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『待ち合わせ』 作者:TAKE(17) / 恋愛小説 未分類
全角4908文字
容量9816 bytes
原稿用紙約15.5枚
初めまして。本気の書き手を求めているというコンセプトに惹かれて来ました。ペンネームの後に付いている数字は年齢なので、毎年カウントされます。これからよろしくお願いします。
 その子は、僕の幼馴染で。
 僕の恋人で。

 小学校の六年間は、クラスが離れる事も無く、三軒挟んで並んでいるお互いの家まで、いつも一緒に帰っていた。
 それが特別な感情だと気付いたのは、同じ公立中学校に上がってからだった。もしかすると、向こうは僕よりもっと早く、その感情を持っていたのかも知れない。大人に近付いてゆくのは、女の子の方がずっと早いから。
 
 好きなんだ。
 ありがとう、私も。

 僕達の契約は、それだけだった。
 二年間、繁華街に遊びに行ったり、勉強を教え合ったり。時に輝き、時に淡いパステルカラーにくるまれて、僕達は毎日を過ごしていた。

 その日。
 彼女の口から発せられた言葉に、僕は間の抜けた顔をして、何も考えられなくなった。
 ――引っ越さないといけないんだって。
 とても気まずい声だった。
「どこに?」
「……山形」
 中学三年生の、夏休みだった。お父さんが病気で亡くなって、母方の実家に帰るという。葬儀には僕も出ていた。あの日は彼女の涙が、僕の胸を濡らした。

 二学期が始まると、もう君は居なかった。8月27日から、家のポストへ届く手紙を、僕はずっと机の引き出しに仕舞っていた。いつも一緒に居たせいか、自分は話す友達があまり居ない事に気付いた。学校では、言葉を発する事が極端に少なくなった。
 彼女は今時珍しくも、携帯電話を持っていなくて。
 僕達を繋ぐものは、右肩上がりの粗雑な文字と、几帳面に大きさの揃った、可愛らしい丸文字のやりとり。それと週にニ、三度、僕の携帯電話から彼女の家に、彼女の家から僕の携帯電話に掛ける電話だった。
 時を経るごとに、会いたい気持ちは深まるばかりだった。手紙で伝えられる情報は、いつだって三日遅れで、電話だと、手を繋いで歩きながら話す時の様な、この上無い幸せに浸ることは出来ない。

 短い秋を経て、すぐに冬を向かえた。僕達は高校受験を前に、勉強の毎日だったけれど、やり取りはずっと続けていた。分からない問題を教え合ったり、彼女の同級生の話を聞いたり。

 僕達は、約束をした。
 12月25日、彼女の家の最寄り駅で会う。
 その日はクリスマス以外に、もう一つの大切な意味があるから。


――・――・――・――・――・――

12月24日、約束の前日。この日までに、僕は待ち合わせへ向かう構想を練っていた。地図やパソコンで、彼女の住む東置賜郡川西町へのアクセスを調べ、要する時間に大体の予想を立てた。
 親には内緒だった。次の日はまた学校があり、反対される事は目に見えていたから。
 そして翌日。
 その日の授業は全く頭に入らず、ただただ時計を見つめ、時が過ぎるのを待っていた。
 昼休みに保健室へ向かうと、貧血を起こしたという理由を付けた上で証明を貰い、午後の授業を欠席し、上野駅のトイレで通学鞄と別に持っていたトートバッグに入れていた私服に着替え、新幹線「つばめ」に。
 山形県まで一本で行き、そこからは私鉄に乗り換える。予想される所要時間は、約五時間。僕にとっては人生で一番長い一人旅になる。
 途中、晩ご飯が食べられるか分からなかったので、福島県で駅弁を買い、腹に詰め込んだ。何度か、頭に不安がよぎっていた。どこかでミスをしないだろうか、日付が変わる前には帰ることが出来るだろうか。それよりも、彼女は待っていてくれるだろうか。クリスマスプレゼントの赤い袋と、もう一つのプレゼントを入れた小箱を、膝に抱えた鞄の中で握り、僕は突如襲ってきた睡魔に身を任せた。

「これ、落としましたよ」
 その声に目を覚ますと、隣の席に座った二十歳くらいの女の人が、生徒手帳を差し出していた。
「すみません」
 受け取って鞄に入れ直した。
「学生さん?」
「はい」
「それ、クリスマスプレゼントよね。女の子に?」
 小箱と袋が見えたらしい。
「そうです、ね。夏に引越してしまって、今日久しぶりに会いに」
「遠距離恋愛なんだ」
 興味深そうに、その人は言った。
「ええ。幼馴染でもあるんだけど」
「じゃあ、辛いね。ずっと一緒だったんでしょ?」
「まあ、……辛いですね」
 答えて、僕は頷いた。
「彼女、どこに住んでるの?」
「山形です。結構田舎の方で」
「今日は、大分雪が降るみたいよ。ホワイトクリスマスね」
 少し、嬉しかった。
「ごめんなさい、寝てたのに。迷惑だった?」
「いえ、そんな事無いです。退屈だっただけから」
 あと二駅で、山形。それまで僕は、その人と話していた。
「そっちは、何処に行くんですか?」
「私? 私も山形に。帰省するのよ」
「それじゃあ、一緒なんですか」僕はペットボトルのお茶を出して、一口含んだ。
「新幹線はね。私は市内なの。君は田舎の方なんだったら、ローカル線に乗り継いだりとか、あるでしょう?」
「フラワー長井線に」
「待ち合わせの時間、決めてるの?」
「一応、8時に」
「頑張ってね。気を付けて」
 はい。

 その人とのお喋りもあってか、新幹線は思いの外長く感じる事も無く、山形に到着した。
「それじゃあ、気を付けてね」
「ありがとうございます」
「そうだ、これ渡しとくわね。何かの縁だろうし」
 その人は鞄から、名刺を取り出した。
「こっちで何か困ったら、連絡するといいから」
「どうも」
 それから僕達は、それぞれ別の出口へ向かった。


――・――・――・――・――・――

 平日の中途半端な時間という事もあったのか、赤湯駅から乗ったフラワー長井線の電車はガラガラだった。一両編成の車両の長椅子に座っているのは、僕と一人の老婆、缶ビールを持った大人しそうな中年の男、それに数人の高校生だけだった。
 車内アナウンスが流れる。
 -――只今雪の為ダイヤが乱れ、二十分程遅れての出発となります。お急ぎのところ申し訳ございません。
 地元の人は慣れているのか、誰一人として苛立った様子も無く、老婆は蜜柑の皮を剥き、男はビールを飲み、高校生は控えめな声で談笑している。
 僕は時計を見た。
 4時42分。
 大丈夫、まだ余裕はある。二十分遅れたとしても、到着は8時丁度頃になるだろう。

 しかし、想像以上に田舎だった。コンスタントに車両の行き来するJR新幹線から一変、一時間に一本という真っ白な時刻表。辺りにはビルも無ければ、交差点も見当たらず、看板も錆びきった無人駅。時代が止まったような場所だった。
 彼女は、何度も来ていたのだろう。親とこうして、のろのろと走る列車に揺られて。おじいちゃんとおばあちゃん、元気にしてるかな、なんて言いながら。そして、そんな僕の知らない世界で、今彼女は生きている。
 何だか、不思議な気持ちになった。

 赤湯から南陽市役所に到着し、僕は時計を見た。
 6時17分。
雪は、時間を経るごとに強さを増し、視界が霞む程になった。列車が止まっている間も、まるで全速力を出しているかのような風の音が、窓外を通り過ぎてゆく。
――雪の為、只今50分程遅れての運行となります。ご迷惑をお掛けします。
徐々に焦りを感じていた。もしかすると、ここから更に遅れるかも知れない。次の宮内に着くのは、何時になってしまうのだろうか。
席を立ち、僕は車掌に尋ねた。
「西大塚まで行くんです。ここから、あとどの位掛かりそうですか?」
 車掌は苦い顔をして、一頻り唸った。
「雪の具合にもよるのでねえ。毎年厄介なもので、こればっかりはどうにも分かりません」
「そう、ですか」
「お急ぎですか」
「まあ、ちょっと」
「そうですか。……もう少し後の駅で降りられると、まだタクシーが走っているかも知れません。道路は熱線が通っているところもあるので、そこは車が走れるんですよ」
「走れない所も、あるんですか?」
「予算が追い付かない町なんかもあるのでねえ。雪かきするのは大体朝だし、今の時間より強まってくると、ちょっと苦しいかも知れないんですが」
 そう言い、彼は再び苦い顔をした。


――・――・――・――・――・――

 7時42分、――宮内駅。
 このペースだと、到着する頃には10時を過ぎてしまう。
 あと三駅。僕は席を立ち、列車を降りた。実際には、一駅10分ほどの距離。歩いたほうが早いかも知れない。
 今までに経験した事が無い程の降雪量だった。前のボタンを全て留めたコートは、横殴りに打ち付ける雪で、右半分があっという間に真っ白になった。
 駅を出て、なるべく線路沿いに歩いて行こうとした。1m.以上雪の積もった道で何度も足を取られ、転びそうになる。この辺りは、道路に積雪対策が施されていなかった。一度最上川に掛かる橋を渡るのに、線路を歩いた。振り返ってみれば、そこまでの道には本当に何も無くて、先を見ても同じ景色で。時空の隙間に放り出されたかのような感覚を携えながら、それでも僕は歩いていた。

 暫く歩くと、降雪の勢いは大分弱まってきた。くるぶしには痛みを感じ、熱を持っていた。カバンは異様に重たく、なかなか体を前に進める事が出来ない。汗ばんだ体とは対称に、剥き出しの顔と手は、針金を入れられたようにかじかんでいた。
 その時、後ろからエンジン音が聞こえてきた。バイクや乗用車よりも、もっと大きい。振り返ってみると、大きな黄色い車体が、霞んだ視界に映った。

 除雪車の通った後には、黒いコンクリートの道が覗いていた。
 ――助かった。
 そう思い、後ろに付いて歩いていった。足が、小さく震えているのを感じた。

 梨郷の手前で、除雪車とは別れ道で離れた。そこから先の道路には雪が無く、さっき程の苦労は無かった。ポケットに両手を突っ込み、背中を丸め、雪の代わりに強まった冷たい向かい風の中を、歩いていった。
 時計を見た。
 9時……15分。
 もう、待っているはずが無い。いや、かえっていて欲しい。つらい想いを、しないで欲しい。心ではそう思いながらも、小さな可能性を求めて、体は動いていた。

 それから更に1時間近く。数台の乗用車が通る事はあったけれど、バスやタクシーは見当たらなかった。孤独という言葉を現実に投影しているような道を、右手に線路を捉えながら、僕は進んでいた。


――・――・――・――・――・――

 やっと……本当にやっとのことで。
「西大塚駅」の看板が、視界に入った。この路線で唯一昔のままの駅舎を保つ、無人駅。感覚が薄れた体を、待合室の中へ滑り込ませる。
 扉を閉めてから中を見渡すと、中にはかすかに音を立てる大きな石油ストーブがあり、次の列車を待つ一人の老いた男性が、木製のベンチに座っていた。
 ――それだけだった。
 10時6分。列車に乗っていても、大して時間は変わらなかったのかも知れない。
彼女は、そこに居なかった。

 僕は、何をしているんだ?

 力が抜けた。膝から崩れて、ベンチに体を投げ出した。
 待ち合わせ場所は、冷たく、暗く、孤独な所だった。僕にとっても、待っていた彼女にとっても。

 座っていた老人が、僕の隣へ移動してきた。
「飲みなさい」そう言って、大きめの魔法瓶から注いだ赤だしを僕に手渡した。
「私は荒砂に住んでいるんだけどね、こっちに小学校来の仲が良い居酒屋の店主が居て、時々来ると、こんなのをポットやらタッパーに入れて渡してくれるんだよ」
 一口啜ると、体が喉から温まってゆくのを感じた。
 老人は、僕の隣に座った。
「本当にさっきまで、君の今居る所に女の子が座っていた。誰を待っているのかと訊くと、東京の友達だと答えていたがね。顔はほんのり赤くなっていた」
 はっはっはと、彼は笑った。
「大分疲れたろうに、少し休んでなさい。何だったら、私の友人に電話しといてあげよう。気の良い奴でね、寝る所ぐらいは用意してくれるよ」
「いえ、……大丈夫です」
「そうかい? なら、暖かくしておきなさい。明日は、快晴らしいよ。……さて、そろそろ来るかな。ああ、コップね」
僕から空になった容器を受け取ると立ち上がり、ストーブの火を少し強めると、彼は扉を開けて出て行った。
 ストーブの上にはタライが置かれていて、そこでずっと湯が
2008/08/10(Sun)08:29:39 公開 / TAKE(17)
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■作者からのメッセージ
冬の香りというのを、感じて頂ければ幸いです。
 一部に実体験も入っているのですが、場所は全然違います。偶然なのですが、目的地の西大塚は映画「スウィングガールズ」の舞台だそうです。とにかく寒い所で定番の北海道や青森を避け、田舎というキーワードで探しました。そんな地方に流れる独特の雰囲気、伝わりましたでしょうか。
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