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『消滅と共に生きて(仮)』 作者:鋒子 / 異世界 ファンタジー
全角12011.5文字
容量24023 bytes
原稿用紙約37.75枚
「私に力など求めないで下さい。たとえ無力がいけないことでも、その逆が良いとは限らない」
 そこに世界はある。
 さまざまな人種と、沢山の自然に恵まれた、大きな世界だ。
 
 その世界を舞台に始まったのは、それぞれの生き方と求めるものを探す物語。
 涙泣き盗賊、兵器と称された姫、美しき盗賊達の師、力だけに愛された王。
 四人が求めたのは……


 ―プロローグ―


 その時、花火がなった。大きな花火だ。
「アルトセゼヌ王の誕生を祝って!」

――3465年15月3日
 アルトセゼヌ王子の誕生日。
 もうこの日は町中、特に城近辺の町なんかはどんちゃん騒ぎ。大通りは王子の顔を一目見ようと集まった人で溢れかえり、空には花火と風船が(きっと子供が手放したものもあるのだろう)散りばめられている。
 いつもは細々と小路で営業している店も、この日ばかりは派手な飾りと目立つ旗を掲げ、必死に通りかかった客をつかまえていた。
 そんな一年で最も大きなパレードの中、年老いた食器屋の店主はいつも以上に輝かしい装飾が施された城を見ながら、誰に言うわけでもなく呟いた。
「いい王子じゃ。私利私欲の為にわし等の金を使ったりもしない。それに、平和を愛している。まだまだ若いが期待してしまうのぅ。そこの若いのもそう思わぬか?」
 食器屋の店主はそういって、店の壁に寄りかかって新聞を読んでいた私に同意を求めてきた。私は新聞をたたむと同じ様に城を見て
「そうですね。きっと王女に似た、優しく強い王子になるでしょう」
同意する。食器屋の店主はうんうん、と満足げに頷き、店へと戻った。
 私がもう一度城を見ると、丁度太陽にかかっていた雲がどき、光が城にあたり、城はキラキラと輝いて見えた。

 きっと、パレードはまだまだ続く。
 王子の誕生を心から祝う国民と、
 単なるパレード好きの奴等によって、続けられるだろう。
 まあ。私にとってはどうでもいい事だが。

 さて。私も今日をはじめよう。
 昔のように『盗賊ごっこ』はできないけれど、
 きっと何かは出来るから。


第一章 そして少女と少年は


−1−


「おい待て盗っ人〜!糞餓鬼〜!」
――3455年3月14日
 その時、物語は始まった。

 此処はこの世界最大の国、キストンの地下街。
 訳ありや曲者達が集う街。
 住宅街から商店街まで、この街には詰っている。商店街は『ないものがない』と言われるくらい沢山のものが並んでいるが、勿論商売をしているのもまた理由があって地下街に住んでいる奴等なので、地上で暮している一般人達は中々近寄らない。
 そう。ここは一般人は近寄らない街なのだ。
 だから犯罪者達の逃げ場となったりして治安は悪くなるばかり。だから此処で産まれ、此処で育った子供にまともな奴はいない。
「こんなおっさんに俺が捕まるとでも思ってんのかよ。もっといい奴派遣して出直せっつの」
「くそ!生意気な餓鬼だな。おいデップ!ちんたらしてないでさっさと捕まえんか!」
 そんな街では子供の泥棒、窃盗は日常茶飯事。住民達もなにも驚きはしない。最も困るのは警官だ。毎日誰かが被害届けを出してくるんだ、忙しくってありゃしない。休暇なんてとれたものじゃないのだ。
 外を歩けばあちらこちらで
「私の財布が取られた件はどうなったのよ」
「通帳が空き巣を狙われて、帰ってきた時にはなくなってたんだ。どうにかしてくれ」
「僕のベティちゃん人形、まだ見つからないの?」
「ああー!!もうそんなの自己責任だろうがー!!」
 と、逆切れすることもしばしば。
 まあ、確かに自己責任だけど。


 地下街には何でもある。
 何でも直せる修理屋に、探し物がかならず見つかる商店街。魔女が経営していると噂がたっている薬屋や、全てが全てお古の本屋。中央街の美術展。
 まあ、あるのはいいものだけではなく
 賊の溜まり場、裏で人身売買をしている酒場、多額の金を請求してくる情報屋。いつ何がなくなっても不思議でない住宅地。

……この街にないものをあげろといわれたら、きっと即答で“安全”と答えるだろうな。


「ふぅ。逃げ切れたかな」
 そんな地下街の住宅地の一角。一人の少年が後ろを確認しながら歩いていた。
 子供と言うには少し大人な、大人というには幼い、微妙な年の少年だった。少年は値札のついた剣を手でくるくると回しながら、住宅街奥にある地上接続階段を目指す。誰かに追われているのか、後ろの確認だけは忘れない。
 少年の胸には一つのブローチが付けられていた。鷹の紋章がはいったブローチだ。そこには殴り書きのような文字で『俺らは盗賊 虹の元』と書かれている。
『盗賊』……それは少年の年には似合わぬ言葉だが、この街ならばその言葉も常識となる。
 少年は――盗賊なのだ。


 同時刻。
「これぐらいの……165cm位?んで茶髪で黒いジャケットを羽織った――とりあえずこのデザインの剣持ってた奴みなかったか?」
「ああ。そりゃきっとヴィルですね。ヴィルでしたら住宅街ですれ違いましたけど」
 先程まで泥棒少年――ヴィルを追っていた警官が、息を切らしながら目撃情報を集めていた。とりあえず近くにいた人に当たってみた結果、上のような情報が入ったわけだ。警官は『住宅街』と聞いてううむ、と唸る。
「住宅街って事は地上に逃げる気だな。今地上に行かれると厄介だ……」
 ぶつぶつと言いながら警官は住宅街に小走りで向かった。

 が、その頃には既にヴィルは階段を登り始めていた。ポケットに両手を突っ込み口笛を吹きながら、一段抜かしで上がっていく。光がある方。そう、地上へ。螺旋状の階段を弾んだ心であがっていくヴィルは、何処か楽しそうで、まるで何かの始まりを祝福しているようで。階段は暗いのに、少年の周りだけは不思議と明るく見える。
――ブワッ
 光が唐突に入ってきた。勿論上からだ。空が見える。
「ひゅぅ。やっぱいいねぇ、地上の空気は。地下にずっといると息苦しいんだよな。二酸化炭素が溢れかえってるっていう感じ」
 ヴィルは一気に駆け上がると、地上へ出た。気持ちいい!新鮮な酸素だよ。
 でもあがって直にいつもと違う町の様子に気付く。町中がお祭り状態なのだ。いや、お祭りの真最中なのか?ここ三日間地下にいたヴィルは、町の行事のことなどすっかり忘れていて、『何で皆賑やかなんだ?』と首を傾げるばかり。

 けれど町中、ホントに賑やかだ。どいつもこいつも明るい顔並べて、楽しそうに踊ったり、お喋りしたり。上品に仕上げた服を着ている者もいれば、あっちではピエロ服の者も。子供達は集団でクルクルダンス。犬はキャンキャン吠え立てて
「ほんと、明るいこと」
 ホントホント。
 それに明るいのは人々だけじゃない。いつもは地味なお店もキラキラの飾り物をつけて、民家の壁には可愛らしいスティッカーがいくつも。きらきらと舞あげられた花吹雪が空を自由落下して街を彩る。空を仰ぐのは何台ものヘリ。花壇も綺麗に整えられて、全く、何の騒ぎだ、といった感じだ。
 ヴィルは自分だけがその祭り事に混ざれていないことを不満に思い、とりあえず今日が何の日か聞いてみようと近くの店――『食器店 枯れ木』――に入った。
「おっす。相変わらず地味な店だなぁ。まず名前から変えてみたら?」
「何だ小僧。入ってきたと思ったら、生意気な口を叩きおって」
 あはは、とヴィル。どうやら『枯れ木』の店主とは仲がいいようだ。店主は70そこらの爺さんなのだろうが、そんな感じのない、元気な爺さんである。
「わりぃわりぃ。それに残念だけど今日は買い物するつもりできたんじゃないんだ。今日って何か大事な日だっけ」
 それを聞いて店主は、眼を丸くすると、呆れ気味に
「お前さん、盗みの技磨く前に脳味噌磨いたほうがいいんじゃないかの。今日はキストンの王子、エトンセト・R・フォルニウス様の誕生日じゃよ」
「は?何て言ったの?ディッチフロッグ?」
「お前さんの耳は腐ってるのかの。エトンセトだよ。エトンセト王子。くれぐれも王子を溝蛙などといわないよう」
 はいはい、とテキトーな返事。店主は改めて大きな溜め息をついた。
――全く、キストン国民のくせに王子の名前も知らないとは、大恥じゃぞ。
 ふと、ヴィルは壁にかかった鳩時計を見て、慌てたように自分の腕時計も確認する。どちらも11時55分。12時の鐘が鳴るまで、あと五分!?
「やっべぇ!師匠と12時に時計台で待ち合わせなんだった!じゃぁな、爺さん」
「む。相変わらず慌しいのぅ」
 慌てて足を滑らせかけながら、大きく手を振ると、壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに勢いよく入り口のドアを開けて、ヴィルは外へでていった。まさしく嵐のごとくだ。
 ドアが閉まり、静寂が戻ってきた店で店主は、外から微かに聞こえるパレードの音を聞いて、若い頃に戻ったような顔で微笑んだ。
「若いはいいの。わしも若い頃に戻りたい」

 さてさてその頃ヴィルはというと、“師匠”との待ち合わせ場所にダッシュで向かっていた。昔っから足は速かったヴィルだから、本気で走ればものの三分でいけてしまうような場所に時計台はある。けれど今日は別格だ。何せ、人だかりで中々前にも進めないのだから。
 何かいいたげに唸りながら、人の少なく、尚且つ時計台に近い道を探した。
――どうしてこういう日に〜っっっ
 足踏みをしながら人の列が割れるのを待つのだが、駄目だ!もう間に合わない!遠くに見える時計台は11時59分を指していた。
「しゃーない、諦めるか」
とぼやいた瞬間、ドォーン……ドォーンと低く重い鐘の音が鳴り響いた。その音を聞きながら、苦笑しつつとぼとぼとヴィルは歩く。
 その時――ちょうど鐘が鳴り終わるのと同時にだ――ヴィルは誰かにぶつかられた、というよりは手から剣を“捕られた”感触に気付く。
 パッと反射的に後ろを向いたが、変な素振りを見せるものはいない。剣を手にしている者も、いない。
「ぬすられた!」
 いや、本人も盗んだ物だけどね。自分を棚にあげて言う。
「おぅい、盗人。何してるんだい」
 突然の上からの声。聞きなれた、懐かしい声。
「師匠!」
 そう呼ばれた女性は、ヴィルから見て反対側の家の屋根の上で、ヴィルから盗んだ剣を片手にウィンクした。
「遅いね。ほら、行くよ」


 性別、女性。年、二十代後半から三十代前半(これに関しては誰も詳しくは知らない)。身長、175p。薄橙に染められた短い髪。動きやすそうなラフな格好。職業、盗賊。
 以上が師匠――ニネの大体の情報である。ついでに外見は都会でも目立つくらいの美人。モデルにスカウトされそうな人であるのだが、腰に巻かれたベルトにぶら下がる銃刀の類がそれをバッチリ拒否している。
 師匠とヴィルは、親子とも、姉弟とも(これは勿論だが夫婦とも)見えなく、まあ師弟というのが妥当なのだろうが、一体何の繋がりがあるのか、と言った感じだ。
 二人は究極人の少ない通りを歩きながら喋っていた。 
「祭りだって聞いてね、折角《仕事》も捗りそうだったからヴィルも呼んであげようかなって思って。ヴィルはこの街が仕事場なんだ」
「まあ、この街の地下で」
「あー、うん。それはおいしいかも。警備が行き届いてなさそうで」
「がらんがらん」
 師匠は少しハスキーな声で笑った。それはいい、と。
 事情ありの子供だけが集まった盗賊チーム『虹』。彼女はその『虹』のリーダーであり、子供達の師であった。
 『虹』には特別なルールもなく、ただ単に、普通に生きていけない事情を持つ子供達の生き方であるだけの物だった。師匠はただ単に、ちょっと歪んだ生き方を教えただけの人。
「そういえば、ベリーやアックルは元気にやってますか?」
 ヴィルがふと同じチームの妹分と兄貴分の事を思い出した。あいつらとも、ずっと会っていない。
「ベリーは今こっちに向かってるらしいよ。アックルは小さな村でちょっとした奉仕作業してるって聞いたね」
「おっ。てことはベリーにもうじき会えるのかー」
「何だ、淋しいのか、このシスコン野郎」
「っな事ないっすから!」
 けらけらと笑う師匠と、焦りながら誤解を訂正するヴィル。
 不意に師匠が笑いを止めた。
「いいニュースばかりって訳でもないけどね」
「へ?何か言いましたか?」
 何でもない。師匠は再び笑顔に戻ると空を指さしながら、何かを言った。
 空に浮かぶ風船の間から見える白い城は、太陽の光を浴びていつも以上に壮大さを出している。ヴィルの直ぐ脇を通って、一匹のツバメが城へと飛んでいった。まるで、ツバメもこの祭りを歓迎しているように。
「城の姫サマや王子サマは飢え死ぬ事なんか考えないで、悠々と暮らせるんだろうなあ」
 ぽつりと呟いたヴィル声は新たに上げられた花火と、人々の歓声で打ち消された。

 その後、くだらない会話をしながら、ヴィルはいつも通りの手さばきで店の品物を次々に自分のポシェットに入れていき、師匠もいつも通りの手さばきで人様の鞄の中から財布をとった。
 夕方に向かって、朝よりはおとなしくなってきた街の雰囲気と同時に、ヴィルと師匠は別れる。まだ街にはいるそうなのだが、今から別の仕事に向かわなければいけないらしい。
「何かようが会ったら私の隠れ家に来て頂戴。明後日まではいるから」
 そう言って別れた師匠の足の長い後ろ姿を見えなくなるまで見送ったヴィルは、再び一人になって、久しぶりにあった師匠の声を改めて懐かしく思った。そうなると別のチームメイトにも会いたくなってくる。
(そういやベリー、こっちに向かってるんだよな)
 今度連絡いれてみよう。
 さて、自分は自分の隠れ家に戻らなければ。
 ヴィルは暮れ始めた太陽も見送りながら、早足で隠れ家に向かう。隠れ家のある地下の住宅街は夜になれば夜になるほど、『危険』なのだ。いつ、何に襲われてもおかしくない。いくらヴィルが盗賊だからといって、やはり子供。武器を持った大人に絡まれては逃げられるか。 
 やばいやばい。



――地下街・住宅街

 
 暗い明かりのない住宅街に、一人の少女がいた。腰までの長い金髪、銀の瞳。格好はあくまでも動きやすさを重視したと見て取れるスポーツ系の服。身長は、ヴィルと同じくらいか、それ以下と言った感じ。
 少女の周りには大人が数名居た。皆武器を持った大人たちだ。リーダーと思われる筋肉質の男が少女に何かを指示した。少女のはっきりとした返事が住宅街に小さく木霊する。
「了解しました」
「よし。行け。朝方までには帰って来い」
 もう一度、了解しました、と少女の声。それを合図に大人達は少女から離れ、瞬く間に闇の中へと消えていった。
 少女は大人達から解放された安堵からか、溜め息のような長い息を吐く。
「ふう……緊張するわね」
 大人達が完璧に視界から消えたのを確認すると、大人達とは逆方向、ひと気の少ない、けれど確実に人のいる住宅街の通りへと少女は向かった。
 少女の手に握られたのはライフルと拳銃の間くらいの長さの銃。少女はその銃をまるで人生を託すかのように、ぎゅっっと握った。


 少女が向かうは住宅街4−3番地。
 ヴィルが向かうは住宅地4−3番地。
 

「あー。もうやっぱ寄り道すんじゃなかった。すっかり暗くなっちゃって」

「まずは、そうね。子供からにしましょう」

「早く帰んないと(あれ?人の気配?)」

(あら。あんな所に丁度良さそうな子供発見)

(つけられてる……一人だな。女か?)

(これなら十分に“手に入る”)

(近づいたらとりあえず“正当防衛”かな)

 50m……25m……10m!

「「動くな!」」

 住宅街4−3番地。
 二つの声と、二つの武器が交差した。


−2−


 真っ暗な住宅街に、向き合うような形で少年と少女が立っていた。
 一方の茶髪の、十代半ばの少年は“以外”そうに、
 一方の金髪の、銀眼の少女は“驚いた”ように、
 眼をぱっちりと開けてお互いを見た。



 事の始まりといえば、十年も前の話。秋独特の空に、枯れ葉と新聞が舞った。
「号外号外〜!ヒリト王の死因が発覚!号外号外号外〜」
 町中が騒然とした日――。

 ヒリト・R・フォルニウス王。
 誰よりも平和を愛し、戦争を憎んだ王だ。
 彼は彼が王として王座に座っていた間、一度も武力による戦争を起こさなかった事で有名だった。全てを討論ですませ、戦死者を出さない。それは国民の心を掴み、尊敬された。
 そんな彼を支えたのは、よき妻、エトリヒア。
 エトリヒアは病弱で、もう寿命が短いと言われていたが、後にエトリヒアと間に子供も産まれ、キストンの未来に雲は全くないように思えた。
 
 だが。

 子供――エトンセトが十九になり、次期王として国民達からも認められはじめた頃、王が築いた平和は崩される。 

「あのヒリト王が殺害されただと!一体誰に?」
「毒殺ですって?噂じゃ病気だと聞いたのに……」
「暗殺者は頭が狂ってる!どうかしているんだ!」

――夜二時三十分  王室にて毒が周り死亡
  周りに居たのはガードマンの五人のみ――
 
 国は混乱したまま、結局犯人も分からず、王殺害の事件は闇へと消えた。
 勿論、国民の中には国に犯人を突き止めるように要求した者達もいた。けれど答えはなく、まるでそれは事件自体を隠すかのように……。 

 王殺害から一ヶ月。
 エトンセト王子が正式に国王となる事が決定した。
 もしその時エトリヒア女王が生きていたならば……けれど女王はとっくに死んでいる。エトンセトが産まれて五年後には、病気により。


 それから一年の間にキストンは随分と荒れたと思う。
 地上ばかりにエリート警官達を集めすぎ、地下の警備はおろそかになり、地下街はどんどん悪い方向へ。
 今までなかった貧富の差は眼に見て分かるほどに広がり、安定しているようで崩れている国へとなってしまったのだ。
 それもそのはず。まだ二十歳の王なのだ。国をまとめられる筈がない。それでも国民は決して彼を責めたりはしなかった。きっと父上が亡くなって混乱しているのだろうと、馬鹿みたいに優しい心で。
 けれど国が崩れ始めているという事実は変わらない。


「今じゃこんな女も殺人かよ」
「そういう貴方もナイフを持つ手付きが慣れてるんじゃなくて?」
「お前のその危なっこしい銃の扱いに比べれば、な」
 今では地下街での窃盗、殺人は当たり前。日常と化した。犯罪者の溜まり場とはまさにここの事だ。
 少年――ヴィルは額に向けられた銃口を、ばれない程度にゆっくりとナイフで背後へとずらしていく。少女の方は全くそのことに気付いていなく、銃の扱いが殆どないことを丸出しとしていた。それが分かるとヴィルは、ばっと足を回して少女の足をすくう。
「あっ!」
 少女はバランスを崩したことに驚き、思わず銃から手を離して横転するとヴィルから距離をとった。次の銃を!と腰に手をのばした頃にはヴィルは、さっきまで居た場所とは別の場所、少女の背後へと回っていた。
「い、いつの間にっ」
「なーにが“いつの間にっ”だ。遅いんだよお前」
――ドスッ
 柔らかいものに強い衝撃が加わる音とともに、少女が前のめりに倒れた。ヴィルがすばやく投げ出された手首を踏んづける。
「ほんと戦いなれてねぇなぁ。見ない顔だし、もしかして地下街での乱闘は始めてかな?にしてはいい銃つかってるね」
「当たり前よ。乱闘なんて普通の人生歩んでたらしない」
「ふうん……でも銃を人に向けた時点でお前は“普通”としては見てもらえないぜ」
そうね、と少女。溜め息混じりの疲れたような声だった。
「ねえ、手首痛いんだけど。もう撃たないから、どいて」
 馬鹿らしい要求に、答えちゃくれないかな、と少女自身も思ったが、案外ヴィルは素直にどいた。別に撃ってきてもいいぞ、避けられる自信ありますから。みたいな行動だったため、少女はちょっとむっとしたけど、実際避けられてしまいそうだからここは穏便にすませることにした。
「ありがとう」
 一先ず礼。銃を向けた相手に礼を言うなんて、おかしな話だけど。
 一方、ヴィルはなぜか少女の方をじっと見つめたまま、何も言わない。おーい、と少女がぱたぱたと顔の前で手を振ると、意識が戻ったかのように、はっ、として
「ああ、ごめん」
謝った。これじゃぁさっきの乱闘が嘘のようだ。そう思って、少女が苦笑すると、ぐぅぅ、と腹のなる音がした。少女の方からだった。今度は苦笑じゃない、照れ笑い。ヴィルは何か思い出したように手提げからあるものを取り出す。
「飯一つ捕れないのかよ。折角だし、一緒に食うか?」
取り出したのはちょっと大きいパンと、三本の缶ジュースだった。少女はそれを受け取ろうかと迷って、結局受け取ることにした。


 それから徒歩一分、ヴィルの家につくと、すっかり警戒を解いた(そこもまた初心者というのか)少女はソファーに腰を下ろして貰ったパンにかじりついた。見た目ほど硬くなく、中々味もいけたので少女の口は進んだ。
「そんで、何でそんな銃もって夜中歩き回ってるんだ?」
 あまりに単刀直入な質問だったため、少女は何て答えていいのか一通り迷った後
「逃げ出したんだ、自由に憧れて。私の家はキストンの中でも裕福な方のお金持ちで、学校もお嬢様校。家ではちやほやされて、自分の立場にうんざりしてた。だから、家出を計ったの。そして地下に逃げた。地上にいたら捜索に当たってる家政婦達に見つかってしまうかもしれないからね。でも私みたいな大金持ちが地下で生きていける筈もなくて、もう駄目かなって思っていたらある団体に助けられた。その団体は私に地下で生きていくための術を教えてくれたわ。……それは誰かから何かを盗むこと」
「それで俺を襲ったわけか」
「ええ。彼らは言った。団体にいれてやる、と。でも掟として今日中に“狙った相手から何かを奪う”をしなくてはいけなかったわけ。これができないと私は団体には入れず、また地下を這いずり回ることになる」
 全部まっさらに喋った(しかもパンを齧りながら)。これで状況は掴めた。全く、変なのに巻き込まれたな。ヴィルはため息をついた。
「不運だな。狙った相手が悪かったんだよ。まあ今日中に、何だろ?今からまた頑張ればいいじゃないか。盗賊仲間だ、応援する」
「盗賊!?貴方が?それで強かったのねえ。ほんっと、狙った相手が悪かったわ」
 苦笑、というよりは悔しさのようなものが多い表情で、少女はちぇっと可愛く悪態をついた。そして貰ったパンと缶ジュースを飲み込むと、時計を見て(ついでに自分の腕時計を確認して)、あと何時間かで今日が終わってしまうことに気づいた。
――ガタガタガタン!
 派手に音をたてて立ち上がると、慌てて鞄をとってドアへと走ろうとして、自分の手首が掴まれる。アホ面でぼけっとする少女の開いた手に、茶色い袋が握らされた。
「持ってけ。お前のその腕じゃ、今日中になんて無理だ」
 茶色い袋は揺さぶるとチャリンチャリンと音をたてた。少女は驚きの目でこちらを見ていたけれど、すぐに感謝の眼差しになって、深々と礼をする。
「盗賊って悪いイメージがあったけど、いい奴もいるんだね。ありがとう。いつか貴方に返せるようにするわ」
「ああ。よろしく頼むよ。利子付けてくれたっていいんだぜ」
 くすっと少女は上品に笑い、最後に別れを告げると背を向けた。

 ぱたん。 

 ドアが閉まる。
 結局お互い名乗れなかったから、きっともう会うことはないかもしれない。でもヴィルは別にそんなのどうでもよさげに、缶とパンの袋を片付ける。必要最低限の家具といくつかのポスター、何種類もの銃刀が置いてあるヴィルの部屋は直ぐにきれいになった。
 ふう。
 こうして改めてみると実に質素で、大事な物はちゃんと揃っている、まあ年相応の部屋だな、と感じる。ま、この年頃の男子の部屋なんて大体こんな感じだろう。あ、勿論銃刀のことはなしでね。
 ヴィルは特にすることがなくなったので、シャワーでも浴びて寝ようかと思った時。ガタッと何かが動く音がした。
 反射的に腰から銃が抜かれ、音のした方に向けられる。銃口の先には
「女の子連れ込んで何してたんですか、お兄ちゃん」
薄ピンクのツインテールと、まだ幼い顔と、そこについた小さな丸い眼が。
 いつからいたの、とヴィル。
「さっきからだよん。ベリー必殺技の一つ隠れ蓑なのー。まあ、何よりお久しぶりっ」
「お久しぶり、ベリー」


 小学三年生並の身長。本人曰く魔法のステッキ(勿論おもちゃ)がトレードマーク。学校に通っているならまだ中学生といった感じのまだまだ幼い女の子、ベリー。ヴィルと同じく盗賊チーム『虹』の一人で、ヴィルの妹分だ。笑顔が可愛い奴で、いっつも黒いローブや、三角帽子を被っている。魔女のつもり……らしい。
 勝手にベットを占領したベリーは持参したクッキーを頬張りながら、さっきから不機嫌なヴィルをちゃかすように
「んで、ナンパは成功したんだ?」
「どう見ても喧嘩だったろうが。何がナンパだ」
 ベットを占領されたあげくに、ナンパ扱いされたヴィルは、久々の再会にも関わらずむすっとしたまま。シャワーをあびて、服を着替えると、ベリーに背を向けるような形でソファーに寝っ転がった。そんなヴィルを相変わらずにやにやと見ている。
 ふと、ベリーが急に顔をかえた。
「さっきの女、なんかおかしい。違和感があった。何度も金持ちの家には盗みに入ったことあったけど、どこか違う」
「作り物、みたいな?」
「かもしれない」
「俺も違和感があったんだよ。それで連れてきたんだけど、あいつ、何かに似てなかった?」
「そこまでは、分からない」
 背中合わせにかわされる会話。抑え気味の、深い声で。子供らしくない、盗賊の会話。
「まあ、師匠にも聞いてみよう。色々調べれば何かでてくるかも」
「そうだねっ。よぅし、はりきっちゃうぞ!」
 ベリーが元気に声をあげて、ヴィルはおやすみ、と静かにいって、その日の夜は終わろうとした。
「あ。ねえ」
 電気が消えてから、突然ベリーが静かにいった。何?とヴィル。
「ヴィルは大金持ちの豪邸とか、お城とかに住んでみたい?」
「……分からない。楽かもしれない。長生きできるかもしれない。でも、縛られるのはいやだな。俺は、これでいい。いや、これがいい」
 盗賊。決して楽な暮らしはできない。なおかつ、大手を振って警察の間を歩くこともできない。それでも、ヴィルはその暮らしが好きだ。『虹』という家族もいる。生きている楽しさもある。ベリーはほっとしたように言う。
「そうだね。私もこのままがいい。さっき、女が盗賊に憧れるって言ったでしょ。もしかしたら、お兄ちゃんはそういう豪華な暮らしに憧れたりするのかなって」
「しないよ。憧れなんて、しない。今の暮らしは不便だと思うけど、不便=嫌っていうのも変でしょ」
「あはは。お兄ちゃんらしい答え」
「もう寝よう。夜更かしはいけないさ。おやすみ、ベリー」

 ベットの直ぐ脇にある小さな窓から見えるのは、星が散らばることのない天井という夜空。真っ暗な世界にあるのは、ゆっくり寝て休めるという小さな喜び。


第二章 逃走


−1−


「起きて!起きてくれないと学校に間に合わない!」
――ベシベシベシベシッッ
「黙れ!」
 朝が来て早々頬を十回も叩かれたヴィルは、これ以上もなく不機嫌だった。

 
 玉子焼きが焼ける音と、出来ての甘い香りと共に、髪の毛をぼっさぼさにしたヴィルがキッチンから出てきた。ベリーは既に制服に着替え、テーブルで待っている。
「お前女だろ。朝飯くらい自分でつくれよ」
「それは私に対する死刑宣告ですか?大体女だからって料理ができるわけじゃないもん。隣の席のミッチャンだって料理できないし裁縫もできない」
 むすっとした顔でそう答えるベリーに軽く呆れた。全く、何でこの歳の女が目玉焼き一つ作れないんだか。

 ベリーは学校に通っている。何で孤児がいけるのかと思ったら師匠が全額だしているらしい。ちなみに、七歳の時に師匠に拾われたヴィルだが、一度も学校には行ったことがない。
 勿論、言葉の読み書きくらいは出来るし、計算だって出来る。生きていくのに困らない程度に知識もある。だから、学校に行けない事を悔しく思ったり、恥ずかしく思ったりしたことはなかったが、ベリーの楽しそうな学生生活の様子を聞いていると、少しだけ妬いたりしたものだ。

「ごっちそう様っ。では行って来るです!」
「ちょ、皿くらい片付けろよ。ホントだらしない」
 今ではたまに自分の家に襲撃(?)してくるベリーの世話をしながら、学校の様子を聞いたり、友達の愚痴を聞いてやったり。然程歳は離れていないのに……。

 女といえば昨日の奴。結局なんだったんだ?
 嵐のように去っていったが――

「テゥルルルル、テゥルルルル、テゥル」
 電話が鳴った。
「はいはい、ヴィルっす。あ、師匠……へ?鉄鉱石っすか?師匠も物好きですねぇ。大体鉄鉱石何て何処にあるっていうんです?……はぁ。んじゃぁその工場に行けと。……まあ暇ですし、いい体解しにはなるでしょう。で、その工場って何処?」
 肩に受話器をかけるようにして頭で押さえながら、何やらメモを取り始める。仕事が入ったようだ。乗り気、ではなさそうだが。
「じゃあ今日中にやっと来ますから、夕方頃待っててください。ちゃんと報酬は貰いますからね!」
 メモを取り終えたヴィルは、少し乱暴に受話器を置く。そしてぼりぼりと頭をかきながら、工場までの地図を描いたメモを見て
「あーあ、面倒」
と、ぼやくのであった。 
2007/09/10(Mon)09:39:15 公開 / 鋒子
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■作者からのメッセージ
 内容を大きく変えた部分があります。今までに読んでくださっていた方々、申し訳ありません。

 こんにちわ、鋒子です。
 新しい名前に変えてからは初の投稿になります。
 にしても、描写が恐ろしいくらい足りないですねー><
 異世界ファンタジーを書くにあたって、描写、世界観、キャラクターはとっても大事なものなのに、どれもこれも中途半端……。

 なんにせよ、ここまで読んでくださった方、有難う御座います。
 コメントくださった方、物凄く有難う御座います。
「おいおい。色々間違ってるぞ、こいつ」と思いましたら、言ってくだされば嬉しいです。

 亀のように遅い更新ですが、よろしくお願いします
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