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『これも『愛』の形 第二話』 作者:アドミット / ショート*2 お笑い
全角1456文字
容量2912 bytes
原稿用紙約4.8枚
愛にだっていろいろな形があるさ。そう、これも一つの愛の形なのである。そんな、甘酸っぱくもない非現実な『愛』の形。
第二話「現実を見ろよ」


「ずっと前からあなたのことが、魅剣さんのことが好きでした!」
 それは、気づく度に己の身を引き裂く諸刃の剣。
「俺と付き合ってください!」
 それは、伝える度に己の身を切り裂く諸刃の剣。
 愛や恋という名の、儚く脆い矮小で何の意味も持たない刃。
 俺の告白を聞き終え、彼女の薄桃色の唇が小さく微笑する。
 吹き抜ける一陣の風が、彼女の長く真っ暗な髪の毛を大きく泳がせる。
 そこは赤錆のフェンスに囲まれた屋上。長方形の形に広がるタイルの上に俺と彼女は佇み、何も言葉を発しないまま時が過ぎるのを待つ。
 二人を照らす夕焼けよりも美しく、陶磁器のような染み一つ無い白い肌が赤く染まる。
 それが俺の告白を聞いて紅潮したものなのか、夕焼けの所為で染まったものなのか、判断は着きかねる。
 ただ、彼女は沈黙を破ってこう呟いた。
「私もあなたのことが好きです」
 この世の何よりも、俺が待ち望んでいた答えだ。
 そうして、俺の一世一代の告白劇は幕を閉じる。
 いやいや、勝手に閉じられても困る。俺と彼女の恋物語は、これから始まるのだから。


 事の始まりはこの告白劇の数ヶ月前。
 友達の勧めと、若気の至りと言うこともあり、俺はとあるイージーミスを犯した。
 だがその結果として、俺は彼女と出会ったのだ。
 彼女の名前は魅剣 菖蒲(みつるぎ あやめ)。
 陶磁器のような透き通る白い肌と、長く全てを飲み込む暗闇に似た髪の毛を揺らす、絶世の美女。
 出会いの場所は、ムードの欠片も無いゲームセンターの一角だった。
 運命なんてものは信じていなかった俺も、そのときばかりは信じざる得なかった。一目惚れ、なんて創造の世界でしか有り得なさそうなものを、信じてしまう。
 十八歳にして、それが最初で最後の恋だったのかも知れない。
 だが、俺は彼女に惚れた。それは狂いの無い、間違うことの無い感情。
「……は買うのか? 買わないのか?」
 俺は、友人の言葉を耳にして我に返る。
「か、買う……」
 何も考えず、俺は手に取ったゲームの購入を決めた。
 彼女に魅入ってしまって、ほとんどゲームの内容など気にしなかったのは愛嬌のある失敗だろう。
 それから俺は、家に帰ってゲームをハード機の中に放り込んでテレビをつける。
 まあ、心ここにあらずと言うべきか、俺の頭の中は彼女のことでいっぱいになっていた。夕食時でも、トイレで用を足していても、彼女のことしか考えられない。
 俺はいったいどうしちまったんだ?


 それから数ヶ月、ここまで来るのに数ヶ月、掛かってしまった。
 その間も俺は上の空で、彼女のことばかりを考えながら過ごしてくる。
 好都合なのは、彼女が俺と同じ学校の生徒だったこと。不都合は、彼女は他の男子にも人気があったこと。
 しかし、俺は夕日の差し込む学校の屋上で二人っきり、誰にも邪魔されることなく覚悟を決められた。
『告白する/夕日が綺麗だね』
 そんな、進むか逃げるかだけの選択肢が浮かび上がる。
 無論、俺は迷わず前者を選んだ。
 答えの先にあった未来は、既に前述した通り。
 俺はそこまで進むと、携帯電話に友人からの電話が入っていることに気づく。
『はろ〜、どこまで進んだんだ?』
「告白するところまで。慣れない所為で、二ヶ月もかかっちまったよ」
 他愛の無い話をしつつ、俺はボタンを押した。セーブすることを忘れずに、ハード機の停止ボタンを。
 続きはまた今度にするか。
 こうして、俺の本当で現実じゃない恋物語は幕を閉じるのであった。
2007/06/28(Thu)00:55:43 公開 / アドミット
■この作品の著作権はアドミットさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
これ愛(勝手に略す)の第二話です。一話のキャラクターは使い捨てでしたので、二話には出てません。もしかしたら出てくるか、それとも別作で出てくるか、私の気分次第です。
まあ、何でも良いので見てやってくださいな。
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