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『牢獄にて』 作者:藤野 / 未分類 未分類
全角6303文字
容量12606 bytes
原稿用紙約17枚
牢獄の人殺しから、彼と彼女へ。
 この世界で私以外の誰が知るというのだろう、この高鳴り早まる心臓の意味を。私は喚起と興奮とに打ち震える心臓の所有者だ。罰のために牢獄に閉じ込められた罪人だ。この惨めな牢獄生活では、君たちだけが神々しい光のように私の前に垂れ込めている。地獄で天国を覗いている気分だ。出来れば君たちを、私の目の届く範囲に置いてずっと見つめていたい。そう、例えば束縛の為の鳥篭で。私は君たち以上の逸材に今だかつて出会ったことがない。君たちこそ芸術の、真実の、絶望の果てだ。
 私は君たちに渇望している。そう嫌な顔をしないでくれ、だってこれはどうしようもない執着だ。慕情に狂う人間に対して理性を求めてどうするんだい? 何度でも言うよ、私は君たちに渇望している。今にもこの薄暗く不潔な牢獄を抜け出して、君たちに会いたくて仕方がない。もう数ヶ月もあっていない。だって私は君たちに会いにいけないし、君たちは私に会いに来てくれるはずがないからね。ああ、けれどまるで数年も、数百年も、数千年も会っていない気分だ。君たちの顔を見て、触れて、君たちの実存を、存在を直接感じて、どうしようもない歓喜に震えたい。

 君たちは美しいよ。今までのこの短い人生の中、私なんかに断言できる事象は数えるほどしかなかったけれど、その稀有な機会を用いて私は宣言する。君たちは誰よりも美しい。容姿の美醜もその一因を添えてはいるけれど、何と言っても最たる因は、その内面にある。魂だよ。生来の、それが清らかな、などと陳腐で気障りな白々しい褒め言葉を言う気はない。私は君たちの、生まれた時のそれが何であるかなんて知る由もないし、興味もない。むしろ、そんなもので君たちの美しさを計れるものか。だってそうだろう。生まれたままの魂が何であろうと、それは変化を包括しないはずがない。時の流れに従って、何事も無変化であるはずはないのだ。それこそ無常で、無情と人間は嘆くだろう。だが無上の喜びでもある。君たちの場合、特に。
 例えばまっさらな布が、時を経てその内に汚穢を孕んで黒ずむ様に。公園の綺麗な水溜りに、いつの間にかボウフラが湧き穢れるように。
 そう、あるいは君達が掴んでいると盲信していたはずのものが、たった一日であっさり手の中から消えうせたりするようにね。……私の言っていることがわかるかい? そう、君たちの心の一番深い所に根付いて離れない、あの忌まわしい事件のことだ。君たちの身の回りの人間を、私が殺した瞬間だ。
 時はすべての事象を巻き込んだまま、残酷に冷酷に、歩みを止めないものだから。だから私が美しいというのは、君たちの今の、その魂だ。全てを盲信していた君たちではない。手の内の大切なものは知らない間に平然と姿を消すと、知ってしまった君たちの魂だ。
 痛みを押し隠すことを、その辛さを知りながら、誰にも助けを求められずにいる。私は、そんな君たちが本当に気高くて卑屈で勇烈で可憐で、何よりも愛おしいと思うよ。それを知ってしまった君たちはもう、世界には縋れるものなど何もないと分かってしまっているからね。すべてがすべての関連によって成立し、一人で立つことができない世界なのに、結局は一人で立たなければいけないという二律背反を理解している。無知こそ救いだったのに、知ってしまえばもう戻れやしない。取らなくてもいい目隠しを急に取られて、呆然と立ち尽くしている。だけど時は歩みを止めないから、君たちは縋るもののない苦しみを無理やり何かに昇華して、或いはわざと消化して、時に従う。生きている。
 そう、君たちは生きている。一人きりで立っていると知ることは、不安で怖くて仕方の無いくせに、君たちは生きている。その痛ましい姿。……愛おしくてたまらないよ!
 その魂の姿こそ、私が君たちを美しいという最たる因だ。
 なあ例えば、君たちは何故人が信仰を、神を求めるか分かるかい? 神など、世界中何処を探したって実存のない曖昧なもので、なのに食物や着る物と云った確実に手に取れる欲求物と同じくらい、多くの人間に求められ受け入れられている。君たちはそれを何故だと思うかい?
 私はこう考える、それは世界に秩序を求めるからだ。善行には褒美を、罪には罰刑を、全ては神の与えるままに。つまり信仰の中で原因と結果は、神の意志という一本の糸で繋がっている。例えば天災などの時分に責任のないアトランダムな災難でも、その中でさえ「神の気まぐれ」という信仰の秩序が存在する。そう、秩序。信仰はそれに裏付けられている。人間が信仰を求めるのは、つまりそういうことだ。祈れば叶うし、その意のまま行動すれば、望むものが手に入る。秩序の存在する世界は安定し、実に幸せだ。人間はそれに安心する。だから人間にとって神は、秩序は必要なものだ。そうだろう?
 けど、ああ、君たちは哀れだ。君たちは神にすら縋れない。君たちは見捨てられた。そんなものはない、全てはアトランダムで脈絡のないものだと知っている。知ってしまっているから。
だっていくら祈っても、たった一人の肉親は死んだままだし、恋人も戻ってはこないだろう?

 なあ、縋れないだろう、K、それにMさん。
 だって、な、KもMさんも、君たちは知ってしまっている。つまり君たちは神に、いや無知に、神という曖昧な存在を盲信することさえを許した無知に、見捨てられた。君たちが遭遇した事象はまるで唐突で、結局原因なんか包含しない。Kも、そしてMさんも、何にもしていないのに、信じていた世界は異常殺人犯(私)による実につまらない偶然の選別によってあっさり崩壊した。そう、私がKの恋人やMさんの父親を殺戮の対象に選んだのも、君たちを街で見かけたという偶然に過ぎない。そして、ああ、今思えば、K。……君が刑事という職業に在ることまでも、皮肉なまでの偶然じゃないか。その職業によって、君とMさんは出会ったのだから。神の啓示のようじゃないか(啓示! 皮肉の中の皮肉だな!)。そして私を起因とする、あの事件が君たちにすべてを教えてしまったね。
 見捨てられたんだ。私が君たちを見つけてしまった為に。だって、神様は助けてくれなかったもの、な。いないって、知ってしまったものなあ。
 全部は水が蒸発するようにいつの間にか消え行くもので、掴んだ掌の力など何の用も成さないと知ってしまったものなあ。全人類がもつ無知の権利を剥奪され、瞳を開いていつ崩れ落ちるとも知れない砂上に立つ、それはどんなに悲惨なことか!
 だから、私はそれ故に君たちが愛しいんだ。不安、怒り、悲しみ――そして絶望。それを知った人間を私は美と称するんだ。虚ろな目、理性の失せた表情、体、言葉、……心、魂。それら全ては私のような人間に、知的、詩的、理性的、本能的、性的、それら全てのあらゆる興奮を与えてくれる。悲惨の局地を知った君たちの、それだけではない、それに付随する真実を明かされ理解してしまった君たちは、本当に美しい。……私が君たちの身の回りの人間を殺したように猟奇を好むのは、美しいもの見たさなんだよ。
 だけど実はね、それだけじゃないんだ。それだけなら私は何度でも見てきた。何度も殺してきた。それだけなら、美しいとだけいっても、君たちを私の知る中での美の極とまで言いきりやしない。渇望などしない。私は一度見た芸術品には然程興味を示さない性質なんだ。
 なら、他の私が創造してきた美、それを異と決する決定的な要因はなんだろうね。
……ああ、実に素晴らしい。素晴らしい素因だ。この身が打ち震えるほどだ。

 だって君たちは、真実を知って尚、また縋るものを求めようとしている。絶望を知って尚、絶望を手に取ろうとしている。
 少なくとも、なあ、K!
 君は間違いなく!
 私が、知らないとでも思っていたか? 私が用意した、Mさんの父親のためのアトリエで、君が彼女を見るあの瞳。己を重ねる憧憬に基づく、いや、それを超えてしまった慈悲と愛情と、そのほかの、君の存在の根本に根付いた何か大事なものが表に出て、交じり合った視線。あれが、ただの被害者の女に対する同情の目であるものか。憐憫、不安、焦燥、慈しみ、……挙げればキリがない。だけど何よりも私を驚愕させ、歓喜させた素因だったよ。
 その中混じる、執着の素因子。それは本人が育てようと思って育てられるものではないし、同時に摘み取ろうと思って摘み取れるものではない。
 私はあのとき確信したんだ。君はMちゃんに執着する。間違いなく、全の確立で。彼女を包む君の感情が、愛情……いや、この言葉は陳腐すぎて当たらないな。そう、執着。それに変わるのは、そう遠い日ではない。歓喜に震えながら、そう直感したよ。
また君は絶望を掴もうとしている。あの時の、あの日の素晴らしい表情を私が得る機会を与えようとしてくれる。
 人殺しはな、人の絶望を見ることのできる職業だよ。あの恥と外聞をかなぐり捨てた悲鳴! 君たちは、いや世間は私を気違いだと思うだろうか? それはあの局地を知らないからだ。断末魔のもがきをもがく被害者、歓喜の悲鳴をあげる私。殺意と恐怖だけで塗り潰された素晴らしいアトリエの光景。そこにはあらゆる陰惨なもの、あらゆる卑猥なもの、あらゆる悲鳴、あらゆる色彩がある。地獄の悲鳴、地獄の色彩だ。私はその瞬間、ただの生きた肉塊と化す。一瞬ではあるが、死んでもなお地獄の色彩を描く死体を前に、あらゆる快感が一足束になって、私の脳を痴呆にし、私の目を盲にし、私の耳を聾にし、私の口を唖にする。
 私は殺意と恍惚に今でも身震いする。
 K、そしてMさん。……君たちの表情が、絶望、悲しみ、怒り、一切の激しい感情に支配された四肢が、ぶつける先のみつからない理不尽をこらえて打ち震えるあの姿。私が殺してきた人間よりも、その肉親や恋人たちよりも、何よりも美しかった。自分の殻の中で、泣き喚くことも暴れまわることもしないで静謐な悲しみにくれる姿。ほんとうは痛いのになあ、神様だって殺せる気がしたよなあ。もう悲しみの原因なんて作りたくない、そう思ったよなあ。だって案の定、君たちはそれから世界を遠ざけ始めた。あらゆるところに行けて、あらゆるところから排斥される存在。多くの人間を同じ浅さで愛し、広い心でもって自分の中を覗かれないようにする。君たちの顔には笑顔が貼り付いてしまっているのだろうね。そんな君たちも愛しい。たまらなく、想像を絶するほどにね。

 だというのに、……K。
 君は、……お前は、また大事なものを、作るんだな。
 大事なものはいつか全部消えうせかねないと分かっているのに。
 哀れだ。哀れで愛しいK。そしてお前の恋慕は、いつの日かあの子にまで伝播して、きっと君たちは求め合う。あの日の真実を直感した、私の第二の不吉な予言だ。Mさんもお前に執着するだろう。縋ることの無為を知っていて、それでも尚、君たちはどうしようもない欠失を埋めるものとして、お互いに手を伸ばすだろう。
 絶望を知っても尚、愛慕にかどわかされ、絶望に近づく。……なんて素晴らしい! こんな素質、だれでも有するものじゃないんだ。
 これが私が君たちを美の極と称し、渇望する所以だよ。君たちは本当に素晴らしい。
 ああ、私は早く君たちに会いたいよ。君たちを、美しい君たちを渇望する。君たちは最高に素晴らしい材料だ。会って、君たちを殺してあげたい。最高の芸術品にする為に。
 君たちの不安を、怒りを、悲しみを、絶望を、早く!
 ああ、私の前にあるこんな無粋な鉄格子など取っ払ってしまって、今すぐにでも君達に会いに行きたい。
 絶望のさらにその向こうで、また絶望する人間は、死の間際にどんな表情を見せてくれるのか、今の私は知らない。知らないということは想像の余地が生まれているということだ。故に私は想像し、熱望するよ。それはきっと、どんな砂糖菓子よりよりも甘美で、蜜のように蕩ける絶望の表情だ。私が今まで作ってきた芸術など一瞬で無に帰すぐらいに。
 なあ、君たちがどんな表情を私にくれるのかと思えば、私の胸はいつでも期待に震えている。君たちに再会したらと、私はいつも夢想し、頭の中でその情景を彷彿と描いているんだ。……ああ、そうだね、どちらを殺すのか、それは迷うところだが。
なあ、K。今のところは、私は君よりMさんを殺したいな。
 勿論Mさんにも執着しているよ。私の予言どおり(今のところ何の確証もないが、私はこれが外れるとは思っていない)君に執着した彼女は、君の喪失に実に甘美な絶望をくれるだろうからね。けどそれを置いてでも、私は君の絶望の果てを見たい。
 だって君の最初の絶望は深かった。私はこれでも、材料の下ごしらえはしっかりするものでね。Kについても、Mさんについても、存分に知っているし、これからも知り得る機会を持っている。しかも、大切なものを喪失しても尚、まだ失いたくない周囲を持っている彼女と違って、君は正真正銘に孤独だった。とても長い間。その間、誰にも癒されず、君の心の中で腐れて膿み切った深い傷口。それを、彼女に暖かく撫でられ、優しく舐められて、もう傷が腐っていくのを一人で見続けることはないんだと安堵した瞬間に、その優しく愛しい彼女の手ごと傷を抉り取られた時、君はどんな表情をするのか。稀有なほどの深い深い絶望を味わった君は、もう二度と経験しないはずだったそれに再度晒されて、どんな風に壊れるのか。
 私には想像もつかない絶望を味わうだろう君の、慟哭を、絶叫を、恐慌を、狂気を。
 実のところ、私は、何よりそれがみたい。Mさんよりね。
 ああ、君達に会いたいよ。楽しみだ、実に楽しみだ。こんなに求める存在にあうなんて、この歳になるまで想像もしてなかった。そうか、これが愛情というのだろうな。ねえ、君たちを愛しているよ。誰よりも深く。私の友人のように、恋人のように、子のように、いや、そんな陳腐な言葉で表せられない。それほど深くに、私は魂から君たちを熱望し、渇望し、愛している。そう、愛している。
 愛しているんだ。
 こんなところ抜け出してしまって、早く会いたい。いつ会えるのかな。会えるのなら、出来るならこんな薄暗い牢獄じゃなくて綺麗に晴れた空の下とか、せめて君達がこれから作るだろう幸福の痕跡が垣間見える暖かな場所がいいんだけど(ロマンチストと笑わないでくれ。だって、白い布が赤い血に一等映えるように、美しい光景はすべての瓦解によく似合う)、贅沢も言ってられないね。まあ実際、私は君たちに会えるだけで幸せなんだ。早く会いたい。
 君たちは、いや、K、お前は、私に手折られた血塗れのあの子を見て、どうするのかな。絶望の最果てに何を見るのかな。何を思い、何を感じ、何を為し、どんな表情になってくれるのかな。
 ああ、実に、実に楽しみだ。私は出来るだけMさんを凄惨に、陰湿に、残酷に、ありとあらゆる悪意と憎悪と醜悪を詰め込んで君の前に差し出してあげるよ。その時、君は最高の甘美に絶望してくれよ。
 どうかその時まで、君達は今の絶望から抜け出し、お互いを求め、執着し、そうして幸せでいてくれますように。切に願うよ。だって崩壊するものは大きければ大きいほど、荘厳で美しいと決まっているんだ。
 私の愛しい二人。早く会いたい。いつ会えるのかな。けれど、必ず会いに行くよ。
 必ず。
 それでは、またいつかに。

君たちの中のジョイ・マーダラーより、牢獄から愛を込めて。
2007/06/09(Sat)00:16:32 公開 / 藤野
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■作者からのメッセージ
狂気が正気である狂人を書きたくて書きました。友人に手直ししていただきましたが、流れは私が設定したので、其処に感情の矛盾が無いかなど推敲していただければ幸いです。
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