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『空の宝箱』 作者:松葉 / ファンタジー 異世界
全角12265.5文字
容量24531 bytes
原稿用紙約32枚
不思議なアイテムをもたらしてくれるという空の島、カスケット。だが、そこには理想の宝箱とは程遠い憎しみがあった。少年リーフは、ひょんなことからそのカスケットに行き、現実を知る。カスケットに住む精霊たちは、人間に対して復讐を考えていた。リーフは、精霊をとめるために行動にでる。
 「らっしゃい!よってって!いいものが手に入ったよ。」商人の啖呵売の心地よい声が聞こえてくる。いつもとなんら変わらない市場に変わらない人々、ただひとつ変わっているのは自分かもしれない。「お、兄ちゃん。どう?今日はいいもの入ってるよ。」豊かなひげを生やした老人が、商品を指差した。その老人の風貌からか、その場は空気が落ち着いていた。商品の中、ひときわ目を引くものがあった。
“カスケットの葉”…10万キース。
その商品は、異常なまでにまばゆい光を放ち、小さな太陽のようだった。「今朝、仕入れた代物さ。万物の治療に聞く葉っぱだよ。」「しかし、高いな。」横で見ていた大柄な男が言った。「そりゃ、カスケット産だからね。貴重だからなあ。」老人は、豊かなひげをさわりながら得意げに語った。
  僕の手持ちは、4万キース、買うことができない。僕は、無言でその場を後にした。背後で、うーん、よし買った、という声とどよめきが聞こえた。僕は、この雑踏から早く逃げたい一心でその場を後にした。
  市場からどのくらい歩いただろうか。目の前に苔むした一軒の家が見えた。その家の姿は、なぜか心を和ませる。「ただいま、母さん。」家のドアをあけた。「ただいま、スカイ。」足元にまとわりついてきた愛犬をなでた。「おかえり、リーフ。薬、買えた?」「ああ、買えたよ。さっそく飲ませなくちゃ。」僕は、買ってきた薬を砕き、家畜のえさに混ぜた。「これで直ると思う。」僕は、家畜達に薬入りのえさをやるため、ドアを再び開けた。「母さん、あの…。」「何?ああ、ご飯なら戸棚に…コホコホ…戸棚に入ってるわ。」「あ、ありがとう母さん。」僕は、異様なにおいのするえさをじっとみつめながら家を出た。
僕は、えさを家畜にあげると家に戻った。もう、母の姿はなかった。部屋にはしっとりとした砂の臭いだけがあった。「母さん…。」僕は机につっぷした。母は、つい三日前に他界した。母の病は、不治の病で、いや、正確には不治ではない。“カスケットの葉”、あれさえあれば母は死ななかった。だからリーフはあきらめきれないでいた。もし、お金があれば、もし僕がもっと働いていれば…。リーフは、あきらめきれない苛立ちを“カスケット”のせいにしていた。リーフは、外へでた。家の前に広がる草原を走った。風のように走った。リーフは、立ち止まり空に向かってつばを吐いた。「カスケット、お前が母さんを殺したんだ!」ぼくは、その場にしばらくしゃがみこんでいた。いつしか眠りこけていた。
  僕の目覚ましとなったのは、竜の咆哮かと思われる大きな音だった。目を開けると、空には見たこともない船が無数に飛んでいた。「なんだあれ!」僕は、しきりに船追いかけた。船は、そのまま町へ向かった。僕は、家に入り、布団にくるまりそのまま朝までじっとしていた。
  明日、船の飛んでいった方角へ向かうとそこには荒野が広がっていた。僕は、愕然とした。昨日まではたしかに町があったのだ。僕は、何があったか知りたくて瓦礫をどかしている男に声をかけた。「すいません、いったい何が。」男は、怪訝そうな顔を見せた後、しぶしぶ話した。「隣国のジュレキアが宣戦布告してきたんだ。どうやら、ジュレキアはカスケットの武器を手にいれたようでね、空飛ぶ船には何もできないよ。」男は、瓦礫の中から荷物を引っ張り出すとそのままどこかへ立ち去ってしまった。
また、カスケットか。「ふざけるな!」僕は、空に向かって石を投げた。
  そのときだった。その石は、あきらかに違う大きさとなって目の前に落ちてきた。「なんだこれ?」僕は、その物体を拾い上げた。その物体は、キラキラしたきれいな石だった。僕は、その光に魅了され、石を持ち帰ることにした。
  「スカイ、見てごらん。」帰った僕は、たった一人の友人であるスカイにその石を見せた。石は、光り輝いていた。僕は、石を友人の足元に置き、天を仰いだ。「この石、売ったら高かっただろうに、市場がなきゃ何もできない。」僕は、途方にくれていると閃光が家中に走った。「スカイ!」僕の友人は、光につつまれた状態で横たわっていた。体は温かいがぐったりしている。「スカイ、スカイ。君までぼくをおいていくのか。」僕は、スカイの体を顔に押し付けて泣いた。「カスケットなんてなくなっちゃえばいいんだ。」そうつぶやいたその時、声が聞こえた。
  「カスケットを悪く言うもんじゃないよ。」驚いて顔を上げるとスカイがこちらを見据えていた。「ス、スカイ!生きていたのか!」僕は、スカイを抱きしめようとしたが、スカイはそれを拒んだ。その仕草は、犬のそれではなく、人間のものだった。
  「男に抱きしめられる趣味はないんだ。悪いけど。」僕は、目の前の光景が信じられなかった。スカイが両の足で立ち、手を、いや前足を腰にあてしゃべっているのだ。「スカイ、どうしちゃったんだよ。」僕は、目を皿のようにしながらたずねた。「スカイ?ああ、こいつの名前か、じゃあそれでいいや。俺は、カスケットの精霊だよ。今はこのわんちゃんの体を借りてるのさ。」僕は、カスケットという言葉を聞いて表情を変えた。
  「カスケットだと。そんなもの!どっか消え去ってしまえ!」僕は、怒鳴るとスカイは前足で耳をかきながらこう答えた。「カスケットならそのうち消えるよ。残念なことだけどね。」「え?」僕は、耳を疑った。カスケットというのは空にあると考えられている国である。ごくまれに、不思議な道具や植物が空から落ちてきて、そのものは不思議な力を宿している。たとえば、“カスケットの葉”は、あらゆる病を治すことができる。そのことから人々は、「宝箱」の意味をこめて“カスケット”と呼称している。そのカスケットが無くなるとはどういうことだ。
  「カスケットは、もう維持できない。徐々に力を失っている。そのうち、落っこちてくるよ。」「スカイ、何を言ってるんだ。カスケットは空浮かんでる島で落ちてくるなんて。」僕の話を聞いていたスカイは突然笑い出した。「ハハハ、人間たちはそんな風におもってるんだ。カスケットって呼んでるのは聞いてたけど浮かんでる島か。ハハハ。」「な、何がおかしいんだ。」僕はなんだか恥ずかしくなって半ばむきになって言った。
  「カスケットってのはたしかに、空に浮いてるし雲の中にある。だけど、島じゃないし、土もない。」スカイは、呆然とするぼくを無視して、とうとうと語った。「精霊たちの住処さ。雲の中に住んで、世界を巡り自然の森羅万象、つってもわからないかな。要するに自然の管理をしてるんだよ。」僕は、人事のように語るスカイが許せなかった。“カスケット”のせいで母さんは死に、町は破壊された。「じゃあ、なんでこんなことするんだ!母さんを、町を…。」僕は、スカイをにらみつけた。「母さん?おいおい、お前の母親の病気は関係ないだろ。ま、それはそうと町は俺たちのせいだな、確かに。」スカイは、軽く頭をさげた。
  「俺たちは、自然を管理、調整するとき物に憑依するんだ。木とか石とか。当然、毒に犯された森とかがあれば伐採するために斧とか剣に憑依することだってある。俺たちが憑依したものには少しだが、俺たちの力が宿る。だから、人間界にそれを残しておくわけにはいかない。だから、カスケットに持って帰るんだが、ごくまれに落としちまうんだな。」「それが、空から落ちてくる…。」「そう、アイテムってわけだな。」僕は、スカイの話を理解しようとした。でも、なぜ武器を落とすのか理解できなかった。それを考えるとどうしてもわからない。
  「でも、なんで武器を落とすの?自然を壊すものだよ。」スカイは、前足を前にだし、まあまあというジェスチャーをした。「話はまだあるんだ。さっきいったろ?カスケットは、もう無くなるって。自然の修復や改善に俺たちは力を使いすぎてもう空を維持できなくなってるんだ。だから、空に上げた武器がおっこっちまったんだろう。リーフ、だっけか?お前さんの言うとおり自然を壊すものは絶対落としたりしないからな。」「力を使いすぎた?なんで?」僕は、もしやと思い聞いた。スカイは、予想通りの回答をした。「お前さんがた、人間のせいさ。」スカイは、続けた。その目には怒りがこもっていた。「あんたらが、自然を直しても直しても壊し、自然を作れば作るほど、それを使って商売をする。俺たちはもううんざりしたのさ。だから、もうカスケットをつぶすことにした。」僕は、そのときはっとなった。もし、カスケットがなくなったらどうなってしまうのか。「もし、なくなったらどうなるの?」スカイは、ニヤリと笑って答えた。犬の笑顔はなんとも不気味だった。「雲が力を失って落ちる。まあ、大雨、大洪水だな。人間は、きれいさっぱり洗い流される。」僕は、背中に冷たいものを感じた。川を流れる葉っぱを想像していた。人が大勢死ぬのだ。でも、たくさんの人が死んだところで僕は、何を悲しめないいのかわからなかった。母はもういない。もう、失うものはない。
  「勝手にするがいいさ。」僕は、そういいながら布団に向かった。「待てよ。」後ろから髪を引っ張られた。振り返るとスカイは、またぐったりしており、目の前に風につつまれ、背中に羽の生えた男が立っていた。「お前、勝手にってどういうことだ。」「言葉のとおりだよ。僕にはどうでもいい。」僕は、精霊の目をにらみつけながら言った。「俺たちが苦労して直した自然を壊して、そのペナルティを思い知らせてやろうとしたらこんどはそれか。」その精霊は、天を見上げた。「どこまで横暴なんだ。」精霊は、僕の目をじっとみてこういった。「お前のそのせりふは、人間みんなそういうのか。」僕は、なんだか面倒くさくなってこういった。これが、すべての引き金になるとも知らずに。「ああ、そうさ。」精霊は、顔を膨らませて僕をにらんだ。「お前!ちょっとこい!」精霊は、僕の体を引っ張った。「人間の証人だ。ペナルティを考え直す。」僕は、抵抗しようとしたが精霊の力はすさまじかった。「どこにいくんだ!」僕は、手足をばたつかせながら言った。「カスケットさ!あんたらの空の宝箱だよ!」僕の体は、空たかく舞い上がった。眼下には、見渡すばかりの荒野と草原がまるで陸と海のように広がっていた。



リーフは、目を開けた。そこは、不思議な空間だった。周囲を雲で覆われ、光の集合体が道や都市をかたどっている。ここが天国なんだなとリーフは思った。しかし、次の瞬間、リーフは自分の今おかれている状態を悟った。「おい。気がついたか。ここが“カスケット”だ。」声は上から聞こえた。しかし、あの精霊の姿はない。「どこにいるの?」僕は、必死に探したが見ることはできなかった。「ここだよ、ここ。お前の中だ。」そういわれて見ると、体の中から声が聞こえている。「なぜ、中に入ってるの?」僕は、半分恐怖、半分好奇心で聞いた。「ここは、精霊の地だ。精霊が憑依しないと、歩くことも生存することもできない。だから、俺が憑依してんだ。」僕は、頭をポンポンとたたいた。いや、叩かれた。どうやら、僕の体を精霊は自由に動かせるようだ。僕は、精霊の言うことを理解すると同時に自分は、軟禁状態にあることを悟った。“カスケット”にすむ精霊の視線から悪意と憎悪を感じたからである。僕は、逃げたかったが体が言うことを聞かない。
  どのくらい歩いただろうか、大きなドアの前についた。「うし、ここで待ってろ。」声がした瞬間、体が軽くなった。目の前には、あの精霊がいる。精霊は、僕の首に不思議な光を放つネックレスをかけた。そのネックレスは、首輪にも見えるが澄んだ紫色の輝きのせいか、さながら宝石を散りばめた装飾品であった。「ああ、そうそう。お前に俺の力わけたから、もう憑依しなくても死なないからな。安心しな。」そう言うと、あの精霊は、扉の中に入っていった。
  僕は、扉の前でただ待っていた。だが、そこは待つというにはあまりにも残酷な場所だった。憎悪、悪意、殺意、さまざまな思念が精霊たちによって向けられている。僕は、いてもたってもいられず走り出した。紫の首輪が胸元でゆれた。僕は、それを無意識のうちにはずした。「待てこらー!」背後から声がした。あの精霊が追っかけてきている。僕は、ひたすらに走った。ただ闇雲に走るうちに大きな建物の中にはいった。そこには、船や木、剣などのありとあらゆるものがおいてあった。
  僕は、近くにあった剣を手に取り、精霊に向けて構えた。その手は、ブルブルと震えていた。「なあ、リーフ。面倒かけさせんなよ。」あの風の精霊は、ゆっくりと近づいてきた。「リーフ、お前さんのおかげでもっとすげえペナルティになったぜ。」精霊は、僕が聞き漏らさないようにゆっくりと語った。「さ つ り く だ。殺戮。人間界に侵攻し、皆殺しだ。すごいペナルティだろ。俺たちもスカッとするぜ。」僕は、目を丸くした。「皆殺し?」精霊は笑顔で答えた。「そう!皆殺しだ。ただ、お前は生かしといてやるよ。だからホラ、おとなしくしろ。」僕の脳裏にあの荒野がよみがえった。そして、母を失う悲しみも。あの悲しみをもっと多くの人が体験する。世界に誰もいなくなる。「いやだ!」僕は、叫び前にでた。手に持っていた首輪を精霊の首に引っかけ手元に手繰り寄せ剣を突きつける。
  「う、うごくな!」だが、精霊たちは誰一人としてあせっていなかった。それどころか笑っている。「おいおい、俺たちゃ精霊だぜ。そんな子供っぽいこと成功しねえって。」「そのとおりだ。少年よ。バーザムを解放したまえ。」精霊たちの間から小さな精霊が現れた。だが、その姿からは想像もできない威圧感があった。「ほら、大精霊様だ。挨拶しろ。」バーザムと呼ばれた風の精霊は、僕の方にちらりと目をやった。僕は、睨み返し大精霊とやらに問いただした。「なんで皆殺しにするんだ。お前らだって人間といっしょじゃないか。」大精霊の目が、険しくなった。
  「勘違いするな。私たちは、考えたのだ。人間を洗い流してもまた新しい人間はまたおなじことをする。人間はやっぱり人間なのだと、それなら人間の歴史を一度真っ黒に汚し、精霊の恐ろしさを叩き込んだほうがいいのではないかと。」「それなら皆殺しにしたら意味がないじゃないか。」「そのとおりだ。だから、私は心の澄んだ人間を地上から選ぶことにした。人間の第二世代の始祖だな。その一人がお前、もう一人はジュレキアの皇女イリアだ。」
  僕は、イリアと呼ばれる女性をしっている。まだジュレキアと交友関係にあったころ一度だけ国を訪れた。その時行われたパレードで見たのだ。「さあ、もういいだろう。神妙にしなさい。始祖よ。」大精霊が持っていた杖を前にさしだした。僕は、とっさにその杖を奪い取った。「あっ。」すべての精霊が同時に声をあげた。そのときだった。床が裂け、僕はその裂け目から落ちた。
  「うお、なにしでかしてんだ馬鹿。」声の方を見ると、バーザムがいた。首輪を持っていたためついてきてしまったようだ。地面がみるみるうちに近づいてきた。僕は、目をつぶった。地面に落ちると思ったとき、体が中に浮いた。「うわ。」僕は、おもわず声をあげた。バーザムの方は落ち着いている。「なに、驚いてんだ。精霊界から落ちてくる物は、派手に落ちてくるか?」どうやら精霊の力で重力はかき消されるようだ。
  「そんなことよりお前どうすんだ?大精霊様の杖奪っちまって。大変なことになるぞ。大精霊さまの魔力が半減した。また、カスケットが落ちる。それに、その杖は、精霊の力と同等の力を秘めてる。たとえばだ、どこかにいきたいと念じればかなうとかだな。だから、使い方を…。」僕は、その言葉を聞いた瞬間、家に帰りたいと念じた。その瞬間、体は光り輝いた。「うおい、いきなりかよ。」僕とバーザムは、一瞬のうちに家に戻ってきた。スカイは、すっかり元気になっており、いつものように足に絡み付いてきた。「けっ、どうすんだよ。てか、首輪はずせよ。」バーザムは首輪をはずそうとしているが、首輪ははずれない。「どうして?僕は自分ではずせたよ?」僕は、不思議そうに見ているとバーザムを怒鳴った。
  「これはな!精霊の力を抑えるもんだ!人間には効かなかったのはうかつだった。はやくはずせよ!」バーザムは、騒ぎ立てる。あまりにうっとしかったが、僕は妙案を思いついた。騒ぎ立てているバーザムにスカイをぶつけたのである。「うああ!やめろ!ばか!」スカイとバーザムは、閃光につつまれ、やがて紫色の首輪をしたスカイが現れた。「くそ。これじゃなにもできねえ。」スカイは、ばたばたと走り回った。「でも、お前さんどうするんだ?精霊の侵攻はとまらないぜ。」スカイは、ピョンピョンと飛び跳ねている。「とりあえず、ジュレキアのイリア様を探す。計画を阻止しなきゃ。」ぼくは、荷支度をしながら答えた。杖を背中に挿し、スカイをナップザックに押し込んだ。ナップザックから顔だけ見せる精霊スカイはなんとも愛らしかった。「てめえ、覚えてろよ。それになんで阻止するんだ?お前には関係ないんだぜ?」僕は、空を見ながらつぶやいた。
  「僕のせいだから。」「は?」「僕のせいで計画が変わったからさ。」スカイは、僕の後頭部に頭をコンコンとぶつけながらつぶやいた。「だって、いってたじゃねえか。興味ないってよ。」僕は、走り出した。「やっぱり、僕は人間だったんだ。」「え?」「僕は、やっぱりこの世界が好きだ。それに大切なものを失う悲しみも知ってる。」僕は、足をからませ草原の海にダイブした。「だから、みんなにそれを経験してほしくないんだ。大好きなみんなに。」「だからか。」スカイは、ケンケンと笑った。「え?」僕はスカイをリュックから出し、抱き上げて顔を見つめた。スカイは、僕の目を見据えながら語った。「だから、大精霊は、あんたを選んだ。世界を愛するあんたを。」スカイは、笑った。その笑顔は、不思議とすがすがしいものだった。「気に入った。」スカイは、手から離れ飛び跳ねた。「協力してやるぜ。あんたのこと見てたら人間って悪かないと思ったよ。」スカイは、ぼくの周りをぐるぐると回った。僕はもう一度走り出した。「いこう!スカイ!」「オウイエー。」僕とスカイは、ジュレキアに向かって走り出した。
  空は、徐々に赤く染まってきていた。

   カンカンと金属音が鳴り響く町中で、一際目を引くものがあった。巨大戦艦だ。しかも、陸地にある。僕は、荒野を生み出した鉄の塊をにらみつけた。「あーあ、ありゃ完全に落としもんだわ。サラマンダーのやつだな。ったく。」スカイがぶつぶつとしゃべり始めた。僕は、あわててスカイをリュックに押し込んだ。「スカイ、話すのやめてくれよ。周りに気づかれる。」「…わるかったよ。」スカイは、リュックから顔をだして、ワンワンと犬のまねをした。しばらく歩いて、町の北にある高い丘に登った。「あそこが城かあ。」僕は、遠目で眼下に広がる町と城を見ていた。「どうやっていこうかな。」僕が思案に明け暮れているとスカイが思いもよらぬことを言った。「飛んできゃいいじゃん。」僕は、スカイをあわててみた。「飛ぶ?どうやって?」スカイはこっちを見た。驚いているようだが犬の表情からははっきりとわからない。「あーそっか、お前“カスケット”いくとき俺が憑依したろ。最初にいったろ、精霊が憑依したものには力が宿るって。俺の力だから風で空飛ぶ力があるはずだ。念じてみろ。」僕は、念じてみた。目を開けると眼下には僕を見上げるスカイがいた。「ほんとだ!と、飛べた!」僕は、スカイを担ぎ上げるとそのまま城へ向かった。
  城は、厳重な警備が敷かれていた。「飛べても近づけないなあ。」僕は、途方にくれていたが、またもスカイが僕を驚かせた。「杖あんだから大丈夫だ。透明になりたいと思えば透明になるさ。」僕は、その言葉を信じ、念じながら城のテラスに降り立った。すぐ横にいる警備兵は目の前を素通りしていく。ぼくは、安心して城内に入り込んだ。城内は、特に広かったが姫の部屋がどこかには迷わなかった。一際警備が厳重だったのだ。よく考えたらジュレキアは現在戦争中なのだから当然の話だ。しかし、僕は恐れることなくその部屋に近づいた。そして、ドアを通り抜けることを念じながら中に入った。
  う、目に日差しが飛び込んできた。目を開けると、そこには不思議な空間が広がっていた。部屋にもかかわらず様々な草木、そして虫、動物がいた。「うわっ。」僕は、足に絡みついた蛇に驚いて転んでしまった。
 「誰?!」まずい、杖を…。杖を手に取ろうとしたときスカイが杖を銜えてホン投げてしまった。「ちょ、スカイ!」僕は、姿を隠そうとしたがすでに遅かった。目の前にはなんとも美しい女の子が立っていた。「何者です!」女の子の目は、畏怖と怒りに満ちている。「いや、その…。」僕が、あわてているとスカイが僕の前に出て弁明した。「いや、ジュレキアのお姫様。いい趣味をお持ちですな。俺たちでも治せなかったフォルキスの木をここまで育て上げるとは…。すげえなマジで。」「え?あなた、しゃべれるの?」
  そうか、この方がイリア様か。僕は、顔をブンブンと振り、邪念を振り払うとお辞儀をした。「イリア様、僕は、隣国べレスの村の者でリーフと言います。ぼ、僕は、その精霊の国に行ってきて姫が狙われると聞いて助けに来ました。この犬、スカイは、その、精霊です。」僕は、自分でも滑稽な言語を使っているなとわかった。恥ずかしくなってお辞儀の振りをして頭を下げた。「精霊?ってなんですか?」イリア様は、不思議そうな顔をしている。「精霊っていうのは、カスケットの…。」ぼくは、イリア様に一部始終を話した。イリア様は、終始真剣に僕の話を聞いていた。
  「わかりました、あなたの話を信じましょう。その不思議なわんちゃんもいることですし。」「じ、じゃあ。いきましょう。」僕は手を差し出したが、イリアは拒んだ。「でも、私はすぐにここを出られません。私は一国の皇女です。それに、この子達のお世話をしなければならないし。」イリア様は周囲を見渡した。僕は、顔下げた。その時、いい香りがした。イリア様が僕に顔を近づけたのだ。「でも、時々会いにきてください。あなたは、やさしい目をしている。この世界のどの人よりも。」イリア様は、自分の元いた場所に戻ろうとした。「イ、イリア様!僕、また来ます。」イリア様は、微笑みながらこういった。「イリアで結構ですよ。リーフ。」僕はしばらくそこを動けなかった。
  「惚れたな。」「え?」城から帰り丘に佇んでいるとスカイがからかってきた。「あんた、あの姫さんに惚れてたろ。そんな顔してたぜ。」僕は、何も答えなかった。ただ、黙って夕焼けの空を見つめていた。
  あの日以来、僕とスカイはよくイリアのところに訪れた。絶滅種で好きな場所へ移動することができる魔力を持つというフォルキスの木の育成にはスカイも感心していた。「やっぱり人間って魅力的だな。うん。」スカイは、うれしそうにフォルキスの木を見ていた。ぼくは、というとイリアと話すことが楽しくてしかたなかった。母さんを失って以来の人との会話、スカイとはまた違った話ができた。孤独を悲しんでいた僕にとってイリアはかけがえのないひとになっていた。そして、この日もいつもと変わらないお別れをした。「スカイ、いくよ。イリア、またくるよ。」「うん、また来てね、リーフ。」僕は、この日いよいよ審判の時が始まろうとしていることなど知る由もなかった。その日も眠るまでイリアのことを考えていた。
  「おい!リーフ起きろ!起きろ!」「ん?」目を開けるとスカイが僕の顔を嘗め回していた。「やっと起きたか、気持ち悪いことさせやがって。」僕は、目をこすりながら重たい体を持ち上げた。「どうしたの?」スカイは、黙ってテントのドアを開けた。「始まったのさ。」僕は、目の前の光景に驚き外に飛び出した。町が朱に染まっている。だが、現実は文字の様にロマンチックではない。家が焼け、人が焼け、何かが焼け焦げた臭いが遠く離れた丘まで臭う。すぐ頭上で轟音が鳴り響いた。上を見ると草原で見た飛行戦艦だった。だが、飛行戦艦は町上空ですぐに撃墜されてしまった。「けっ、精霊の力に勝てる武器なんてないよ。無駄なこったい。」スカイがテントから顔を出した。「スカイ、なんでジュレキアが攻撃されているの?」「そりゃ、ジュレキアがもっとも強力な武器持ってるからな、精霊の中でも最強の火力を持つサラマンダーが攻撃してるしな。」僕は、燃え盛る町をみてはっとした。「そうだ!イリア!」僕は、杖をつかむと城に向かった。「おい、待てよ!おいてくなって!」スカイが背中に飛びつく。僕は、急いで城へ向かった。
  城内は、火の海だった。イリアの部屋へ行くとイリアはフォルキスの苗を抱え震えていた。「イリア!」僕は、イリアの名前を呼んだ。イリアの顔は、僕の顔を見た途端、涙でぐしゃぐしゃになった。「リーフ!」僕は、泣くイリアを抱え外にでた。「リーフ!!しゃがめ!」スカイの怒声がした、その刹那炎の渦が飛んできた。「リーフ、サラマンダーだ!」目を凝らすと体を炎に包まれた幽霊のような兵士が何人もいた。僕はとっさに杖をかざした。杖は、閃光につつまれ消滅した。だが、サラマンダー達はどこかへ消え去っていた。「フォルキスの木を使え。」僕は、スカイとイリアを抱えフォルキスの木に願った。僕たちの体は、閃光につつまれ中に浮かびあがった。ジュレキアの都は、都市ではなく赤い絵の具をこぼした絵のように赤く赤く染まっていた。


  僕たちは、山の袂にたどり着いた。そこは、霧に覆われた草原だった。「ここは?」周りは霧で全く見えなかった。「ここは、ラタロードだな。ジュレキアの北、山しかないとこだ。」「ラタロードって神々の住むというところ?」イリアが、むくりと起き上がり言った。「イリア!よかった。」僕は、歓喜の声を上げるとイリアはゆっくりと微笑んだ。僕とイリアは、生の喜びをかみしめた。
  「やべえ、やられたな。」スカイが突然嘆いた。「何がだ?スカイ?」「ここは、神聖な場所だ。人はほとんどいないから精霊は手をつけない。んでここに始祖候補となる二人がいるってことはだ。いいか、計画通りってわけだ。ここに二人でいれば、世界が終わったころには二人残ってる寸法さ。」「そ、そんな。」僕は絶句した。イリアを助け、世界の破滅を止める。でも、結局はなんにもできなかった。僕は、地面にコブシを振り下ろした。「結局、なんにもできないのか!」僕は、涙した。僕のせいで多くの人が大きな悲しみを知る。そのとき、そっとイリアが抱きしめてくれた。イリアの腕の中は暖かく母を思い出した。「母さん…。」僕はそのまま眠りに落ちた。
  次の朝、僕が目を覚ました場所はベッドの上だった。イリアがスカイの首輪をはずし、スカイが運んでくれたようだ。「スカイ、良いのかい?精霊を裏切って?」僕はスカイの身を案じた。「いいのさ、殺戮ってやっぱ最悪だしな。はじめはすげえと思ったけどさ。」精霊バーザムは、首輪が外れてもスカイから出ようとしなかった。こいつ気に入った、だからだそうだ。イリアが部屋へやってきた。「目覚めたのですね。よかった。」僕はイリアに微笑みかけながらスカイにたずねた。「スカイ、これからどうすればいいかな。」
  スカイは、いつも感じる雰囲気とは全く異なった口調で話し出した。「お前、ほんとに世界を守りたいか?また、お前は苦しい生活が始まる。醜い争いがある中で生きなきゃいけないかもしんないんだ。それでもいいのか?」僕はイリアの方を見ながら言った。「うん、大切なものができたから。それに、やっぱり僕はこの世界が好きだから。」スカイは少々残念そうに言った。「わかった、じゃあ俺も命かけるよ。」スカイは、椅子に腰掛けた。「いいか。精霊の動きを止めるには力の源を奪えばいいんだ。精霊って元々は物に憑依していた聖なる力が集まって生まれた生物なんだ。ってことはだ、集合体のコアを破壊すれば精霊の力は、物に憑依していた状態に戻るってことだ。」ぼくは、話を真剣に聞いていたがひとつ不安があった。「じ、じゃあ、スカイ、それをしたら君まで。」スカイは笑った。「いいんだよ。お前さんの頼みだ。イリアちゃん助けてやんな。ただし、俺たち精霊がいなくなったらお前たち人間自身が世界を管理しなきゃならないんだ。そのことを自覚しとけよ。」僕は、スカイをじっと見た。なぜか目じりが熱くなった。「じゃあ、説明すんぞ。」
  
  次の朝、僕とイリアは、町をでた。目的の地へいくために…。世界の半分はすでに壊滅していた。スカイは、夜のうちにでていった。カスケットへ戻り、精霊の動きを少しでも遅らせてくるといっていた。さようならはいわなかった、しかし、僕にはそれがスカイとの、いや、風の精霊バーザムの最後の姿になることはわかっていた。すでにただの犬に戻ったスカイを抱きかかえたイリアは、心配そうにぼくを見ている。僕はイリアにほほ笑みかけた。「イリア、大丈夫。僕が守るから。」僕は、続けた。「絶対、守るから。」そうさ、大切なものは二度と失わない。「よろしくね、リーフ。」イリアの笑顔は、どこまでも清らかで美しかった。僕は、イリアの手をとった。僕たちの体は空高く舞い上がった。
  
  数年後、世界は元の世界に戻った。この数年の中で、イリアとリーフが何をし、どうなったかは記録には残っていない。はっきりとわかっていること、それは世界が一度滅び、そしてまた二人の手によって再生されたのである。二人は、やはり始祖だったのだ。人々は、二人をたたえ、崇拝し、その信仰心から自然を愛し、争いを嫌った。世界には荒野はなかった。


“カスケット”それは、空の宝箱。それが、もたらしてくれるものは魔法の力や武器、道具ではない。人の生きる道、人類と自然の共生、そう人類の最高の選択肢をもたらしてくれたのである。
2006/10/18(Wed)22:39:11 公開 / 松葉
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■作者からのメッセージ
完結までかきました。よろしくお願いします。
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