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『翼のある彼女』 作者:アンバラ / ショート*2 未分類
全角3191文字
容量6382 bytes
原稿用紙約8.35枚

晴れやかな昼休み、僕が彼女と出会ったのは偶然だった。
昼休みに入り、昼食を食べ終えた僕は心地よい風を求めて屋上へと向かった。階段を上り屋上へと続く扉を開けると、僕以外にも数人の生徒が思い思いの姿で涼んでいた。僕は他の生徒達を避けるように、扉の横に設置されている梯子を上った。屋上から突き出るようなコンクリート製の箱の頂上に近づくにつれて給水タンクから低い機械音が僕の耳に届いてくる。広さとしては、人が三人ほど横になっても余るほどあるのだが、給水タンクからたえず聞こえてくる機械音とそこから伸びるパイプが遮るように横断しているため普段から利用するものはほとんどいなかった。梯子を上り終える頃、僕は梯子に集中していた頭を上げると、僕の視界に彼女の背中が映った。僕はその背中を見た瞬間、呼吸すら忘れ、彼女の背中に見入ってしまった。信じられないことだが、彼女の背中には美しい翼があった。透き通るように純白で、触れただけで折れてしまいそうな繊細さと共に、両手を広げても足りないほどの大きな翼からは力強さも感じた。彼女が呼吸するのと一緒に、背中の翼もゆっくりと揺らめき、風が翼を撫でるたびに羽の一枚一枚がサワサワと草原のような心地よい音色を響かせている。それは、僕の見た幻覚なのかもしれない。だとしても、僕の目は彼女の翼に釘付けになってしまいそらすことはできなくなっていた。
僕がその場から動けないでいると、さすがに彼女も僕に気付いたのかゆっくりこちらに振り向くとあきらかな驚きの表情を見せてその場に固まってしまった。そこで僕は、今の自分が傍からすればとても怪しい体勢であることに気付いた。梯子を中途半端に上った状態で、食い入るように彼女を背後から見つめていてはただの不審者でしかない。彼女が驚くのも無理のないことだ。
僕は、誤解をまねく前に彼女に謝りその場を立ち去ろうとしたが、意外なことに彼女は僕にやさしく微笑むと一緒に話しがしたいと言ってくれた。思いがけない事態に僕の鼓動は一気に加速する。緊張のあまりぎこちない動きになりながらも、僕は彼女と人一人分ほどの距離を開けて隣に座った。そんな僕の行動を見ていた彼女はクスクスと可愛らしく笑うと、軽く腰を浮かして距離を人半人分ほどに縮めてきた。彼女の大胆な行動に僕の思考は真っ白になり、体は石像のように固まってしまった。時折風に吹かれて舞う彼女の長い髪からは暖かな日の香りがした。そんな僕を見て、彼女は自分の顔に髪がかからないように手で払いながらもう一度クスクスと笑った。それから僕たちは昼休みが終わるまで時間を忘れて話続けた。僕はあまりの緊張に何を話したかよく覚えていなかったが、彼女の美しい翼とやさしい微笑みだけは僕の脳裏に鮮明に残った。
その日から、昼休みには彼女と屋上で話すのが僕の日課となった。普段は、廊下ですれ違っても言葉をかわすことはなかったが、昼休みに入ると僕は時間を惜しむように足早に屋上へと向かい、彼女との短い会話の時間を楽しんだ。僕の突然の変化に同じクラスの友人からひやかされ恥ずかしい思いもしたがその反面うれしさもあった。僕たちにとって昼休みの屋上は特別な場所で、特別な時間だった。出会って間もない頃の僕は、彼女の話を聞くだけで緊張してしまい会話をすることなどできなかった。けれど、日が進むにつれ僕の緊張は少しずつ和らいでいき、それと同時に彼女との距離も縮まっていった。昼休みだけだった僕と彼女の特別な時間は、気がつけば放課後も屋上で日が暮れるまで話すようになっていた。その頃からだろうか、僕が彼女の異変に気付いたのは、いや、本当は出会った頃から僕は気付いていた。ただ、気付かないふりをしていた。彼女のその部分に僕が触れてしまったら、この特別な時間が終わってしまうような気がしていたから。それがいいわけであることは僕もわかっている。
そんなある日、彼女が来るのを屋上で座ってまっていると、視界に映った夕陽が何故だか無性に腹立たしく思えた。それは、夕陽が僕と彼女の時間を奪っていくように感じられたからかもしれない。しばらくして、背後に人の気配を僕は感じた。それが彼女であることは確認するまでもなかった。いつものように僕と彼女は寄り添うように隣り合って座る、はずだった。けれど、今日はいつもとは違い彼女は、僕と距離を開けて座った。僕は少し驚いたが、それでもいつも通り彼女に話しかけると、そこには全身水浸しの彼女がいた。その姿は、彼女がいじめにあっていることを無言で証明していた。そんな姿をまの当たりにしても僕はいつも通り彼女に話をかけた。その時の僕はいつも通り接することが、僕にできる唯一のことだと思い込んでいた。この場で思い浮かぶ言葉は慰めじゃない、哀れみだ。それに、僕一人の力で彼女を助けられるなら世の中からいじめなんてものはなくなっているだろう。口にだすことこそなかったが、それは彼女からの無言の訴えだったのかもしれない。それなのに僕は、見てみぬふりをして会話を続けた。誤魔化すように。逃げるように。そんな僕に彼女はやさしく微笑んでくれた。
いつの間にか、彼女の顔には絆創膏が目立つようになり、背中の翼も灰色に染まり始めていた。僕はそれに気付いていながらも気付かないふりをした。関われば僕もいじめられるかもしれないから。そう考えたとき、僕は今まで自分のことしか考えていなかったことに気付き無性に腹が立った。自然と手には力が入る、心では彼女の力になろうと思っているのに、口から出るのは関係のない言葉ばかりだった。いつもと様子の違う僕を彼女は心配してくれるが、僕はそれを笑って誤魔化した。結局なにも行動に出すことが出来ないまま、日の暮れた屋上を彼女と共に降りていった。
その次の日のことだった。僕の通う学校で屋上から飛び降りて入院した生徒がでたのは。それが彼女だとわかるのにさほどの時間は必要としなかった。僕はいてもたってもいられず、先生から彼女の入院している病院を教えてもらうと、学校を抜け出し急いで病院へと向かった。病院へつくなり、僕は受付に詰め寄り彼女の病室と容態を確認した。看護婦さんの話では、奇跡的に軽症で彼女はすでに意識を取り戻し面会の出来る状態だという。僕の心は途端に軽くなり、早く彼女に会いたい気持ちに満たされた。看護婦さんに教えてもらった病室の前に辿りついた僕は、扉に手をかけた状態で動きを止めた。僕は彼女に会って何を話せばいいんだろう。彼女がいじめられているのを知っていながらなにもしなかった僕が、今更、彼女にあっていつも通りの会話などできるわけがない。僕は、直接ではないものの、彼女をいじめていた誰かと同じことをしていることに気付き、彼女に会うことなく病院から去っていった。誰よりも近くに感じられた彼女が、今では誰よりも遠い存在に感じられた。
それから数日が過ぎ、彼女は病院から退院したらしく、たまに廊下ですれ違うことはあったが、二度と屋上で会うことはなかった。自然と屋上への足も遠退き、教室での時間が増えていった。それでも、時折、思い出すかのように僕は屋上に向かい一人で空を眺めた。晴天の空を眺めていると遥か高くを飛ぶ、鳥の姿が目に入った。もしかしたら、彼女は飛ぼうとしたのかもしれない。なんの根拠もない考えが僕の頭の中をよぎった。僕にも彼女のような翼があったなら一緒に飛ぶことだって出来たかもしれないのに。気がつけば、僕の心には後悔の気持ちだけが強く残っていた。けれど、後悔したときには何もかもが手遅れだった。彼女はすでに転校した後で、僕がそれを知ったのはそれよりももっと後のことだった。
彼女が転校した後も、僕はたまに屋上に上り空を眺めている。彼女がどこに羽ばたこうとも、この空は繋がっているから……

2008/04/06(Sun)17:35:10 公開 / アンバラ
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■作者からのメッセージ
気が向けば彼女の視点で書いて見たいと思います。
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