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『珠手箱』 作者:鞠喪 / ショート*2 ミステリ
全角3266.5文字
容量6533 bytes
原稿用紙約9.7枚
あけてびっくり、たまてばこ。綺麗なものの裏側には、見られたくない傷と汚れが必ず潜んでいるものなのです。


 ええ、その箱で御座います。確かにその箱で御座います。嗚呼、ぞっとする。嗚呼、気味が悪い。間違いありませぬ。今、貴方が手に為さっている、それが珠手箱で御座います。
 一体何処でそれを……いいえ、止めておきましょう。それは魔性の箱。どういう経緯で貴方に渡ったのかは存じませぬが、珠手箱はきっと自らの意思で、貴方の元を選んだのでしょう。その様子では……まだ、蓋を開けてはいないので御座いますね。
 話を? いいえいいえ、恐れながら世の理として『知らぬが仏』という言葉がありましょう。なりませぬ、この箱の事はどうか御忘れ下さいまし。
 浮かばれぬ御顔をしておりますな。それ程にこの箱の話を聞きたいと? とんでも御座いません、呪われてしまいます。ええ、それはもう酷い呪いに御座います。一生纏わり付いて離れぬ呪いに御座いますよ。
 ……そうですか、ええ、判ります。謝る必要等御座いませんよ、好奇心とは誰しもの心を啄むもの。若い男の方は特にそれが御強い。私に貴方を攻める事は出来ません。
 そうですね……。承知致しました、お話しましょう。
 ええ、良いのです。良いのです。どうせ後先長くは無いこの命、こんな事でも殿方の為になるのでしたら……ええ。すみませんね。良いのです、良いのですよ。


 私がとある宮殿で、女中をしておりました時の話で御座います。そう、女中で御座います。質素な下女に御座います。御屋敷の中で旦那様方に使える、下働きの女の事にて御座います。
 ふふ……自分で言うのもなんではありますが、私は結構、上層部の方や旦那様に心を開かれていたのですよ。頼りにされていたのですよ。
 私の女中仲間に、それはそれは色の白い、美しい娘がおりました。長い黒髪は絹の様に艶やかで、瞳は鏡の様に澄んでいて、肌はそれはもうみずみずしく白い。私は昔からそんなに抜きん出て綺麗な女ではありませんでしたから、美しい彼女にいつも憧れ、見惚れていましたっけ。何故彼女の様な美女が私等と同じ様に女中をしているのか――ええ、不思議で仕方ありませんでした。
 彼女は名を、豊珠(とよたま)といいました。
 やはりその美しさを買われていたのでしょう、旦那様は豊珠をよくよく部屋に御呼びになられました。豊珠は持って生まれた妖しい微笑みで、旦那様を魅了していました。旦那様は奥様にお忍びで……とはいえど奥様にも御嬢様方にもとっくに知られていた様なのですが、旦那様はそれでも、毎晩毎晩、豊珠を自室に呼び付けられる日々を過ごしておいででした。
 そうで御座いますな、あの時の旦那様は、本当に御幸せそうで……。

 ある日の事で御座います。
 私が洗濯から帰って来ると、豊珠は井戸の近くの木陰に腰掛け、何やら雅な漆の箱を、自分の白い袖で綺麗に拭いていました。
 雅な箱。そう、それで御座います。珠手箱で御座います。
 しがない貧乏人の家に生まれ、女中としての生活しか知らなかった私は、その箱にたまらなく心を奪われました。漆の輝き、紗を思わせる金粉の散らばり様、箱を縛るからくれないの細い紐……そのひとつひとつを眺める度に、胸は鼓動をはやめ、身体は熱く煮えたぎりました。
 それはなあに、と私は豊珠に尋ねました。すると彼女はにっこり笑って、

『私の実家の家宝ですのよ』

 と言うのです。
 ああ、ではこの屋敷で奉公する事が決まった際に御両親が持たせたのだろう、と私は思いました。
 それから豊珠は、

『旦那様に差し上げるの』

 と嬉しそうに笑いました。無垢な少女の微笑みでした。愛らしい仕種でした。成る程、旦那様の御気に入る訳です。
 豊珠は、美しい娘でした。
 そしてそれと同等に、珠手箱も美しかったのです。

 次の日の朝の事。
 私は女中ですので、日の出と同時に起きるのが習慣づいておりました。ですから誰よりも早く、豊珠に接触する事が可能でした。
 旦那様に気に入られているとはいえど、彼女もまた女中の身。空が薄暗いうちに起きるのは、当たり前の事に御座いましたからね。
 豊珠はその日も、旦那様の御部屋から出て参りました。その細い手に、綺麗な漆の箱を抱いて。
 私達は互いに、お早う御座います、と軽く挨拶を交わしました。その瞬間、もとより美しい豊珠の素肌が、いつにも増して朝露の様に磨きがかかっている様に思えました。豊珠の長い睫毛が、玻璃の様に澄んだ瞳が、その時は何故かぞっとして見えました。私の背筋を何かが這い上がったのは……ええ、錯覚等では御座いません。
 旦那様はその日から、行方知れずとなりました。

 私はその瞬間から堪らなくなりました。
 ええ、旦那様が消えた事を嬉しく思いました。私は、あの箱に魅せられていたので御座います。
 豊珠が旦那様に差し上げるつもりだった箱。けれども旦那様はもう居ない……なれば箱は誰のものでもなくなる、持ち手も居なくなる、嗚呼豊珠に譲ってもらおうと、私は胸を弾ませました。
 けれどもそう都合良くはいきませんでした。豊珠に話すと、彼女はいとも可笑しそうに言ったのです。

『残念ですけれどね、貴女はこの箱の持ち手には相応しくないのよ』

 私は大層悲しみ、そして悔しく思いました。まるで彼女の言い草は、私を侮辱している様にしか聞き取れなかったのです。
 悔しさは怒りに、そして怒りは私の更なる欲求を駆り立てました。
 私は豊珠が隣街まで御遣いに行くのを見計らって彼女の部屋に忍び込み、ちいさな箪笥の中から箱を見つけると、腹の中に隠して一目散に自室へ走りました。
 遂に手に入れた、と私は今までにない至福の喜びを覚えました。旦那様に褒められた時よりも、奥様にお茶に誘われた時よりも、その喜びの程は圧倒的に勝っていました。
 それからはっとしました。中になにか入っていたら、と。豊珠の私物が中に入っていたら、それを返しにまた彼女の部屋へ忍び込まねばなりません。あくまで私が欲しいのは、箱だけなのですから。
 私は箱を手に入れた喜びから来る心臓の鼓動に聞惚れながら、からくれないの紐を解きました。それから何の躊躇いも無くその蓋を開くと、中を覗き込みました。


 嗚呼、勘弁して下さいまし。悍ましい限りで御座います。気味が悪い、思い出したくも無い、これ以上はもう……殿方、今日はどうぞお引取下さいませ。
 はい、はい。私、で御座いますか? 私はその後、屋敷を飛び出し女中を止めたので御座います。辿り着いたこの地で、猟師の夫と二人、過ごしております。今はもう幸せに御座います。幸せに御座いますよ。
 は、豊珠で御座いますか? 嗚呼、知りません、知りませんそんな……ええ、知りません。唯、あの女は魔性の者だという事以外、私には判らないので御座います。本当に、本当に判らないのです。
 帰って下さいまし、お早く。嗚呼どうか、その箱は海に沈めて下さい。もう二度と私の前には……ええ、見せないで下さい、見せないで下さい。
 さあ、さあ早く此処から出ていって……ええ、頼みます、頼みます。どうか、どうかそれを海に捨てて下さいませ、約束で御座いますよ。約束で御座いますからね。





 女に騙された男の汚い部分が、珠手箱には詰め込まれているという。
 それを見た者は、そのあまりの悍ましさ故、眼を見開き泣き叫び髪を掻き毟る、という噂だ。それから皮膚に皺が寄り、髪も真っ白に色褪せるというのだ。
 嘘か真か、確かめる術等無い。或は私自身がこの箱を開けて証明すれば良いのだろうが、生憎私はそこまで勇敢ではないのだ。
 私は長い事、珠手箱を海に流すのを戸惑っていたが、とある漁夫の言葉で全てを察し、漸く先程、決心が付いた。これからこの悍ましく雅な箱を海へ還すところである。

『ああ、山の家の……あそこの猟師の女房かい? 聞くところじゃ自分はまだ十八の娘だと言い張っているらしいね。
 だがあんたも見たんだろ? ああ、やっぱりな。こんな箱を怖がったり自分を娘だと思い込んだり……あの婆さん、ちょいと気が触れているのさ』


2008/03/23(Sun)19:33:57 公開 / 鞠喪
■この作品の著作権は鞠喪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なにやら後味の悪い品が出来上がりました。こんにちは、鞠喪と申します。
浦島太郎で有名な玉手箱。これは女性の化粧道具入れだという説もあるそうですね。日本むかしばなしは奥深いです。
きたならしく支離滅裂な文ですが、どなたかの暇潰しにでもなれば幸いです。
お目汚し失礼致しました...

余談ですが、『とよたま』という名。これは古事記に登場する竜宮城のお姫様の名前から読み方そのままとらせていただきました。海関連、ということで...
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