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『木製麒麟』 作者:泣村響市 / リアル・現代 ショート*2
全角2286.5文字
容量4573 bytes
原稿用紙約8.35枚
世界が嫌いな受験生、大槻峠君十五歳。彼の救いはあるかないかの夏の朝だけで。 ――…そんな朝、彼は麒麟と出会った。
 彼は世界を愛しちゃいなかったし世界も彼を愛しちゃいなかったらしい。
 
 例えば、夏なのにどこかひんやりした朝や地面に横たわる太陽の日差しを大槻峠は結構心の底から好きだと思っていた。
 これはそんな朝。
 
 とーげこと大槻峠は十五歳、受験生だった。
 峠なんぞという人につけていいんだか微妙な名を命に刻んだ彼は、今日も今日とて夏期講習のために制服姿で塾へ向かっていた。
 夏休みは週三回の一日二回。
 寝ぼけ面のまま生の食パンを胃に詰め込み、成長期には欠かせない牛乳を喉に落とした。
 がたがたと机にぶつかりつつ家を出て、未だに覚醒しきらない脳で家の前の道のT字路を突っ切る。
 道端に落ちた百円ライターが寂しげに影をおとしている。
 こつこつこつこつとまるで三十前のサラリーマンの貯金のような音を底の厚いスニーカーが響かせる。かなかなと涼しげに蜩が鳴いていた。
 こんこんこつこんこと、こんっ。
 はたと脚を止める。
 麒麟がいた。
「……」二、三度瞳を瞬く。こしこしと手首で右目をこすり、もう一度見上げる。「……」
 やはり麒麟がいた。
 伝説上の動物の方ではない麒麟だ。サバンナで悠々と歩き、草を食む方のキリンだった。
 物凄く場違いな、しかもそんじょそこらの場違いではない。熱帯雨林にいるペンギン並な場違いだった。
「……何故。麒麟が?」
 寝ぼけた頭が必死に事を整理するが、三度ほど整理を繰り返しても出てくる探し物は‘理解不能’の四文字だった。
 三つの理解不能が峠の頭の中を回りだす。
 ふと、今気付いたような仕草で麒麟が峠を見る。
「……どうも」
 喋った。
「……えぇ、どうも」
 返事をした。
 麒麟を見つめる。
「どうかしましたか?」柔らかな声で麒麟が峠に問いかける。「何か用ですか?」
「用も何も何で麒麟が道の真ん中にいるんだ」と言いかけて、口をつぐむ。見上げた麒麟は、大きかった。
 幼稚園児ぐらいの子供が檻に入ったラクダを怖がる感じ、今の峠は、そんな気分。
「何で、」少しかすれた声が飛び出る。「何で、こんなところに、麒麟が」
 一歩、気圧されたように下がる。気押されるように、下がる。
「僕は麒麟のクリムボンというのですよ」
「くりむ、ぼん」
 宮沢賢治? と問いかけそうになる。たしかあの話は蟹の親子が梨を……てどうでもいいどうでもいい。
「はい、クリムボンです。貴方は?」
 そんな極当たり前のように麒麟、否、クリムボンに問われ、
「大槻、峠」
 とげ?
 とうげ。
 とーげですか?
 とうげ。
 とーげですね。
 ……とうげ……。
「おーつきとーげさんですか」
 なんだか間違った発音の名前を聞き流し、疑問をもう一度言う。
「何でこんなところに、麒麟が?」
「麒麟ではありません、クリムボンです。」
「……」クリムボンはかなり融通の利かない性格らしい。「クリムボンは?」
 問い直すと、胸を張るような仕草をし、クリムボンは自慢げに言う。

「貴方に殺されにきたんです」
 
「……はあ?」
 思わず聞き返した。
 峠はとうとう未だ自分は寝ているんじゃないかという思いに囚われ始める。まだ起きてない自分の見ている夢なのか。道の真ん中に麒麟がいてそいつは喋って俺に殺されにきている。
 ワケが分からない。理解不能。
 思考を停止させようと麒麟を見上げる。
 黒い瞳が峠を写している。
 唯黒く黒く黒く黒く。
 黄色い体に飛び散った茶色の斑点。
「クリムボンは貴方に殺されにきたのですよ」
 そういうとかぷかぷと笑い出した。
 麒麟が笑う様を虚ろな気分で見る。
 人通りの少ない私道の真ん中、麒麟と少年の邂逅。
 クリムボンはかぷかぷと笑い続ける。
「……え? はあ?」
 間の抜けた声が声帯から飛び出す。
「クリムボンには世界を壊す力があります」かぷかぷと笑うのを止め、クリムボンは語りだす。「そして貴方は其のクリムボンを壊すことが出来る」
 ワケの分からないことを。
 意味の分からないことを。
「そして私は世界を壊したくなんて無い。だから貴方に殺されます。どうでしょう、理にかなっていませんか?」
 理にかなってなんていない。
 麒麟が、
 麒麟が。
「……どうして」
 峠が呟く。理解が追いつかない、意識だけの声。
 彼は何も考えてはいない。
「どうして、世界を壊さない?」
 虚ろな声に、クリムボンは跳ねずに笑う。
 先ほどまで鳴いていた蜩は静かに死に、油蝉の大合唱が空気を割っていた。
 クリムボンが空を見上げる。
 峠の感じる空よりもきっとずっと冷たいであろう、空。


「この世界は、壊すに値しないでしょう?」
「わかった」


 お前を殺してやろう。
 ありがとうございます。
 どうすればいい?
 そこに落ちているライターがあるでしょう? それで私の足に火を付けてください。
 燃えるか?
 私は草や葉を食べて生きていました。もうこの体の半分は草みたいなものですから。
 死んだらどうする?
 雲になります。
 そう、じゃあさようなら
 はい、では、さようなら


 燃えくずが残る間も無く炎は空へ散っていった。
 峠はソレを見上げることなくライターを捨て、腕時計を確認する。
 わかってはいたが紛れも無い遅刻に溜息を吐き、諦念気味の走りで塾へ向かった。


「大槻、お前、遅いぞ」
「すんません」
 教師の呆れの声に、棒読みの謝罪を述べると、席へ向かう。
「お前何してたんだよ、大槻が遅刻なんざめっずらしい」
 隣の哉秋(友人)のにししという嫌な感じな笑いに、

「世界を救ってたんだよ、こっそり」
 答え、ガタガタと椅子を引いた。
2006/09/01(Fri)14:50:41 公開 / 泣村響市
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■作者からのメッセージ
初めまして、泣村です。
じゅくじゅくの未熟モノですが、宜しくお願いします。
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