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『目的地』 作者:葵 / リアル・現代 未分類
全角1495.5文字
容量2991 bytes
原稿用紙約5.35枚
どこにでもいるような男の子が必死にペダルを漕ぐ物語。
夜だった。
辺りに人気はなく、道を照らす灯かりもない。
暗かった。
だから、俺は懐中電灯を持っていった。非常時に使うヤツ。ラジオついてるやつ。
怖かった。
俺は懐中電灯の灯かりをつけて、ラジオの電源も入れた。怖くないように。
独りだった。
まあ、それは……どうしようもできないけど。
でも、俺は寂しくなんかなかった。

公園の時計を見ると、11時50分をまわっていた。
自転車を精一杯漕いで、暗いけど明るい、静かだけどにぎやかな闇のなかへと入っていった。
しばらくして、青い車が俺の目の前を通った。多分旅行帰りの家族だろう。寝てたわ。
いつもなら俺は自分の部屋のベッドで音楽を聞きながら漫画を読んで、いつの間にか眠りにつくというとても幸せな夜を送っているのだが、今日はそれどころじゃない。
時間がないんだ。
家のリビングには置手紙、冷蔵庫は俺の手で荒らされ、ベッドは温もりもなにもない。
俺は11時に家を出た。幸いこの日は家族はいなく、俺1人だった。大きな鞄に食料と金を突っ込ん
で、自転車の鍵を探して、家をでた。いや、まあ、鍵はかけたよ。泥棒に入られたらたまったもんじゃない。
俺の大切な漫画やゲームソフトは、命の次に大切なもんだ。絶対やらねえ。
苦労して手に入ったレアなCDなんかも……って!
こんなこと考えてる暇もないんだった。早く行かなきゃ。

だんだんペダルが重くなってきた。足が痛い。
くっそー…湿布もってくればよかったかなー。なんて思ったりした。

俺の目的地は、まだ明かせない。悪いけど。でも、いずれわかるさ。時が来れば。
何回も何回もペダルを漕ぎ続け、そして、夜が明けた。
朝になった。俺は懐中電灯を切った。あちらこちらから目覚まし時計の音が鳴り響く。
そして、朝食のいいにおいが俺の鼻をくすぐる。
腹減ってんだ俺は。
時間ないけど、体力もない。仕方なく鞄に入れた、いや、突っ込んだ食料を出した。
食料といっても、パンだ。食パン。一個だけクロワッサン。ジャム付き。
ジャムが生暖かかった。それでも俺はジャムを塗り、食パンを食べた。
お茶も飲んだ。
そして、また行く。
疲れたなー。
でも行く。
行かなくちゃ行けないとかじゃなくて、俺が行きたいんだ。
めんどくさがりやの俺が、行きたいと思ったんだ。足は痛い。それでも、ペダルを漕いだ。
そろそろいろんな所で通勤してるお父様がでてくる。
あーあ。あのおじさん、歯に黒いの付いてる。気づいてないのかな。
ま、いいか。俺には俺のやることがある。


……何時間たっただろうか。
俺はぼろぼろだった。こんなにまでなって、何処にいきたいんだ俺。
…………あれ?
俺は何処に行きたいんだっけ?
忘れた?いやいや。だったら俺は今まで何の目的でここまで来たんだ?
ちょっと、ペダル漕ぎすぎたかな。
頭の中、真っ白だ……。


気づくと俺はベッドの上にいた。……病院?
気絶して、運ばれたのか?でも……。
部屋は病院とは思えない空気だった。それに、外は暗かった。さっきまで明るかった。
よく見ると、此処は俺の部屋だった。出る前ぐちゃぐちゃにあさった形跡がある。
確かに俺の部屋なんだけど……。なんで?
懐中電灯はあるし、自転車の鍵も本の間に挟まってる。これじゃ、出る前と一緒だ。
あれ?じゃ、時間は?
……10時58分。ほぼ11時。家を出た時間だ。うーん。おかしいな。
と、そこにあった鏡を見てみる。
「あれ……?」
俺の口には、ジャムが付いていた。


夢のような夢。


ま、たまにはこんな不思議なことがあってもいいんじゃないかな。
たまにはこうやって、何かを必死にやっても良いんじゃないかな。

たまには、ね。
2007/06/10(Sun)16:39:55 公開 /
■この作品の著作権は葵さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
思いつくままに書いたらこうなりました。すごくどうでもいいような物語です。でも、身近な男の子が主人公です。なんか不思議です。必死にやるのも大切だけど、たまには休んでもいいです。でないと、頑張れませんから。ということを伝えたいと思います。
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