オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『逃避のモラトリアム』 作者:走る耳 / 未分類 未分類
全角6334.5文字
容量12669 bytes
原稿用紙約17.7枚
高三の夏。夏休みテストの勉強をしている夜に、僕を襲ういらだち。


 冷蔵庫から麦茶を取り出すと、食器棚から取り出しておいたコップになみなみと注ぐ。その中にいくつもの氷を入れたものだから、コップから麦茶はあふれ床にこぼれる。しかし僕はそんなことは気にせず、二階にある部屋へと戻ることにする。
 その途中、二階の廊下に放り投げてあった週刊誌をぱらぱらとめくる。先週号だったため話の内容はすでに知っているものだったが、僕はその場で座り込み麦茶をちびちびと飲みながら幾つかの人気連載を読む。さっきこぼした麦茶が手についていて、週刊誌の紙はよれよれになる。
 面白くはない、そう僕は思う。しかし、だからといってすぐに手放そうとは思わない。普段どおりにすらすらと目を通したり戻って詳しく読んだりして、僕は時間を稼ぐ。
 僕は部屋に戻りたくない。顔を上げればすぐ目に映るほど近くにある僕の部屋のドア、それが一つの境界線を示しているためである。しばらくすると、僕は重い腰を上げて、部屋に戻ることにする。面白くない週刊誌を読み続けるのがそろそろ疲れてきたからである。
 部屋のドアは普段とは少し違い、耳触りな高音を立てながら開く。僕はこの家の老朽化が少し進んだことを感じる。些細な出来事の一つ一つが僕のいらだちをつのらせる。埃の出方が最近激しくなったのは父親が子供の頃から使っているという絨毯のせいだと感じているし、真っ黒なカーテンがこんなにボロボロなのも年老いたからだと思っているし、はたまた勉強が捗らないのもそれらの外的要因の責任だと僕は信じている。
 その老いぼれカーテンは光を遮断する力には優れていて、昼間でない限り、どんな月光だって部屋に通しはしない。明るいとなかなか眠れない僕だから、このカーテンを昔は頼れる味方のように感じていた。しかし雅に欠ける気がし始め、高校に上がってからは余り閉めなくなった。それから二年以上が経過した今、僕は学校で居眠りをするようになり、それに伴い明るい場所でも眠れるようになった。
 とにかく、この部屋を今照らしているのはたった今つけたスタンドライトだけなのである。それが真っ先に照らし出すのが机上に無作為にちらばる勉強用具で、それを見て僕はため息をつきながら椅子に座る。そして手に持っていたコップを机の右端に置くと、転がっている消しゴムやシャーペンを整理し、要点に緑色のマーカーが引かれている教科書を閉じて、目の前に置く。
 僕はふと携帯電話の存在を思い出す。椅子から少し距離のある、僕の背後のベッドの上にさっき放り投げたのだ。メールを誰かをしていた訳ではなかったが、誰かからメールが入っている可能性も零ではない。僕は席を立つ。そして携帯を確認するが、メールも着信もなかったので、僕はまたベッドに放り投げて椅子に戻る。
 それからしばらく部屋中を見渡していたが、特に興味をそそられるものもなく、僕は自分の趣味の少なさに悲しみを覚える。部活にも入らずに、何に熱中することもなく、高校最後の夏休みを迎えてしまった悲しさである。ただ友達と遊び呆けていた記憶しかない。それによって何か徳を得た訳ではなく、教訓は幾つか学んだが生かせている訳でもない。ましてや、技能など何一つ僕の手元にはない。
 僕は机に向かいなおし、教科書を開く。さっきは音楽を聴きながらだったが、今回はノーBGM。どこまでやったか思い出せない程勉強に身が入っていなかったのだということが、教科書を開いてわかったからだった。
 緑のマーカーが引かれている部分に赤いシートを被せると真っ黒になり見えなくなる。それが普通なのだが、マーカーの色が薄かったのか、赤いシートを被せても一向に文字は見えなくなる気配を見せない。それにより隠しながら穴埋めをするつもりで教科書を読む、という計画は崩れる。しかし僕は特に気落ちをすることもない。逆に安堵するくらいである。僕はまた、ただ教科書を読みながら緑のマーカーを引くことにする。
 クーラーの効いた部屋は、どこか肌寒くも感じられ、残暑、熱帯夜といった夏の風物詩など微塵も感じられない。快適に僕は勉強を進めていく。緑のマーカーを片手に、教科書の太字の部分を探してラインを引く。勉強というより作業に近く、マーカーとは逆の手に麦茶のコップを持ち、ちびちびとそれを飲みながら進めていく。
 無言の部屋に、コップに当たる氷だけがうるさく響く。夏休み明けのテストの結果が悪ければ、きっと親もうるさくなることだろう。僕が通うのは附属校である。高一の一学期中間から高三の二学期期末までの成績を足した合計点で順位を出し、高い者順に行きたい学部を選べるというシステムだ。一年時から比べて、僕は随分と順位を落としてきた。親はそのたびに、今取り戻さないと大変なことになるぞ、と僕に言った。僕はそれを真摯に受け取った振りをしながら高三の夏まで引っ張ってきた。
 僕は附属している大学で最も有名な学部に入れるかどうか、この夏休みテストを含めた残り三回のテストで決まるような、微妙な順位にいる。ここいらで一念発起をする必要がある。だがその学部に行きたいと強く願っているわけではない。どちらかといえば、行きたくない。しかし、僕は大人の世界を知らないのだから、教師と親という最も身近な大人に反抗できるハズもない。これまでの再三に渡る三者面談で聞かされた、就職に優位になる、という言葉に動かされて志望をその学部にしてきた。
 それが愚かなことであったかどうかなど、僕にはどうでもいい。学部の最終決定は二学期の中間後なので、それまでに行きたい学部を見つければいいと漠然に僕は思っている。
 机につっぷして、僕は思う。とにかく、今は勉強をすればいい。今は。

−−−ゴーン、ゴーン。

 どこかで鐘の音が聞こえた。それに驚き(驚いたふりをし)、僕は椅子を降り窓際に向かう。そして老いぼれのカーテンを思い切り開く。窓からは、いつも通りの風景しか見えない。この家は多摩ニュータウン計画に便乗する形でどこかの名も知れない連中が作った都内住宅の一つである。都内といっても、随分と山梨県に近い位置にある。それはともかく、つまりこの窓から見える風景はおよそ都会らしくない、緑溢れる住宅地なのだ。聞き間違えるにも、車一台この時間には通らないのである。
 僕は少しいらだちを覚える。今は夜の十一時前である。こんな時間に鐘を鳴らすのは、明らかに常識外ではないか。仮に鳴らすのなら十二時にするべきだろうし、これではセカサレテイルようで腹が立つ。僕は窓を開いたまま席に戻る。そうしておけば、次に鐘が鳴った時にすぐに駆けつけ音の正体を見破れると思ったのである。
 勉強をしながら(しているふりをしながら)僕は音が再び鳴るのを待つ。そこにあるのは好奇心ではなく、怒りと、形のない怯えだ。その感情を焦りと考えるのもあながち間違いでないかもしれない。自分の感情すら断定できないなんて。僕は混沌とした感情を持って、シャーペンを持つ。
 鐘はなかなか鳴ろうとしない。もうさっき鳴ってから十分が経過している。いらだちは募るばかりである。教科書はすでに閉じられ、上には丁寧にもシャーペンと消しゴムが並べておいてある。僕はもう何をすることも出来ない。ただ音が鳴るのを、窓を眺めながら僕は待っているだけである。少し離れた椅子から、窓枠を眺めると空しか見えない。月明かりが唯一の頼りである空しかしその月も雲にかくれはじめたらしく、十分もした頃、空は真っ暗となる。
 待っているのがばかばかしくなってきた頃、僕は教科書の上にあるシャーペンを手に取る。そして教科書を開く。ふと飲みかけの麦茶があったことを思い出し、机の右側に置いてあるコップを手に取り、ゆっくりと飲む。まだ小さな氷が残っているが、気にせず僕は飲み干す。すると今度は廊下に置いてあった週刊誌が気になり始めた。僕は椅子を立ち、部屋のドアを開け

−−−ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 僕は勢いよく振り返り、窓に飛びつく。鐘の音は宙をふらつきながら、ゆっくりとフェードアウトしていく。窓に勢いよくぶつかってきたのだと僕は感じる。それを宣戦布告と受け取り、音の発信源を求めて僕は部屋を出ることを決意する。鐘の音は僕をいらだたせるのである。時計を確認するとまだ十一時四十分であった。まだ、十二時になってはいない。それが僕にはどうしても許せない。
 廊下を過ぎる時、足元に週刊誌が放置してあるのを発見する。踏んで転んだりしないように気をつけながら、僕はそこを通り過ぎ、階段を降りる。玄関に辿り着くとさっさと靴を履いて家を飛び出そうとする。
 ドアを開けると、うだるような暑さが流れ込んでくる。夏の夜に涼をとるのとは訳が違う。熱帯夜である。残暑というより夏真っ只中といった方が似合っている気温と湿度である。僕は気温の壁をぶちやぶるようにして、外へと飛び出す。そこには、昼間とは全く違った世界が広がっている。
 悶える様にうなる森。何をはらんでいるかもわからない、真っ黒な木々。昼間の名残すら感じないコンクリートの道路。道々の草が町を象り、空の黒が影絵のキャンパスの八割を占めている。それら全てが僕を忌むべきものとして、受け入れようとはしない。だが僕にはそんなことはどうでもいいのだ。少なくとも、僕が忌むべきは鐘の音。不条理とも理不尽とも思える鐘がどこで鳴っているかを突き止め、鳴らしている人に文句の一つも言ってやらなければ気がすまない。
 閑々、漠々。
 僕は住宅地を駆けずり回る。見知った(見知らぬ)迂曲した道が目の前を通り過ぎていく。どこに足を伸ばしても、そこには見知った(見知らぬ)風景しか広がっていない。幼稚園の年少の時引っ越してきたこの住宅地。友達と遊んだ記憶がある公園、友達と喧嘩した覚えのある道端、中学の時にファーストキスをした元カノの家の前。僕の記憶のほとんどを共有してきた住宅地を敵に回している気がして、少し後ろめたさを感じる。なぜなら今していることは過去と僕が対立していることを明示していたし、それは自分を否定しているようにも思えたからである。
 それもこれも全て鐘のせいなのだ。早く鳴り所を見つけ出したいという焦燥感が心に満ちていく。僕はどんどんささくれ立っていく。しかし、幾ら探しても周りは真っ黒なシルエットばかりで鐘などとても見つけられる気がしない。もう一度鐘が鳴ればいいのに、そう願いながら僕は走る。
 そして一つ、この周辺には神社もなければ寺もないことを、僕は思い出す。鐘が鳴るなら学校のチャイムぐらいなものだ。しかしそれだって本質の異なったものである。そう気が付くと、いとも簡単に僕の決意は折れそうになった。いや、僕は折れるチャンスを狙っていたのかもしれなかった。それは、この町と和平条約を結ぶ唯一のチャンスだったからである。
 僕はじっくりとあたりを見回してみる。あそこは勉強嫌いな大樹の家、そっちのは勉強大好きな吉田の家。そして、あの角を曲がって突き当たりのところにあるのが、丸山の家だ。それを思うと、俺は不思議と少し苛立つ。
 丸山。俺の嫌いな奴の一人である。俺が入れるかどうかの学部に、丸山は内定をもらえる程の成績を誇っている。そして丸山はその学部入った後、どこに就職するか、加えてその後の人生プランまではっきりと立てている、ナルシストな奴なのだ。どこがナルシストかというと、人生をそう上手くいかせられると信じているところである。とにかく、奴のことは嫌いだ。
 そう思い、その道の逆方向に歩き出そうとすると、真っ黒な世界を照らしながら、空から強い光が降りてくる。それは僕に向かって真っ直ぐと降りてくる。僕は驚いて、しりもちをついてしまう。強すぎる光に、僕はしばし目を閉じる。そしてようやくそれを開いたかと思うと、世界は光に包まれている。
 何が起こったのかわからず、僕は怯えて丸くなる。辺りを見渡すと、どこまでも光で距離感が掴めない。地面の存在すら危うい。僕は必死に自分にしがみつく。それは、それを離せば崖から落ちてしまうようなシチュエーションにも似ている。とにかく、僕はもう生きることで精一杯である。それ以上の何かを考えることも出来ない。
「何故、そこにとどまっているんだい? ここまでおいでよ!」
反射的に、声のした方向に顔を向ける。そこには羽つきの帽子を被り、緑色の服をまとった少年が踊るように立っていた。妙にニヤニヤしていて、挑発しているようにも受け取れる。
「僕が、君を大人にならない国に連れてってあげる」
突然の出来事、言葉の連続に僕は絶句してしまう。状況を認識しようにも、まばゆい光に満ちた世界で、正常な思考がなかなか取り戻せない。落ち着こうと四苦八苦の僕を尻目に、やはり少年はニヤつきながらステップを踏む。
 その様子を見ていると、僕はだんだんと心が落ち着いてくる。それを見計らってか、少年は言葉を続ける。
「君が望むから、僕が迎えに来てあげたのさ」
「望むから? 何を?」
「だから」
少年は踊り続ける。それでも話が真剣なものに感じられるのは、この光の世界のおかげだろう。少年は続きの言葉をつづる。
「大人になりたくないんだろう? ずっと子供の時間に留まっていたいんだろう? だから、僕が連れてってあげるというのさ。大人にならない国にね」
「別に、大人になりたいなんて思ってない」
「じゃあ何故、大人になる準備をしてこなかったんだい?」
「大人になる準備?」
「そうさ」
少年は踊るのをやめ、僕の顔をじっと見つめる。
「君は大人になる準備をしようとしなかった。君は少しでも長く子供でいるために、最大限の抵抗をしていた。だから、僕は君に手を貸してあげようと思ったんだ」
わからない。何を言っているのか、よくわからない。だけど、少年の言葉は僕の自尊心を強く傷つけるもので、ひどく憤りを覚える。
「子供であろうとした覚えなんかない」
「うそだね」
「うそじゃない」
「うそだ」
「うそじゃない!」
僕は少年に殴りかかる。少年はそれを予期していたかのように、僕の拳をかろやかに避けて、光の粉を撒き散らしながら空に飛び上がる。
「全く。本当に君は子供なんだから」
届かない場所から少年はそう告げると、僕に対してあっかんべーをする。そして螺旋を描きながらどこかに飛んでいく。彼が視界から消えたと同時に、世界は一気に色を変える。
 光、敢えて言うなら黄色から、紫。それが今の世界のバックグラウンドである。見ているだけで、吐き気のしてくるような暗い色だ。僕はさっき程の不安はなかったが、しかし少年の言動で揺さぶられて感情は高まっている。
 
−−−ゴーン、ゴーン。

反射的に僕は立ち上がる。見ると、目の前に大きな鐘が空から吊り下げられており、誰かがその鐘を思い切り叩いている。僕は怒りに任せてその人に飛びついた。その人はそれを避けようともせず、僕が馬乗りになるのを簡単に許した。息を切らせながら、僕は男に問う。
「何故、十二時にもならないのに鐘を鳴らすんだ」
男は答えない。こんなに至近距離なのに、顔はにやつく口の部分を残して、真っ黒なシルエットしか見えなかった。
「答えろ!」
男は答えない。僕はその男の顔面を思い切り殴った。すると、その男も下から僕のことを殴り返してきた。僕は驚いて、彼の顔を見つめる。
 その男は僕だった。
「何故鐘を鳴らすかって? 君の猶予期間がとうの昔に終わっていることを知らせるためさ」
(男)僕は笑う。握った拳を僕達は下ろす。僕は閉口せざるを得なかった。
2006/11/01(Wed)00:11:16 公開 / 走る耳
■この作品の著作権は走る耳さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも走る耳です。

どーしようもないですね。ラノベ系の方が僕には書きやすいようです。

それから、あえて現在形を乱用して書いてみたのですが、結果、いつもの僕とは印象の違った文になりました。

意見、感想、簡単メッセージ、なんでもお待ちしています。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除