぼけたトーンの声で喋るサムだが、いつものようにボケ無いところを見ると、奴も相当驚いてるようだ。
「ここが…… ウサギの巣なの?」
 不意にスノーがぽつりと呟いた。やはり皆と同じように驚いているようだが、その目には若干の好奇心の色が伺える。そうだった…… 
「見えているんだな、スノー?」
 俺のその問いに、一瞬面食らったような表情をするが、俺の意図することが判ったのか、スノーはハッキリと頷いた。
「ええ、見えています。私は初めて見ますが、ここが、みんなが通う『ウサギの巣』に間違いないんですよね?」
 やはりな…… しかしなんつークオリティだよマジで。
「ああ…… そうさ、確かにここが俺達の通う端末、アキバの『ウサギの巣』だ。信じられないほど精巧に再現された『偽物』だけどな」
「偽物? コレがかよっ!?」
 俺の言葉に、リッパーが素っ頓狂な声を上げた。しかし――
「自分たちの装備を見てみろ。セラフィンゲインのキャラそのまんまだろ? それに俺がまともに喋れるし、リアルじゃ視力がないハズのスノーの目が見えているのが決定的だ」
 俺の言葉に、みんなが「あっ!」とした表情でスノーを見る。
「間違いない、俺達はまだセラフィンゲインの中にいる。これほどまで忠実に再現出来るシステムの力には正直未だに信じられないが、ここは俺達の住む現実世界じゃない。恐らく…… ここが『聖櫃』なんだ」
 俺の言葉に息を飲む一同。まあ無理もない。言った俺自身ちょっと信じられない気分だ。
 不意に吹く風に巻かれ、アスファルトの上を舞う落ち葉や捨てられたポケットチラシの群れ。道ばたの煙草の吸い殻や潰れた空き缶。その横に揺れる名も無き雑草。所々割れて歯抜けになってるままのネオン看板。道の向こうに駐車してある国産のワゴンとラオックスのコンテナトラック。
 店の出入り口にある自動ドアは、そのほとんどが巧妙に配置された見た目だけの『模像』なのだろうが、まるで今にも開いて、店から客が出てきそうなリアルさだ。
「それに静かすぎる。こんな静かな秋葉原はあり得ない。全く人の気配もしないしな」
 そう、ひしめき合う電気店の店内放送や宣伝放送。車や電車の音、客を呼び込む店員の声、街を行く人々の話し声や笑い声といった、駅周辺特有の雑踏の音が全くなかった。
「ここが、聖櫃……」
 スノーがそう呟きながらぐるりと周囲を見回した。彼女に取り、初めて目にする現実世界、いや正確にはそれの忠実なコピーだが、スノーは、その目に映る風景をまるで脳に焼き付けるように見つめていた。いま、スノーはどんな気分なのだろう……
 俺はそんなスノーの心中に思いを馳せながら、ふとある考えが浮かんだ。
 もしかしたら、この聖櫃って……!?
「とにかく移動しない? ここにいたって始まらないみたいだし」
 そのララの言葉に、俺達は移動を開始した。忠実に再現された秋葉原の街だけあって、俺達は迷うことなく路地を抜け、中央通りまでやってきた。
「すげぇなぁ〜 マジ本物としか思えねぇ…… おっ、ソフマップCD館だ。スゲー!」
 リッパーがそう感嘆の声を漏らした。確かにその通りだ。細部にまで手抜き無く、忠実に再現された『仮想秋葉原』は現実としか思えないクオリティだった。
「しっかし気味悪いわね〜 誰もいない街って。なんか人だけが突然消えちゃったみたい」
 ララが率直な感想を漏らす。全く持ってその通りだ。ここまでリアルに再現された街で、そこに欠かせない存在である人間がいないことが、これほど気味悪い物だとは思わなかった。ララじゃ無いが、ついさっきまで居たハズなのに、街ごと『神隠し』にあったかのような錯覚すら憶える。
「ああ、まるで陸の『メアリーセレスト』だな……」
 もっとも、ここははじめから人なんて居ないだろうけどね。
「なにそれ?」
 とララが質問してきた。まあ君の場合、自分のお腹とお金のこと以外、あまり興味がないだろうから知らないのも無理ないけどね。
「世界の航海史上で最大のミステリーって言われる事件の舞台になった19世紀の帆船の名前よ。1972年にニューヨークからジェノバに向かう途中、何らかの原因で乗組員10人全員が忽然と姿を消してしまったの。沖を漂流していた同船は、発見直後、『あたかも今までそこに人が居たかのような状態』だったって言われてて、今もってその原因が特定できないの。だから今じゃ不思議な『大量失踪事件』なんかを、よくその船の名前にちなんでそう呼ぶのよ」
 とスノーがその知識の一部を開陳しララに説明する。まあ、最近の研究では、後に伝えられた伝説めいた逸話は、かなり尾ひれの付いた眉唾な話しだそうだが、その言葉自体は未だに使われている。みんなそう言うオカルトめいた話が好きなのは、今も昔も変わらないってことさ。
「でも…… ホントに誰もいないのかしら?」
 あたりをぐるりと伺いながらドンちゃんが呟いた瞬間、全く別の声が掛かった。
「誰もいやしないさ、今はまだね」
 その声が耳に届いた瞬間、俺を始めメンバー全員が瞬間的に装備を手に取り、攻撃態勢のまま振り向いた。初めて見る聖櫃内部の異様な光景に、半ば『おのぼりさん』的な気分でいたとはいえ、そこは流石この聖櫃まで来れるハイレベルキャラ、思考より先に体が反応するんだろうね。
 俺達が立つ場所から数十メートル離れた先にその声の主は居た。この街の中心を南北に貫き、現実世界では休日になると歩行者天国になり、行き交う人々で、広い幅員が狭く感じられるその道路を、ここでは、俺達以外の唯一の人として、中央に配されたセンターラインに沿って、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
 年の頃は俺とさほど変わらないだろう。真新しいブルージーンズに白いスニーカーが、すらりとした高身長にはよく似合っている。フード付きのトレーナーの上から羽織った紺色のスタジャンのポケットに両手を突っ込み、現実世界でのこの街では、確実に浮いてしまうこと間違い無いと思われる、短髪の甘いマスクが、優しい笑顔を浮かべながら俺達を眺めていた。
「とうとうここまでたどり着いたね。チーム『ラグナロク』 ようこそ、この世界の始まりにして終わりの場所へ……」
 黄昏色に染まるその笑顔が、あまりにもさわやかで、逆にそれが、この人の気配を感じない無人の秋葉原とのギャップを感じて気味が悪いことこの上ない。まったく、相変わらずケレン味たっぷりな登場しやがって……
 初めて見るイケメン野郎だが、俺には誰だかすぐに判った。
「約束通りやってきたぜ。お前がここに居るって事は、どうやらここが『聖櫃』に間違いなさそうだ…… そうだろう? メタトロン」
 俺は冷静にそう聞いた。
「え、メタちゃん!? だって全然……」
 と驚くララ。だからその呼び方止めろって!
「あははっ いいねソレ♪ これからそう呼んでもらおっかな〜」
 そう言ってカラカラと笑うイケメンボーイ。お前も同意するなっ!!
 とぼけた口調にとぼけた格好…… そして、人の姿でありながら、人とは異質のこの威圧感。人の狂気を具現化した『戦争』を目的として生まれ、この世ならざるこの世界で、挑む者達の本質を試み続ける意志を持ったプログラム。『天使が統べる地』と言う意味を持つこの世界、セラフィンゲインで数多の天使【セラフ】を従える『天使の王』と『神の代理人』の称号を持つ人工天使メタトロン。
 たとえ姿が変わっても、お前から感じる、この得も言われぬ感覚を忘れるわけがない。
「そうだよシャドウ…… 君たちがアクセスしている端末のある『秋葉原の街』を忠実に再現しているだろ? 元々ここはね、かつて『使徒』の1人が、君の持つ『アザゼル因子』を調べるために作ったエリアプログラムなのさ。
 Abrrant Kinetic Inner Brain Area Proving ground【異種活動脳内領域実験場】その頭文字を取って、通称『AKIBA・PG』…… それを元に鬼丸が再生、改修したんだ。それが今君たちが目にしているこの『聖櫃』だ。現実世界の秋葉の街をコピーしたのは彼のオリジナルだよ。でもさ、ここは君たち『アザゼル因子』を持つ者にとってはなかなか粋な場所だろ? どうだいシャドウ? 気に入ってくれたかい?」
 そう言って笑いかける、美青年姿のメタトロン。唇の端からキラリと漏れる色つやの良い白い歯が、そのさわやかさをよりいっそう引き立てている。
 でも何故か、その爽やか成分100%の笑顔を見るとイラっとするのは、モテないキモヲタの僻みでしょうか?
「ああ、その話を聞いて、嬉しくって反吐が出そうだ」
 うん、口と体は正直だった。モルモット的な気分だし、それにさ……
「あれぇ? ヲタの君なら喜んでくれると思ったんだけどなぁ…… 秋葉原って君たちにとっては『聖地』なんじゃないの?」
「現実世界のはな…… こんな薄気味わりー秋葉は、嫌を通り越して怒りが沸いてくるぜ」
 だってそうだろう? 確かに人混みにウンザリすることだって多々あるが、それなりに人が居てこそ面白く、また楽しいのだ。確かにライバルが多すぎて買えないゲームやアニメのDVDなんかがあると、買える奴らに『お前ら全員逝ってヨシ!』みたいな感情を抱くことだってある。でも、誰もいない世界じゃ喩え思い通りになったって、そこにどんな価値を見いだせる? 自分が何かをして、それについて、良いにしろ悪いにしろ、それなりの評価や反応があってこそ、自分という存在に価値が生まれ、自分の行動に意味が生まれる。
 仲間もそう…… 同じ言葉や似たような価値観を持つ者達との繋がり、いや、それ以外の人達も全部ひっくるめて、その中で生きていく俺という存在。このチームでやってきて初めてそう気づいたんだ。そこに現実、非現実の区別無く……
 俺が必要だと思う仲間も、そうでない人も、俺を必要だと思ってくれる仲間も、そうでないその他大勢も、全部ひっくるめて俺の世界だし、俺という存在を世界や時間に刻みつけるファクターだって事。全てに意味があり、全てが『俺』と言う存在を証明するものだ。だから俺は、こんな街を認めない。こんな秋葉原を良いと思わない。
 だって、人って1人じゃ生きていけないし、絶対1人じゃないんだぜ? きっと誰かと繋がってるモンなんだよ。
「ここは、形だけの偽物だよ。悪ぃけど、ここには現実の秋葉の100分の1の魅力も感じないな」
 俺はそうこの世界を統べる天使に言ってやった。
「ふ〜ん、そういうモンかねぇ」
 メタトロンはあまり関心のない様子でそう呟いた。俺はその時、初めてコイツが『AI』だと感じた。コイツには血の通う事はない。所詮はプログラムだ。いかにどれだけ人間の行動や感情をサンプリングしようと、永久に本当の意味で人間を『理解』出来ないだろう。
 もしかしたらコイツは、それを知る為に制作者である『使徒』に逆らってまで、この聖櫃を維持しているのかもしれない……
 俺は何故かふとそんなことを思った。


2009/12/18(Fri)22:00:04 公開 / 鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて読んでくださった方、ありがとうございます。
毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。
第29話更新いたしました。
伏線回収話第2弾ってトコですw
AKIBA・PGの件はつっこまないでーっ!! うん、なんて安易な名前でしょう(爆
一番最初から考えてたネームっす。聖櫃が現実世界の秋葉の街って設定も……
鋭い読み手さんには、もうとっくに判っていたかもしれませんが……
何故鬼丸が現実世界の秋葉原の街を再現したのかもバレてるかも……(怖っ!
次回はお待ちかね、あの人物が登場予定です。もう少しだ、もう少しでこのしょーもない物語を完結することが出来る。がんばるぞー!! 
サブタイトルだけはもう決まってます。
次回セラフィンゲイン第30話 『魔人再び』 こうご期待!
鋏屋でした。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!続き読ませて頂きました♪
開発者「使徒」の命令さえ拒否するA.I「メタトロン」を、この成長を雪乃の父親は喜んでいるんだろうなと私は思いました。私なんかだったら、怖くなって出来るだけ物理的に隔絶しようとするのに(元を取り返すまでは止められないう泥沼に入り込んでしまうかもですが)。雪乃の叶えばいいなというような願いを、叶えるだけの可能性を自分に見出せるならば(たとえ見出せなくても)、朋夜が万進する気持ちは分かる気がしました。「コンプリージョン・デリート」とかのように、「メタロン」自体を一瞬で停止もしくは破壊させるようなトリガーは、やっぱりあるのかな?などと思ったりもしました(特にお金第一主義のような人は、保険は常にかけていたいと特に思うかなと)。今回は説明がメインでしたが、文章の読みやすさもあり、とく飽きることもなく「セラフィンゲイン」の成り立ちに触れられたと思います。
では続きも期待しています♪
2008/12/20(Sat)10:19:260点羽堕
》羽堕殿
感想どうもです。いや〜レスが消えてしまったのが痛いですな。しかし紅堂殿も色々と大変だったでしょうから仕方ないですね。
しかし相変わらずたくさんの作品に感想をよせていますね。いやはや頭が下がります。あなたのような方がいるから、此処が好きなんですよ。昔、甘木殿が全投稿作品にレスを入れるというのをやってた聞いたことがありますが、それにひってきしますね。
説明文が多くて申し訳ない。メタトロンを破壊するトリガーですか、正直考えていませんでした。でも、それも面白いかもしれませんね。今ちょっとアイデアが浮かびましたw
またおつき合いくだされば幸いです。
鋏屋でした。
2008/12/20(Sat)18:32:460点鋏屋
Mr.スランプ頼家です。
説明が多い?いえいえ、大好物です(笑
今回は智哉のぶっ飛びが少なく、少し残念でした^^しかし、雪乃の桁外れのお嬢様っぷりに完敗です。
軍事産業は、日本では規制が……現実を考えたら、『負け』ですね(爆
物語りもいよいよシステムの核心に迫り、ドキドキワクワクです。
鬼丸(雪乃兄)は、肉体は死亡してもAI(または人格だけ)としてセラフィンゲイン内に残ってたりとかするのかな?とか、聖櫃開けたら、システム破壊してロストした人の意識が戻るのか?とか……う〜む、妄想が止まらない。とにかく次回をお待ちします!
2008/12/21(Sun)21:41:520点頼家
》頼家殿
感想どうもです。Mrスランプ……? もしかして『書けなインフルエンザ』ですか?
ネタは浮かぶが筆が進まないつー書き手にとっては最悪の病気ですよ。私も前に掛かって苦労しました。
雪乃のお嬢様っていう設定は良かったですか? 少し安心しました。実は彼女のこの設定でサイドストーリーなんかも考えてたりします。出てくるキャラは一緒ですが、本編が少々シリアス色が強くなってきたので、ちょっとラブコメチックにするつもりです。
そうですね、軍需うんぬんの話のくだりはちょっと無理があったかもしれません。
年末で忙しく更新が滞りがちですが、なま暖かいおつき合いのほど……
鋏屋でした。
2008/12/23(Tue)12:00:340点鋏屋
続きを読ませていただきました。久しぶりに読むから思い切って13話から読みましたが、一気に読めて楽しかったですよ。
シャドウの現実と仮想世界でのギャップがいつ読んでもいい味を出していますね。キャラの魅力をフルに出し切っている感じで好感が持てます。
スノーが語る過去は……微妙かな。制作者が死んでいるという設定はありがちですし、その世界が制作者の意図を離れていくというのも多々ありますから。いっそシャドウたち(スノーを除く)は仮想世界の背後に触れることができないまま降着させても面白かったんじゃないかと愚考します。
前半部での鬼丸の姿を見ているとベトナム戦争でイア・ドラン渓谷で戦ったハル・ムーア中佐を思い出しますよ。
では、次回更新を楽しみに待っています。
2009/01/03(Sat)01:29:260点甘木
あっ、点数を入れるのを忘れた。上記で個人的願望は書きましたが、全体として読みやすくキャラにも親しみを覚えられることに対し点数を入れさせていただきます。
2009/01/03(Sat)01:56:071甘木
こんいちは! 続き読ませて頂きました♪
 キャー、ここで次回へいくのかぁー!! 悶える様な引き具合です。
 前半のスノーの説明の続きで、なんとなく「メタトロン」の意志みたいのが見えて、単純に自己学習しただけのA.Iではない、もっと奥の深い怖さみたいのを感じました。
 ララの無意味な暴飲暴食を何だか他人事だからか、微笑ましく読みながら、「ドンペリ」とかネットゲーでは「うんうん、ありりそう!」なネーミングだなとか思える所が良いんですw リアルだからこそ、キャラになりきれるんだろうなとも思ったりしました。
では続きも期待しています♪
2009/05/23(Sat)17:45:300点羽堕
続きを読ませていただきました。現実サイドがいいですね。仮想サイドとのリンクが強まってきて物語がひとつの方向に向かってしっかり動いている感じですね。AI内での思考の継続と言うネタはありがちなネタだけに、これをどのように処理するのか楽しみにしています。それにしてもララの胃袋は四次元なのか……最近胃の調子が悪い私としては羨ましいような、胸焼けがするような複雑な気分。では、次回更新を期待しています。
2009/05/24(Sun)10:49:040点甘木
》羽堕殿
感想どうもです。切り方がえげつなかったですね。スイマセン。
いや、区切りのポイントを見つけられなくて右往左往したというのが正直なところです。実は世羅浜邸のシーンからいきなりバトルに飛ぶ予定だったのですが、どうにも切り替えがうまくいかなかったです。ボリューム的にも中途半端で相変わらず構成力のなさに涙しました。
ゲロしてしまいますと「ドンペリ」云々やララとシャドウのやりとりは間延びしたシーンをごまかすための強引なカモフラージュなんですよ。1話分の文量稼ぎとして書いてみたら何となくそれらしくなったので採用に至りました。前半と後半の話の濃度にかなりの差が……
羽堕殿のコメントに救われました。

》甘木殿
感想どうもです。ありがちですよね。ああ、期待されると怖いなぁ(汗
ララの「大食い」の設定は当初はなかったのですが、最近は定着してしまった感があります。リアルでは魔界にリンクした胃袋つーのが智哉の見解ですが、仮想世界でもいい味を出してくれて助かっています。しかし女の子の大食いはホントどこに入ってるんだろう?って思います。私も胃潰瘍なので羨ましい限りですが……

お二方ともありがとうございました。是非次回も読んでいただけるようがんばります。
鋏屋でした。
2009/05/27(Wed)18:42:480点鋏屋
どうも、お久しぶりです。
しばらく姿を見せなかったので忘れられているかもしれませんが、貴作を愛読させていただいている読者の一人でございます。
ゲームのシステムが軍事産業のためだというのは気づいていましたが、まさか製作の根本にこんな感動的な話があるとは思いませんでした。良い兄貴じゃねぇか、鬼丸(本名よりこっちのほうがなじみやすいのでご勘弁)!まあ、裏を返せば単なるシスコンだけれど(笑)。
当初、私の見解としては、鬼丸かもしくは外部の誰かが『セラフィンゲイン』を操っているものだと思っていたのですが、成長するAIというのは驚きの事実でした。ただ、『メタトロン』もオタク心を理解してらっしゃる(一言余計)。

そして、新セラフの登場と強敵具合に、ついにシャドウ覚醒か!でも、個人的にはサムみたいな格好つけてるけど意味不明なキャラの方が好きです。サムは、もっと派手な攻撃を繰り出してはくれないのだろうか?
と、キャラの好みは置いといて、バルンガモーフの高等戦術について一つ突っ込みを。
MH(モンスターハンター)のボス敵って、プログラムの癖してプレイヤーを引っ掛けてくるんですけど(涙)!
もし、MHに魔法なんてものが出来たら、『セラフィンゲイン』みたいなゲームになるんだろうなぁ、などと想像しつつ今日はこれにて失礼します。
それでは、次回は驚きの超展開!期待して待て(なぜお前が宣伝する)!
2009/06/08(Mon)14:09:080点暴走翻訳機
こんにちは! 羽堕です♪
 うわw 意外にあっさりとメタトロン登場しちゃってて驚きつつも、想像していた感じと、ちょっと違っていて、口調とかもラスボス的な雰囲気はないなぁと思ったけど、少女の僕っ子は嫌いじゃないので、なんかメタトロンも好きになっちゃいました♪
 未帰還者の意識を使ったセラフというのは、ゾワゾワとしてきます! セラフィンゲインが実際にあったらしてみたいけど、やぱり怖いなぁとか思っちゃいました。
であ続きも楽しみにしています!
2009/06/09(Tue)14:44:501羽堕
》暴走翻訳機殿
お読みいただきありがとうございます。
こちらこそご無沙汰しております。ほんとお久しぶりですね。生存が確認でき、何よりと胸をなで下ろしておりますw
サムはジャンプ攻撃という強力な特殊攻撃法を体得している数少ないランサーですので、それ自体かなり派手なのですが、キャラの性格上ボケなければならず、ちょっとしんどい思いをさせてしまってます。聖櫃戦では見せ場をつくるつもりです。
MHは私もやってます。いい歳こいて……(汗 確かに嵌めますね奴ら。ナルガクルガなんて特に。
ただ、無類のゲーキチである弟の話ではだいたい攻撃パターンは6〜7パターンだそうですよ。宣伝までしていただいて恐縮です。これからも宜しくです。

》羽墜殿
感想&ポイント感謝です。お忙しいと伺っていたので恐縮です。大丈夫でしょうか。
メタトロンは私ももう少し引っ張るつもりでしたが、ちょっと変更しました。お子さまキャラって設定も後から思いつきやってみたのですが、内心はやっちまった感いっぱいでした。好きって言っていただけて何よりです。
私の場合はヘタレなので痛みを伴う体感ゲームなんて、実際あったらNGですねw せいぜいキャラ達には味わってもらうつもりですが(オイ

お二方ともありがとうございました。
鋏屋でした。
2009/06/10(Wed)15:32:430点鋏屋
2009/06/18(Thu)16:16:222さdさ
ヤッパすごいす。ちょー楽しい(*^_^*)ほんとたのしくて終わるカーとおもいましたよ。
2009/06/18(Thu)16:38:182tukku
こんにちは! 羽堕です♪
 メタトロンの暗い部分なども、今回の更新部分の方が、よく出ていたように感じました。それと少ない言葉の中にも、それぞれのメタトロンへの怒りや想いなどが出ていて良かったです。
 バトルは、スピードと緊迫感があって、どんどん引き込まれて行って、ララの活躍など何でか嬉しく感じてしまいます。スノーの旧バージョンから残っている魔法の効果が、どんな物なのかドキドキと待ちたいと思います。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/07/25(Sat)15:16:240点羽堕
》羽堕殿
毎度の感想どうもです。プライベートがまた忙しくなって更新が滞りがちで……
でもそんな私にコメントくれるあなたに感謝です。ありがたや〜
いや、バトルって大変。ページ食いまくりです。単純に戦闘シーンって気が狂いそうになりますよ。ノリで書くと自己満足だけでエライ安っぽくなっちゃうんですよ。何度没にしたことか……
1人称視点のバトルシーンって難しいなぁ。
スピード感があると言って頂けてホッと胸をなで下ろしております。頭の中に思い描くシーンを普通に描写すると文にブレーキがかかってしまってスピード感が殺されてしまうんです。思い切ってばっさりやったのがよかったのかもしれません。
そんなテッカテカで待たれるとプレッシャーで死にそうですw(ありがたいですが)いや、たいした魔法じゃないかもしれませんよ(オイッ!
なんにせよ、ありがとうございました。またおつきあい下さいますことを願って。
鋏屋でした。
2009/07/27(Mon)20:47:110点鋏屋
続きを読ませていただきました。相変わらず文章のリズムが安定していて非常に読みやすく、また情景も浮かびやすいです。キャラがしっかりしているので、どれだけ場面や状況が変わっても安心して読めるんですよねぇ。読まさせていただいた分も、素直に面白かったです。物語の方向性のようなものが明確になってきたことも、読み手にとっては先が気になり楽しみが増えました。
ここからは疑問をぶつけてみます。
この仮想世界の中ではレベルによって使える魔法の力は違うようですが、力そのものに制約はかからないのでしょうか? 炎系の魔法を例に挙げるなら、炎とは急激な酸化現象ですよね、仮想世界が地球と同じ大気組成と考えた場合、酸化剤である酸素の量は限られていて、別の酸化剤の供給がない限り炎を無限に大きくできない。また酸化させるものが文面上見あたらないので、大気中の水素を酸化させているように思える。もし究極の上位に達した時(もしくはAI側)、最大の炎系の魔法の酸化限度は幾つになるのでしょう? 魔法や超能力というものは作品において便利な存在ですが、制約がハッキリ見えないと非常に御都合主義の陳腐なものになりかねず諸刃の剣だと思うのです。
また、はっきりとした敵が見えたのは物語を進める上で良いことだとは思いますが、この物語の今までの流れ現実世界と仮想世界のギャップの面白さはどのように生かされてくるのでしょう? AIは現実世界に直接干渉ができないような感じなのでシャドウたちの活躍の場は仮想世界がメインになると思うのですが、仮想世界で活躍すれば活躍するほど現実世界との繋がりが薄くなり、AIなど必要のない単なるファンタジーになってしまう恐れが……幻想を強めれば単なるファンタジーとなり、現実を強めればシャドウたちは仮想世界を救うために現実世界で犯罪者(物理的なシステム破壊など)になってしまいそう。その折り合いをどのようにつけるのだろう? 今まで現実世界のシーンがあって仮想世界が生き生きとしていただけに今後の展開が非常に気になります。
今回は感想より私自身が気になったことばかり書いてしまいました。すみませんでした。では、次回更新を楽しみに待っています。
2009/07/31(Fri)00:17:350点甘木
》甘木殿
感想どうもです。放置してスイマセンでした(汗)
読みやすいと言って頂けて何よりでございます。リズムというか、ほとんどノリと勢いだけで進んでる悪寒がしますが……
魔法に関しては正直そこまで細かく考えていませんでした。ご都合主義であることは否定しません。ただ制約というか、本作で出てくる『メテオバースト』という魔法が炎系では上限です。完全なファンタジーだとその世界の元素構成やらなにやらが出てくるのでしょうが、この世界は現実に酷似したあくまで『プログラム』なので体感のみ本物のようで、脳が『燃えている』や『熱い』と錯覚させられていると解釈してくだされば良いかと……当然彼らがあの世界で吸っている『酸素』もそう思いこんでるだけで実際にはブレインギアの上で吸っている現実側の酸素です。当然臭いや味なども錯覚という設定です。
現実世界の話が微妙に薄くなっているのは自分でも感じています。仰る通りどちらかを強めるともう片方が陰り、難しいところです。折り合いというか、実はラストは2通り考えてあり、どちらにするかこの期に及んで悩んでいます。(優柔不断な)
出来るだけ納得とは行かないまでも、許容できる着地点にしょうと思っております。
鋏屋でした。
2009/10/08(Thu)17:32:400点鋏屋
こんばんは鋏屋さま、惰眠を貪る頼家です^^
そうですね、ヤッパリ凄腕の傭兵の見せ場は狂戦死!ベルセルク!!メタトロンが出てきた以上、もちろんサタン(ルシフェル?)ちゃんも出てくるのが道理。血沸き肉踊る魂の共演!!さあ、その湧き上がる闘争本能を存分に発揮してくださいませ^^
当然、最早私の言える事はございません。続きをお待ちしております!
                       頼家
2009/10/08(Thu)22:24:030点頼家
こんにちは! 羽堕です♪
 この展開は、大好物ですw まずスノーの魔法は凄かったです。属性防御のない敵なら、一瞬で消し去れますよね。その威力と難易度など伝わって来て、スノーやっぱスゲェって感じました!
 そしてララのピンチに仲間たちの怒りもヒシヒシときて良かったし、やっぱりなんといってもシャドウのルシファーモード。なんですかあれ! やっぱり主人公の活躍は、胸が躍ります。と言っても、このモードは危険な香りがプンプンしてるから続きが気になります。面白かったです。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/10/09(Fri)12:05:141羽堕
》頼家殿
感想どうもです。
いやね、この「ルシファーモード」はどうするかマジで悩みました。だっていかにもって感じで…… 
まあ、ただの狂戦士ではないんですけどね。そっちはリッパーがいますんでキャラが被ってしまうんで。
引き続きなま暖かい目で見守ってくだされば幸いです。



》羽堕殿
感想&ポイント感謝です。大好物といってくださって安堵です。しかしこの展開って安易じゃないですかね? 大丈夫かな?
ホントは当初、智哉の記憶がフラッシュバックするシーンで記憶の内容は全く違っていたのですが大幅に変更いたしました。ここに出てくるシーンは、鬼丸が最後に別れる際のシーンでシャドウにかけた言葉の答えです。あのとき、鬼丸がシャドウに何を伝えたかったのかが、うっすらとわかるような内容になってます。そして、『いつか俺を滅ぼす剣となれ』はプロローグで出てきた言葉です。あそこでは『我』でしたが……
それが何を意味するのかはもう少し経ってからわかると思います。(ホントか?)(オイっ!


お二方とも毎度のおつきあいありがとうございました。引き続きおつきあいいただければ幸いかと……
鋏屋でした。
2009/10/14(Wed)20:26:080点鋏屋
こんにちは! 羽堕です♪
 シャドウの突然に手に入れた力に酔いしれているような所が、私なんかは気持ち良かったです。その裏で、まぁコイツはいつか痛い目みるなって思ってたりもするのですがw 本当に圧倒的な強さで、完全にキャラに呑まれてしまっているようにも感じました。元の状態に戻ったら、どうなるんだろう。
 メタトロンの話から安綱の意味とか色々と見えてきて、ここからどんな展開になってしまうんだろうってワクワクします! 本当につぶし合いが始まってしまうのか、そしてメタトロンの本当の目的って何なんだろうって。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/06(Fri)11:26:390点羽堕
こんにちは。読ませていただきました。
とは言っても「あらすじ」から「14話」までなんですけど。
途中からでほんとにすみません。でも、今のところは引っかかることもなくすらすら読めているように思います。優しい作りでホッとしました。ちょっと人物名とか、用語を覚えるのが大変かなぁってぐらいです。(人物紹介、用語紹介が役立ってます)
面白かったです。なんといっても、その世界観がいいですわー。本当によく練られているし、細かいところまで設定出来ているのがすごいと思います。
そもそも、こんな長いお話を続けられているということ自体が、僕にとってはほんとに凄いです。相当な力がないと続けられないでしょう。憧れます。
また、キャラが立ってますね。みんないいキャラしていると思います。主人公のツッコミがいい味出してるなーと思いました。というかツッコミがないと成立しないという感じですね。濃いキャラばっかりだから。
所々にギャグを挟んでいるのもいいと思います。ガンダムは見たことがあるので、そのネタは笑えました。ドズルとか。ただ、やりすぎちゃったリすると、見たことがない人がいたらわからなくて困っちゃうなんてこともあるのかなーなんて余計な心配をしてみたり。
今のところは全体的にコメディタッチな印象を受けました。どこかでシリアスな部分があるのかなーと想像を巡らしています。僕はどっちかと言うと、シリアスな部分があったほうが引き込まれやすいので、勝手に期待しちゃってます。
いろいろとまだまだ謎があるようで楽しみです。
本当ならば一気に読んでから、まとめて感想を書くべきところだろうと思います。ちょこまかと読んでしまい申し訳ないです。また時間があるときに迷惑でなければ読ませていただこうと思います。
あー本当にただの感想になってしまいました。しかも流れに乗り遅れたところでの、時代遅れの感想になっちゃってるし……。参考にならなくてすみません!
それでは、執筆活動、引き続き頑張ってください!
2009/11/07(Sat)12:15:402やるぞー
こんにちは、頼家です!続きを読ませていただきました^^
良いですね〜♪難しい話(脳の電気の話)もやっぱりキチンとした原理を背景に、理論だって描かれると(フィクションだと判っていても)凄く説得力があり、物語の厚みをよりまさせる効果がありますね^^私は残念ながらそういった分野にも明るくないので、それが正しいのかは判りませんが^^;大変勉強になりました!(そうか〜シャドウの強さはそう言ったことが影響していたのか……)また、話の雰囲気も大変良く私の好みです(←まったくもって個人的)^^いや〜シャドウ、ララを守りながらのイテマエバトル!リアルとは全然違う男気ですね^^羽堕様ではないですが、日常に戻ったときのギャップをどう埋めるかwwかげちか(笑)君も好きなキャラだったので、なるべくなら壊さないように……っと勝手なお願いをしてみたり。今回多くの謎の真相に足を掛けた感があり、シリアスモード前回!ますます今後の展開から目を話せませんね^^(ほんと、何で渡したんだ?まさか自分を……以下妄想)それでは、続きを心よりお待ちしております!
                 頼家
2009/11/07(Sat)16:30:250点有馬 頼家
》羽堕殿
感コメどうもです。ええ、ご推察の通り、調子に乗って痛い目みますよ〜w こんだけ無茶やったんだし。次回の現実サイドでもだえ苦しみます。でも、マリアのサービスもあって智哉もいい目見るからどうなんだろ……?
さあ、ここから一気にラストスパート……いやまだ無理だろうな……
読んでくださってありがとうございました。

》やるぞー殿
感想ありがとうです〜 さらにポイント2も!? もうね、感謝感謝です。いやいや、途中からでも全然かまいませんよ。過去分合わしたら軽く500行っちゃうんで一気読みは普通にどっかおかしくなるから無理しないでくださいな。14話辺りだと、やっとシリアス面に天秤が傾いた頃かな? しばらくシリアスが濃くなりますが、24話で現実サイドに行くので、そこでまた脳天気になるでしょう。私的に半々で行きたいなぁって考えてます。キャラはもうこの際だから思いっきり濃くしてやれ!ってノリで設定しました。しかしやっかいなキャラを作りすぎて普通にメダパニ状態です。
ガノタなネタは仰る通り知らない方は判らないでしょうね。スイマセン、私は脳みそ半分…… いや3分の2がガンダムで出来てます。許してください!
こんな厨二臭がぷんぷん漂う物語ですがまたお付き合いいただけたら嬉しいです。

》頼家殿
感想どうもです〜w 羽堕殿もそうですし頼家殿のお言葉で頑張って書きましたよ〜私。バルンガモーフをフルボッコにするシーンは当初はもっと呆気なかったんですが、どうもイマイチだったんで大幅に変更し、残虐性を出してみました。スノーじゃないけど、ちょっとやりすぎた感があります。次回は現実サイドで智哉が天国と地獄を同時に味わいます。まあ、今回調子に乗りすぎな部分があるのでお仕置きもかねて……(オイ!
あれ? でも、マリアからのサービスで天国に行くから良いのかな?
何故鬼丸が安綱をシャドウに渡したのかはもう少し先で解ると思います。ちょっとだけヒント。鬼丸はもう一度現実世界に戻るために、ある重要なことをシャドウに期待しているのですよ。

お三方とも読んでいただき誠に感謝いたします。ありがとうございました。また是非お付き合いいただけると大変嬉しいです
鋏屋でした。
2009/11/08(Sun)00:26:030点鋏屋
続きを読ませていただきました。コンスタントに感想を入れられないですみません。
少年マンガのような展開が非常に心地良いですね。戦闘のテンポやメリハリ、そして一発逆転などイメージが眼前に浮かんでくるようです。御都合主義と言えば御都合主義に展開なのですが、それが鼻につかない書き方がいいです。ただシャドウが妙にキャラとして完結してきちゃって、ちょっと感情移入が難しくなってきたかな。傍観者として眺めているぶんには非常にいいキャラだけど、前半部で見せた等身大的な親しみが薄くなってきたのは少し寂しい感じも覚えます。失礼な書き方をさせていただけば、ここまでは往年の少年マンガやファンタジー小説の王道的な展開できましたが、この作品をどのように降着させるのかが楽しみになってきました。では、次回更新を期待しています。
2009/11/08(Sun)13:03:161甘木
ファンタジー小説を読むのは、中学生の頃に熱中した『スレイヤーズ』以来のプリウスです。
日常の中にあるものが実は軍事利用されることになる、というところが僕好みです。
昔、日本の洗濯機の消音性がとても優れていたので、ソ連が買っていって潜水艦に応用させた、なんて話を聞いたことがあります。
ほんとかどうか分かりませんが、そういうことはあり得るだろうなと思います。
別に表立って「軍事利用してください」と売る必要はない、ということでもあります。
システムの大枠だけ売って、売った先で勝手にマイナーチェンジしてもらえばいい。
だから本当にリアリティのある戦場を構築出来るのであれば、訓練用のシステムとして有効活用出来るだろうなと思います。
他にもこれを利用した金儲けは思いつきますが、やはり軍事利用が最大の儲けとなるのでしょうね。
あと、アイナ・サハリンが好きです(関係ない)
2009/11/09(Mon)03:27:571プリウス
》甘木殿
感コメ&ポイントどうもです〜『王道こそが正道なり!』
いやすいませんごめんなさいつーか自分酔っててちょっといい気分で調子乗ってたつーかあれだだ基本サルのアレだし……
心地良いなんてコメ貰って普通に舞い上がってます。うれしいですまじでw
等身大の智哉は確かに最近出てきてないですよね。現実サイドが寂しかったし…… でも今後またちょっと現実側に話が行くのでそこで彼の等身大な部分が出せればと思ってます。彼、ゲームの外では基本ヘタレですからw
降着は…… 微妙です。甘木殿の期待に添えられるだろうか? う〜ん、もう少し練ってみようと思います! ほんとありがとうございました。
鋏屋でした。
2009/11/10(Tue)19:47:560点鋏屋
》プリウス殿
読んでいただき、さらにポイント感謝感激です!
〉日本の洗濯機の消音性がとても優れていたので、ソ連が買っていって潜水艦に応用させた
マジですか? でも何となくありそうな気がしますね。上の方はあの国の兵器がとっても大好きなので何か知ってるかもですが…… ソ連(ロシア)の兵器は普通に面白いのが多いからなぁ、ナチスドイチュもアレだけど。もっとも私はレシプロ機&弾丸フェチなので偏った知識しかないですけどね。VR(ヴァーチャルシュミレーター)訓練は米国でも実際に研究されていて実用化まであと数年でいけるって聞いたことがあります。まあ、この物語のような仮想空間を構築出来るかは謎ですけどね。
アイナ・サハリンが好きとはプリウス殿も相当……w 私の友人も彼女が好きで、自分の娘に『安比奈』とつけた強者が居ます。私はヨメに、息子に『羅屡』【ラル】とつけようと言ったら普通に殴られましたw ガノタなネタは分からないと何言ってるか分からないですよね…… でも主人公はヲタなので許してください(涙
読んでくださってありがとうございます。またお暇なときにでもおつきあい下さればうれしく思います。
鋏屋でした。
2009/11/10(Tue)20:05:470点鋏屋
こんばんは、鋏屋様!頼家です。
続きを読ませていただきました^^
おおぅ……かげちか君、災難ですね……いや、人生に数少ない幸福だったのかな?期待通りの彼の落差には安心しましたwしかし展開上、スノーの絡みの(=ビジュアル悪魔VSスノーの)話があっても不思議ではなかったかも知れませんね^^しかし、セラゲンの仮想世界の影響が、リアルに戻ってきてもあるって言うのは恐ろしいですね……確かに、脳っていまだほとんどその仕組みが解明されていないって聞いた事がありますので、それを弄くってゲームに利用するって、ちょっと怖い気もしますね^^;彼等の(ドタバタな)活躍で忘れがちですが、彼等はかなりの危険と隣り合わせでゲームしてるのだなぁ……っと、改めて今回(及び前回)の話を見て、思いました。それでは、続きをお待ちしております!
                        頼家
2009/11/11(Wed)00:40:330点有馬 頼家
こんにちは! 羽堕です♪
 やっぱり、このギャップがカゲチカなんだろうな。身体的にはボロボロだろうけど、向かうべき場所が決まったのは大きいよなって感じました。
 そしてマリアがすごく可愛くて、雪乃もうかうかしてられないぞって! 悪魔が見せる優しさには、用心しないといけないかもだけど、魔界風物体Xサンドを食べて頑張って欲しいですw
 現実サイドでは、しっかりと笑わせて頂けて面白かったです。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/11(Wed)13:25:020点羽堕
》頼家殿
感想どうもです。雪乃との絡みは次回にお預けです。またマリアがやってくれる予定ですw
セラフィンゲインでは、同調率が高いと身体に影響が出ると言う設定です。自己暗示みたいな物ですかね。ほら、敬虔なキリスト信者の『聖痕』みたいな物です。ただの木片を持って目隠しした被験者に『コレは熱で真っ赤になった火箸だ』って暗示をかけて押しつけると本当に火傷が出来る事があるじゃないですか。ようはアレと同じような現象と思って貰えればいいかと……
智哉の場合は同調率が異常に高いので、それが顕著に現れるって訳です。
まあ、死の感覚の疑似体験による精神への影響や接続干渉自己であるロストなんかを考えると危険なゲームでしょうね。現実にあったら間違いなく営業停止になるんじゃないですかね。

》羽墜殿
毎度毎度感想感謝です! いやほんと羽墜殿すげぇ。私も最近は負けじと読みまくってるんですが羽墜殿には及びませんよ〜
ご期待通り(?)痛い目見ている智哉ですw 次回はさらにショッキングな話を聞くことになりますよw 
マリアは可愛いですか? まあ根はいい子ですからね。作者としては嬉しいところです。料理はNGですケド…… 最近ギャップが少なかったのでもうちょっとキャラで遊ぼうと思ってます。でもそれなりに物語りの重要な部分を混ぜていくつもりです。

お二方ともいつも感コメありがとうございます。またおつき合いのほど……
鋏屋でした。
2009/11/13(Fri)17:10:150点鋏屋
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 な、長かった…。 最初は目的がわからなかったのですが、だいたいの意味合いがわかったあたりから、一気にひきこまれました。中盤から一気に読ませる筆力と展開の妙はさすがだと感嘆しました。
 ゲーム世界と現実世界の分担が、うまく構成されていて、主人公の(演じる)役割の違い、という二重の意味でも、丁寧に綴られていて面白かったです。
 ……異端をもって異端を狩るための安綱は、EXAMかNT-Dか、というくらい、はた迷惑な武器ですね。たぶんそれでもなきゃ解決できないから、唯一の友人に渡したんだろうけれど。救われないな。
 面白かったです。続きを楽しみにしています。
2009/11/15(Sun)20:17:540点上野文
続きを読ませていただきました。今回は前回とのギャップが味なんだろうけど、シャドウの反応及びイベントが定型すぎる感じがしました。シャドウの現実社会でのウリは平均以下のような立ち位置なのに、今回のイベントは恵まれすぎて実感がない感じ。それでも現実でも災難が続くところはいい感じですが。また、前半部は「……」と改行が多すぎてせっかくのシーンをリズムを損なっている印象を受けました。でも、繋ぎのシーとしてのメリハリがついていたことは良かったです。戯れ言を失礼しました。では、次回更新を期待しています。
2009/11/15(Sun)22:09:000点甘木
こちらでははじめまして。三文物書きの木沢井です。
 こちらに御質問への回答を書き込む傍らに一部拝読させていただきましたが、お見事という一言に尽きますね。オンラインゲームへの知識がないことや、途轍もなく長いことから尻込みしていましたが、いざ目を通してみれば作中に引き込まれる。私こそ、勉強のためにも御作を一話から拝読しなくてはなりません。
 御質問への回答ですが、鋏屋様が既に見つけられた第一話こそが、登竜門における、私の最初の拙作です。タイトルにある「3」というのは『交響曲第●番』といったようなものでして、とどのつまりそれ以前の拙作との関連性はありません。「あれ? もしかしえてこれちがうんじゃね?」という御意見に関しましては……私の力量不足であった可能性が高いです。
 また最初から拝読し、改めて感想を寄せさせていただきます。
 以上、両膝の内側から青痣がまだ消えない木沢井でした。
2009/11/17(Tue)00:10:311木沢井
》上野文殿
感想どうもです。長くてごめんなさ〜い(汗 もしかして過去からログったんですか? 疲れたでしょう? スイマセンです。ありがたやです〜!
「引き込まれた」って言われるとすごーく嬉しいです。途中から妙に厨二臭くなって大丈夫かな? なんて思っていたんですが、そう言われるとほっとしますwイグザム・システムとニュータイプ・デストロイヤー・システムをご存じとは、文殿もなかなか……ムフフw イグザムはゲーム版タイトルは『戦慄のブルー』、小説は『ガンダム外伝』でしたよね。EXAMはオールドタイプがニュータイプに対抗するシステムで、NT-Dはニュータイプが乗る事が前提だから、意味合いから言えばどっちかっていうとNT-Dに近いですね。『童子切り安綱』が何のためにあるのかは今のところ今回では明かさないつもりです。ですが、鬼丸が何故智哉に託したのかは最後の方で明らかになります。
こんな厨二臭漂うお話ですが、またおつき合いいただければ嬉しく思います。

》甘木殿
いやもうまいどありがとうございますほんとに。確かに言われてみればありがちですね。主人公が恵まれすぎてるとシラケそうだったので、災難を加えてみたのですがバランスがいまいちだったなぁ(反省)三点リーダーが多いのは自分も気になったんですよ。全体を通して見ると地の文が安っぽくなちゃってますよね。一人称で語り口調だから元々軽い文章なのに、それがさらに倍増しちゃってるし…… 安易に使うのは危険だとわかりました。戯れ言なんてそんな〜 いつもながら要点を付いた指摘に感謝してます。
またお暇なときにでも呼んでいただければ幸いです。

》木沢井殿
感想コメントさらにはポイントまで頂けるとは…… 感謝感謝です!
ホント長くてスイマセン。当初の予定では20話ぐらい、400枚ぐらいでケリを付ける予定だったんですがなかなか予定通りに行かず、偉く長い物語になってしまいました。
あわわわっ! べ、勉強なんてそんなっ!? 何を仰るんですか、私の作品など害はあっても利なんて無いッスから! 他の方のでお願いしますよ〜っ(汗
今過去作品の御作を読んでる最中なのですが、私なんかより全然上ですよまじでっ! 台詞と地の文のバランスも良いし、並列思考が入れ替るなんてアイデア、しっかりしたキャラクターと世界観。とっても良作じゃないですか。もうすぐ追いつきますので、そしたら感コメ入れますね。

読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。 まだもう少し続きますが、最後までおつき合い下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。
2009/11/19(Thu)13:40:090点鋏屋
「一人を除いて」とすべきところが「一人を覗いて」になっていますよー。
いったい何を覗くつもりなのか、と(笑)

僕はこの作品、オンラインパートよりもオフラインパートの方が好きです。
なんというか、オフラインの方が主人公が「うまく立ち回れない」感じがあって、そういうのが魅力なんですね。
でも主人公はけっしてバカではないし、周りに流されてるわけでもない。
そういうメンタルなところはオンラインの行動で如実に表されている。
だからオンラインパートは僕の好みではないけれど、人の多面性を表現するのには便利なパートだなとも思います。

「まだもう少し続」くってことは、逆に言えばもう少しで終わるって意味ですか?
これだけの長編を終わらせるのは、感慨深いものかと思量します。
2009/11/19(Thu)22:10:570点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 誤解で殺意のある視線を向けられるは、経験値はゼロだったりと可哀想に思うのに、何でだろう笑いが零れてくるんですよね。でもマリアの態度から、どんだけの経験値を逃したのか思い浮かべると……やっぱり笑ってしまうw
 雪乃の泣きっぷりは、確かにちょっと引くかもしれないけど、それでも可愛いなって思います。マリアまで慌てさせるんだから、それとカゲチカは、てんてこ舞いって感じだったけど、よくよく考えるとコレって幸せ者って感じがする。この後のオフ会が、とても楽しみになってきました!
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/20(Fri)16:33:160点羽堕
こんばんは。頼家です!続きを読ませていただきました。
やっぱりかwwっと言いましょうか、今回カゲチカ君は散々ですね^^しかし、いい目にも遭っているのだ、耐えなさい。っと、電車の中で覗いていたその他大勢と同意見な私が居たりします。
マリア、雪乃。そしてカゲチカ。非常にキャラクターが魅力的に描かれ大変読みやすく非常に勉強になりました!
それでは、続きをお待ちしております!
          頼家
2009/11/20(Fri)18:41:470点有馬 頼家
どうもー。15話から最終更新まで読ませていただきました。うう、読むのが遅い。またまた、時代遅れの感想になってしまい申し訳ありませんー。
もう一気に読めましたよ。楽しかったです。飽きさせることのない、テンポのいい展開で、わくわくしましたね。なにか、いろいろと、謎が明かされてきて、クライマックスが近付いてきているって予感がしますね。AIとかそういうシステムの話はちょっと難しい感じがしましたが、いいアクセントになって、興味をそそるものになっていると思いました。また、キャラがかわゆいです。雪乃、マリア、ともに萌えな感じですw。
戦闘場面も迫力があって、勉強になりました。あのセラフ強いっすね。そこからの古代魔法、主人公の覚醒はお見事でした。まぁ、対価はかなりあるみたいですけど。
現実に戻ると、お約束と言ってもいい、主人公の不幸が目立ちますね。面白いです。可哀想だけど。
さて、これからどうなるのか楽しみです。マリアの暴れっぷりに注目したいと思います。
それではまたー。
2009/11/21(Sat)00:28:091やるぞー
 はい、ようやく11話まで読み終えました! 遅読みの湖悠でしたが、ひきつけられる世界観や展開のおかげでスイスイと読むことができましたよ^^
 細かい設定や、精密に作りこまれた世界観には、もう、なんていうか、土下座をして尚且つ祈りをあがめつつ「凄いですっ」と叫びたい感じですかね。ええ、訳分かりませんね。
 キャラの一人一人にも魅力があり、欠点があるというのに憎めなかったです。まだこっちの話は読んでいないので、これから読むのが楽しみです^^
 スノーの言葉は一体どういう事なんだろう? とそんな事を遅れながらも思っている湖悠でした〜。

 では! こちら全話を読み終えたらまたレスします!
 ではでは〜。
2009/11/21(Sat)10:03:581湖悠
千尋です。
 過去ログの部分も、全部読みました〜! いやあ、リアルで疲れ切った、パサパサのオカラみたいな私のお脳にも、温かいだし汁のようにスイスイしみとおる、問答無用の面白さでした^^。全然長いと感じませんでしたよ! 私はゲームにもガンダムにも疎いんですが、関係なく楽しめました。
 最初のほうで、このシステムは医療に応用できるな、と思っていたら、やっぱりもともとそうだんたんですね。一番分からないのは、鬼丸と雪乃のお父さんですね。子供たちの状況を考えれば、絶対治療方面の研究を進めるべきだと思うんですが。雪乃はもとより、鬼丸の病気にも色々対処可能な気がしますし。
 メタトロンには自我があるんでしょうか。コンピューターが自我をもってしまうっていう設定の話はたくさんありますけど、私の勘違いかも知れませんが、メタトロンの背後に誰か別の人物の意志があるようにも感じるんですよね。どちらにしても、メタトロンが、カゲチカ達をどこかに導こうとしているようで、今後の展開が楽しみです。
 あと、鬼丸の意図について、鋏屋様のレスコメントで分かってしまう部分があって、ちょっと残念だったですかね。ダ、ダメですよ〜、作者が明かしちゃ! ヒントもダメッ! こっちは楽しみにしているんだからーー;
 そういえば行ったことはないですが、私の地元に『ガンダムバー』というのがあって、通っていると階級が上がって、特別なメニューとか席を獲得できたりするようです。でも、こういう店、全国にあるんでしょうねぇ。今は、『エヴァ喫茶』とかもあるんですかねw
 では、続きも楽しみにしています!
2009/11/22(Sun)16:47:001千尋
うぅ、申し訳ないながら、過去ログ分のみ拝読しました。水芭蕉です。にゃあ……。
こちらのほうは、もうちょい読むのに時間がかかりそうで申し訳ないですにゃorzなので、過去分のみの感想となります。ごめんなさい。近いうちにはかならず!!!
基本的に、面白い!! と思ったものしか長編は読めないタイプなのですが、これはスイスイ読めてすげぇ!! ですよ。オンラインゲームはさっぱり解らないのでなんともはやですが、.hackとモンハンを足して二で割ったような話ですね。あぁ、もう鋏屋さんマジ小説上手いです。構成力が無いとおっしゃってましたが、そんなこと無いです。とてもとても面白かったですよ!!
こっちまでの感想はもうちょいお待ちください。ほんともう、集中力の無い猫でごめんなさいですorzでも面白かったです。

2009/11/22(Sun)22:06:451水芭蕉猫
こんばんは、街中を走り回り山道を歩き通し雨に降られながら帰ってきた木沢井です。いやほんと、ここだけだと何をしているのやら分かりませんねぇ。
 そのような些事はさて置くとしまして、過去の分から現在まで、拝読させていただきました。
 その上で、やはり勉強になる点は多々あると思いました。主人公のカゲチカ君、現実部分においてイライラさせられたり思わず同情したりと、本当に感情移入しやすく、これ一つとっても鋏屋様のキャラクター作りの妙が伺えます。
 物語の展開においても同様です。長文を長文とは感じさせない文章作り、まだまだ延々と中身のない文章しか作れない私には貴重な参考になりました。ちなみに余談ですが、「……という」と「……と言う」は基本的に別物であったはずです。意図されているのであれば私が無知であったというだけですが、その辺が気にかかりました。
 以上、迫りくる水曜日に戦々恐々としている木沢井でした。終わりが近いとのことですが、彼らの行き着く先がどのようなものか、大変注目しています。
 
2009/11/22(Sun)23:25:381木沢井
 続きを読ませていただきました。今回のシャドウ(カゲチカ)はヘタレで良いですね。初っぱなの電車のシーンからニヤニヤして読んでいました。戦闘シーンとは違った安定したリズム感があって、オタク系自虐マンガを読むような楽しさがありました。学食でのマリアと雪乃の対比もメリハリがあって私にとってツボでした。雪乃が萌え泣きとは……美味しいキャラだなぁ。ハンデを感じさせないリアルワールドの雪乃が可愛い。まさに萌えだ。私もあの学食ホールにいたかったなぁとマジに思ってしまいました。前回とは違ったリアルワールドの切り口が良い感じでした。

 さて褒め言葉も書いた事だし、バランスを取るために苦言。今回は書き急いだのか、推敲をしなかったのか、誤字や変な表現が目に付きました。ざっと気づいたところを挙げます。
「栗毛がさらさらと肩口を舞」動詞の場合は「舞い」と助詞が必要
「全く持って自分勝手な事を公言」は「全く以て〜」
「体の関節と筋肉痛の痛み」は重複表現
「4人掛けのテーブル」のすぐ後に「四人掛けのテーブル」表現の統一を
「なあマリア、進めてくれるのは〜」は「勧めてくれる」
「満干全席」は満州族と漢民族の料理という意味だから「満漢全席」
「話をしている最中も黙々と食事をするマリア」黙々は喋らない様。矛盾表現。
「必至に弁解するマリア」「必至になだめる僕とマリア」は「必死に〜」の誤字
「それに一人を覗いて」は「除いて」の誤字
「でもサムの連絡先しらないや……ねえ、アンタ知らないの?」同じセリフ内で表現が統一されていない
 この他にも同一表現が強調等の意味があるとは思えないシーンでバラバラに表現されていたり、100%間違いとは言い切れないけど珍しい日本語表現が散見されました。ご注意下さい。
 では、次回更新を期待しています。
2009/11/23(Mon)22:59:411甘木
》プリウス殿
毎度の感想どうもです〜 プリウス殿もリアルパートが好みのようですね。私的には5:5ぐらいのバランスでリアル:バーチャルを書こうって思ってたのですが、脳内がアレなもんで4:6ぐらいになってますw 私もここまで砕けた感じの文章は初めてです。地の文も基本三人称で書く方が多いんですけどね。
いやね、本当は20話ぐらいで終わる予定だったんですよ。それがどんどん肥大化しちゃって……(汗)バルンガモーフの1戦は全くの予定外でした。アレはララの為にこさえた話です。ホントはシャドウも聖櫃で覚醒するはずだったんです。プリウス殿ならお気づきかもしれませんが、あの部分は繋ぎが不自然なので読者の目をその事実から強引に逸らせるためのカモフラージュですw 普通に心理詐欺ですね(汗
もう少し続きますが、またおつき合いいただければ幸いです。

》羽墜殿
毎度の感想どうもです〜 たぶん智哉は経験値ゼロが一番答えていると思いますw いったいどんだけ貰えたんでしょうね、作者にもわかりません(オイ!)
いや、ここにどんな数値を入れても、確実に現実感が薄れるのであえて数値は入れませんでした。読み手の想像に任せますw 雪乃萌えっすか? あの泣きっぷりを読んでもまだ萌えてくれる羽墜殿に感謝ですw この物語は『ギャップ』が売りの一つですから、他のキャラも『現実側とは違うぞ』ってのを印象付けたくて入れてみました。リアルでいたらウザイでしょうけどね……
またおつき合い下されば嬉しいです。

》頼家
毎回感想くれてどうもありがとうございます。
まあ男から見れば『羨ましい』事ばかりですよねw たまに通勤電車で『ちっ!』とか思うカップルいますよw 8割方ひがみですけど……
魅力的なキャラと言っていただけて嬉しいですが、気を許すと普通に暴走する濃いキャラばかりなので大変です。これ以上変なの増えたら手が付けられないですまぢでww
また読んでいただけることを祈りつつ

》やるぞー殿
過去から読んでくださって感謝です! しかもポイントまで!? 疲れたでしょうに、ごめんなさい長くて……(汗)
戦闘とか厨二臭い話で内心ドキドキでしたが、迫力があると仰っていただけて幸いですw AIとかインナーブレインとかは妄想ですw(当たり前だ!) 実際米軍でもヴァーチャルコンバットシュミレーター開発は進められてますが、この物語のような自由度がある物の実用化は当分先でしょうね。実はこの『AI』って単語を出すのには抵抗がありました。使い古されている感もありますし、何よりチープな感じがしたんです。『魔法』と同じく『ご都合主義』っぽくて。でも元来引き出しが少ない私は安易に使ってしまってます。ああ、この辺のアイディアセンスを磨きたい……
仰るとおりクライマックスに近づいてます。この後の着地点が皆様の納得いく着地になるか非常に不安ですが、なま暖かい目で見守ってください(オイ!)

》湖悠殿
感想&コメント感謝です! 
あと、スイマセン。HNなんですが、なんとお読みすればよいでしょうか?(ゴメンナサイ)
いやいやいや、凄くないですよまじでっ!! ありがたいですけど、そんな言葉聞いたら普通に脳が溶けます、耳から何か出てきますっ!!w
ええもうゆっくりでもぜんぜんかまいません。こんなしょーもない作品につき合っていただけるだけでとても×2うれしいです。ありがとうございます

》千尋殿
あわわ、千尋殿まで過去分から読んでくださってもうほんと感謝感激です! 御作もブログにある分を現在読んでいるんで、読み終わったら感コメ入れようと思ってるんですが、予想以上に壮大なので未だに途中で追いついていないんです。くそ〜 今回御作が更新される前に読破するつもりだったのに…… 読むスピードは早いほうなのですが、御作はちと予想を上回っております。もうしばらくロムってから感想書きますね。
問答無用の面白さ……
( ゚д゚)ポカーン
(( ;゚д゚))アワワワワ
やべえ、震えがとまらねぇっす。最大級の褒め言葉をありがとうです!! 生きてて良かった(オイ!)
レスではゴメンナサイ! ついつい漏らしてしまいました(汗 今後はお口にチャックです! 『ガンダムバー』行ってみてぇっ!!!! 『マ・クベの壺焼き』あるかな?(ネエヨ!)秋葉に似たようなのはあるけど微妙なんですよ。 『エバ喫茶』も行ってみたいな。日によって店員が『暴走』したりしてw
ポイントも感謝です。また暇なときにでもおつき合い下されば嬉しいです

》水芭蕉猫殿
感想&ポイントありがとうございます!! いやいやもうほんと長くてスイマセン。あまりに読むのが億劫だろうと思い、ある程度内容をまとめて『これまでのあらすじ』を書いてるんですが、あまり役には立ってないんですかね、ううぅ(汗 
.hackは、ここのレスで甘木殿に教えて貰って私も見たんですけど似てますね……(汗 ちょっとびっくりしましたよw 構成力はまだまだですよ、小説上手いとか……そう思っていただけると嬉しいです。でも猫殿にそう思っていただけるのは、ほんとここの皆さんから頂いたアドバイスのおかげです。書き始めてまだ2年の小説トーシローな私がよくもまあこんな……ありがたい限りですよw
この話は私がれいの『書けなインフルエンザ』にかかり、リハビリ目的で『今までの自分の作風をぶちこわす』という趣旨で書き始めました。だからもう「これでもかっ!」ってなぐらい無茶な濃いキャラばっかを作り、滅茶苦茶砕けた一人称にしてみたりと色々やってみました。だから最初に投稿したときは『ふざけんな!』とか書かれるんじゃないかとドキドキバクバク状態でしたよw 少しして意外に受けがよいので今度は『構成』を注意しながら書きました。どのあたりに核になる話しを持ってくるかとかね。初っぱなから書きたい部分をぐっと我慢し、書きためた内容を見比べて読み直し、どのあたりが効果的かを考えて見ました。インナーブレインの秘密や主人公が『覚醒』するシーンはかなり悩みました。シャドウの覚醒シーンなんかはホントはもっと前だったんですよw
いやいや、読むのはホント余裕のあるときで良いですよ。

》木沢井殿
またまたポイント感謝です〜!!
私に『キャラクター作りの妙』があるのかは謎ですが、今回は現実、非現実を読み手に印象づけるために、あえてギャップを大きくしてみました。ロールプレイングゲームとかって、みんな誰にでもある『超人願望』や『変身願望』の典型みたいな気がするので、そこの部分をくすぐれれば、感情移入しやすいんじゃないか……てな安易な考えで作ってます。
あとなるべく作者だけの『マスターベーション』にならないようにと考えて書くようになりました。読み手になるべくストレスを与えずに読ませるには? って考えるようになったのも、ここに投稿される皆様の作品を読むようになってからです。
しかしほんと、皆さんどうやって文章短くしてるんでしょうか? ショート×2とか書ける人は羨ましいですw
木沢井殿の『ユーレイ噺……』の方は読み終わりました。木沢井殿のキャラだって凄い魅力的じゃないですか、勉強なんてやだなぁもうw ジョビネイル・エリンギ3の方はもう少しです。読み終わったらまた感想入れに行きますね♪

》甘木殿
毎度の感想&さらにポイント感謝です!!
わ〜い 本物のヲタに萌えて貰った!! やった〜!!(マテコラ!)
いやゴメンナサイあまりに感コメ&ポイント貰ったので普通に嬉しくて舞い上がり自分のヲタ棚に上げて調子コキましたスミマセンまぢで……
通勤電車で携帯に入ってる『Cagayake!GIRLS』をイヤホンで聴きつつ、にんまりしながら『止まれ!!』をハーモニカで吹けねぇかな?とか本気で考えてる中年親父に言われたくねぇよ!
↑甘木殿の心の声代弁w
ま、まあ、お褒めの言葉ありがたく頂きますw うわ、今回こんなに有ったですか誤字誤変換。
》「話をしている最中も黙々と食事をするマリア」黙々は喋らない様。矛盾表現。
↑コレは知らなかったです。勉強になりました。そうなんだ……学がないデスね私。
今回は見直しが甘かったですね。でも読み返してみると他にも謎な部分がいっぱいあるな……至急修正いたします。ありがとうございました。

日、月曜と覗きに来れなかったらこんなに感コメ貰っててビックリです。皆さんホント感謝です。さらに過去分から読んで頂いた方もいらっしゃり、嬉しいやら申し訳ないやらどうして良いかわからんです。いや、ありがたいことですよまじで。
また読んでくださることを願いながら、皆様に『オイオイお前さ……』と落胆させないような着地に持って行かねばと気持ちを新たにした鋏屋なのでした。
2009/11/24(Tue)14:14:530点鋏屋
今回更新分まで拝読しました。水芭蕉です。にゃー。
あぁ、おもしろかったです。スノーが可愛いね!! 萌え泣きキャラ好きですよ。何か、ね。ほら。私も一応二次元住まいな人間だし(おい)そしてその前の詠唱にあったαにしてωという言葉に物凄く心惹かれました。私の人生のお師匠様である方が、「私たちは皆αにしてωです」という言葉を何回も繰り返していたもので、あぁ、こんなところにも根付いてるんだなぁと(おい)そしてカゲチカの素と仮想空間でのギャップが凄まじくて素敵(笑)現実世界でも結構良いヤツなんじゃないか。マリアの乳くらいで照れまくったり鼻血吹いたりしてるのがなんかもー典型的で可愛いです。私はキャラ作りがニガテなので、これだけ個性のあるキャラクターを作れるのはとても羨ましいですにゃ。
展開も熱くて今後どうなるか楽しみです。面白かったです。
2009/11/24(Tue)21:25:471水芭蕉猫
ジブリールだなんて猫のくせに偉そうな名前だなと思えばなるほどピューマなら仕方ない。
きっとミカールと一緒に電脳世界に入って補佐役として活躍することでしょう(謎)
メイドさんは今後も登場予定ありですか?
2009/11/26(Thu)19:52:250点プリウス
》水芭蕉猫殿
感想と、さらにまたまたポイント感謝感激です!!
αにしてωってフレーズは私も好きで、絶対どっかで使ってやろうと画策してましたw 文言で唱える魔法も使いたくてウズウズしていたのですが、普通に使うと絶対安っぽくなるのでどうしようかと考え英文にしてみたんです。英文でしかも文言で唱える魔法なんてゲームのプレイヤーからすれば嫌がらせとしか思えないだろうなぁなんて考えてたそんな時期に、子供が興味を示していた『プログラミング』をヒントにしました。ド素人からすればプログラミング言語なんて呪文にしか見えませんからw
確かに乳揉んだぐらいじゃ鼻血なんて出さないですよね今時…… でもこういう古典的なことも逆に今なら面白いんじゃないかって思ってさりげなく入れてみました。かわいいと感じて頂けて何よりです。猫殿のアレクやリッシュも超個性的なキャラじゃないですか。私じゃあそこまで書けませんよ〜絶対! あれでキャラ作りが苦手とは言わせませんよ〜ww
いやほんと全話読んでいただいてありがたい限りです。またお暇なときでもおつきあい頂ければ幸いでございます。
鋏屋でした。
2009/11/26(Thu)20:06:070点鋏屋
こんにちは! 羽堕です♪
 アリシノさんのチクチクとくる口撃とか視線に、脅えきっているカゲチカが目に浮かぶようで面白かったです。それに美由紀さんもサラッと試す様な感じが、笑えてしまいます♪
 どんな環境にいても萌えられるカゲチカは、偉いなぁと思ってしまいました。それにしても「大きなねこ」じゃなかったのかぁw 命がけの遊びは、是非ともして欲しい所ですけど。
 クラブマチルダの雰囲気など、本当に好きなので、どんな会話が出てくるのかワクワクします!
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/27(Fri)13:40:300点羽堕
千尋です。
 もう、何回もPCの前でグフグフ笑っちゃいました! 家人が留守でよかった〜。やっぱりこの作品、超面白いです。特にリアルパートは、文章のリズムが軽快で、カゲチカのお決まりなダメぶりも楽しくって、ああ、ありがとうございますって、感じです。
 雪乃って、どんなチョコを用意するんだろう。サイドストーリーも楽しみです。本編が終わってからということは、来年の二月はすぎちゃいますかね。
 続きも楽しみにしています!
2009/11/27(Fri)18:19:081千尋
どうも〜! やるぞーです!
今回はカゲチカの慌てようが面白かったです。疾手さんもすごいキャラで、良い感性をしてますね。ピューマを普通の可愛い猫のように扱ってるのがあっぱれですw 
しかも不運なことに懐かれてしまうカゲチカ。やっぱりカゲチカだなぁと思いました。
ぜひとも、鬼ごっこをしてもらいたいですw
次はクラブマチルダですね。賑やかな感じを楽しみにしています。
それではー!
2009/11/27(Fri)18:25:340点やるぞー
遅ればせながら拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
面白かったです。疾風さんかわいいなぁもう。ピューマを猫と言い切る時点で私の中で可愛らしい属性に入ります。カゲチカのだめっぷりも、なんだかもう、面白かった……。そうですよね。あのサイズの猫科の生き物に手をぱっくりやられたら、誰だって食われると思いますよね。私も飼ってる小さな蛇にロールミーされたときめっちゃ怖かったもん。動物って可愛いけど、野性味が残ってるとちょっと怖いです(笑)次はクラブマチルダらしいので、それがもう楽しみまくりです。あの雰囲気が好きなので(笑
2009/11/29(Sun)21:45:330点水芭蕉猫
 続きを読ませていただきました。雪乃さんの家は「ハヤテのごとく」の三千院家ですか? でかい猫いるし……さすがに人語は話さないようだけど。ま、元ネタがあるなしにかかわらず常識を超えたセレブと庶民の違いが表されていて面白かったです。ただ異常事態としても面白さであって、カゲチカ個人の面白さはインターホンを押すシーンで終わっていたようにも感じられました(インターホンを押すシーンまではメチャ面白かったです)。カゲチカでなくてもあの状況では同じような反応と心情だと思います(執事さんとの確執は良かったけど)。カゲチカの魅力を出し切れずに作者が状況だけで楽しんでいた感は否めませんでした。またカゲチカが疾手と会うシーンで眼鏡のピントが合っていない表現があったのですが、それ以降のシーンではピントが合っているような書き方が気になりました。
 今回は指摘しませんが若干誤字などがありましたご注意下さい。また前回から気になっているのですが「、」と「,」が混在しているので「、」に統一した方が良いですよ。「,」は主に数字に挟まれている状態の時に見られます(それ以外にもあった気がするけど)。
 さて色々書きましたが全体を通した軽妙さは面白かったです。
 戯れ言。今回の冒頭にある「崩れたバンドマン」みたいって……バンドマンなんて真っ当な人間がやることじゃないんだから、真っ当じゃない人間が崩れると真っ当ってことになるのかなぁ。
 では、次回更新を期待しています。
2009/11/29(Sun)23:20:560点甘木
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 ゲームの外なのに非日常w
 ある意味でセラフィンゲイン以上に夢見た? 場所での智哉君のオーバーなリアクションがほほえましく、また面白かったです!
 続きを楽しみにしています。
2009/11/30(Mon)22:20:210点上野文
>プリウス殿
感想どうもです。レス遅くなってゴメンナサイ。ジブリールは確かに大層な名前ですよね。ミカールもw ご存じの通り、イスラム教の4大天使の名前を付けました。この物語は天使をモチーフにしてますから。メイドさんは今後、本編には今のところ予定はありません。
また続きもおつき合い下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。

>羽墜殿
毎度感コメどうもです。
アリシノさんは智哉には天敵ですからね。今回ジブリールつー命に関わる天敵も増えましたしw 美由紀さんのキャラは今回思いつきました。笑っていただけて何よりです。クラブマチルダもまた濃いキャラ集中してますからねw もう大変ですよ。
次回もまたおつき合い下さいね。
鋏屋でした。

>千尋殿
またまた感想&ポイント感謝です〜!!
PCの前でグフグフ笑うのは確かに微妙だ……w でもそんなに笑っていただけて嬉しいです。濃いキャラばかりでなんともアレですけど。
『雪乃さんのバレンタイン』は、実は初投稿去年なんですよ(汗 過去作品にありますが、かなり見切り発車でもう一度作り直すつもりです。最初は『雪乃さんのクリスマス』にするつもりだったんですが、普通に間に合わないんで変更しました。このお話も、もう1年経ったんだなぁ……
またおつき合いいただければ嬉しいです。
鋏屋でした。

>やるぞ〜殿
またまた感コメどうもです! いやもう毎回暖かいお言葉ありがたいです。ニューキャラ疾手さんはなかなかでしょ? かなり強引な性格ですよw でも雪乃には優しいお姉さん的な存在です。智哉には…… どうなんでしょ。まだあまり考えてません。元々サイドストーリーのみの登場だったんで、智哉と会う事を設定してなかったんですよ。
次回もまたおつき合い下さいませ。
鋏屋でした。

>水芭蕉猫殿
感想どうもです〜! 猫殿も疾手さんが可愛いと…… 結構人気あるなぁ。主要キャラじゃないんだけど。蛇にロールミー…… それはちょっと嫌っすね。ウチで蛇飼ったらヨメに殺されるでしょうねw
まだ次回も読んでいただけると嬉しいです。
鋏屋でした。

>甘木殿
毎度の感想どうもです!
≫世羅浜家は「ハヤテのごとく」の三千院家ですか?
どきり! つっても私はアレを見たことがないのでわからないのですが、疾手さんの名前はアレから取りましたw 確かに智哉本来のダメヲタとはちょっと違うかもしれませんね。やっぱり甘木殿は鋭いなぁ。おお、それに眼鏡に気づくとは! 第一話でぶっこわれた眼鏡を直しもせずにまだ使ってるってのが、智哉らしくて入れてみたのですが、仇になったか…… 読者が忘れてる頃にこう言うのをポロっと出すのが結構好きなんですよ私は。でも失敗でしたね。そう言うところに目を配ることで、あの甘木流のリアル差が出てるのか…… 勉強になります。うおっ! また誤字があったか! チェックが甘いな〜っ! 私は。バンドマンがまともじゃないなんて! ……仰るとおりですよ。私の知のバンドマンも真っ当な人間とは言い難いしな。
感想、指摘ありがとうございました。また暇なときにでも読んでくだされば幸いですw
鋏屋でした。

>上野文殿
感想どうもです! 
オフラインなのに非日常…… うんまさしくw セレブなお宅は、庶民の私などからはもう異世界ですよ。文どの風だとキイチロウみたいな心境ですw いやちがうか。
また暇なときで構いませんのでおつき合い下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。
2009/12/02(Wed)11:01:320点鋏屋
御作拝見させて頂きました、どうも葉羽音色です。語彙力のない私が恥を晒してまでも書き込まずにはいれない作品でした。最初は11話しか見つからなくてあれーって感じで探し回りましたよw 1話〜11話、ってことだったんデスね……

世界感やらキャラやら地の文やら、とにかく全てが好みな感じですっ! 特に書き方が好きですねー。自分はどうも同じワンシーンを長く続けると文章が、と言うか全体的に硬く読みにくくなってしまう傾向があるので、そこら辺はやっぱりレベルが違うなぁと思い知りました。。。

構成と言うか、キャラの扱い方、動かし方がうまいなぁと思いました。うまい面白いとしか言えない私はやはり語彙力に乏しい……

楽しい時間をありがとうございました。またお次の更新を心よりお待ちしております。では。
2009/12/02(Wed)20:55:220点葉羽音色
ハマーンの名前が出ただけでテンション上がった酔っ払いです、こんばんは。
日本では完全に、核研究で有名なハーマン・カーンよりも有名なハマーン・カーン。
口ぶりからやはり少女時代ではなく摂政時代がモチーフですよね。
男にバラとか与えたりするんでしょーか。
すいません、本編とは全く関係の無いコメントでした。
それではまた。
2009/12/03(Thu)01:17:240点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 クラブマチルダの面々もそうですが、リアルメンバーも相変わらずの濃さで面白かったです!
 サムのナチュラルなルー語が、本当にウザかったです。大声で、そんな話し方され続けたら店内ならまだしも、人通りの多いような道路とかじゃ、本当に嫌かもなって。友達としては楽しそうなんですけどねw
 雪乃を紹介された、それぞれの反応も個性が出てて、なんか分かるなぁって感じが良かったです!
 キュベレイ好きの私としてはハマーンの登場は嬉しかったです。それと「30周年なのに」って所で、吹きまくりましたw その後に時代の流れ出しなと、しみじみと思ったり。
 サムの質問と、その受け答え普段の明るいボケ役のイメージが強いだけに、カッコ良さと怖さがありました。でも可能性としては大きいのだから、それは考え解かなくてはいけなくて、シャドウはどうするんだろう? どうなるんだろう? と、ソワソワとワクワクが混じったような感じです。マリアと雪乃のハマーンへのツッコミは、どうとるべきかw
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/03(Thu)10:34:141羽堕
千尋です。
 やっぱりクラブマチルダのシーンは、ガンダムネタ全開ですね。以前、知人(♂)に「お前はほんとになんも知らんやっちゃ、これでも読んどけぃ!」と渡された本が『機動戦士ガンダム(マンガ版)』と『ガンダムの常識〜一年戦争モビルスーツ大全〜』でしたーー; スミマセン、非常識で。そして、モビルスーツ大全は途中で挫折しました。うーん、でもここでの皆さんのコメントを見ると、やっぱりガンダムは日本人の常識なのでしょうか……。
 元ネタは知りませんが、ララァさんのセリフ「意識が永遠に生き続けたら拷問よ」は、意味深に思いました。もう、セラフィンゲインは、ただのゲームじゃなくなってますよね。リアル人間の意識を探す旅になっているんですから。
 カゲチカ、意外にモテるんじゃない?と思いましたが、結局全部シャドウがらみなんですよね。でも、二人で一人だから、いいのか。カゲチカの中にもビリー・ミリガンみたいに『スポット』があるのかな〜。
 続きも楽しみにしています!
2009/12/04(Fri)18:32:430点千尋
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作の続きを読みました。
 趣味全開で爆走されてますね♪
 馬鹿騒ぎに見えるオフ会ですが、丹念に伏線を回収&敷かれていて、上手いなあと思いました。
 それにしても、カゲチカ君w
 クラブ仲間との掛け合いがとても面白かったです!
2009/12/04(Fri)23:39:350点上野文
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
やっぱりオフ会シーンは面白い。特にオカマさんたち最高! 昔どっかの誰かがオカマの上手い作品にハズレは無いと言ってた人が居ましたが、まさにその通りだと思いました。ハマーンさん素敵! 私ガンダムは種、種運命の世代だからファーストはわからないけれど、それでも熱気となんじゃやら面白そうな雰囲気が出ているのが素敵でした!! ハマーンさんカゲチカを男にしてあげて!!(おい)そしてシリアスサムがやたらめったらかっこよくてドキリとしました。普段おどけているキャラクターがこんなにもカッコイイセリフを言ったらコロリとやられてしまいそうです(笑)
ララァさんの意識が永遠に〜のくだりは、その通りだと思います。個人としての意識が永遠続いたら、拷問だろうなぁ。色々な複線が散りばめられていて、ウマい。と素直に思いました。
2009/12/06(Sun)00:02:151水芭蕉猫
こんばんは、先週末に別世界の生活を垣間見てきた木沢井です。いやぁ、常識はずれの金持ちって人種は本当にいるものなんですねぇ。
 カゲチカ君が現実に戻ってからは悲喜交々といった感じで、よくよく笑わせてもらいました。しかしビューマにミカエルとガブリエルとは、これまたすごいネーミングですね。この前も思いましたが、環境が違うと感覚にも違いはでるのでしょうか。だとすれば疾手なる人物も……。
 クラブマチルダでの光景は、笑いもあり、シリアスもあり、女性三人(?)による妙な確執があったりと、兎に角混沌の一言でしたね。それにしても、ドズルが連邦の軍服着てるのかぁ。
 次回からは、いよいよ鬼丸との決戦に臨むのか、それともまだ暫く現実サイドが続くのか、いずれにしても次回を楽しみにしています。
 以上、今週は足に錘をつけて友人と倒れそうになるまで走ってきた木沢井でした。私はノリス大佐が好きなので、そっくりさんがクラブマチルダに勤めることがありましたら是非ご一報下さい。
2009/12/06(Sun)13:38:120点木沢井
いいっすねークラブマチルダ。あ、どうも、やるぞ〜っす!
今回は、ギャグが盛りだくさんで、ワイワイしている雰囲気が伝わってきました。
本当にガンダムが好きなんすねww
スピーディに展開されているので読んでいて心地良いです。まったく苦にならない。素直に見習いたいなぁと思いました。
それから、サムがルー大柴みたいで、改めていいキャラしているなーとww
もちろん、サム以外のメンバーもですけどね。
果たしてカゲチカは鬼丸を斬れるのか。サムのあの言葉も、ちょっと怖くて興味をそそるし。
これからどうなっちゃうのか、楽しみです。それではー!
2009/12/06(Sun)22:57:360点やるぞー
〉葉羽音色殿
初めまして、読んで頂きありがとうございます!
ゴメンナサイね、確かに1〜11話って書けば良かったかも…… 好みって言っていただけて何よりと、胸をなで下ろしております。
実は構成はド下手なんですよ。特に話の『繋ぎ』が下手なんです。あの砕けた一人称も、そのあたりから読み手の目をそらす為の、反則的なカモフラージュなんです(汗! 鋭い方にはばれておりますが…)キャラが濃いのも、私の場合放っておくと台詞が誰が喋っているかわからなくなるので、自然に地の文に説明が入ってしまうので、それがなんとも嫌だったので、台詞だけで『誰が喋っているかわかる』様な濃いキャラにしましたw 他の投稿者とは違い、実力があるのではなく、表現力や構成力が乏しいので、そういう姑息な手法で『いかに読み手にわかりやすいか』をあの手この手で書いてます(悲 ですから裸にされたら偉く安っぽい物語デスよたぶんw シリアス全開で突き進むと、きっと15話くらいでお仕舞いでしょうね。厨二な私もそちらの方を早く書きたいのですが、でもそれだと読んでる方はストレスを感じるだろうし…… って事で笑いの要素を半分の割合でミックスしています。この『書きたい部分を我慢する』のは、この登竜門の古参の住人の方達に教えて貰いましたw ホント、ありがたいです。
鋏屋でした。

〉プリウス殿
感コメどうもです! おおっ! ハーマン博士をご存じとはw ハーマン・カーン氏は確かにハマーンの名前の由来です。前にNTで富野氏が言ってました。登竜門で知ってるのは甘木殿くらいかと思っていましたがw 確か核・水爆戦争論の第一人者でアメリカの冷戦時代の軍事顧問でしたね。そうそう、もちろん摂政時代です。マハラジャ・カーンの娘で、フラガナン機関最後の生き残りのハマーン様ですw
鋏屋でした。

〉羽墜殿
毎度の感コメ&ポイント…… 秀樹感激でございます(←時代錯誤)
「30周年の〜」はちとマズかったかも(汗 ほんと大好きですよ古屋さん!! 実は私、かつて嵌っていたネットゲーム『ユニバーサル・センチュリー・ドット・ネット』で某声優と出会ったことがありますw RX-79Gに乗ってるプレイヤーで、HNに『TOURU・FURUYA』ってなってて「もしかして……」って思ってチャットで話しかけたらご本人でしたw ゲームではオールドタイプでしたが…… でも音声で「僕が一番ガンダムを上手く使えるんだ!」って言って貰いちょー感動しました!!
マリアと雪乃の台詞は…… まあ、そのうちねw
次回も宜しくです〜!
鋏屋でした。

〉千尋殿
感コメどうもです! ガンダムなネタはわからなくていいですよ〜 千尋殿が非常識ではなくて、ガノタがアレなんですから…… ララァさんの台詞は『逆襲のシャア』です。開始から30〜40分くらいで、アムロがラーカイラムの自室で寝ているときに、夢の中でララァが言った台詞です。私はアレなので、あの物語を何10回も見ているので台詞をほぼ憶えています。前に試しにやってみたら、1時間20分までは完璧に憶えてましたww
ビリーミリガンってダニエル・キイス氏の小説でしたっけ? ゴメンナサイ、読んでないんですよ〜 アルジャーノンは読んだんですけどね。
鋏屋でした。

〉上野文殿
感想どうもです! 趣味全開で暴走…… まさにw ゴメンナサイ。
伏線の回収&敷きはちょっと安易だったかなぁ って思っていたんですが大丈夫でしたか? クラブマチルダは実際あったら行ってみたと私も思ってマスw
どうでも良いけど、智哉【トモチカ】は完全にカゲチカって名が定着してしまっているなw また次回もおつき合い下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。

〉猫殿
感想&ポイント感謝ですにゃあ! こんなオカマさんがいるかどうかは謎ですが、リアルのオカマさんはいい人が多いですよ〜 トークも最高に笑えるしww 下手にキャバクラなんか行くより絶対オカマバーをお勧めしますw もちろん私はそっちの属性じゃあないですけどとっても楽しいですよ〜
ハマーンさん良いですか? よかったw シャドウの葛藤を少し入れたくて、誰に喋らそう?って考えてたら、サムが良いかなって思ってやってみました。最初はマリアかララァさんにしようかとも考えていたのですが、サムで正解だったかな。まあ、サムは一応元傭兵でしかも鬼丸を知っていますし、自然な流れかもしれませんね。実はサムの傭兵時代のサイドストーリーなんかも構想にあったりします。そこではちょっぴりシリアスなサムを書いてみようなんて思っているので……
また次回もおつき合い下さいませ。
鋏屋でした。

〉木沢井殿
感想どうもです〜 『別世界の生活』ってどんなです? つーか何やってらっしゃるんですか?w 世羅浜家の人々は普通にズレてますよたぶんw 
オフ会を楽しんでいただけて何よりです。おおっ! ノリスファンですか? 渋いですね。カッコイイですよね。特に最後が…… 私の大好きなラルの親父を彷彿とさせますw MS-07は熟練のパイロットが乗る機体ってイメージが強いなぁ。
ノリスとラルはたぶん出てこないです〜 超好きなキャラは逆にいじれなくて……
3月にアニメ化されるユニコーンのジンネマンもカッコイイですよ〜ww

〉やるぞ〜殿
毎度の感想どうもです!
うん、ガンダム大好きです。脳の3分の2の領域を占めてますw 各国のGNPとかを1%づつ出し合って、核反応炉じゃなくても良いから、実際に乗って動かせる奴作ってくれないかなってマジで思ってますww
サムは良かったですか? そう思っていただけるならサムにして正解でした。サムは『やれば出来る子』なんですよw(ホントカ?)
このワンシーンのためだけに、リアルパートを挟んだような物ですから(オイ!)
次回もまたおつき合い下されば幸いです。
鋏屋でした。
2009/12/07(Mon)11:48:010点鋏屋
 遅読みですいません><
 試験もようやく終わり、ようやく全部読ませていただきました。で、感想ですが、


 ――雪乃かっわい!!!

 
 いや、俺的にはマリアもいけますが(Mなので)、雪乃の可愛さは半端ないっすね。カゲチカの多様な所での叫びにはもう同感です。頷きます。泣きキャラはかなり好きなので、もう、何だろ、セラフィンゲイン万歳!w
 覚醒したカゲチカが何だか狂気に満ちていて、でも強くて、ととてもよかったです。明けの明星という言葉が出た時点でルシファーが浮かんだ俺はメガテンやりすぎですねw メタトロンも、なんだか最初はごっつい金属肌な天使を想像してしまいましたが、想像を裏切られて本当によかったです^^; あんなごついの出てきたら勝てる気しませんし(汗)
 それはともかく、一番俺が感動というか、心が揺れたのは、セラフィンゲインの存在理由について明かされた時でした。「やられた!」と思いましたね。こんな展開が書ける鋏屋さんが羨ましく、尚且つ尊敬いたしました。これからの展開が、本当に楽しみです。

 乱れた文章ですいません^^;
 ではでは。
2009/12/12(Sat)00:19:382湖悠
〉湖悠殿
レス遅くなってゴメンナサイ。感想のみならずポイントまで! 
試験お疲れさまでした。御作も面白くなってきましたので、これでもう思う存分書けますねw また読ませて貰いますよ〜
雪乃萌えとのことで、作者としては嬉しいかぎりですw でも実際いたら、泣きキャラは大変ですよ〜、私には絶対対処できませんww でも28話では裏切られたりして……
元々医療目的という設定はありました。ただ、苦労したのは『それが何故ゲーム』になったのかっていう経緯でした。結構力業だったように自分では思ってます(恥ず!
ですから『心が揺れた』なんて言われると申し訳なくて…… 尊敬なんてそんなっ!(汗 いや、素直に喜んでおきます〜!
またお暇なときにでもおつき合い下さいませ。
鋏屋でした。 
2009/12/14(Mon)10:47:540点鋏屋
こんにちは! 羽堕です♪
 「今回は特別だ」「これは前払いってことで」って展開が頭の中で、もの凄い勢いで繰り広がっていきましたよ!! もう焦らさないで下さい! と、ちょっと本気で言ってみたりしてw でも今回も面白かったです。
 バトル要素としては大本命前の前座という所だろうから、少し物足りなさはあったのですが、それでもここまで辿りつく大変さみたいのは伝わってきました。でも鬼丸と一緒に来た時より順調に感じるのは、チームの強さもあるだろうけど仲間同士の絆が、より深いからなのかなって感じました。
 スノーがしようとしていた事は、しちゃいけない事だって分かるけど、それでもしたかった事なんだって分かる気が。結果として悲しい程に、似た者兄妹ってこと何だろうなって。そしてそれが出来なくなってしまった過程や仲間達との触れ合い、その選択が出来なくなったスノーを嬉しく思います。また一番の理由はって、考えると何だか身悶えてしまったり♪ 
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/14(Mon)17:29:300点羽堕
 ども! みずうみです!
 いい展開ですね〜♪ っていうか良い雰囲気というんでしょうか。シャドウいいなぁ、かっこいいなぁw
 相変わらずのメンバーを見れて良かったです。もう少し苦戦するかなぁ、と思いましたけど、まぁ、このメンバーならどこまでもいけるでしょう^^ 水平線の向こうまでへも行ってしまいそうな濃いメンバーですし。それにしても、もうすぐ終わりなんでしょうかなぁ。だとしたら結構寂しいです。楽しみにしている小説の一つであるので。
 スノーの告白。やはり兄妹なんだなぁ、と思いました。お兄さんの事大好きだったんですね……切ない。しかし彼女も歩いていけそうですね。見えない道でも手を引いてくれる多くの仲間が出来たので^^
 次回更新を心待ちにしております! 
2009/12/14(Mon)17:58:250点湖悠
 生きるためには働かねばいけないと気づいたプリウスですこんばんは。
 一気にシリアスな雰囲気に流れていきましたね。昔、serial experiments Lain というアニメがあって、リアルワールドとワイヤード(つまり仮想世界)の境界が崩れていくというような話がありました。こういうテーマは古典をひもとけば『ドンキホーテ』、それから荘子の『胡蝶』などなど、数多くの作品が溢れています。(『胡蝶』は小説ではないけれど、思想の一つとして) そんな中、『セラフィンゲイン』を読むと、虚構は虚構、現実は現実という強い線引きを感じます。ゲームと現実の区別がつかない「ゲーム脳」なるものが頻繁に取りざたされますが、そういうのは本当にゲームをやっている人間にはまったくぴんと来ない。むしろそういう「ゲーム脳」は元々精神的に病んだ人間の特徴であるに過ぎないんじゃないかという気もする。だから物語の雰囲気として、虚構世界と現実世界の間にある落差が僕ら世代の実感に一番近いんだろうなと思いました。
 スノーの告白はやや唐突に感じました。それからスノーの言葉が告白、つまり後悔を含むものであるのだから、主人公が「怒り」を感じてしまうのは少し不自然に思いました。不自然というか、ちょっと子供っぽいんじゃないかな、と。懺悔には優しさを示すのが普通だと思います。
 それにしても「ガノタがアレ」とは聞き捨てなりませんね。ガンダムは日本では野球に並び、サッカーを凌ぐ「社会人的酒場トーク向教養」だと認識しておりますwww
2009/12/15(Tue)04:48:511プリウス
おはようございます。先日の交流試合にて何とか三位をもぎ取って帰ってきた木沢井です。
 それはさて置くとしまして、いよいよ物語は終幕に向かうのでしょうか。ここから先は何が起きてもおかしくないなと思う反面、鋏屋様がどのような展開を見せてくれるのかが非常に楽しみです。
 スノーの告白に対するカゲチカ君の感情、私はあっても不思議はないかなと思います。ただ、あの告白から怒りへの流れが鋏屋様の意図によるものなのでしたら、もう少し納得がいくところまで掘り下げた方がよろしいのではないでしょうか。
 今まで秘めていた秘密を告白させるというのは、聊か難しいものですねぇ。よく私自身も、というか今まさに私自身が抱えている悩みの一つです。なので鋏屋様がこの先でどのように物語を展開させていくのか、よくよく参考にさせていただきます。
以上、左腕がまだ反動から立ち直っていない木沢井でした。病院にでも行くかなぁ……。
2009/12/15(Tue)10:12:080点木沢井
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 カゲチカの怒り、私は凄くわかるなあ。
 カゲチカにとっては友人であり、共に思い出を紡いできたパーティーを、スノーは最初は道具扱い、というか、「兄を消すためなら全滅も辞さない(植物人間にしても構わない)」で組織したわけですし。
 ……ここで包容力を示せるなら、もう智哉君じゃないw
 確かに告白については、もう少しやりようがあったと思います。
 カゲチカが怒っているのは、雪乃の最初の動機と、己の自死すら覚悟していたこと、それを汲み取れなかった自身の未熟、すべてがごちゃ混ぜになっていると思いますが、だからこそ、もう少し深部まで踏み込んでも良かったのじゃないか(キスまでやっちゃって良かったと思いますよん)。と。
 でも、面白かったんで良かったです。続きを楽しみにしています。
2009/12/15(Tue)12:57:170点上野文
千尋です。
 兄と妹の禁断の愛! 非常に心惹かれる展開ですが(オイ)、雪乃の場合は、それまですごく狭い世界にいて(いや、あのお屋敷は広いですけど;)、お兄さんが自分のすべてだったから、それを男女の愛だと思い込んだんじゃないかな、という気がしました。そう考えると、雪乃の目が、セラフィンゲイン内で開かれるというのは、非常に象徴的ですね。
 スノーの告白は、ちょっと詳しすぎるという気がしましたが、これでスッキリして戦いに臨めるっていう気持ちになりました。伏線の回収って難しいですよね。私なんか最近は、もう伏線なんか最初っから張らなくてもいいんじゃないか、とすら思ってきています^^;
 私的には、やっぱりセラフィンゲインは軍事目的で開発されただけあって、相当リアルに近づいているんじゃないかと思います。少なくとも、脳にそれを信じ込ませるくらいのインパクトはあるな、と。自分が運動苦手だから余計に分かるんですけど、身体的能力って、筋力とかそれ以前に、『どうやって自分の思い通りに体を動かせるか』っていうことが大前提なんですよ。すると、リアルでそれが得意な人って、セラフィンゲイン内でも、うまく操作できるんじゃないかなあ。ララの記述を読んで、そんなことを考えました。
 続きも楽しみにしています!
2009/12/15(Tue)13:43:350点千尋
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
ちょっと遅れてしまって申し訳ありませんorzうんと、妹からの告白。兄が聞いたら、どんなことになってたんだろうとちょっと興味があったりしますがそれももう過去の話。今は未来に向かって突き進もうぜ! な感じですね。シャドウがやたらめったらかっこよくてびっくりしちゃいました。スノーの衝撃の告白に、怒りをしめしながらも最後には多少キザったらしく返すシャドウさん。素敵過ぎる!! 私こういう感じの方大好きです。すこしワザとらしいほうが良いんです。その方が萌えるんです(おい)そしてララの食べてる沢庵弁当が大変うまそうな件について。描写も何もないんですけれど、ララが食べてるというそれだけでめちゃおいしそうに感じてしまったのは何故でしょうか。
ともあれ、着実に最終回へと向かっているらしいので、次回も楽しみです。
あぁ、セラフィンゲインみたいなゲームが出来ないかな。軍事目的でも別に良い。とにかくリアルから離れて遊んでみたいと心のそこから思っている猫でした。
2009/12/17(Thu)21:57:230点水芭蕉猫
>羽墜殿
うん、その考えは私も何度も脳内を駆けめぐりましたw ええ、仰るとおりもう引っ張るなってかんじですよね。スイマセン……
スノーの告白は正直どうだったんだろう?って思ってました。羽墜殿の考えているとおり、1番の理由はアレですがな。ええもう王道ですよw(開き直り!)
次回も楽しんでいただけるよう頑張ります
鋏屋でした。

>湖悠殿
感想どうもです。雪乃の告白は湖悠殿にも受け入れて貰えた様で、正直ほっとしてますw 見えない道でも手を引いてくれる仲間って言葉にじーん…… なんかいいっすねそれwうわ〜パクリてぇ!(オイ!) 理由はどうあれ、鬼丸と同じ道を歩もうとする雪乃ってのはずっと考えていた展開なんですよw でも土壇場で出来ないってのは、もちろん智哉の存在なんですよね。ハッキリ書かなくても伝えることが出来たなら、嬉しいです。
鋏屋でした。

>プリウス殿
感想&ポイントまで!? 感謝感激です。
うん、プリウス殿のような意見も絶対あると思ってました。なきゃおかしいものw
この辺は今後の課題だなぁ…… 迷ったんですよね実際。でも「もし私だったら?」って考えて、あえてこうしました。ゲームで人生終わるかもって考えたら、私だったら勘弁ですものw つーかゲームじゃないですよね。子供っぽいってのは確かにそうかもです。今時の大学生さんってどういう価値観なんだろ?
ガノタがアレってのは…… いや、ガノタは普通にただのヲタっすよ。今のアメリカ軍とジオン軍が戦った場合とか本気で研究したり、ミノフスキー粒子が現実に発見されたときのために、それ様の論文とかガチで作るような人間がまともとは言えませんってww
鋏屋でした。

>木沢井殿
感コメどうもっす〜♪
いや、いつも思うのですが、ホント何をなさっているのですか? 鋏屋は狂おしく心配でないりませんw
スノーの告白というか苦悩の部分は、もっと深くて良いでしたか? 少しくどいかな?って自分では思っていたのですが…… 秘密をため込むって難しいですよね。キャラを書く私でさえ「もう言っちゃうか?」ってな事を前々話ぐらいからウズウズしていたんですもんw リアルだったらすぐ言っちゃうでしょうね。口軽いですから、私(汗
うわっ! 参考なんてやめて下さい! 緊張するじゃないですか〜っ! それなりに頑張りますのでなま暖かい目で見守って下さいww
鋏屋でした。

>文殿
感想どうもです〜
智哉の怒りは大丈夫だったですか。良かった。悩んだんですが、こうなりました。自分ならきっと怒るだろうなぁって考えて……
ああ、やっぱり告白はちょっと失敗だったですか? う〜んまだまだだなぁ……
智哉の怒りってまさに文殿の仰るとおりなんです。いくら兄のためとはいえ、仲間をも巻き添えにし、しかも自分ですら死ぬつもりだったスノーに、シャドウである智哉は怒りを憶えたんですよ。リアルじゃヘタレなのに、この世界では、鬼丸が喩え方便で使っていた言葉だったとしても、それが彼にはドンピシャだったんですよ。
いやいや、ここでスノーとちゅーさせるわけにはいきませんw お楽しみは最後までお預けってのが世の流れですからww
鋏屋でした。

>千尋殿
感想どうもです。
いやはや色々なご意見があるなぁって勉強になります。
伏線の回収ってホント大変です(汗 普通に張ったの忘れてたりしますもん(オイっ!)
いやいや、千尋殿のお話は回収上手いじゃないですか、れいの話でのお父さんのお話は「おおっ!」って思いましたよ私w 
運動云々の話は確かにそうですね。その辺のことも実は考えていたりしますw まあ、それの出方は伏せますが……
もう少しですが、頑張りますので、またおつき合い下さいませ
鋏屋でした。

>猫殿
毎度の感コメ感謝です。
兄と妹の話は、軽く触れる程度に…… 濃い〜のは猫殿に期待します(オイ!)あくまで登竜門レベルでですが……ww
沢庵弁当うまそうっすか!? たくあんッスよ? そうか…… いや実際はたくあんだけじゃないでしょうがねww
セラフィンゲインは実際にあったらNGでしょうね。普通にヤバイから、きっとあっても非合法じゃないでしょうかねw でもそういうコメントってかなり嬉しいですね♪ だって読んでる方がそう思ってくれるほど、『読ませているんだぁ』って錯覚できるからw
鋏屋でした。
2009/12/18(Fri)21:51:550点鋏屋
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