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『メルヘン巡りの刀 0−4』 作者:サノsuke / 時代・歴史 ファンタジー
全角8677.5文字
容量17355 bytes
原稿用紙約27枚
時は江戸幕末、元治元年。“新選組”の名のもとに一つの“組”が沖田総司によって創設された。それは、平行世界――もう一つの存在しうる世界――のよう。この江戸時代に。
第一部:黒イ新選組ノ志士 

緋穏組篇 #0 隠レ組
        


「沖田“局長”及び新選組第一番隊“組長”からの直接の討伐任務だ」
 眉の太い男はあぐらをかいて、どんと構えていた。
 それに耳を傾けていた少年が前へ乗り出した。
「本当ですか!? 総長? 沖田局長から!?」
 十八の青年はまるくした瞳をうるおした。
 総長と呼ばれた“眉の太い男”はこくりとうなずいた。その男は名を緋暮栄助(ひぐらしえいすけ)と言う。短髪であり太い眉をし、キリリとした瞳を持ち、大きな心を持っていそうな男であった。
「沖田局長から受けた討伐任務は、あえて言うなら新選組から流れてきた任務なのだ。これに失敗は許されんな。今度の任務には宗次(そうじ)は出陣せんと言うことで合致してくれんか? 父からの頼みだ」
 けろっとしていた顔はひきしまった。
 この青年、緋暮宗次は十八という年とは違い幼いほどに優しい顔をしていた。低い背丈はその象徴とでも言える。しかし父の発言に厳格な表情を見せた。
「総長……オヤジ、おれは足手まといなんてならねぇよ。後ろからついていくだけでも……」
「それは、出来ん。おまえが第一線を出たいのは分かるが、この隊は新選組あっての隊だ。新選組の下にいる我々には失敗は許されん。しかも今回の任務は新選組第一番隊組長からの依頼なのだぞ」
 栄助――総長――はかたくなに拒んだようだった。
 宗次も、その父の言葉に反論する気配もなく、だんまりとした。
「さて、その討伐任務のことについて宗次は各隊の隊長へ伝えて欲しいんだ」
「なんですか? 総長」
 宗次はむっとした表情で聞いた。栄助はその表情に少し顔をゆがませた。
「……ここ近辺で新選組打倒をうながす倒幕派の浪士たちが集まっているらしい。その調査として明日夜更けに見回りを行う。今回の任務での戦闘は出来るだけ避け、隠密で調査する任務だ」
「では、各隊長へ報告してきます」
 宗次は立ち上がり、頭を下げると出て行った。
 父、栄助は袖を巻き上げると、暑そうに手を仰いだ。
 十月だというのに今日はお天道様がよく元気でいたのだ。

「どう? 報告したの? 宗次?」
 綺麗な着物を着た女性がふいに言った言葉は、宗次には届いていなかった。
 廊下を歩く宗次は、うつむいたまま、とぼとぼとしている。母の言葉はとおりすぎた。
「え?」
 ふと気づいた宗次は庭をのぞいた。庭に母がいたのだ。
「あ、うん、報告はしたよ。総副長がやけに機嫌がよかったかな」
 苦笑いの宗次に、母・京子(きゅうこ)は手招きした。
「今日は良い天気みたいだし、庭を散歩していたのよ。そういえば、父さんに今回の任務には許可もらえなかったんでしょ?」
 こくりとうなずいて宗次は草鞋を履くと庭へ出た。緑が広がり、早朝雨が降っていたのか葉にしずくがあり、日光に照らされて白く輝いていた。木々も生い茂り、この庭園と屋敷を囲う木造の壁にも、しゅるりとツタが張り巡らされていた。
 宗次の母・緋暮京子もふりそそぐ穏和な日光に微笑んでいた。
 しかし、宗次といえば、しかめっ面をしていたのだ。京子はその宗次を気遣っているように手招きをしたのだ。
「……あなたも、この“新選組緋暮隠密組”の一員なのだから、焦ることじゃないわ」
 京子はやさしく微笑んだ。
「分かってるさ。やっぱりこの組で十八の年では、まだ任務は遂行できやしないのは理解してるしさ」
 黒い羽織の内に隠れていた刀の柄を持つと、黒い羽織――隊服――を見つめた。
 夜空のように黒いその羽織と袴は珍しい。下半身に履く袴でこそ黒いものは珍しいのだ。しかしこの“新選組緋暮隠密組”の由緒ある隊服。新選組であってもダンダラ模様の青い羽織に袴だ。そして“誠”の文字が新選組の誇りでもある。
 同じく黒い隊服にも意味があった。新選組の配下に置かれる緋暮隠密組は名の通り“隠密”の隊を成していて、その理由から新選組の中で隠れた部隊として黒い隊服を着用していたのだ。
 その“緋穏組”の誇りとでも言う隊服を見つめて、宗次は任務に捧げる覚悟を込めた。
 しかも今回の任務は少し違う。それは沖田総司“局長”からの任務依頼だ。沖田は新選組で第一番隊組長の座にあり、そしてこの緋暮隠密組の局長までもをまかされているのだ。その沖田局長からの依頼なのだから大事だった。そんな大切な任務に出陣できるようにしなければならないと、宗次は想うのだった。
「……母さん……やっぱ、俺は早く父さんみたいな立派な剣士になりてぇよ。そんで、幕府を守る。いざとなったら、父さんの代わりに、この新選組に仕える緋穏組の総長になるんだ」
 その言葉を聞いて、京子は安心して宗次の肩を叩いた。

 時に江戸幕末、元治元年。そして所に京都壬生村。新選組の京都の拠点となった村である。そして壬生浪士組から新選組へと名を改める頃、同じく新選組とともに新しき“組”が結成されたのだ。
 それが“新選組緋暮隠密組”である。
 新選組の特攻的なものとは裏腹に、緋穏組は隠密の“新選組”であった。情報を探り忍者の如く。
 それが緋穏組であった。
 漆黒の隊服が夜に隠れるのだ。
 


緋穏組篇 #1 友乃間ニ集ウ、決心ノ塊リ
           


 新選組屯所とは少しほど離れたところに壬生村の立派な寺――壬生寺――がある。寺の脇道の向かい側にあるのは緋穏組の屯所となっている古い武家屋敷があるのだ。
 大きな正門をくぐると、本玄関がある。中に入ると入り組んだ幾つもの座敷があるわけだ。その中の一つの間に“友乃間(とものま)”という広い間があるのだが、今日はそこに大勢の――それほど隊員がいるわけではないが――隊員が集まった。
「ごほんっ、集まってもらったのはいうまでもない。明日の夜更けに行う任務についての詳細説明だ」
 わざとに咳き込んで、栄助総長は皆の視線を一点に集めた。しかし、その中にしぶとく瞳を鈍らせる大男がいたのだ。
「総長、ただの調査だろ? 説明なんていらんやろ」
 白髪の良く生えた四十を半ば切る男が目を細くして言うのだ。しかも欠伸までするからには、それほどの者だろうか。少し疑いたいところ……。そして疑ったのは隣に正座するやせた若い男だ。
「尾形(おがた)隊長、困りますでしょうに……総長が言っているのですから、お聞き下さい。尾形修(おさむ)隊長“殿”」
 指摘された尾形“隊長”はそっぼを向くと、正座から足を崩し、あぐらをかいた。
 やれやれと、細身の若男は尾形の大胆さに呆気にとられた。
 二人を見守っていた緋暮栄助総長は切り出した。
「すまないな。尾形第伊(イ)隊隊長。そして指摘ご苦労、安倍健二(あべけんじ)第宇(ウ)隊隊長殿。尾形隊長、この任務は大切な任務です。お聞きになって下さい」
 ふん、
 少しばかり低い鼻で笑う声が聞こえた。鼻笑いする柴木玄道(しばきげんどう)はこう続けた。
「……総長、説明の方を……始めてやってくれ。一番年上だからとて、尾形隊長も図に乗りすぎですぞ?」
 むっとした男は二つ年上の尾形に説教した。尾形はそっぽを向くのだ。苦笑いをした柴木玄道(しばきげんどう)――第阿(ア)隊隊長――は栄助へ合図した。
「あぁ、分かった柴木……さて、今回の任務は尊皇攘夷派、言わば幕府を倒そうとする倒幕浪士による近辺放浪の情報を掴んだ第伊隊のおかげで、その倒幕派の集合地を発見した。これは第阿隊の調査によるが。そして新選組へ報告したわけだが、その新選組の第一番隊組長からこの倒幕派の調査・討伐任務を請けたまわったわけだ。ゆえに、失敗は許されん。討伐任務は新選組の管轄であるからだ。この緋穏組――緋暮隠密組――は隠密による調査任務が管轄である。しかし裏返せば、隠密による隊だからこそ、知られずに討伐できる。このことから沖田総司隊長から任務がおりた。
 明日の夜更けに、各隊長と、私、そして総副長は討伐へ出陣。伍兵(下位隊員)は出陣しないということだ。
 以上!」

 緋穏組屯所の前にある壬生寺は、この壬生村の由緒あるお寺として大きな門を顔にして構えていた。
 お寺の周りには、緑の木々が生え、暖かい風が通り抜けていた。日差しを浴びてすこし輝く木々たちは元気良く風の中を泳いでいるのだ。
 お寺の前の石段で、一人の娘がその光景を眺めている。赤い着衣をして可愛らしいおなごだ。その娘はどきりとして視線を変えた。
「どうしたの?」
 門をくぐって、宗次が苦笑いをしてやってきたのだ。
「やっと、友乃間から抜け出せてきたんだけどさ、沙希(さき)は日なたごっこでもしてたの?」
 宗次は沙希の隣に座ると刀を横へがしゃりと置いた。
 沙希と呼ばれた娘は、宗次と幼馴染であり、緋穏組の第阿隊隊長である柴木玄道の娘であった。
 沙希は宗次の顔をうかがうと、意味深に聞いた。
「……その顔じゃぁ、やっぱり今回の任務に出れないんでしょ?」
「え? やっぱり分かる?」
「やっぱりねぇ〜。そうだと思った。前の時ははしゃぎながらアタシのところに来たじゃない」
 くしゃりとした顔して宗次は思う。
「前の任務はただの調査任務だったからさ、出られたんだよなぁ」
「ま、それもそ〜か……あんたじゃ、あと十年かけても討伐任務には出れないかもね〜」
 顔をつりあげて笑いながら沙希は宗次へちょっかいをかけた。冗談であってもその一言だけは聞きたくなかったのだ。宗次は白い歯をむき出して、拳をふりかざした。
「沙希っ! 冗談でもそんなこと言うんじゃねぇ! おれだって緋穏組の一員なんだからなっ!」
 拳を震わせながら、歯をくいしばって沙希へ大声を叩いた。
 手で耳をふさいで、片目をつむり、沙希は宗次の暴言を流していた。
「うるさいわねっ! だったら任務に出てみなさいよっ! やっぱあんたには無理でしょ!?」
 やっと宗次は拳を下ろした。静まり返ったと思ったが沙希には宗次の闘志が見えていた。
 宗次はこう言った。
「……そりゃ、無理だろうけど、次は出れるかもしれないじゃないか」
 可能性はあるのだ。沙希は想った。宗次の闘志へ心を揺るがせた。
「まぁ、次は出れるかもしれないわね……」
「ほんとに、そう思って言ってるのか? ま、いいけど……おれは屯所に戻って稽古でもしてくるよっ」
 そう言うと、刀を腰へ差し、宗次はおもむろに歩き出した。
 本当は出れるわけはないと思ったのだ。沙希へあんなこと言われると正直なところは自信を無くしたのだ。宗次はちょうど、門をくぐると一つ決心したのである。
「……今回の任務に出てやる……敵を一人でも討伐すりゃ、沙希だって納得するさ」



第一部:黒イ新選組ノ志士

討伐篇 #3  総副長ノ松崎喜冶



「あぁ、宗次君じゃないか。どこ行ってたん?」
 言われて気づいて目を合わせた。長身の細身な男がそこにいた。総副長だった。父・総長の一つ下の地位の男だ。簡単に言えば緋穏組の中で三つ目に偉いお方なのだ。三つ目といっても父の総長が一番ではなく、この緋穏組の創設提案を出した新選組の第一番隊隊長の沖田総司が頂点だ。言わば緋穏組局長。
 その話しは入り組むので置いておく。この総副長は名を松崎喜冶(まつざききじ)と言う。
「あ、松崎総副長。お寺へ散歩していたのです」
 長い前髪の奥にひゅるりと細い目をした狐のような瞳が三日月のように曲がった。
「おっ! 散歩かぁ〜。外は暖かいかぃ?」
「まぁ、今日は晴天ですから」
「ふぅ〜ん、そぅかぁ。……そう言えば、今回の任務は出ないんだねェ。緋暮総長から聞いたよ」
 ぐきりと宗次の胸に針が刺さったような感覚が脳へ伝わった。それでいても松崎総副長はにこやかなのだ。
「え、はい。なにか今回は大切な任務なようですから……」
 宗次は先程、決意した想いを自分の中へ隠した。
「まぁ、気にせんでエェよっ。宗次君も出たいやろ? うんうん、わかるわかる……なんなら“総副長”が頼んじゃろか?」
 いつもこうなのだ。総副長は何気に大胆というか、面白い性格というか、ある意味では裏で何を思っているか良く分からない性格でもあって、冗談な話しが本当のように思えてしまう。
 へへ、と苦笑いをするしかない。
「はぁ〜……しかし、父は許しを出しませんから」
 ぽかーんと、松崎が天井を見上げる。そして急に顔を寄せてきたのだ。宗次の顔と松崎の顔との間が拳ひとつ分の間隔だった。
「宗次君、君も十八なんやし、そこは出たいです! 御願いします! とか言うもんやろ〜?」
 松崎の細い目が内側に寄って、ぎらついた。宗次は腰が引いた。
「……え? 出させてくれるんですか……?」
 松崎は幾度と無く首を縦にする。長い前髪がざわざわと揺れた。
「出したるっ。宗次君の心意気はワシがよぅ知ってるんや。ちょっと総長に言うから待っとき〜」
 そう言って肩をぽんぽんと叩くと唇を曲げてにこやかに奥へ行ってしまった。たぶん、父の部屋へ行ったのだろう。なにやら妙なことになってしまったと、さきほど寺で決意したことが自信過剰に見えて馬鹿馬鹿しくなって仕方が無い。
「総副長は、あぁだから付き合いにくいんだ」
 ことごとくもて遊ばれたような気がしてたまらなくなった。
 宗次は草鞋を脱ぐと中へ入った。

「松崎、どうしたんだ? 急にそんなことを」
 緋暮栄助総長は唖然とした。しかし、その裏腹に松崎喜冶総副長は微笑む。
「せやから、宗次君を出したりたいんですよォ。危険なときはワシがお守りしますし……どうです?」
 と言いながらも栄助との地位の関係を縮めるように優しい口調を発する。しかも松崎の歳は“二八”だ。栄助との年齢差は二〇ほど違っている。馴れ馴れしいのだ。
 栄助は呆然と腕を組んだ。
「確かに今回は初めての実戦任務ですし、用心なさってるよぅですけど、相手は“無名”の浮浪浪士ですやろ? ワシら隊長格が行かんでも大丈夫だと思うんですよ……宗次君を混ぜても問題無いと……?」
 少し達者な方言も混ざって、まんねりな喋り方で迫られても、どう対処してよいかと吟味した。栄助は少し困っていた。
「(この松崎……総副長でありながら、目上に対して……くだいた喋り方をしおって)」
 だが、その松崎の大胆な言動が、この緋穏組のかなりの原動力ともなっているにも間違いはなかった。
「ふむ……松崎がそこまで言うのなら――。しかし、いざとなれば松崎が対処しろ、いいな?」
「はい。理解してますよ。でもこれで宗次君も一歩前進かもしれませんしね」
 おじぎして松崎は立ち上がり、頭をかきながら微笑んでふすまを閉めた。ぱたんっ。松崎が出て行ったことを確認して栄助は溜息を吐いた。
「やれやれ、困ったものだ」
 栄助は下唇を噛んだ。
 ふすまの向こうで聞いていた“地獄耳”はぴくりとした。
「……なんか言ってはるなァ〜〜。それよりもはよ斬りたいわァ〜〜」
 がちゃりと音をたてた。鞘の感触を感じると松崎はクス笑いをしてやった。



討伐篇 #4 松崎ガ笑ウ、宗次ガ震エル



「なぜ、隊長らが出なければならんのだっ」
 前歯がひとつかけている歯を全面に押し出し、第伊隊隊長・尾形修(おがたおさむ)は激怒した。
 友乃間で悠々とお茶をもてなして喋りをおかずにしていた隊長ら三人――阿、伊、宇、各隊長ら――は、尾形の憤怒にのけぞった。
 どうしたのかと、一番年下である二三の第宇隊隊長・安倍健二(あべけんじ)は問うてみた。
「安倍、おまえは思わんのかっ? こんな“力のない浮浪浪士”の討伐ぐらいで何故、わしら隊長が出るのだ」
 隊長の中でも一番に若い安倍は総長の命令へ反感の思いを口にするなど到底できないことだった。
 安倍は首をかしげた。いくら一番年上の尾形隊長の思いであっても共感はできないのだ。
「尾形隊長、総長の命令ですぞ? 確かにえりすぐりの伍兵を任務へ出せば、討伐はできるかもしれませんが、この緋穏組で最初の討伐任務です……この近辺で倒幕を訴える浪士たちが集まっているとなれば一人でも腕の立つ者がいるやもしれません」
 冷静に答えたのは、第阿隊隊長・柴木玄道(しばきげんどう)だ。この冷静さがあるからこそ第阿隊の隊長に任命されたのだろう。柴木の適切な回答に腹を立てていた尾形は口をタコのようにつりあげた。
 柴木は“納得した尾形”を察知すると目の前のお茶へと手を伸ばした。その柴木を横で見つめていた安倍健二は腕を組んで関心したのだった。
「(やはり、第阿隊は違うな……)」
 そう思うのも無理はないだろう。
 そもそも緋穏組は、阿、伊、宇、の三つの隊からなりたち、頂点に局長、そして総長、総長補佐を勤める総副長がある。任務遂行するのは阿、伊、宇、の三つの隊なのだが、地位的な順位は上から阿隊、伊隊、宇隊となっている。一番優秀な阿隊は緋穏組の核だ。その隊長である柴木玄道は緋暮総長と同年であり友、この緋穏組結成当初には柴木は総副長と決まっていた。しかし柴木は“若い者の力”を頼れという思いで、第阿隊隊長へさがったのだ。
「(本当は柴木隊長は総副長ほどの人だった……なりあがりの尾形隊長とは大違いだな)」
 そう思って、柴木を尊敬するとともに憧れた。
「やっぱ、違うなァ〜。第阿隊隊長ハンはっ」
 ふすまが音をたてたと思って安倍は振り向いた。
「(松崎総副長か……)
 嫌うようなまなざしで安倍はうつむいた。目を合わせない安倍に松崎は“頭をかいた”。
「廊下を通ってたら、ちょうど、尾形隊長サンと柴木隊長サンの会話が聞こえてもうて……それにしても尾形隊長サンは、“わたし”と同じ考えですねェ」
 松崎は腰をおろした。注意深くうつむく安倍をみつめながら、隣へ正座した。
「……なにが同じ考えなのですか……松崎総副長……」
 はっ、として松崎は背骨を伸ばした。急な安倍の喋りに驚いたような様子を見せると次はにこやかにふりむいたのだ。その松崎に安倍はにらんだ。
「安倍……隊長ハン……そりゃ決まってんがな。尾形隊長サンはこの任務に隊長はいらんって言ってんのやから、その意見に賛成っちゅうことやん……そない“にらまれる”ことちゃうやろ?」
「だから、なんですか……?」
 安倍はことごとく渾沌の視線を送り続けた。しかしその意味ありげな視線に目もくれず、松崎は針のように細い瞳を気色悪く曲げた。松崎は口を押さえながら瞳だけで笑った。
「なにが可笑しいんです?」
「いやいや、ワシって嫌われてるなァと思おて。安倍隊長ハンは、ワシの性格が嫌いみたいなようで」
 松崎に率直に言われたのはこれが初めてだった。安倍は目を丸くした。
「(こいつは何を考えてる……!?)」 
 安倍の心中では総副長に任命された松崎を認めなかった。なぜなら一番に柴木隊長を尊敬していたからだ。そしてもう一つは、なりあがりの尾形隊長とは別に、頭の良い松崎喜冶は“ただのなりあがり”ではない。そのために松崎は慎重に緋暮総長や沖田局長に近づき自分をおだてたのだ。そんな回りくどく厄介な性格の松崎には心から話せたときはなかった。
 静まり返っていた安倍健二、第宇隊隊長は前髪をかきあげた。
「松崎総副長、あなたもしかして今回の任務について……総長に何か言いました?」
 気色悪い笑顔をしていた松崎は急に口をあんぐりと開けた。そして言うのだ。
「……緋暮総長にちょいと言いましたなァ〜。そう言えば宗次君を出して下さいと」
「それで総長は許可したのですか」
「……許可は下りましたよ。宗次君もこれで討伐任務に出れますなァ」
 その言葉に柴木と尾形は絶句した。二人の会話には少し心の隙間があると分かって、静かにしてはいたが、柴木と尾形はこの松崎の言葉に唖然とした。
 安倍が拳を震わせた。
 畳が揺れる。
「……総副長、宗次君は……まだ剣術稽古中の身です。出せるわけがないでしょ!? それでも総長が許可したと?」
 松崎が瞳をうわつかせた。その仕草に安倍は落胆するのだ。
「許可は下りたのですか……なら怪我、一つ、宗次君にはさせないで下さいよっ」
「剣術稽古ねェ……あの子を“可愛がり”すぎですよ……みなサン」
 むっと立ち上がり刀をぐっと差し込むと妙な微笑で友乃間を出て行った。

 真上にのぼっていた太陽は、そろそろと言う具合に傾き、夕日へと変わろうとしていた。少し風が冷たくなったと思うと、やはり十月の風であった。
 お寺では宗次がしょんぼりしていた。
「やっぱ、情けねぇな……こんなことにビビってやがる自分がいるなんて」
 それは今日の夜更けに開始される討伐任務への恐怖だった。
 黒々の羽織をめくり、刀を腰から取り出すと、両手でしっかりと握った。これで人を斬るのだ。上手くいけば敵を殺すことができる。そして恐怖に溺れた顔を見つめながら赤い血に染まった刀でトドメをさす。そうすればぐったりとして“あの世”へいける。この一連の流れを宗次が“死”という儀式を今晩、幾度と無くするだろう。逆に宗次自身もその儀式へ参加することとなるかもしれない。この緋穏組の中で一番小さい十八の宗次にとって討伐任務に捧げる覚悟は切腹の覚悟と等しかった。
「いや、松崎総副長だって護衛してくれるんだし……おれは自分のすることさえ、出来れば任務遂行なんだ」
 開き直ると共に、宗次はどこかで松崎に頼っていた。 
 
 
 
 


2006/11/07(Tue)22:11:47 公開 / サノsuke
■この作品の著作権はサノsukeさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ゆえ様からの「指摘」で、再度UPさせてもらったのですが。文体を見回したところ自分の目でわかりえる部分は修正を加えたのですが、どうでしょうか。
史実についての「新選組」は史実どうりです(って,こんな所で言っていぃのかっ)。しかしジャンルも「ファンタジー」となっているので、そんなファンタジックな部分もあるので固くなに読むより穏和に読んでネェ(って……頼むなっ)

※しかも時代諸説好きならこれから先の展開について「ごめんなさい」。凄い展開になるので、読み続けていくのなら御了承下さい。
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