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『アベマ奇譚』 作者:模造の冠を被ったお犬さま / サスペンス 童話
全角6091.5文字
容量12183 bytes
原稿用紙約18.55枚
「お日さま、出ないかな」 夜に魅入られた世界。突如訪れた黒夜と呼ばれる自然現象の中、人工照明の下で慎ましく暮らす人間は常に恐怖と隣り合わせに生きている。 ──今回の舞台は明けない夜。clown-crownのオーソドックス。驚愕にして落胆の結末が読み手を襲う!
 アベマ奇譚







 無色騒然







 皆既日食は四年前に始まった。
 衝撃によって事件の時刻を精確に指し示す時計のように、星の運行はぴったりと停止したたまま現実としての時間が流れている。ある学者は「一週間以内にすべてが正常に戻る」と予見したが、その一週間はとうに過ぎていた。別の学者は「数世紀はこのまま継続する」と述べ、また別の学者は「永久的にこのまま継続する」と発表した。
 夜であることに対応することはできた。「夜が訪れない白夜の反対なのだから、明けない夜はさしずめ黒夜だ」と、黒夜というネーミングが人口に膾炙され、すぐに一般的な呼称になった。文字通り、一夜にして。
 黒夜である以上どんなに長くても一夜ではあるが、この呼称の浸透具合は非常に──私の実感を加味した形容動詞に直すのであれば──異常にすばやかった。ネーミングに含まれるジョークを受け入れている余裕が、人々の心の中にはあった。黒夜になる以前から夜には慣れ親しんでいる。夜を照らす灯りも用意できている。
 秋の夜長を楽しむような雰囲気があった。
 稲光によって建造物が焼き尽くされるよりも、地震で足元が揺り動かされるよりも、夜が明けないことが何よりも勝る災害だと人々が気付くのは、黒夜の呼称が広まるよりもずっとゆったりとしていた。
 復旧の目処が立たないことが、より強く人を絶望に駆り立てている。絶望は無色、捉えることができない。雷に打たれた建物は修繕することができる。地震で崩れた土地は均すことができる。しかし、夜が覆うのは地域でも国にでもない。手に余る、人の手を離れている惑星単位。星に係る事象に対抗する術を人類はもっていない。
 人が作り上げた灯りは一時しのぎに過ぎず、夜は一過性ではなくなっていた。
 灯りが明かりの代用品として発明され灯りは明かりと交換可能だと驕っていた人々を驚愕に陥れたのは、手にしている灯りそのものだった。太陽光の色彩も温度も、人工の照明は有していない。人間の作ったものには人間味がないという矛盾を、ここにきて壮大に──皮肉にも私はそう感じ、表現する──思い知る。改めて日光を崇め、ランプに嘆いた。
「あ、あと……」
 思索に填まり込んでいた私は小さな呼びかけにようやく気付いた。
「なあに?」
「おばあちゃんが読んでくれたの。おばあちゃんもママに読んでもらったんだって。とっても古い本だった。そのご本にね、書いてある。“むかしむかし、あるところにとても大きな星があって、それはなくなってしまいました”って」
 随分といい加減な要約だ。「むかしむかし、あるところに」までは絵本の定型文だから覚えてはいても、肝心の中身は骨子すらろくすっぽ覚えていない。
「『アトなんとか』ってゆう」
 呼びかけの「あの」に聞こえたのは『アトなんとか』を思い出そうとして口をついて出た言葉だったらしい。思い出そうと何度も口ずさむのを、私が反応しないから何度も呼びかけたのだと勘違いしていた。
「アトランティスじゃないかな」
 ほんの少しの冒険心をくすぐり、それに伴って分別が働く言葉。私はジュリより三歳も年上なのだから、期待いっぱいにはその言葉を呟けない。
 私もそんなには詳しくない。『アトランティス大陸』。文明の進んだ大陸国家が世界を手に入れようとして神の怒りに触れ、その地ごと海に沈没した。
「神さまが怒って島を海に沈めちゃうやつ」
 ジュリはぽかんと口を開けて──それが思案を巡らせている表情だった──すこし考えた後、「それじゃない」と拗ねたように言った。
「島じゃない。星だもん。それじゃなくてね、竜が出てくるお話だよ?」
 アトランティスしかりムーしかりレムリアしかり大陸が沈没する話はよくあるが、星が滅ぼされる話は聞いたことがない。沈没する話のいずれかから派生したパターンなのかもしれない。そう考えると、ジュリによって新しく追加した竜登場の条件も、なにかの話──例えば、行いの悪い人間を懲らしめるために姫をさらい勇者と対決する竜のような話──からも拝借したキマイラのように無節操な作り話なのだろう。そういえば竜もキメラ──蛇をメインに置いた合成獣だ。
「どんな話なの?」
「よく覚えてないんだけど……──。うんとね、そのお星さまには人が住んでるの。──……でね、その人たちは地面の下に竜さんがいるのを見つけるの。──……だからね、掘ろうとするの。──……そうするとね、びっくりした竜さんが動いたの。……そしたらね、地面がぐらぐらに揺れてたいへんなことになったの。──……んでね、とんでもなく竜さんが大きいってわかった人たちは竜さんが出てこないように地面に覆いをしたの。──……するとね、竜さんが怒って覆いをばりばりって破って出てきたの」
 ところどころで口をぽかんと開けながら喋っている。話しているより考えているときのほうがかなり長い。知略ボードゲームをしているような時間配分だった。
「あの、おしまいだよ?」
 考え中だと思っていたら、もうこれで終わりらしい。先の言から補足するに、その竜は星一個分の体長を誇りそれが地表から出現したことによって星がまるごと木っ端微塵になったということか。
「あ、思い出した。『アトラテックス』だ」
「それが星の名前?」
「うん。そうだった。……両方だったと思う。ご本の名前も」
 口伝えによって変形したパターンなのかオマージュなのかは知らないが、やはりアトランティス伝説の影響を受けた話だ。『アトランティス』と『アトラテックス』では偶然というには似通い過ぎている。内容以前に。
「ねっ、あのお星さまもなくなっちゃわないかな」
 光に照らされた顔を向ける。白い。
 純真にして残酷。子供を言い表すよくある言葉だが、この場では言うまい。この星にある動力資源を結集して日光を遮る『衝立』を破壊してしまおうとする冗談のような計画が持ち上がったことがある。世界中のエナジイの総和を求める真面目な計算をして、それが不可能だと答えに行き着いたために頓挫した。答えが可であったら本当に実行されていただろうか、私がジュリより大人とはいえ、大人がそんな冗談のような計画で意思を統率し実行に移さんとしていることに薄ら寒さを覚える。ジュリと同じ、お伽噺を信じ込む子供ではないか。
「お日さま、出ないかな」
 壊してしまおうとするのは太陽を見たいがため。当然だ。当然のことに胸を撫で下ろす私がいる。子供がおもちゃを乱暴に扱うのとは違う、ただの破壊衝動ではないことに安心する。世界は黒夜であっても、暗黒ではない。
 どうやら、この輝きの下でも私に楽観は許されないらしい。
 自然光を求めてジュリとともにこの『輝きの木』にやってきた。輝きの木それ自体は光らず、そこに集まる数種の虫がまばらに発光する。まばらに、というのが良い。
 いつもどれも同じ顔でのっぺりしている人工照明でまばらに光るのはフィラメントが切れかけのときだけだ。それだって、寿命が近くなって息も絶え絶えにぜいぜいと喘いでいる老人を見ているようでこちらまで苦しくて切なくなる。今まですましていた寡黙な使用人が突然、身体の不調を訴える。死に際にならないと表情を見せことなく、見せても断末魔の苦しみのみ。黒夜には必需品なのに、使用する度に罪悪感が募る。
 ジュリは太陽のことをほとんど覚えていない。それにも拘らず太陽が見たいのは、周りの大人が話題にするからだ。黒夜が訪れる前には照明機器を必要としない時間帯があったことも、それが太陽という光り輝く恒星によるものだとも、『衝立』の向こう側には今も変わらず太陽があって『衝立』さえ邪魔をしなければ光に溢れた世界になることも知っている。大人がそれを待ち望んでいることも知っていて、ジュリは同調している。
「ママにクレオンを買ってもらったの。お日さまが出たら、お外の絵も描けるね」
 かつてジュリが「太陽は塗り絵をするんだよ」と言っていた。それも大人たちから聞いたのだろう。太陽は世界に彩りを与える。
 夜を侮った人々を恐怖に見舞ったのは、対抗手段としての武器の心許なさ。人工照明の温かみのなさは人々の予期しないものだった。そして温かみ以上に人工照明から抜け落ちていたのは、鮮やかさ。世界は褪せていた。
 黒の反対は白。黒が濃すぎて、黒を切り裂いても白しか見えない。二元説の世界。有か無か是か非か正か負か、光か闇か。黒は夜の闇を表し、白は光を示す。黒は色の不在で、白は色の現出。どちらも単一で、広がりがない。色合いも彩りも存在しない。
 色がない、というのは正確を期していない。人工照明には橙や朱や青味がかった色などある。色はあり、だからこそものの色が消える。光とは、原理は反射。ものが光を照り返して、それが目に入って色を感じる。ものを照らす光がもとから着色されたものであれば、照り返す光も偏ったものになる。赤いライトに照らされたものは赤にしか見えない。のっぺりした人工照明は照らすものまでを無表情に変える。
 黒は無色で、白は全色。
 すべての色を内に秘めた色。白というのはそういう色だ。
 そこに到達しない人工照明は色が圧倒的に足りない。足りないから中途半端に色が洩れる。すべての色を詰め込んだ、プリズムを通せばその組成内容が虹として知れる日光には到底敵わない。
「ね、虫が消えてくよ」
 発光を止めたのか実際に去ったのか、光が急速にしぼんでいた。周囲の照度が下がり、距離感が失われていく。とっさにジュリの手を握る。
「嫌な感じがする」
 虫の知らせ、か。視界はほとんど夜に飲み込まれている。手探りで伸ばした手にランプが当たるが、焦っているゆえだろう点灯させる部位がみつからない。自然光だけを浴びるため人工照明を消していたことが仇となった。帳が落ちる。
 下草を撫でるざらざらとした音が聞こえる。撫でているのは一箇所で、かなりの広範囲。風ではない。大きな質量をもつものが近づいてきている。
「離れようよ」
 ジュリの手が私を引き寄せる。しかし、身体が動かない。痺れたように、かじかんだように、神経がどこかで途切れているかのように身体がままならない。
 腹ばいになって進む動物が私たちとの距離を詰めている。草を倒すざらざらのほかにがりがり。剥がれかけた古い皮膚が擦れあう音。
 これは、こいつは──。
「ほら」
 思索に逃げた私を引っ張り上げる。そばにはジュリしかいないのに、黒夜の中ではそれが本当にジュリなのかさえわからなかった。こんなに力があるなんて。
 ざらざらがりがり、さらにくちゃくちゃ。歯のないその生物は胃から生成される強力な酸の溶解液を獲物に浴びせかける特徴をもつ。
「逃げるよ」
 これはジュリの声だったろうか。年齢に相応しくない頼りになる声、ともすれば聞くだけで安心して心身を委ねてしまいそうになる。引っ張られたまま、転ばないようにだけ注意して足を動かす。左手に持ったランプがかんらかんらと揺れている。
 ざらざら……ざらざらざら……ざらざら……ざら……ざらざらざらざら。
 ジュリはまっすぐ走っていない。方向を変えるごとに連結機関たる腕がくいと捻られ身体が揺さぶられる。
「まっすぐ、揺れる。転ぶから」
 まともな言葉にならない。なにもしていないのに息が切れている。
「まっすぐ走ったら木にぶつかるよ」
 ほんの少し、笑っているような声音。
 ランプの灯りもなく、星明かりもなく、虫の光もない。そんなただ中で逃げながら木を避けている。ジュリの言うとおり、今まで一度も木に激突していない。それどころか私が転ばないように段差の少ない道を選んでいる、と今にして気付く。
「見えてるの?」
「見えないよ」
 首を振りながら喋っているのが、見えるように脳裏に浮かぶ。
 ざらざらざら……ざらざらざらざらざらざらざらざら、くちゃり。
 服に飛来してきた何かが飛び散った。てん、てん、てん。それは熱をもち、布地を溶かす。
「かかった?」
「かかってない」
 嘘を吐いた。布地を溶かした生温かなそれを、次は皮膚で感じる。肌がしゅうしゅうと溶けてゆくイメージ。見えないから、どの程度のダメージかは痛みでしかわからない。
「見えないのに、どうして?」
「何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も経験した。だから、覚えてる」
 私とともに『輝きの木』にたびたび訪れていることを指しているのではない、苛立ちを隠せない声音が風に沿って流されてくる。誰。私に連れられて『輝きの木』が光るのを見に来るのをジュリは何より気に入っていた。たとえ今が凶獣に襲われていようとも、過去の思い出を憎々しげには語らない。私の先を行く、この手をつかむ腕は誰。
 肉が溶けて腿に痛みが奔る。
 膝が地に着く。
 手を、放してしまっていた。
 ざらざら……ざら……ざらざら……ざら……ざら。
 獲物を追い詰めた、にじり寄る音。
 からん。
 ランプが転がる。
「今の音……ランプ?」
 ざらざらもがりがりも聞こえない。
 もう、目の前にいるのだ。
 くちゃくちゃと、それと鼻息。
 存在を鼻先に感じる。
 臭気が顔にかかる。
 大きく口を開き私を飲み込もうとする姿が、見えた。
 この目で。
 閃光が緩やかな、しかし俊敏なカーヴを描いて生き物の短い頸に吸い込まれる。
 反射的に口が閉じる。
 私の目の前で、扉が閉まるように口が閉じられる。
 閃光は生き物の右眼を刺す。
 脇腹を刺す。
 右前肢の指の付け根を刺す。
 夜をも掻き消すような耳をつんざく咆哮が辺りに響き渡る。
 その間も閃光は生き物のいたる部位を攻め立てている。
 巨体を縮こまらせた。
 しかめたような顔を背け、尾を見せる。
 閃光の届かない黒夜の深みに去ってゆく。
「かかったなら言ってよ。溶けてる」
 光の点ったランプを持ったジュリが、それを傍らに置きながら私の治療を始める。
 今の戦いがまるで日常の一コマだったかのように、その連続線上で私に駆け寄っている。
「ジュリ」
 私の引き攣った呼びかけに苦笑いで応えた。ジュリのこんな顔は知らない。
「やあ──……



 モノクロームに照らされていながら、懐旧と悔悟と親睦と和解と怯懦と諦念と抑圧と憤怨と寂寥と余裕と祝意と嘆嗟と自嘲と懺悔と愉悦と決断に彩られた表情を見た。






 はた、と醒める。
 全身が熱気を帯び、パジャマが汗で張り付いている。なおだくだくと流れる大粒の汗はベッドに着床する。お漏らしのように濡れている。
 咽喉がいがらっぽい。目の腫れを感じる。寝言で泣き叫んでいたかもしれない。
 しん、としている。体内だけが、動悸でやたらとうるさい。
 夢? ……夢。夢、か。
 なんて夢だ。
「どおりで、色がない──」







“Colorless Disturbance” closed. 
2007/09/14(Fri)00:54:00 公開 / 模造の冠を被ったお犬さま
http://clown-crown.seesaa.net/
■この作品の著作権は模造の冠を被ったお犬さまさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 最後の台詞が書きたいがために、まるまる一個を書き上げました。
 落ち着いた雰囲気の書き物ももちろん良いですけれど、きっちり落としてくれる書き物は私好みです。落ち着いているのにオチがつかないとはこれ如何に。
 オチもオチ。オチオブオチ。古典にして伝統、王道のオチ。それも、悪名高く各所で最悪とされるオチ。登竜門でも扱き下ろされているのを目にしました。「こんな時代錯誤で死んで腐って蕩けたようなオチをつけるなんて死んで腐って蕩けてやがんなこのへっぽこ野郎め死んで腐って蕩けて償え」ってな勢いでした(かなり酷く誇張されている気がする)。オチ自体は偉大な発明だと思いますし、使い方によってはむしろ斬新なものに変わり得ると思うのです。これがそうなのかは知らんが(無責任な)。
 うーん、冒頭でもちょっと書きましたけれど【瘡蓋をぺりと剥がすと】の裏返しのつもりで書きました。前回はなんかよーわからんうちにブンガクサクヒンと呼ばれちゃったりしたので、今回は大衆小説っぽくエンタメ重視のつもりで──失敗しました。まあ、これはこれでいい味もっているのでいざ勝負です。
 こーゆー設定を使い捨てできる辺り「天才だな」と思います。臆面もなく自分で天才だなんて言えるとは、やはり天才に違いないですね。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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