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『17歳の迷子が二人』 作者:ちょう子 / リアル・現代 恋愛小説
全角11135.5文字
容量22271 bytes
原稿用紙約32.25枚
恋に恋焦がれ、現状維持に縋る少女のお話。
彼に恋をしたのは、いつだったっけ。思い出せないくらい、昔の話だったのだろうか。はたしてそんなにも昔から、私は彼のことが好きだったのだろうか。ふとそんな風に懐かしむように考えてみたけれど、思い返せばそんなに昔の話なんかではなくて、そもそも私が彼を知ったのは、ほんの数ヶ月前。クラス替えがあった次の日のことだったのだ。
特別な出会いなんてものはなくて、ただ隣のクラスの彼が、私のクラスに遊びに来ていたのが原因だった。そうして友達と楽しそうに笑うその顔が、その声が、なんとなく私の頭に焼き付いて、離れなくなって。そんな奇跡でもなんでもないことだったのに、彼と話したこともなかったのに、関わりなんて無かったのに、私はまるで突然何かの事故に巻き込まれたかのように、彼に恋をしていたのだった。


「あ、ユウタ。おはよーう」
「おはよー」
 須藤 ユウタ。それが、今現在私が想って止まない愛おしい人の名前。
今から丁度三ヶ月前に私は彼の存在を知って、こうして挨拶を交わせるような関係になったのは二ヶ月前。隣のクラスで全然関わりの無かった彼とどうやってこの関係になったのかというと、そんなの「頑張った結果」その一言に尽きる。
とにかくユウタに一目惚れをして、何も知らない彼と仲良くなりたくてたまらなかった私はチキンハートに鞭を打ち、友達のささやかな応援に勇気を奮い立たせ、放課後、そそくさと帰路につく彼を追ってアドレスを聞いたのだった。あまり思い出したくないのだけれど、その時の私はと言えば多分凄い形相だったと思う。可愛さの欠片もない必死の顔で、それ以上に気迫に満ちた声で彼に話しかけていたはずだ。思い返す度に、よくもまぁ彼はそんな気持ち悪い以外のなんでもない私にアドレスを教えてくれたものだと思う。私だったら絶対に、そんな気持ち悪いヤツにはいくら好かれていようと教えたくない。
そう考えると、そんな私にアドレスを教えてくれたユウタの性格を疑ってしまったりもするけれど、それ以上に嬉しくてたまらなくて、今こうして彼と面識を持てるようになったことが奇跡のように思えて仕方がない。
「あ、マミコ、漢和辞典持ってる? 貸してくれない?」
「いいけど。また忘れたのー?」
「え、前も借りたっけ?」
「……」
「……ごめん、俺忘れっぽいから……」
 そう言ってユウタは恥ずかしそうに笑って頭をかいた。私は呆れながらもなんだか嬉しくなって、さほど自分と変わらない位置にあるユウタの頭を軽く叩いた。途端に「痛いっ」という少し高い悲鳴が上がって。男の子のくせにそんなに男らしくない彼が、どうしようもなく愛おしく感じる私は末期なのだろうか。彼と顔を合わせる度に、私は自然と頬が緩んでしまう。全くもって恋ってやつぁチクショウめ。
「忘れっぽいくせに、テストの点数がやたらと良いアナタが私は心底憎らしい」
「あー、マミコバカだもんなぁ」
「失敬な。何を言うか。私はただちょっと、頭の作りが弱いだけ」
「それを人はバカって言うんだよ」
「……クソめが」
 悪態をつきながらポカリとユウタの足を蹴れば、ケラケラと笑う声。心地良い。大好き。「マミコ言葉使い悪いぞー」なんて言いながら彼は私同様に足を蹴ってきたけれど、楽しくて仕方がない。ねぇ、普段は別にこんなに言葉使い悪くなんてないのよ。変な言葉を使ったりもしないの。
じゃあ何でユウタにだけ使うのかって言えば、そんなの簡単。言葉使い悪いって思われても、良いの。ただ他の人よりずっと彼の頭に自分の姿を刻めるように、毎日毎日普段とは違う自分で接しているの。猫っかぶりって言われてしまえばもともこもないのだけれど、それでも、彼専用の自分が作りたくて、だから他の人には決して言わないような言葉をユウタに向かって言ったりするの。まぁこんな地味な努力、気付かれないだろうし、気付かれても仕方がないのだけれど。
「あ、チャイム鳴った。戻らなきゃー」
「そだなー。あ、マミコマミコ、はいこれあげる」
「……アメ?」
「辞典のお礼! イチゴちゃんだよ! 有り難く受け取れー」
「……ハーゲ」
 やたらと態度のでかいユウタに再び悪態をつきながらも、私の頬はきっと緩みきってる。そんな私に向かってユウタもキラキラ笑いながら暴言を吐くから、眩しくて目の前がチカチカしてしまう。
あぁもうまったく、なんでかしら。楽しくて嬉しくてたまらない。……原因は解っているのだけれど。何でもないことが楽しく感じるのも、ただのアメが宝物のように感じるのも、全部全部ユウタが関わってるから。たった一人の存在がここまで自分にとって意味を持つなんて、そんなことないと思っていたのに。まったくもって恋ってやつぁなんて言いながらも、やっぱり彼を好きな自分だけは否定できなくて。
貰ったアメを口に入れれば、あぁもうバカみたいに甘い味。味なんてわからないわ。ただ甘いの。
(……だいすき)
 だいすきだいすきと、今まで何度胸の内で呟いたことだろう。そしてその度に、すぐにでもこの感情をユウタに伝えたくてたまらなくなる。だけどいつも、私は言葉を飲むばかり。好きだけど。好きだからこそ、だろうか? 二ヶ月かけて作り上げたこの関係を、崩したくないと思ってしまう。
恋人でも、他人でもないこの関係。当たり前のように、呼吸をするように笑い合える関係。もどかしくてたまらないくせに、今のこの男女間で成り立っている友情が愛おしくてたまらなくもあるのだ。そしてこの関係が「好き」という言葉のせいで壊れてしまうのだとしたら、私はそんな言葉言いたくない。もどかしくても、切なくても、それでも長くユウタのそばにいられる方法のを選びたいと思ってしまう。
なんて、バカみたいにそれっぽい理由をつけてみるけれど、結局はユウタとの関係が壊れてしまうのが怖いだけなのだ。
(……いいかげん、チキンハートにさよならをつげたいなぁ……)
 そう思って何度握り拳を作ったところで、自分がこれ以上の行動をとらないことも解りきってる。「私とユウタの関係も、バカみたいに甘いものだったらいのに」なんて頭の端っこで考えたけれど、あまりにもバカらしかったので、私は一人、自分の考えを鼻で笑って吹き飛ばした。

「マミコー辞典ありあとー」
 授業が終わって、休み時間。ボサボサ頭プラス半目という不細工きわまりない顔をしたユウタが、フラフラと私の教室へやってきた。心なしか、呂律も回ってない。「こいつ、寝てやがったな」そう思いながら「寝てたでしょう」と言ったら、即答で「寝てないよ。だって俺マジメだもん」という嘘が返ってきた。嘘つくならもっとマシな嘘をつけ。そう思いながらも、おかしくて笑ってしまう。
「だって、寝癖ついてる」
「ついてないよ、マミコ幻見てる?」
「人に辞典借りときながら授業寝るなんて、本当イイ度胸してるね」
「……ごめんね」
 やっと自分の非を認めたユウタの足を再び蹴り飛ばすと、痛い、という悲鳴と共に「そういうマミコもオデコに痕ついてるよ」というブーイングが聞こえてきた。でも私は初めから隠す気なんてサラサラなかったので、「寝てたから」と開きなおってみせた。それから二人でクスクス笑って、「あぁもう楽しい、大好き」なんて私は思って、またその言葉を喉の奥にしまい込むのだ。悪循環のはずなのに、この悪循環さえも愛おしいなんて。私は末期だろうか。処方箋は?完治する見込みはあるのでしょうか、お医者さん。
「つかさぁ、マミコさぁ、授業中いっつも寝てるしょ?」
「うん、寝てる。だって字が読めないんだもの」
「……それ本気?」
「ほんとよ。私漢字読めないの。数学も全部英語に見えちゃう」
「……よく進級できたなぁお前……」
「何度先生に「お前進級ヤバイぞ」と言われたことか……」
 その度に毎回毎回必死こいて、補修を免れたり友達に助けて貰ったり……はっきり言って、勉強面での良い思い出なんて一つもない。無事こうして進級して2年生になれたのだって、努力というか、悪あがきのたまものだったりする。遠い目をしながらそう言うと、ユウタはまるで可哀想なものを見る目で私を見つめてきた。何よその目。見下すんじゃないわよ。
「……2週間後期末テストあるよ?」
「…………うん」
「だいじょぶ? 夏休みなくなるんじゃない?」
「えっ、いやよ、補修なんて! 私、夏休み遊びたいもん」
「じゃあ授業ちゃんと聞きなさい」
 そう言って、くしゃりと頭を撫でられた。触られたところに熱がたまる。熱い、愛おしい。思わず熱に浮かされたように、頷いてしまった。その途端に、ニッと子供のような可愛い笑顔。あぁもう、反則だわ。
「俺が勉強教えたげよっか?」
 しかもそんな素敵な笑顔で、そんなことを言うものだから。思わずポカンと口を開けてしまった。
「え、ほんとう?」
「だっていつまでも友達に迷惑かけっぱなしもさー、マミコきっと愛想つかされるよ」
「ユウタは愛想つかないの?」
「だってマミコがバカなの知ってるもん」
「失敬な。さっきも言ったでしょ、私は頭が少し弱いだけ!」
 そう反論すれば、ケラケラと心地良い笑い声。あぁもう、なに、なにこれ。どうしてこんなに眩しいの。とうとう直視できなくなって、俯いた。お願いだから、そんなステキな顔で私を見ないでくれる? だけどそんな私の願いもむなしく、不思議そうに顔を覗き込んでくるユウタ。あぁもう、やめて。眩しいの。大好きなんだってば。
「あ、チャイムなっちゃった」
 だけどナイスなタイミングでチャイムがなったから、ほっとして私は胸をなで下ろした。一呼吸ついて、ユウタを見る。相も変わらずキラキラと眩しい笑顔をしていた。太陽みたい。彼はきっと、私の太陽なんだ。
「……ね、ユウタ」
「ん、なになに」
「夏休み、遊ぼうね」
 いそいそと自分の教室に戻ろうとする彼に、少しだけ早口で話しかけた。途端に、ポカンとしたユウタの顔。その顔を見て、少しだけ不安になった。二ヶ月の間で随分仲良くなって、こうして悪態をつけるまでの関係になっていたけれど、実のところ彼と学校の外で遊んだことはなかったのだ。だから流石に少しはやまったかなぁ?なんて思って心の中で舌打ちをした。だけど次の瞬間には、その不安もかき消されていた。だって、ユウタが今までで一番の眩しい顔で、笑ったから。
「おうともさ!  映画、映画見に行くべ!」
 それに加えて、そんなステキな言葉。あぁもう、クラクラする。きっと今、私凄く嬉しそうな顔してる。まったくもって自分ってやつはマヌケだなぁ。彼の表情、言葉にこんなにも反応するなんて。そう思いながらも、そんな自分が嫌いではなくて、思わず机に突っ伏してしまった。そんな私を見てユウタが笑ったのを感じて、あぁもう早く自分の教室に戻れと手を振った。
(……恋ってやつぁ全く、怖いったらありゃしない)
 恋に焦がれ、恋に怯え、恋に喜び……。まったくもって、笑い話にしかならないわ。あぁだけど、いっそのこと笑われた方が良いのかもしれない。バカみたいに親身に「頑張ってね」なんて言われるよりは、「ハッハッハ! お前青春してんなぁーチクショウ!」なんてからかわれながら肩を叩かれる方が、ずっと良いかもしれない。
だってどうせ、何を言われようと私は変わらないし、今はまだ変われないだろうから。愛すれば愛するほど愛しさがつのって、ただひたすらにこの関係を大事にしたくなるばかり。いくら応援されようと「ただ彼のそばに居たい」なんて、そんなことを思うばかり。だからもう、笑おう。笑ってしまおう。「私ってやつはまったく、チキンだなぁー」なんて呆れながらも、今のこの関係に縋り、この時間を大事にしている自分を精一杯愛でてやろう。そうしてこの関係に飽き飽きしたときに、やっとのことでチキンハートに鞭を打ち、ユウタに勝負を挑みに行こうじゃないか。

だからどうか、その時まではこの関係のままで。そんなささやかな祈りをこめながら、私は再び眠りについた。



 「恋」というものには、はたしてゴールはあるのだろうか。そしてもしあるとするならば、かならずしも皆、ゴールに向かわなければならないのだろうか。
 放課後、ユウタの家で勉強を教えてもらいながらも、ふとそんな考えが頭をよぎった。そもそも何故急に「ユウタの家で勉強会」なんてステキなシチェーションに陥っているのかと言えば、授業も帰りのHRも全て終わったあとに、ユウタが私のところへ来て「さぁ今日から勉強会始めるぞ!」なんていう提案を持ちかけてきたからだった。突然のその提案に驚いた私は、「まだテストまで二週間もあるのに、今から勉強するの?」と問いかけた。
 基本面倒くさがりで、普段から勉強というものに真面目に向き合っていない私には、当然ながら二週間も前からテスト勉強をするなんていう習慣はなかった。いつもいつもテストといえば一夜漬けが基本で。(まぁそのおかげで赤点ばかりのテストに落胆するわけだけれど)確かに、ユウタ自身が勉強を教えてくれると言ってくれたけれど、まさかそれも今日からやるものだなんて思っていなかったのだ。
 だけどそんな風に驚く私に彼がかけた言葉といえば
「漢字もまともに読めない人間に、たった数日間という短い期間で勉強を教えられるわけがないだろ」
 という、手厳しいお言葉。その言葉に改めて自分の学力のヤバさに気付かされて、ユウタに頭が上がらなくなった。だけどやっぱり、申し訳なさと同時に喜びがあるわけで。頭の片隅で「バカで良かった」と思う自分がいた。末期だ。
 で、まぁ結局はユウタのことが好きでたまらない私が彼の誘いを断るわけもなく、初めて行く彼の家に胸を激しく高鳴らせながらも本気で「勉強頑張ろう」なんて意気込んだ私がいたわけだけれど。
「……マミコお前、ちゃんと聞いてる?」
ふと気がつけば、先程まで数学の公式を呪文のように唱えていたユウタに頭を叩かれていた。ハッとして顔を上げると、黒縁眼鏡をかけたユウタが少しだけ不機嫌そうに顔を歪ませていた。勉強をするときだけかけるらしい眼鏡がとても似合っている。普段の幼い顔が、少しだけ大人びて見えてドキドキした。
 なんて、またもや雑念にとらわれている自分がいて、いやはや申し訳ない限りです。
「ごめんなさい。全然聞いてなかった」
 俯いて謝ると、頭上から「はぁー」と深い溜息。あぁもう、本当ごめんなさい。だって、なんか考えちゃうんだって。ユウタの言葉や行動全てがキラキラしていて、宝物のようで、考える気なんてないのに気付いたら思いだしているのだもの。数十分前には「勉強頑張ろう」と意気込んでいた自分が確かにいたけれど、たった今確信してしまった。そんなのは無理だ。だって、こんなにもドキドキしてる。こんなにも雑念にとらわれている。というか、そもそも好きで好きでたまらない人の家で、二人っきりで勉強会なんて、その時点で全てが無理だ。きっといくら勉強を教えてもらったところで、テストの結果には結びつかないだろう。ただ私にとってのステキな思い出に変わるだけだ。
 それならば今すぐにでもやめさせて、ユウタに自分の勉強だけをガンバレと言うべきなのだけれど、彼に惚れ込んでいるズルイ私は、そんな気の利いた言葉を言う気なんてサラサラない。ただ思っているだけ。まったくもってユウタに申し訳ないなぁと思いながらも、それも口には出さずに思っているだけ。タチの悪い女ね、私って。
 そんなことを考えながら、ユウタの様子をうかがうようにチラリと顔をあげると、どうしてか私のことをジッと見つめるユウタと目があった。
「……ユウタ?」
「…………」
「…………」
 問いかけても全くの無反応。不思議に思いつつも、目をそらせなかった。眼鏡の奥の目がいつもより少し鋭くて、鼓動が早くなる。どうして、どうして私を見るの?なにかついてる?それともひょっとして、凄い不細工な顔してる?
 考えたけれど、いやはやそんなハズはない。だって私、自分で言うのもなんだけど顔だけは結構良いはずだから。「天は二物を与えぬ」とはよく言ったものだ。神は私に万人を魅了する美貌を与えておきながら、頭脳は与えてくれなかった。あぁなんという無情。いや、無情なのはこんなナルシズムなことを一人考えている私の頭の中か。切ない限りだ。
 またもやそんなバカなことを考えながらも、変わらずユウタから目をそらせないでいると、数秒たってようやくユウタが目をそらした。その顔はどうしてか驚きに満ちていて、訳がわからなくて私は首を傾げた。
「なに、なんだったの今の? どうして見てたの」
「あ、いやうん。まぁ、ちょっと……」
「なに?」
 なおもドキドキしながらも、まるで何事もなかったかのように問いかけると、今度はユウタが言葉を濁した。フラフラと視線を泳がせて、それからチラリと私の様子をうかがって。いったい何だというの、どうしたの。流石に不審に思って眉を寄せると、慌てたようにユウタが口を開いた。
「や、あのさぁ、ちょっとジンクスをさぁ……」
「ジンクス?なぁに、それ」
「んー……クラスの女子が今日言ってて」
「なんて言ってたの?」
 私が話に食いつくと、またもや視線を泳がせるユウタ。ジンクス?それがなんだっていうの。ただの迷信みたいな、そんなもののはずでしょう?そんなものに何故こんなにもユウタがソワソワするのか私には解らなくて、再び首を傾げた。
 だけど覚悟を決めたみたいに一人で頷いたユウタは、至極真面目な顔で私に向き直った。またもや高鳴る鼓動、あぁもうバカみたい。
「……言っても、怒んねぇ?」
「……私が怒るような内容のジンクスなの?」
「いやーそれはわっかんねーけど。驚くとは、思う」
「……教えて?」
 一体どんな内容のジンクスなのか、どうしてこんなにもユウタが真面目な顔をするのか。全くもって理解できなくて、少しだけそんな彼に呆れながらもそう答えると、ユウタがいつもより早口に言葉を続けた。
 ……しかしながらユウタの口から出た言葉に、私は呆然として、一瞬全ての思考回路がストップしてしまった。
「……目があって、それから五秒間見つめ合ったままでいられたら、その相手とは両想い。っていうジンクスなんだけど……」
「へぇー。…………え?」
「で、まぁ、このジンクスは当たってるのかどうかためした結果なのですが」
「――――」
「……マミコ、きいてる? 大丈夫?」
 そう問われた瞬間、頭の中が一気にフル回転した。ジンクス? 見つめ合う? 5秒間? 両想い? なに、それ。どうして、だって、今、え? それ本当? じゃあ何秒だったの? 今さっき私たちが見つめ合った時間は、何秒だった? 五秒だった? だからユウタはあんな態度をとったの? このジンクスは本当? 私たちは。私たちって……
「はぁあああああ!!!?」
「うお!? わ、な、なになにマミコ」
 頭の中がスパークして、気がついたらそんな悲鳴地味た奇声を発していた。当然ながらユウタは驚いていて、だけどどこか嬉しそうな、楽しそうな顔をしている。少しだけ、安心したようにも見えたのは気のせいだろうか。っていうか、何よその顔、何でそんな顔をしていられるの? 私なんて格好悪いことに、取り乱しまくりよ。突然の事実に昇天しそうだわ。
「だって、何、そのジンクス! 五秒って、だって、今……」
「うん、数えてたら、五秒たってたよ。俺達が見つめ合ってた時間」
「っ!!!」
 思わず、赤面した。ユウタの顔を直視できなくて、顔を両手で被った。ジンクスなんて、って思うけど。いつもなら信じたりはしないけど。このジンクスばかりは本当であって欲しいと、そんな乙女さながらのことを考えた自分がいたけれど、恥ずかしくてどうも現実を受け止められない。
 好き。大好き。だけどまさか、その感情が自分にも向けられていたなんて。だってそんなこと考えることも出来なかったから、私は毎日毎日必死に「好き」という言葉を押さえつけながら、今のこの関係を大事にしていたのだから。なのに、そんな……両想い? ジンクス? いやでも待てよ、そもそもこのジンクスは本当にあてになるのかしら? ユウタがただ私をからかってるだけかもしれないじゃない。そうだ、その可能性だってないとはいえない。
 そんな風に彼を疑って見せたけれど、続けられたユウタの言葉に私は更に赤面するはめになった。
「でさ、試したんだよ。クラスの女子に。ジーッと見つめてさ、目があって五秒間見つめ合えるかどうか」
「…………」
「だけどさ、やっぱ上手くいかなくて。あんま好きじゃないコとは目じたい合わないし、それなりに話すコでも、すぐ逸らされたり、こっちから気まずくなってそらしちゃったりで」
「………………」
「……結局上手くいったのは、好きなコとだけだったよ」
「っっっっっ!!!」
 そんな言葉を言われてしまえば、私はもう声も出ない。ただひたすらに、ユウタの言葉を頭の中で唱えた。「上手くいったのは、好きなコとだけ」……それはどういう意味? いやまぁ、そのままの意味なのだろうけれど。でも、じゃあ、ジンクスは本当だったと言うこと? つまりは、私の恋は実っていたと言うこと? 嘘。本当? 信じたいけど、信じられないわ。
「…………」
「…………」
 互いに、無言になってしまった。顔を隠しているのに、ユウタがジッと私を見ていることが空気で解る。何だか私たちを取り巻く空気にまで、お互いの命が宿っているような錯覚にとらわれた。ドキドキする。ユウタの顔が見たい。だけど、自分の顔は決してみられたくなくて、私は顔を隠し続けることしか出来なかった。
「……マミコ」
 呼ばないで。だって、答えられないから。今の私には、何一つ言えることなんてない。嬉しくて恥ずかしくて、何も言えないの。自分の仕草だけで相手に気持ち全てが伝わればいいのにと、思わずそんなことを思ってしまう。声が聞きたいのに。今こそ、恐ろしくて言えなかった言葉を言うべきなのに。やっぱり私はズルイのだろうか。自分が言うよりも先に、ユウタに言われたいなんて。私の代わりに言ってくれなんて、そんなことを考えている。
 だけど彼は、言った。泣きそうな声で、ポツリと。
「……なぁ、マミコ。このジンクスは本当だって、思って良い?」
 言葉と同時に、やんわりと彼の手が私の両手に触れた。触られたところに熱がたまって、溶かされたように力が入らなくなる。見られたくないのにユウタの顔を見たくて仕方がなくて、あぁもう、いいや。悪あがきはよそう。ユウタの手が私の手を掴む。顔から引きはがされた。ドキドキしながらも、一度深く瞬きをして目を開ければ、声同様に泣きそうな顔をしたユウタが居た。少しだけ、頬が赤い。きっと私も同じ顔をして居るんだろうなぁ。
 あぁもう、いいや。諦めよう。恥ずかしいなんて、そんなこと思っていても仕方がない。私は一人、覚悟を決めた。
「……マミコ、」
「そのジンクス、信じて良いよ」
「え?」
「ユウタすき」
「……ほんとう?」
「すき。だいすき」
「俺もすきだよ」
 そう言って、涙目になりながらもいつものキラキラとした笑顔で笑うから、あぁもう本当に輝いているみたい。嬉しくて、つられて私も笑ってしまった。少しでも彼と同じような笑顔になれていればいいのなぁ。ユウタが私の太陽であるように、私もまた、ユウタの太陽になれればいいのに。なんて、そんなこと考えたけど、どうでも良い。好きといって、好きだといわれて、それだけで十分だ。今まで悶々としていたのに、その一言で全てが変わるなんて、まるで魔法のよう。
「……ほんとはずっと前から、好きだったの。いつもいつも、今すぐにでも好きって言いたかった」
「じゃあなんで、言ってくんなかったの?」
「……今までの関係が壊れてしまうのが、怖かったから」
「そんなの、俺だっておんなじだよ」
「……だから、ジンクスなんて信じてみたの?」
「うん」
 そう言ってユウタは再び笑って、「でもジンクスのおかげで、告白する勇気が出たんだよ」って言った。あぁ確かに、ユウタがジンクスを実行していなかったら、今日はまだ今までと同じ、友達のままだっただろうなぁ。いや、今日と言わずにもうずっとしばらく先まで無理だったかもしれない。仲良くなって、もっと仲良くなって、ただひたすらにこの関係を壊したくなくなって、永遠に「好き」という言葉だけが言えなくなっていたかもしれない。
 そう思ったらなんだかおかしくて、これからは少しくらい占いやジンクスを信じてやろうじゃないかという気持ちになった。
「……どれくらい前から、私たち両想いだったかなぁ」
「俺は、マミコが気持ち悪い顔でアドレスを聞いてくる前から、マミコのこと気になってたよ」
「……それほんとう?」
「うん。だからアドレス聞かれたとき、すっげ嬉しかったもん」
 その言葉を聞いて、少しだけ「じゃあ勇気を出して、もっと早くに告白していれば良かった」と思ったけれど、後悔はしなかった。だって、全てが大事なんだもの。友達だろうと、恋人だろうと、相手は愛おしくてたまらない人。確かに「好き」という言葉をユウタの口から聞くまでは、数え切れないほど悶々としたけれど、だけどそれさえも、私はいつも愛おしく感じていたんだ。
 結局は、どんな関係であろうと私の気持ちは変わらなくて、彼の存在の大きさも変わらないと言うこと。
「……っていうか、じゃあ、私たちってこれから……恋人?」
「まぁ、そうじゃない? マミコがイヤでなければ」
「まさかそんな。……ただ、実感がわかないわ」
「ハハッ、俺も。きっと俺達、仲良すぎたんだね」
 だけど確かに、今までの距離よりも私たちの距離が近くなったように感じられるのは、やっぱり「好き」という言葉のおかげなのだろうか。だとしたらこの言葉は、どんな言葉よりも強力なものかもしれない。いや、むしろ本当に、魔法なのかもしれない。可笑しくてクスクス笑いながら、コッソリと机におかれたユウタの手に触れてみた。そうしたら自然と握り替えされた。相変わらず、熱い。ドキドキする。でも今は、それ以上に幸福な気持ちでいっぱいになった。
 「恋」というものには、はたしてゴールはあるのだろうか。
私は数分前、そう思った。そしてあったとするなら、かならずしも皆ゴールに向かわなければならないのだろうかと、そう考えた。でも、今解った。確かにゴールはあったんだ。ただ別に、絶対にたどり着かなければならないものではない。何度挫折しても良いし、迷っても良い。途中立ち止まって、後ろに下がってみても良い。
 だけどそれなら、何故人はゴールを目指すのかと言えば、そんなの「幸せになりたい」からだ。その先に夢を見ているからだ。皆、ゴールの先にある輝きに少しでも近づきたいと、そう思っているからだ。そして事実、ゴールの先には有り余るほどの幸せがあった。自然とこぼれる、愛おしい人と自分の笑顔があった。ただそれだけだと人は言うかもしれないけれど、私にとっては何よりも素敵なものだった。
 そんなことを考えながら、私はユウタの手を強く握り替えし、もう一度呟いた。
「ユウタ、だいすき」

私たちは今日、二人同時に、同じゴールにたどり着くことができた。そしてこれからも、きっと同じ道を歩いていけるんだろう。



2007/09/06(Thu)21:17:54 公開 / ちょう子
■この作品の著作権はちょう子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
男女の恋愛小説というものを書くのは初めてでして。何故初めてなのかといいますと、恥ずかしくてなのですが。だけどなんだか、今の現状のせいかとてもとても書きたくなったので、思い切って書いてみました。きっといたらない点ばかりでお見苦しいかと思われますが、どうかどうか、ご指摘は少しの優しさにくるんでお願いいたします。

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