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『はるかぜ』 作者:畳四十二条 / ショート*2 ショート*2
全角2056.5文字
容量4113 bytes
原稿用紙約7.15枚
学園物です
少し重い鉄の扉を開く。
暗かった踊り場には日の光が差し込み明るくなっていた。
「ふぁ〜、やっぱ屋上は気持ちがいいな」
屋上に出ると大きなあくびをして空を眺める
「ん〜、今日もいい天気だ」
見渡す限り雲は一つもなかった。
「さ〜て、勝利品のパンでも食べるか」
勝利品というには、大げさに見えるこのパン
冗談ぬきで勝利品だ。
この学校の購買部のパンは、競争率が高いので急がないと無くなってしまう
最後の一個になったら奪い合いが始まる…
その光景はまるで戦争、取るか取られるかの世界になっている
「ん〜、おいしい」
苦労して手に入れたかいがあった。

ギィィィ
突然、重々しい音を立てて扉が開いた。
扉の方を見てみると、一人の女子生徒が辺りを見渡しながら屋上に入って来た。
「ん〜、誰だ?」
見る限り同じ学年のようだけど… 見たことの無い顔だった。
女子生徒は、しばらく辺りを見た後に突然歌い始めた。
透き通り、凛としたその歌声は離れた場所にいた俺の耳にも聞こえた。
「綺麗な声だな」
心の底からそう思った。
何の歌かは知らないけど、いつまでも聞いていたくなるような歌だ。

誰だろう?
同じ学年のはずなんだけど…
女子生徒の歌を聴いているうちに彼女の事がどんどん気になってきた。
「お〜い、そこの君!!」
気がつけば女子生徒のことを呼んでいた。
気付いていないのか、女子生徒はまだ歌い続けていた。
もっと大きい声で叫ぼうと息を思いっきり吸い込んだ。その瞬間。
突然の強風。 風は俺の声をかき消しただけでなく、思わず顔を隠してしまうほどのものだった。
風がやみ女子生徒のいた所を見ると女子生徒の姿はなかった。
「あれ帰っちゃったのかな? もう一度聴きたいなあの歌…」
俺が心の中でそう思ったとき、授業が始まるチャイムが鳴った。

俺は授業中も昼休みにあった生徒の事を考えていた。
「同じ学年のはずなんだけど…見たこと無い顔だった」
考えれば考えるほど疑問がふくれあがっていく
先生の声がさっきの歌に聞こえてくる…。みんなの声がさっきの歌に聞こえてくる。
頭の中は昼休みのことでいっぱいだ。
また会いたい、またあの歌が聞きたい…
俺はいつの間にか昼休みに聞いた歌の歌詞をノートに書いていた。

下校を告げるチャイムがなった。
「ふぅ。帰るか」
教科書などを鞄に入れて席を立った頃には教室に人はいなくなっていた。
教室を出ると廊下から差し込む夕日の光がとても綺麗だった
「確か天気予報では昼から曇りだったんだけどな」
天気予報は外れ昼からいい天気だ。
夕日を見ながらゆっくりと歩き始める
その行き先は昼休みと同じ場所を目指してた。

階段を前に俺はすごく緊張していた
「何を緊張してんだよ俺は」
この階段を上りきれば屋上に出られるのに俺は最初の一歩を出せずにいた
「くっそ… あの子に会えるかもしれないのに」
屋上に行けばまた彼女に会えるそう思うと
体がガチガチに固まってしまってその場から動けなかった
「ふぅ。よし行くか」
数分たってから深呼吸をして気持ちを落ち着かせると
一段また一段階段を上っていった。

少し重い鉄の扉を開く。
昼間の明るさから変わり少し薄暗い屋上に出た
「はぁ、会えるわけないか…」
辺りを見渡したが昼間の風景と特に変わってはいない
もう一度深いため息をつて少し冷たい地面に座る
「何で会えると思ったんだろう…そもそも会ってどうするんだよ」
ここに来るのに夢中になっていて会ってどうするかなど考えてもいなかった

「帰ろうかな…ここにいてもしょうがないし」
そう言ってズボンに付いたほこりを落として立ち上がり鞄を取ろうとした時、ふと誰かいることに気が付いた
誰だ?そう思ったとき昼に聞いたあの歌が風にのって聞こえてきた。

「な…本当に…会えた」
会えると思いやってきたのだが実際会ってみるとどうすればいいのか分かんなくなる
声をかけたいが何て言えばいいのか分からないそれにこの歌をもっと聞きたかった。
どうやって自分がいる事を教えようと考えていたが…ふいに誰かに話かけられる
「ねぇ君、何やってるの?」
「へっ?」
いきなり話しかけられたから何を言っていいのか分からなくなり変な声をだしてしまった

「はははっ、何言ってるの?」
彼女は、おなかを抱えて笑っている
「なっ…、お前がいきなり話しかけてくるからだろ」
俺は多分顔が真っ赤になりながら答えていたと思う
彼女は夕日をバックに俺を見下ろしていた
「ふ〜ん、初対面の人に対しておまえ呼ばわりされたくないないわね」
彼女は、ほほを膨らませプイッとそっぽを向いてしまった
そんな素振りを見て可愛いと思ってしまう自分がいた。

「そういえば、今何時?」
「えっと…今は…」
自分の腕に巻いている時計を見てみる
針はちょうど4時をさしていた。
「4時だよ」
「4時かぁ、そろそろ行かなきゃ」
彼女はそう言うと立ち上がり俺の横に飛び降りてきた。
「おわっ!! あぶねぇ」
「びっくりした? じゃあね〜」
彼女はそそくさと去っていった。
「あっ…名前聞くの忘れてた」
2007/01/30(Tue)21:00:03 公開 / 畳四十二条
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