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『サッカー少年正輝!』 作者:グルコサミン / お笑い ショート*2
全角2141文字
容量4282 bytes
原稿用紙約7.15枚
サッカー少年の正輝は今お笑いの通信教育を受けているのだ! がんばっているのだ!
「ごめん隆司、俺、お笑い芸人になりたいんだ」
正輝がそう言ったのはちょうどサッカーの全国大会決勝の試合中だった。
「ちょっと! お前こんな時になに言ってるんだよ!」
相棒の隆司が言った。隆司は正輝の幼馴染で一緒にプロになることを夢見てがんばってきた親友だった。
「ごめん。俺言ってなかったけどサッカーよりお笑いの方が好きなんだ」
「そうなのか……。それならまぁ仕方ないな」
隆司は残念だと思った。正輝の最大の持ち味のシュートはすっごくまっすぐなシュートでそのシュートのまっすぐさだけは誰にも真似できないものだった。
「お前のまっすぐなシュートもう見れないのか……」
「そうだな、だけど俺のシュートまっすぐだからすぐ止められちゃうんだ」
そうなのだ。正輝のシュートはとてもまっすぐなのだがそのまっすぐさゆえにキーパーに止められやすいのだった。
「そうだなお前一回もシュート入れたことないもんな」
そう、そんな正輝がなぜ全国大会のスタメンに入れるかというとこのチームの監督が正輝のおじさんだからなのだ。正輝は何度もおじさんに頼んでも入れてくれなかったのだがお金を渡したら入れてくれたのだ。
「隆司、俺昨日寝ないでネタ考えたんだ聞いてくれるか」
「おう! 親友のネタを聞かないでどうするってんだ」
隆司は人差し指で鼻をこすった。その時だった。審判のホイッスルが鳴った。
「はい、前半終了です」
正輝達はベンチに戻って行った。監督が言った。
「正輝、隆司! お前達なにもやってないだろ! ベンチに入ってろ!」
監督は怒りに震えていた。だが正輝はひるまなかった。こっそりと監督にしか見えないように人差し指と親指でわっかを作って見せた。それは後でお金を渡すというサインだった。
「やっぱりベンチ入りはなし! お前達は今までどうりがんばれ!」
仲間の選手からは非難の嵐だったがそれにも正輝はひるまなかった。選手一人一人をこっそり呼び出し人差し指と親指でわっかを作って見せた。
「よし、みんながんばろうぜ」
 チームが一つになった瞬間だった。ただいま両者の得点は0対0で力は拮抗しているのである。
 そしてホイッスルが鳴り後半戦が開始された。
「敵のキーパーはすごいぜ! どんなシュートでも止めやがる!」
そう、敵のキーパーはとてもすごい奴だった。前半戦で俺たちのチームが打ったシュートは合計50本を超えていた。だが敵のキーパーはそれをすべて止めたのだ!
「だが俺たちのキーパーも負けちゃいない!」
そうなのだ。俺たちのキーパも前半60本ものシュートを打たれたのにもかかわらずそのシュートをすべて止めたのだった。
「敵のシュートはすべてまっすぐだ! ゴールは俺に任せろ!」
俺たちのチームのゴールキーパーが言った。いや、向こうのゴールキーパーも今同じ事を言っていた。
その言葉で両者の監督があることに気づいた!
「おい! お前ら! まっすぐなシュートだったらすぐ止められちゃうだろが!」
両方のチームが間違いに気づいた瞬間だった。
 そこからの両者の戦いはすごいものだった。入れたら入れ返し入れ返されたら入れるの繰り返しで点差は拮抗したまま試合は終わりに近づいていった。
「おい! キーパー! ちょっとはシュートを止めろ!」
監督が叫んだ。だがその声は正輝の叫び声にかき消された。
「おい! 正輝! ちょっと面白くないって言ったからって、そんなに錯乱しないでくれよ」
「キョエー!」
正輝は叫び続けた。そう、たった今正輝がとっておきのギャグを披露したのだが全然面白くなく、隆司が面白くないと正直に言ってしまったのだ。
「おい、もうそろそろ止めてくれよ」
「……。俺のギャグ面白いよな!」
「うっ……まぁ関節をはずすところは……」
隆司は言葉に詰まった。そして正輝のギャグをもう一度思い返してみた。……まったく面白くなかった。関節をはずしたのも逆効果だったと今は思う。
「……面白いよな!」
そう言った正輝の右手には人差し指と親指でわっかが作られていた。
「うん、最高のギャグだったぜ!」
その時の隆司の笑顔は誰にも真似できないほどの最高の笑顔だった。
 審判のホイッスルが鳴った。
「はい、後半戦終了です」
 結果、正輝たちのチームは50対62で負けてしまった。
「くそー!」
正輝が悔し涙を流した。今までの自分の努力を思い出してしまったのである。
「くそ! あんなにがんばったのに負けちまった」
「正輝! がんばったんだからいいじゃないか! なっ!」
「隆司!」
二人は腕を組んでフィールドを後にした。だが二人の涙は枯れる事はなかったのである。
 試合会場を出た時、監督が言った。
「よし! みんな! 焼肉でも行くぞ! 今日は俺のおごりだ!」
だが正輝はそこでもひるまなかった。
「あっ! すいません、僕、今日合コンあるんで。これで」
「あっ、そうなの? うん、ごめんね……」
そして正輝は颯爽と合コン会場に向かったのだった。その瞳は輝きにあふれていた。
 だが今日やる事は合コンだけではない。通信教育でやっているお笑いの課題も今日出さなければいけないのだ。
 正輝は今、夢に向かって走っている!





2007/01/12(Fri)16:52:56 公開 / グルコサミン
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